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アメリカにおける障害者教育法と障害者差別禁止法の Title 関連性 - 障害者教育における合理的修正をめぐる判例 の検討を通じて - Author(s) 青木, 亮祐 Citation 法学研究論集, 52: URL

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(1)

Meiji University

Title

アメリカにおける障害者教育法と障害者差別禁止法の

関連性 -障害者教育における合理的修正をめぐる判例

の検討を通じて-Author(s)

青木,亮祐

Citation

法学研究論集, 52: 163-183

URL

http://hdl.handle.net/10291/20718

Rights

Issue Date

2020-02-28

Text version

publisher

Type

Departmental Bulletin Paper

DOI

(2)

―― 研究論集委員会 受付日 2019年 9 月20日 承認日 2019年10月28日 ―― 法学研究論集 第52号 2020. 2

アメリカにおける障害者教育法と

障害者差別禁止法の関連性

―障害者教育における合理的修正をめぐる判例の検討を通じて―

The Relevance between Individuals with Disabilities Education

Act and Americans with Disabilities Act

博士後期課程 公法学専攻 2018年度入学

AOKI Ryosuke 【論文要旨】 アメリカの障害児教育には障害者差別禁止法(ADA やリハビリテーション法)のほか,教育分 野特有のものとして障害者教育法(IDEA)が存在し,この IDEA は個別化された教育プログラム を中核的な手段として「無償で適切な公教育」の実現を図っている。このため公立学校は,IDEA に基づく教育プログラムと ADA 第 2 編における合理的修正の実施を行わなければならない。とこ ろが,ADA 違反を理由とする訴訟提起前には行政手続を尽くさなければならない(exhaustion) 旨の IDEA の規定などにより ADA が IDEA に劣後するようにも解釈されていた。本稿は,この 争点を扱った連邦最高裁判所判決を取り上げ,同判決が示した障害者の訴訟上の請求が「無償で適 切な公教育」の保障を否定されたという趣旨ではない場合には上記行政手続の訴訟前置要件が働か ないこと,その判断のポイントは障害児が訴えた実質的な争点に着目すべきであるとした判旨を確 認し,同判決の意義について検討した。 【キーワード】 IDEA,ADA,Fry 判決,合理的修正,IEP 【目次】  問題の所在  アメリカにおける障害児教育制度と裁判例の展開 1 特別教育の歴史と障害児教育の展開

(3)

―― 1 文部科学省「特別支援教育行政の現状と課題」 (http://zent2014.xsrv.jp/htdocs/?action=common_download_main&upload_id=399,2019年 7 月31日最終 閲覧)。 2 文部科学省「特別支援教育資料 1 部 集計編」 (http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/aˆeldˆle/2018/06/27/ 1406445_001.pdf,2019年 7 月31日最終閲覧)。 3 学校教育法75条は,特別支援学校に在籍する視覚・聴覚・知的障害,肢体不自由者又は病弱者(身体虚弱者 を含む)の基準を政令で定めるとし,この就学基準となる障害の程度を学校教育法施行令22条の 3 では規定 する。 4 文部科学省・前掲注(2)。 ―― 2 IDEA 3 ADA・リハビリテーション法 4 訴訟前置要件  連邦最高裁判決にみる IDEA と ADA の関係 1 Fry 判決前の状況 2 Fry 判決 3 Fry 判決の分析・評価と後続の訴訟  むすびに代えて―わが国への示唆―  問題の所在 わが国の障害児教育について,教育基本法 4 条 2 項は障害のある者の教育の機会均等を保障し ており,学校教育法では,特別支援学校(72条),通常学校のなかでの特別支援学級(81条 1 項, 2 項),通常学級での通級指導(同法施行規則140条)を設ける。 わが国の義務教育段階での障害児は,2017年 5 月時点で,約41万7000人であり,義務教育段階 の全生徒児童数(989万人)のおよそ 4 パーセントを占め1,また,その担い手としての特別支援学 校に約 7 万2000人,特別支援学級に約23万6000人,通級指導に約10万9000人が通学しているとい う統計があるが2,学校教育法施行令22条の 33に該当する障害を有して通常学級に通学しているの は約2000人(このうち約250人が通級指導)である4 2013年,障害者差別解消法が制定され,7 条 2 項において「行政機関等は,その事務又は事業を 行うに当たり,障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合に おいて,その実施に伴う負担が過重ではないときは,…社会的障壁の除去の実施について必要かつ 合理的配慮をしなければならない」という障害者の合理的配慮規定が設けられた。その後,障害者 権利条約の批准書が寄託され,同条約24条の「障害者が障害に基づいて一般的な教育制度から排 除されないこと及び障害のある児童が障害に基づいて無償かつ義務的な初等教育から,又は中等教 育から排除されないこと」(2 項(a)),「個人に必要とされる合理的配慮が提供されること」(2 項

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―― 5 文部科学省「インクルーシブ教育システム構築事業」 (http://www.mext.go.jp/component/a_menu/other/detail/__icsFiles/aˆeldˆle/2015/06/16/1358945_02. pdf,2019年 7 月31日最終閲覧)。 6 独立行政法人国立特別支援教育総合研究所「諸外国における障害のある子どもの教育の状況」 (http://www.nise.go.jp/cms/6,10767,13,257.html,2019年 7 月31日最終閲覧)。また,同研究所インクルー シブ教育システム推進センター「諸外国におけるインクルーシブ教育システムに関する動向―平成30年度 国別調査から―」(2019)も参照した。

7 National Center for Education Statistics, Children 3 to 21 years old served under Individuals with Disabilities

Education Act (IDEA), Part B, by type of disability: Selected years, 197677 through 201718, https://nces.ed. gov/programs/digest/d18/tables/dt18_204.30.asp?current=yes(last visited 2019/7/31).

8 34 C.F.R. §300.115(b).

9 National Center for Education Statistics, Children and Youth With Disabilities,

https://nces.ed.gov/programs/coe/indicator_cgg.asp#f2(last visited 2019/7/31). 10 アメリカにおける障害者権利条約の批准について,アメリカ法曹協会によれば,2009年 7 月,オバマ大統領 は障害者権利条約に署名した。2012年 5 月,政府は上院に送付し,批准への助言と同意を求めた。上院の外 ―― (c))の規定も国内法的効力を有するに至った。 文部科学省は,2013年度からインクルーシブ教育システム構築事業を開始し,障害のある者が 一般的教育制度から排除されないこと,障害者のある者に対する支援のために必要な教育環境が整 備されること(基礎的環境整備),障害のある子が他の子と平等に「教育を受ける権利」を行使す るため個々に必要となる適用な変更・調整(合理的配慮)が提供されることがインクルーシブ教育 システムの構築に必要な要件であることを確認している5 このようにわが国でも浸透しつつある障害児のインクルーシブ教育について,国立特別支援教育 総合研究所の報告によれば,◯一般学校(mainstream)ですべての子がインクルージョンされる ことを目指し,一般学校を中心にサービスを提供する単線型,◯特別なニーズがある子は,特別学 校又は特別学級に在籍して,一般カリキュラムによらない二線型,◯一般教育と特別なニーズ教育 の 2 つのシステムで多様なサービスを提供する多重線型に分類される6

この点につき,アメリカは,1975年に EAHCA (Education for All Handicapped Children Act その後,IDEA (Individuals with Disabilities Education Act)に改称)が制定され,翌年以降から 障害児の統計調査が行われているが,2017年から2018年において,IDEA に基づいて何らかの サービスの提供を受けている 3 歳から21歳までの障害を持つ児童生徒の数は,約696万4000人(全 公立学校在籍者の約13.7)であった7。アメリカの障害児教育は,通常クラス(リソースルーム や巡回施設などを結合した場合を含む)のほか,特別クラス,特別学校,家庭教育(home in-struction)又は病院や施設での提供という一連の代替的教育環境の連続性を求めている8。2017年 当時,通常クラスの在籍率は約95(この95うち,日中の80以上の時間を通常クラスで過ご した者の割合は約63)であり,他方,分離学校(separate schools),家庭教育及び病院等施設で はそれぞれ 3,1,1未満という状況で,非常に多くの障害児が通常学校に在籍している9 アメリカは障害者権利条約を批准していない10。それにもかかわらず,極めて高い割合の障害児

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――

交委員会は,同年 7 月,公聴会を開催して,一定の条件を附して賛成投票を行った。しかし,同年12月,上 院では批准に関する承認を否決した。113回連邦議会において,上院外交委員会は,障害者権利条約の聴聞 会を開催し,2014年 7 月22日,再度,批准に関する承認決議を行ったが,上院への上程はなされず外交委員 会へ差し戻された。American Bar Association, Convention in the Rights of Persons with Disabilities, https:// www.americanbar.org/advocacy/governmental_legislative_work/priorities_policy/promoting_international_ rule_law/conventionontherightsofpersonswithdisabilities/(last visited 2019/7/31).

11 本項の記述にあたっては,Ruth Colkerの『Special Education Law』West Academic (2018)を参照した。

そのほかにも,わが国のアメリカの障害児の公教育の歴史的展開などのアメリカの障害教育法に関する先行 研究として,安藤房治『アメリカ障害児公教育保障史』風間書房(2001年),清水貞夫『アメリカの軽度発 達障害児教育』クリエイツかもがわ(2004),織原保尚「アメリカ障害者教育法成立と背景に関する一考察」 同志社法学57巻 5 号93頁(2006),内閣府「平成21年度障害者の社会参加推進等に関する国際比較調査」 (2009)などがあり,これらを参照している。 12 多くの各州が就学義務の対象としたのは,聾・唖・盲の障害を持つ児童であるが,一部では知的障害も対象 としていた。 ―― が通常学校へ在籍している。アメリカでは充実した公教育の実現として独自の障害児教育システム が展開させているとともに,差別禁止法による合理的修正が用いられているのが特徴である。 わが国ではインクルーシブ教育において合理的配慮の実施が不可欠であるとしているが,実際に は通常学級における障害児の教育における合理的配慮のあり方(合理的配慮の実施水準など)が十 分に議論されているとはいえない状況である。そこで,本稿は,アメリカの障害児教育について, 特別な教育ニーズを実現する IDEA と,差別禁止法としての ADA やリハビリテーション法などを 確認し,近年,IDEA での特別な教育ニーズと ADA での合理的配慮の関係が争点となった連邦最 高裁判所の判決を取り上げ,わが国の障害児教育の合理的配慮にいかなる示唆を与えられるのかを 検討したい。  アメリカにおける障害児教育制度と裁判例の展開  特別教育の歴史と障害児教育の展開11 19世紀前半,労働不能の障害者や病院に対する公的な施設保護政策が展開され,各地で聾唖院 や盲院が相次いで設立された。当初,これらの聾唖児教育の設立や運営は民間の博愛家が中心とな り,州の多くで施設設立資金等の援助などを行っていたところ,障害者教育の黎明期の聾唖院や盲 院は貧窮者救済のための慈善事業としての性格が強かった。その後,盲・聾の障害児への公教育機 会の拡大をもたらす契機となった義務就学法が各州で制定され,さらに19世紀後半から障害児を 対象とする義務就学法が各州で整備された12。歴史的には寄宿制の聾・盲・精神薄弱を持つ子に対 する教育を施す各学校が誕生し,その後,通学制学校(day school)が寄宿制を補完する教育施設 として発展したのであった。そして,義務就学法や障害児義務就学法の制定と強化によって,公立 学校制度内に特殊学級が整備されるに至った。 もっとも,障害児の教育を要求した法を取り入れた初期の州にあっても,一般論として,その実

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―― 13 Colker, supra note 11, at 1.

14 32 N.E. 864(Mass. 1893).

15 169 Wis. 231,172 N.W. 153(Wis. 1919).

16 SeeWisconsin Constitution, Article 10, Education, Sec 3, District schools; tuition; sectarian instruction. 17 Colker, supra note 11, at 1.

18 他方,農村部の学区では,問題が見られる子に対して義務教育法を回避する動きが存在した。 19 Colker, supra note 11, at 34.

20 269 F. Supp. 401(D.D.C. 1967).

――

施が効果的であったとはいえなかった13。すなわち,障害児の公教育の展開,とりわけ普通学校へ

の組み入れについて,大きな障壁が存在したのであった。

初期の障害児教育に関する裁判例である Watson v. City of Cambridge14では,マサチューセッ

ツ州最高裁判所は,重度の精神遅滞(too weak-minded)を有して教育成果を享受できない子につ き,当該子が不規則の騒音を出し,身体的動作のコントロールができない状態では他の生徒にとっ て煩わしく,公立学校には通学できないと判断した。

State v. Board of Education of City of Antigo15でも,裁判所は障害児の排除を容認した。ウィス

コンシン州憲法は,立法府に対し,4 歳から20歳までの子ども全員のために独立(free)して授業 料が無償であって,実施可能である限りほぼ同形(as nearly uniform as practicable)の地区の学 校を設置する立法を制定するよう規定する16。ところが,原告となった Merritt Beattie (M.B.) は,知的・認知機能に問題がなかったものの,肢体不自由で言語障害を有し,かん高い声で不随意 の歪んだ表情で話す仕草のせいでその発話内容も理解し難く,流涎することにより不衛生さの印象 を与えたため,市教育委員会が聾学校への就学を勧告した。このことに対して,M.B. が通常の公 立学校への就学を求める訴訟を提起した事案について,1919年,ウィスコンシン州最高裁判所 は,学校の最善の利益にとって有害であるならば公立学校への就学権を主張できないとし,彼がク ラスにいることで,彼の状態や疾病によって他の生徒に有害である場合,通常クラスには在籍でき ないと判断した教育委員会の決定を是認した。集団行動上の問題が存在する障害児は通常クラスか ら分離され,障害児の通常クラスへの排除の歴史は,1970年代半ばまで続くことになる17 ところで,かつてのアメリカは分離教育を学籍者数の調整手段としても用いていた。20世紀前 半,都市部に移民の大規模な流入が起こったため,クラスに在籍する生徒が80~90人と爆発的に 増加し始めた。これにより,学校は学籍者数を減らす藉口として,英語の習熟度が十分ではない多 くの移民の生徒を知能テストの結果によって精神遅滞という判定を行い,彼らを集団授業が適切で はない「魯鈍(morons)」として特別クラスへと配置し,精神遅滞児の特別学校や特別クラスが都 市部での現象となっていた18。こうして障害を持つ生徒への悪感情(hostility)は,知能テストの 発達とともに移民にも向けられた19 コロンビア特別区連邦地方裁判所は,Hobson v. Hansen20において,特別クラスでは不相応に アフリカ系アメリカ人が在籍していたため事実上の人種に基づく分離を惹起しており,その教育環

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―― 21 495 F. Supp. 926(N.D. Cal. 1979).

22 アメリカでは教育権能は州に属するが(合衆国憲法修正第10条),「偉大な社会(the great society)」の構想

を掲げたジョンソン大統領は,公民権法の制定のほか,貧困者の能力開発と教育改革を行い,1965年,「貧 困戦争(war on poverty)」法制の 1 つとして,貧困家庭の子の学業不振の解消を目的に貧困家庭の集中す る学区に連邦補助金を拠出する内容の初等中等教育法を制定した。

23 Pennsylvania Association for Retarded Children v. Pennsylvania, 34 F. Supp. 1257(E.D.Pa. 1971)は,ペン

シルベニア州法では教育に基づく利益を受けられない子は例外として通常クラスへの入学を拒否できるとし ていたところ,州内で無償の公教育を受けていなかった14人の知的障害児が,提起した代表訴訟である。連 邦地方裁判所は,州がすべての子に対して無償の公教育を提供する義務があり,知的障害児に対しても教育 や訓練の公的プログラムのアクセスをしなければならないとしたうえで,知的障害児への適切な教育や訓練 の公的プログラムの提供の場が,公立の特別学校よりも公立の普通学校の方が望ましいと結論づけた。

24 Mills v. Board of Education,348 F. Supp. 866(D.D.C. 1972)は,精神,行動,身体又は情緒の障害を理由と

して公教育プログラムを拒否された学齢期にある 7 名の児童が提起した代表訴訟であるが,連邦地方裁判所 は,被告に対し,その地区の居住者に公的支援教育を提供する義務があるとして,障害を理由として公教育 を否定することはできないと判断し,障害のない子よりも「特別」な子や障害を持つ子に対する教育の提供 に関して,障害のない子と比べてより困難な状況に置くことは許されないとした。Mills 判決は,知的障害 児を射程とするPARC 判決をすべての障害児に拡大した判決との指摘がなされる。

25 いずれの判決も同意判決であるが,その文言は―かつて“分離すれど平等(separate but equal)”として

黒人分離が人種差別にあたらないとしていたアメリカでの人種上の取扱いの転換に導いた―人種分離によ る別学処遇を違憲としたBrown v. Board of Education, 347 U.S. 483(1954)(通称ブラウン判決)の統合義 務(integration mandate)をベースにしている(see Colker, supra note 11, at 7)。

―― 境が劣後的教育(inferior education)であることを指摘した。そのうえで,特別学習過程(special academic track)は,通常のカリキュラムの実施ができず,情緒障害の特徴を有し,IQ75以下,学 力テスト(achievement test)が標準未満であることを配置基準とすべきであることを示した。ま た,Larry P. v. Riles21では,カリフォルニア北部地区連邦地方裁判所は,アフリカ系アメリカ人 の子がメインストリームの子たちとは隔離され,偏った配置のクラスでは通常のカリキュラムに従 わない劣った教育が提供されている事態に鑑みて,このようなクラス配置は「人種的血統(racial stocks)」の優越性や劣等性に基づく不快な固定観念を永続させる一助にもなることを指摘してい る。

1965年,連邦政府は初等中等教育法(ESEA: Elementary and Secondary Education Act of 1965) を制定し22,翌年,ハンディキャップを有する子への援助として Title を追加する形で法改正を

行った。1970年に入ると PARC 判決(1971)23と Mills 判決(1972)24が法改正の契機となり25

1975年,Title を改正する形で EAHCA を制定した。連邦議会は,EAHCA の制定に際し,(A) 障害を持つ子どもたちが適切な教育サービスを受けていなかったこと,(B)公立学校制度から完 全に排除され,また仲間(peers)と一緒に教育を受けていないこと,(C)診断されていない障害 により,子どもたちは教育の成功経験を持つことができなかったこと,(D)公立学校制度内に十 分な財源がないため,障害児の家族は公立学校制度外のサービスを余儀なくされたことなどを理由 に挙げ,何百万人もの障害を持つ子どもたちの教育的ニーズが充足されていなかったことを立法事

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―― 26 20 U.S.C. §1400(c)(2).

27 20 U.S.C. §1400(c)(3).

28 Board of Education of the Hendrick Hudson Central School District v. Rowley, 548U. S.176102S. Ct. 3034

(1982)の事案や判旨については,後述の 2 節(2)オの「個人教育プログラム」において詳述する。 29 468 U.S. 992(1984). 30 Smith v. Robinson 判決は,特別教育に関する訴訟で勝訴した障害者の親がリハビリテーション法などを根 拠として請求した弁護士費用の請求を排斥したものであるが,これは学校の決定に異議を申し立てる親の手 続の機会を過小評価しているとの批判があり,HCPA が制定された。HCPA の現在的意義は,訴訟に勝訴 した当事者が費用負担条項によって弁護士費用を請求できる点にあるとされる。 31 20 U.S.C. §1400(c)(13)(B). 32 20 U.S.C. §1400(c)(14). 33 2002年,ブッシュ大統領によって,ESEA の改正法として NCLBA が制定された。この法は,どの子も置き 去りにしないよう結果責任,柔軟性,選択により学力格差を縮めることを目的とし,そのなかでも貧困層の 学力向上を重要な目的と据え,そのため低所得者層の多い学校に補助金を分配するESEA を引き継いでいる 一方で,各州に対して教育の標準化や結果責任をより厳格にしたものである。しかしながら,NCLBA で は,州単位での統一テストの実施・結果の公表を補助金獲得の条件としたことなどから,このことが連邦政 府の州の地方教育行政に対する強い介入である旨の批判があり,さらに各学校は州が設定した目標に到達す る義務があり,その目標に到達しなかった学校にはペナルティ措置などがあるため,授業がテスト対策のた めの知識偏重型の教育になるという批判が噴出した。2015年,オバマ大統領は,NCLBA の改正法として ESSA を制定した。 ―― 実として指摘している26 連邦議会は,EAHCA の制定後,障害児教育に対する一定の成功が見られたことを確認する27 1980年代に入ると,連邦最高裁判所は,Rowley 判決(1982)28において障害者についての「適切 な教育」に関する解釈を行い,その後の障害児教育の実務や裁判例に多大な影響を与えた。また, Smith v. Robinson 判決(1984)29では,EAHCA が公教育についての排他的法令であってリハビ

リテーション法(504条)又は平等保護条項の実施条項(42 U.S. §1983)に基づく請求を排斥する 連邦最高裁判所の判断(法条競合的判断)に批判が集中し,HCPA(Handicapped Children Pro-tection Act of 1986)の制定がなされた30

その後,1990年に ADA(Americans with Disabilities Act)が制定されたことを契機として, ``handicap'' か ら ``disability'' へ の 変 更 ,「 外 傷 性 脳 損 傷 ( traumatic brain injury)」 や 「 自 閉 症 (autism)」を障害の定義に含めるなど,内容的・技術的な改正が行われ,併せて制定法の名称を

EAHCA から IDEA に変更した。

その後,連邦議会は,英語の習熟度の低い者を含む人種的少数者に関して,その少数派となる子 たちの教育の機会を保障することが不可欠であり31,また障害児の失業率が上昇しているところ,

卒業後の雇用などに資する効果的な教育の提供は障害児に対する重要な尺度であることを再度確認 し32,2004年,IDEA の改正がなされる。この改正により落ちこぼれ防止法(NCLBANo Child

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―― 34 20 U.S.C. §1400(d)(1).

35 Ruth Colker, Federal Disability Law, West Academic (5th ed. 2016), 370371. 36 Id, at 371.

37 20 U.S.C. §1401(3)(A). 38 Colker supra note 35, at 375.

――  IDEA

(1)IDEA の目的と構成

IDEA の目的は,(A)すべての障害を持つ子が,その彼らの独自のニーズに合致し,更なる教 育,雇用,自立した生活の準備するための特別教育や関連サービスに重点(emphasized)を置く 「無償で適切な公教育(FAPE: Free Appropriate Public Education)」を受けられることを確保し, (B)障害を持つ子やその親の権利が保護されることを確保し,(C)すべての障害を持つ子の教育 を提供する州,地域,教育サービス機関及び連邦機関を支援することである34 IDEA は 4 つのパートからなる。パート A では定義規定を含む IDEA の一般規定,パート B は 各州が連邦経済的支援を受けるための無償で適切な公教育を促進するためのプログラム要件ととも に,―IDEA の核心部分である―3~21歳までの障害を持つすべての子の利益を保護する目的 での手続的保護措置(procedural safeguards),パート C では 0~3 歳までの乳幼児に対する早期 介入サービス(early intervention service),パート D では障害児についての州のプログラム交付 金について規定する35 Colker によれば,IDEA の重要な要素は 2 つあり,その 1 つは障害児のための適切な教育プロ グラムについての親の関与という要素であり,2 つ目は障害児のその障害の性質や重症度が補助教 材・サービスを施しても通常クラスでの教育が十分に達成できない場合に限って通常の教育環境か らの分離を許容するという要素である36。次項では,この 2 つ目の要素を念頭に IDEA を概観した い。 (2)IDEA の要件等 ア 障害児 IDEA において対象となる障害児とは,◯知的障害,聴覚障害(聾を含む),発話若しくは言語 障害,視覚障害(盲目を含む),重度の情緒障害,肢体不自由(orthopedic impairments),自閉症, 外傷性脳損傷その他の健康障害又は特定の学習障害を有し,◯そのために特別教育や関連するサー ビスを必要とする者である37 IDEA は障害を持つすべての子に適用されるものではなく,この法律が対象とする教育的障害 (educationally disabled)を持つ子に限られ,この定義規定において特に言及はないが,多くの州 法では 2 つ以上の重複障害(multiply handicapped)についての規定を設けている38。この点, IDEA の実施規則では,重複障害について,精神遅滞と盲目,精神遅滞と肢体不自由などといった 付随的障害であって,障害の一つについての特別教育プログラムだけでは配慮できない深刻な教育

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―― 39 34 C.F.R. §300.8(c)(7). 40 34 C.F.R. §300.8(b). 41 20 U.S.C. §1412(a)(1)(A). 42 20 U.S.C. §1401 (9). 43 Smith, 468 U.S., at 10091010. 44 20 U.S.C. §1401(9)(D). 45 20 U.S.C. §1401 (29). 46 定義規定では,言語病理学・聴覚学的サービス,通訳サービス,心理学的サービス,理学療法・作業療法, IEP で説明される無償で適切な公教育を受け取ることを可能とする治療的レクリエーション・看護サービス を含むレクリエーション,リハビリテーション・オリエンテーション・モビリティサービス・医療サービス (ただし,早期の障害状態を把握するため診断・評価を目的として必要な場合に限る)に関するカウンセリ ングサービスという具体例を挙げる。 47 20 U.S.C. §1401(26)(A). ―― ニーズを必要とするものと定義する(ただし,盲聾者は重複障害には含まれないとする)39。なお, 3 歳から 9 歳までの子(又は年齢範囲が 3 歳から 5 歳までの場合を含む)の「障害児」の範囲は, 州及び地方の教育機関の裁量で定めることができる40

イ 無償で適切な公教育(FAPEFree Appropriate Public Education)

IDEA は,連邦からの補助金を受ける州に対し,障害児に対する「無償で適切な公教育」を提供 することを命じている41。この「無償で適切な公教育」は,(A)公の監督及び指導の下で提供され

た公費であって,無償で,(B)州の教育機関の基準に合致し,(C)州における適切な就学前教育, 初等学校又は中等学校の教育を包含し,(D)本章の1414条(d)に基づく個人教育プログラム (IEPIndividualized Education Program)に従って提供される,特別教育及び関連サービスと定

義される42

連邦最高裁判所は,前述の Smith v. Robinson 判決において,IDEA は公的資金による特別教育 に対して平等な保護の主張をすることのできる唯一の手段であり,障害を持つ子に公教育を提供す るという憲法上の義務を遵守するという連邦議会が設定した包括的な枠組みであって,無償で適切 な公教育についての実行可能な実質的権利を確立するものであることを判示した43。なお,「無償 で適切な公教育」の解釈について,連邦最高裁判所は,Rowley 判決において初めて判断を示した。 ウ 特別教育・関連サービス 州は,障害児に対し,後述の個人教育プログラムに合わせた特別教育や関連サービスを提供しな ければならない44 IDEA は,特別教育について,障害のある子の固有のニーズを充足するため,親に無償で,特別 に企図された教授(instruction)であって,(A)教室内,家庭内,病院及び施設その他の環境で 行われる教授,(B)体育(physical education)における教授を含むものと定義する45 関連サービスは,交通手段のほか,発達的,矯正的及びその他の支援的サービス46を含むものと 定義される47。ただし,この定義には,外科的移植や当該装置の付替などといった医療サービスは

(11)

―― 48 20 U.S.C. §1401(26)(B)

49 Colker supra note 35, at 379.

50 Irving Independent School District v. Tatro,468 U.S. 833(1984).

51 Tatro判決について,織原保尚「アメリカ障害者教育法における『関連サービス』についての一考察」同志

社法学60巻 1 号109頁(2008)参照。

52 20 U.S.C. §1401(14). 53 20 U.S.C. §1414

54 20 U.S.C. §1414(d)(1)(A); see also 34 C.F.R. §300.320(a). 55 Colker supra note 35, at 379.

56 484 U.S.305 (1988), 311. 57 Rowley 判決については,織原保尚「アメリカ障害者教育法における『無償かつ適切な公教育』に関する一 考察」同志社法学58巻 6 号97頁(2007),今川奈緒「合理的配慮をめぐるアメリカの裁判例」教育と文化81 号27頁(2015)参照。 ―― 含まれない48。なお,関連サービスのリストは制限列挙ではない49 関連サービスと医療サービスの区別に関して,Tatro 判決50は,二分脊椎症の児童に対して授業 時間においてカテーテル挿入サービス(CIC)を行うことが IDEA の支援的サービスに該当して 「関連サービス」として提供しなければならないのか,それとも「医療サービス」に当たり学校に は CIC の提供が必要ないのかが争われた事案であるが,連邦最高裁判所は,CIC について,障害 児が日中学校で過ごすことを可能とするサービスであり,登下校などを可能とするサービスと同様 に教育の努力に関連していることなどを挙げて支援サービスに該当するとし,「医療サービス」の 範囲を狭く解釈する判断を行った(ただし,リハビリテーション法に基づく弁護士費用請求につい ては排斥した)51

エ 個人教育プログラム(IEPIndividualized Education Program)

個人教育プログラムは,1414条(d)にしたがって各障害児のため,その発展,再検証,改善 (revised)について記載された文書を意味し52,同条(d)では障害の評価やその手順,プログラム の開発・策定などについて規定する53。また,教育プログラムの開発・策定にあたっては,障害を 持つ子の現在の学業成績と機能的パフォーマンス,測定可能な年間目標の設定などを踏まえて行わ れる54 個人教育プログラムは IDEA の礎石(cornerstone)たる位置づけであり55,連邦最高裁判所は,

Honing v. Doe56において,IDEA のもとで IEP は「無償で適切な公教育」を各児童に提供するた

めの主要な手段(primary vehicle)であることを確認する。 そして,障害児と学校との間で IEP の内容が争われた Rowley 判決において,連邦最高裁判所 は「無償で適切な公教育」の解釈を示した57。原告となった女児の Amy Rowley(A.R.)は,通常 クラスでの在籍にあたり,学校側から IEP として FM 補聴器の使用,1 日 1 時間の聴覚障害教育 の専門員による指導,週 3 時間の言語療法士による指導を提示された。A.R. 側は補聴器について は同意したもののすべての授業において資格のある手話通訳者の提供を求めたが,学校側はこれを

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――

58 Endrew F. v. Douglas Cnty. Sch. Dist. RE1, 137 S. Ct. 988(2017).

59 Endrew 判決についての事案の概要や判旨については,今川奈緒「インクルージョンと適切な教育―児童 ・生徒の状況に応じた適切な教育の保障」障害法2 号33頁(2018)参照。 ―― 拒否した。A.R. とその家族は地方教育委員会の聴聞を求めたが,担当官は A.R. が教育的,学習 的,社会的に手話通訳者の支援なく通常学校での学習水準を達成していると認定して学区の判断を 支持した。不服審査手続であるニューヨーク州教育委員会も学区の判断を支持したため,A.R. は IDEA(当時は EAHCA)違反を主張して訴訟提起した。ニューヨーク南部地区連邦地方裁判所は, A.R. が障害のない子と比べてクラス内で行われていることを理解していないことがあり,クラス の中で平均的な子よりも成績がよかったとしても,A.R. が多くの労力を障害に費やしており,彼 女に障害がなかったのであればもっと授業での成績を上げることに労力を振り向けられることがで きたであろうから,彼女の努力とその能力との間の不一致を改善しないことは彼女とその両親の努 力に対して不当であるとして A.R. 側の主張を認容し,第 2 巡回区連邦控訴裁判所もこの原審判断 を支持した。下級審の判断は,「無償で適切な公教育」は,他の障害のない子に提供される機会に 見合った最大限の可能性を達成するための機会として捉えていた。 連邦最高裁判所は,控訴審判断を破棄差し戻した。その理由は,IDEA の「無償で適切な公教育」 について,法律の目的が障害を持つ子の公教育の扉を開くことを,その公教育のなかにいる特定の 教育水準を保障することよりも重要としていること,過去の判決や立法経緯のなかで特定の実質的 なレベルの教育水準に言及がなされていなかったこと,「他の子に提供される機会に見合う」とい った文言が存在しないことなどを指摘して,連邦議会が実質的な教育基準を設けていたということ はできず,原審の示した障害のない子に提供される機会に見合った障害を持つ子の教育の機会とい う目標は望ましいとしつつも,連邦議会の立法事実からは IDEA のもとで補助金を受け取る州に 課した基準とはならないと判断した。また,判旨では,「無償で適切な公教育」のアクセスには, 黙示的に障害児に何らかの教育的利益を与えるのに十分であることを要求する連邦議会の暗黙的な 意図があったことを挙げ,この教育的利益の判断にあたって,障害の多様性やそれぞれの子の利益 を享受する能力には差があり,教育に関する専門知識と経験が存在しない裁判所による判断には限 界があるとした。 その後,連邦最高裁判所は,Endrew 判決58において,Rowley 判決では具体的に指摘されなか った IDEA のもとでの障害を持つ子に対して保障される教育水準についての判断を行った59。この 判決の事案の概要は次のとおりである。幼児のときに ADHD や自閉症と診断された Endrew F. に は,教室内で叫び声をあげる,教室の設備や同級生に登ったり,学校から逃げ出すなどの重度の問 題行動が存在した。小学校 4 年生まで深刻であったこれらの行動は改善せず,公立学校の提示し た IEP について,Endrew の両親は彼には十分ではないと考えていたが,学校側との IEP の調整 が奏功しなかった。そこで,両親は,彼を自閉症に特化した私立学校に入学させたところ,彼は飛 躍的に大きな成長を遂げた。両親は,公立学校側が彼に提示した不十分な IEP のため,私立学校

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―― 60 Endrew F., 137 S. Ct. at 998999.

61 20 U.S.C. §1412(a)(5).

62 Ronckerテスト(Roncker on behalf of Roncker v. Walter, 700 F.2d 1058(6th Cir.1983))., Daniel R.R. テス

ト(Daniel R.R. v. State Bd. of Educ., 874 F.2d 1036(5th Cir.1989)), Rachel テスト(Sacramento City Uni-ˆed School District, Board of Education v. Rachel H.,14 F.3d 1398(9th Cir. 1994))といった各巡回区連邦控 訴裁判所では障害児を通常クラスへ組み込むための要素や段階審査が存在する。これらのLRE の判断アプ ローチに関する訴訟の先行研究として,今川奈緒「インクルージョンと分離をめぐる一考察」大原社会問題 研究雑誌640号18頁(2012)参照。

63 Oberti v. Board of Educ., 801 F. Supp. 1392(D.N.J. 1992), aŠ'd, 995 F.2d 1204(3rd Cir. 1993).

64 この事案は,ダウン症の障害を持つ生徒とその親が特別学校ではなく通常クラスに配置され,通常クラスで の教育を受けることを求めたもので,一審・二審とも障害児側が勝訴した。 ―― に転校せざるを得なくなったとして,私立学校の授業料相当額の補償をコロラド州教育局に求め た。「無償で適切な公教育」について,行政手続でも,下級審においても,Endrew の主張は排斥 されたが,連邦最高裁判所は以下のように論じて破棄差戻しを命じた。

Rowley 判決は IDEA のもと提供される教育の妥当性(adequacy)の評価に関する包括的な基準 を明示していないが,同判決の規範や法律の文言は原則的なアプローチを示しているものであり, 学校が IDEA の実質的な義務を充足するには,子の状況に照らして当該子が適切に成長発達でき るように合理的に計画(calculated)された IEP を提供することが必要である60。IEP は,ほとん

どの子どもにとって適切な成長発達が彼らを教室に統合し,学年から次の学年へ進むことを可能に するために合理的に計画されものでなければならない。以上から原審が採用した学区の主張の「極 めて低い(de minimis)」基準を否定した。

オ 最も制約の少ない環境での教育(LRELess Restrictive Environment)

IDEA は,学校に対し,IEP を活用し,また IEP チームを組織して,障害のある子のために適 切な教育環境を提供しなければならないことを求めている。IDEA は,障害児の学習環境につい て,最大限の可能性をもって公立若しくは私立又はその他のケア施設にいる障害を持つ子が障害を 持たない子とともに学習し,かつ,通常の学習環境から障害を持つ子を分離する性格を有する特別 クラス,分離学校その他の環境は,通常クラスで補助的支援やサービスを用いてもなお障害を持つ 子の性質や重症度によって教育が十分に達成できない場合に限って許容されるという LRE の原則 を定める61 LRE の判断アプローチは複数存在するが62,なかでも LRE に関する象徴的な判決として, Oberti 判決63が挙げられる。第 3 巡回区連邦控訴裁判所は,学校が補助的支援やサービス,訓練さ れた特定の支援を行う巡回インストラクター,通常教育の教師のための特別教育訓練,学習カリキ ュラムの修正,異なった学習基準に基づく平行授業,リソースルームの部分的活用などにより,障 害児をメインストリームに組み込むことができると判示して原審判断を維持した64。この原審であ るニュージャージー州連邦地方裁判所は,「インクルージョンは権利であって選ばれた少数にとっ ての特権ではない。特別学校や特別授業で成功しても,IDEA の目標の 1

(14)

つである統合社会(in-―― 65 Oberti, 801 F. Supp.at 1404.

66 Id.at 1407.

67 障害者のための職業リハビリテーション法は,退役軍人と民間の職業リハビリテーションプログラムを調整

する連邦職業委員会の設置等を規定したSmith-Hughes Act of 1917,障害を持つ退役軍人の職業リハビリ テーション,職業復帰を規定した戦傷軍人リハビリテーション法(The Soldiers Rehabilitation Act of 1918) から始まり,Smith-Fess Act of 1920(民間リハビリテーション法Civilian Vocation Rehabilitation Act と も呼ばれる)では一般の障害者へも対象を拡大した。その後,Barden-Lafollette Act of 1943(職業リハビリ テーション改正法Vocation Rehabilitation Amendments とも呼ばれる)では,障害者の職業リハビリテー ションプログラムの大幅な変更,財政規定の拡大が図られた。幾度かの改正を経て,職業リハビリテーショ ン法は,職業だけに限られず,保健,教育,福祉などにおいて障害者(重度障害者のサービスに重点を置い て)に関する研究やプログラムを拡大させることを目的として,リハビリテーション法が制定された。 68 29 U.S.C. §794(a). 69 ADA 第 2 編パート A は,定義規定(201条),差別禁止規定(202条),他の法律の準用規定(203条),司法 長官への委任と他の基準との調整などを盛り込んだ規定(204条)から構成される。 ―― tegrated society)においてうまく機能しているとはいえない」ことを指摘し65,また,「(インクルー ジョンを求めることは)一般に教育者や地域の側に再調整と相応の努力を必要とすることになるけ れども,障害を持つ個人が完全に機能し,生産力を有し,また社会の同等のメンバー(co-equal members)となり,そして,障害を持たない個人に対して障害を持つ個人との包摂された世界に 住むことを学ぶ機会を増やすための支出(pay)としては少額である」66とも判示した。 このように,障害者権利条約を批准していないアメリカにとって,同条約の示すインクルーシブ 教育を障害児教育に導入しているわけではないけれども,LRE の原則のもと,IEP を実効的に活 用することによって,アメリカでの障害児の通常教育への参加の重要な役割となっているといえよ う。  ADA・リハビリテーション法 (1)沿革 復員軍人の支援法から出発し,障害者一般の職業リハビリテーションへと発展した後,1964年 の公民権法の制定と障害者差別禁止運動の高まりを受けて,1973年,リハビリテーション法が制 定された67。障害者の差別禁止規定としては,リハビリテーション法504条(§504)68がその役割を 担っていたが,リハビリテーション法の適用範囲の狭さや実施の不十分さなどの反省により, 1990年,より一般的・包括的な障害者差別禁止法として ADA が制定された。ADA は,第 1 編 (雇用),第 2 編(公共サービス),第 3 編(民間が運営する公共施設及びサービス),第 4 編(テ レコミュニケーション),第 5 編(雑則)からなり,障害を理由とした差別を禁止する。2008年, ADA は比較的大きな改正を行った。次項では ADA 第 2 編を一瞥したい。 (2)適用要件 ADA 第 2 編は,公共機関を名宛人として障害を理由とする差別を禁止する。同編の構造は,◯ 公共機関に一般的に適用される基準(パート A)69,◯公共機関が提供する交通に関する基準(パー ト B)で構成されている(以下ではパート A を論じる)。

(15)

―― 70 42 U.S.C. §12131(1).

71 42 U.S.C. §12131(2).

72 Mark C. Weber, Understanding Disability Law, Lexis Nexis (2nd ed. 2012), 104. 73 42 U.S.C. §12132. 74 28 C.F.R. §35.130(b)(1)7(). 75 28 C.F.R. §35.130(b)(1)7(). 76 28 C.F.R. §35.136(a). 77 28 C.F.R. §35.160(a)(1). 78 28 C.F.R. §35.160(b)(1). ―― 第 2 編における公共機関とは,(a)州政府又は地方自治体,(b)省庁,特別目的区,その他の 州政府,地方自治体の機関を含む公共機関である70 そして,第 2 編の保護の対象となる個人は,「適格性を有する障害のある個人」であって,「規 定,方針,慣行の合理的修正,建築,通信,輸送に関する障壁の撤去,補助的支援及びサービスの 提供を受けることにより,又は受けることなく,公共機関によるサービスを受け,又は公共機関が 提供するプログラム若しくは活動に参加する本質的な適格要件を満たしている個人」と定義され る71。IDEA における障害は学習障害との関連性を要求するところ,障害を持っていることが明ら かであっても特別教育や関連サービスを必要としない子どもは IDEA の適格基準には合致しな い。他方,IDEA の定義に適合しない障害児であっても,ADA や §504の定義に合致するならば, 学校は当該児に対して障害に基づく差別をしてはならず,また,合理的配慮の努力をしなければな らない72 (3)差別禁止 ADA 第 2 編によれば,適格性を有する障害のある個人は,その障害を理由として,公共機関の サービス,プログラム,活動への参加から排除され,若しくはその利益を拒否されない。また,か かる機関による差別は禁止される73 したがって,障害に基づく差別を阻止するために修正が必要なときは,公共機関は,政策,慣行 又は手続の修正を行わなければならない。ただし,変更することによりサービスの性質を根本的に 変更することを公共機関が証明したときはこの限りではない74。もっとも,障害のみなし規定によ ってのみ ADA での障害のある個人とされる場合,公共機関は合理的配慮を提供する義務を負わな い75 ADA の実施規則上,合理的修正の要請として,公共機関は,例えば,障害を持つ個人に対し, 動物による介助を認めるため方針,慣行,手続を修正しなければならない76。また,公共団体は, 障害を持つ者のコミュニケーションが障害を持たない者のコミュニケーションと同様に効果的であ ることを確保するための十分な措置を講じなければならない77。この効果的なコミュニケーション を確保するための必要な補助やサービスは障害を持つ個人によって異なるが,公共機関は,当該障 害者の意向を第一に考慮して,タイムリーで,個人のプライバシーや自立を保護するものでなけれ

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――

79 28 C.F.R. App. A to 35-Guidance to Revisions to ADA Regulation on Nondiscrimination on the Basis of

Disa-bility in State and Local Government Services, See ``Subpart E-Communications''.

80 28 C.F.R. §35.139.

81 28 C.F.R. §35.104; see also 28 C.F.R. § 36.104. 82 28 C.F.R. §35.130(b)(7)().

83 29 U.S.C §794a(a)(2); 42 U.S.C. §12133.

84 私立学校には,運営主体が宗教団体である場合を除き(42 U.S.C. 12187),ADA 第 3 編の適用がある。

§504は,私立学校であったとしても,また宗教団体が運営していたとしても,当該学校が連邦補助金を受け ている限り,その適用がある(ただ,連邦補助金について中等教育後の教育機関では不規則な例外がある)。

85 20 U.S.C. §1415(1). 86 Colker supra note 35, at 128. 87 Id.

88 Id.

――

ばならない78。例えば,指針では,聴覚障害を持つ個人とのコミュニケーションにおける情報が複

雑な場合,又は長期間にわたる場合,手話又は口述通訳を要求する79

その一方で,ADA の規則では,「直接の脅威(direct threat)」80が存在する場合,合理的修正の

あり方も変更される。直接の脅威は,「方針,慣行若しくは手続の修正によって,又は,補助的支 援若しくはサービスの提供によって解消できない他者に対する健康や安全についての重大なリス ク」81と定義される。 §504についても,ADA 第 2 編と同様に障害者に対応するために既存の慣行等に合理的修正を行 うよう解釈されている82。いずれの法律でも差止命令又は金銭賠償によって個人の保障された権利 の救済を求めることができる83 なお,私立学校については IDEA や ADA 第 2 編の適用はない84  訴訟前置要件 IDEA には ADA 又は §504との間の適用の関係について固有の準則が存在する。 1415条(l)は,◯IDEA のいかなる部分においても,憲法,ADA,リハビリテーション法第 5 編又はその他の連邦法の保障する障害を持つ子が利用し得る権利,手続及び救済を制約又は制限す るものとは解釈されないこと,◯ただし,これらの法のもとでも利用可能な救済を求める民事訴訟 を提起する前には,聴聞会の申立てや不服申立てが当該訴訟と同程度にまで尽くされなければなら ないこと(exhausted)を定める85。すなわち,この規定は,ある者が,ADA や §504による救済 を求める前に,IDEA に基づく申立て(action)をしなければならないものと理解されており, IDEA は,子が「無償で適切な公教育」を受けていないと考える親に対し,州や連邦の裁判所への 訴訟提起前に,州レベルの聴聞会の担当官に対する救済措置を取ることを求めている86 このため,IDEA の障害児の定義に含まれない当事者の場合であったり,障害児であったとして も特別教育や関連サービスを必要としていない場合などでは行政手続を尽くす必要はなく,直接 ADA 第 2 編又は §504による救済を求めることができる87 なお,IDEA によって提供される救済は,精神的苦痛に関する損害賠償請求を含まない88

(17)

―― 89 725 F. 3d 1088(9th Cir. 2012).

90 この事案では,すでに IDEA の行政手続を尽くしていたので,Fry 判決で争点となった訴訟前置要件に関す

る事案ではない。

91 Fry v. Napoleon Cmty. Sch.,2014 WL 106624(E.D.Mich.2014), aŠ'd,788 F. 3d 622(6th Cir. 2014), vacated

and remanded, 137 S. Ct. 743(2017). ―― 次章では,2017年,この訴訟前置要件が争点となり,IDEA と ADA との関係性に重要な示唆を 与えた連邦最高裁判決(Fry 判決)を取り上げたい。  連邦最高裁判決にみる IDEA と ADA の関係  Fry 判決前の状況 1980年代,連邦最高裁判所は,Rowley 判決において「無償で適切な公教育」の解釈上,通常ク ラスに在籍できるだけの能力を備えている障害児について,その司法判断には限界があることを示 し,また Smith v. Robinson 判決や Tatro 判決においてはリハビリテーション法に基づく請求を認 めない態度であった。これは,ある意味において,IDEA を優位に解釈し,§504や ADA 第 2 編の 適用を認めない態度であったともいえよう。

もっとも,K.M. v. Tustin Uniˆed Sch. Dist. 判決89はこれらの判例の態度とは異なる形で IDEA

と差別禁止との関係に触れており,注目に値する。

この判決は,別々の高校に通う聴覚障害者である原告らが,逐語形式の訓練を受けた速記者によ るコンピューター画面上にリアルタイムでキャプションを表示させる転写サービス(CART: Com-munication Access Realtime Translation)の導入を求めたところ,いずれの高校もこれを否定し, またそれぞれの州の行政手続でも CART を付与する資格は各原告にはないと判断した事案であっ た90。それぞれ原告が連邦地方裁判所に訴訟を提起して IDEA 違反と ADA 違反を主張したが,い ずれの連邦地方裁判所も,学区が原告らに対して IDEA を遵守していること,IDEA 違反の主張 が認められないため ADA 違反の主張は排除されるという理由で,学区の申立てによる略式判決を 行った。これに対し,両事件を併合した第 9 巡回区連邦控訴裁判所は,IDEA の主張が成功しなか ったとしても,それは ADA 第 2 編に基づく主張を自動的に排斥することにはならないとして,原 審判断を破棄し差し戻したのであった。これは,以下に述べる Fry 判決の予兆ともいいうる判決 と評されよう。  Fry 判決91 (1)事案の概要 Ehlena Fry(E.F.)は,8 歳の少女で,けいれん性四肢麻痺を伴う脳性麻痺の障害を有していた。 彼女は日常生活動作に著しい制限が存在したものの,彼女は認知機能には問題はなく,日常動作へ の身体的支援のみ必要としていた。 2008年 5 月頃,E.F. の小児科医は彼女の日常動作の支援に介助犬を勧め,E.F. が就学前,2009

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―― 92 Id.at 748.

――

年から2010年の Ezra Eby 小学校の幼稚園プログラムにおいて,原告ら(E.F. の両親を含む)は, 被告ら(学区及び学校)に対し,介助犬を検討していることを伝えた。原告らの主張によれば,こ の際,学校は原告らに介助犬が E.F. とともに登校ができる旨の発言を行った。地域の資金集めの 催しが奏功した原告らは,ワンダーと名付けた介助犬を購入し,2009年秋にはワンダーとともに オハイオ州にある介助犬訓練施設でのトレーニングを行った。原告らによれば,ワンダーは E.F. のあらゆる日常動作を支援するばかりでなく,彼女の自立心や自信を促進させ,社会的障壁を乗り 越える手助けもしていた。 2009年10月,学校は,原告らに対し,ワンダーが E.F. の付添いをすることを拒否する旨の告知 を行い,2010年 1 月 7 日,学校は,E.F. に「無償で適切な公教育」を提供するに際して,ワンダー が必要か否かを IEP チーム会議で諮ったところ,同チームは,ワンダーの付添いがなくとも E.F の身体的・学習的ニーズを充足した IEP プログラムやサービスを提供できると結論づけた。 この決定後に原告らと学校は協議を行い,ワンダーの付添いを2010年 4 月12日から30日間認め る試用期間を設け,最終的には学年末まで延長された。ワンダーは学校に登校できたものの,原告 らの主張によれば,被告らは,ワンダーに対し,教室の後方で待機させて E.F. への支援を許さな かったことから,学校は E.F. に対する合理的修正としての学校の方針の変更を拒否したばかりで なく,ワンダーを介助犬と理解することも拒否したというものであった。このため,両親は E.F. を同小学校に通学させず,ホームスクーリングに切り替えた。

そして,彼らは,教育省の公民権局(OCRO‹ce of Civil Rights)に対して,E.F. の介助犬の 排除が ADA 及び §504に違反するという内容の申立てを行ったところ,OCR はこの主張を支持し た。学校は,これを契機として,その対応を改め E.F. にワンダーの付き添いを認めて復学を要請 したが,原告らは介助犬を快く思わない学校関係者からの反発を懸念し,介助犬の受け入れを表明 する別の学校へ E.F. を転校させた。その後,Fry 一家は,被告らに対し,ADA 第 2 編及び §504 の違反を理由として,宣言的かつ金銭的救済を求める訴訟を連邦地方裁判所に提訴した。ミシガン 州東部地区連邦地方裁判所は,IDEA1415条(l)の訴訟前置要件を満たしていないとして被告ら の請求棄却の申立てを認め,第 6 巡回区連邦控訴裁判所も連邦地方裁判所の判断を維持した。 (2)判旨 判決は全員一致であり,法廷意見はケイガン判事が執筆した。 法廷意見は,◯1415条(l)について,原告の訴訟上の請求が IDEA の核となる「無償で適切な 公教育」の否定(denial of a FAPE)という趣旨でなければ,同条の適用はなく,訴訟提起前に行 政手続を尽くす必要はないこと(判旨前段),◯この原告の請求が「無償で適切な公教育」の否定 に関する主張であるか否かにつき,裁判所は原告の訴訟の争点や実質をもとに判断すべきであるこ と(判旨後段)に分かれる92

(19)

―― 93 前掲注30参照。 94 Fry, 137 S. Ct. at 750752. 95 Id.at 754. 96 Id.at 754755. 97 Id.at 755756. 98 Id.at 756. 99 Id.at 757. ―― 判旨前段の理由は,1415条(l)の条文の構造と聴聞官の役割を交えて論じられた。 公立学校が IDEA,ADA 第 2 編又は §504の各規定に服さなければならないという前提を確認した うえで,かつて Smith v. Robinson 判決がなされた後,同判決の規範を覆すために制定された HCPA93,そして,その改正によって1415条(l)が規定された経緯に触れ,同条の構造が,前段 では IDEA が他の連邦法のもとで利用可能な権利又は救済を制限していないこと,後段では IDEA でも利用可能な救済が ADA 第 2 編や§504などと競合する場合には,その訴訟提起前に行政 手続を尽くさなければならないという建付けになっていることを指摘した94 そして,IDEA の行政手続は学校がその「無償で適切な公教育」の提供義務に合致しているか否 かを審査するものであって,聴聞官は学校がこの義務を充足させていなかった場合に初めて救済命 令を発令できることに言及する95。加えて,学校が障害児に何らかの配慮をしていないことでその 保護者が抗議をしたとき,この抗議に基づく救済の申立てが「無償で適切な公教育」を充足するた めに必要であれば聴聞官は救済命令を発しなければならない一方,そうではない場合には聴聞官は 障害児の実質的権利を実現するためであっても救済命令を発することができない仕組みであること を踏まえて,原告の求めた救済が「無償で適切な公教育」を否定されたというものではない場合, 1415条(l)の訴訟前置要件の適用はないとした96 判旨後段では,「無償で適切な公教育」の否定が争われている事案か否かの判断について,「IEP」 などという文言が使用されているとか,その妥当性に異議を唱えているといった主張の外形で判断 するのではなく,訴えの争点(gravamen)や実質に着目なければならないとした97 そのうえで,このような判断について,連邦最高裁判所は,2 つの手掛かり(clue)を提示した。 1 つ目の手掛かりは,二つの仮定的推論の設定である。すなわち,◯主張された行為が学校では ない―公共のシアターや図書館といった―公共施設で行われた場合,原告が本質的に同じ訴訟 を提起できるものであるか,◯学校において―従業員や訪問者といった―成人(adult)が本 質的に同じ不満(grievance)を持つものであるか,という視点である。もしこれらの推論が肯定 できるならば,それは「無償で適切な公教育」の否定に関する主張ではないという推定が働き,そ れゆえ訴訟前置要件は生じない98。2 つ目の手掛かりは,手続の経過に着目すべきというものであ る。原告が当初,学校との紛争において IDEA の行政手続を利用して,その途中で裁判所の訴訟 提起へと乗り換えたならば,原告の主張の争点が「無償で適切な公教育」が否定されたという主張 であるという推定が働くというものである99

(20)

―― 100 Id.at 758759. 101 Id.at 759. 102 2018 WL 636653 (3d Cir. Jan. 31, 2018)は,急性増悪を伴う慢性副鼻腔炎などの障害を持ち頻繁に欠席す る可能性が高いという診断を受けた控訴人(原告)とその保護者が,学校の計画した補習授業に不満を抱 き,ADA 違反などを主張して訴訟提起をした事案で,第 3 巡回区連邦控訴裁判所は,Fry 判決の判断枠組 みを当てはめ,控訴人が差別などを主張しているが本質的には教育的であるので,IDEA の行政手続を尽く さなければならないとして原審判断を支持した。 103 2017 WL 6328988 (3d Cir. Nov. 7, 2017)は,体育の授業中に頭部外傷を負った控訴人(原告)とその保 護者が,脳震盪の後遺症候群と診断されたことについて学校側に配慮を求めたものの,学校側が拒否し IEP の提供も行わなかったところ,IDEA の行政手続でいったんは和解したものの,その後,原告が学区を 被告として,ADA 違反などを理由に提訴した事案で,原審は原告の請求を棄却した。これに対し,第 3 巡 回区連邦控訴裁判所は,Fry 判決を適用し,原告の求める救済が「無償で適切な公教育」の否定に関する判 断において,訴えの争点を考慮すべきであるとして,原審判断を破棄し差し戻した。

104 850 F.3d 944 (8th Cir. 2017)は,ADHD などの障害を持ち IEP を受けていた控訴人(原告)の J.D. とそ

の保護者が,保護者の知らないところで学校内でJ.D. が繰り返し身体的拘束や隔離をされていたことを理 由として,学区を被告としてIDEA その他の連邦法規定(42 U.S.C. §§ 1983 and 1988)のほか,ミズーリ 州の不法行為法などを主張して訴えた事案で,原審は IDEA の行政手続を尽くしていなかったことで J.D. 側の請求を棄却した。第8 巡回区連邦控訴裁判所は,Fry 判決の枠組みから,J.D. の主張を形式ではなく 実質を考慮して,J.D. の主張が公教育への参加を否定されているものと判断し,原審判断を支持した。

105 David Burrow et al, Deˆning the Scope of the IDEA's Exhaustion Standard, 45 JAAPL 499(2017), 501. ―― このような理由を踏まえ,原審が E.F. の損害の実質を教育的なものと認定しているが,原告ら は障害を理由とする差別の主張しかしておらず,「無償で適切な公教育」が否定されたことを根拠 づける事実主張や IEP の不足についての具体的主張がなされていないという事情が存在するとこ ろ,審理不尽のため差し戻すとした100 なお,この判決には同意意見があり,アリート判事が執筆し,これにトーマス判事が同調した。 同意意見の趣旨は,判決内容及び法廷意見の理由の一部には与するものの,判旨後段の 2 つの 手掛かりに関し,法廷意見が IDEA の救済とその他法令による救済が重複しない(no overlap)こ とを前提にしているきらいがあるので,ミスリードを招来するおそれがあることを指摘した101

 Fry 判決の分析・評価と後続の訴訟

Fry 判決直後から 1 年も経たない段階で,連邦控訴審だけでも,同判決を引用する S.D. v. Had-don Heights Bd. of Educ. 判決102,Wellman v. Butler Area Sch. Dist,判決103,J.M. v. Francis

Howell Sch. Dist.判決104などがある。一方では Fry 判決のその規範の射程は狭いともいえるが,

ADA で規定される介助動物は様々な障害を持つ個人にとって有益であることから,後続の裁判例 によって脳性麻痺の事案に限られず拡大していくことが期待されてもいる105 他方で,Fry 判決が「無償で適切な公教育」の保障の枠外において障害者差別禁止法の主張を認 めたことで,結果的に,障害児に提供される教育の質の向上を訴える扉を開いたともいえよう。す なわち,ADA は障害を持つ者の効果的なコミュニケーションを保障しており,このため学校には 効果的なコミュニケーションについての合理的修正が求められる。先述した Rowley 判決の原告 A.R. は,訴訟記録上,口頭でのコミュニケーションの多くを彼女の能力だけでは補えないことを

参照

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