はしがき
我々の生活は,狩猟と採集の生活から食料生産を図る農業革命が起こり, 次に,道具を使う社会から工業社会へ変わる産業革命が起こった.さらに 今,情報通信技術によってパラダイムの転換を図る情報革命がなされようと している.教育界では,パソコンとインターネットを利用した教育として, e ラーニングからブレンディッドラーニング(blended learning)への波が 始まりつつある. e ラーニングとは,IT 関連技術を利用した教育であり,ネットワークに よる遠隔教育全般と定義されている.Web を利用した学習だけではなく, 遠隔教育システム全般を指している.e ラーニングは,いつでもどこでも学 習できる,遠隔地の人ともネットワーク上で話し合いができるというメリッ トがある.一方,修了率が低い,効果が小さい,という危険にさらされてい る.その理由は,コンテンツがテキストと同じようなもので魅力的でない, 一緒に学習する仲間が目の前にいない,などの理由から,動機付けが難し く,学習延滞や学習放棄が起こってしまいがちだからである. e ラーニングだけの学習では,そのような欠点があるので,講義や研修の 補完に用いれば,相互に補い合って,効果を高めることができる.現在,e ラーニング,講義,その他のメディアを組み合わせた授業のことは,ブレン ディッドラーニング,ブレンディッド授業,ブレンド型授業などと呼ばれて いる.ブレンディッドラーニングとは,最適の授業を設計するために,メデ ィアを選択して,それらを融合し,適切に組み合わせた学習である.ブレン ディッドラーニングは,異なる形態の e ラーニングを用い,対面式の授業を 補完した形態を指している.ブレンディッドラーニングの目的は,学習内容 に強い印象を与え,効率的で,興味のあるトレーニングを生み出すために, いくつかのトレーニングメディアをひとつの統合された混合体に合成するこ とである.ブレンド型の授業を設計する場合,授業の中に,いつ,どのメデ ィアを,どのように使えば,最適な学習になるかを考える必要がある. ブレンディッドラーニングはこれから重要になる教育方法であるが,その はしがき i内容を紹介する書籍は,日本においては翻訳書が一冊出版されているだけで ある.本書は,日本における研究成果を取り入れた,日本で最初に出版され るブレンディッドラーニングの解説書である.e ラーニングからブレンディ ッドラーニングに移行することが検討されつつあるこの時期に,ブレンディ ッドラーニングに関する本を出版することは多いに意義のあることであると 考える. 本書では,e ラーニングの定義として,「e ラーニング白書」(日本イーラ ーニングコンソシアム,2008)の狭義の定義である「『同期型』と『非同期 型』のいずれかの形態で,情報技術によるコミュニケーション・ネットワー クなどを活用した主体的な学習である.そのコンテンツは学習目的に従って 編集され,学習者とコンテンツ提供者との間に必要に応じてインタラクティ ブ性が確保されている」状態と考えることにする.WBT(Web Based Training)という形態,衛星通信やテレビ会議システムを使って講師が行う 授業を遠隔地に配信する形態,テレビ会議システムを使っていくつかの遠隔 地の学校が共同学習する形態,などを含む.ブレンディッドラーニングと は,「集合学習と各種 e ラーニングを組み合わせた学習形態であり,非同期 型の個別学習と同期型の集合学習のそれぞれの短所を補って展開する学習で ある」と考える.教師の一斉指導,グループ学習,WBT を活用した個別学 習,テレビ会議による遠隔地の学習者との共同学習,などを効果的に組み合 わせ,学習者の理解度を高める学習方法である.教師による学習支援が適宜 得られるという点で学習意欲の継続が図られ,学習効果が大きい学習方法で ある. 本書は,情報通信技術の発展からひもとき,学習の種類と評価方法,e ラ ーニング,ブレンディッドラーニング,インストラクショナルデザインを解 説し,いろいろな校種や形態別のブレンド型授業の事例紹介をして,ブレン ディッドラーニング,ブレンド型授業に関連する研究成果を編集したもので ある.多様な学習者に対して,「e ラーニング」と「ブレンディッドラーニ ング」の本質がよく理解できるように解説した.本書は,e ラーニングとブ レンディッドラーニングについて,これから学びたい人,あるいは既にこれ らの内容を知っているが系統立てて理解したいと思う人のための参考書とし て編集した.それらの人々が e ラーニングとブレンディッドラーニングにつ ii はしがき
いてよく理解して,これらの分野で自信を持って活躍できるように,必要な 事項を体系的に解説している.そのために,図や表を多く使って,わかりや すく解説している.また,各章末に演習問題をつけて,この書籍を教科書と して使用される教授者が課題を出す際の参考に供する.また,学習者が問題 意識を持ったり,理解を深めることを助ける.各章ごとに参考文献を付け て,学習中あるいは学習後に内容を確認したり,広げたり,理解を深めたり できることを助ける.索引を充実し,学習後に参照しやすくし,この分野の 用語事典も兼ねるようにした. 来るべきブレンディッドラーニングの時代に向けて,一人でも多くの読者 が,ICT を活用し,各種のメディアを組み合わせて効果的な授業を展開し, 効果のあるブレンド型授業についての知識を深め,それに止まらず実践して くれることを願っている.そのために,本書が少しでもお役に立てれば,執 筆者一同望外の喜びである. 最後に,本書を書く上で多くの著書を参考にさせていただいた.これらの 著書を各章末に掲げて著者の方々に深くお礼を申し上げたい.また,出版に 当たりお世話になった共立出版の松原茂氏と日比野元氏には心から感謝の意 を表したい. 2009 年 9 月 15 日 編著者 宮地 功 はしがき iii