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放 射 線 M O O K

Basics of Radiation

A01

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放射線 MOOK A01 放射線の基礎

01 放射線とは何か 02 原⼦の構造 03 原⼦核の構造 04 放射性同位元素 – ラジオアイソトープ 05 核種 06 原⼦核の不思議 07 放射性壊変 08 α壊変 09 β-壊変 10 β+壊変 11 軌道電⼦捕獲と内部転換 12 γ線放出 13 半減期 14 原⼦博の外で発⽣する放射線 – X 線 15 制動 X 線 16 特性 X 線 17 核分裂 18 放射線と物質の相互作⽤ – 電離と励起 19 光電効果とコンプトン散乱 20 電⼦対⽣成 21 放射線の単位 eV 22 放射線の単位 Gy 23 放射線の単位 Sv 24 Gy と Sv の使い分け 25 放射能の単位 Bq 26 ⾃然放射線と⼈⼯放射線 27 ⾃然放射線の線量 28 天然の放射性壊変系列 29 トリウム 30 ⾼⾃然放射線地域 31 東京電⼒福島第⼀原⼦⼒発電所事故で起こったこと 32 医療における X 線と RI の違い – 基本的性質と医療応⽤ 33 医療における X 線と RI の違い – 放射線防護 34 I-131 の壊変と体内動態

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放射線とは何か  

01  

放射線は難しい。五感で感じることもできず、説明されても、ああ、あれね、とイメージすることは極め て困難である。ましてや、その性質や本体を数式などを使って説明されようものなら、一般的にはほぼお手 上げ状態になる。そこで、例えば☆☆☆のようなもの、という比喩に頼らざるを得ない。放射能を懐中電灯 に例えれば、放射線は懐中電灯から発する光、放射能をコーヒーに例えれば、放射線はコーヒーの香り(図 01-1)、といった具合である。とはいえ比喩は比喩であり、本体を説明しているわけではない。 放射線は空間を流れるエネルギーであり、その意味では光や熱や音と似ている。ただ、これらと決定的に 違うのは、放射線は物質に吸収されると電離を引き起こすほどエネルギーのレベルが高いということである。 そのため、いわゆる「放射線」は、正しくは電離放射線(ionizing radiation)と呼ばれ、一定の健康影響が示 されている紫外線などの「非電離放射線」と区別される。 表 01-1に示すように、放射線にも数多くの種類が存在する。いずれも電離作用で一括りにしただけで、 本体は粒子であったり電磁波であったり、あるいは電荷や発生元や透過性が異なったりの多士済々なメンバ ーのように見えるが、実は重要な分別ポイントがある。それは、放射線の発生源が原子核の中か外か、とい うことである。

放射線とは何か?

図   表 01-‐‑‒1   代表的な電離離放射線の種類   図 01-‐‑‒1   放射線をコーヒー の⾹香りに例例えると、放射能(= 放射性物質=放射性同位元 素)はコーヒー本体となる。  

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原⼦子の構造  

02  

放射線とは何かという話を進めると、いきなり「原子」という言葉が出てきた。それだけ放射線と原子は 切っても切れない関係にある。原子(atom)は、古代ギリシャ時代から atomos(それ以上分割できないもの) と言われ、物質の最小構成単位としてその存在が仮定されていた。現在では、原子を構成するさらに小さな 物質が発見されているので、ギリシャ時代の説明は当たらない。なので、例えば広辞苑によれば、水素、酸 素など、各元素のそれぞれの特性を失わない範囲で到達し得る最小の微粒子、と表現されている。 図02-1 に示すように、原子の基本構造は、中央に原子核、その周囲に軌道電子という配置である。図はデ フォルメしているのでサイズ感に乏しいが、実際には原子の直径は原子核の直径の 10 万倍にも相当する。原 子核の直径が 1cm だとすると、原子の直径は 100,000cm=1000m=1km になる。物質には原子が水も漏らさぬほ どぎゅうぎゅう詰めに詰め込まれていると思いがちだが、ミクロの世界では原子の中は隙間だらけなのであ る。透過性の高い放射線は、この中をうまくすり抜けていく。

原⼦子の構造  

-10m -15m 図 02-‐‑‒1   原⼦子構造の模式図。原⼦子の直径の 10-‐‑‒10m とは、1mm の 1000 万分の 1。中央に ある原⼦子核の直径は、そのさらに 10 万分の 1。  

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原⼦子核の構造  

03  

原子の中心にある原子核に話を進める。原子核は主に陽子(proton)と中性子(neutron)から構成されて いる。陽子と中性子は質量は等しいが、陽子がプラスの電荷を持っているのに対して、中性子は電荷を持た ない。したがって、原子核全体としては電荷はプラスになる。その周りを、電荷がマイナスの軌道電子が周 回する。そして、原子核全体の重さを質量数といい、陽子と中性子の和として元素記号の左肩に示される。 一方、陽子の数を原子番号といい、元素の種類を決定する。 図03-1 をみてみよう。地球上で最も単純な原子である水素(H)原子の場合、原子核には陽子が 1 個存在 するのみなので、原子番号は 1、質量数も 1 である。陽子が 2 個になると原子番号 2、これはヘリウム(He) である。この原子核には中性子が 2 個あるので、質量数は 4 になる。同様に炭素(C)は陽子数、中性子数と もに 6 なので、原子番号は 6、質量数は 12 である。一般に、原子番号が大きくなればなるほど、陽子数に対 する中性子数の比は大きくなり、カリウム(K)では陽子数 19、中性子数 20、ヨウ素(I)では陽子数 53、 中性子数 74 になる。 A01-01 で示した粒子線に含まれている陽子線と中性子線は、原子核を構成する陽子と中性子がその本体と なる。また、アルファ線はヘリウムの原子核そのものである。したがって、放射線の発生元としては、まさ しく原子核の中ということになる。 ちなみに、粒子線のうちヘリウムの原子核(=アルファ線)よりも重い粒子によるものは重粒子線と呼ばれ て区別される。がんの重粒子線治療といえば、一般には炭素の原子核が応用されている。

原⼦子核の構造  

図 03-‐‑‒1   原⼦子核の構造と 表記⽅方法  

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放射性同位元素   –   ラジオアイソトープ  

04  

さて、原子核から放射線が出てくる話である。ここでもう一度水素原子に戻る。図 04-1 の左端はすでに紹 介した地球上で最も単純な水素原子である。ところが世の中には変わった水素原子もいて、原子核内の陽子 1 個に加えて中性子を 1 個持っているものがある(2H)。陽子数=原子番号=1 なので、元素としては水素に違 いないが、質量が倍だけ重い。なので、重水素と呼ばれる。さらに中性子を 2 個、原子核に持っている水素 もいる(3H)。これを日本語では三重水素というが、一般的には英語の「トリチウム」が使われる。このよう な、同じ原子番号、すなわち同じ元素でありながら、質量数、すなわち中性子数の異なる原子核を有する元 素の仲間を同位元素、同位体(アイソトープ、isotope)と呼ぶ。水素の場合はメンバーは 3 種類、水素三兄 弟のようなものである。 兄弟が 3 人いれば、性格もさまざまであろう。変わった兄弟もいるかもしれない。水素三兄弟の場合は、 トリチウムが少し性格が不安定で、いつもイライラしている。要は、ストレスがたまっているのである。そ のため、ストレス発散が必要だ。トリチウムの原子核は、このストレスを「放射線」という形で外に発散す る。他の兄弟はストレスがあまりなく、安定した性格をお持ちのようなので、放射線を出す必要がない。 ここでようやく、放射性同位元素、放射性同位体(ラジオアイソトープ、radioisotope)という専門用語に 到達する。放射線を放出するトリチウムは、水素三兄弟、つまり水素の同位元素の中でも、放射線を放出す るため「放射性同位元素」として他の同位元素から区別される。 ちなみに、放射性同位元素のことを「RI」と略して呼ぶのは日本だけのようである。

放射性同位元素   –   ラジオアイソトープ  

hydrogen Deuteron Tritium 図 04-‐‑‒1   ⽔水素の同位元素(⽔水素三兄弟)と

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核種  

05  

このように、同じ元素でも異なる原子核を有する兄弟が増えてくると、元素の名前で呼ぶと見分けがつか なくなる。そこで、質量数と陽子数(=原子番号)によって区別した原子核の種類によりにより呼び分けるこ とにする。これを、核種という。例えば水素三兄弟はすべて水素元素の仲間だが、異なる核種ということに なる。 核種は元素記号と右肩の質量数で判別することができる。3H と標記されれば、水素の中でも質量数 3 のト リチウムを示す。また簡略化して、H-3 と標記しても通じる。 放射性同位元素は原子炉や加速器を用いて人工的に生成されるものが多いが、天然に存在するものもある。 これは、地球の誕生時に生成した放射性同位元素が、50 億年以上過ぎた今なお残り続けているものである。 それらも含めて、地球上では現在約 1700 種の核種が発見されているが、実はそのうち安定な核種は約 260 種 にとどまり、残りはすべて放射性核種(=放射性同位元素)なのである。例えばセシウム(Cs)にはこれまで のところ 39 種類の核種が知られているが、その中で安定な核種は Cs-133 のみである。 放射性同位元素の利用や管理の現場では、「使用核種は何ですか?」というように、核種という言葉はよく 目や耳にする。これは放射性同位元素の種類を聞いていることに等しい。

核種  

33

P

32

P

32

S

図 05-‐‑‒1   P(リン)が⾦金金太郎郎、S(硫硫⻩黄)が桃太郎郎、 質量量数を体重とすると、⾦金金太郎郎と桃太郎郎は別の⼈人(= 別の原⼦子番号)なので、体重は同じであっても別の 核種。同じ⾦金金太郎郎(=同じ原⼦子番号)でも、体重が 違っていると、別の核種。左の例例はすべて別の核種 で、そのうち P-‐‑‒32 と P-‐‑‒33 が放射性核種。  

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原⼦子核の不不思議  

06  

なぜ放射性同位元素は放射線を出すのか。それは原子核内のストレス発散のためだ。ストレスをエネルギ ーと言い換えると、お馴染みの「核エネルギー」という言葉になる。まさしく、放射性同位元素は、核エネ ルギーを放射線という形で放出しているのである。ではなぜ原子核内にエネルギーがあるのか。 原子核の中にはプラスの電荷を持った陽子と、電荷を持たない中性子が存在する。それでは電荷のバラン スが保てないため、核内では巨大な電気的な反発力(クーロン斥力)が生じているはずである。この反発力 を押さえ込み、原子核のパッケージングを可能にしている力は核力と呼ばれ、日本のお家芸である中間子と 呼ばれる陽子や中性子よりもなお小さい素粒子群が重要な役回りを演じている。 この核力こそが核エネルギーの本体と考えていい。その大きさを数字で表現してみると、質量数 4 のヘリ ウム(4He)の原子核には陽子が 2 個、中性子が 2 個入っているが、それぞれの単体の重さを合算すると 6.6950 x 10-27kg になる。ところが実際のヘリウムの原子核の重さは 6.6447 x 10-27kg であり、単体の合算分よりも 0.0503 x 10-27kg だけ少ない。これは質量欠損と言われ、すべての質量を持ったものはエネルギーであるとす るアインシュタインの特殊相対性理論 E=mc2に代入すると、4.527 x 10-12J が導き出される。これが4He の原 子核 1 個当たりの核エネルギーの大きさである。 原子核はそもそも不安定なものであり、核力によってなんとか安定性を保っているように見えるが、実は 原子核はより安定な状態を求めて、過剰な反発力、すなわち過剰なエネルギーを放出しようとしている。そ のエネルギーが放射線という形で放出され、原子核は崩壊して安定な原子核に変化する。このような性質を 持った原子核が放射性核種、そのような原子核を有する元素が放射性同位元素である。このようにして、放 射線は原子核から放出される。これは原子核の自発的行為であり、そこに放射性同位元素がある限り、放射 線は放出され続けていることになる。

原⼦子核の不不思議  

図 06-‐‑‒1   陽⼦子と中性⼦子 は、陽⼦子同⼠士の電気的反発 ⼒力力(クーロン斥⼒力力)を核⼒力力 が押さえ込んで、トランク に詰め込まれている。   図 06-‐‑‒2   キャッチボール している 2 ⼈人はたとえ仲 が悪くても遠くに離離れら れない。ボールが中間⼦子、 2 ⼈人が陽⼦子と中性⼦子。  

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放射性壊変  

07  

放射性同位元素の原子核が放射線が放出すると、その原子核は別の原子核に変化する。すなわち別の核種 になる。この現象を放射性壊変という。放射性崩壊、ということもある。放出される放射線の種類は、この 壊変様式と密接に関係する。 α壊変 原子核からヘリウムの原子核(=α線)が飛び出す。陽子が 2 つ、中性子が 2 つ減った原子核に変化する。 β-壊変 原子核から陰電子(=β-線)が飛び出す。陽子が 1 つ増え、中性子が一つ減った原子核に変化する。 β+壊変 原子核から陽電子(=β+線)が飛び出す。陽子が 1 つ減り、中性子が一つ増えた原子核に変化する。 軌道電子捕獲 原子核が軌道電子を取り込む。陽子が 1 つ減り、中性子が一つ増えた原子核に変化する。 以上 3 つが代表的な壊変形式であるが、この壊変だけでは飽き足らず、まだ原子核が不安定な場合も多い。 そのときはまだ余っているエネルギーが電磁波として放出される。これがγ線放出である。 また、原子核が軌道電子にエネルギーを与え、原子から外に飛び出させることもある。これを内部転換 という

放射性壊変  

図 07-‐‑‒1   ⽩白雪姫が、ある原⼦子核。シンデレラ姫が別の 原⼦子核だとする。放射性壊変とは、⽩白雪姫が放射線を 出してシンデレラ姫に変化するようなもの。このとき、 壊変前の⽩白雪姫は親核種、壊変後のシンデレラ姫は娘 核種と呼ばれる。  

(10)

α

壊変  

08  

α壊変の例を示す。温泉でよく目にする「ラジウム」のうち、ラジウム-226 の原子核には陽子 88 個、中 性子 138 個が入っていて、α壊変を起こす。このとき原子核からはα線(=ヘリウムの原子核)が飛び出して きて、元の原子核の陽子と中性子は 2 個ずつ減ってそれぞれ 86 個、136 個になる。原子番号 86 の元素はラ ドンなので、これは質量数 222 のラドンの原子核である。 放出されたα線は物質の透過性が低いため、紙一枚でも止まる。なぜ透過性が低いか。そこには、α線の 有する 2 個の陽子、すなわち 2 個のプラスの電荷の存在が大きい。α線が物質の内部を通過するとき、α線 の周りには当然、物質を構成する原子が存在する。原子内の軌道電子はマイナスの電荷を持っているので、 α線と軌道電子は相互作用(接近)しやすい。それでも前には進まなければならないので、軌道電子をはぎ 取ってでも進もうとする。そんなことをしているうちにエネルギーを失ってしまい、もはや進めなくなる。 透過性も、そこで尽きる。 α線を放出する放射性同位元素(α核種、ということもある)で皮膚が汚染した場合でも、α線は皮膚表 面で止まるので、体内まで届くことはなく、健康影響も皮膚に限局される。しかし、α核種が体内に入った 場合には、その移動ルートに近接した組織臓器がすべてα線にさらされるので、影響は大きくなる。 α壊変は、質量数が 200 以上の放射性核種において多くみられる。

α壊変  

図 8-‐‑‒1   Ra-‐‑‒226 のα壊変の模式図。  

(11)

β

-‐‑‒

壊変  

09  

β壊変にはβ-とβ+の 2 つの壊変形式がある。まずβ-壊変から話を進める。水素 3 兄弟唯一の放射性核種 トリチウムの原子核は、陰電子を放出して陽子が 1 個増え、中性子が 1 個減る。質量数は変わらないが、原 子番号が 2 になるので、ヘリウムの原子核に変化する。このとき放出される陰電子がβ線と呼ばれる。 ここで奇異なことが 2 つあるかもしれない。1 つは、原子核から電子が出てくるとはどういうことか。原 子核の構成物質は陽子と中性子と中間子などで、電子といえば原子核の周りを周回している軌道電子しか聞 いていない。2 つに、電子はマイナスの電荷を持っているもので、わざわざ陰電子という必要はあるのか。 前者はこう考える。1 個の中性子が陰電子と陽子になり、この陰電子が飛び出して、陽子は残った。結果 として、中性子が 1 つ減り、陽子は 1 つ増え、陰電子が放出された。電荷的にはこれで折り合いがつく。 後者は、世の中陰があれば必ず陽があるということである。プラスの電荷を持った陽電子も存在する。寿 命が極めて短くすぐに消滅してしまうので普通は無視するが、実は陽電子は次の項、β+壊変の主役となる。 放射線の分野では、陰電子(electron)と陽電子(positron)はきっちりと使い分けるのである。 β-線は、紙のようなものは透過するが、アクリル板やガラス板で止まる。これもβ-線の有するマイナスの 電荷と、物質を構成する原子核や軌道電子との相互作用によってエネルギーを失うためである。ただ電荷の 絶対的な大きさは、陽子を 2 個持つα線ほど大きくないので、相互作用も弱く、α線よりも透過性は高くな る。それでも身体を透過するほどのことはなく、皮膚が汚染した場合も、影響はほぼ皮膚に限局される。 β壊変は放射性核種の質量数に関わらず、多くみられる。

β

-‐‑‒

壊変  

図 9-‐‑‒1   H-‐‑‒3 のβ-‐‑‒壊変の模式図。  

(12)

β

+

壊変  

10  

次にβ+壊変である。フッ素の放射性同位体である F-18 は、原子核から陽電子を放出し、自分は原子番号 の 1 つ小さい酸素の安定同位体 O-18 に変化する。これもβ-崩壊と同じように電荷で考えてみる。F-18 の陽 子 1 個が陽電子と中性子になり、陽電子が飛び出し、中性子が残る。結果として陽子が一つ減り、中性子が 一つ増える。 放出された陽電子は奇妙な運命をたどる。周囲に存在する陰電子(これは軌道電子でも何でもいい)とす ぐに 1 対 1 で合体し、電気的に中和されて、消えるのである。そして、両者の持っていたエネルギーは電磁 波として放出される。これを消滅放射線といい、同じ量のエネルギー(0.511MeV)を持った 2 本の電磁波が きっちり 180 度逆の方向に向かって直進する。電磁波は透過性が高いため、体内にある F-18 から発生する消 滅放射線は、体を突き抜ける。これを体外でつかまえれば、発生源となる F-18 の空間的な居場所を正確に割

り出すことができる。この原理を核医学診断に応用したものがPET(positron emission tomography)検査で

あり、近年急速に普及した。そのため、β+核種のことを PET 核種ということも多い。 β+壊変もさして珍しいものではなく、環境中の自然放射線の中にも、消滅放射線は検出される。

β

+

壊変  

図 10-‐‑‒1   F-‐‑‒18 のβ+壊変の模式図。  

(13)

軌道電⼦子捕獲と内部転換  

11  

不安定な原子核は、安定化するために自らの周囲を周回している軌道電子に手を出すことがある。軌道電 子捕獲では、軌道電子を原子核内に吸収し、陽子と電気的に中和する。その結果はβ+壊変の場合と同じく、 陽子が一つ減り、中性子が一つ増える。ここまでは放射線は放出しないが、この捕獲反応に続いて、原子核 からはγ線放出が起こり、娘核種の核外では特性X線(後述)が必ず発生する。 電子捕獲の逆に、原子核が軌道電子にエネルギーを与えることもある。軌道から離れられるだけのエネル ギーを受けた電子は、原子の外に飛んでいく。これを内部転換という。内部転換は、壊変してもまだ不安定 な状態が長く続いている原子核(核異性体という)が安定化するときに多くみられる。

軌道電⼦子捕獲と内部転換  

図 11-‐‑‒1   軌道電⼦子捕獲の模式図。I-‐‑‒125 の原⼦子核が軌 道電⼦子を原⼦子核内に吸収し、原⼦子番号の⼀一つ⼩小さい Te-‐‑‒125 に変化する。   図 11-‐‑‒2   内部転換の模式図。不不安定な状態が⻑⾧長く続い ている Tc-‐‑‒99m の原⼦子核が軌道電⼦子にエネルギーを与 え、原⼦子の外に⾶飛び出させる。γ線も放出し、安定な Tc-‐‑‒99 に変化する。原⼦子核の構成は変わらない。  

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γ

線放出  

12  

γ線は特別な壊変によって放出されるのではなく、壊変を起こしてもまだ原子核が不安定なときに放出さ れ、原子核のストレス発散の手段として、結構便利に使われている。 γ線の本体は電磁波である。電磁波はエネルギーを持った粒子が飛ぶのではなく、波のようにエネルギー が伝わるもので、一つの波の長さ(波長)と、その逆数になる単位時間当たりの波の数(周波数、振動数) でエネルギーの大小が決まる。波長が短い方が、周波数が高い方がエネルギーは大きい。電磁波で最も波長 の短い領域にあるものがγ線で、前項の消滅放射線もγ線と同じ領域にあり、次いでオーバーラップしつつ X線。いずれも電離放射線であり、それだけエネルギーが高いということである。電離放射線よりも波長が 長くなると光の領域、さらに長くなるとマイクロ波や電波の領域となる。 γ線は電荷をもたないので物質を構成する原子と電気的に相互作用せず、エネルギーも失いにくい。その ため透過性はα線やβ-線よりもはるかに高い。そして、エネルギーの高いγ線の方が、X線よりも透過性は 高い。これはγ線やX線から身を守るときの作法の違いに直結する。

γ線放出  

図 12-‐‑‒1   α壊変、β壊変、軌道電⼦子捕獲に伴う γ線放出の模式図。   図 12-‐‑‒2   電磁波を波⻑⾧長の短い順(周 波数の⾼高い順)に左から並べた漫画。 順に、宇宙放射線、γ線、X線、紫外 線、可視光線、⾚赤外線、マイクロ波、 電波。  

(15)

半減期  

13  

原子核の壊変によって親核種が娘核種にどんどん変化していくと、当然ながら親核種の数は時間とともに 減っていく。この減り方のスピードは核種によって違っていて、親核種の数が半分になるまでの時間を半減 期という。半減期が短ければ短いほど、減り方は早い。そして親核種の数が減るということは、放出される 放射線の量も減るということになる。言い換えれば、放射能は半減期にしたがって自然に減っていく。ただ、 計算上は半分半分の繰り返しなので、どこまで減ってもゼロにはならない。 半減期という考え方は、何かが減っていくときのスピードの表現方法に過ぎない。なので、ここまでの半 減期は、正しくは物理的半減期といわれる。化学物質が体内に入った場合、どんな物質でもそうだが、吸収、 分布、代謝、排泄というプロセスをたどる。最初に入った物質が体内から排泄されていくスピードも、半減 期によって表現できる。この場合は生物的半減期と呼ばれる。放射性核種が体内に入った場合は、物理学的 半減期と、生物的半減期の両方にしたがって体内の放射性核種の量が減少していく。これを実効半減期とい うこともある。

半減期  

図 13-‐‑‒1   物理理的半減期。半減期が 1 ⽇日だとす ると、明⽇日は半分、明後⽇日は 4 分の 1、明々後 ⽇日は 8 分の 1 に減る。   表 13-‐‑‒1   物理理的半減期の例例。  

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原⼦子核の外で発⽣生する放射線  -‐‑‒   X線    

14  

放射性同位元素の不安定な原子核が放射線(α線、β-線、β+線、γ線)を放出しストレスを発散して安定 になる、というのがここまでの話。だからすべて発生源は原子核の中となる。それに対して原子核の外で発 生するのがX線だ。 原子核から放射線が出てくる場合は、そこに原子核があれば、言い換えればそこに放射性核種=放射性同位 元素=放射性物質があれば、自動的に放射線は出ていて、これは防ぎようがない。それに対して、X線の場合 は、原子核の外で電子の絡んだカラクリが必要で、必ずしも自動的に出るというものでもない。「X線発生装 置」や「X線回折装置」といった機械的な仕掛けが使われることが多い。このような場合は、スイッチを入 れているときだけX線が出ている。 歴史的には、1885 年にレントゲン博士が世界で初めて発見した「放射線」がX線であった。1896 年にはウ ラン鉱山から放射線が発生していることが見いだされ、キュリー博士が第一号の放射性同位元素となるラジ ウムを発見したのは 1898 年のことである。その翌年からα線、β線、γ線の発見ラッシュとなった。 X線発生の主役は、高速の陰電子である。エネルギーの高いβ線といってもいい。この高速の電子が物質 にぶつかるとどうなるか。ミクロの世界では、高速の電子が物質を構成する原子に接近するとどうなるかと いうことになる。標的は 2 つある。1 つは原子核、もう 1 つは軌道電子である。このうちどちらが標的にな るかによって、発生するX線は異なってくる。前者は制動X線、後者は特性X線といわれる。

原⼦子核の外で発⽣生する放射線   –   X線  

図 14-‐‑‒1   X線は外から⾶飛んできた⾼高速の陰電⼦子が原⼦子核 や軌道電⼦子と相互作⽤用することによって発⽣生する。  

(17)

制動X線    

15  

高速の陰電子が原子に接近する。原子核は必ずプラスの電荷を持っている。それに対して陰電子はマイナ ス電荷である。したがって陰電子は加速しながらぐいぐいと原子核の方向に引き寄せられていく。しかし陰 電子が原子核に吸収されることはないので、陰電子はそのままの勢いで後ろ髪を引かれながら、すなわち減 速しながら離れていく。 エネルギー収支を考えると、加速されることによって陰電子が得たエネルギーが、その後の減速によって 余ってくる。この余剰分のエネルギーが電磁波として放出される。これが制動X線である。 それではこの高速の陰電子はどこから来るのか。一つはβ-壊変を起こす放射性同位元素で、特にエネルギ ーの高いβ-線の放出核種から飛んでくる陰電子は高速で、制動X線を発生しやすい。例えば、P-32 のβ線エ ネルギーは H-3 の 100 倍程度高いが、この P-32 を鉛エプロンを使って取り扱うと、β線は完全に遮へいされ るが、鉛の原子核と相互作用して発生する制動X線によって被ばくすることになる。 もう一つは電圧を負荷された金属フィラメントから飛び出してくる陰電子を加速することによって得られ る。陰電子の供給源(フィラメント=陰極)と、陰電子がぶつかる物質(標的=陽極)が真空中でセットにな っているのがX線発生装置の心臓部で、X線管といわれる。病院のX線撮影室で胸のレントゲンを撮るとき、 「はい息を止めて」といわれた次の瞬間には、背中の後方にあるX線管から照射された制動X線が背中から 体を透過しているのである。

制動X線  

図 15-‐‑‒1   制動X線の発⽣生機構。   図 15-‐‑‒2   胸部レントゲンでは背⾯面から制動X線を受ける。  

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特性X線    

16  

太陽を中心として地球やその他の惑星が一定の軌道を周回しているように、原子核の周りにも概念的に一 定の軌道がある。この軌道のことを電子殻といい、最も内側が K 殻、その外側が L 殻、さらにその外が M 殻 である。それぞれの殻を軌道とする電子の数は、2 個、8 個、18 個と決まっており、かりに内側の電子が何 らかの理由でいなくなると、必ず外側の電子がその空席を埋める。また、内側の電子の方が外側の電子より もエネルギーが低い。 そこに、高速の陰電子が接近し、内側の軌道電子と衝突したとする。衝突された電子は軌道から外れ、飛 び出していく。衝突した側の電子は、速度は落ちるものの、そのまま飛んでいく。お約束事として、空席に なった内側の殻は外側の殻から異動してきた電子が埋める。しかし、内側の電子でいる分にはエネルギーは 外側時代よりも少なく済むので、エネルギーが余る。これが電磁波として放出されたものが特性X線である。 高速の陰電子が原子核と相互作用するか軌道電子に衝突するかは確率的なもので、どちらかだけが起こる というものではない。したがって、通常は制動X線と特性X線は同時に生じていると考えていい。 また、A-01-11 で述べた軌道電子捕獲では、原子核が内側の軌道の電子を核内に取込み、軌道に空席がで きる。このときも外側の電子が空席を埋めるので、特性X線が発生する。一般に、軌道電子捕獲の場合はγ 線と特性X線が同時に生じている。 電子殻のエネルギーは原子核に固有のものなので、外殻エネルギーと内殻エネルギーの差に相当する特性 X線のエネルギーも、原子核によって決定される。逆にいえば、特性X線のエネルギーを測定すれば、原子 核の種類を知ることができる。これが蛍光X線回折の原理となる。

特性X線  

図 16-‐‑‒1   特性X線の発⽣生機構。  

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核分裂裂    

17  

原子核の内部には常に核エネルギーが存在していることは、A01-06 ですでに述べた。放射性核種では、壊 変によってこの核エネルギーが放射線としてチョロチョロと原子核から放出されることもA01-07 で触れた。 が、もし原子核が真二つに割れてしまえば、この核エネルギーが一気に飛び出すことになる。これが実際に 起こるのが、核分裂(nuclear fission)である。原子番号が大きくなると、陽子間のクーロン斥力も大きくな り、原子核はより不安定になる。まさに一触即発の状態である。そして一般には中性子の原子核への吸収が 引き金となり、重い原子核が 2 個以上の原子核に分裂する。原子核が分裂すると、核分裂生成物といわれる 放射性核種と中性子、そして巨大な核エネルギーが電磁波、光、熱、物理的な力として放出される。このう ち、中性子が隣の原子核に吸収されると、新たな核分裂を引き起こす。このような連鎖反応が成立した状態 を臨界という。 重く不安定な原子核であれば、どのようなものでも核分裂の可能性があるが、特に不安定で中性子の吸収 によって核分裂を起こしやすいものを核分裂物質という。ウラン 235 とプルトニウム 239 が代表的である。 これらの原子核の核分裂生成物には、ありとあらゆる放射性核種が含まれるが、特に質量数 140 程度と 90 程 度の原子核が多い。前者には Cs-137 や I-131、後者には Sr-90 などがある。東京電力福島第一原子力発電所 事故でも騒がれた核種である。 このウラン−235 やプルトニウム-239 による核分裂を一気に誘導し、瞬時に臨界に達して巨大なエネルギー を環境中に放出するものが原子爆弾、臨界を制御しながら一定の熱エネルギーを取出すのが原子力発電とい うことになる。

核分裂裂  

図 17-‐‑‒1   核分裂裂の模式図。発⽣生する巨⼤大エネ ルギーのうち熱エネルギーによって⽔水蒸気を 発⽣生させ、タービン発電を⾏行行うのが原⼦子⼒力力発 電。爆⾵風と熱線による破壊兵器が原⼦子爆弾。い ずれの場合にも、放射線と核分裂裂⽚片(放射性核 種)が⽣生成する。  

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放射線と物質の相互作⽤用 - 電離離と励起    

18  

これまで述べてきたような放射線が、物質に入射すると、どうなるか。これも、物質を構成する原子との 関係で考える。放射線は物質に何かを起こすとともに、実は物質からも放射線は作用を受ける。つまり放射 線は、物質の中を相互作用しながら進んでいく。代表的な相互作用が、電離と励起である。 電離は英語ではionization、すなわちイオン化のことである。放射線との相互作用によって軌道電子が 1 個 飛び出して自由電子となると、マイナス電荷が 1 つ減るので、原子としてはプラスにイオン化する。すなわ ちイオン化した原子と自由電子の間でイオン対が形成されることになる。イオン化した原子は、次に安定化 するために周りのマイナスに荷電した原子、分子を攻撃する。自由電子も同様に、他の原子に干渉する。そ のようにして分子間構造が変化していく。 励起は英語ではexcitation、まさしく興奮するのである。放射線との相互作用によって、軌道電子が飛び出 すところまではいかなかったものの、飛び出す寸前まで興奮した。量子化学的には、安定なときを基底状態、 エネルギー準位が上がっているときを励起状態と称する。いつまでも励起しているわけにはいかないので、 基底状態に戻るためにエネルギーが放出される。このエネルギーが周りの原子、分子に作用する。このよう にして分子間構造が変化する。 では、なぜ放射線は電離や励起を引き起こすのか。α線やβ-線のような荷電粒子の場合は考えやすい。α 線はその強力なプラス電荷によって、クーロン引力で軌道電子をはぎ取るように奪っていく。逆にβ-線は、 クーロン斥力によって軌道電子を追い出そうとする。 電磁波の場合は、そう単純ではなく、電磁波のエネルギーによっていくつかのパターンに分類される。次 項から説明する。

放射線と物質の相互作⽤用   -‐‑‒   電離離と励起  

図 18-‐‑‒1   電離離と励起の模式図。荷電粒粒⼦子の場合は軌道 電⼦子との相互作⽤用が引き⾦金金となる。  

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光電効果とコンプトン散乱    

19  

X線やγ線の電磁波の場合も軌道電子が第一標的となり、そのエネルギーが軌道電子に与えられる。電磁 波はそこで消滅する。軌道電子は一定の結合エネルギーを持っているが、結合エネルギー未満のエネルギー を受けたのであれば、単に励起状態に移り、また基底状態に戻る。もし結合エネルギー以上のエネルギーを 受けると、軌道電子は外に飛び出す。これを光電子(photoelectron)、この現象を光電効果という。飛び出た 光電子は別の原子の電離、すなわち二次イオン化を引き起こす。一方、飛び出た内殻の軌道電子の席を埋め るために、外殻の電子が移動してくる。このとき、A01-16 で述べた特性X線が発生する。 電磁波のエネルギーが大きいと、軌道電子にエネルギーを与えてもまだ消滅することはなく、少しエネル ギーは減る(波長が長くなる)ものの、まだまだ散乱していく。これがコンプトン散乱である。 このように、電磁波は粒子線のようにクーロン力で軌道電子と相互作用することはないが、軌道電子にエ ネルギーを与えることによってイオン化を引き起こし、分子間構造を変化させる。

光電効果とコンプトン散乱  

図 18-‐‑‒1   光電効果。⾶飛び出した光電⼦子は電磁波のエネル ギー(hν)から結合エネルギー(Eb)を差し引いた量量のエ ネルギーを持って次の電離離(⼆二次イオン化)に向かう。   図 18-‐‑‒2   コンプトン散乱。⾶飛び出した光電⼦子は電磁 波のエネルギー(hν)から散乱後の電磁波のエネルギ ー(hνʼ’)を差し引いた量量のエネルギーを持って次の 電離離(⼆二次イオン化)に向かう。散乱線も次のコンプ トン散乱へ。  

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電⼦子対⽣生成    

20  

電磁波のエネルギーが 1.022MeV よりも高いと、その標的は軌道電子ではなく原子核となり、衝突によって 電磁波と原子核は消滅し、一対の陽電子(0.511MeV)と陰電子(0.511MeV)が生成する。これが電子対生成 である。1.022MeV を超えた部分の余剰エネルギーは、電子の運動エネルギーとなる。 陰電子は他の原子の二次イオン化に向かう。一方の陽電子は、A01-10 で述べたように、すぐさま周囲の陰 電子と反応し、消滅放射線として消えていく。 A01-18 からこの項までをもう一度眺めてみると、物質に入射した放射線が荷電粒子であっても、電磁波で あっても、物質との相互作用によって二次的に電磁波と荷電粒子が発生し、次の入射を起こす。このように して生み出された複数の放射線による複合的な作用が、放射線の影響の基礎となる。

電⼦子対⽣生成  

図 20-‐‑‒1   電⼦子対⽣生成。電磁波と原⼦子核が相互作⽤用し、2 つの 電⼦子が⽣生成される。  

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放射線の単位   eV    

21  

放射線は五感に感じないので、この程度の長さね、この程度の暑さね、この程度の明るさね、のような体 感的な定量化ができない。そのため、この感じないものを感じてくれる機器、すなわち測定器の示す数値が 唯一絶対的な尺度となる。絶対的となれば、放射線は「空間を流れるエネルギー」であることから、エネル ギー量が絶対的基本的単位となる。 そのエネルギー単位が電子ボルト(eV)である。1eV は 1 個の電子が 1 ボルトの電圧で加速される時のエ ネルギー量と定義される。粒子線の場合には電子や陽子、中性子、電磁波の場合には光子(量子単位)が持 つエネルギーが、この eV を使って示される。例えば、H-3 から放出されるβ線(陰電子)のエネルギーは 0.0186MeV(1MeV は 106=100 万 eV)である。また Cs-137 もβ壊変を起こすが、その時に飛び出すβ線(陰電 子)のエネルギーは 0.514MeV、γ線(光子)のエネルギーは 0.662MeV である。106eV オーダーと聞くとたい へん大きく感じるが、一般的なエネルギーの単位である J(ジュール)に換算すると、1eV=1.602×10-19J な ので、むしろ絶対的なエネルギー量としてはたいへん小さい。 医療や工業でよく用いられるX線の場合も、この eV を使ってX線の線質が語られ、光子エネルギーが約 2keV 以下のものを軟X線、20keV 以上のものを硬X線という。エネルギーが低ければ物質に吸収されやすく、 高いと物質の透過性も高くなる。また、放射性核種から放出される放射線のエネルギーは、それぞれの核種 に固有のものなので、エネルギーが分かれば逆引きして核種も推定できる。つまり、eV は放射線や放射性核 種のキャラを示しているとも言える。 ただ、ごく普通に放射線を扱う際にあまりこの eV を使うことはない。なぜならば、この量のエネルギーを 持った放射線が、どれだけ物質に照射されるのか、ということがより重要になるからだ。この「どれだけ」 を放射線量、通常は略して線量という。次に線量の単位を説明する。

放射線の単位   eV  

図 21-‐‑‒1   個々の放射線の持つエネルギーは eV であ らわす。放射線を受ける物質側から⾒見見て、そのエネル ギーを持った放射線を受ける量量を線量量という。  

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放射線の単位   Gy      

22  

物質は入射してきた放射線と相互作用を起こし、放射線からエネルギーを吸収する。このエネルギーを吸 収線量といい、単位はグレイ(Gy)で表される。1Gy は 1kg の物質が 1J のエネルギーを吸収する時の放射線 量と定義される。 1Gy = 1J/kg この吸収線量が、実際に測定できる放射線の線量、すなわち物理量の基本単位であるが、物質が異なれば 吸収率も異なるため、正しくは物質を明記する必要がある。環境放射線を測定する場合は空気吸収線量、放 射線の医療利用の場合は、組織、臓器吸収線量となる。例として、表 22-1 に全国各地の大地および大気の自 然放射線核種からの空気吸収線量率、表 22−2 には単純X線撮影時の患者の組織吸収線量を並べた。 さて、この単位グレイを用い、吸収したエネルギーの量で健康影響の程度を語ることができれば事は単純 なのだが、残念ながら放射線の種類や、被ばくする組織、臓器によって影響の出てきかたは違ってくる。そ のため、そのような違いを補正した別の単位を考える必要がある。それが次項に述べるシーベルトである。

放射線の単位   Gy  

表 22-‐‑‒1   ⽇日本各地の空気吸収線量量率率率。基盤岩⽯石の違 いにより、2 倍程度度の差が⾒見見られる。(原⼦子⼒力力安全研 究協会、新版⽣生活環境放射線、平成 23 年年 12 ⽉月)   表 22-‐‑‒2   単純撮影時の組織吸収線量量。例例えば胸部レントゲンでは乳腺の 0.09mGy が 最⼤大となる。(草間朋⼦子ら、放射線防護マニュアル第 3 版、平成 25 年年 4 ⽉月)  

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放射線の単位   Sv      

23  

放射線の健康影響を語る線量の単位はシーベルト(Sv)である。東京電力福島第一原子力発電所事故以来 有名になったこの単位は、吸収線量に放射線加重係数、さらに組織加重係数を掛けることにより得られる。 表 23-1 に示すように、放射線加重係数は放射線の種類によって決まる。陽子、中性子、α粒子(ヘリウム の原子核)など、重い粒子の方が加重係数は大きくなる。同じ 1Gy の吸収線量であっても、α粒子やもっと 重い原子核は、γ線やβ線の 20 倍の影響があることになる。これは生体を構成する分子との相互作用の大き さによるものと考えていい。このように、被ばくした組織・臓器において放射線加重係数により吸収線量を 補正した線量を等価線量(equivalent dose)という。 等価線量(Sv) = 吸収線量(Gy) × 放射線加重係数 次に、放射線を受ける組織の放射線感受性の違いを補正する。そのための組織加重係数を表23-2 に示す。 全身を 15 の組織・臓器に分割し、それぞれに対しての係数が示されている。これらの組織・臓器における等 価線量×放射線荷重係数の総和は全身に対する影響を示すものとなり、実効線量(effective dose)という。 例えばすべての組織が均等に 1.0Sv の等価線量を受けた場合、実効線量は 0.12×6+0.08+0.04×4+0.01× 4=1.0Sv となる。不均等被ばくでは組織による等価線量の高低が生じるので、同じ 1.0Sv の等価線量であっ ても実効線量は 1.0Sv よりも小さくなる。 実効線量(Sv) = 15 の組織・臓器の総和(等価線量(Sv)× 組織加重係数)

放射線の単位   Sv  

表 23-‐‑‒1   放射線加重係数。光⼦子と電⼦子では吸収線量量 と等価線量量は等しくなる。中性⼦子の場合はエネルギー により係数が変動する。(ICRP-‐‑‒国際放射線防護委員 会-‐‑‒  Publication  103)   表 23-‐‑‒2   組織加重係数。*副腎、胸郭外領領域、胆嚢、 ⼼心臓、腎臓、リンパ節、筋⾁肉、⼝口腔粘膜、膵臓、前⽴立立 腺、⼩小腸、脾臓、胸腺、⼦子宮   **すべての組織・臓器の係数の総和は 1 になる   (ICRP  Publication  103)  

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Gy と Sv の使い分け      

24  

Gy は物理量であり測定可能な吸収線量の単位、Sv は放射線の人体影響における放射線の種類や被ばくした 組織・臓器による違いを補正した線量の単位で、局所影響を語る場合には等価線量、全身影響を語る場合に は実効線量となる。 人体影響と言っても、いろいろある。どの影響に着目するかによって、線量と影響の大きさの関係は違っ てくる。等価線量と実効線量は放射線防護のために考え出された線量で、いろいろある人体影響の中でも、 最も注意すべき影響である発がんと遺伝的影響を指標としている。この 2 つは確率的影響といわれ、どんな に低い線量でもリスクがあると考える。これら以外は確定的影響といわれ、白血球の減少、脱毛、火傷様の 損傷、不妊などが代表的で、ある線量を超えてから発現する。 また、Sv を算出するために用いる放射線加重係数と組織加重係数は放射線防護上重要な 100mGy 程度以下 の線量に対して適用するもので、それを超える高線量域では適用されない。一方、確定的影響が発現するの は 100mGy 以上の線量域においてのみである。 したがって、同じ健康影響であっても、確率的影響を語るときは Sv、確定的影響を語るときは Gy を用い ることが正しい。また、医療放射線における患者の被ばく線量の場合には、その線量域が数 10mGy から数 10Gy まで極めて幅広く、しかも放射線加重係数が 1 であるX線またはγ線を主として用いるため、通常は Gy が用 いられる。医療被ばくが Sv で語られるのは、自然放射線による被ばくなど他の線源との比較を分かりやすく 表現する場合のみである。 放射線防護上の諸計測値、例えば環境中の放射線量や、放射線業務従事者の被ばく線量、さらに事故時に おける一般住民の被ばく線量評価などでは確率的影響のリスクを示す必要があるので、実効線量 Sv を用いる。

Gy と Sv の使い分け  

表 24-‐‑‒1   ⽇日本各地の実効線量量率率率。表 22­−1 から換算 したもの。環境放射線量量は Sv で表すことが多い。(原 ⼦子⼒力力安全研究協会、新版⽣生活環境放射線、平成 23 年年 12 ⽉月)  

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放射能の単位   Bq      

25  

放射線は空気中を流れるエネルギーで、放射性同位元素から放出されるものも、放射線発生装置により作 られるものも、すべて放射線は放射線である。それに対して、放射能は放射性同位元素の「放射線を放出す る能力」を表すもので、単純には放射性同位元素の量を示すと考えていい。単位はベクレル(Bq)である。 試薬や薬品の量はたいてい重量や容積やモルで示されるが、放射性同位元素の場合は Bq を使ってその量をあ らわす。 放射性核種は壊変(disintegration、decay)ごとに放射線を出すので、壊変数を使えば放射線を放出する 能力がわかる。Bq とは、1 秒間あたりの壊変数(disintegration/second、dps)と定義される。 放射能(Bq) = 壊変数/秒 = dps この単位を使って体内の自然放射能をあらわすと、K-40 が男性で約 4,000Bq、女性では約 3,000Bq 存在す る。食品中の Cs-137 の濃度基準値は 100Bq/kg である。試薬として放射性同位元素を購入する場合には、 1.85MBq(185 万 Bq)、3.7MBq(370 万 Bq)程度、医薬品として投与する場合には GBq(10 億 Bq)のオーダー になる。この 1.85 や 3.7 は、過去に使われていた古典的単位であるキュリー(Ci)の名残で,

1Ci = 3.7×1010Bq であったことに由来する。すなわち 1.85MBq は 0.05mCi、3.7MBq は 0.1mCi という歯切れ

の良い数字だったわけである。

ここで放射能(Bq)から放射線量(Gy、Sv)への変換を考えてみる。放射線量の原点はエネルギーであり、

エネルギー(eV)が核種により異なることはA01-21 で説明した。したがって、Bq と Gy、Sv の関係もまた、

核種により異なることになる。表25-1 には、いくつかの核種における Bq→Sv の換算係数(実効線量率定数) を示した。

放射能の単位   Bq  

表 25-‐‑‒1   実効線量量率率率定数。*それぞれの核種が 1MBq の点線 源として存在した場合の、線源から 1m の位置における 1 時 間あたりの実効線量量率率率(μSv/h)を⽰示す。  

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⾃自然放射線と⼈人⼯工放射線  

26  

わたしたちの生活と放射線の関わりを考えてみる。まず思いつくのは病院かもしれない。胸部レントゲン や CT などの放射線診断を受けた経験のある人は多いだろう。これは制動X線(A01-15)。シンチグラフィー、

あるいは SPECT と言われると、γ線(A01-12)。PET 検査はβ+線と消滅放射線(A01-10)。がんの放射線治療

になると、高エネルギーのX線、γ線、陽子線、さらに炭素の原子核のような重粒子線が用いられる。この ように放射線は診断と治療の両面に使われている。 放射性同位元素で標識した化合物を、そこから出る放射線を測定しながら追いかけるのがトレーサー実験 だ。生体を構成する DNA なら P-32 で標識したヌクレオシド、タンパクなら S-35 で標識したアミノ酸や I-125 で標識したペプチドなど、用途に応じた標識化合物が合成され、1990 年代の DNA の塩基配列決定や遺伝子発 現定量技術の爆発的広まりを支えた。放射線は検出感度が高いので、生体分子の微量な変化も見逃さず検出 することができることが、生命科学研究領域で放射性同位元素を用いる最大の利点である。材料工学の研究 分野では、特性X線(A01-16)は元素分析の大きな武器として使用されている。 原子力発電は核分裂(A01-17)の際に発生する巨大なエネルギーのうち、熱エネルギーによって水を沸騰 させて生じた水蒸気で発電機のタービンを回し、電気を発生する。水蒸気で物を回すところは、産業革命の 頃の蒸気機関船と原理的には代わらない。ただ、核分裂に伴い生成する多くの放射性核種が放射性廃棄物と して蓄積されていくのが厄介なところである。 以上のような放射線は、人工放射線、すなわちいずれも原子炉や加速器を使って人工的に製造した放射性 同位元素、および放射線発生装置によって生成するものである。病院にも放射線を使った研究所にも原子炉 にも行かない普段の生活で被ばくを意識することはないし、実際被ばくもしない。それに対して、地球上ど こにいても避けられない放射線がある。それが自然放射線といわれるものだ。その内訳は次項で説明するが、 ポイントは一つ、自然放射線であっても人工放射線であっても放射線である限り性質は同じ、ということで ある。自然放射線の方が安全であるとか、医療放射線は人工でも安全だとか、そういうことは一切ない。

⾃自然放射線と⼈人⼯工放射線  

図 26-‐‑‒1   PET/CT 複合機。PET による⽣生体機能情報と CT による ⽣生体構造情報をまとめて知ることができる。(⻑⾧長崎⼤大学病院)  

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⾃自然放射線の線量量  

27  

自然放射線はどこにいても避けることができない。なぜか。そもそもこの地球が生まれた約 50 億年昔、地 球を構成している元素には多くの放射性同位元素も含まれていた(=原子放射性核種)。これらはその半減期 に伴い減衰してきたが、半減期が長いものは未だに存在し、放射線を出し続けている。我々は大地からこの 放射線を受け続けている。一方、巨大な核融合工場である太陽や、銀河系のその他遠く離れた恒星群からも 地球まで放射線が届いている。これらを宇宙放射線という。宇宙放射線が大気中の分子と相互作用すると、 二次的な宇宙線も生成する。これらすべて、避けられない。このような体の外から受ける放射線量(外部被 ばく線量)は、合わせて年間で 0.87mSv になる。 大地、すなわち地球の基盤岩石中に存在する原子放射性核種は、長い半減期でゆっくりと壊変して別の放 射性核種になり、さらに壊変を何度も繰り返し、最終的に安定な原子核になる。これが岩石中のみならず、 微量ながらも土や砂を含む建材中でも起こっている。例えば半減期 45 億年のウラン 238 から始まる壊変系列 の場合、その道中にある Rn(ラドン)-222 は、ガス状で存在するので、生成して間もなく岩石や建材からガ スとして抜け出す。したがって、屋内には必ず一定量の Rn-222 が存在していることになる。我々は室内空気 に含まれるこの Rn-222 を吸入している。また、食物に入っているカリウム(K-39)には、その放射性同位体 である K-40 が 0.0117%含まれているので、一定量の K-40 を経口摂取している。このような体内に入った放 射性同位元素から受ける放射線量(内部被ばく線量)は、合わせて年間で 1.65mSv である。 ということで、外部被ばく、内部被ばく合わせて自然放射線からの被ばく線量は年間で 2.42mSv に達する。 このように、放射線や放射能は、あるか、ないか、で判断してはいけない。自然に受けているものを除いて、 どの程度あるのか、という定量的な見方が必要である。

⾃自然放射線の線量量  

図 27-‐‑‒1   地球上における⾃自然放射線の内訳。宇宙に出れば宇宙線 が⼤大きくなり、地底では⼤大地線量量が⾼高くなる。⽯石でできた家や密 閉性の⾼高い家では空気中ラドン濃度度が多くなる。⾷食物から摂取し た K-‐‑‒40 は筋⾁肉に蓄積するので、⼀一般に男性の⽅方が⼥女女性よりも体 内放射能は⾼高い。  

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天然の放射性壊変系列列  

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前項で半減期 45 億年のウラン 238 から始まる壊変系列を例に出したが、それ以外に半減期 140 億年のトリ ウム 232、半減期 7 億年のウラン 235、半減期 214 万年のネプツニウム 237 から始まる天然の放射性壊変系列 が知られている。この 4 つの壊変系列が大地からの主要な自然放射線源で、順に、ウラン系列、トリウム系 列、アクチニウム系列、ネプツニウム系列という。 ちなみに、ラドン温泉、トロン温泉は、それぞれ Rn-222、Rn-220 を放射性泉としての線源とする。水にも 溶存しているが、ほとんどはガス状で存在する。そのため、ラドンやトロンの効能を得るには、窓を閉めた 室内浴場で空気を多く吸入することが好ましい。露天風呂にすると空気中に拡散するので全く意味がなくな る。

天然の放射性核種を含む物質をNORM(Naturally Occurring Radioactive Materials)という。NORM は放射

性物質としての規制対象外であるため、製造過程で混入しても問題にはならない。そのため、ウランやトリ ウムは一般商品にも使用されており、代表的なものに燃費向上剤と消臭剤がある。マイナスイオン効果を謳 うブレスレットなどの健康グッズに含まれていることもある。どうやら、いずれも効果、効能は定かではな いもののようである。

天然の放射性壊変系列列  

図 28-‐‑‒1   ウラン系列列。U-‐‑‒238 は半減期 45億年年でα壊変し、Th-‐‑‒234 になり、さらに Pa-‐‑‒234、U-‐‑‒234...と進み、Ra-‐‑‒222 になったとこ ろでガスとして空気中に漏漏出する。その後も壊変は進み、最終的 に Pb-‐‑‒206 になり安定化する。空気中のラドンはホコリに吸着し やすいので、換気のあまりよくない部屋で、掃除機で 30 分程度度集 塵すると、バックグラウンドを優に超える放射線が検出される。   238U 4.5x109y 234Th 24 d α" 230Th 7.5x104y α" 226Ra 1.6x103y α" 222Rn 3.8 d α" 218Po 3.1 m α" 234Pa 1.2 m 6.8 h β" 234U 2.5x105y β" 214Po 164μs 210Tl 1.3 m α" β" !  ! !  ! !  ! !  214Pb 26.8 m α" β" α" 206Hg 8.2 m 210Bi 5 d β" 206Pb β" α" α" 214Bi 20 m β" β" 218At 1.5 s α" 210Pb 22.3 y β" 206Tl 4.2 m 210Po β" α" 138 d

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トリウムレンズ  

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怪しいものの多い NORM(Naturally Occurring Radioactive Materials)含有製品の中で、トリウムレン ズは例外だ。アトムレンズ、とも、トリウムレンズ、ともいわれるこのカメラ用レンズは、トリウムを加え て屈折率を高めることにより、薄く、軽く、明るいレンズとして 1950 年代から高級レンズに使われていた。 日本のメーカーも 1970 年代頃までは販売していたようである。

トリウムレンズ  

図 29-‐‑‒2   トリウムレンズの表⾯面ガンマ線量量率率率は 7.09μSv/h。 1 ⽇日で 1.7mSv、年年間で 621mSv に達する。   図 29-‐‑‒1   トリウムレンズの例例。酸化トリウムを含み、経年年変化により⻩黄変する。1970 年年代以前のレンズ で⻩黄変しているものは、トリウムレンズの可能性が否定できない。今でも着⾊色による光量量の変化以外はシ ャープな描写⼒力力を保っている。  

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⾼高⾃自然放射線地域  

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日本国内でも空気吸収線量率に 2 倍程度の開きがあることは A01-22 で触れたが、世界を見回すともっと線 量の高い地域が存在する。表1 にその代表的な地域を並べたが、日本の平均 50.9nGy/h の 100 倍以上の空気 吸収線量率を示す地域もある。これらのうち、イランのラムサールは泉水や石灰中のラジウム濃度が高く、 残りの地域は土壌がモナザイトを多く含む。このモナザイトにはトリウム系列の天然放射性核種が多く存在 する。 図 29-1 はインド、タミルナドゥ州の南端の海岸である。濃い色の海砂の部分にモナザイトが存在し、その 表面における実効線量率(図 29-2)は 18.57μSv/h、年間にすると 162.7mSv という数字になる。これは一般 公衆の線量限度の 162.7 倍に相当する。 このような高自然放射線地域住民の健康調査は、低線量率の慢性被ばくによる放射線の健康影響解明の手 がかりを与えるが、今のところ、有意な発がんのリスク上昇は確認されていない。

⾼高⾃自然放射線地域  

表 29-‐‑‒1   世界の⾼高⾃自然放射線地域。いずれも居住区域あるいはそ の近傍の海岸等。⼟土壌や⽔水が天然の放射性物質を多く含む。その ため建材からの放射線による屋内での放射線量量率率率も⾼高い。   18.57 µSv/h 162.7 mSv/y 図 29-‐‑‒1(左)-‐‑‒2(右)   インド、タミルナドゥ州南端部チ ンアビライ村の海岸線。この地域 から北北のケララ州まで、インド半 島⻄西海岸を約 200km にわたり、モ ナザイトを多く含む海砂が連続す る。  

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東京電⼒力力福島第⼀一原⼦子⼒力力発電所事故で起こったこと  

31  

2011 年 3 月 11 日に起こった東日本大震災と大津波に端を発した東京電力福島第一原子力発電所事故は、 日本人の記憶から消えることはないだろう。 原子力発電所では、原子炉内部で U-235 を原子燃料として核分裂させ、生じた熱エネルギーにより水蒸気 を発生させて別の建屋に送り込み、発電タービンを回している。核分裂は中性子捕獲能力の高いホウ素を含 む制御棒の出し入れによってコントロールされ、運転中は連続的に核分裂の起きる臨界状態が維持されてい る。この制御が効かなくなると核分裂を止めることができなくなり、原子炉は暴走する。そのため、核分裂 停止は緊急時の最重要課題である。地震後、これはうまく働き、核分裂は速やかに停止した。 原子燃料は燃料棒の中に詰め込まれているが、運転中の燃料棒中心の温度は約 1800℃、周囲の冷却水が約 300℃である。核分裂が停止しても、この高温は残る。しかも、核分裂生成物がさらに放射性壊変する際に、 放射線とともに熱も発生する。これを崩壊熱という。原子炉内を冷却し続けなければ、炉内の圧力は上昇し、 冷却水は干上がり、燃料棒は自らの熱で溶融する。外部送電線破壊と内部発電機浸水による電源喪失により 冷却機能が失われ、これらの現象が現実的なものとなった。 結果的に、燃料棒内部に封じ込められている核分裂生成物およびその壊変後の放射性核種が原子炉から建 屋に飛び出し、燃料棒に含まれているジルコニウム(Zr)が水蒸気と反応して発生した水素が酸素と反応し て水素爆発が生じ、建屋が吹き飛んだ。そして、環境中に大量の放射性核種が無制御のまま放出された。原 子炉内で生成する割合が大きい I-131 と Cs-134 および Cs-137 が代表的な核種である(A01-17)。 放出された放射性核種は、天候と地形の影響を受け ながら移動する。特に大量の放射性核種の放出が起こ った 3 月 15 日未明の 2 号機爆発直後の風向きは南方 向、午後からは西方向に変化した。その頃、降雨、降 雪も始まった。地表面の汚染が同心円の分布ではなく、 北西方向に分布しているのは、風向きと降雨のタイミ ングによるものである。

東京電⼒力力福島第⼀一原⼦子⼒力力発電所事故で起こったこと  

図 31   原⼦子炉の安全性を担保していた 3 つの機能のうち、 2 つが電源喪失によってあえなく崩れた。  

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医療療におけるX線と RI の違い   -‐‑‒   基本的性質と医療療応⽤用  

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病院ではX線という言葉を日常的に耳にする。放射線のことらしい。RIという言葉も聞くことがある。 これも放射線らしい。何が違うのか。 まずX線は数ある放射線のうちの一種で、その本体は電磁波。大きくは音や光や電波や電子レンジのマイ クロ波の仲間であると考えていい。そして基本的に、X線装置があって、スイッチを入れるとX線が出てく る。つまり人工的に作り出す。それに対してRI(ラジオアイソトープ)は水素、酸素、炭素などのような 元素の一種で、自然に放射線(α線、β線、γ線)を出して別の元素に変化する。放射能、とほぼ同義と考 えていい。 医療ではX線はお馴染みの胸部レントゲン、透視、造影、など、ほとんどの放射線診断で利用されている。 CTも正しくはX線CTである。がんの治療で使われるリニアック、ライナック、IMRT(強度変調放射線治 療)もX線が出ている。ただしがん細胞を退治しなければならないので、そのエネルギーも線量も診断用X 線よりも桁違いに高い。 RIを使った医療は、ずばり核医学のことである。ラジオシンチグラム(グラフィー)では体内に投与さ れ た 放 射 性 医 薬 品 か ら 出 て い る γ 線 を 体 外 の カ メ ラ で 捉 え る 。 こ れ を 三 次 元 的 に 行 う の が SPECT

(Single-photon emission CT)である。ポジロトン放出核種を投与して消滅放射線(A01-10)を体外から捉

えるのがPET(Positron emission tomography)。血液検査でも、RIを使って例えば甲状腺刺激ホルモンや

インシュリンなどの微量な生体物質を精度よく定量化する。これはラジオイムノアッセイと呼ばれる。治療 では、密封したRIを患部に挿入して至近距離で病変部を照射する密封小線源治療は、前立腺、子宮、口腔 咽頭など体外からアプローチしやすい組織のがん治療に利用されている。一方、非密封のRIを投与すると、 体内での通り道の組織に放射線が照射される。ヨウ素の体内で甲状腺に集積する性質を利用して I-131 のβ 線による甲状腺がんや甲状腺機能亢進症の治療(内照射治療)が行われている。甲状腺のみならず、転移し た甲状腺がん細胞にも I-131 は集まるので、有効性は高い。

医療療におけるX線とRIの違い   -‐‑‒   基本的性質と医療療応⽤用  

図 32   基本的性質と医療療応⽤用におけ るX線とRIの違い  

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放射線 MOOK A01 放射線の基礎

発⾏者:⻑崎⼤学原爆後障害医療研究所 放射線⽣物・防護学分野 ⻑崎市坂本 1-12-4

発⾏⽇:平成 29 年 3 ⽉ 31 ⽇ 印刷 :(株)インテックス

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