-105- 要 約 動物園が飼育展示動物を適切に健康管理する上で,動物衛生・公衆衛生対策は重要課題である。その対象は,飼育動 物のみならず,家畜,野生動物およびヒトに共通に感染する病原体に及ぶ。動物園では,自然界との完全な境界はなく, 感染症の園外からの侵入防止対策や予防医学プロトコールを含むバイオセキュリティ対策が日々実践されている。例え ば,北米の動物園の多くでウエストナイルウイルスの侵入以来,カのサーベイランスや防除は一般的な対策となってい る。一方,飼育動物の感染症を自然界へ拡散させない注意も必要である。また,動物園の敷地(zoo ground)内で野生 動物が保護されたり,死体が見つかったりすることがあるが,それらの検索はその地域の野生動物感染症のモニタリン グとリスクマネジメントにつながり,ひいては基本的な予防医学プロトコールの一部となる。実際に,2008 - 2009 年 冬に旭川周辺で発生したスズメ(Passer montanus)の集団死事例では,初発例が一動物園の敷地内で死亡した野生ス ズメ 1 羽で,その検索から始まったサーベイランスにより,死因がサルモネラ症の流行によるものと究明されている。 動物園は,今後,バイオセキュリティ対策と野生動物感染症のモニタリング機能のさらなる強化を目指し,ヒト,家畜 および野生動物の健康を支える生態学的健康(Ecological Health)を診断および維持する保全医学的機能を備えた野生 動物保全センターとしての発展が期待される。 キーワード:動物園,バイオセキュリティ,モニタリング,野生動物感染症,予防医学 -日本野生動物医学会誌 19(4):105-112,2014
動物園展示動物のバイオセキュリティとしての野生動物感染症のモニタリング
福井大祐
(日本野生動物医学会感染症対策委員会) 特定非営利活動法人 EnVision 環境保全事務所 〒 060-0809 札幌市北区北 9 条西 4 丁目 5-2 * 責任著者: 福井大祐 (E-mail: [email protected])序 論
近年,高病原性鳥インフルエンザ(HPAI)や口蹄疫などの 家畜の重要感染症が世界各地で発生し,野生動物が感染し,ヒ トや家畜に伝播しうる感染症の対策は,ヒトの健康と生活を維 持し,生物多様性を保全するために重要な課題となっている。 これらの野生動物感染症は,野生動物の生物学的移動(例;野 鳥の渡り),商業的な物流,人の移動,さらには人との関わり (例;餌付け)[1]に伴い,国境や種を越えて伝播し流行する 可能性があるため,それらの動向を含むリスクの評価と対策が 必要である。 一方,動物園・水族館(以下,動物園)では,希少野生動物 の種の保存を目的とした生息域外保全の場として,感染症のモ ニタリング(監視)とその脅威からの安全確保は最重要課題の 1 つとなっている[2-4]。動物園では,飼育展示動物の感染症 予防のための衛生管理,スタッフ・入園者の公衆衛生対策や国 内および国際間での飼育動物の移動と導入に伴う検疫などのバ イオセキュリティ対策が日常的に実践されている(図 1)[2-4]。 さらに,動物園は,野生動物の保全のため,飼育動物―野生動 物―家畜―ヒトの共通感染症に対し,『野生動物感染症情報ネッ トワーク』および『野生動物と家畜の共通感染症発生に対する 早期警報システム』の構築を目指し,より組織的な野生動物感 染症の防御に貢献できる可能性が指摘されている[5]。 また, バイオセキュリティ対策は,希少野生動物のリハビリ テーションや再導入など短期・長期的な飼育管理を含む保全計 画上も重要課題となっている[2,4]。 本稿では,動物園におけるバイオセキュリティ対策と野生動 物感染症のモニタリングの機能について,ヒト,家畜および野 生動物の健康を支える生態学的健康(Ecological Health)を診 断および維持する保全医学的観点から論じる。 なお,本特集は,日本野生動物医学会第 19 回京都大会にお いて,同学会感染症対策委員会が主催したシンポジウム「動物 園における展示動物の感染症とバイオセキュリティ最前線」に [2014 年 4 月 30 日受領,2014 年 11 月 4 日採択]基づいて企画された。本シンポジウムは,以下の講演者からの 話題提供で構成された。 1.「動物園・水族館における飼育動物の感染症対策について」 高見一利(大阪市天王寺動植物公園事務所) 2.「種の保存のための動物輸入時の検疫」 松本令以(横浜市立野毛山動物園) 3.「動物園展示動物における感染症の特徴とその対策」 宇根有美(麻布大学獣医学部)
4.「From Zoo grounds; 動物園展示動物のバイオセキュリティ としての野生動物の感染症モニタリング」 福井大祐(NPO 法人 EnVision 環境保全事務所,人と野生生物 の関わりを考える会) 5.「国際的な動物園ネットワークによる野生動物感染症の早 期警報システムの構築」 村田浩一(日本大学生物資源科学部,よこはま動物園ズーラ シア)
動物園とバイオセキュリティ
バイオセキュリティとは,何か? “The original definition of biosecurity started out as a set of preventive measures designed to reduce the risk of transmission of infectious diseases in crops and livestock, quarantined pests, invasive alien species, and living modified organisms.” と定義されてい る[6]。すなわち,バイオセキュリティとは,直訳すると「生 物学的安全確保」であり,農産物や家畜の感染症,検疫害虫, 侵略的外来種や遺伝子組換え生物等の伝播のリスクを軽減する ための予防措置を意味する。 動物園のバイオセキュリティは,動物と人の安全を守るため, 感染症をコントロールするためのプログラム全般を指す[7]。 その対象は,飼育展示動物のみならず,施設,飼育員,入園者, 飼料や野生動物,他に及ぶ。具体的には,日常的な感染症サー ベイランス,検疫,消毒,入園者・媒介動物の病原体持込み防 止対策(図 1),感染個体の早期発見・隔離,リスクコミュニケー ション・教育,職員の健康管理,飼育動物の健康診断・予防接 種などの予防医学プロトコールや病理検査などが含まれる。さ らには,地域ごとの外来病原体による感染症の発生事例への警 戒と防疫も含む。
病原体の生態と新興感染症
感染症を引き起こす病原体は,健全な生態系を構成すること も多く,通常はその一部となっている[2]。 長い年月を経てできた自然界のバランスを人類が破壊しなが ら環境を改変すると,従来の感染症と新興感染症の病原体は, 新しい宿主へ伝染し,新たな生態学的ニッチを占めるように なることがある[2,8]。例えば,1999 年,ウエストナイルウ イルス(WNV)が米国に侵入し,北米で飼育されていた鳥類, 有蹄類,海棲哺乳類,小型哺乳類およびは虫類に及ぶ免疫力を 持たない数多くの種でアウトブレイクした[9]。 1990 年代初めから,従来の感染症(狂犬病,結核,ブルセ ラ症,野兎病,HPAI,ペスト)と新興感染症[大型類人猿の エボラ出血熱,ハクビシン(Paguma larvata)の重症急性呼吸 器症候群(SARS),ゲッ歯類のサル痘,コウモリ類・オオコウ モリ類(Pteropodidae)のニパウイルス・ヘンドラウイルス感 染症,多種類の動物に及ぶ WNV 感染症]の報告が著名な科学 図 1 動物園におけるバイオセキュリティ対策の一例 a:口蹄疫の国内発生時(2010 年),動物展示場の人止め柵のさらに外側にロープを設置し,入園者の接近 を制限。 b:入園ゲートに設置された消毒マット。-107- 新興感染症および人と動物の共通感染症(zoonosis)の関連性 を調査したところ,ヒトの既知の感染症 1,415 種のうち 868 種(61%)が人と動物の共通感染症であった[10]。他の調査 では,335 種のヒトへの病原体は,わずか 60 年の間に出現し た新興感染症であり,これはヒトの感染症の 25% に相当し, うち 202 種(60%)が人と動物の共通感染症であった[11]。 さらに,144 種(43%)は,野生動物が主な感染源であった。 すなわち,野生動物の病原体がヒトの感染症の発生に新たな脅 威となっており,また家畜伝染病の重要な感染源にもなってい る可能性が指摘されている[12]。
動物園と新興感染症・人と動物の共通感染症
動物園の飼育健康管理,および野生動物の再導入やリハビリ テーションなど飼育管理を含む保全計画において,新興感染症 や人と動物の共通感染症が飼育個体群から外へ広がる,あるい は中に侵入するリスクはどれくらいあるのだろうか? 北米・ヨーロッパの野生動物飼育施設において,近年問題と なった,あるいは潜在的に問題となりうる新興感染症および人 と動物の共通感染症として,細菌 13,真菌 2,寄生虫 2,プ リオン 2,原虫 1 およびウイルス 20 種の病原体・疾病が文献 にリストアップされている[2]。国内の動物展示施設で,シ ベリアヘラジカ(Alces alces)のオウム病による飼育職員集団 感染[13, 14],展示鳥類のオウム病による職員と入園者の集 団感染[14, 15],またヒトでの感染は確認されていないが, 霊長類のエキノコックス症[16, 17],ニホンザル(Macaca fuscata) の 結 核[18], カ イ ウ サ ギ(Oryctolagus cuniculus var. domesticus)のエンセファリトゾーン症[4, 19]やコブ ハクチョウ(Cygnus olor)の HPAI[20]などの論文報告があ る。他に,学会発表やプレスリリースなどで公表された発生事動物園のバイオセキュリティ関連指針
野生動物の飼育施設は,多種多様な動物収集の際に,感染症 を持ち込むリスクがあり,そのバイオセキュリティ対策として 予防医学や輸送前検疫のプロトコールを備えておくべきであ る。 米国動物園水族館協会(AZA),米国動物園獣医師協会 (AAZV),欧州動物園水族館協会(EAZA)や欧州野生動物獣医 師会(EAZWV)などの数多くの専門機関が関連指針を示して いる[2]。予防医学の実践について,AZA 認定基準では,“獣 医学的な健康管理プログラムでは,感染症の予防対策を強調す べきであり,ワクチネーションと予防医学プログラムは,動物 の収集の際には必ず実施し,資格を持ったサポートスタッフ の指導の下で行わなければならない”,また “動物飼育施設は, AAZV が作成した獣医学プログラムのためのガイドラインに従 う”と推奨されている[21]。EAZWV の感染症ワーキンググルー プは,「感染症ハンドブック」[22]を刊行し,感染症の生態 や診断法などの解説に加え,推奨される消毒薬,法的問題,ア ウトブレイク後に感染症フリー状態を回復するための条件およ び検査機関の国別情報など標準的内容を越える情報源となって いる。AAZV の感染症対策委員会も,北米における同様な感染 症ハンドブックの編集を進めている[2]。 旭川市旭山動物園では,1994 年にエキノコックス症による ゴリラ(Gorilla gorilla)とワオキツネザル(Lemur catta)の 死亡を受け,感染経路として考えられたキタキツネ(Vulpes vulpes schrencki)の園内への侵入防止対策を始め,閉園して 徹底的に対策を講じた[17]。本事例は,後述の各種指針を含 む今日のバイオセキュリティ対策のあり方の手本となってい る。 表 1 国内の動物展示施設で休園対策が講じられた人と動物の共通感染症発生事例 感染症 動物種 発生報告年 文献番号 赤痢 チンパンジー(Pan troglodytes) 1978エキノコックス症 ゴリラ(Gorilla gorilla),ワオキツネザル(Lemur catta) 1994 16, 17 オウム病 シベリアヘラジカ(Alces alces) 2001 13, 14
オウム病 小鳥 2001 14, 15
結核 ホンシュウジカ(Cervus nippon) 2009
高病原性鳥インフルエンザ コブハクチョウ(Cygnus olor) 2011 20
オウム病 コンゴウインコなどの小鳥 2011
エルシニア症※ ジュウシマツ(Lonchura striata var. domestica)などの小鳥 2013 33 ※入場禁止区域の設定のみ
公益社団法人日本動物園水族館協会は,1999 年に感染症対 策委員会(2012 年に感染症対策部に改称)を設置し,情報収 集と加盟園館への情報提供活動を行っている[3]。その重点 目標として,①日常の衛生管理の徹底,②施設内への病原体侵 入防止,③感染症が発生した場合の迅速,適切な対応,情報公 開と風評被害防止=危機管理が掲げられている。2006 年 4 月, 「動物園・水族館動物の感染症ハンドブック」が作成された。 その後も改訂が重ねられ,加盟園館の感染症対策指針となって いる[23]。 2001 年,同協会非加盟の鳥類展示施設で職員と入園者を巻 き込むオウム病の集団感染[14,15]の発生を受け,厚生労働 省は「動物展示施設におけるヒトと動物の共通感染症対策ガイ ドライン 2003」[24]を作成した。現在,少なくとも加盟園館は, 当ガイドラインに準拠した感染症対策を実施している。
動物園の敷地(zoo ground)と自然界
動物園の敷地に自然界との完全な境界はない。例えば,動物 園内には,ノラネコ(Felis silvestris catus)が入園ゲートを通 過して,テン(Martes)が外周柵を跳び越えて,キツネが土 に穴を掘って,野鳥やハエ・カが空から飛んで,さらにはノミ やダニがこれらの動物に付着して侵入してくるおそれがある (図 2)。これらの園外から侵入する野生化家畜,野生動物や節 足動物は,飼育動物に対して病原体のレゼルボアあるいはベク ターとして潜在的に感染症を伝播する感染源となり得る。 国内の野生動物に由来する人と動物の共通感染症となり得る 病原体〈保有する野生動物〉は,エキノコックス〈キタキツネ〉 [25],野兎病菌Francisella tularensis 〈ニホンノウサギ(Lepusbrachyurus)〉[26],パラポックスウイルス〈ニホンカモシカ (Capricornis crispus)〉[27],トキソプラズマ[28],サルモ
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図 2 動物園の敷地内に外部から侵入する野生化家畜・野生動物・節足動物 a:動物園内を徘徊するノラネコ(Felis silvestris catus)
b:ペンギンの展示プールで餌を狙う野生サギ類(矢印)
c:タンチョウ(Grus japonensis)の展示場に餌を求めて群がる野生スズメ(Passer montanus) d:動物園近郊で保護後搬入された野生スズメの頭部に寄生していたダニの一種(矢印)
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由来のペット・家畜との共通感染症は,ジステンパー〈ホンド タ ヌ キ(Nyctereutes procyonoides viverrinus)[34, 35], ア ライグマ(Procyon lotor)[36]〉や疥癬〈タヌキ[37],キツ ネ[38],アライグマ[39]〉などの報告がある。 実際に,野生動物から動物園の飼育動物へ感染症が伝播した 事例として,ゴリラやキツネザルなどの霊長類のエキノコック ス症(キタキツネが媒介動物)[17]の他に,トラ(Panthera tigris)における犬ジステンパーの集団発生に野生タヌキが感 染源として考えられた報告がある[34, 40]。 また,動物園の敷地内で野生動物が保護されたり,死体が見 つかったりすることがある(図 3)。これらの検索は,その地 域に生息する野生動物による感染症リスクのベースラインを把 握することにつながり,ひいては飼育動物の基本的な予防医学 プロトコールの一部となる[1, 31]。実際,2008 - 2009 年冬 に旭川周辺で発生したスズメ(Passer montanus)のサルモネ ラ症による集団死事例では,初発例が動物園の敷地内で発見さ れたことで,動物園獣医師であった著者が飼育動物の衛生管理 のため病理検査を実施し,その後の続発例について一早く現場 調査の対応にあたり,死因究明に至った(図 3)[1, 31]。加えて, 動物園内の飼育動物の衛生管理対策のため,サルモネラのスク リーニング検査を実施し,バイオセキュリティ対策を強化した。
動物園による野生動物感染症のモニタリング
1999 年, 野 生 生 物 保 全 協 会(WCS) の 病 理 学 者 Tracey McNamara 博士は,米国初の西ナイル熱患者とニューヨーク の動物園の敷地内で連続する飼育鳥類の死を結びつけ,WNV の侵入を確認した[41]。 その後,McNamara 博士は,35 施設以上の動物園が参加する, WNV のサーベイランスネットワークの構築に尽力した[42]。 2001 年,AZA は,疾病管理センター(CDC)などと協力して 同ネットワークを運営し,北米の動物園のほとんどが WNV 対 策として,カのサーベイランス(捕獲,種同定や検査)や防除 を実施している。 国内の動物園でも,主にペンギン類(Sphenisciformes)の 鳥マラリア対策のため,カの同様な調査が行われている[43]。 また,HPAI の発生を契機に,野鳥の飼育舎への侵入防止対策 の見直しと強化がなされ,渡り鳥の動向に注意を払うようにも なった。 このように,動物園における野生動物感染症の病理学的検索 [40, 41],サーベイランスと対策を含む動物園獣医師の “OneWorld, One Health” の視点での飼育動物の健康管理を推奨した い。また,その先の将来展望として,国内外の動物園が連携を 強化し,より包括的かつ組織的なバイオセキュリティ体制の構 築がなされることを期待している。
おわりに
本稿で例示した一動物園のトラの犬ジステンパー集団発生例 では,17 飼育個体中 12 頭が発症,うち 3 頭が死亡している。 その感染源として動物園内に侵入した野生動物が考えられてお り,感染防御のために犬用ワクチンの接種試験が試みられてい る[40]。現在のところ,国内の動物園では,ネコ科動物の犬 ジステンパー感染を予防するため,犬用ワクチンの接種は一般 的には実施されていない。一方,AZA では,シベリアトラ(P. t. altaica)種保存計画においてワクチネーションプログラムの一 部として推奨されている。このような予防医学プロトコールの 検討は,種の保存を進める動物園において,希少動物のバイオ セキュリティ対策として今後ますます重要になる。 ヒトの新興感染症の発生頻度は,過去 60 年間で増加する 傾向にある[11, 12]。厚生労働省が 2003 年 4 月に「動物 展示施設におけるヒトと動物の共通感染症対策ガイドライン 2003」を公表してから 10 年以上が経過した。その後も,飼 育下および自然界の野生動物で問題となる感染症が新たに発生 しており,今後刷新して行く必要があるだろう。また,飼育管理・ 展示,環境教育および野生動物保護などについて規定を持って 運営している日本動物園水族館協会に加盟している動物展示施 設は少数であり,専任の獣医師を雇用していない施設が多いこ とから,日本国全体での関連施設に対するバイオセキュリティ 図 3 動物園の敷地内で死亡していた野生スズメ(北海道旭川 市,2009) 飼育展示動物の衛生管理のため病理検査を実施した結果, Salmonella Typhimurium を検出し,サルモネラ症と診断。園 内に飛来したスズメの糞便からも同菌が検出された。の強化を促す対策が求められる。 感染症を適切に管理するための要点は,①感染症の侵入防止, ②感染症の拡散防止,③感染症の根絶,にある。この要点に従 えば,例え新たな感染症が出現したとしても,実施するバイオ セキュリティ対策の本質と内容は大きくは変わらないものと思 われる。動物園における感染症対策の目標は,決して無菌空間・ 無菌動物を作り出すことではない。動物園獣医師の使命は,人々 が安全に動物観察・学習を楽しめるために,現行の法令に基づ き,日常的なモニタリングによる実態把握と防疫対策を科学的 に積極的に行うことである。飼育動物の病原体保有状況を把握 することなく,感染防御は達成し得ない。感染症に関連した症 例あるいは調査報告の多い動物園ほど安全な動物園であるとも 言えるかもしれない。 米国の動物園では,HPAI などの野生動物の重要感染症から 飼育個体群を守るため,リンカーンパーク動物園,AZA およ び米国農務省(USDA)の動植物検疫局アニマルケア(APHIS AC)が連携し,動物園動物保健ネットワーク(Zoo Animal Health Network;ZAHN)を構成してサーベイランスや防疫体 制の整備が行われている。国内でも,飼育個体群の感染症対策 のみならず,野生動物感染症のモニタリング,リスク管理およ びバイオセキュリティ対策のため,日本大学教授/よこはま動 物園ズーラシア園長の村田浩一博士が提唱する動物園や動物園 獣医師を活用した「国際的な動物園ネットワークを用いた野生 動物感染症の早期警報システムの構築」を進める意義が高まっ ている[44]。 結びに,McNamara 博士の言葉を紹介したい
“Zoos are the most overlooked long-term epidemiological monitoring stations in the United States and in the world today.”[41] 動物園は,バイオセキュリティ対策と野生動物感染症のモニ タリング機能のさらなる強化を目指し,ヒト,家畜および野生 動物の健康を支える生態学的健康(Ecological Health)を診断 および維持する保全医学的貢献に資することができる。
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On Zoo Grounds; Monitoring of Infectious Diseases in
Wildlife for Biosecurity Countermeasure and Health Management to Zoo Animals
Daisuke FUKUI
The Commission on Countermeasures to Infectious Diseases, Japanese Society of Zoo and Wildlife Medicine EnVision Conservation Office, 5-2 Kita9, Nishi4, Kita-ku, Sapporo, Hokkaido, 060-0809 Japan
[Received 30 April 2014; accepted 4 November 2014]
ABSTRACT
Zoos emphasize animal hygiene and public health countermeasures for good health management of captive animals. The target agents include pathogens infective to both zoo animals and livestock, wildlife, or humans. There is no complete border between on a zoo ground and natural environment. Therefore zoo biosecurity countermeasures including prevention from infectious diseases outside and preventive medicine protocols are practiced every day by zoo veterinarians and animal-keepers. For example, mosquito surveillance and control is common practice in most North American zoos since the introduction of West Nile virus. On the other hand, infectious diseases of captive animals should be prevented to spread out in natural environment. Investigation of injured wildlife and necropsies of the carcasses found on zoo grounds must be useful monitoring tools of wildlife diseases, and provide a baseline measure of the risk posed by local wildlife. Moreover these approaches should be part of the basic preventive medicine protocols where feasible at zoos. Actually, there is a case of Eurasian Tree Sparrow (Passer montanus) mortality in Hokkaido, winter 2008–2009, including an initial case found dead on a zoo ground, which was revealed caused by an epidemic infection with Salmonella Typhimurium. The initial case was diagnosed with salmonellosis by pathological examination for a preventive medicine program by a zoo veterinarian. Zoos can play an important role as a wildlife conservation center in monitoring and managing ecological health, which is supporting lives of humans, livestock, and wildlife, based on conservation medicine by conducting biosecurity countermeasures and monitoring of infectious diseases in wildlife.
Key words:biosecurity, monitoring, preventive medicine, wildlife diseases, zoos
- Jpn. J. Zoo. Wildl. Med. 19(4):105-112, 2014 *Corresponding author: