外国人の 「人間の尊厳に値する最低生活保 障を求める基本権」 をめぐる現況と可能性
ドイツ連邦憲法裁判所2012年7月18日判決を中心に 山 本 響 子
序
1 ドイツ最低生活保障制度の概要と外国人の取扱い 1. 1 外国人の滞在に関する法律
1. 1. 1 EU 自由移動法 1. 1. 2 滞在法
1. 2 最低生活保障制度と外国人の取扱い 1. 2. 1 社会法典第 2 編・第12編 1. 2. 2 庇護申請者給付法 1. 3 小 括
2 2012年 7 月18日判決とその分析 2. 1 2012年 7 月18日判決 2. 1. 1 事案の概要 2. 1. 2 判 決 2. 2 判決の分析
2. 2. 1 当該基本権の享有主体 2. 2. 2 立法裁量統制の方法 2. 3 小 括
3 2012年判決の限界と当該基本権の可能性 3. 1 2012年判決の限界
3. 1. 1 受給権者の範囲の限定に対する本判決の評価?
3. 1. 2 2015年の連邦社会裁判所判決と2016年改正 3. 1. 3 本判決の限界
序
本研究は、 外国人に対する最低生活保障( 1 )のあるべき姿について論じてゆく。
現在、外国人は生活保護法の適用対象ではない。行政措置に基づく保護の 対象になることはあっても( 2 )、法的な保護のもとにあるわけではないため、不 当な取り扱いに対する救済の途はほとんどない( 3 )。
1954年の生活保護法制定当初より、外国人の保護を認めない解釈に異議が 唱えられてきた( 4 )。しかしながら最高裁は現在に至るまで一貫して、外国人を 保護の対象に含めるか否かの決定を立法府の裁量に委ねている( 5 )。
「外国人の生存権」というテーマは近年、個別事例の検討における話の枕 として語られることはあっても、如上の立法府の裁量を統制する際の拠り所 として論じられることはない。しかし、立法裁量統制の観点から「外国人の 生存権」論を発展させる必要は大いにある。判例研究などによる個別事例の 検討だけでは対応不能なケースがあるであろうし( 6 )、立法府が自発的に外国人 の最低生活を保護する方向へと舵を切ることも考えにくいからである。
本研究ではドイツを対象として、外国人の最低生活保障を検討する。なぜ なら、ドイツにおいても最低生活保障の具体的形成にあたっては立法者に裁 量が認められているものの、近年、基本法によりその裁量を統制する試みが 連邦憲法裁判所によって行われており、上記の問題意識から見て参照に値す るからである。また、ドイツでは最低生活保障法の対象者に外国人が含まれ ており、さらには、上記裁量の統制の際に拠り所となる基本権が、外国人に も認められるという。本稿では、ドイツにおける外国人に対する最低生活保
3. 2 当該基本権がもつ可能性と今後の課題 3. 2. 1 当該基本権がもつ可能性 3. 2. 2 今後の課題
3. 3 小 括 結
障の現況を概観( 1 及び 2 )したうえで、連邦憲法裁判所が述べた「人間の 尊厳に値する最低生活の保障を求める基本権」がもつ可能性を、外国人との 関係で論じる( 3 )。
1 ドイツ最低生活保障制度の概要と外国人の取扱い
1 では、ドイツにおける最低生活保障制度がどのようなものであるか、及 び、その制度が外国人( 7 )をどのように取り扱っているかを示す。以下ではま ず、必要な限りで、外国人の滞在に関する法制度について簡単に述べる(1.
1)。その後、最低生活保障制度として社会法典第 2 編、第12編、及び、庇護 申請者給付法の 3 つを紹介する(1. 2)。
1. 1 外国人の滞在に関する法律
ドイツにおける外国人の法的地位は、大きく 2 つに分けられる。 1 つは
「EU 自由移動法(Freizügigkeitgesetz-EU( 8 ))」の定める地位であり、もう 1 つは「滞在法(Aufenthaltsgesetz( 9 ))」の定める地位である。ドイツでは、一 口に外国人といっても、EU 加盟国の国民なのかそれ以外の国の国民なのか によって、滞在に関して適用される法律が異なる。これら 2 つの法律はそれ ぞれ、ドイツにおける外国人の滞在や統合についての法律である「移住法
(Zuwanderungsgesetz(10))」の第 1 章と第 2 章を構成している。以下、それぞ れについて簡単に紹介する。
1. 1. 1 EU 自由移動法(11)
EU 自由移動法が対象としているのは、ドイツ以外の EU 構成国の国民 と、その家族及び欧州経済領域(EEA)諸国国民とその家族である。1992 年のマーストリヒト条約により、EU 市民には EU 加盟国の域内を自由に移 動し、居住する包括的な権利が認められた。この法律と滞在法とが分けられ ているのは、EU 市民とそれ以外の外国人(第三国国民)では入国や滞在に 関する前提が異なるからである。
EU 市民の EU 域内での自由移動の具体的内容は、「EU 市民とその家族の 加盟国の領域内で自由に移動及び滞在する権利に関する指令 (指令2004/38/
(12)EG
)」で定められており、この指令を受けて制定されたのが EU 自由移動法 である(13)。これによれば、全ての EU 市民は、 3 ヶ月以内であれば、有効なパ スポート又は身分証明書を所持しさえすれば、他のあらゆる条件も手続もな くして他の加盟国に滞在する権利が認められる。 3 ヶ月を超える滞在につい ては、受入加盟国において①労働者又は自営業者、②求職者、③稼得活動に 従事しない者のいずれに該当するかによって、滞在が許される条件が異な る。①受入加盟国において稼得活動に従事している場合は、その者及びその 者が同伴する又は呼び寄せる家族に 3 ヶ月を超えて滞在する権利が認められ る。さらに、この権利は、一定の場合に労働者又は自営業者としての活動が 行えなくなった EU 市民にも引き続き認められる。②受入加盟国において求 職中である場合には、その者が求職活動を行い、雇用されることについて根 拠のある見通しがある限りにおいて、その者及びその者が同伴する又は呼び 寄せる家族には 3 ヶ月を超えて滞在することが認められる。③稼得活動に従 事しない者は、自分及び家族のために十分な資力を有しており、滞在中に受 入加盟国の社会扶助給付を受けずに済むこと、かつ、自分及び家族が包括的 な医療保険の対象であることが条件となる(14)。
なお、上記の要件を満たさずに 3 ヶ月以上滞在している者には、外国人局(15)
が入国又は滞在の権利がないことを証明することにより、出国義務が課され る(第 7 条第 1 項)。
1. 1. 2 滞在法(16)
滞在法が対象としているのは、EU 自由移動法の対象者と、在独領事館の 職員などの一部の外国人とを除いたあらゆる外国人である。滞在法には、こ れらの外国人がドイツに入国し、滞在するために必要な滞在資格が定めら れている。滞在資格(Aufenthaltstitel)には、「ビザ(Visum)」「滞在許 可(Aufenthaltserlaubnis)」「EU ブルーカード(Blaue Karte EU)」「定
住許可(Niederlassungserlaubnis)」そして「EU 長期滞在許可(Erlaubnis zum Daueraufenthalt - EU)」がある。ここでは、滞在許可と定住許可につ いて説明する。滞在許可とは、ビザの有効期限が切れた後のドイツ滞在に必 要な滞在資格である。滞在許可は特定の目的のために付与されるものであ り、当該目的に応じた期限が付される。これに対して、定住許可は無期限の 滞在資格である。定住許可を得るためには、外国人が、 5 年以上の滞在許可 保有、生計の確保、60ヶ月以上の年金保険への保険料の納付、ドイツ語の十 分な知識、ドイツの社会秩序及び生活事情の基本的知識、十分な居住空間の 保有等の要件を満たす必要がある(17)。
庇護申請者(Asylbewerber)とは、基本法が保障する「庇護権(Asyl)」
の地位(18)、若しくは、1951年のジュネーブ難民条約及びその議定書における
「難民(Flüchtlinge)」の地位を申請中である者(19)のことを指す。庇護申請を 行い、庇護権者として認定された者には、滞在許可が付与されなければなら ない(第25条第 1 項第 1 文)。当該滞在許可は、職業活動に従事する権利を 保障する(第 4 文)。
滞在資格のない外国人には、出国義務が生ずる。出国義務があるにもかか わらず自発的に出国しない場合には、国外退去強制を受ける。しかし、強制 可能な出国義務を負いつつも、自己の責任によらない事情により出国するこ とができず、かつその出国への障害の除外が近い将来に予見できない状態に ある者には、滞在許可が付与される(第25条第 5 項)。その他にも、国外退 去強制が事実上又は法律上の理由により不可能である場合に、国外退去強制 を猶予(Duldung)される外国人がいる(第60a 条(20))。
1. 2 最低生活保障制度と外国人の取扱い
現在、ドイツの公的扶助制度を形成するものとして、社会法典第 2 編、同 第12編、及び、庇護申請者給付法が挙げられる。かつて公的扶助制度は連邦 社会扶助法という一つの法律によって定められていたが、のちに社会情勢等
に合わせて複線化が行われた結果、今のように 3 つの法制度に分かれてい る。1993年に連邦社会扶助法とは別に庇護申請者給付法がつくられ、2005年 に連邦社会扶助法が社会法典へ組み込まれるのと同時に、第 2 編と第12編へ と分かれたかっこうである。以下、それぞれについて紹介する。
1. 2. 1 社会法典第 2 編・第12編(21)
社会法典第 2 編と第12編の法制度を分かつのは、対象者が就労可能である か否かという点である。原則として、就労可能である者及びその世帯構成員 は、社会法典第 2 編の適用を受け、就労可能でない者及びその世帯構成員は 第12編の適用を受ける。
( 1 )社会法典第 2 編における給付と外国人
社会法典第 2 編第 7 条第 1 項は、第 1 文で受給権(22)者を、①15歳以上であり かつ第 7 a条に定める定年未満の者で②就業可能な者で、③扶助を必要とし ており、④ドイツ連邦共和国内に日常的に滞在している者と定めている(23)。第 2 文で、ドイツに日常的に滞在しており、第 8 条第 2 項に定める条件を満た している外国人は、第 2 編の給付を受ける旨が規定されている。第 8 条第 2 項は、第 1 項によって就業可能であるとされる者(24)のうち、職業活動の開始が 許可されているか、許可され得る場合にのみ外国人が就業可能であると規定 している。つまり、職業活動をすることを許可されてさえいれば、外国人も ドイツ人と同じ要件の下で第 2 編による給付を受けることができるというこ とである(25)。
( 2 )社会法典第12編における給付と外国人
第12編は、第19条で受給権者を定め、第23条で「外国人に対する扶助」と して、ドイツ人とは別に規定を設けている。第23条は、制定当初の規定で は、第 1 項第 1 文で、「国内に事実上滞在する外国人は、生計扶助、疾病扶 助、妊娠及び出産扶助並びに介護扶助が、この法典により給付される」と し、給付の内容がドイツ人の場合よりも限定される。しかし、定住許可ある いは期限つきの滞在資格を有しており、連邦領域内に長期間滞在することが
見込まれる者であれば、そのような限定はない(26)(第 4 文)。
( 3 )補足―受給権からの除外
社会法典第 2 編及び第12編における制度では、受給資格に該当しても、一 定の要件の下で受給権から除外(ausschließen)される場合がある。この除 外の問題は本稿 3 で扱うため、ここではそのような場合があることを指摘す るにとどめ、詳述は 3 において行う。
1. 2. 2 庇護申請者給付法(27)
( 1 )連邦社会扶助法から庇護申請者給付法へ
庇護申請者給付法(Asylbewerberleistungsgesetz)は、かつて連邦社会 扶助法によって保護を行なっていた外国人の一部に対して、給付内容を低く 抑えるために1993年に成立した法律である。連邦社会扶助法は、1961年の成 立以来、原則として、ドイツ人のみならずドイツ国内に事実上滞在している あらゆる外国人に適用されてきた。しかし、1980年代以降、とりわけ冷戦の 終結と旧ユーゴスラヴィア紛争よって庇護申請者の数が爆発的に増えたこと に伴い、これらの者に対する給付の抑制を望む動きが政治においてみられ、
それが動機となって1993年に庇護申請者給付法が成立した。連邦社会扶助法 が社会法典第 2 編と第12編に編入されてからも、庇護申請者給付法の対象者 はそれらの給付の対象者と分離されている。
( 2 )給付の内容
社会法典第 2 編及び第12編における給付と比較する形で、庇護申請者給付 の内容を概観する。まず、庇護申請者給付と社会法典第 2 ・第12編の定める 給付の違いの一つに、給付の形式がある。すなわち、社会法典第 2 ・第12編 による給付が原則として金銭給付で行われるのに対して、庇護申請者給付法 による給付は、現物給付と金銭給付の組み合わせによって行われる。庇護申 請者給付法に基づく主な給付には基礎給付及び病気の場合等の給付がある。
基礎給付とは、要扶助者の必要不可欠な生計費を保障する給付である。この 基礎給付には、受入施設に宿泊する場合(庇護申請者給付法第 3 条第 1 項)
と受入施設以外で宿泊する場合(第 3 条第 2 項)とがあり、受入施設に宿泊 する場合は、栄養、宿泊、暖房、衣服、健康管理、耐久消費財等に係る必要 需要については現物が給付される。これに加えて、基礎給付には日常生活の 個人的な欲求を充足するための給付が含まれており、この給付は金銭によっ て行われる。受入施設以外に宿泊する場合の基礎給付の形式は、個人的な欲 求の充足のための給付については金銭給付の形式で行われるものの、それ以 外の必要需要を充足する給付については、現物給付によるか金銭給付による かはラントによって異なる。
庇護申請者給付と社会法典第 2 編及び第12編給付の違いのもう一つは、給 付額である。庇護申請者給付法における金銭給付の額は、1993年の制定以来 一度も変更されていなかった。その結果、2012年には国民に対する扶助の支 給額よりも約40%も低い水準となっていた。そして、連邦憲法裁判所が、こ の給付額を基本法に違反するものとした判決こそが、本稿 2 において検討す る2012年 7 月18日連邦憲法裁判所判決である。この判決を受けて庇護申請者 給付法は改正され、金銭給付の額は社会扶助における支給額の約90%まで引 き上げられた(28)。
庇護申請者給付法は、当時増大していた庇護申請者による国の財政負担の 軽減のために制定されたものである。しかしながら、以下で示すように、当 該法律の受給権者は庇護申請者だけではない。庇護申請者給付法は、第 1 条 において給付の対象者と受給権の終了する場合を、第 1 a 条では受給権が制 限される場合を定めている。
( 3 )対象者と受給権の終了;庇護申請者給付法第 1 条
庇護申請者給付法の適用対象は以下の通りである。すなわち、連邦領域に 事実上滞在する外国人であって、①庇護法(29)(Asylgesetz)に規定されてい る滞在承認を有している者、②空港を通じて入国しようとし、入国が承認さ れない、若しくは未だ承認されていない者、③母国での戦争が理由となり、
滞在法第23条第 1 項(30)又は第24条(31)に規定する滞在許可を有している者(第 1
項第 3 号 a)、滞在法第25条第 4 項第 1 文(32)に規定する滞在許可を有している 者(第 1 項第 3 号b)、又は、滞在法25条第 5 項(33)に規定する滞在許可を有し ている者で、国外退去強制の一時的停止に関する決定後18ヶ月を経過して いない場合(第 1 項第 3 号c)、④滞在法第60a 条に規定されている猶予(34)が なされている者(第 1 項第 4 号)、⑤国外退去の催告が未だ執行可能でない 場合又はもはや執行可能でない場合をも含めた、出国義務の履行が強制可 能な者(第 1 項第 5 号)、⑥第 1 号から第 5 号までに掲げる者の配偶者、生 活パートナー若しくは未成年の子ども(第 1 項第 6 号)、⑦庇護法71条の規 定による再申請(35)(Folgeantrag)又は庇護法71a条の規定による第二次申請(36)
(Zweiantrag)を行った者(第 1 項第 7 号)である。この法律に基づく受給 権は、出国、若しくは給付の前提を失った(37)月又は連邦移民難民庁がその外国 人を庇護権者として認定する、又は例え判決が未だ疑問の余地がないとまで は言えなくても、裁判所が同庁に義務付けた月が満了することをもって終了 する(第 3 項第 1 文)。滞在法第25条第 5 項所定の滞在許可を有し、かつ 1 つの世帯において両親と生活している未成年の子どもは、滞在法第25条第 5 項所定の滞在許可を有する片方の親が受給資格を失った場合にも受給権が終 了する(第 2 文)。
( 4 )受給権の制限;庇護申請者給付法第 1 a条
現行の第 1 a条は次のように規定している。すなわち、第 1 条第 1 項第 4 号及び第 5 号による受給権者と、第 1 条第 1 項第 6 号に規定する受給権者 で、第 1 条第 1 項第 4 号及び第 5 号に掲げる者の家族である者は、この法律 に基づく給付を受給するためにこの法律の適用領域に入った場合は、個別の 状況に鑑みて官庁が給付を拒否することができず、必要な場合に限り、この 法律に基づく給付を受ける(第 1 項)。第 1 条第 1 項第 5 号に規定する受給 権者で、出国期日及び出国可能性が確定している者は、出国期日の翌日以降 は、第 2 条(38)、第 3 条(39)及び第 6 条(40)に規定する給付への請求権を持たない(41)。ただ し、出国がその者の責めに帰すべきでない理由によって実行できない場合は
別とする(第 2 項第 1 文)。第 1 文に該当する者には、その出国又は国外退 去の実行までの間、食事及び宿を含めた暖房並びに身体衛生及び健康管理の 需要を充足するための給付のみが与えられる(第 2 項第 2 文)。また、庇護 法第15条第 2 項第 4 号(42)に規定されている協力義務を履行しない場合、自身が 所持している身元確認のために必要な証拠を提出しない等の方法で庇護法第 15条第 2 項第 5 号(43)に規定されている協力義務に違反する場合などには、その 者にはその出国あるいは国外退去の実行までの間、食事及び宿を含めた暖房 並びに身体衛生及び健康管理の需要を充足するための給付だけが与えられる
(第 5 項)。
( 5 )まとめ
庇護申請者給付法第 1 条、第 1 a条は、前者が受給権者を、後者が、受給 権の制限について規定している。滞在法との関連で煩雑な規定ぶりとなって いるが、これらの規定から読み取れるのは、庇護申請者給付法が①庇護申請 者をはじめとする、一時的にドイツに滞在する見込みの者を対象とした給付 であること、②原則として、受給者がドイツから出国する瞬間まで受給権を 保障していること、の 2 点である。①について、第 1 条の規定を見ると、滞 在を一時的に許可されている者や、出国義務があり退去強制を受ける予定の 者などが受給権者として定められている。それらに共通するのは、滞在法上 その地位にとどまる期間が長くはないということである。また、第 2 条(44)が社 会法典第12編の給付への「移行規定」を設けていることからも、この法律を 一時滞在者にのみ適用することを立法者は意図していることがわかる。②に ついて、原則として受給権が終了するのは、受給権者が、出国することによ り滞在をやめる場合、あるいは庇護権が認められるなどして、別の長期滞在 を見込んだ地位に移行する場合である。出国によって受給権が終了するとい うことは、裏を返せば、ドイツに滞在している間はつねに受給権を有してい るということである。さらに、受給者が、庇護申請者給付法の給付を受ける ために入国したり、庇護法に定められた協力義務に反した場合でさえ、あら
ゆる給付が完全に断たれるわけではないという点が、重要である。前者の場 合は裁量による給付を受ける可能性が残されているし、後者の場合はその出 国又は国外退去の実行までの間、食事及び宿を含めた暖房並びに身体衛生及 び健康管理の需要を充足するための給付が与えられる。
1. 3 小 括
1 では、ドイツにおける外国人の法的地位、最低生活保障制度、及び最低 生活保障制度内で外国人がどのように取り扱われているかを概観した。
重要であるのは、第一に、ドイツにおいては外国人というときにまず、
EU 市民であるか、第三国国民であるかという区別がなされる点である。
EU 市民であれば、 3 ヶ月を超えない範囲で滞在が無条件で可能となるのに 対して、第三国国民は滞在の目的に応じた滞在資格を得なければ、ドイツに 滞在することができない。ただし EU 市民であっても 3 ヶ月を超えて滞在す ることが認められるのは、求職者については就職が成功する見込みがある場 合だけ、稼得活動に従事しない者については公的扶助を受けずに生きてゆか れるほどの資力がある場合だけである。
第二に、公的扶助制度は対象者ごとに 3 つに分かれており、中でも庇護申 請中の者を主たる対象とした扶助制度があるという点が重要である。この制 度は、庇護申請者以外にも、種々の事情によりドイツに滞在する資格が安定 していない外国人をもその対象としている。 2 では、この庇護申請者給付法 における給付内容が低きに失するとして違憲とされた連邦憲法裁判所の判決 を検討する。
2 ドイツ連邦憲法裁判所2012年 7 月18日判決と その分析
2. 1 2012年 7 月18日判決(45)
2. 1. 1 事案の概要
本件は、ノルトライン=ヴェストファーレン州社会裁判所による 2 つの訴 訟が連邦憲法裁判所に移送された事案である。この 2 つの訴訟の原告につい て簡単に説明しておく。まず、原手続(46)1BvL 10/10の原告は、1977年生まれ のクルド系のイラク国籍保持者である。彼は、2003年にドイツ連邦共和国に 入国し、庇護申請したが却下された。この却下の時点から、彼のドイツ滞在 は滞在法第60a条第 2 項第 1 文に基づいて猶予(47)されている。次に、原手続 1BvL 2/11の原告は、リベリアからやってきた女性の子どもであり、2000年 にドイツで出生した。原告は出生当時から滞在法第25条第 5 項(48)により滞在許 可を有している。いずれの原告も、庇護申請者給付法の金銭給付の額が基本 法に合致しているか、という問題を提起したため、 2 つの移送事案は連邦憲 法裁判所によってまとめて審査された。
2. 1. 2 判 決
結論からいうと、連邦憲法裁判所(以下、単に「裁判所」ともいう)は 金銭給付の額を「人間の尊厳に値する最低生活の保障に対する基本権(das Grundrecht auf Gewährleistung eines menschenwürdigen Existenzminimums, 以下、「当該基本権」ともいう)」と相容れないもの、と判断した。以下で は、連邦憲法裁判所が給付額を違憲と判断したという、本判決の主要部分に ついて、( 1 )裁判所が立てた原則、( 2 )裁判所による原則の当てはめに分 けて、判示内容を要約する。
( 1 )裁判所が立てた原則(49)
( 1 -α)人間の尊厳に値する最低生活の保障を求める基本権の規範内容 連邦憲法裁判所は、当該基本権は、基本法第20条第 1 項と結びついた基 本法第 1 条第 1 項から生ずるとする。この基本権は立法者による具体化と 現実化を必要としており、その際には形成の余地が与えられている。この 基本権から導かれる原則は大要以下のとおりである。すなわち、(a)この 基本権は、客観的な義務に対応する個人の給付請求権であり、ドイツ連邦共 和国に滞在するドイツ国籍保持者と外国籍保持者に、人権として等しく備わ
っている、(b)ここにいう最低生活とは、人間の肉体的生存だけでなく最 低限の社会的、文化的そして政治的生活に参加する機会を含む、(c)人間の 尊厳に値する最低生活の保障は、法律上の請求権を通じて保障されなければ ならない、(d)当該給付請求権は、その基礎は憲法によって与えらえてい るが、その範囲(Umfang)を憲法から直接導き出すことはできない、(e)
立法者は憲法上だけでなく、EU 法上および国際法上の義務を課されてもい る、(f)人間の尊厳に値する生活を保障するための給付は、現実に即して
(realitätsgerecht)算定されるように、基礎付けられうるのでなければなら ない。
裁判所は、(f)についてとりわけ詳しく説明を加えている。その説明によ ると、(aa)当該基本権は立法者に対して立法手続上の特別な義務を課すわ けではなく、結果において給付の内容が基本権の要求から逸脱していないか どうか、ということが重要である、(bb)基本権は特定の給付の算定方法を 指定しているわけではなく、立法者は給付を算定するための方法を有用性と 事実適合性の範囲内で自ら選ぶことができる、(cc)算定された結果は、不 断に再検討され発展されるべきである、(dd)立法者が、最低生活を決定す る際に一定の集団の特殊性を顧慮しようとする場合には、生活保障給付の具 体的な内容形成の際に、滞在の地位に応じて一律に区分してはならない、と いう。
(dd)に関してはさらに以下の三点が強調されている。すなわち、(dd- 1 )短期間しか滞在しない者に対してより少ない給付を与える決定をする場 合は、その少なさが後から検証できる方法で決定され、見積もられることが できなければならない、(dd- 2 )短期間滞在者向けに低く設定された給付 の規定を設ける場合、立法者はその対象が真に短期間滞在者のみに限定され ることを確実にしなければならない、(dd- 3 )短期間滞在者用の給付を受 けていた者が実際には長期間滞在者となる場合に備えて、異なる需要の根拠 をもつ制度への移行が、法律の中に予定されるべきである。
( 1 -β)連邦憲法裁判所が施しうる統制の内容
連邦憲法裁判所は、控えめな統制が、最低生活を決定する際に立法者に与 えられる形成の余地に適合するという立場を示したうえで、(a)社会給付 の額に対する実体的統制は、給付が不十分であることが明白かどうかという 点に限定され、そして、(b)この明白性審査の後に、裁判所は、その時々 の給付が信用できる数字と説得力のある計算方法に基づいて十分に正当化さ れるかどうかを審査する、という判断枠組みを示した。(b)についてはさ らに、最低生活保障のための給付が後から検証できるものでなく、事実に即 した区別が設けられず、つまり需要適合的に算定されていない場合には、そ の給付規定は基本法第20条第 1 項と結びついた同法第 1 条第 1 項とはもはや 合致しないと述べた。
( 2 )当該裁判所による原則の当てはめ(50)
( 2 -α)最低生活を保障する給付として明らかに不十分であること 裁判所は、庇護申請者給付法の定める給付が、人間の尊厳に値する最低生 活を保障する給付としては明らかに不十分であると判断した。その理由は以 下の四つである。すなわち、(a)1993年以来、大幅な物価変動があったに も関わらず給付額に変動がなかったこと、(b)実際の生活費に給付額を適 合させるための調整メカニズムが法律上設けられていたにも関わらず、一度 も調整が行われなかったこと、(c)庇護申請者給付法における給付は、ドイ ツにおける一般的な社会扶助法である社会法典第 2 編・第12編における給付 の60%ほどしかなかったこと、(d)この明らかに不十分な金銭給付の額を、
変則的な需要に対応するための給付によって埋め合わせることはできないこ と。
( 2 -β)給付内容算定の手続が基本権の要請に反すること
裁判所は、給付が実体的判断からして明らかに不十分としたのみならず、
算定の手続が基本権の要請を満たしていないという点からみても、庇護申請 者給付法の給付内容は当該基本権に反するとした。その理由としては、(a)
当該法律の立法資料は何らの算出手続をも指示しておらず、審査の負担に耐 えうるほどの(belastbar)算定の根拠が明らかにされていないこと、(b)
立法者は滞在の期間の短さが給付の少なさを正当化するという推定に依拠し ているが、これには十分に信頼できる根拠がないこと、(c)給付水準が他国 よりも高いことが理由となって人口の移動が促されることを避けるために庇 護申請者と亡命者に対する給付を低くする、という移民政策的考慮は、給付 水準を肉体的および社会文化的最低生活よりも下にすることをそもそも正当 化できないこと、が挙げられている。
(b)についてはさらに、庇護申請者給付法は、その対象者が短期間の一 時的滞在者であることを前提として作られた給付であるのに対し、実際は受 給者の大半が 6 年以上ドイツに滞在しているなど、実際の状況に合致してい ないことや、最低生活はいかなる場合でも常に保障されなければならず、短 期間滞在者に対しても肉体的生存の保障に限るのではなく社会文化的生存の 保障をも行わなければならないことが強調されている。また、後にも紹介す るが、(c)の段落の最後は「人間の尊厳は、移民政策的に相対化されてはな らないのである」という文句で結ばれており、この判示を本判決の核心であ ると理解する論者が多い(51)。
2. 2 判決の分析
2. 2. 1 当該基本権の享有主体
判決において裁判所は最低生活保障を求める基本権がドイツ人だけでな く、ドイツに滞在する外国人にも認められると述べた。この点は判決要旨に おいても確認されているし、給付額の違憲性を検討するその後の審査の前提 となる判断であるため、本判決の中でも重要な位置づけを与えられるべき判 示である。しかし、それにもかかわらず、なぜ外国人にもこの基本権が認め られるのかは、判決中に明確には示されていない。それはなぜであろうか。
そもそも、外国人が基本権の享有主体となるかどうかについて、ドイツで
はどのように考えられているのだろうか。ドイツ基本法の教科書の記述によ れば、基本権には「すべての人の権利」と「ドイツ人の権利」があるとい う。すべての人の権利とは、人的な観点においてどのような資格の制限も設 けられていない基本権であり、「人権(Menschenrechte)」ともいう(52)。この 基本権は通常、「何人も(jeder)…権利を有する」(基本法第 2 条第 1 項及 び第 2 項第 1 段)、「何人も(jedermann)…権利を有する」(第17条、第103 条第 1 項)などという形で定められている。他方、ドイツ人の権利は、ドイ ツ人にのみ属する権利のことであって、これには、第 8 条(53)、第 9 条(54)、第11条(55)
などがある(56)。それでは、ドイツ人の権利として規定されているものは全く外 国人に保障されないのであろうか。この点、「ドイツ人の権利を外国人に認 めないことは、しばしば不十分に感じられる4 4 4 4 4 4 4 4 4ので、認めることが試みられて いる。 1 つには、 1 条 1 項および 2 項、19条 2 項が援用される。ドイツ人の 権利を含めてすべての基本権が人間の尊厳と人の権利を内容としてもち、そ れは、 1 条 1 項および 2 項によって保護され、加えて本質的内容として19条 2 項によって不可侵であると宣言されているのであるから、外国人も、ドイ ツ人の権利が人間の尊厳と人の権利の内容、本質的内容の部分において、常 に利用できるだろう(57)」という指摘がある(強調は原文)。要するに、基本権 が外国人にも認められるかどうかは、原則として基本法上の規定の仕方によ って決まるが、ドイツ人の権利とされているものも、第 1 条第 1 項などの趣 旨に照らして外国人にも認める場合があるということである。
これをもとにすると、本件で最低生活保障を求める基本権が外国人にも認 められる理由が、黙示的に述べられていると考える余地が生ずる。判決中で は外国人がこの基本権を享有する理由は明示されていないが、当該基本権が 基本法第 1 条第 1 項から生じていること自体が、その理由であると考えられ る。最低生活保障を求める基本権は、連邦憲法裁判所にとってみれば、この 基本権が「ドイツ人の権利」でないことは自明であり、その理由を示す必要 はないということなのであろう(58)。
2. 2. 2 立法裁量統制の方法
以下では、立法裁量統制のありようの分析を、2010年 2 月 9 日の連邦憲法裁 判所判決(59)(以下、「ハルツⅣ判決(60)」という。)との比較において行う。なぜな ら、本判決の判断枠組みはハルツⅣ判決のそれを大部分において踏襲してい る一方で、外国人について判断した本判決の特徴を析出するのに適している からである。
( 1 )原 則
当該基本権から導かれる原則については、ハルツⅣ判決をほとんど踏襲し ている(61)。ただし、2012年判決では、「人間の尊厳に値する生活を保障するた めの給付が、現実に即して算定されるように基礎づけられうるのでなければ ならない」という原則の説明を、滞在資格との関係で具体化している。それ によれば、人間の尊厳に値する最低生活を決定する際に一定の集団の特殊性 を顧慮しようとするとき、滞在の地位に応じた一律的な差異取扱いは許され ない。さらに、①短期間滞在者向けに、一般的な扶助よりも低い給付を決定 する場合には、その低さは後から検証可能な方法で決定されなければなら ず、また短期滞在者であるからこそ生じうる需要に対応できるようにしなけ ればならないこと、②短期間滞在者向けの給付を、長期間滞在者に与えては ならないこと、そして、③もはや短期間滞在者でなくなった受給者に対し て、通常の扶助制度への移行が定めらなければならないことが、示された。
これは外国人を対象としなければ生じ得ない説明であるため、本件に特徴的 な判示である。
( 2 )原則の当てはめ
ハルツⅣ判決では社会法典第 2 編の基礎保障給付の額が違憲であるとされ た。2012年判決では給付額が実体的統制たる明白性の審査に照らして(も)
違憲と判断されたが、ハルツⅣ判決では合憲とされた(62)。ハルツⅣ判決で違憲 と判断されたのは、給付額が憲法適合的な方法で算出されなかったという手 続的統制(63)の段階においてのみである。
( 2 -a)実体的統制における本判決の特徴
本判決では給付額が当該基本権と相容れないことが示されたのであるが、
その理由の一つは給付額が「明白に不十分」だったからである。この「明白 性の審査(Evidenzkontrolle)」は、給付額そのものに着目する実体的審査 であり、給付額の算定過程を審査する手続的統制よりは緩やかな統制手法で ある(64)。明白に不十分であることの理由は、1993年以来、物価が30%も上昇し ているのに給付額が一度も変更されなかったこと、庇護申請者給付法の制定 及び給付額の決定は、庇護申請者の大量の押し寄せによる財政的負担を減少 させるという移民政策上の理由に基づいて行われたのであり、それまで人間 の尊厳に値する最低生活を保障してきた社会扶助法の給付をさらに下回るこ とが目指されていたこと(そして実際に2012年 1 月時点で社会扶助法上の額 の65%程度であること)、その都度の物価に応じて必要と認められる場合に 給付額を変更することを定めた条項があったにもかかわらず一度も使われな かったこと等であった。まとめれば、「もともと最低生活を保障するつもり で給付額を決めたのではなく、財政負担の軽減を目指すものであったため、
1993年以来変更されず、結果としてドイツ人に対する給付との間に30%以上 の差が出た」ということになる。注目すべき点は、連邦憲法裁判所は給付額 のみに着目するのではなく、立法者が正当な理由なく物価上昇に適応してこ なかったという実態を考慮していることである。換言すれば、裁判所は給付 額の高さそれ自体を独立して評価するというよりは、法制定当初から現在に 至るまでの間、立法者が憲法によって課された義務を懈怠なく履行したかど うか、という観点から、その結果としての給付額を審査している。ここで立 法者に課されている憲法上の義務とは、最低生活を保障する給付を時代に合 わせて調整することである。ある特定の金額が最低生活を真に4 4保障できてい るのか、また、立法者による給付額の調整が時代に適合的であったかどうか について、裁判所は厳密には審査できない。しかし庇護申請者給付法の場 合、そもそも最低生活を保障する意図が立法者にあったわけではないこと、
物価変動に関わらず何らの調整もしなかったことが、立法者が上記義務を明 らかに怠っていることを示しており、それゆえ給付額が明白に不十分であ る、と評価しているものと考えられる。
( 2 -b)算定手続の統制における本判決の特徴
庇護申請者給付法所定の金銭給付の額はかくして「明白に不十分」である と判断された。しかし連邦憲法裁判所は、金銭給付の額の算定手続もまた、
最低生活保障を求める基本権の要請に反していると述べた。この点について の連邦憲法裁判所の判示はこうである。すなわち、当時の立法資料による と、金銭給付の額は純然たる見積もりに依拠していて、算定の根拠が明らか にされていない。とりわけ未成年の受給権者に関しては、子ども及び老人に 特有の需要がどれくらいあるのかという点が確かめられていない。このこと は、ハルツⅣ判決で示された、「生活に必要な費用の、内容上明瞭で事実と 現実に即した算出についての諸要求を満たさない(65)」。このように、算定の根 拠が明らかでないことをもとに違憲とする点はハルツⅣ判決と同様である が、本判決独自の観点によって違憲と判断されたのは以下の二点においてで ある。一つには、滞在期間が短いことが給付額の低さを正当化するという推 定に基づいて立法すること( 2 -b- 1 )であり、もう一つは、庇護を求める 者や移民が滞在先としてドイツを選ばないように仕向けるという移民政策的 考慮に基づいて人間の尊厳に値する最低生活保障に必要な水準より下に給付 額を定めること( 2 -b- 2 )である。
( 2 -b- 1 )滞在期間の短さと給付額の低さの関係
連邦憲法裁判所によれば、この点について当該基本権から導かれる要請は 以下の 2 点である。すなわち、給付額に差異を設けること自体を禁じている わけではないが、差異ある取り扱いを行う場合には、事実に即して後から検 証可能な方法で算定を行わなければならない。さらに、短期間滞在者向けに 普通よりも少ない額を給付しようとするときには、それが本当に短期間滞在 者にだけ給付されるように立法しなければならない。連邦憲法裁判所は、立
法者がこれらのいずれの要請にも応えていないと判断した。というのも、立 法者は「滞在期間の短さが給付額の低さを正当化する」という前提に依拠し ているが、その根拠は示されておらず、さらに庇護申請者給付は短期滞在者 ではない者にまで適用されている。驚くべきことに、本法の受給者の大半が すでに 6 年以上ドイツに滞在しているのである(66)。ゆえに、短期滞在者向けの 給付は普通よりも少額でよいという根拠を立法者が示したとしても、庇護申 請者給付の実態は「本法の適用を受けるのは短期間で一時的な滞在者だけで ある」という制定当初のコンセプトともはや合致していないため、上記要請 に反する。「仮に該当者の滞在期間の開始時期に関する予想が、滞在の地位 から導き出されることがありうるとしても、場合によっては特別に少ない需 要しか認められないような短期間の滞在を前提とすることは、少なくとも第 2 条第 1 項(67)(移行規定)が定めるように 4 年間受給しており、それゆえ 4 年 以上滞在している場合には、もはや正当化されない(68)」。
また、裁判所は、最低生活はいついかなる場合でも保障されなければなら ず、滞在の期間が短いことによって給付の額が最低生活を下回ることがあっ てはならないと判示している。ここで確認すべきは、最低生活には肉体的生 存と社会文化的生存が含まれているのであって、短期間しか滞在しないから といって肉体的生存のみを保障するようなことがあれば、それは最低生活保 障を求める基本権の要請に反するという点(69)である。
( 2 -b- 2 )「人間の尊厳は移民政策的に相対化されてはならない」
以下では、連邦憲法裁判所のいう「移民政策的相対化」が何を意味するか を確認するために、そのフレーズが出てくる部分を引用する。
給付水準が他国よりも高いことが理由となって人口の移動が促されてし まうのを避けるために庇護申請者と亡命者に対する給付を低くする、と いう移民政策的考慮は、給付水準を肉体的及び社会文化的最低生活よ りも下にすることを端から正当化できない(1993年 5 月24日の家族及 び老齢者委員会〈第13委員会〉による決議勧告及び報告書 BTDrucks
12/5008, S. 13f. を参照せよ)。基本法第 1 条第 1 項で保障されている人 間の尊厳は、移民政策的に相対化されてはならないのである(70)。
引用部( )内に示されている参照指示は、庇護申請者給付法の立法に 向けた議会において、法案に対する党派ごとの意見が述べられている箇 所を指している。以下、この判示に関連すると思われる部分を紹介する
(以下、強調は筆者)。まず、キリスト教民主 / 社会同盟(CDU/CSU)
及び自由民主党(F.D.P.)の政党連合は、「本法案が追求するのは、経4 済的な理由からドイツにやってくることを促進しないようにする4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4という 目的である。それと同時に、現物給付への移行を通じて逃亡幇助組織
(Schlepperorganisationen)から組織基盤(71)(Nährboden)を奪うこともね らいとしている(72)。」という。これに対して、ドイツ社会民主党(SPD)は、
「…給付の新構成と請求権の条件を通じて当該法律を4 4 4 4 4〔移民流入〕抑止の道4 4 4 4 具とする場合は4 4 4 4 4 4 4、〔庇護申請者給付法は〕社会国家性4 4 4 4 4(Sozialstaatlichkeit)
と一致しえない4 4 4 4 4 4 4…。苦境において適切かつ人間の尊厳に値する取扱いを求め4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 る4、憲法に合致した請求権が4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4、外国人に対しても妥当しなければならない4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4。 この諸条件はとりわけ、受給権者の人的範囲、給付期間及び給付の範囲に関 する規定について顧慮されねばならない(73)」と指摘している。PDS/ 左派リス ト(PDS/Linke Liste)のグループも、この法案が社会国家性の放棄を内容 として含んでおり、庇護申請の抑止に仕えるものであることから、この法案 は憲法上憂慮すべきであるとして、法案に反対している(74)。
以上から、連邦憲法裁判所は、外国人に対する給付の規定を移民流入抑止 のための道具として使おうとすることが「移民政策的考慮」にあたると述べ ていると考えられる。しかし注意すべきであるのは、連邦憲法裁判所が当該 基本権の要請に反すると考えているのは、このような移民政策的考慮を行う ことそれ自体4 4 4 4ではない、という点である。人間の尊厳に値する最低生活を保 障する給付を形成することは第一義的には立法者に任されており、立法者は 社会の実態や経済の状況などを考慮に入れて具体的な請求権の範囲を決定す
る。その際に、上に挙げたような移民政策的考慮を行うことも立法者には許 容されている。連邦憲法裁判所が最低生活保障を求める基本権に基づいて禁 ずるのは、その考慮をもって最低生活をカバーするのに足る額よりも低い額4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 の給付4 4 4を設定することである。つまりこの判示部分は、給付の内容が最低生 活を送るのに不十分であることがあってはならず、そこにいかなる移民政策 上の理由があろうとも、給付の低さは正当化できないと述べているのであ る。
2. 3 小 括
本判決の要点は、①最低生活保障を求める基本権は外国人にも帰属する権 利であること、そして②実体的統制と手続的統制のいずれに照らしても、立 法者は当該基本権から要請される義務に反しているため違憲であることの 2 点にまとめられる。
まず①からは、最低生活保障の対象者4 4 4を決める余地は、立法者にはもはや 残されていないということが、推測される。当該基本権を外国人も享有する ということはすなわち、国家は外国人の最低生活の保障を義務付けられるこ とを意味する。そして、この義務は法律上の給付請求権の確保によって果た されなければならないのだから、要扶助状態にあり、ドイツ国内に滞在して いる者に対しては、たとえ外国人であれ最低生活保障法に基づく給付を行わ ないことは許されない、といえる。このことから、立法者は、給付額を定め るにあたって裁量を有してはいるが、「外国人の最低生活保障をしない」と いう決定は、裁量の範囲を逸脱するものといえそうである。
そして②も、外国人の最低生活保障給付のありようが当該基本権に照らし てどのように評価されるかを具体的に示した点で重大な意義を持つ。本判 決とハルツⅣ判決との違いは、この給付が外国人を対象とするものである がために、給付額を算定する過程において「滞在期間」「滞在資格」あるい は「移民政策」との関係が考慮されていることである。とりわけ重要な指摘
は、外国人を滞在資格によって一律に区分するのではなく、外国人の実際の 状況に適合するように給付を設けなければならないという点である。また、
どのような法的地位にある外国人に対しても、かれが滞在を始めた時点で国 家には最低生活を保障する義務が生ずるという点も、①を補強する意味で重 要な判示である。
3 2012年判決の限界と当該基本権の持つ可能性
3. 1 2012年判決の限界
結論を先取りすると、2012年判決の限界は、最低生活保障を行うにあたり 立法者に認められた裁量のうち、給付内容の決定について統制をかけること はできても、受給権者の決定には統制をかけることができない、という点 にある。3. 1 では、①従来、一定の範囲の外国人を受給権から除外する規定
(以下「除外規定」という。)が社会法典第 2 編・第12編に設けられており、
2012年判決はその点について明確な評価を下さなかったこと、②2012年判決 を参照して給付を行うことを給付主体に義務付けた2015年の連邦社会裁判所 判決の効果を封じるような改正を、立法者が2016年に行ったことの二点をも って、2012年判決の限界を示す。
3. 1. 1 受給権者の範囲の限定に対する本判決の評価?
以下では、従来社会法典第 2 編及び第12編において、一定範囲の外国人を 給付から除外する規定があったことを示す。ここでは、2012年判決でこの点 について触れられなかったこと明らかにすれば足りるため、2012年判決当時 に存在した除外規定の内容を紹介する(75)。2016年の改正により除外規定が増え ることになるが、その点については3. 1. 2で扱う。
( 1 )社会法典における給付からの除外 ( 1 -a)社会法典第 2 編
社会法典第 2 編においては、第 7 条第 1 項第 2 文が、給付から除外される 要件を定めている。まず、ドイツにおける労働者又は自営業者でも、EU 自
由移動法第 2 条第 3 項に基づいた自由移動権者(76)でもない者及びその家族に ついては、滞在の開始から 3 ヶ月間は、受給権を認められない(第 1 号)。
次に、自身の滞在権を専ら求職目的のために有している外国人及びその家 族は、給付から除外される(第 2 号)。また、庇護申請者給付法の受給権者 も、給付から除外される(第 3 号)。なお、国際法上、人道上、または政治 上の理由により滞在の地位を有している者には、第 1 号は適用されない(第
3 文)。
( 1 -b)社会法典第12編
社会法典第12編においては、第23条第 2 項および第 3 項が、除外規定にあ たる。社会扶助を受けるために入国した外国人及びその家族は、受給権をも たない(77)。また、滞在権を専ら求職目的のために有している者及びその家族 も、受給権をもたない(第 3 項第 1 文)。そして、庇護申請者給付法の受給 権者は社会法典第12編による受給権をもたない(第 2 項)。また、疾病の治 療若しくは緩和の目的で入国した場合には、生命に関わる切迫した状況を取 り除くため、若しくは延期できず必然的に必要とされるような重体又は伝染 性の病気の治療のためである場合に限り、疾病扶助が給付される(第 3 項第
2 文)。
( 2 )2012年判決による評価?
2 でみたように、2012年判決において連邦憲法裁判所は、人間の尊厳に値 する最低生活の保障を求める基本権がドイツに滞在するあらゆる外国人にひ としく認められると判示した。また裁判所は、具体的な検討の中で、いかな る移民政策的考慮によっても、「最低生活」を営むのに不可欠である額(内 容)よりも低い給付を与えることがあってはならない、とした。これらの判 示からすると、どのような場合であったにせよ、ドイツに滞在してさえいれ ば、困窮状態に陥ったときには給付を受けることができると考えても不自然 ではない。しかしながら、上に示したように、ある一定の外国人の受給権を 否定する規定が、存在している。これを踏まえれば、連邦憲法裁判所は、特
定の場合には受給が不可能であることを前提として認めながらも、国内に滞 在するあらゆる外国人に、最低生活保障を求める基本権が帰属すると判示し たことになる。そして、その前提が基本権の要請に適合的かどうかについて は検討しなかった。この点において本判決は、「国内に滞在するあらゆる外 国人」に享有主体性があるとされるところの当該基本権と、個々の扶助法律 における扶助受給権との乖離を示している。もしも、当該基本権を享有する ことと、法律上の扶助受給権を有することとの間に隔たりがあるならば、基 本権の規範内容を明確にする観点から、この隔たりを埋めるような説明が必 要となるはずである。
( 3 )裁量による給付の存在
ただし、除外規定があることのみをもって、基本権の享有主体に関する連 邦憲法裁判所の決定が誤っているとか、説明が足りないと断ずるのはいささ か早計である。なぜなら、社会法典第12編では、除外規定とは別に、裁量に よる給付を法律上認めており、これにより、ドイツに滞在しながらも完全に4 4 4 給付から除外される4 4 4 4 4 4 4 4 4要扶助外国人が存在する余地は相当程度に狭くなってい るといえるからである。以降の検討にも関わるため、裁量による給付につい てここで若干説明しておく。
社会法典第12編第23条は、裁量による給付(裁量給付)の可能性を規定し ている(78)。これによって、給付主体は、事案に応じて必要と認める者には給付 を行わなければならなくなる。また以下に示すように、裁判所はこの規定に 基づいて、ある外国人に裁量による給付を与えるべきかを検討し、給付主体 に給付を義務付けうる。重要な点は、受給権から除外された者も、この規定 の適用対象となると解釈されてきており(79)、実際にそのように運用されている ことである。つまり、除外規定によって受給権を認められない外国人であっ ても、それだけであらゆる給付から締め出されることはないのである。この ことから、裁量による給付の規定が、給付主体及び裁判所による救済を受け る一つの可能性を保障するものであることがわかる。
3. 1. 2 2015年の連邦社会裁判所判決と2016年改正 ( 1 )2015年12月 3 日連邦社会裁判所判決(80)
原告は、ルーマニア国籍保持者の夫婦であり、2008年に彼らの二人の息子 とともにドイツにやってきた。EU 市民である原告夫婦は、扶助申請時には 実質的な滞在権をもたない状態(正規滞在の要件は満たしていないものの、
外国人局による滞在権喪失の証明が未だなされていない状態)であった。
2010年10月に社会法典第 2 編の基礎保障給付を申請したものの、却下され た。そのような中、当該判決において連邦社会裁判所は、原告らは、彼らが 申請した社会法典第 2 編の基礎保障給付ではなく、第12編の社会扶助を受け る権利があると判示した。いわく、原告夫婦のような、専ら求職を目的とし て滞在している者は、社会法典第 2 編における給付請求権から除外される し、彼らの場合実質的に滞在権を有していないのであるから、なおのこと給 付請求権を認めることはできない。しかし、社会法典第12編第23条第 1 項第 3 文による裁量給付を受けることができる。しかも、この裁量は滞在が始ま ってから 6 ヶ月経過すると、ゼロに収縮する、つまり給付を行うことが社会 扶助主体に義務付けられる。したがって、給付の申請時点で既に 6 ヶ月以上 ドイツに滞在していた原告らには、社会法典第12編による社会扶助を受ける ことが、裁量の余地なく認められる。
この判断に至るために連邦社会裁判所が引き合いに出したのが、他でもな い2012年判決であった。連邦社会裁判所は、人間の尊厳に値する最低生活の 保障への基本権が外国人にも認められること、そしてこの基本権によれば滞 在の地位に着目して外国人を一律に区分してはならず、滞在期間の長さで給 付額に差を設けようとするときにもそれは検証可能な方法で算定されなけれ ばならないという点を参照して、「これは、求職のみを目的とした滞在権が ある間、社会法典第12編第23条第 1 項第 3 文の裁量給付を通じて補償するこ とを許すもの(81)」であると述べた。さらに連邦社会裁判所は、2012年判決にお いて、短期間滞在者用の給付は長期間滞在者に与えられてはならず、実際の
期間がもはや短期間とはいえない場合は、通常の場合の給付に移行されなけ ればならないとされたことをもとに、専ら求職目的で滞在権を有しているこ とが理由で社会法典第 2 編から除外された外国人に対して行われるところの 社会法典第12編の裁量給付の裁量がゼロに収縮する、つまり、給付を行わな ければならなくなると述べた(82)。
なお連邦社会裁判所は、どのような場合でも、外国人が 6 ヶ月以上滞在し てさえいればいつも社会法典第12編の裁量給付が給付主体に義務付けられる わけではないと述べている。「〔裁量収縮が行われないような〕状況は実際の EU 市民の生活状況からみて、国内に長期間滞在しないことが推測される場 合に、とりわけ起こりうる。同じことは、外国人局がすでに具体的な滞在終 了の措置を開始した場合にも当てはまる(83)。」しかし、原告らは本件で問題と なっている期間そのような措置が取られることなく、ドイツに既に二年以上 滞在してきたため、裁量が収縮し、給付が義務付けられると述べた(84)。 ( 2 )2016年改正の内容
つまり連邦社会裁判所は、「ドイツに一定期間滞在した外国人はすべて、
国籍や滞在資格を問わず、最低生活を送ることを保障しなければならない」
という規範を2012年判決から読み取り、この要請に適合するように、就労能 力がある者に適用される社会法典第 2 編の給付から除外された原告の最低生 活を 本来彼らには適用されないはずの社会法典第12編所定の裁量給付を適 用することによって 保障しようとしたのである。この判決は、下級裁判所(85)
による激しい批判を受け、いくつかの裁判所はこれに従わなかった(86)。さら に、立法者は連邦社会裁判所判決が「地方自治体(Kommunen)に余計な 負担を与えた(87)」と評価し、2016年12月の法改正(88)によって、連邦社会裁判所の 判断を封じるような形で除外要件を追加した。すなわち、社会法典第 2 編と 第12編の両方から、この訴訟の原告のような①ドイツで就労しておらず、ま た正当な理由で失業している EU 自由移動権者でもない者、②滞在権を有さ ない者、③自身の滞在権が EU 規則492/2011第10条(89)のみから(あるいは求
職のみを目的として有する滞在権とあわせて)導いている者を、除外したの である(90)。また、「ドイツ連邦共和国における労働者でも自営業者でもなく、
EU 自由移動法第 2 条第 3 項に基づいた自由移動権者でもない者は、滞在開 始から 3 ヶ月の間は給付を受けることができない」という規定は、2016年改 正以前は第 2 編にのみ存在していたところ(3. 1. 1 参照)、2016年の改正に よって第12編においても設けられた。このようにして、社会法典第 2 編及び 第12編における受給権者の範囲は、より狭いものとなった。
3. 1. 3 本判決の限界
本判決の限界は、受給権者の範囲の狭小化に対して何らの統制も及ぼすこ とができないことにある。一方では確かに、2012年判決は、人間の尊厳に値 する最低生活保障を求める基本権はドイツに滞在するあらゆる外国人に帰属 すると判示し、その給付額ないし給付内容は、要扶助者各々の状況に即して 算定されたものでなければならず、必要とされる内容を下回らせることは、
いかなる移民政策的考慮によるものでも許されないと明言している。しかし 他方で、①要扶助状態にあっても受給権を認められない者が法律上存在し、
②これに対しては裁量による給付という受け皿があるにせよ、それが確実に 給付を受けることを保障するものではなく、さらに、③2012年判決とその趣 旨を汲んだ2015年判決を受けて、除外規定を見直すのではなくむしろそれに 逆行するように、さらなる除外規定の追加を立法者は行ったのである。とり わけ③が可能であったのは、2012年判決が、受給権の有無を問題とせず、つ まり端からなにがしかの受給権があることを前提として、その上で、給付内 容をいかなるものにすべきかという点を、問題としていたからであろう(91)。 これを当該基本権の規範的意義という側面からみると、当該判決の限界 は、「外国人に当該基本権が保障されている」ということの意味を、法律上 の受給権者の範囲との関係で、未だ明らかにできていない点にあるといえ る。当該基本権の要請によって、給付の内容が人間の尊厳に値する最低生活 を保障するにふさわしいものとなったとしても、受給権が認められない範囲