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世界に広がる日立の鉄道事業と その開発戦略

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(1)

デジタル技術で進化する鉄道システム F E A T U R E D A R T I C L E S

世界に広がる日立の鉄道事業と その開発戦略

石川 勝美|

Ishikawa Katsumi

水口 信章|

Mizuguchi Nobuaki

戸次 圭介|

Bekki Keisuke

Edoardo La Ficara

1. はじめに

世界の人口は,2060年までに100億人を超えると予測 されている1)。これに伴い,大量輸送手段としての鉄道 の重要性も高まっている。また,過去100年にわたって,

世界では大幅に都市化が進展してきた2)

今後もこの傾向は続くと想定され,都市交通,地下鉄,

および通勤車両の需要は,都市化の進展に伴い増加する 見込みである。一方で,人口増加と都市化の進行により,

CO2の排出量増加が深刻な社会問題となっており,CO2

排出量が少ない移動手段として鉄道への期待が高まって いる3)(図1参照)。また,2019年から2020年にかけて世 界中で感染が広がっている新型コロナウイルスへの対策 として,鉄道も新しい生活様式に対応することが求めら

れており,無人化やチケットレス化などの新しいニーズ が今後さらに高まってくると推測される。

こうした中,鉄道システム市場は,信号・制御,イン フラ,車両,サービスの四分野で,年率3%以上成長す

自家乗用車 航空 バス 鉄道

0 20 18

54

96

133

40 60 80 100 120 140 2018年度のCO2排出原単位(g-CO2/人km) 図1|輸送量当たりのCO2の排出量

鉄道が一人を1 km運ぶためのCO2排出量は,他の交通機関と比較して最も 低い。

注:

出典:温室効果ガスインベントリオフィス「日本の温室効果ガス排出量データ」国土交通省「自 動車輸送統計」「航空輸送統計」「鉄道輸送統計」より,国土交通省環境政策課作成

日立製作所の鉄道ビジネスユニットは,2015年にAnsaldo Breda S.p.A(現Hitachi Rail S.p.A)

とAnsaldo STS S.p.A(現Hitachi Rail STS S.p.A)をグループに加えて以降,2019年からは,

各社の強みを融合することで競争力の強化を図るべく,車両,信号・ターンキー,OS&M(運 用・サービス・保守)の三つのビジネスラインの体制へと変化した。

各ビジネスラインのコア技術を武器に,競争力のある製品ラインアップを充実し,世界各地に生 産拠点を広げており,世界をまたいだ各ビジネスラインの深化と連携により,イノベーションを通じ た新しい価値を提供し,社会のニーズに応えることで,よりよい社会の実現に尽くしていく。

本稿では,各ビジネスラインの開発状況と今後の開発戦略を述べる。

(2)

ると考えられている4)(図2参照)。

2019年1月に信号システム&ターンキー事業を展開し ていたAnsaldo STS S.p.A.(現Hitachi Rail STS S.p.A.)

が日立の100パーセント子会社となり,日立はターン キービジネスを含め,鉄道システムのインテグレータと なった5)。同年4月より,鉄道BU(Business Unit)はグ ループ各社の強みを融合することで競争力の強化を図る べく,車両(RS:Rolling Stock),信号・ターンキー

(S&T:Signal and Turn-key),運用・サービス・保守

(OS&M:Operation Service and Maintenance)の三つ のビジネスラインから成るグローバル体制を敷いた。本 稿では,その全容を紹介する。

2. 日立の鉄道の歴史とビジネス分野

2.1

日立の鉄道の歴史と生産拠点

1921年に日立製作所が日本汽船笠戸造船所を取得し,

鉄道車両の製造を担う笠戸工場が設立されてから,2021 年で100周年を迎える。1940年に設立された水戸工場は,

1961年には旧国分工場から昇降機部門を移管し,車両部 門と合わせた新たな拠点となった。電気品では,IGBT

(Insulated Gate Bipolar Transistor)インバータや蓄電池 応用製品,車両情報伝送装置をはじめとして,日本の公 民鉄に数多くの製品を出荷してきた。車両部門では,

1990年代後半に開発・実用化したアルミダブルスキン構 造とFSW[Friction Stir Welding:摩擦攪拌(かくはん)

接合]技術を武器に,受注を広げた。また,2003年には

Hitachi Rail Europe Ltd.を 設 立 し,2005年 に は 英 国 Class395を受注し,その後,Class395やIEP(Intercity  Express Programme:都市間高速鉄道計画),スコット ランドの通勤列車に関し,保守を含めたパッケージを受 注してきた。また,2015年には,Ansaldo Breda S.p.A.(現 Hitachi Rail S.p.A.)をグループに加え,生産拠点と競争 力のある製品ラインアップの充実を図ってきた。

信号・サービスの分野では,東日本旅客鉄道株式会社 のみどりの窓口※1)などの発券システムや運行管理シス テムを,信号制御の分野ではATACS(Advanced Train  Administration and Communications System)やCBTC

(Communication Based Train Control)に代表される無 線式列車制御システムを開発した。また,2000年に入る と,Suica※2)に代表されるIC乗車券システムなどの製品 を出荷し,世界各地のグループ会社や拠点と協調してグ ローバルにオペレーションを拡大してきた。

2020年8月現在,日立の鉄道部門は世界に11か所の生 産拠点を有し,鉄道システム事業におけるトータルソ リューションのリーディングカンパニーとしてさらなる 発展をめざしている(図3参照)。

2.2

ビジネス分野

日立の鉄道部門は,世界の鉄道市場に対応するため,

三つのビジネスラインに分かれている(図4参照)。

(1)車両ビジネス

新幹線電車や特急電車などの高速車両,通勤電車,モ ノレール,車両に搭載する空調・換気装置,台車などの 開発・設計・製造を手がける。また,インバータ制御装 置やハイブリッド駆動システム,車両情報伝送装置の開 発も行っている。

(2)信号・ターンキービジネス

ネ ッ ト ワ ー ク 信 号 制 御 シ ス テ ム, デ ジ タ ルATC

(Automatic Train Control:自動列車制御装置)運行管 理システム,旅客案内システム,鉄道用受変電システム を手がける。さらに,大規模プロジェクトとして鉄道シ ステム全体を提供する「ターンキー」ビジネスを手が ける。

(3)OS&Mビジネス

鉄道システムの販売・エンジニアリング・製造・保守 などを行う。さらに,旅客案内や発券・運賃収受など,

※1) JR(Japan Railways)グループの旅客鉄道各社が設置・営業する乗車券類 発売所の一種。

※2)Suicaは,東日本旅客鉄道株式会社の登録商標である。

(兆円)

13.1 1.4 2.7

4.8

4.2

1.8 3.3

5.9

4.9 信号制御

インフラ

車両

サービス

15.9 3.2%

2.9%

3.1%

3.1%

年平均成長率(年)

2013〜2015 2019〜2021

3.5%

図2|鉄道システム市場における製品別の市場成長率

鉄道システム市場は,信号・制御,インフラ,車両,サービスの分野で,年 率約3%のペースで市場が成長すると考えられている。

(3)

駅の運営や列車の運行におけるオペレーションサービス を行う。

さらに,三つのビジネスラインが連携して開発を進め ることにより,B2B(Business to Business)のみなら ず,B2C(Business to Customer)のビジネスを通して,

モビリティ分野のシステムインテグレータとして,イノ ベーションを通じた新しい価値で社会のニーズに応え,

よりよい社会の実現に全力を尽くしている。

3. 車両ビジネスの開発状況と展望

3.1

車両の開発状況

アルミダブルスキン押し出し型材とFSW技術を用い

た車体構造をベースに,2000年を前にして,アルミ押し 出し形材を中空箱型断面にしたダブルスキン構造を特長 に持つA-trainコンセプトを打ち出した。高剛性・軽量 化・無塗装化により,環境負荷やライフサイクルコスト を低減し,かつ,部品の自立型モジュール化による部品 点数の徹底削減により,生産方式の抜本的改革を実現し た。また,先頭構造においては,5軸加工機を用いてア ルミ材を自由曲面加工する技術を開発し,多様な顧客 ニーズに高い品質で応えることが可能となった6)

また,新幹線電車においては極限の軽量化・低騒音化・

トンネル突入微気圧波性能が求められており,開発した シミュレーション技術を駆使し,何万回にも及ぶ自動計 算により,車体構造を最適化設計している。

2015年には世界に先駆け,電化区間ではパンタグラフ からの給電で走行し,非電化区間ではエンジン発電機に

日本アジ

30 米州10

フリカ60 連動装置

CBTC

衛星利用の 列車制御システム

コンポーネント

TMS

ETCS

無人運転

車両保守 車両改修 信号O&M アセット

マネジメント 設備管理

超高速車両

新幹線車両

通勤車両

都市間/

近郊車両

トラム

メトロ

モノレール

コンポーネント

2018年度 売上収益 6,165億円

SDGs

50

10 40

OS&M

信号ター 車両

図4|鉄道BUの構成

日立の鉄道BU(Business Unit)は,世界の鉄道 市場に向け,車両ビジネス,信号・ターンキービジネ ス,OS&Mビジネスの三つのビジネスラインでさまざま な製品群に対応している。

注:略語説明

SDGs(Sustainable Development Goals),CBTC(Communication Based Train Control) TMS(Train Management System),ETCS(European Train Control System) OS&M(Operation Service and Maintenance),O&M(Operation and Maintenance)

米国 ピッツバーグ

車両 イタリア ピストイア

車両

米国 マイアミ 車両 米国 ベイツバーグ 信号システム

イタリア ティート スカロ 信号システム フランス リオン

信号システム 英国 ニュートン エイクリフ 車両

イタリア ナポリ 電気台車

日本 笠戸 車両台車

日本 水戸 電気信号システム イタリア レッジョ カラブリア

車両

図3|グローバルに広がる11の生産拠点 世界各地に広がる生産拠点は,11か所に上る。世 界各地のオフィスや,工場,サービス&保守施設で は約1万2,000名の従業員が,50件を超えるプロジェ クトに取り組んでいる。

(4)

デジタル技術で進化する鉄道システム F E A T U R E D A R T I C L E S

より走行するBi-mode車両を英国向けに開発し,走行試 験を開始した。現在は1,200両以上の車両が営業運転に投 入されている7)

3.2

車両開発の展望

全世界でSDGs(Sustainable Development Goals)が クローズアップされる中,2030〜2050年度に向けたCO2

排出量低減目標が見直されつつある。これに対し,非電 化区間をBi-modeで走行している車両のエンジン発電機 を取り外して電池を搭載する計画や,一般的な電車に電 池を搭載して非電化区間にも乗り入れ走行できるように する計画,燃料電池を用いる計画などが本格化しつつあ り,あらゆるタイプの省エネルギーな新型車両の開発が 求められている。

飛行機に代わる輸送手段として,英国,インド,米国 などで高速鉄道の導入が計画されており,また,バスに 代わる輸送手段として,パナマや新興国ではモノレール が計画されている。

こうしたニーズに応えるためには,車両のプラット フォーム化開発が重要である。また,これらの車両の開 発・設計・製造に関しては,グローバルで共通化するた めのIT環境を整備し,各生産拠点でリアルタイムに活用 することで顧客への納入リードタイム短縮やコスト低減 に役立てている。グローバル体制におけるIT活用を,今 後も継続して推進していく。

3.3

車両電気品の開発状況

鉄道車両の駆動システムは1980年代からインバータ 化が進み,日立が1992年に世界初のIGBTインバータの 初号機を帝都高速度交通営団(現 東京地下鉄株式会社)

に納入して以来,急激に機器の小型化・高効率化が進ん だ8)。その後,日立は最先端のSiC(Silicon Carbide:炭 化ケイ素)のパワーデバイスを適用した鉄道への応用に 早期に着手し9),10),SiCパワーデバイスを搭載した電力 変換器を数多く製品化した。また,誘導電動機(IM:

Induction Motor)分野では,世界トップクラスの規約効 率97%を超えるIMや,規約効率が98%を超える永久磁 石同期電動機(PMSM:Permanent Magnet Synchronous  Motor)などの強いコンポーネントを開発した11)。さら には,高精度・高機能なシミュレーションを駆使して,

電力変換回路や電動機に発生する損失を詳細に解析する 技術を開発し,インバータの制御技術などを高度化して

きた。

また,蓄電池応用システムでは,ディーゼルエンジン と蓄電池を組み合わせて気動車の燃料消費量を低減する

「シリーズハイブリッド駆動システム」を,2007年に東 日本旅客鉄道株式会社へ納入したキハE200形にて実用 化した12)。さらに,蓄電池制御を電車の主回路システム に応用することで「回生吸収」と「高速域回生拡大」を 実現し,電力を有効に活用する「高効率回生システム」

へと展開させた。また,交流架線から充電した蓄電池で 非電化区間を走行する交流架線式蓄電池電車の製品化に 成功し,2016年に九州旅客鉄道株式会社向けBEC819系 として納入した13)

3.4

車両電気品開発の展望

車両電気品のラインアップは充実しており,顧客の ニーズに合ったシステムを提案することができる。今後 は他社とのさらなる差別化に向け,競争力のある個別コ ンポーネントの開発,解析技術の高度化,さらには,メ ンテナンス・寿命設計を含めた予防保全技術の開発に注 力していく。また,キーデバイスとなるパワーデバイス として,Si-IGBTの高性能化や,次世代SiC素子の開発を 進めていく。

欧州では環境の規制強化がいち早く進んでおり,英国 では,2019年6月の議会で,2050年までにCO2の排出量 を実質ゼロとする法案が可決された。また,同地域では 蓄電池や燃料電池の需要が高まり,自動車分野でも電気 自動車の普及が広まると予想される。日立は,シリーズ ハイブリッド駆動システムや交流架線式蓄電池電車,車 上蓄電システム,緊急走行システムなど数多くの製品で 培った技術をグローバルに展開するとともに,車両部門 とも連携しながら,環境に配慮した魅力的な製品を提供 していく。また,さらなるCO2の削減に向け,燃料電池 応用技術の開発を進めていく(図5参照)。

4.  信号・ターンキービジネスの 開発状況と展望

4.1 開発状況

国内および海外における信号・ターンキービジネスに おける技術と市場の動向を図6に示す。

国内では1990年代に入ると,WS(Work Station)や PCの性能が格段に向上し,大規模高速ネットワークのイ

(5)

ンフラも整備されてきたため,大規模分散型制御システ ムの導入が進んだ。代表的なシステムとしては東日本旅 客鉄道のATOS,COSMOSなどの運行管理システムや,

SAINT(Shinkansen ATC and Interlocking System)な どの信号システムがある。

信号制御の分野においては,ATACSやCBTCに代表さ れる無線式列車制御システムが開発された。この方式で は,地上設備を低減し,単線複線運転など柔軟な運行制 御を行うことが可能であり,導入検討が進められている。

今後,自動運転システムに対するニーズが増加すると,

自動運転と親和性の高い無線式列車制御システムの導入 が進むと考えられる。

鉄道情報システムでは,座席指定券類の予約システム MARS※3)(Magnetic-electronic  Automatic  Reservation  System)や,輸送計画を作成するシステムなど,業務系 システムが導入されてきた。2000年から導入された Suicaに代表されるIC乗車券は,現在では重要な電子マ ネーの一つとしても人々の生活に浸透している。

日立は,制御システムから情報システムや旅客サービ スシステムに至るまで,幅広いシステムの開発・導入を 進めてきた。1990年代からERTMS/ETCS(European  Rail  Traffic  Management  System/European  Train 

さまざまなバッテリーシステムを開発

ハイブリッド駆動システム

東日本旅客鉄道株式会社キハE200形(2007年)

交流架線式蓄電池電車

九州旅客鉄道株式会社BEC819系(2016年)

車上蓄電システムおよび緊急走行システム 京王電鉄株式会社5000系(2017年)

燃料電池車両主回路システム(試験電車)

東日本旅客鉄道株式会社NEトレイン(2006年)

英国(IEP向け)車両営業開始 Great Western Main Line(2017)

East Coast Main Line (2019)

日本発の基礎技術の展開

2050

CO2ゼロエミッション※)

2050年までに英国で CO2排出量Netゼロをめざす 日本で培った蓄電池, 燃料電池応用技術を世界に展開

イタリアへの展開 フィレンツェのトラムで実証試験開始

(2020年)

高速車両へ展開(2021年)

将来の対応

・ 2050年までに鉄道車両の 気動車を全廃

・ 車体軽量化技術, 省エネルギー 電気品技術の融合

・ 蓄電池車と燃料電池車の住み

分け 日本での先行開発

世界に先駆けて2000年に 電池プロジェクト発足 さまざまなバッテリーシステムを 開発し, 海外へ応用 ・ 展開

英国での実績 独自の開発により標準型の 低環境負荷鉄道車両を導入

NOxなど排出量大幅削減  PM −約90%

NOx −約60%(既存車比)

IEP導入時の効果 図5|蓄電池・燃料電池技術を応用した環境改善への取り組み

日立は,世界に先駆けて鉄道車両用蓄電池・燃料電池技術の開発に取り組み,英国やイタリアに展開しており,欧州でのCO2規制にいち早く対応している。

注:略語説明ほか

IEP(Intercity Express Programme:都市間高速鉄道計画),NOx(窒素酸化物),PM(Particulate Matter)

※)2019年6月英国国会にて,2008年気候変動法改正法案が可決された。

※3)MARSは,鉄道情報システム株式会社の登録商標である。

技術動向製品

提供するビジネスモデル 1985

信号 運行管理 ターンキー OS&M デジタル 1995

コンピュータ化 制御の自動化

先進技術を 活用した製品 コンピュータ,

ネットワーク

国際標準製品 大規模情報制御

トータル ソリューション&

サービス

デジタル ソリューション 情報制御システムの大規模高度化

ATOS, COSMOS, 無線式列車制御 国際標準 規格化 フルパッケージ化

デジタル化 AI活用 5G 活用 IoT クラウド

高機能化 高付加価値 製品の提供

時代と地域の ニーズに合った ビジネスモデル を検討,構築 廉価価格競争 コモディティ化

2005 2015

図6| 国内外における

技術動向とビジネスモデル

日立は自動化のためのコンピュータ導入の時代から,

先端技術や世の中のニーズに常に応え続けている。

注:略語説明

AI(Artifi cial Intelligence),5G(Fifth Generation),IoT(Internet of Things)

(6)

デジタル技術で進化する鉄道システム F E A T U R E D A R T I C L E S

Control System)をはじめとする国際規格の検討に着手 し,現在に至るまで,国際規格に準拠した製品の開発を 続けている。

また2000年からは,フルターンキーの契約の下で信号 システムを提供できるよう,国際規格に準拠する信号製 品を配置し,プロジェクト推進を含むトータルソリュー ション&サービスを提供するなど,フルパッケージの信 号システムの整備を進めてきた。

日立の鉄道事業としてグローバルでビジネスを展開し てきた国と地域,および近年納入した代表的なシステム を図7に示す。

4.2 今後の展望

国内においては少子高齢化が急速に進みつつあり,鉄 道においても,熟練者の退職に伴う人手不足や交通弱者 の増大,過疎化地域への鉄道交通の維持といった課題が ある。また,東日本大震災をはじめとする地震や近年の 度重なる大型台風の上陸など,自然災害に対する強靭(じ ん)化を進めていくことが必要である。

一方,今後の技術のトレンドとしては,次世代無線通 信 規 格 で あ る5G(Fifth Generation) の 活 用 や,AI

(Artifi cial Intelligence)の応用による運行指令業務など の高度かつ人間のオペレーションに近い自動化,鉄道車 両の自動運転,IoT(Internet of Things)を活用したメ ンテナンスの高度化などがある。また,ICT(Information  and Communication Technology)を活用することで移

動(モビリティ)をサービスとして捉え,シームレスに つなげる新しい移動の概念としてMaaS(Mobility as a  Service)の実現が期待されており,そこでは鉄道が重要 な中核の役割を担うと考えられる。そのため,ここで述 べた最新技術を鉄道システムに導入し,MaaSに代表さ れる新しい移動サービスの概念を実現していくことで,

今後の社会のニーズや課題解決に貢献できると考えて いる。

また,海外においては,国際標準・規格に準拠した製 品を求められる。今後,中国などの信号メーカーが海外 進出を強力に推進すると想定されるため,国際標準・規 格に準拠した製品のコモディティ化が急速に進むものと 思われる。また,海外においても,日本国内と同様,地 域ごとの課題の解決に向け,AIの応用や5Gの活用といっ たデジタル技術の導入が強く期待されている。

以上を踏まえ,日立は,デジタル化に関する最新技術 を鉄道システムに積極的に導入することで,社会に貢献 する付加価値の高いシステムの開発を進め,提供してい く所存である。

5. OS&Mビジネスの現況と展望

日立の鉄道事業のOS&M部門は,車両・信号設備分野 のS&M(Service and Maintenance)のリソースを,ター ンキー,信号インフラ,各種設備のO&M(Operation and  Maintenance)と組み合わせ,各地の営業部門と密に連

フランス 信号システム CBTCをベースとした 技術によるパリ地下 L6の更新

デンマーク ターンキー サービス&メンテナンス

コペンハーゲンメトロ におけるダイナミック ヘッドウェイに関する 協創

インド 信号システム デリー―ムンバイ間 信号および通信シス テム

日本 信号システム/TMS 東日本旅客鉄道 株式会社向け 自律分散型輸送 コントロールシステム

ベトナム ターンキー ベトナム初となる 近郊列車の建設 オーストラリア

信号システム リオティント社との 協創により,初の無人 運転による重量貨物 の輸送を実現 サウジアラビア

信号運用保守 リヤドノウラ王女大学 向けドライバレスメトロ イタリア

信号システム イタリア高速鉄道

IRICAV向け信号 システム ヴェローナーブレシア 間信号システム ペルー

ターンキー リマ地下鉄のL2 L4 路線の建設および O&M 米国

車両/信号システム ボルチモア地下鉄 新車両78台および CBTCシステムの 納入

英国

信号運行管理システム テムズリンク向け運行 管理システム 新車既存車向け ETCS車上信号装置 電子連動装置更新

図7|グローバルにおける納入システム

日立はターンキー形態のプロジェクトも含め,全世界に鉄道信号システムを納入している。

(7)

携し,グローバルなフルサービスプロバイダーとして顧 客へのアプローチを強化している。

OS&M部門は,グローバル事業開発,入札,営業,プ ロジェクト管理,調達,品質管理,保全エンジニアリン グなどの部署から成り,これらの部署は,国や地域ごと のローカル市場でサービスを展開・管理するOS&M部門 全体をサポートしている。

日立は世界各地で大規模な鉄道関連プロジェクトを 次々と展開しており,OS&Mの対象製品と事業エリアは 多岐にわたる。現時点での課題は新興市場の開拓であり,

事業シェアの拡大にあたってはOS&Mの役割が非常に 重要となる。O&M市場では,コントロールセンターの 運用や運賃の徴収,施設管理,インフラ保守,駅の運用,

カスタマーケアといったコアサービスの提供がより重視 されるため,サービスの幅が広く,競争も激しい。

今後はこれまでに培った大量輸送システムの運用実績 を生かして交通機関のS&M市場に参入し,フルサービス プロバイダとしてデジタル技術を通じた設備管理市場の リーダーとなることをめざしていく。

6. おわりに

本稿では,日立の鉄道事業の歩みと技術開発の現況,

今後の展望について述べた。

本特集では,車両ビジネスにおける新型車両の開発,

省エネルギー化に資するPMSMシステム,CO2排出量低 減に貢献する車載蓄電池システムや,自動運転技術,運 行制御技術,さらには将来の旅客サービスや日立の OS&Mの詳細について,7編の論文で紹介する。本特集 で紹介する技術はいずれも,日立の鉄道システムの将来 の基礎になるものと考えている。

今後はこれらの技術を基にさらなる技術開発を進め,

未来の地球の移動を担う鉄道システムの構築に取り組ん でいく。

執筆者紹介

石川 勝美

日立製作所 鉄道ビジネスユニット COO(Rolling Stock) Japan Office 所属

現在,車両・電気品ビジネスのグローバルの開発取りまとめ業務 に従事

博士(工学)

電気学会上級会員

水口 信章

日立製作所 鉄道ビジネスユニット COO(Rolling Stock) Japan Office 所属

現在,車両・電気品ビジネスのグローバル生産・戦略・開発取 りまとめ業務に従事

戸次 圭介

日立製作所 鉄道ビジネスユニット 所属

現在,信号・ターンキービジネスの戦略・開発取りまとめ業務に 従事

博士(工学)

技術士(情報工学部門)

情報処理学会会員,電子情報通信学会会員,電気学会会員,

信頼性学会会員,IRSEフェロー Edoardo La Ficara Hitachi Rail STS S.p.A.所属

現在,COOとしてOS&M部門の統括業務に従事

参考文献など

1)United Nations: World Population Prospects 2019(2019.6)

2)United Nations: World Urbanization Prospects 2018(2018.5)

3)国土交通省,運輸部門における二酸化炭素排出量(2020.4) https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/environment/sosei_

environment_tk_000007.html

4)UNIFE World Rail Market Study 2016(2016.9)

5)日立ニュースリリース,アンサルドSTS社の100パーセント子会社化 と上場廃止について(2019.1)

https://www.hitachi.co.jp/New/cnews/month/2019/01/0122a.

html

6)宮本俊治,外:環境対応型の新しい車両コンセプト“A-train”,

日立評論,83,8,511〜514(2001.8)

7)岩崎充雄,外:英国IEP(都市間高速鉄道計画)向け高速車両 Class 800/801の開発,日立評論,96,9,566〜572(2014.9)

8)豊田瑛一,外:IGBT応用3レベルインバータの開発,第30回鉄道 におけるサイバネティクス利用国内シンポジウム論文集,30th,

pp.355-359,日本鉄道サイバネティクス協議会(1993.11)

9)日立ニュースリリース:3kV級SiCダイオードを搭載したパワーモジュー ルを開発−鉄道車両インバーターの電力変換損失を約3割低減 可能に−(2009.4)

http://www.hitachi.co.jp/New/cnews/month/2009/04/0421b.

pdf

10)石川勝美,外:SiCダイオードを搭載した鉄道インバータ,第46回 鉄道サイバネ・シンポジウム論文集,46th,506,日本鉄道サイバ ネティクス協議会(2009.11)

11) 小川和俊,外:フルSiCモジュール適用高効率8極PMSMシステム の開発,第56回鉄道サイバネ・シンポジウム論文集,56th,501,

日本鉄道サイバネティクス協議会(2019.11)

12)畑正,外:JR東日本キハE200形用主回路システム,鉄道サイバ ネ・シンポジウム論文集,44th,502,日本鉄道サイバネティクス 協議会(2007.11)

13)永浦康弘,外:蓄電池駆動システムにおける最新技術と展望,

日立評論,98,10-11,625〜629(2016.10)

参照

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