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日本語学習者は日本語の発音を どのように学習してきたのか

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研究ノート

研究ノート

日本語学習者は日本語の発音を どのように学習してきたのか

―ドイツ・イギリス出身の学習者の語りから―

大戸 雄太郎

要 旨

本研究では、日本語学習者が日本語の発音をどのように学習してきたかを明らか にし、学習者の立場から見た音声教育のあり方を考察する。ドイツまたはイギリス 出身の学習者のインタビューの結果から、ドイツやイギリスの大学では日本語の発 音学習経験が少ないことが分かった。また、学習者は主に日本で母語話者と話す中 で、言いたいことが伝わらない経験をしており、日本語の発音に意識を向けるよう になったことが分かった。したがって、日本語での円滑な音声コミュニケーション を目指すためにも、大学の授業の中でも日本語の発音を意識する機会を増やすべき であると提言する。

キーワード

日本語音声教育 音声コミュニケーション ヨーロッパ 学習リソース 意識化

1

.はじめに

1.1 研究背景

日本語で音声コミュニケーションをする際、言いたいことを正しく伝えるために発音は 重要である。それゆえ、コミュニケーションを目的とした日本語教育において、適切な音 声教育を行うことが求められる。しかし、音声教育が体系的にカリキュラムに取り入れら れることは少なく、あまり行われていない現状がある。特に、ヨーロッパでは、アジアに 比べて、日本や日本語と地理的・言語的に距離があることから、日本語によるコミュニケー ションを意識しづらく、日本語の音声や音声教育に意識が向けられることはより少ないと 考えられる。その要因として、国際交流基金(2017)の2015年の調査によると、ヨーロッ パの学習者の日本語に対する関心を支えるのは、「ポップカルチャーのみならず、高等教育 機関における日本研究の伝統など」(p. 37)が挙げられており、いずれもコミュニケーショ ンの必要性を感じにくい。では、ヨーロッパの日本語音声教育は実態としてどのように行

論文の種類(研究論文・展望論文・研究ノート)は入力してください。

研究ノート

日本語学習者は日本語の発音を どのように学習してきたのか

―ドイツ・イギリス出身の学習者の語りから―

大戸 雄太郎

要 旨

本研究では、日本語学習者が日本語の発音をどのように学習してきたかを明らか にし、学習者の立場から見た音声教育のあり方を考察する。ドイツまたはイギリス 出身の学習者のインタビューの結果から、ドイツやイギリスの大学では日本語の発 音学習経験が少ないことが分かった。また、学習者は主に日本で母語話者と話す中 で、言いたいことが伝わらない経験をしており、日本語の発音に意識を向けるよう になったことが分かった。したがって、日本語での円滑な音声コミュニケーション を目指すためにも、大学の授業の中でも日本語の発音を意識する機会を増やすべき であると提言する。

キーワード

日本語音声教育 音声コミュニケーション ヨーロッパ 学習リソース 意識化

1

.はじめに

1.1 研究背景

日本語で音声コミュニケーションをする際、言いたいことを正しく伝えるために発音は 重要である。それゆえ、コミュニケーションを目的とした日本語教育において、適切な音 声教育を行うことが求められる。しかし、音声教育が体系的にカリキュラムに取り入れら れることは少なく、あまり行われていない現状がある。特に、ヨーロッパでは、アジアに 比べて、日本や日本語と地理的・言語的に距離があることから、日本語によるコミュニケー ションを意識しづらく、日本語の音声や音声教育に意識が向けられることはより少ないと 考えられる。その要因として、国際交流基金(2017)の2015年の調査によると、ヨーロッ パの学習者の日本語に対する関心を支えるのは、「ポップカルチャーのみならず、高等教育 機関における日本研究の伝統など」(p. 37)が挙げられており、いずれもコミュニケーショ ンの必要性を感じにくい。では、ヨーロッパの日本語音声教育は実態としてどのように行

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われているだろうか。

磯村(2001)は、46カ国216人のノンネイティブ日本語教師にアンケート調査を行い、

日本語のアクセントの知識や指導について調査した。いずれの日本語教師も日本語のアク セントについて概論的な知識を有していたものの、複合語のアクセントなど個々の具体的 な知識を有している教師は少ないことが分かった。また、中国では教材にアクセントが記 載されており、アクセントの指導も9割近く行われており、タイでも「教えている」教師 が半数であるが、ヨーロッパの国々では「教えていない」教師が6~7割を占めることが 分かっている。アクセントを教えていない理由として、アクセントを教えるべきだと考え てはいるものの、ノンネイティブであるためか自身のアクセントに自信がなく、教えたく ても教えられないという状況が報告されている。

林(2009)は、ドイツの2つの大学での教師の聞き取り調査と、大学で使用されている 教材の調査から、ドイツの音声教育について述べている。そこで、「ドイツの大学教育の中 で『読み』『書き』『文法』の知識習得が日本語教育に求められ」(p. 27)、「『音声』しかも イントネーションの体系的な練習までは、なかなか扱われない」(p. 27)現状を明らかに している。加えて、「多くの現場では、音声面、特にリズムやイントネーションの指導や学 習が、いまだに学生と教師の直観や力量に委ねられている」(p. 28)現状を示唆している。

また、音声まで扱えないカリキュラムや、留学すれば音声は自然に身に付くとする教師の 考え方に問題があると述べている。

以上のように、ヨーロッパでは音声教育が十分に行われてこなかったことが示唆される。

上記の文献はいずれも教師の立場からの現状の把握であるが、学習者の立場からは音声教 育はどのように捉えられるだろうか。

1.2 研究目的

本研究の目的は、学習者らが日本語の発音をどのように学習してきたかを明らかにし、

学習者の立場から見た音声教育のあり方を考察することである。研究目的を明らかにする ために、ヨーロッパ出身の学習者のうち、ドイツまたはイギリス出身の学習者を対象にイ ンタビューを行った。

2

.研究方法

2.1 インタビューの概要

本インタビューは、2016年12月~2017年7月に行った。協力者にはインタビューの 質問項目を前日までに伝え、よく考えてもらったうえで、フェイスシート記入後に質問項 目に沿った半構造化インタビューを行った。インタビューの質問項目を以下に示す。

1.どのように発音を勉強していたか

2.どうしたら自分の発音がもっと良くなるか

3.日本語の発音を勉強するための教材を知っているか 4.自分の日本語の発音をどう思うか

5.日本語の発音で困ったことはあるか

(3)

6.イギリス人とドイツ人の日本語の発音にはどのような特徴があるか

インタビュー実施後に筆者が文字化し、分析を行った。文字化資料作成には戸田(2008) を参照した。また、分析には佐藤(2008)を参照し、オープンコーディング、焦点的コー ディングを行った。その上で、今回の分析観点である発音学習に関連するコードに着目し ながら考察・記述を行った。

2.2 インタビュー協力者

本インタビューの協力者は、ドイツ出身の学習者(以下、GS)5名と、イギリス出身の 学習者(以下、ES)5名の計10名であり、早稲田大学・大学院在学中の学生である。い ずれも半年以上日本に滞在しており、インタビューに答えられる程度の日本語能力を有し ていたが、必要に応じてドイツ語や英語を媒介してインタビューを行った。協力者の情報

(性別、年齢、母語、母方言、生育地1、日本語学習期間)を表1にまとめる。

表1 インタビュー協力者の情報

名前 性別 年齢 母方言 生育地 日本語

学習期間 GS1 女性 22 なし(標準語) ドイツ:シュトゥットガルト 6年程度 GS2 男性 34 ケルン方言 ドイツ:ケルン 5年程度 GS3 女性 29 シュバーベン方言 ドイツ:シュトゥットガルト 9年程度 GS4 女性 29 なし(標準語) ドイツ:ニュルンベルク 4年程度 GS5 男性 29 なし(標準語) ドイツ:ハノーヴァー 7年程度 ES1 女性 21 南イングランド方言 イギリス:バーミングハム 4年程度 ES2 女性 20 南イングランド方言 イギリス:ロンドン 7年程度 ES3 女性 23 南イングランド方言 イギリス:ブリストル 4年程度 ES4 男性 23 南イングランド方言 イギリス:ロンドン 2年程度 ES5 女性 21 南イングランド方言 イギリス:ウィンチェスター 3年程度

3

.研究結果

分析の結果、発音学習経験は、「学習時期」と「学習環境」によって異なる特徴があるこ とが分かった。そのうち、「学習環境」が異なると、学習内容により大きな違いが見られる ことが分かった。そのため、本研究では「学習環境」を上位カテゴリーとし、「学習時期」

を下位カテゴリーとした。「学習環境」の観点では、「大学の授業」と「大学の授業以外」

に分けられ、「学習時期」の観点では、「来日前」と「来日後」に分けられた。本章ではカ テゴリーごとに分析結果を示す。

(4)

3.1 大学の授業での発音学習経験 3.1.1 来日前の発音学習

いずれのGS・ESも、それぞれの出身地であるドイツやイギリスの大学の授業で日本語 を勉強した経験を持つ。まず、GSが経験したドイツの大学の授業を示す。

GS3:まあ、授業は大体……読解、文法、漢字、の授業に……分けられて、うん……

でも、ま、もちろん……なんか、単語を勉強してるときとか、読解の前?ちょっと その……文章、CDから聞いたら、練習があったんだけど、ちゃんとその……アク セントとか、そういう……詳しいところの説明がありませんでした。

GS4:そうです。大学で、あの、発音の授業はなかったです。あのー、最初、あのー Q大学で、三年間?Bachelorの時に、まー、「元気」?分かりますか、「元気」と いう教科書、それで勉強して、で、最初から、先生みんな日本人、みなさん日本人、

で、まー色々、なんか例えば、文を読んでくれて、みんなが、あのー、リピートし ました。それだけで?発音は勉強しました。後で、聞く練習とか、それは、その後 自分で、あのー、リピートしたりとか、でもそれ以外はなかったです。

GS1:はい……あの、大学の四年生の授業で、あの……ちょっとなんか、最後……の、

部分で、なんか、「いいよ(平坦なイントネーションで)」と、「いいよ(高低幅の あるイントネーションで)」?の発音の練習しましたけど、なんか、これは結構…… なんか、(勉強したのが)遅かったので、なんか、これはもう……なんか、分かり ましたけど、あんまり役に立たな……ないと思いますけど……(中略)もう、みん な分かったと思いますので、ちょっと……

GS3、GS4の語りからは、読解などの授業において、CDを聞く練習、またそれをリピー トする練習があり、それのみが二人にとっての発音学習だったことが分かる。しかし、「詳 しいところの説明がありませんでした」「それ以外はなかった」など、発音についての具体 的な説明はなく、さらにリピート練習以外の練習方法も経験したことがないことが分かる。

また、GS1 は、日本語専攻だったにもかかわらず、「大学の四年生の授業」でようやくイ ントネーションの違いについて少し触れられたようだが、「役に立たなかった」と捉えてい ることが分かる。したがって、ドイツの大学の授業で発音をきちんと学習した経験を持つ GSは見られなかったことが分かる。

一方で、ESが経験したイギリスの大学の授業は少し内容が異なっている。GSと同じよ うに、大学では発音に特化した授業がなかったと語るESも見られたが、ES1とES2はイ ギリスの大学で発音の学習経験があった。

ES1:授業で……初めに、なんか……なんか、状況とかを学んだ前に、例えば、ビー トボクシングみたいに、ビートがあって、こういう発音の勉強をしましょうって、

先生が、イントネーションのビートで言って、私たちもなんか、もう言ってみた、

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という練習でした。(中略)なんかあの時、ちょっと(発音が)良くなったと思い ましたけど、{二人の笑い声}なんか、どうやって、全部の言葉を全部の言うこと とかに、使うか、とか、ちょっと分かりませんでした。そしてあの時、授業の……

あ、授業以外にあんまり日本語を使わなかったので、そういう練習、は、あんまり 話す能力に影響を与えなかったと思います。うん。もし、毎日毎日日本語を使った ら、ちょっと、練習できたと思いますが、ちょっと忘れてしまった。

ES2:個人先生と一緒に勉強した時は、(ピッチアクセントを)全然知りませんでし たが、大学に入って、専攻が日本語で……二年生の時、カタカナの言葉を、和製英 語か外来語を勉強した時、先生が、初めて、教えてくれました。その前は、全然知 りませんでした。

ES1 は、「話し方の授業」を受講しており、ビート(拍)の感覚を学習し、発音方法ま で教わっている。一度は発音が「ちょっと良くなった」と認識したようであるが、それか ら「日本語を使わなかった」ことを理由に、「あんまり話す能力に影響を与えなかった」と 述べている。すなわち、発音方法が身につかず実践的ではないと捉えていると言える。ES2 は、個人レッスンの受講経験もあるが、初めて発音について学習したのは大学の日本語専 攻の授業であると述べている。そこではピッチアクセントを音韻的知識として学習したよ うである。しかし、3.1.2 に示すとおり、ES2は来日後にも大学の授業で発音学習経験が あるものの、まだ発音に自信を持てていないことが分かっている。したがって、イギリス の大学の授業で発音をきちんと学習した経験を持つESはいるが、発音学習の効果が表れ ていると認識してはいないことが分かった。

このように、GSとESの語りからは、大学の授業で発音が扱われるかどうかについて、

ドイツとイギリスで差がある可能性が示唆された。一部イギリスの大学の授業で、音韻的 知識や発音方法を学習した例も見られたが、ほとんどの場合は、CD などの音声のリピー ト練習に留まっていることが分かった。

3.1.2 来日後の発音学習

いずれのGS・ESも調査時には日本に滞在していたが、来日直後から調査時点の間に、

大学で日本語の授業をどの程度受講したかどうかは個人によって異なる。来日後の大学で、

発音に特化した授業で発音について学習した経験については、GS2、ES2、ES4の3名が 語っている。

GS2:先生はあの、そういう(手を使う)動きを教えてくださったんですけど、なん か、「こっか」、「こっか」(手を開いて)とか、他には何があるかな?分かんない…… あー……さっき、「ヴァット」とか、それも、そういう、そういう動きしたら、多 分あの、発音しやすいかもしれません。

ES2:はい。で、二年生の時の……、二年生の時に初めて、ちょっとだけ勉強してて、

で、早稲田に来て、早稲田での発音の授業を取って、そこでももうちょっと勉強し

(6)

ました。(中略)でも……この授業で、教科書を使って勉強しましたが……

CD

も あって、

CD

を聞いて、えっと、

CD

の人が言ったとおりに言ってみますが、うー ん……ちょっと……あまり、これだけがあったら、線(ピッチ曲線)が……線なし でこれが、どうやって発音するのかまだ分かりません。

ES4

:あー……

phonetics

……あー、

like stress

……

stress patterns

……

pitch patterns

……はい。(中略)とても便利です。大切です。あー……

Studying I did is very useful.

GS2

は手を使う発音方法を、

ES2

はピッチ曲線を用いた発音方法を、

ES4

はアクセン トの音韻的知識を、それぞれ学んだようである。

GS2

は、難しい発音を、手を動かしなが ら発音しており、授業で学習した方法を活用していることが分かる。

ES2

は、

CD

の音声 やピッチ曲線などの情報を得て発音する練習をしたものの、まだ「線なしで」「どうやって 発音するのか」分からないようである。

ES4

は、発音に特化した授業で何を学んだかを尋 ねたところ、ピッチアクセントのパターンなどを答えた後に、それらの知識がとても役に 立ったと答えている。以上の語りから、日本の大学の授業では、発音を扱った複数の授業 があることが分かる。

一方、発音の授業をあえて受講しなかったことについて、

GS5

が語っている。

GS5

:まあ……あー、もっと……(発音を)勉強した方がいいとは思うんです。もっ と、あー重視した方がいいと思います。重視、重視。(中略)今、日本に……いた 時以外は、その(発音の)授業は当然なかった。そしてここに、居る時も……多分 考えたんですけど、授業、授業でそれをみんなの前で発音するのが恥ずかしいから、

すごく、緊張しちゃいそうな授業かなーと思って、それより、読書……{二人の笑 い声}他の授業を受けたんです。

GS5

は、発音学習の重要性を認識している。また、来日前には発音の授業が「当然なかっ た」と述べた上で、来日後の大学の授業には発音の授業があることも認識している。しか し、「恥ずかしい」「緊張しちゃいそう」という理由で、大学で発音の授業をあえて受講し なかったことを語っている。したがって、大学の授業で発音を扱うことについてマイナス なイメージを持ち、発音を扱う授業に対して消極的な学習者がいることが分かった。

このように、日本の大学には、発音に特化した授業があり、音韻的知識や発音方法を指 導している授業が複数見られた。しかし、発音学習の重要性を認識していながらも、発音 に特化した授業に対して消極的な学習者がいることも分かった。

3.2 大学の授業以外での発音学習経験

3.2.1

来日前の発音学習

来日前の場合、大学の授業以外で日本語の発音に触れる機会は、リソースが限られてい ることもあり少ないと言える。

GS

ES

の中には、

3.1.1

で述べた

ES2

のように個人レッ スンなどで日本語を学習した経験のある協力者もいたものの、来日前に授業以外で発音を

(7)

学習したと捉えている協力者はES5のみであった。

ES5:そうそうそう。それから全然、そういう(発音に関する)授業とかは、ない。

だけど、たまに……あの、発表とかの時は、他の日本人の友達と一緒に、この文章 とかを、一緒に読んでいて、その時は、三年生でも、結構間違いがあって、発音は 合ってないなー、で、そういうところは一人ずつで、直してきて、でもちゃんと授 業はなかった。

ES5の語りからは、日本語の発音に関する授業がなかったこととともに、発表の準備の ために日本人の友達と文章を吟味した後、「発音は合ってない」と発音修正を行ったことが 分かる。また、ES5は唯一、YouTubeの動画の中で発音を学習した経験を述べている。

ES5:その……この発音かどうか分からない、その、イントネーションのところは、

ちょっと見たことある。でも、それは教科書じゃなくて、ちょと……YouTube と か、チャンネルで……(中略)えー……なんか、言語が勉強できるサイト、なんか、

人によって、なんかYouTubeとかは、言語じゃなくても関係ないけど、結構……

日本語を教えてる人が、「〇〇〇〇(チャンネル名)」使うことがある。

筆者もそのチャンネルを視聴したが、ES5が「発音かどうか分からない」と述べている ように、チャンネルの主旨は日本語全般について教えることであった。その中に、外国人 にとって難しい発音をテーマにとして、イントネーションについて解説している動画も見 られた。その動画が、ES5の記憶に残り、発音学習経験として語ってくれたと考えられる。

以上のように、日本語母語話者を人的リソースとし、YouTubeを物的リソースとして発音 学習したES5は、日本語の発音に対して意識が向いていることが分かる。

このように、大学の授業以外でも、人的・物的リソースを活用することで、意識的に発 音を学習することは可能であることが分かった。しかし、特に海外ではリソースが限られ ているという点から、日本語の発音について学習する機会は総じて少ないと言える。

3.2.2 来日後の発音学習

来日後のGS・ESは、日本語に触れる経験や母語話者と直接話す経験が格段に増える。

そのため、来日してからは人的・物的リソースを活用する機会も増え、母語話者と話す、

あるいは日本語の音声を聞くことで発音に意識を向けている例が見られた。

GS4:練習方法はないです{二人の笑い声}。私にとっていつも、本当に日本人と一 緒に話す、話をするのは……助かったと思います。それ以外の、ちゃんとの……な んか、練習方法は……うーん、分かりません。なんか、したことないので……

ES4:あのー、日本のテレビ……あー、見たいです。えっと、聞きます。日本人の発 音を聞きます。あー……それで、日本人の発音、分かります。あー……learn、習 います?

(8)

GS4 は、「日本人と一緒に話す、話をするのは助かった」と語っており、母語話者と話 すことで発音の実践的知識を得て、意識を向けたことで発音の向上に役立ったと認識して いることが分かる。ES4 は、テレビを見る時に母語話者の発音を聞くことで、「日本人の 発音」が「分かる」と述べている。日本に滞在しているGS・ESだからこそ、母語話者か ら実践的知識を得て、発音学習している例は多い。

それゆえ、GS・ESが母語話者と会話する際に、発音の問題で言いたいことがうまく伝 わらず、結果として発音を意識するようになった例も見られる。GS2、GS3、ES3はそれ ぞれ別の場面で発音が通じなかった経験をしている。

GS2:「シ」と「ジ」は……全然違う。……そう、「ザ」と「ザ」はちょっと、「ザ」

と「サ」、分からないので、ちょっと難しいね。先学期は、あの、冬学期は、あの、

「水の手紙」という、演劇?演劇を読んで、あの、「みず」か、「みす」か、ん?ちょっ とね。私にとって本当に問題だったんですけど。

GS3:うーん、なんか発音の授業を取った前に、その……なんか、「病院」と「美容 院」の、その……ま、会話で間違った……こと、本当にありました。

ES3:あのー日本人の友達と話してた時、私が「日本(中高型)」と聞いてたんです けど、彼女の言った言葉が「二本」、あのー、なんだろ、ペットボトルの「二本」っ て言った。そういう間違いがあって、あれー、何言ってんのって、そういう間違い が。だから、あのー、時々、その同じ問題が出てくるかな、と。

GS2は、「みず」と「みす」を混同してしまい、話す時・聞く時の両方で「問題だった」

ことが分かる。GS3は「病院」と「美容院」を会話の中で誤解があり伝わらなかった例を 挙げている。ES3 は、「日本」と「二本」をアクセントの弁別ができなかったために誤解 した例を挙げ、「時々その同じ問題が出てくる」と同様の誤解が何度か起きていることを述 べている。以上のように、GS2、GS3、ES3は母語話者と会話する経験の中で、発音につ いての実践的知識を得て、発音の違いに意識が向いていることが分かる。

このように、来日後は、大学の授業以外に人的・物的リソースを活用することで、発音 を学習する機会が増えていることが分かった。また、母語話者と会話することで、発音の 実践的知識を得て、発音を意識化することが可能であることが分かった。

4

.結果のまとめと考察

4.1 結果のまとめ

以上の結果を、「学習環境」の観点からまとめる。

まず、「大学の授業」での発音学習に着目する。ドイツやイギリスの大学では、そもそも 授業で発音が扱われることは少なく、ほとんどの場合、CD などのリピート練習に留まっ ていることが分かった。イギリスの大学の授業で、音韻的知識や発音方法を学習した例も

(9)

見られたが一部であった。日本の大学では、発音に特化した授業があり、音韻的知識や発 音方法を指導している授業が複数見られた。しかし、発音学習の重要性を認識していなが らも、発音に特化した授業に対して消極的な学習者がいることも分かった。

次に、「大学の授業以外」の発音学習に着目する。来日前でも、人的・物的リソースを活 用することで、意識的に発音を学習することは可能であることが分かった。しかし、リソー スが限られているという点から、日本語の発音について学習する機会は総じて少ないと言 える。来日後は、人的・物的リソースを活用することで、発音を学習する機会が増えてい ることが分かった。また、母語話者と会話し言いたいことが伝わらない経験をすることで、

発音の実践的知識を得て、発音を意識化することが可能であることが分かった。

「大学の授業」と「大学の授業以外」で共通している点として、来日前よりも来日後の方 が、発音を学習する機会が増えていることが分かる。それに対して、「大学の授業」と「大 学の授業以外」で異なる点としては、学習内容の違いが挙げられる。「大学の授業」で発音 を学習した経験を持つかどうかは協力者によって異なっているが、音韻的知識や発音方法 などが学習内容となっていた。一方、「大学の授業以外」では、全員が発音によって言いた いことが伝わらない経験をしており、実体験から得た実践的知識が学習内容となっていた。

それに伴って、母語話者と話した経験から、自身の発音に対して意識を向けることが可能 になったことが分かった。

4.2 考察

発音に注意を向けるほど発音の正確さが増す(Tarone 1979)ことからも、学習者の発 音学習のためには、発音に対する適切な意識向けが重要である。本研究の結果が示すとお り、日本語母語話者との実際の会話では、発音の問題で言いたいことが伝わらない経験を することがあり、自身の発音について意識を向ける機会になると考えられる。仮に大学の 授業で、たとえ「発音が重要」だと聞いても、どうして重要なのか、どのように伝わらな いのかを実体験として経験し理解することは少ない。

しかし、「日本語母語話者とたくさん話すのが一番の発音学習である」と安易に結論付け ることはできない。なぜなら、日本国外、ヨーロッパにいる学習者の場合、日本語母語話 者と話す機会は限られているためである。そのような環境の学習者にとっては、発音学習 に日本語母語話者をリソースとして活用することは難しい。

したがって、ヨーロッパの大学の授業の中でも、発音を意識する機会を増やさなければ ならないと考える。日本の大学のように発音に特化した授業を作ることは、カリキュラム 等の制約から難しいかもしれない。しかし、発音に意識を向けるだけならば、総合的な授 業や会話授業の中でも可能である。また、本研究の協力者の中には、来日前にインターネッ トコンテンツを活用し発音学習を行っていた協力者も見られた。学習者にとって有用なリ ソースを学習者に提供することも、音声教育、ひいては大学の授業に求められていると言 える。

また、本研究では、協力者となったGS・ES全員が、発音の問題で言いたいことが伝わ らない経験をしていたことが分かった。発音の問題で言いたいことが伝わらない経験をし ていることは、GS・ESにとって発音学習機会が少ないことや、十分な音声教育が行われ

(10)

てこなかったことを示唆している。コミュニケーションのための日本語教育という観点か ら見れば、実際に言いたいことが伝わっていないということは、円滑なコミュニケーショ ンを行うための日本語が指導されていないということにも繋がる。したがって、適切な音 声教育によって、言いたいことが伝えられるような発音の習得を手助けすべきである。

本研究から明らかになった現状の日本語音声教育についての課題は、コミュニケーショ ン教育を目指す日本語教育としても問題である。日本語音声教育の発展・拡大によって、

これらの課題の解決に取り組まなければならないと考える。

5

.おわりに

本研究では、ドイツまたはイギリスの学習者の語りをとおして、学習者らが日本語の発 音をどのように学習してきたかを明らかにし、学習者の立場から見た音声教育について考 察した。学習者らは、ドイツやイギリスの大学では発音学習経験が少なく、主に日本で母 語話者と話すことで、日本語の発音に意識を向けるようになっていることが分かった。そ れゆえ、ヨーロッパの日本語音声教育にはまだ課題が残っており、発展途上であるという ことも明らかになった。

今後、発音学習の結果をより詳細に明らかにするために、本研究の調査協力者が、実際 にどのような発音であったかといった点を調査し、改めて報告したい。

1 協力者の生育地は、018歳のうち15年以上を過ごした場所とする。

参考文献

磯村一弘(2001)「海外における日本語アクセント教育の現状」『2001 年度日本語教育学会秋季大会 予稿集』pp. 211-212

国際交流基金(2017)「海外の日本語教育の現状 2015年度日本語教育機関調査より」

佐藤郁哉(2008)『質的データ分析法―原理・方法・実践―』新曜社 戸田貴子(編著)2008)『日本語教育と音声』くろしお出版

林明子(2009)「日本語の韻律的特徴と知覚―ドイツ人日本語学習者へのリズム・イントネーション 教育を視野に―」『紀要.言語・文学・文化』104225)、pp. 1-32、中央大学文学部

Tarone, E. (1979) Interlanguage as chameleon, Language Learning 29(1), 181-191, University of Washington

(おおど ゆうたろう 早稲田大学大学院日本語教育研究科・博士後期課程)

参照

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