私立高校 1 年生の学校適応感とその要因の検討
― 入学前のことがらにも着目して ―
藤 原 優 輝 †
要 旨
本研究の目的は、私立高校の 1 年生を対象として、受験校決定要因などの入学前の要因と、友人や教 師との関係などの入学後の要因と学校適応感との関連を検討することであった。
同一の県の私立高校 2 校の 1 年生 593 名(男子 310 名、女子 283 名)を対象に、学校享受感尺度、学校 生活満足感尺度、進路情報ニーズ、学校生活欲求尺度、学校環境からの要請尺度に関する質問を実施した。
学校適応に対する入学前の変数による重回帰分析の結果、学校適応 3 因子全てが何らかの要因と有意 な関連があることが示された。例えば入学前の「期待感」、受験校決定要因の「進路」「部活動」が「楽 しみ感」と有意に関連していた。また、学校適応に対する入学後の変数による重回帰分析の結果では、学 校適応感と有意な関連があるいくつかの要因が示された。「友人とのつながり認知」は 3 因子全てと強い 関連が示された。これらのことから、高校選択時になんらかの決定要因を持つこと、また、入学後の友人 づきあいをポジティブに認知していることが適応的な学校生活を送る上で重要であることが示唆された。
Abstract
The purpose of this study was to examine the relationship between pre-enrollment factors such as reason for choosing school, post-enrollment factors such as relationships with friends and teachers, and sense of school adjustment for the fi rst-year students of private high schools.
The survey of School Enjoyment Scale, School Life Satisfaction Scale, Career Information Needs, Needs in School Life Scale, and Environmental Demands from School Scale for 593 fi rst-year students
(310 boys, 283 girls)of two private high schools in the same prefecture was conducted.
Multiple regression analysis of pre-enrollment variables for school adjustment showed that all three school adjustment aspects were significantly associated with some factors. For example
"feeling of expectation" before enrollment and "career" and "club activities" as reasons for choosing school were signifi cantly related to "feeling of fun". As for post-enrollment variables, the results of multiple regression analysis showed that some signifi cant factors were associated with sense of school adjustment. Especially, "Cognition of connection with friends" was strongly associated with all three factors. These results suggested that having some determinants when choosing a high school and having a positive awareness of friendship after enrollment are important for adjusting school life.
キーワード:学校適応、高校生、進路選択
† 教育科学コース 担当教員:若松養亮
1.目的と問題
高校生の学校適応に関する問題が大きく取 り上げられ、その解決は喫緊の課題である。文 部科学省の令和元年度「学校基本調査」1)による と令和元年度の高校進学率は 98.8%となってお り、20 年以上同程度の高水準で推移している。
高い進学率の一方で、その後の不登校は大き な問題となっている。金子(2019)2)は、不登 校の問題が注目され始めて以降、その対策の対 象の中心となったのは義務教育段階にある小中 学校の不登校であったが、その後、高校におけ る不登校についても関心が高まってきていると 指摘している。文部科学省の令和元年度「児童 生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する 調査」3)によれば、高等学校における不登校は 50,100 人で在籍者数の 1.6%を占める。学年別の 数値をみると不登校では、高校 1 年次は 12,778 人であり、2 年次 11,727 人、3 年次 9,517 人と比 べ最多となっている。高校 1 年は学校移行直後 の時期で、それまでの環境と大きく変わること になる。その新たな環境で適応的に過ごすこと ができれば、高校生の学校適応に関する問題の 解決に近づけるのではないだろうか。
本研究では私立高校 2 校を対象に調査を行っ た。その 2 校の私立高校の特徴として、生徒の 多様性が挙げられる。入学前には部活動や大学 進学、専門学科での学習といった様々な入学動 機を持って高校選択を行っている。高校卒業後 は就職から難関大学進学まで、幅広い進路に進 んでいる。さらに 2 校の所在する県の特徴とし て公立志向が高いことが挙げられる。令和元年 度「学校基本調査」4)によると、令和元年度の全 日制の高等学校の生徒在籍者数は 3,086,434 人、
そのうち約 33.2%の 1,025,170 人は私立高校に在 籍している。調査対象校の県のみの割合をみる と、私立高校の在籍者の割合は約 20.7%と全国 の割合と比べ低い数値になっている。隣接する 府県では 40%を超える場所もある中で、公立志 向が高い県といえる。つまり、私立高校には第 2 希望での入学者も多いという実情がある。調 査対象校も約半数が併願受験者であった。これ らのことから、公立志向の高い地域では、私立 高校生は入学前からネガティブな感情を持って
いる生徒が一定数いることが予想される。そこ で、本研究の第 1 の目的として、入学前の要因 と学校適応感との関連を検討することとした。
ここで、高校生の学校適応を考えるうえで、
本研究での学校適応概念について述べる。岡田
(2015)5)は適応概念には様々な側面があり、ど こに重点を置くかは研究者によって異なること から、必ずしも統一的な見解が得られていると はいえない状況にあると指摘している。大久保
(2005)6)はこれまでの研究の多くは学校環境が 求める要因を研究者側が設定している、と指摘 しており当該の学校環境で何が重視され、それ に対して生徒がどのように感じているかは考慮 されていないとしている。生物学的な適応とは 異なり、学校という特殊な環境における多様で 多数の生徒の適応を考えるうえでは、この指摘 は重要な視点と考えられる。実際の学校現場で は、同じ事象が起こっても生徒によって捉え方 が違うことは日常であり、またその捉えたこと に対してどのように感じるかも様々である。廣 崎・瀬戸(2014)7)では、見た目は適応的でも 心理的不適応に陥っている場合もあると指摘し ており、やはり各生徒の主観的な適応を測定す る必要があると考えられる。これらのことを踏 まえ、本研究での学校適応は「個人が環境と適 合していると意識していること」(大久保・青 柳,2003)8)と捉え、生徒が学校環境を主観的 にどのように感じているかに重点を置いた。こ の学校適応感と入学前・後の要因を検討するこ とが本研究の目的である。
入学前の要因として「高校選択の決め手」「受 験高校決定時期」「入試受験種別」「受験校決定 時に影響を受けた人物」「得意教科」「高校への 期待感」を挙げ、学校適応感との関連を検討す る。「高校選択の決め手」を扱った、高校選択時 の進路情報ニーズ(山本,2011)9)に関する研 究では高校選択時に必要とされる進路情報ニー ズについて、普通科、専門学科の高校、進学校 での差異を検討しているが、学校適応との関連 の検討は今後の課題としている。「受験高校決定 時期」「入試受験種別」については、松崎・園田
(2019)10)が医療系専門学生の学校適応について 進学動機と入試区分との関連を検討している。
大学生を対象とした研究で示唆されていること
とは異なり、専門学校において早期に入学を決 定することはプラスの影響があるということが 示されている。私立高校受験生にとっては「受 験高校決定時期」と「入試受験種別」は、高校 受験に向けての準備期間や、受験校への入学志 望の高さを表すものとなり、学校適応感との関 連が予想される。受験校決定時期が中学校 3 年 次の 3 学期の生徒は受験校の情報を得たり、対 策をしたりする時間が十分ではなく、志望度合 いが低いと考えられる。また、第一志望校では ない、もしくは他にも志望校がある併願受験者 の方が推薦・専願受験者より学校適応感の得点 が低いと予想される。「受験高校決定時期」「入 試受験種別」と学校適応感の関連について検討 することは、中学校における進路指導を考える 上で重要なことと考えられる。
また、永作・新井(2005)11)は自律的高校進 学動機と学校適応・不適応の関連について、無動 機づけ状態で高校に進学することが、その後の 不適応感につながる可能性が高いことを示して いる。受験校選択について考えると、たとえ進 学に対しては無動機であっても、私立高校を受 験するということは、数ある選択肢の中から高 校を選んでおり、その選択には何らかの動機が あると考えられる。そこには「受験校決定時に 影響を受けた人物」や成績といった受験時に生 徒本人に直接影響を与えるものが考えられる。
受験校に関する情報を得る中で、家族を始め、
周囲の大人や友人からの助言や援助によって選 択を行っていくと考えられるし、自分の学力に 見合った学校やコースを選択していかなくては ならない。そこで、前述の進路情報ニーズに加 え、親や担任教師、塾の先生等からの指導や助 言の有無、得意教科も入学前の変数とした。
千島・水野(2015)12)の研究では大学の新入 生を対象に、大学生活の「期待」・「現実」と大 学適応との関連を検討している。その結果「期 待」「現実」の両方が大学適応に有意に影響を 与えていることが示されており、双方を測定す ることの重要性を示している。本研究でも入学 前の高校への期待感を測定し、入学前の変数の 1 つとした。「現実」は入学後の学校生活のこと であり、本研究では以下に述べる対人関係と学 業について測定した。
高校生対象の研究の多くでは学校適応を対人 関係(「友人との関係」と「教師との関係」)と「学 業」の側面から捉えている(大久保,2005)13)。 しかし、大久保(2005)14)の指摘するように、こ の 3 側面は学校適応そのものというよりも、適応 感を規定する学校生活の要因と考えられる。よっ て、本研究でもこれら 3 側面を入学後の変数とし て扱った。さらに、大久保(2010)15)では学校生 活におけるこれら 3 側面の生徒自身の欲求と、学 校環境からの要請のそれぞれを測定し、それぞれ を測定するために用いた尺度から対応した項目 の得点を引き、絶対値を個人−環境の不一致得点 とし、学校適応感との関連を検討している。同じ 環境にいても生徒一人一人によって感じ方の違 いが生じると考えられるため、本研究でも不一致 得点と学校適応感の関連を検討した。
以上をまとめると、本研究の目的は 2 つある。
第一の目的は、高校選択の決め手となったものや 高校入試の受験方法といった入学前の要因と学 校適応感との関連を検討することである。高校選 択をいかに決定しているかと学校適応感との関 連がわかれば、中学校での進路指導や、高校の学 校説明会等で有意義な情報開示につながると考 えられる。第二の目的は、高校入学後の要因であ る友人や教師との関係、学業と学校適応感との関 連を検討することである。これらを検討すること でより適応的な高校生活を送るために必要なこ とを教師・生徒の視点から明らかにしたい。
2.方法
(1)調査の概要
A 県の私立高校 2 校の 1 年生を対象に質問紙 法による無記名の調査を 2019 年 11 月に実施し た。有効回答 593 名(B 校 208 名、C 校 385 名)
で、うち男子は 310 名、女子は 283 名、無回答 2 名であった。LHR の時間内の約 15 分、担任 教師により実施された。実施の際には机間巡視 はしないこと、また、学校での成績には無関係 なことなどを口頭で説明するよう依頼した。B 校・C 校ともに男女共学、国公立大学進学を目指 すコースから短大・専門学校への進学を目指す コースまで複数の学科・コースがあり、全コー スの 1 年生の協力を得た。
(2)質問紙の内容
①学校適応感尺度
古市・玉木(1994)16)の学校享受感尺度と河 村(1999)17)の学校生活満足感尺度を用いた。
両尺度とも、学校適応感のポジティブな面とネ ガティブな面の両方を測ることができ、学校生 活の多くの場面をカバーしており、高校生でも 回答しやすく生徒の主観的な適応感を測定でき る。不適応感を測る項目中に直接的な表現が含 まれるものは除外した結果、15 項目となった
(項目は Table 1 を参照)。調査用紙では「今の あなたの学校での生活についてお聞きします。
あなたは以下の点にどの程度あてはまります か。」と教示し、「5.よくある」「4.ときどきあ る」「3.どちらともいえない」「2.あまりない」
「1.全くない」のいずれかに○をつけさせた。
②入学前の要因 1)高校入試出願種類
調査協力校 2 校の受験時の出願種類を「高校 入試の受験方法は」と教示し、「推薦」「専願」
「併願」のいずれかに○をつけさせた。
2)受験校決定時期
在籍している高校の受験を決定した時期を
「在籍している高校の受験を決めたのは中学 3 年 生のいつ頃でしたか。」と教示し、「1 学期(4 〜 8 月)」「2 学期(9 〜 12 月)」「3 学期(1 〜 2 月)」
「その他」のいずれかに○をつけさせた。
3)受験校決定影響人物
受験校選択時に影響を受けた人を「高校受験 校を決めるにあたり、中学生時代に誰からの影 響を強く受けましたか。複数いる場合はあては まるものすべてに〇をしてください。」と教示し、
「親」「兄弟姉妹」「担任の先生」「部活動の顧問 の先生」「進路指導の先生」「塾の先生」「友人」
のうちあてはまるものすべてに○をつけさせた。
4)得意教科
学業成績を判断する指標の 1 つとするため に、中学生の時に好きだった教科を「中学生の 時に好きだった、または得意だった教科にいく つでも〇をしてください。」と教示し、「国語」
「体育」「社会」「音楽」「数学」「理科」「美術」
「英語」「技術」「家庭」のうちあてはまるものす べてに○をつけさせた。
5)入学前期待感尺度
「入学前に現在通っている高校で次のことを どのくらい楽しみにしていましたか。」と教示 し、「5.とても楽しみ」「4.楽しみ」「3.どちら ともいえない」「2.楽しみでない」「1.全く楽 しみでない」のいずれかに○をつけさせた(項 目は Table 4 を参照)。
6)進路決定要因尺度
山本(2011)18)の進路情報ニーズの質問項目 をもとに各因子で負荷量の低いものと、進路情 報として入手しづらいものを除外して 17 項目 を用いた(項目は Table 5 を参照)。「中学生の時 をふりかえってみて、現在の高校(類型・コー ス)を選ぶ決め手になったものとして、下の各 情報がどの程度大切だと思っていましたか。」と 教示し、「5.とても大切」「4.大切」「3.どち らともいえない」「2.大切でない」「1.全く大 切でない」のいずれかに○をつけさせた。
③入学後の要因 1)学校生活欲求尺度
Okubo, Kato, & Kurosawa(2006)19)の学校生 活欲求尺度を用いた(項目は Table 10 を参照)。
「今のあなたの学校での生活についてお聞きし ます。あなたは以下の点にどの程度あてはまり ますか。」と教示し、「5.非常にあてはまる」「4.
あてはまる」「3.どちらともいえない」「2.あ てはまらない」「1.全くあてはまらない」のい ずれかに○をつけさせた。なお、「友人」「先生」
は身近な人をイメージするよう書き示した。
2)学校雰囲気尺度
大久保(2010)20)の学校環境からの要請尺度 を用いた。前掲の学校生活欲求尺度の質問項目 と対応する項目からなり、在籍している高校か ら要請されていると感じるもの、つまり学校の 雰囲気を尋ねるものとなっている(項目は Table 12 を参照)。「今のあなたの学校の校風や雰囲気 や、あなたの学校で求められていることについ てお聞きします。あなたの学校では以下の点に どの程度あてはまりますか。」と教示し、「5.非 常にあてはまる」「4.あてはまる」「3.どちら ともいえない」「2.あてはまらない」「1.全く あてはまらない」のいずれかに○をつけさせた。
3.結果と考察
(1)学校適応感尺度について
学校適応感に関する質問の評定は大きく偏っ て分布している項目はなく、全項目で因子分析 を行った。最尤法による因子分析解にプロマッ クス回転を施した結果を Table 1 に示す。因子 負荷量が .40 以上を基準に 5 項目を削除し、3 因 子 10 項目を採用した。第 1 因子は、学校生活が 楽しく充実しているかを表す項目からなってい るので、「楽しみ感」因子と命名した。第 2 因子 は、学校生活で独りになる感覚を表す項目から なっているので、「孤立感」因子と命名した。第 3 因子は、学校生活における積極性を表す項目か らなっているので、「積極性」因子と命名した。
信頼性係数はそれぞれα= .869、.826、.606 であ り、第 3 因子のみやや低いが、その制約を踏ま えつつ、このまま 3 因子構造にて分析を続ける。
因子間相関は第 1 因子と第 3 因子が .544 と中程 度正の相関があるが、それらと第 2 因子の相関 は ‑.381、‑.310 と弱いものになっている。
(2)出願種類・受験校決定時期との関連
出願種類「推薦」「専願」「併願」の 3 群間で 学校適応感 3 因子の因子得点の平均値の比較を 行った。その結果を Table 2 に示す。「推薦」受
験者は「併願」受験者より「積極性」の値が有意 に高いことが示された。また、「楽しみ感」「孤 立感」においては有意な差はみられなかった。
「積極性」では「クラスやクラブの活動でリー ダーシップをとる」かや、「クラスで行う活動に は積極的に取り組んでいる」かを尋ねている。
「推薦」受験は制度上、部活動や生徒会活動、学 業成績で秀でている生徒を中学校が推薦するも のであり、個人の性格や気質との関連が大きい と考えられる。そのため「楽しみ感」「孤立感」
とは異なる結果になったと推測される。
次に受験校決定時期でも同様に因子得点の 平均値の比較を行った。その結果を Table 3 に 示す。「楽しみ感」は「1 学期」決定者の方が「3 学期」決定者より有意に高い結果となった。中 学校 3 年次の 3 学期は高校入試直前であり、高 校選択に対して自律的でなかった(永作・新井,
2005)21)、もしくは十分考えなかった、選択の 余地がなかったなどが考えられる。なお、3 学 期まで選択できなかった要因として、学業成績 が挙げられる。そこで、次の手順で成績を統制 して分析を行った。得意教科の数をもとに、人 数が均等になるよう「得意教科数高群・低群」
の 2 群にわけた。得意教科数高群は 3 教科以上 を回答した生徒 316 名、低群は 2 教科以下を回 答した生徒で 279 名となった。高群のみで「楽
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Table 1 「学校適応感」の因子パタン
しみ感」の因子得点の平均値の比較を行ったと ころ、受験校決定時期の主効果が有意であり(
( 2, 289 )= 3.67, < .05 )、1 学期決定者は 2、
3 学期決定者より得点が高かった。低群でも同 様に比較を行ったところ受験校決定時期の主効 果が有意となり( ( 2, 249 )= 4.93, < .01 )、
2 学期決定者は 3 学期決定者より得点が高かっ た。成績を統制しても、3 学期決定者は「楽し み感」が低いことが示され、高校生活を楽しく すごすためにも、中学校 3 年次の早い時期から 進路のことを考え、十分な時間をかけ高校選択 をすることが重要といえる。
(3)入学前期待感との関連
入学前期待感尺度の最尤法による因子分析 結果の因子パタンを Table 4 に示す。1 因子解 が得られ、質問の内容から「期待感」と命名し た。信頼性係数はα=.881 で、十分な信頼性が あると判断した。
「期待感」と学校適応感との関連をみるため に、相関分析を行った。その結果、「楽しみ感」
「積極性」とは .455、.435 と中程度の有意な正の 相関が示され、「孤立感」とは ‑.207 と弱い有意 な負の相関が示された。入学前の期待感という ポジティブな要因であるため、学校適応感のポ ジティブな側面である「楽しみ感」「積極性」と は比較的高い数値が示されたと考えられる。中 学校 3 年次に描く具体的な情報をもとにした高
校生活へのイメージは重要であるといえる。
(4)進路決定要因との関連
進路決定要因尺度の因子分析を行った。各 項目の評定に偏りはなく、全項目を用いて最尤 法による因子分析解にプロマックス回転を施し た。因子負荷量 .40 以上を基準に、因子負荷量 の低かった項目 2、5、12、18 の 4 項目は分析か ら除外し再度分析し、4 因子解が得られた。そ の結果を Table 5 に示す。第 1 因子は、学校の 中で守る規則等を重要視するかについて尋ねる 項目からなっているので、「学校ルール」因子と 命名した。第 2 因子は、高校卒業後の進路を重 要視するかについて尋ねる項目からなっている ので、「進路」因子と命名した。第 3 因子は、全 て部活動について尋ねる項目からなっているの で、「部活動」因子と命名した。第 4 因子は、通 学を重要視するかについて尋ねる項目からなっ ているので、「通学」因子と命名した。信頼性 係数はそれぞれα= .830、.861、.866、.835 であ り、十分な信頼性が得られた。因子間相関は第 1 因子と第 2 因子が .459、第 4 因子が .608 と中 程度の正の相関があるが、他の因子間相関は弱 いものになっている。
これら進路決定要因と学校適応感との関連を みるために、学校適応感 3 因子と進路決定要因 4 因子の相関分析を行った。その結果を Table 6 に 示す。学校適応感のポジティブな側面を測ってい
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Table 2 出願種類 3 群間で学校適応感の因子得点を比較
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Table 3 受験校決定時期 3 群間で学校適応感の因子得点を比較
る「楽しみ感」「積極性」と進路決定要因 4 因子 全てで弱い有意な正の相関がみられ、進路決定 要因とその後の高校生活の関連を示している。
(5)入学前変数による学校適応感の予測
学校適応感の得点について入学前の諸変数 からの予測を検討していく。「期待感」と「進路 決定要因」4 因子を併せた 5 因子を説明変数に、
学校適応感の 3 因子を目的変数にして重回帰分 析を行った。その結果を Table 7 に示す。
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Table 6 学校適応感と進路決定要因の相関
学校適応感 3 因子ともに「期待感」との関連 が大きいことが示された。このことは、何を重 要視して高校を選択したかという進路決定要因 以上に、描いている高校へのイメージが重要で あることを示している。また、「楽しみ感」「積 極性」では「期待感」以外に「進路」「部活動」
で統計的有意性が示された。さらに、「楽しみ 感」「積極性」の の値はそれぞれ .229、.240 で中程度の決定係数が示された。これら 2 つの 適応感は高校入学前の「期待感」と、受験校決 定要因という入学前の要因から一定の予測が可 能ということが示され、中学校の進路指導と高 校の学校説明会等での情報提示の重要性が示さ れたといえる。特に高校卒業後の進路と、高校 在学中の部活動についてはその後の学校適応感 との関連が大きいことが示唆され、適応的な高
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Table 4 「入学前期待感」の因子パタン
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Table 5 「進路決定要因」の因子パタン
校生活を送る上でも重要な情報となる。
一方、学校適応感のネガティブな側面を測っ た「孤立感」では = .048 と小さく、予測は 困難といえる。これは、大久保(2010)22)のい う「適応の対極が不適応なのではなく、適応の 失敗が不適応」ということを支持すると考えら れ、適応的な側面と不適応的な側面に影響を与 える要因は異なるものであると考えられる。
ここまでは入学前の要因をそれぞれ単独の ものとして扱ってきたが、高校選択の際にはこ れら入学前の要因をもとにいくつかのパタンに 生徒らを分類することが可能と考えられる。そ こで次節では入学前要因による生徒の分類を行 い、学校適応感との関連をみていく。
(6)進路決定要因によるクラスタ分析
4 つの進路決定要因による高校選択は、因子 間相関が示すように、どれか 1 つを重視してい るのではなく複数を重視し選択していると考え られる。そこで「期待感」も含めた入学前要因
のパタンをクラスタ分析(Ward 法)によって類 型化して得られた 6 クラスタ解が Figure 1 で ある。「受験校選択時に影響を受けた人」の値 も類型化に用いた。「受験校選択時に影響を受 けた人」は複数回答可能な 2 値データであった ため、数量化Ⅲ類の処理を行った。その結果を Table 8 に示す。
第 1 軸(固有値は .194)で正のカテゴリース コア方向には「部活動の顧問の先生・兄弟姉妹・
友人」の項目が集まり、負のカテゴリースコア 方向には「進路指導の先生・塾の先生・担任の 先生・親」の項目が集まったことから、「課外影 響 − 学習影響」の成分と解釈し、用いた。
6 クラスタ解はそれぞれ、「進路低重視」群
(242 名)、「全低重視」群(54 名)、「低期待」群
(24 名)、「全重視」群(116 名)、「部活重視」群
(64 名)、「進路重視」群(77 名)と命名した。
この 6 群間で、学校適応感の因子得点を比較し たのが Table 9 である。「進路」「部活動」の両 方、もしくはどちらかを重視して受験校を決定 している群である、④全重視群、⑤部活重視群、
⑥進路重視群、は学校適応感のポジティブな面 に関する得点が他の群と比べ有意に高いことが 示された。またこれらの群は「期待感」も相対 的に高いことが示されており、高校選択時に何 か 1 つでも決定要因を持つことと、同時に期待 感を抱くことの重要性を示している。
反対に、受験校選択時に何も重視していない
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Table 7 入学前変数による学校適応感に対する重回帰分析
Figure 1 「入学前要因」による 6 クラスタ解
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②全低重視群や、「期待感」が突出して低い③低 期待群では、他の群に比べ「孤立感」が明確に 高いことが示された。
(7)学校生活欲求との関連
ここからは入学後の要因と学校適応感の関 連を検討していく。学校生活欲求尺度について 各項目の評定に偏りはなく、全項目で因子分析 を行った。最尤法による因子分析解にプロマッ クス回転を施した結果を Table 10 に示す。3 因 子解が得られ、第 1 因子は、成績や授業につい て尋ねる項目からなっているので、「学習欲求」
因子と命名した。第 2 因子は、教師に関すること について尋ねる項目からなっているので、「教師 への欲求」因子と命名した。第 3 因子は、全て 友人に関することについて尋ねる項目からなっ ているので、「友人欲求」因子と命名した。信頼 性係数はそれぞれα= .871、.862、.840 であり、
十分な信頼性が得られた。因子間相関は 3 因子 間で中程度の正の相関が示された。
学 校 生 活 欲 求 尺 度 と 学 校 適 応 感 と の 関 連 をみるために相関分析を行った。その結果を Table 11 に示す。「楽しみ感」「積極性」では全 てで中程度の有意な正の相関が示された。中で
も「友人欲求」の数値が大きく、友人関係の重 要性が示されている。「孤立感」とは有意ではあ るものの、弱い相関となっている。
(8)学校雰囲気との関連
学校雰囲気尺度について因子分析を行った。
各項目の評定に偏りはなく、全項目で最尤法に よる因子分析を行い、因子分析解にプロマック ス回転を施した結果を Table 12 に示す。3 因子 解が得られ、第 1 因子は、教師からのサポート を得られると感じているかについて尋ねる項目 からなっているので、「教師のサポート認知」因 子と命名した。第 2 因子は、成績や授業につい て求められているものを尋ねる項目からなって いるので、「学習上の努力要請認知」因子と命名 した。第 3 因子は、全て友人に関することにつ いて尋ねる項目からなっているので、「友人との つながり認知」因子と命名した。信頼性係数は それぞれα= .892、.866、.838 であり、十分な信 頼性が得られた。因子間相関は 3 因子間で中程 度の正の相関が示された。
次に学校雰囲気と学校適応感の関連をみて いく。学校適応感因子との相関分析を Table 13 に示す。「楽しみ感」には 3 因子全てが中程度 以上の正の相関を示しており、特に「友人との つながり認知」は中程度の値を示している。ま た「友人とのつながり認知」は「孤立感」とは 負の、「積極性」とは中程度の正の相関があり、
学校生活欲求同様、ここでも友人関係の重要性 が示されている。また、全体的に学校生活欲求 より高い値が示されており、個人の欲求よりも 環境から要請されることや、それをどの程度主 観的に感じ取っているのかが学校適応感とは関 連が大きいといえる。
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Table 8 「受験校決定時に影響を受けた人」の回答から 数量化Ⅲ類によって抽出した成分
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ᖹᆒ್䛸䜹䝑䝁ෆ䛿㻿㻰䜢♧䛧䛯 Table 9 進路決定要因による 6 クラスタで学校適応感の因子得点を比較
䊠 䊡 䊢 㼔㻞 㻹㼑㼍㼚 㻿㻰 䊠㻚Ꮫ⩦ḧồ㻔䃐㻩㻚㻤㻣㻝㻕
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Table 10 「学校生活欲求」の因子パタン
(9)不一致得点と学校生活満足感の関連
個人の欲求と環境の適合の良さを測定し学 校適応感との関連を検討するために、(7)およ び(8)で算出した 「学校生活欲求」 から「学校 雰囲気」の対応した因子の評定平均を引き、絶 対値を個人−環境の不一致得点とした。不一致
得点と学校適応感との相関分析の結果を Table 14 に示す。
不一致得点と学校適応感因子との相関は他 の入学後変数 6 因子と比較すると高くなかっ た。大久保(2010)23)は学校適応感尺度と不一 致得点との関連を検討しており、その中では、
多くの項目で不一致得点の方が高い相関を示し ていた。しかし、そこでは学校適応感の因子の 一つとは「友人との関係の不一致」よりも「友 人との関係への欲求」「友人との関係の要請」の 方が高い相関を示している。本研究での学校適 応感と不一致得点の相関は相対的に小さかった
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Table 11 学校適応感と学校生活欲求の相関
䊠 䊡 䊢 㼔㻞 㻹㼑㼍㼚 㻿㻰 䊠㻚ᩍᖌ䛾䝃䝫䞊䝖ㄆ▱㻔䃐㻩㻚㻤㻥㻞㻕
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Table 12 「学校雰囲気」の因子パタン
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Table 14 学校適応感と不一致得点の相関
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Table 15 入学後変数による学校適応感に対する重回帰分析
が、「友人」因子については大久保(2010)24)と 同様の結果が示されている。ここまでの分析結 果からも「学業」「教師」よりも「友人」関係因 子は学校適応感と関連が強いと考えられる。
(10)入学後要因による学校適応感の予測 学校適応感の得点について入学後の変数か らの予測を検討していく。学校適応感の 3 因子 を目的変数に、「学校生活欲求 3 因子」「学校雰 囲気 3 因子」の全 6 因子を説明変数にした重回 帰分析を行った。その結果を Table 15 に示す。
「楽しみ感」では =.459 となり、入学前変 数より決定係数は大きかった。中でも、「友人と のつながり認知」と関連が最も大きいことが示 された。一方で「友人欲求」は「楽しみ感」と 中程度の正の相関が示されていたが、予測には 大きく寄与しないことが示されている。個人の 欲求ではなく、現実をどう認知しているかが重 要になるといえる。
「孤立感」「積極性」においても「友人とのつ ながり認知」の数値が最も大きい。「友人との
つながり認知」の項目は Table 12 にみる通り、
周囲の友人がどのような友人であり、それをど のように捉えているのかを尋ねる質問になって いる。友人との付き合いをポジティブに認知す ることが重要といえる。
一方で「孤立感」では =.335 となり、「楽 しみ感」「積極性」ほどの予測はできないこと が判明した。このことからも学校適応感のポジ ティブな側面に対する予測因子と、不適応の側 面に関する予測因子は異なるものといえる。し かし、入学前変数を説明変数とした重回帰分析 の結果(Table 7)では =.048 であり、決定 係数は大きく異なっている。「孤立感」において は入学後変数との関連が入学前変数に比べ非常 に大きく、入学後の学校生活の重要性が示され たといえる。また、「孤立感」に対して「教師へ の欲求」「友人欲求」「教師の認知サポート」は 正の値で有意な数値となっている。これは「孤 立感」が高いために、「教師への欲求」「友人欲 求」「教師の認知サポート」の 3 つの要因に対す る欲求が高まり、各得点が高まっていると考え られる。
4.全体的考察
入学前から進学先高校に対して適応的でな いことを予測できるのではないかとの仮説か ら、入学前の要因も含め、入学後の要因とともに 学校適応感との関連を検討してきた。入学前の 要因である進路決定要因と学校適応感において は、Table 7 で示した重回帰分析の結果と Table 9 で示した進路決定要因による 6 クラスタの分 散分析結果から、無動機で進学した生徒の学校 適応感の低さを示唆する永作・新井(2005)25)
の論を支持するものとなった。多くの中学生が 進路選択をする 3 年次に少なくとも 1 つの進路
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Table 13 学校適応感と学校雰囲気の相関
決定要因を持つことが重要であるといえる。さ らに分析結果からは、複数の進路決定要因を持 つクラスタが最も適応的であることも示され た。進路決定要因は高校入学後には、高校生活 における諸領域の重要な部分を占めると考えら れる。岡田(2012)26)は中学生の学校生活の領 域を生徒関係的側面と教育指導的側面の 2 側面 から捉え、学校適応との関連を検討している。
その中で、どちらかの側面でうまくいっている 生徒は、その側面が学校への心理的適応の支え になっていると指摘している。本研究において も、高校生を対象に同様の結果が得られ、複数 の進路決定要因を持つことで学校適応感の支え となり得る領域が増えたと考えられる。
そして、学校適応感が高かったクラスタは同 時に期待感も高得点であった。入学前の要因の 中では期待感が学校適応感と関連が大きいこと が本研究では示されたが、その期待感の大きさ が何に由来するかは検討できておらず、今後の 課題である。また、進路決定要因における「進 路」「部活動」は学校適応感のポジティブな側面 と、相関分析結果や重回帰分析の結果から有意 な関連が見いだされたが、入学後の学業成績や 部活動については調査できていない。「学業成 績」「部活動」を入学後の要因として詳細に調査 し、関連を検討する必要がある。
入学後の要因の検討では、学業や教師に関す る要因よりも、友人に関する要因の関連が大き いことが示された。高校生活における領域の中 で、友人関係の重要性は示されたが、実際の学 校生活では周りにどのような友人がいるかとい う環境を受容するのみでなく、その友人に対し て自らが主体的に働きかけていると考えられ、
その相互関係の中で友人関係を築いている。本 研究では、友人に対する主体的な働きかけがど のようなものであれば、その後の学校適応に良 い影響を与えることができるのかについては検 討できておらず、今後の課題である。
謝 辞
本研究を進めるにあたり、若松養亮先生から 非常に丁寧なご指導を賜りました。心より御礼 申し上げます。また、調査に協力して下さった生 徒の皆様、学校関係者の方々に感謝致します。
引用文献
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20) 大久保智生 前掲註(15)
21) 永作稔・新井邦二郎 前掲註(11)
22) 大久保智生 前掲註(15)
23) 同上 24) 同上
25) 永作稔・新井邦二郎 前掲註(11)
26) 岡田有司(2012).中学校への適応に対する生徒 関係的側面・教育指導的側面からのアプローチ 教育心理学研究,60,153-166