論文 鉄道 RC 高架橋における列車走行振動特性の解析的検討に関する一 考察
小林 薫*1・杉崎 向秀*2
要旨:列車走行時の高架下環境を良好にすることは,高架下空間の付加価値向上に寄与でき るものと考えられる。本論文では,列車走行時の振動を低減した低振動型高架構造の開発を 目指し,高架橋上を列車が走行した場合の高架橋の振動性状について検討を行ったものであ る。検討対象高架構造としては,従来高架橋と列車走行時の振動を低減するために,梁・柱 接合部に弾性体を挿入した低振動型高架橋である。列車走行時に発生する高架橋の振動は,
列車走行解析から検討を行い,弾性体のバネ定数,走行速度などを変化させて解析的な検討 を行った。
キーワード:嵌合接合,振動低減,列車走行解析,振動加速度レベル
1. はじめに
都市部では,高架下を店舗や事務所で用いて いる場合が多い。このような個所では,列車走 行時に伴う高架下の騒音や振動をできるだけ低 く抑え,高架下環境を良好な状態にすることが 望まれている。
都市部の鉄道構造物としては,ビームスラブ 形式のラーメン高架橋が多く用いられている。
ラーメン高架橋は,柱・梁の接合が剛結構造と なっており,列車走行時の振動はスラブ・梁・
柱を伝播する。このような振動(主に 31.5~
63Hz帯)1)が高架下建物等へも伝播することで,
高架下建物等に振動や固体伝播音が発生し,高 架下環境を悪化させる原因となっていた。
列車走行時の振動をできるだけ低減し,高架 下環境を良好にす
ることは,高架下 の付加価値向上の ため,今後さらに 重要視されてくる ものと考えられる。
本検討では,列 車走行時の高架橋
の基本的な振動性状を明らかにすることを目的 としている。検討は,列車走行解析を用いて,
従来型高架構造であるビームスラブ形式のラー メン高架橋と従来型高架構造よりも低振動型高 架構造についても検討を行った。なお,低振動 型の高架構造とは,柱・梁接合部に弾性体を挿 入する接合部を有する構造2),3),4)としている。
2. 検討対象高架構造の概要 2.1 従来型高架構造の概要
本検討において,従来型高架構造としてはビ ームスラブ形式のラーメン高架橋とした。図-
1に,検討対象とした高架橋の一般形状を示す。
検討対象高架橋は,起点側,終点側ともにゲル バー桁による接続形式とした。柱間隔は10mを
*1 東日本旅客鉄道(株)研究開発センターフロンティアサービス研究所 課長 博(工)(正会員) *2 東日本旅客鉄道(株)研究開発センターフロンティアサービス研究所 課員 (正会員)
図-1 解析対象とした高架橋の一般形状
400 400
コンクリート工学年次論文集,Vol.29,No.3,2007
標準とし,線路方向7径間とし,フーチング上 端からスラブ上端までの高さが約8.0m 程度と した。柱断面については,800mm×800mmで ある。
2.2 低振動型高架構造の概要2),3),4)
低振動型の高架構造の特徴としては,柱・梁 接合部,あるいは柱と基礎の接合部に弾性体を 挿入する嵌合接合部を有している点である。
図-2に,嵌合接合構造の概要を示す。本接合 構造は,梁あるいはフーチングに柱を嵌合させ るための箱抜きを施工しておき,その中に柱を 所定の長さ嵌め込む構造となっている。柱上下 端部には,列車走行時の振動伝播を低減するた めの弾性体を配置し,嵌合内での柱側面にも必 要に応じて弾性体を配置する。柱側面の弾性体 は,列車走行時の振動低減に直接寄与しないが,
構造物の耐震性能を考えた場合,柱側面に弾性 体を配置しバネ定数を任意に設定することによ って,高架橋固有周期の調整も可能になると考 えられる。
3. 列車走行解析による検討概要 3.1 解析方法の概要5)
図-3に,解析手法の概要を示す。列車走行 解析は,走行車両を表現する力学系モデルと構 造物を表現する力学系モデルそれぞれをサブス トラクチャーとし,両力学モデルは結合節点で 変形・力がそれぞれの力学モデルに伝達され,
それぞれの力学モデルが変形・力の適合条件を 満足するように逐次計算を行うものである。
列車の走行は,両力学モデルを結びつける結 合節点が解析開始から時事刻々と変化すること で,列車が設定スピードで走行した条件を再現 する。
3.2 列車モデルの概要
図-4に,走行車両の力学モデル(以下「列 車モデル」という)の概要を示す。列車モデル には,車体と台車そして車軸をモデル化した節 点および梁要素と,車体と台車間,台車と車軸 間の振動特性と減衰特性をそれぞれモデル化し
たバネ要素,ダンパー要素を配置した。また,
各車両間は上下方向のバネ要素,ダンパー要素 で結び,車両間の連結条件も考慮した。
本検討で使用した列車モデルは,鉄道構造物 の設計に考慮する標準活荷重のひとつであるM 荷重6)と同じ軸配置になるように設定した。M 荷重は,電車または内燃動車の荷重における標 準列車荷重をモデル化したもので通常走行して いる電車をイメージして設定されている。
本検討では,列車モデルとして6両分の車両 を考慮した。これは,解析作業の効率等から定
図-2 嵌合接合構造の概要 (柱上端部での例) 弾性体
柱
梁
嵌合構造部 (弾性体挿
力・変形
力・変形 逐次移動
全 体
構 造 物列 車
図-3 列車走行解析の概要5)
図-4 列車モデルのイメージ 台車
車体
車軸
めた。
3.3 構造物の力学モデル 構造物の力学モデルは,
一線分の高架橋の柱・梁部 材(中間,張出しスラブを 断面定数に考慮)線材に置 換した。構造物の力学モデ ルの略図を図-5に示す。
従来型高架橋の構造モデ ルでは,柱・梁を剛結とし,
低振動型高架橋の構造モデ ルでは,柱・梁接合部と柱・
基礎接合部に弾性バネ要素
を鉛直方向のみ挿入した。構造モデルの各節点 には,各部材の固定死荷重,上層梁では軌道な どの付加死荷重の質量を節点間の距離に応じて 配置した。なお,軌道は,直結軌道を想定した。
3.4 解析手法の概要
数値解析法としては,ニューマークのβ法を 適用し,解析刻みは 0.0005 秒とした。構造物 の減衰特性は,減衰定数を 2%とし,剛性比例 型減衰を考慮した。
3.5 解析パラメータ
列車走行解析は,高架橋柱の振動加速度レベ ルに着目して行った。高架橋柱の振動性状に影 響が大きいと考えられるパラメータは,高架橋 の柱間隔,柱・梁接合部に配置する弾性体のバ ネ定数,列車走行速度などである。このため,
これらパラメータを変化させて,検討を行った。
表-1に,解析パラメータの概要を示す。解析 は,全部で220ケース実施した。
4. 高架橋の振動特性と列車走行時の加振振動 数
列車走行時の柱の振動は,列車の軸距と走行 速度にから定まる加振振動数と高架橋鉛直方向 の振動特性の動的相互作用と考えられる。ここ では,本解析で設定した高架橋において,柱・
梁接合部の弾性体のバネ定数による鉛直方向の 振動特性に着目し,整理した結果を述べる。
4.1 高架橋の鉛直固有モード
高架橋の鉛直方向の振動特性を表現する物理 量としては,鉛直方向の1次固有モード時の固 有振動数と考えられる。鉛直方向の固有振動数 は,高架橋全体の質量と鉛直方向の剛性によっ て定まる。高架橋全体の質量を一定とすれば,
柱・梁接合部の弾性体のバネ定数によって,鉛 直方向の剛性が変化するので固有振動数も変化 することになる。図-6は,接合部のバネ定数 図-5 列車走行解析での構造モデルの概要
1
9
2 3 4 5 6 7 8
10 11 12 13 14 15 16
9.59 10.00 10.00 10.00 10.00 10.00 9.59
8.8
Kv1 Kr1
Kv1 Kr1 Kv1
Kr1
Kv1 Kr1
Kv1 Kr1
Kv1 Kr1
Kv1 Kr1
Kv1 Kr1
1
9
2 3 4 5 6 7 8
10 11 12 13 14 15 16
9.59 10.00 10.00 10.00 10.00 10.00 9.59
8.8
Kv1 Kr1
Kv1 Kr1 Kv1
Kr1
Kv1 Kr1
Kv1 Kr1
Kv1 Kr1
Kv1 Kr1
Kv1 Kr1
※ Kv1,Kr1 :フーチングの地盤バ 着目位置
表-1 列車走行解析での解析パラメータの 概要
解析ケース
①スパン:10m,15m→2種類
②柱上下バネ定数:k=3~5000tf/cm,剛結→26種類
③速度:V=30~160km/h→6種類
④走行列車:軸配置M荷重(在来線列車モデル)→1種類
⑤全解析数:220ケース
図-6 柱軸剛性と高架橋鉛直一次固有振動 数との関係
0 5 10 15 20 25
0.0 0.5 1.0 1.5
全体軸剛性(柱軸剛性+弾性体バネ+地盤バネ)
鉛直1次固有振動数 fv(Hz
span15m span10m
×106 ( kN/mm)
を考慮した柱の全体軸剛性と鉛直一次固有モー ドの固有振動数で整理した結果である。高架橋 の鉛直一次固有振動数は 0.62~19.1Hz の範囲 で,柱の全体軸剛性の1/2乗に概ね比例してい る。
4.2 列車走行時の加振振動数
列車走行時の加振振動数は,列車の軸距と走 行速度から定められる。加振振動数の算定式を 式(1)に示す。
N=v/(3.6L) (1)
ここに,
N:列車走行時の加振振動数(Hz) v:列車速度(km/h)
L:走行車両の軸距(m)
加振振動数の計算は,M荷重の軸配置で走行
速度を 180km/hまで行い,軸距を1車両の第
1軸から第4軸までの3種類計算した。計算結 果を図-7に示す。図-7には,高架橋の鉛直 一次固有振動数の範囲も図示している。実際の 列車走行解析では,列車の最高速度を160km/h までとしたので,列車走行時の加振は20Hz以 下の振動数となる。
5.列車走行解析結果の概要 5.1 検討概要
列車走行時に生じる高架橋の振動は,軌道 から上層梁(床版も含む),柱へと伝播する。
高架下空間への振動や騒音は,床版の振動が 空気伝播する影響もあると考えられるが,本 検討では柱部材に発生する振動に着目した。
この理由は,床版の振動に伴う騒音等は高架下 建物側で例えば窓のサッシを二重にし騒音が透 過しにくい対策を行うことで十分対応が可能と なるが,柱から伝播する振動が高架下建物の振 動を励起することで室内の騒音発生原因となる 場合は高架下建物に特殊な対策を行う必要があ り多大なコストを要する場合がある。このため,
高架下空間の環境条件に影響を与える列車走行 時の振動は柱部材を介して高架下建物等へ伝播 すると考えられる。以上のことから,列車走行 時の柱部材に発生する振動性状に着目して検討 を行うことにした。
柱から伝播する振動として,図-5で示した 検討対象高架橋の中心付近の柱上端位置に着目 して検討を行った。
本検討では,列車走行時の振動性状として,
振動加速度レベルを指標とした。振動加速度レ ベルは,列車走行解析から得られる柱上端位置 の加速度波形の FFT 解析結果を式(2)より算出 した。なお,加速度振動レベルの算出振動数は,
1/3オクターブバンドの中心周波数で計算を 行った。
5.2 列車走行時の高架橋振動性状の概要 (1)柱上下端のバネ定数を変化させた場合 列車の走行速度を60km/hとし,柱上下端の バネ定数を変化させた場合の柱上端での振動加 速度レベルで柱間隔を 10m の高架橋とした場 合を図-8に,同様に柱間隔を15mした場合を 図-9にそれぞれ示す。
図-7 列車走行速度と加振振動数の関係
Lv=20Log(a/a0) (2)
ここに,Lv:振動加速度レベル(dB) a:振動加速度の実効値 a0:加速度基準値(10-5m/s2)
0 5 10 15 20 25 30
0 50 100 150 200
速度V(km/h)
加振振動数f(Hz)
軸距2.1m 軸距14.0m 軸距16.1m
高架橋鉛直一次
固有振動数範囲
柱 上 下 端 の バ ネ 定 数 は , 剛 結 状 態 , k=3kN/mm,30kN/mm,300kN/mmを代表例 として整理した。整理の結果,高架橋スパンの 影響はそれほど顕著ではなく,スパン 10m と 15mではほぼ同様な傾向を示した。
バネ定数による柱上端の加速度振動レベルに ついては,k=3kN/mmの場合,10Hz以下の低 振動数領域で80dBを超える値となった。列車 走行時に最も卓越する振動数となる 30~60Hz 前後の振動数帯で振動加速度レベルが小さかっ たバネ値はk=30kN/mmであった。通常のラー メン高架橋である剛結構造と比較すると,振動 加速度レベルで20~25dB程度低減する結果と なった。
(2)列車走行速度の影響
図-10に,柱上下端の弾性体バネ定数を
k=60kN/mmと一定にし,列車の走行速度を40,
80,120,160km/hに変化した解析結果を示す。
速度が 40km/h の場合,振動加速度レベルは
31.5Hz帯で63dB程度でピークとなり,31.5Hz 帯が頂点となるような分布となった。走行速度
が80km/h以上の振動加速度レベルでは,顕著
な差は見られなかった。
(3)柱長さの影響
図-11に,バネ定数を30kN/mmで,柱の 高さを4m,8m,12m,16mに変化させた場合 の解析結果を示す。列車の走行速度は,60km/h とした。
柱上端での振動加速度レベルは,60Hz 前後 の振動数に着目すると柱の長さが短い順に振動 加速度レベルが高くなっている。これは,柱長 さによる柱軸剛性の値が,柱長さが長いほど小 さくなり,イメージ的にはやわらかく支持され ている状態となるためと考えられる。しかしな がら,その差は最大で5dB程度となっており顕 著な差とはなっていない。
(4)振動加速度レベルと鉛直一次固有振動数 との関係
図-12に,高架橋の鉛直一次固有振動数と 柱上端の振動加速度レベルとの関係を示す。図
中の各点は,列車走行解析を行った全ケース
(220 ケース)の結果を示したもので,凡例は 高架橋柱スパンと列車走行速度の解析ケースを 表している。
図-8 柱上端バネ定数と振動加速度レベル の関係(柱間隔 10m の高架橋の場合)
図-9 柱上端バネ定数と振動加速度レベル の関係(柱間隔 15m の高架橋の場合)
図-10 列車速度と振動加速度レベルの関 係
-60 -40 -20 0 20 40 60 80 100
0.1 1 10 100 1000 10000
振動数 f(Hz)
振動加速度レベル (db)
span10m剛結 span10mk=3kN/mm span10mk=30kN/mm span10mk=300kN/mm
-20 0 20 40 60 80 100
0.1 1 10 100 1000 10000
振動数 f(Hz)
振動加速度レベル (db)
span15m剛結 span15mk=3kN/mm span15mk=30kN/mm span15mk=300kN/mm
-20 0 20 40 60 80 100
0.1 1 10 100 1000 10000
振動数 f(Hz)
振動加速度レベル (db)
span10mV=40km/h span10mV=80km/h span10mV=120km/h span10mV=160km/h
高架橋柱上端位置に発生する振動加速度レ ベルを高架橋の鉛直一次固有振動数の関係で 図-12を整理したが,バラツキが大きい鉛 直一次振動数領域も存在する。概ね1~3Hz 程度までは振動加速度レベルが比較的単調に 増加するが,3Hz 以降の鉛直一次固有振動 数領域では振動加速度レベルの上限値にそれ ほど大きなバラツキが生じていない。
高架橋に発生する振動は,高架橋と走行車 両の動的相互作用と考えられる。高架橋に発 生する振動加速度レベル
を表現するためには,加 振源の振動数特性と構造 物の応答特性を表現する 伝達関数の積で表現され るものと考えられる。本 検討では,伝達関数のよ り具体的な構築は未整理 となっており,より的確 な振動加速度レベルの評 価式に関しては今後の課 題となった。
6.まとめ
本検討結果を下記にまとめる。
(1) 列車走行時に最も卓越する振動数とな
る 30~60Hz前後の振動数帯で振動加
速 度 レ ベ ル が 小 さ か っ た バ ネ 値 は k=30kN/mmであった。
(2) 走行速度が 80km/h 以上となると,振 動加速度レベルに顕著な差は見られな かった。
(3) 柱の長さが短いほど振動加速度レベル が大きくなる傾向を示すが,その差は 最大で5dB程度と顕著な差は見られな かった。
参考文献
1) 日本振動技術協会:防振・除振事例集,pp.6,
2007.1
2) 小林薫,竹市八重子:嵌合接合に弾性体を
挿入した柱構造の変形挙動に関する実験的 研究,コンクリート工学年次論文集,Vol.27,
No.2,pp.301-306,2005
3) 小林薫,杉崎向秀:嵌合接合部に弾性体を 挿入したラーメン構造の変形挙動に関する 研究,コンクリート工学年次論文集,Vol.28,
No.2,pp.13-18,2006
4) 小林薫,杉崎向秀:柱・梁嵌合弾性接合ラ ーメン構造の交番載荷実験,土木学会第60 回年次学術講演会,pp.917-918,2005.9 5) 金田淳,小林薫:高速列車走行時における
コンクリート桁の動的挙動に関する研究,
コンクリート工学年次論文集,Vol.28,No.2,
pp.31-36,2006
6) (財)鉄道総合技術研究所編:鉄道構造物等設
計標準・同解説 コンクリート構造物,丸 善,pp.68,2004
図-11 柱の長さと振動加速度レベルの関 係
図-12 高架橋鉛直一次固有振動数と振動加速度レベルの関係
0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100
0.1 1 10 100 1000 10000
振動数 f(Hz)
振動加速度レベル (db)
span10m高さ4m span10m高さ8m span10m高さ12m span10m高さ16m
30 40 50 60 70 80 90
0.1 1 10 100
鉛直1次固有振動数 fv(Hz)
振動加速度レベル(dB)
15m-V=30km/h 15m-V=60km/h 15m-V=80km./h 15m-V=120km/h 10m-V=30km/h 10m-V=60km/h 10m-V=80km/h 10m-V=40km/h 10m-V=160km/h 10m-V=120km/h
1~3Hz 3Hz以降