卒業研究論文
2016 年大統領選挙は世論調査にみる選好を反映しているか
13D8104018E 馬渕湧太
中央大学理工学部情報工学科 田口研究室
2017 年 3 月
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あらまし
本研究では、ゲーム理論を用いて、投票者の意志を投票結果に反映させることと、投票 方式に関して考察する。そして、2016年に行われたアメリカ合衆国大統領選挙の結果を分 析し、その投票結果が真に妥当なものであるかどうかを調べる。
キーワード:単記投票 決戦投票付き単記投票 ボルダ投票 投票力指数(SS指数)
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目次
第1章 はじめに………..1
第2章 選挙方式と投票の結果への反映………..………2
2.1 単記投票………3
2.2 決戦投票付き単記投票………3
2.3 ボルダ投票………4
2.4 投票力指数(SS指数) ………..………5
2.5 SS指数計算アルゴリズム……….………6
第3章 アメリカ合衆国2016年大統領選挙………9
3.1 選出方法………9
3.2 年間スケジュール………..………11
第4章 使用データ概要………14
4.1 最終結果と各党の得票率……….………14
4.2 激戦州とその定義……….………16
4.3 世論調査……….………16
4.4 出口調査……….………24
第5章 大統領選挙の投票力指数(SS指数) ……….………27
5.1 各州および首都における投票力指数……….………27
5.2 激戦州に限定した投票力指数……….………29
第6章 世論・出口調査と投票結果の一致および乖離………...………32
6.1 世論調査を反映した投票結果……….………32
6.2 出口調査から考える投票結果……….………32
第7章 おわりに………37
7.1 まとめ……….………37
7.2 今後の課題……….………37
謝辞………...………38
参考文献………...………39
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第 1 章 はじめに
「投票」、「選挙」という言葉は誰もが知っていて当たり前のものであるが、その結果が 票を投じた人々の意志や意向を正しく反映しているのかどうかを深く考える者はほとんど いないであろう。多数決を例に挙げてみよう。多数決には、多数派の意向を尊重しようと する方針が認められる。しかしここで、「少数派の意向を完全に無視してよいか」という疑 問が必然的に生じうる。この疑問は、多数派と少数派の得票差が小さいほど重要なものに なるだろう。
本研究ではゲーム理論に基づき、投票結果が投票者の意向をどの程度反映しうるかを考 えつつ、アメリカ合衆国2016年大統領選挙を例に挙げ、現実で行われた投票の結果につ いて分析する。具体的には、投票の世界で広く知られる3つの選挙方式(単記投票、決戦投 票付き単記投票、ボルダ投票)について論じ、ルールのみの違いで投票の結果が変わりうる ことを確認する。その上で、2016年大統領選挙に結果の妥当性を考察する。
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第 2 章 選挙方式と投票の結果への反映
投票とは、いくつかの候補者や代替案から投票者の投票によって1つの候補者・代替案 を選び出す方法である。投票は定められたルールによって行われるため、ゲーム理論の分 析に馴染みやすい。投票で物事を決めるとき、投票者の誰がどの案に賛成か反対かに注目 しがちになるが、同じメンバーであっても「選挙方式」によって結果が異なる場合がある ことに注目するのは重要である。このようなことを『社会的選択理論』[1]と呼ばれる学問 領域で扱うこともある。
本章では、著名な3つの選挙方式である単記投票、決戦投票付き単記投票、そしてボル ダ投票について、同じ条件下で選挙方式がどのように結果に作用するのかを確かめる。そ の後、投票者の影響力を表すShapley-Shubik指数(以下「SS指数」という)について論じ る。
以下の選挙モデルを例に挙げ、本章の議題を扱うこととする。この選挙モデルは渡辺隆 裕氏の著書[2]を参考にして作ったものである。
例1
20人いる評議員の中から会長1人を投票で決めたい。候補者はAさん、Bさん、そし てCさんの3名。20人いる評議員は3つの派閥に分かれている。Aさん派が9名、Bさ ん派が8名、Cさん派が3名である。
3つの派閥が好む候補者を整理し、表2.1に示す。個人の候補者や代替案に関する好み の順序を表すものを、その個人の「選好」と呼ぶ。
表2.1 3つの派閥の候補者に関する選好 Aさん派(9名) Aさん≻Cさん≻Bさん Bさん派(8名) Bさん≻Cさん≻Aさん Cさん派(3名) Cさん≻Bさん≻Aさん
表2.1の「Aさん≻Cさん≻Bさん」とは、Aさんを1番目に好み、2番目にCさん、3 番目にBさんを好むという選好を表す。
3 2.1 単記投票
例1の状況における最も簡単な選挙方式は、1人の投票者が1人の候補者を記入し、一 番多い票を得た者が選ばれるという方式である。このような方式を「多数決」と呼ぶこと が多いが、ゲーム理論や投票の研究では多数決と呼ばず「単記投票」と呼ぶ。
表2.1の選好をもとに単記投票を行うと、以下の表2.2のようになる。
表2.2 単記投票における投票結果
Aさん 9票
Bさん 8票
Cさん 3票
したがってAさんが当選することがわかる。
この選挙方式では、各投票者が一番好む情報しか集計しない。投票者が2番目以降に好 む候補者は考慮されないのである。
2.2 決戦投票付き単記投票
単記投票では、各投票者の選好の2番目以降を考慮しない性質があったが、その性質が 問題であるとする考え方も存在する。例1の状況では、集団全体の争点はAさんとBさん の2大候補者の争いと考えることができる。ここでは、Cさん派がCさんに投票する意味 がないともいえる。Cさん派の票が死票になってしまうのである。
このような場合に、最終的な決定に全員の票を反映させる方法として、単記投票で過半 数を獲得していれば当選にし、過半数に達していない場合は、上位2名で決戦投票を行う という方式も多く用いられる。このような方式を「決戦投票付き単記投票」と呼ぶ。
表2.1の選好をもとに決戦投票付き単記投票を行うと、まず始めに通常の単記投票を行 うので結果は表2.2のようになる。表2.2で過半数の11票を獲得している候補者が存在し ないので、AさんとBさんとで決戦投票が行われ、結果は以下の表2.3のようになる。
表2.3 決戦投票における投票結果
Aさん 9票
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Bさん 11票
決戦投票を行うことで、表2.1の選好よりCさん派の3票がBさんに入ることでBさ んが当選となる。
この結果を単記投票と比較してみると、最終的に残る2人の候補者には、すべての投票 者の意志が反映されていることがわかる。しかしながら、1段階目が単記投票であるため、
2つの「多数派が望む候補者」の中から当選者が選ばれるという点は変わっていないとい える。
2.3 ボルダ投票
単記投票が、一番好むものに焦点を当てるのに対して、投票者の選好の2番目、3番目 の情報も集計しようとする選挙方式はいくつか存在する。代表的なものとして「ボルダ投 票」と呼ばれる方式を紹介する。
この方式は順位評点法とも呼ばれ、各投票者が一番好む候補者に一番高い点をつけ、そ こから順に1点ずつ減らして点をつけていく方式である。例1のように候補者が3名の場 合では、一番好む候補者に2点、次に好む候補者に1点、一番好まない候補者には0点を つける。このように投票して、最多得点を獲得した候補者が当選する。
表2.1の選好をもとにボルダ投票を行うと、以下の表2.4のようになる。
表2.4 ボルダ投票における投票結果
Aさん 18点
Bさん 19点
Cさん 23点
したがって、Cさんが当選となる。
ボルダ投票では、投票者の選好全体を集計し、投票者全体の中庸的な候補者を選び出す ことがわかる。
ここまで3つの選挙方式について扱ってきたが、驚くべきことに例1で選び出された候 補者はAさん、Bさん、Cさんとすべて異なる候補者であった。どの選挙方式が一番優れ ているかを一概に言うことはできないが、それぞれの性質をみると、単記投票は各投票者
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の一番好む候補者に重点を置き多数派の意見を尊重する選挙方式、決戦投票付き単記投票 は最終的な争点を2者に絞り全員の選好を明確に集計する選挙方式、ボルダ投票は全員の 選好を考慮し中庸的な候補者を選ぶ選挙方式であるといえる。
2.4 投票力指数(SS指数)
選挙方式によって投票結果に変化がみられることを確認できた後は、「投票者個人、又は その提携が選挙においてどの程度の影響力を持つか」について考えていくことにする。
𝑛人の投票者それぞれが、とある議案に「賛成」か「反対」かの投票を行って、議案を 通すか通さないかを決定する制度について考える。このような制度において、各投票者の もつ影響力を測るにはどうすればよいだろうか。
投票者の集合を𝑁 = {1,2, … , 𝑛}とする。以下では、投票者の部分集合を提携と呼ぶ。ある 提携𝑆 ⊆ 𝑁が、「提携S中の投票者が全員賛成の回答を投票し、提携Sに入っていない投票 者が全員反対の回答を投票した結果、議案を通すことができる」とき、提携Sは勝利提携 であると定義する。また、勝利提携でない提携を敗北提携と呼ぶことにする。勝利提携す べての集合を𝑊と表し、投票者の集合と勝利提携の集合の組(𝑁, 𝑊)を投票ゲームと呼ぶ。
[3]
一つの投票ゲームを例にあげる。
例2
𝑁 = {1,2,3,4}とし、勝利提携𝑊が𝑊 = {{1,2,3,4}, {1,2,3}, {1,2,4}, {2,3,4}, {1,2}, {2,3}}となる 投票ゲーム(𝑁, 𝑊)。このゲームは、それぞれのプレイヤーの投票の重みに差がある場合を 想定している。
例2における各投票者の影響力はどのくらいだろうか。
一口に「影響力」といっても、さまざまな尺度を考えることができる。例えば、各投票 者の「所属する勝利提携の数」を影響力としたらどうだろうか。すなわち投票者1、2、3、
4の所属する勝利提携の数、4、6、4、3を各投票者の影響力と呼ぶのだ。このように、考 えようと思えばいくらでも定義可能であるように思える。
さまざまな尺度があるとき、互いの優劣を決めるのは容易ではない。このとき、投票者 の影響力を測る尺度の満たすべき性質を議論することによって、望ましい尺度を導くのが
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一般的である。以下では、各投票者の影響力を測る尺度を投票力指数と呼び、これについ て議論する。
指数が満たすべき性質を多く持つ代表的なものとして、ShapleyとShubikによって提 案された「SS指数」を挙げ、その定義について説明する。
投票ゲーム𝐺 = (𝑁, 𝑊)が与えられたとき、SS指数α(𝐺) ≝ (𝛼𝐺(1), … , 𝛼𝐺(𝑛))は以下のよ うに定義される。投票者全員を適当な順序で並べた順列π = (𝑝1, 𝑝2, … , 𝑝𝑛)に対して、投票 者𝑖(𝑖 = 𝑝𝑗とする), {𝑝1, 𝑝2, … , 𝑝𝑗−1} ∉ 𝑊, {𝑝1, 𝑝2, … , 𝑝𝑗−1, 𝑝𝑗} ∈ 𝑊を満たすとき、𝑖は𝐺において πに関するピヴォットであるという。この状況は、投票者が(𝑝1, 𝑝2, … , 𝑝𝑛)の順に賛成の回答 を表明していった場合、投票者𝑝𝑗が賛成した時点で議案が初めて通ったと捉えることがで きる。投票者の順列すべての集合をΠ𝑁と表す。順列は全部で𝑛!通り存在する。投票者𝑖の
SS指数𝛼𝐺(𝑖)は、順列の集合Π𝑁のなかで𝑖がピヴォットとなるようなものの割合と定義され
る。正確には、
𝛼𝐺(𝑖) ≝ |{𝜋 ∈ Π𝑁|𝑖は𝜋に関するピヴォットである}|/𝑛!
と定義される。
例2における投票者のSS指数を考える。投票者が4人であることから、順列は全部で 24通り存在する。それぞれについてピヴォットは
(1,2,3,4) : 2 (2,1,3,4) : 1 (3,1,2,4) : 2 (4,1,2,3) : 2 (1,2,4,3) : 2 (2,1,4,3) : 1 (3,1,4,2) : 2 (4,1,3,2) : 2 (1,3,2,4) : 2 (2,3,1,4) : 3 (3,2,1,4) : 2 (4,2,1,3) : 1 (1,3,4,2) : 2 (2,3,4,1) : 3 (3,2,4,1) : 2 (4,2,3,1) : 3 (1,4,2,3) : 2 (2,4,1,3) : 1 (3,4,1,2) : 2 (4,3,1,2) : 2 (1,4,3,2) : 2 (2,4,3,1) : 3 (3,4,2,1) : 2 (4,3,2,1) : 2
となっている。上記の表記は「順列 : ピヴォット」を表している。これより投票者1と3 のピヴォットが4回、投票者2のピヴォットが16回、投票者4のピヴォットは0回であ る。したがって、例2のゲームのSS指数はα(𝐺) = (4
24,1624,244, 0) = (16,23,16, 0)である。
2.5 SS指数計算アルゴリズム
SS指数の定義については以上の通りであるが、計算機上でSS指数の計算を行うことを 考えた場合、階乗の計算を式通り行うと多大な計算時間を要する。したがって、計算を高 速化するアルゴリズムを導入する必要がある。以下に記述するのは宇野毅明氏の論文[4]
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にある、SS指数計算の高速化のアルゴリズムである。2.4節でSS指数の定義について述 べたが、理解を簡単にするため、改めて変数を定義し直すことにする。
提携𝑆が最初空集合であり、プレイヤーが一人一人その提携に参加していく、という状 況を考えよう。𝑤(𝑝)をプレイヤー𝑝の重み(票数)とする。このとき、プレイヤー𝑝𝑖が参加し た際に、提携が敗北提携から勝利提携に変わったとする。このとき、𝑝𝑖が発言力を持つと 考えよう。プレイヤーが提携に参加していく、そのしかたは𝑛!通り存在する。今、それら が等確率で発生するとすると、𝑝𝑖が発言力を持つ確率は、𝜋𝑛を1から𝑛までの順列の集合 として、
|{(𝑝1, … , 𝑝𝑖)|(𝑝1, … , 𝑝𝑖) ∈ 𝜋𝑛, 𝑤({𝑝𝑗1, 𝑝𝑗2, … , 𝑝𝑖}) ≥ 𝑞, 𝑤({𝑝𝑗1, 𝑝𝑗2, … , 𝑝𝑖}) − 𝑤(𝑝𝑖) < 𝑞}|/𝑛!
となる。これが、𝑝𝑖のSS指数𝑆𝑠(𝑝𝑖)の定義である。
SS指数に対しても、動的計画法を用いたアルゴリズムが提案されている。このアルゴ リズムは、関数 f を定義し、それを動的計画法によって求め、指数の計算を行う。関数 f の定義は、0 ≤ 𝑖 ≤ 𝑛, 0 ≤ 𝑦 ≤ 𝑞 − 1, 𝑘 ≤ 𝑖に対して以下のようにする。
𝑓(𝑝𝑖, 𝑘, 𝑦)
= {
1 if 𝑖 = 0 and 𝑦 = 0 0 if 𝑖 = 0 and 𝑦 > 0
|{𝑆|𝑆 ⊆ 𝑃𝑖, 𝑤(𝑆) = 𝑦, |𝑆| = 𝑘}| otherwise 𝑃𝑖はプレイヤー1からプレイヤー𝑖までの提携、すなわち𝑃𝑖= {𝑝1, … , 𝑝𝑖}である。
ここで、𝑆𝑠(𝑝𝑛) × 𝑛!を求める方法を考えよう。順列(𝑗1, … , 𝑗𝑛)で、{𝑝𝑗1, 𝑝𝑗2, … , 𝑝𝑖} = 𝑆とな るようなものは(|𝑆| − 1)! (𝑛 − |𝑆|)!個ある。よって、𝑆𝑠(𝑝𝑛) × 𝑛!は、提携𝑆 ⊆ 𝑃𝑛−1で、𝑞 −
𝑤(𝑝𝑖) ≤ 𝑤(𝑆) ≤ 𝑞 − 1を満たすものに関して(|𝑆| − 1)! (𝑛 − |𝑆|)!の和をとったものになる。
𝑞 − 𝑤(𝑝𝑖) ≤ 𝑦 ≤ 𝑞 − 1,0 ≤ 𝑘 ≤ 𝑛 − 1なる𝑦, 𝑘に対して、𝑤(𝑆) = y, |𝑆| = 𝑘となる𝑆 ⊆ 𝑃𝑛−1の
個数は𝑓(𝑝𝑛−1, 𝑘, 𝑦)である。よって、
𝑆𝑠(𝑝𝑛) × 𝑛! = ∑ ∑ 𝑓(𝑝𝑛−1, 𝑘, 𝑦)
𝑛−1
𝑘=0 𝑞−1
𝑦=𝑞−𝑤(𝑝𝑛)
(𝑘 − 1)! (𝑛 − 𝑘)!
となる。𝑝𝑛−1に関してすべての𝑦, 𝑘について𝑓の値が求まれば、𝑆𝑠(𝑝𝑛)が計算できる。𝑓の 計算は、以下の性質2.1の再帰式を用いた動的計画法でΟ(𝑛2𝑞)時間で行う。
性質2.1
1 ≤ 𝑖 ≤ 𝑛に対して、以下の再帰式が成り立つ。
8 𝑓(𝑝𝑖, 𝑘, 𝑦)
= { 𝑓(𝑝𝑖−1, 𝑘, 𝑦) + 𝑓(𝑝𝑖−1, 𝑘 − 1, 𝑦 − 𝑤(𝑝𝑖)) if 𝑤(𝑝𝑖) ≤ 𝑦 ≤ 𝑞 − 1, 𝑘 > 0
𝑓(𝑝𝑖−1, 𝑘, 𝑦) if 0 ≤ 𝑦 < 𝑤(𝑝𝑖) or 𝑘 = 0
すべてのプレイヤーについて𝑆𝑠(𝑝𝑖)を計算するためには添え字を付け替えて動的計画法 を解きなおす必要があり、Ο(𝑛3𝑞)時間かかる。
このアルゴリズムによると、動的計画法によって無駄な計算が省かれている。しかし、
全員分の計算に対しては、さらに効率化を望むことができる。新たに関数𝑔を定義する。
1 ≤ 𝑖 ≤ 𝑛 + 1,0 ≤ 𝑦 ≤ 𝑞 − 1, 𝑘 ≤ 𝑖 − 1なる𝑖, 𝑦, 𝑘に対して、
𝑔(𝑝𝑖, 𝑘, 𝑦)
= {
𝑘! (𝑛 − 𝑘 − 1)! if 𝑖 = 𝑛 + 1 and 𝑦 = 0
0 if 𝑖 = 𝑛 + 1 and 𝑦 > 0
∑ (|𝑆| + 𝑘)! (𝑛 − |𝑆| − 𝑘 − 1)! otherwise
𝑆,𝑆⊆𝑃̅𝑖,𝑤(𝑆)=𝑦
とする。𝑔に関しても、以下の性質2.2の再帰式が成り立ち、動的計画法で値を求められ る。
性質2.2
1 ≤ 𝑖 ≤ 𝑛, 0 ≤ 𝑘 ≤ 𝑖 − 1に対して、
𝑔(𝑝𝑖, 𝑘, 𝑦)-
= { 𝑔(𝑝𝑖+1, 𝑘, 𝑦) + 𝑔(𝑝𝑖+1, 𝑘 + 1, 𝑦 − 𝑤(𝑝𝑖)) if 𝑤(𝑝𝑖) ≤ 𝑦 ≤ 𝑞 − 1
𝑔(𝑝𝑖+1, 𝑘, 𝑦) if 0 ≤ 𝑦 < 𝑤(𝑝𝑖)
𝑔(𝑝𝑖, 𝑘, 𝑦)は、𝑆1⊆ 𝑃𝑖−1の要素数が𝑘であるときに、𝑤(𝑆2) = 𝑦が成り立つような𝑆2につい
て、(|𝑆1| + |𝑆2|)! (𝑛 − |𝑆1| − |𝑆2| − 1)!の総和を取ったものである。すると、𝑤(𝑆1) = 𝑧, |𝑆1| = 𝑘, 𝑤(𝑆2) = 𝑦, 𝑞 − 𝑤(𝑝𝑖) ≤ 𝑧 + 𝑦 ≤ 𝑞 − 1を満たす𝑆1, 𝑆2の組すべてについて(|𝑆1∪ 𝑆2| − 1)! (𝑛 − |𝑆1∪ 𝑆2|)!の和をとったものは、𝑓(𝑝𝑖−1, 𝑘, 𝑦) × 𝑔(𝑝𝑖+1, 𝑘, 𝑦)と等しくなる. よって、
𝑆𝑠(𝑝𝑛) × 𝑛! = ∑ ∑ ∑ (𝑓(𝑝𝑖−1, 𝑘, 𝑧) × 𝑔(𝑝𝑖+1, 𝑘, 𝑦))
𝑞−1−𝑧
𝑦=max{0,𝑞−𝑤(𝑝𝑖)−𝑧}
𝑖−1
𝑘=0 𝑞−1
𝑧=0
= ∑ ∑ (𝑓(𝑝𝑖−1, 𝑘, 𝑧) × ∑ 𝑔(𝑝𝑖+1, 𝑘, 𝑦)
𝑞−1−𝑧
𝑦=max{0,𝑞−𝑤(𝑝𝑖)−𝑧}
)
𝑖−1
𝑘=0 𝑞−1
𝑧=0
9
となる。以上のアルゴリズムより、プレイヤー𝑝1, … , 𝑝𝑛、各プレイヤーの重み、𝑞が与えら れたとき全プレイヤーのSS指数の計算はΟ(𝑛2𝑞)時間で行える. 空間計算量はΟ(𝑛𝑞)とな る。
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第 3 章 アメリカ合衆国 2016 年大統領選挙
本章では、実際の選挙の例として2016年に行われたアメリカ合衆国大統領選挙を挙げ、
その選出方法、そして年間スケジュールについて説明する。
3.1 選出方法
アメリカ合衆国の大統領選挙の投票日は11月の第1月曜日の次の火曜日と決められて いる。2016年は11月8日が投票日であった。選挙権があるのは18歳以上のアメリカ国 民で、事前に有権者として選挙管理委員会に登録する必要がある。有権者は意中の候補者 一名に投票するが、その総得票数で大統領を決定するわけではない。各候補者が全米50 の州と、首都であるワシントンD.C.で獲得する「選挙人」の数で決定する。
選挙人の数は州および首都ごとに、人口に応じて割り当てられ、最も多いのがカリフォ ルニア州の55人、最も少ないのがアラスカ州等の3人であり、州ごとに大きな差が存在 する。選挙人の総数は538人。その過半数の270人の選挙人を獲得した候補者が勝利とな る。
有権者の票は州ごとに集計され、得票数1位の候補者がその州での勝者となる。州の勝 者になると、州ごとに割り当てられた選挙人をすべて獲得できる。この方式を勝者総取り 方式と呼ぶ。これは首都でも同じである。[5]
したがって有権者の選好は州ごとに反映されることになる。州および首都ごとに割り当 てられる選挙人の数を表3.1にまとめる。
表3.1 州および首都ごとの選挙人数
州および首都 選挙人数(人)
アラバマ州 9
アラスカ州 3
アリゾナ州 11
アーカンソー州 6
カリフォルニア州 55
コロラド州 9
11
コネチカット州 7
デラウェア州 3
フロリダ州 29
ジョージア州 16
ハワイ州 4
アイダホ州 4
イリノイ州 20
インディアナ州 11
アイオワ州 6
カンザス州 6
ケンタッキー州 8
ルイジアナ州 8
メイン州 4
メリーランド州 10 マサチューセッツ州 11
ミシガン州 16
ミネソタ州 10
ミシシッピ州 6
ミズーリ州 10
モンタナ州 3
ネブラスカ州 5
ネバダ州 6
ニューハンプシャー州 4 ニュージャージー州 14 ニューメキシコ州 5 ニューヨーク州 29 ノースカロライナ州 15
ノースダコタ州 3
オハイオ州 18
12
オクラホマ州 7
オレゴン州 7
ペンシルベニア州 20 ロードアイランド州 4 サウスカロライナ州 9
サウスダコタ州 3
テネシー州 11
テキサス州 38
ユタ州 6
バーモント州 3
バージニア州 13
ワシントン州 12
ワシントンD.C. 3 ウェストバージニア州 5 ウィスコンシン州 10
ワイオミング州 3
3.2 年間スケジュール
アメリカ合衆国の大統領選挙は、ほぼ1年をかけて行われる。そのため、1年の中で行 われる各イベントが世論に大きく影響する。世論の変動の考察には、ある程度年間スケジ ュールを把握している必要があるのだ。ここでは大まかな年間スケジュールを説明する。
2016年 2月1日(月)
アイオワ州党員集会 2月4日(木)
民主党討論会 2月6日(土) 共和党討論会
13 2月9日(火)
ニューハンプシャー州予備選挙 2月11日(木)
民主党討論会 2月13日(土) 共和党討論会 2月20日(土) 民主党党員集会 共和党予備選挙
ワシントン州共和党党員集会 2月23日(火)
サウスカロライナ州民主党予備選挙 2月25日(木)
共和党討論会 2月27日(土)
ネバダ州共和党党員集会 3月1日(火)
スーパーチューズデー 3月6日(日)
民主党討論会 3月9日(水) 民主党討論会 3月10日(木) 共和党討論会 3月15日(火)
ミニ・スーパーチューズデー 3月26日(土)
ワシントン州民主党党員集会 4月5日(火)
ウィスコンシン州予備選挙
14 4月19日(火)
ニューヨーク州予備選挙 4月26日(火)
コネチカット、デラウェア、メリーランド、ペンシルベニア、ロードアイランドの各州 で予備選挙
5月17日(火)
オレゴン州予備選挙 5月24日(木)
ワシントン州予備選挙 6月7日(火)
カリフォルニア、ニュージャージー、モンタナ、ニューメキシコ、サウスダコタ州など で予備選挙
6月14日(火)
ワシントンD.C.で民主党予備選挙 (ここで予備選挙の全日程が終了) 7月18日(月)~21日(木)
共和党全国大会 7月25日(月)~28日(木) 民主党全国大会 9月26日(月)
第1回大統領候補討論会 10月9日(日)
第2回大統領候補討論会 10月19日(水)
第3回大統領候補討論会 11月8日(火)
本選挙投票日
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第 4 章 使用データ概要
本章では、アメリカ合衆国2016年大統領選挙を分析するうえで使用したデータを記載 する。分析の単純化のため、政党は共和党と民主党に限定している。
4.1 最終結果と各党の得票率
アメリカ合衆国2016年大統領選挙の、各党の最終的な選挙人の獲得数[6]を表4.1に示 す。
表4.1 各党の選挙人獲得数
政党 選挙人の獲得数(人)
共和党 306
民主党 232
表4.1から分かるように、2016年大統領選挙は共和党が勝利した。次に、各党の州ごと の得票率を表4.2に示す。
表4.2 各党の得票率
州および首都 共和党の得票率(%) 民主党の得票率(%)
アラバマ州 62.9 34.6
アラスカ州 52.9 37.7
アリゾナ州 49.5 45.4
アーカンソー州 60.4 33.8 カリフォルニア州 32.8 61.6
コロラド州 44.4 47.3
コネチカット州 41.2 54.5 デラウェア州 41.9 53.4
フロリダ州 49.1 47.8
ジョージア州 51.3 45.6
16
ハワイ州 30 62.2
アイダホ州 59.2 27.6
イリノイ州 39.4 55.4
インディアナ州 57.2 37.9
アイオワ州 51.8 42.2
カンザス州 57.2 36.2
ケンタッキー州 62.5 32.7 ルイジアナ州 58.1 38.4
メイン州 45.2 47.9
メリーランド州 35.3 60.5 マサチューセッツ州 33.5 60.8
ミシガン州 47.6 47.3
ミネソタ州 45.4 46.9
ミシシッピ州 58.3 39.7
ミズーリ州 57.1 38
モンタナ州 56.5 36
ネブラスカ州 60.3 34
ネバダ州 45.5 47.9
ニューハンプシャー州 47.2 47.6 ニュージャージー州 41.8 55 ニューメキシコ州 40 48.3 ニューヨーク州 37.5 58.8 ノースカロライナ州 50.5 46.7 ノースダコタ州 64.1 27.8
オハイオ州 52.1 43.5
オクラホマ州 65.3 28.9
オレゴン州 41.1 51.7
ペンシルベニア州 48.8 47.6 ロードアイランド州 39.8 55.4
17
サウスカロライナ州 54.9 40.8 サウスダコタ州 61.5 31.7
テネシー州 61.1 34.9
テキサス州 52.6 43.4
ユタ州 45.9 27.8
バーモント州 32.6 61.1
バージニア州 45 49.9
ワシントン州 38.2 54.4 ワシントンD.C. 4.1 92.8 ウェストバージニア州 68.7 26.5 ウィスコンシン州 47.9 46.9 ワイオミング州 70.1 22.5
4.2 激戦州とその定義
アメリカ合衆国大統領選挙は例年、共和党と民主党による2大政党の一騎打ちに近い状 態となっている。そうした中で、共和党と民主党の支持率が拮抗し、選挙の度に勝利政党 が変動する州というのが存在する。そのような州を「激戦州」や「Swing state」呼ぶ。
本研究では、「共和党・民主党の最終的な得票率の差が5%以下の州」を激戦州として扱 うこととする。つまり激戦州となるのはアリゾナ州、コロラド州、フロリダ州、メイン州、
ミシガン州、ミネソタ州、ネバダ州、ニューハンプシャー州、ノースカロライナ州、ペン シルベニア州、バージニア州、そしてウィスコンシン州の12の州である。これ以降は主 に、これら激戦州について議論を展開していく。
4.3 世論調査
アメリカ合衆国では、各党の支持率を世論調査として集計している。[7]
図4.1に共和党・民主党の支持率の全米平均の折れ線グラフを示す。
18
図4.1 世論調査における各党の支持率の推移(全米平均)
支持率(%)を縦軸、日付を横軸にとり、赤い線が共和党の支持率、青い線が民主党の支持 率を表している。横軸の期間は2016年1月1日から投票日である2016年11月8日まで となっている。共和党の支持率が民主党の支持率を逆転しているのは、民主党全国大会が あった7月25日~28日の期間である。図4.1を見ても、全体を通して民主党の支持率が 共和党の支持率を上回っていることがわかる。
激戦州ごとの世論調査を図4.2~4.12に示す。データの集計期間は州ごとに差がある。
激戦州である12州の中で、ミネソタ州のみ統計データが不十分のためグラフを掲載して いない。
青:民主党の支持率
赤:共和党の支持率
19
図4.2 アリゾナ州における支持率の変動
図4.3 コロラド州における支持率の変動
20
図4.4 フロリダ州における支持率の変動
図4.5 メイン州における支持率の変動
21
図4.6 ミシガン州における支持率の変動
図4.7 ネバダ州における支持率の変動
22
図4.8 ニューハンプシャー州における支持率の変動
図4.9 ノースカロライナ州における支持率の変動
23
図4.10 ペンシルべニア州における支持率の変動
図4.11 バージニア州における支持率の変動
24
図4.12 ウィスコンシン州における支持率の変動
激戦州であっても、州ごとに支持されている政党に偏りが見られることがわかる。本 論文で主に分析に用いるのは、投票日当日、又は直前の支持率である。それを激戦州につ いてまとめたものを表4.3に示す。
表4.3 激戦州における世論調査の支持率
州 共和党の支持率(%) 民主党の支持率(%)
アリゾナ州 46.3 42.3
コロラド州 40.4 43.3
フロリダ州 46.6 46.4
メイン州 39.5 44.0
ミシガン州 42.0 45.4
ミネソタ州 38.5 45.4
ネバダ州 45.8 45.0
ニューハンプシャー州 42.7 43.3 ノースカロライナ州 46.5 45.5 ペンシルベニア州 44.3 46.2 バージニア州 42.3 47.3 ウィスコンシン州 40.3 46.8
25 4.4 出口調査
アメリカ合衆国は出口調査において、様々なデータを集計している。
本研究で分析に用いたのは、資料[8]における「vote for president in a two-way race」
のデータ、つまり候補者が民主党のClintonと共和党のTrumpのみである場合の投票者 の意志である。このデータは各激戦州の人々の選好を定義するのに用いるが、それについ ては第6章で述べる。
表4.4~4.15に、各激戦州のデータを示す。行の情報が「vote for president in a two-way race」における行動と割合、列の情報が実際に選挙で投票した候補者で、それぞれの割合 を表している。表4.9のミネソタ州のみ、確実なデータが存在しないため、世論調査のデ ータから妥当と思われる数値を記載している。「n/a」とあるのは「該当なし(not applicable)」
の意である。
表4.4 アリゾナ州のデータ
行動(%)/実際の投票 Clinton Trump other/no answer
Clinton(44%) 96% 1% 3%
Trump(49%) 1% 95% 4%
would not vote(6%) n/a n/a n/a
表4.5 コロラド州のデータ
行動(%)/実際の投票 Clinton Trump other/no answer
Clinton(50%) 95% 0% 5%
Trump(43%) 0% 97% 3%
would not vote(6%) n/a n/a n/a
表4.6 フロリダ州のデータ
行動(%)/実際の投票 Clinton Trump other/no answer
Clinton(46%) 96% 0% 4%
Trump(48%) 0% 98% 2%
26
would not vote(5%) n/a n/a n/a
表4.7 メイン州のデータ
行動(%)/実際の投票 Clinton Trump other/no answer
Clinton(48%) 96% 0% 4%
Trump(44%) 2% 97% 1%
would not vote(6%) n/a n/a n/a
表4.8 ミシガン州のデータ
行動(%)/実際の投票 Clinton Trump other/no answer
Clinton(48%) 96% 1% 3%
Trump(44%) 1% 97% 2%
would not vote(7%) n/a n/a n/a
表4.9 ミネソタ州のデータ
行動(%)/実際の投票 Clinton Trump other/no answer
Clinton(47%) 98% 0% 2%
Trump(45%) 1% 97% 2%
would not vote(8%) n/a n/a n/a
表4.10 ネバダ州のデータ
行動(%)/実際の投票 Clinton Trump other/no answer
Clinton(48%) 97% 0% 3%
Trump(47%) 1% 96% 3%
would not vote(5%) n/a n/a n/a
表4.11 ニューハンプシャー州のデータ
行動(%)/実際の投票 Clinton Trump other/no answer
Clinton(50%) 97% 1% 2%
27
Trump(46%) 0% 97% 3%
would not vote(4%) n/a n/a n/a
表4.12 ノースカロライナ州のデータ
行動(%)/実際の投票 Clinton Trump other/no answer
Clinton(46%) 96% 1% 3%
Trump(50%) 1% 98% 1%
would not vote(4%) n/a n/a n/a
表4.13 ペンシルべニア州のデータ
行動(%)/実際の投票 Clinton Trump other/no answer
Clinton(48%) 96% 1% 3%
Trump(48%) 1% 98% 1%
would not vote(3%) n/a n/a n/a
表4.14 バージニア州のデータ
行動(%)/実際の投票 Clinton Trump other/no answer
Clinton(52%) 95% 2% 3%
Trump(42%) 0% 98% 2%
would not vote(5%) n/a n/a n/a
表4.15 ウィスコンシン州のデータ
行動(%)/実際の投票 Clinton Trump other/no answer
Clinton(48%) 97% 1% 2%
Trump(48%) 1% 97% 2%
would not vote(4%) n/a n/a n/a
28
第 5 章 大統領選挙の投票力指数(SS 指数)
本章では、2.5節で述べたアルゴリズムを基に、州および首都単位でのSS指数を求め、
表にしたものを記載する。
5.1 各州および首都における投票力指数
各州および首都について、表3.1で見たそれぞれが有する選挙人の数を重みとしてSS 指数の値を計算した。ピヴォットの条件は、大統領選挙の当選条件である過半数の270を 基準としている。それらをまとめたものを表5.1および図5.1に示す。
表5.1 各州および首都のSS指数 州および首都 SS指数 アラバマ州 0.01638
アラスカ州 0.0054 アリゾナ州 0.02009 アーカンソー州 0.01086 カリフォルニア州 0.1103 コロラド州 0.01638 コネチカット州 0.01269 デラウェア州 0.0054 フロリダ州 0.05483 ジョージア州 0.02949 ハワイ州 0.00721 アイダホ州 0.00721 イリノイ州 0.03715 インディアナ州 0.02009 アイオワ州 0.01086 カンザス州 0.01086 ケンタッキー州 0.01453
29
ルイジアナ州 0.01453 メイン州 0.00721 メリーランド州 0.01823 マサチューセッツ州 0.02009 ミシガン州 0.02949 ミネソタ州 0.01823 ミシシッピ州 0.01086 ミズーリ州 0.01823 モンタナ州 0.0054 ネブラスカ州 0.00903 ネバダ州 0.01086 ニューハンプシャー州 0.00721 ニュージャージー州 0.02571 ニューメキシコ州 0.00903 ニューヨーク州 0.05483 ノースカロライナ州 0.0276 ノースダコタ州 0.0054 オハイオ州 0.03331 オクラホマ州 0.01269 オレゴン州 0.01269 ペンシルベニア州 0.03715 ロードアイランド州 0.00721 サウスカロライナ州 0.01638 サウスダコタ州 0.0054 テネシー州 0.02009 テキサス州 0.07322
ユタ州 0.01086
バーモント州 0.0054 バージニア州 0.02383
30
ワシントン州 0.02196 ワシントンD.C. 0.0054 ウェストバージニア州 0.00903 ウィスコンシン州 0.01823 ワイオミング州 0.0054
図5.1 各州および首都のSS指数の棒グラフ
すべての数値の合計値は0.99992で1に近い値であり、選挙人の数が同じ州のSS指数 の値は同じになる。これはSS指数のもつ性質のためである。
数値が0である州が存在していないことから、すべての州が選挙に対して少なからず影 響力を有していることがわかる。
5.2 激戦州に限定した投票力指数
前節で全米の州および首都のSS指数を見たが、共和党と民主党の得票率の差が小さい 州に限定してSS指数を計算することで、より興味深い数値が得られそうである。
激戦州に範囲を限定してSS指数を計算する上で、ピヴォットの条件を適切に定義する 必要がある。全米を範囲とした場合では、共和党でも民主党でも同じ選挙人数(270)を目指 して競争するため、両政党でピヴォットの条件は変わらない。しかし、激戦州に範囲を限 定するには、激戦州以外の州の選挙人の数を候補者に割り振っておく必要がある。その割 り振り方は、表4.2より、各州で得票率の大きい方の党に割り振っていくことにする。割 り振った後の各党の選挙人の獲得数を、以下の表5.2に示す。
31
表5.2 激戦州以外の州に関する各党の選挙人の獲得数
政党 選挙人の獲得数(人)
共和党 204
民主党 187
したがって激戦州において、共和党は残り66人、民主党は残り83人の獲得を目指すと いうことになる。この数値を各党に関してのピヴォットの条件としてSS指数を計算した ものを、それぞれ以下の表5.3と表5.4に示す
表5.3 共和党に関する激戦州のSS指数
州 SS指数
アリゾナ州 0.07204 コロラド州 0.05859 フロリダ州 0.21999 メイン州 0.02605 ミシガン州 0.10606 ミネソタ州 0.06475 ネバダ州 0.03665 ニューハンプシャー州 0.02605 ノースカロライナ州 0.09848 ペンシルベニア州 0.13766 バージニア州 0.08892 ウィスコンシン州 0.06475
表5.4 民主党に関する激戦州のSS指数
州 SS指数
アリゾナ州 0.07262 コロラド州 0.05801
32
フロリダ州 0.22053 メイン州 0.02399 ミシガン州 0.10949 ミネソタ州 0.06519 ネバダ州 0.03849 ニューハンプシャー州 0.02399 ノースカロライナ州 0.10004 ペンシルベニア州 0.13828 バージニア州 0.0842 ウィスコンシン州 0.06519
表5.3と表5.4を比べると、州によって、共和党に関するSS指数の値の方が民主党に 関するものよりも大きかったり、またその逆であったりするのが分かる。フロリダ州を例 に考えると、民主党にとってのフロリダ州の選挙人は、共和党以上に獲得が望まれるもの であると言える。
33
第 6 章 世論・出口調査と投票結果の一致および乖離
第2章の中で、選挙方式によって投票結果の変動が起こることを確かめたが、本章では 4.3節、4.4節のデータを基に2016年大統領選挙の投票結果が妥当なものであるかを分析 する。各党の得票率の差が大きい州に関しては結果が妥当であるとして、分析は激戦州に 限定する。
6.1 世論調査を反映した投票結果
「民意の反映」という観点から選挙を分析する場合、世論調査はその指標として適して いる。表4.3より、支持率の大きい党をその州での勝者として投票結果を表したものを表 6.1に示す。
表6.1 世論調査を反映した投票結果
政党 選挙人の獲得数(人)
共和党 265
民主党 273
驚くべきことに、実際の大統領選挙とは勝者が逆転している。やはりアメリカ合衆国の 大統領選挙の選挙方式は、民意を反映するものとして不十分なのだろうか。別のデータか らも分析する。
6.2 出口調査から考える投票結果
「支持率」の情報だけでは、正確に国民の選好を読み取るのは困難である。したがって、
4.4節の出口調査のデータも用いて、各激戦州の人々の選好を定義する。
第2章でも述べたが、選好とは個人の候補者や代替案に関する好みの順序を表すもので ある。アメリカ合衆国大統領選挙においては、「共和党」、「民主党」、「その他」の3つの 候補から選好を決定するものとする。候補の数が3つであるから、選好は6通り存在する。
明らかにしなければならないのは、6通りの選好の割合である。
割合を求める上で、4.3節、4.4節のデータを用いるのだが、4.4節のデータの「would not
vote」の行の「n/a」の数値は0%、0%、100%と仮定する。さらに整数値の合算が100%
34
にならないものは、合算が100%になるように数値を調整している。具体的には、合算が
99%のとき、質問に対する回答で「Clinton」又は「Ttump」の、割合が少ない方に1%を
加算、合算が98%のとき、両方に1%を加算する。つまり、アリゾナ州のデータを例に挙 げると、以下の表6.2のように数値を仮定・調整する。
表6.2 アリゾナ州のデータの例
Clinton Trump other/no answer
Clinton(45%) 96% 1% 3%
Trump(49%) 1% 95% 4%
would not vote(6%) 0% 0% 100%
それぞれの選好の割合を求める式を以下に示す。
質問に対して「Clinton」と回答した割合を𝐶𝑎、その内「Clinton」に投票した割合を𝐶𝑐、
「Trump」に投票した割合を𝐶𝑡、「other/no answer」の割合を𝐶𝑜とする。同様にして、
𝑇𝑎, 𝑇𝑐, 𝑇𝑡, 𝑇𝑜, 𝑊𝑎, 𝑊𝑐, 𝑊𝑡, 𝑊𝑜とする。表6.2の例においては、
𝐶𝑎 = 0.45 𝐶𝑐= 0.96 𝐶𝑡= 0.01 𝐶𝑜= 0.03 𝑇𝑎= 0.49 𝑇𝑐= 0.01 𝑇𝑡 = 0.95 𝑇𝑜= 0.04 𝑊𝑎 = 0.06 𝑊𝑐= 0.00 𝑊𝑡= 0.00 𝑊𝑜= 1.00
となる。選好の割合の定義は以下のようにする。なお、選好5、6に現れる支持率は、表 4.3に基づく。
選好1 民主党≻共和党≻その他
𝐶𝑎× 𝐶𝑡+ 𝐶𝑎× 𝐶𝑐× (𝐶𝑡/(𝐶𝑡+ 𝐶𝑜))
選好2 民主党≻その他≻共和党
𝐶𝑎× 𝐶𝑜+ 𝐶𝑎× 𝐶𝑐× (𝐶𝑜/(𝐶𝑡+ 𝐶𝑜))
選好3 共和党≻民主党≻その他
𝑇𝑎× 𝑇𝑐+ 𝑇𝑎× 𝑇𝑡× (𝑇𝑐/(𝑇𝑐+ 𝑇𝑜))
35
選好4 共和党≻その他≻民主党
𝑇𝑎× 𝑇𝑜+ 𝑇𝑎× 𝑇𝑡× (𝑇𝑜/(𝑇𝑐+ 𝑇𝑜))
選好5 その他≻民主党≻共和党
𝑊𝑎× ((民主党の支持率)/ ((民主党の支持率) + (共和党の支持率)))
選好6 その他≻共和党≻民主党
𝑊𝑎× ((共和党の支持率)/ ((民主党の支持率) + (共和党の支持率)))
以上を各選好の割合とする。
選好の割合が明らかになったことで、アメリカ合衆国2016年大統領選挙に対して、別 の選挙方式を適用してみよう。大統領選挙の選挙方式は、州ごとの投票者が一番好む候補 者に一票を投じる「単記投票」である。では激戦州において、選挙方式を「決戦投票付き 単記投票」に変更したら、投票結果はどうなるだろうか。その結果を表6.3に示す。
表6.3 決戦投票付き単記投票における投票結果
政党 選挙人の獲得数(人)
共和党 259
民主党 279
上の結果は、各激戦州において、民主党が獲得する票数を
(総投票数) × ((選好1) + (選好2) + (選好5))
とし、共和党が獲得する票数を
(総投票数) × ((選好3) + (選好4) + (選好6))
とした。この結果は、表6.1のものより民主党の勝利が色濃く出ている。単記投票は「票 の割れに弱い」性質があったが、表6.3の結果では「候補を共和党と民主党に限定した際 の国民の意向」が強く反映されていると言えるだろう。
36
次に、選挙方式を「ボルダ投票」に変更して投票結果を見よう。結果は以下の表6.4に 示す。
表6.4 ボルダ投票における投票結果
政党 選挙人の獲得数(人)
共和党 261
民主党 277
ボルダ投票では、一番好む候補に2点、二番目に1点、三番目に0点を付ける。したが って、各激戦州において民主党が獲得する点数を
(総投票数) × (((選好1) + (選好2)) × 2 + ((選好3) + (選好5)) × 1
+ ((選好4) + (選好6)) × 0)
とし、共和党が獲得する点数を
(総投票数) × (((選好3) + (選好4)) × 2 + ((選好1) + (選好6)) × 1
+ ((選好2) + (選好5)) × 0)
とした。やはり選挙方式をボルダ投票にしても、民主党が勝利する結果となった。
最後に、実際の投票結果と、本章で扱った選挙方式における投票結果をまとめたものを、
以下の表6.5に示す。
表6.5 投票結果の比較
実際の結果 世論調査
決戦投票付き
単記投票 ボルダ投票 政党 選挙人の獲得数
(人)
選挙人の獲得数 (人)
選挙人の獲得数 (人)
選挙人の獲得数 (人) 共和党 306 265 259 261 民主党 232 273 279 277
37
以上の結果から、本章で見た3つの選挙方式において、共和党が勝利するような選挙方 式が存在しないことが分かった。
38
第 7 章 おわりに
7.1 まとめ
本研究では、選挙方式によって投票結果が変わりうることを確かめ、投票力指数にも触 れたうえで、アメリカ合衆国2016年大統領選挙の結果を世論・出口調査の観点から分析 した。第6章で得られた結果は、民意が実際の2016年大統領選挙の結果とは逆の意向を 示していることの証明であり、アメリカ合衆国大統領選挙の選挙方式に疑問を投げかける 材料として十分だと言える。逆に言えば、なぜ共和党が勝利したのかを考えるきっかけに もなるだろう。アメリカ合衆国に限らず、国の代表を決定する重要な選挙において、民意 をより正しく反映する選挙方式が生まれることを祈るばかりである。
7.2 今後の課題
激戦州の定義に用いた条件を緩和し、より多くの州の選好データを収集することで、さ らなる投票結果の変化を得られると考えられる。選好に加えて、選ぶ候補による利得を正 確に仮定できれば、ゲーム理論の領域としてより興味深い分析が可能である。
39
謝辞
本研究を進めるにあたり、多くのご指導、ご助言をいただいた中央大学理工学部情報工学 科の田口東教授、ならびに山形浩一助教に心から感謝いたします。また、多くのご助言、
ご協力をいただいた田口研究室の皆様に深く感謝いたします。
40
参考文献
[1] 坂井豊貴『社会的選択理論への招待――投票と多数決の科学』、日本評論社、2013
[2] 渡辺隆裕『ゼミナールゲーム理論入門』、日本経済新聞出版社、2008、p. 261-265 [3] 森雅夫・松井知己『オペレーションズ・リサーチ』(経営システム工学ライブラリー 8)、朝倉書店、2004、p. 43-47
[4] 宇野毅明「重み付き投票ゲームにおける投票力指数の計算の高速化」、『情報処理学会
研究報告』、2001・93、2001、p. 33-40
[5] 「アメリカ大統領選挙2016」、NHK NEWS WEB、2017.1.17入手、
https://www3.nhk.or.jp/news/special/2016-presidential-election/
[6] 「US Election 2016 Results」、BBC News、2017.1.17入手、
http://www.bbc.com/news/election/us2016/results
[7] 「Election 2016」、Real Clear Politics、2017.1.17入手、
http://www.realclearpolitics.com/epolls/2016/president/us/general_election_trump_vs_c linton-5491.html
[8] 「Exit Polls 2016」、CNN Politics、2017.1.17入手、
http://edition.cnn.com/election/results/exit-polls/national/president