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自然教育園におけるカワセミの繁殖について(第8報)

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(1)

⑥  自然教育園におけるカワセミの 繁殖について(第 8 報)

矢野 亮

・遠藤拓洋

The Breeding Biology of Alcedo atthis bengalensis Gmelin  in the Institute for Nature Study(Part 8)

Makoto Yano

, Takumi Endo

は じ め に

 1988 年にカワセミの繁殖が自然教育園で初めて確認されてから 28 年になる。

 2016 年に 7 年ぶりにカワセミが繁殖した。これまで使用頻度の高かった巣穴「A」は敬遠され,新 しい巣穴が掘られた。従来自然教育園では,オスが巣穴を掘りある程度できた段階でメスを呼んでく ることが多かった。

 しかし,2016 年はオス ・ メス共同で赤土にアタックしてゼロからの巣作り,しかも 2 つの巣穴を 完成させるなど今までは見られないことである。

 また,天敵アオダイショウの出現にも関わらず,5 羽の雛が無事巣立つなど,新しい知見も得られ たので報告したい。

 なお,2008 年 ・2009 年の繁殖については,自然教育園報告第 48 号(第 7 報)で報告した。

造  巣  期

 2016 年は 1 月 2 日よりオスが繁殖地に頻繁に飛来し,下の池からモツゴ,スジエビなどを採餌し ていた。

 そして 3 月 3 日,オスが巣穴に興味を示し始めた。繁殖地にはこれまで繁殖に使用した巣穴,ダミ ーとして掘られた巣穴はたくさんあるが,巣穴「A」以外は全て赤土で入り口を塞いである。

 その理由は,巣穴「A」には産室内が撮影できる機器がセットされているからである。2008 年に は産室内の雛の行動の撮影に成功しているが,繁殖後期だったため,全貌を明らかにすることはでき なかった。

 自然教育園では,これまでの調査で産卵期・抱卵期 ・ 育雛期 ・ 巣立ちの巣穴外での生態はほぼ解明 されている。残されたのは産室内の生態で,解明したいことが山積している。このため巣穴「A」の

国立科学博物館附属自然教育園,Institute for Nature Study, National Museum of Nature and Science

(2)

存在意義があるのである。従って,繁殖地の壁面には他の巣穴の入口を塞いでいるため,巣穴「A」

の穴だけがポツリと 1 つ開いている状況になっている。

撮影のポイント

 観察を始めた頃は,巣穴「A」だけだったので,撮影のアングルは,巣穴「A」と止まり木に焦点 が当てられていた。撮影ポイント『X』は,1995 年に新設した観察小屋で,巣穴入り口と止まり木が 同時に撮影できるようになっている(図 1)。これまでのカワセミの調査は全てこの『X』の地点から 撮影していた。

 ところが,2016 年には巣穴「A」の近くに新たな巣穴「J」が掘られた。撮影条件が悪くなったた め,3 月 18 日止まり木と巣穴「A」と巣穴「J」の両巣穴入口が同時に撮影できるよう止まり木を移 動した。

 また,『Y』は 1990 年に作った旧観察小屋であったが,このアングルでは止まり木と巣穴入り口を 同時に写せないためその後は使用していなかった。

 ところが,2016 年にカワセミは全く予測もしなかった南斜面に巣穴「K」を掘ってしまった。当 然,『X』からは巣穴「K」の入り口を撮影することはできない(図 2)。

 2016 年の育雛期は,給餌回数など完全な記録が取れており,巣立つ雛の数の確認は重要なポイン トとなる。

 そこで,急遽 5 月 18 日巣立ち前に『Y』ポイントから止まり木と巣穴「K」が入るアングルの撮影

図 1 撮影ポイントと巣穴の位置図

(3)

ができるようカメラを設置した。5 月 19 日には天敵アオダイショウを撮影するなどのハプニングも あったが,5 月 21 日早朝には 5 羽の雛の巣立ちを記録するなど効果大であった。

巣穴「A」への滞在

 巣穴「A」は過去 5 回繁殖に使用されており,リフォーム型の巣穴であるため本格的な巣穴掘りは 必要ないのである。また,今回産室上のガラスには新しい反射防止シートを貼ったため一縷の望みを 持っていた。

 3 月 3 日より初めて巣穴に興味を示しだし,オスが巣穴「A」の入り口を数回アタックしていた。

5 日にはオスが 7 回巣穴の中に入り長時間にわたり滞在していた。6 日はオスが 5 回,メスが 2 回巣 穴の中に入った。オスは頭から出てきたところを見ると,産室まで行って U ターンしたことが伺える。

8 日はオスが 7 回,メスが 4 回巣穴に入り,オスは全て頭から,メスは全て尻から出てきている。そ の後もオス・メスとも巣穴に入る回数,頭から出てくる回数が多くなり,いよいよ繁殖するのではな いかと期待を持っていた。

 一方で巣穴 「A」 への出入りと同時期の 3 月 6 日より,新しい巣穴「J」へのアタック(赤土の壁 面を最初からつつく行動)が始まり 11 日より巣穴堀りが始まった。

 最初は本命が巣穴「A」でダミーが巣穴「J」と希望的観測をしていた。しかし,その後は 21 日ま で時々巣穴「A」を訪れる程度となり,カワセミペアーは巣穴「J」を本格的に掘り始めてしまった。

 どうも巣穴「A」はいつも敬遠されがちである。2009 年も 2016 年も産室までは行っているのだが 最終的に放棄してしまっている。

 産室上に置かれたガラスなのか,天井が高すぎるのか,人為的な構造物を警戒しているのか原因は 不明である。あまり神経質でないカワセミペアーが来ることを期待して待つしかないのかもしれない。

図 2 繁殖地全景と巣穴の位置図

(4)

巣穴「J」の造巣

 これまでの自然教育園での造巣は,オスがほとんど巣穴を掘った段階でどこからかメスを呼んでき て最後の仕上げをすることがほとんどであった。しかし,2016 年はオス・メス共同で赤土の壁面を ゼロから造巣しており,これは初めてのことである。

 まず,オス・メスの繁殖地における滞在回数と時間は図 3 の通りである。

 朝 5 時 30 分頃より夕方 16 時頃まで頻繁に繁殖地に飛来している。

 3 月 5 日から巣穴「J」へのアタックが始まるが,オス・メス示し合わせたかのように同時刻に飛 来することが多い。この行動パターンは,抱卵期・育雛期には見られない造巣期独特の行動パターン である。

 また,繁殖地滞在中は常に造巣しているわけではなく,時々オス・メス交替で巣穴の中に入る程度 である。この巣穴の中に入って造巣している時間を示したのが図 4 である。オスによる赤土の壁面へ のアタックは 3 月 5 日から始まり,3 月 11 日にかけて行われた。特に 7 日〜 9 日にかけて多く,総 アタック数は 1048 回にも及んだ。メスのアタックは 3 月 7 日から 3 月 10 日までで総アタック数は 780 回であった。

 アタックを終え足場ができると本格的な巣穴掘りに入る。3 月 12 日からはオスの一日の造巣時間 は 70 分から 130 分に及び,20 日にいたっては 200 分近く巣穴掘りをしている。一方メスはどちらか というと後半に多く,巣穴の仕上げ役をしていると考えられる。

図 3 繁殖地におけるオス・メスの滞在回数と時間

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 なお,途中巣穴の深さを測定したところ,3 月 12 日には 18cm,3 月 18 日には 56cm となっており,

3 月 19 日にはオスが頭から出てきたところをみるとこの頃には既に産室ができていたと考えられる。

 ところが 3 月 21 日,突然巣穴「J」の巣穴掘りを諦め,かつてアタックしていた巣穴「K」に移っ たのである。産室まで完成しているのになぜ巣穴「J」を放棄したのだろうか。

 繁殖期間終了後の 6 月 2 日,巣穴「J」の深さを測定したところ,巣穴入り口縦 7.1cm,横 5.6cm,

深さ 1m7mm,巣穴の傾斜 15 度であった。放棄した原因は明らかではないが,深さ 1m も掘り進め たことで,観察装置を作った部分に達したことが考えられる。観察装置を作った際,赤土で盛土を施 した。この軟らかい赤土に違和感があったのか,大きな穴まで達してしまったか,あるいは観察装置 を囲むステンレスに当ってしまったことなどが考えられる。

 それにしても 19 日には産室ができているので 70 〜 80cm で止めておけばよかったのだが,20 日 はオスが 200 分も掘って 1m まで達してしまったのである。オスの頑張りすぎが仇となったのかもし れない。

 結局,巣穴「J」の繁殖地滞在時間・造巣時間は,オスは 17 日間で繁殖地滞在時間 44 時間 57 分・

造巣時間 15 時間 46 分,メスは 15 日間で繁殖地滞在時間 43 時間 29 分・造巣時間 5 時間 12 分となっ た。巣穴「J」のオス・メスの造巣時間の合計は 17 日間で 20 時間 58 分であった。

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図 4 繁殖地滞在時間と造巣時間(巣穴 J)

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巣穴「K」の造巣

 3 月 3 日から 11 日にかけて巣穴「J」と巣穴「K」のアタックは同時進行しており,記録では両者 の区別は困難なところもあった。しかし,オス・メスで数百回にわたりアタックしていることは確実 である。

 そして,3 月 21 日から巣穴「K」の本格的な巣穴掘りが始まった。繁殖地におけるオス・メスの滞 在時間は巣穴「J」の場合はほぼ同様なのでここでは省略する。

 造巣時間は,オスは前期の 3 月 21 日〜 27 日の 7 日間,後期は 4 月 6 日から 8 日の 3 日間で,メス は中期の 3 月 25 日〜 30 日の 6 日間,後期の 4 月 6 日から 8 日の 3 日間が多かった。すなわち,前期 はオス,中期はメス,後期はオス・メス共同で巣穴を掘るという傾向が見られた。

 なお,巣穴「K」はアングルの関係でカワセミの巣穴への出入りを確実に記録できなかったが,

2016 年のカワセミのペアーは,巣穴に入る前は必ず止まり木に止まり,巣穴から出ると再び止まり 木に止まることが多かったので巣穴滞在時間の記録は 80 〜 90%取れたと思われる。

 しかし,3 月 31 日〜 4 月 2 日の間に巣穴に入る前は必ず止まり木に止まるが,巣穴から出るとき 止まり木に止まらず直接園内へ飛去するものが 8 回観察されている。この場合の巣穴滞在時間は不明

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表 1 繁殖地滞在時間と造巣時間(巣穴「K」)

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ということになる。また,3 月 14 日は停電のため欠測した。このため今回の記録は完全なものとは いえない。

 繁殖終了後の 6 月 2 日,巣穴「K」を測定したところ,巣穴入口縦 8cm・横 7cm,巣穴の深さ 67.5cm,巣穴の傾斜 25 度であった。

 結局,巣穴「K」の繁殖地滞在時間・造巣時間はオス 19 日間・繁殖地滞在時間 50 時間 39 分・造 巣時間 25 時間 18 分,メスは 19 日間・繁殖地滞在時間 50 時間 39 分・造巣時間 29 時間 48 分,また 巣穴「K」のオス・メスの造巣時間は 19 日間・55 時間 6 分ということになる。

 巣穴「J」と巣穴「K」の造巣を比較してみると,繁殖地滞在時間の合計は「J」が 88 時間 26 分,

「K」は 96 時間 8 分とさほどの差はないが,オス・メスの造巣時間の合計は,「J」は 17 日間で 20 時 間 58 分,「K」は 19 日間で 55 時間 6 分と「K」の方が倍以上の時間がかかっている。

 「J」は以前掘られたことのあるリフォーム型の巣穴だったのか,「K」は 2 つ目の巣穴掘りで疲労 が蓄積していた,「K」は車の通る道の下にあるため赤土が固くなっている,年度末で工事作業の車 や人の往来が激しく落ち着かなかったなど,いろいろ推測してみたが,造巣時間の長短の理由は不明 である。

2 つの巣穴掘り

 カワセミの体は,嘴は長く,足は短く,尾も短いという独特な形をしている。この長い嘴は硬い赤 土を掘るツルハシ,3 本の趾がくっついた短い合趾足は掘った土を外へ掻きだすジョレンのような働 きをしているのである(図 5)。また,尾も擦り切れないよう短く,巣穴掘りに適した形となってい るのである。

図 5 カワセミの嘴と合趾足(現図作成:桑原香弥美)

ツルハシ

ジョレン

(8)

 2016 年に掘られた巣穴「J」は巣穴の入口が約 7cm,深さ約 1m であった。カワセミの体長は約 17cm なので,もしこの 10 倍の身長 170cm の男が素手で掘ったとしたら直径 70cm,深さ 10 mの穴 に相当する。これを掘ることは人間には到底不可能である。全く自然界の神秘であるといわざるを得 ない。

 同じ年,この他にも深さ 67.5cm の巣穴「K」と 2 つの巣穴を掘ったのである。カワセミペアーの 努力と執念には全く頭が下がる思いである。

求 愛 給 餌 期

 オスがメスにプレゼントをする求愛給餌と交尾行動は,巣穴作りと平行して行われることが多い。

1993 年には 133 回,2000 年には 193 回も記録されている。2016 年は,巣穴「J」の造巣中 3 月 17 日 と 3 月 21 日に交尾行動が 2 回,3 月 19 日に求愛給餌が 1 回あっただけであった。

 また,巣穴「K」の造巣中には,交尾行動が 3 月 22 日に 3 回,3 月 23 日に 2 回,4 月 4 日に 1 回,

4 月 7 日に 1 回の計 5 回であった。求愛給餌は,3 月 23 日・24 日・26 日・29 日・4 月 6 日・8 日・9 日に各 1 回,4 月 3 日に 2 回,4 日に 2 回,5 日に 2 回,7 日に 3 回の計 16 回であった。繁殖が近づ いた巣穴「K」造巣中の方が多い傾向にあったが,1993 年や 2000 年と比べても数の上で歴然の差が あった。これは造巣に忙しかったのか,園内のほかの場所で行っていたのか確認はないが,例年に比 べて極めて少なかったことは事実であろう。

抱  卵  期

 2016 年の抱卵期は,4 月 8 日夕方の 17 時 34 分にメスが巣穴に入った時点で開始され,そして,4 月 28 日 17 時 28 分にオスが巣穴から出てきた時点で終了した(図 6)。抱卵期合計時間は 479 時間 54 分であった。

 これまでも抱卵期の記録が残されているが,1995 年は 434 時間 31 分,2000 年は 434 時間 54 分,

2008 年は 435 時間 46 分である。

 これらの記録と比較すると,2016 年は約 44 時間も多い。図 6 を見てもわかるように抱卵期初期の 4 月 9 日〜 13 日にかけては空白の部分が多い。これは,抱卵期途中でのバトンタッチの悪さ,途中 で巣穴から抜けるサボタージュなどが目立ったためである。特にオスは頻繁に巣穴から出て “ 息抜き ” をする癖があった。しかし,後半になると経験を積んだと思われ空白部分はほとんどなくなってい る。未熟なペアーだったのかもしれない。また,1995 年の抱卵期(図 7)と比較すると,1995 年は 朝の交替は必ず 5 時頃オスが,また,夕方の交替はメスが 6 時頃とかなり正確な時刻に交替している。

2016 年は,朝・夕ともかなりアバウトな時間で交替している。また,交替の回数も 1995 年は 2 日を

除いて後は 6 回であるが,2016 年は 8 回が 3 日,4 回が 2 日とかなり変動があるのが特徴であった。

(9)

図 6 抱卵期におけるオス・メスの抱卵時間(2016 年)

図 7 抱卵期におけるオス・メスの抱卵時間(1995 年)

(10)

育  雛  期

 2016 年の育雛期は,正常な給餌が始まった 4 月 29 日から巣立ち前日の 5 月 20 日までの 22 日間で あった。実は 4 月 28 日には雛は既に孵化しており,17 時 37 分と 54 分の 2 回,オスが雛に給餌をし ていた。ふつう孵化直後の雛は体が小さいため 8mm か 1cm くらいの極小の餌しか食べられないの である。ところが,オスが運んできた餌は 2cm くらいの大きなモツゴであった。こんな大きな魚は 雛が食べられないはずと思ったら,案の定魚をくわえて巣穴から出てきたオスは,この魚を自分で食 べた。しかも 2 回も繰り返していた,未熟なイクメンといわざるをえないオスである。

 給餌した餌の総個体数は,1201 匹であった(表 2)。このとき巣立った雛の数は 5 羽だったので,

雛 1 羽あたりの餌は約 240 匹となる。1994 年と 2008 年にも給餌総個体数の記録があるので比較する と表 3 のようになる。これらのことから,雛が巣立つまでには雛 1 羽あたり 200 〜 240 匹の餌が必要 であるといえそうである。

 給餌回数の変化は,4 月 29 日から 5 月 14 日までは日毎に順調に増加しているが,15 日から 18 日

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表 2 育雛期給餌総個体数

(11)

までは横這い状態となり,翌 19 日から急激に給餌回数が減少している(図 8)。これは雛の体重を減 らすためのダイエット作戦で,これまでの調査では,急激な減少が 3 日間続き 4 日前の朝に巣立ちを 迎えるのだが,この続きは「巣立ち」の項で述べる。

 給餌のオス・メス比は 4 月 29 日から 5 月 6 日までの 8 日間は,オスが 60 〜 70%と多いが,5 月 7 日以降はメスが 60 〜 70%と給餌回数が逆転している(図 9)。トータルとしてもオスは 44%,メス 56%とメスがやや多い傾向にあった。

 また,餌の種類はモツゴ・ザリガニ・スジエビにほぼ限定されているが,モツゴ(64.6%)ザリガ ニ(34.5%)と 2 種類の餌が圧倒的に多く,スジエビはわずか 0.9%である(図 10)。

 繁殖期初期の 8 日目の 5 月 6 日まではほぼ全てモツゴであり,9 日目あたりからザリガニが給餌さ れ始め,その後は圧倒的にザリガニが多くなる。

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表 3 オス・メスの餌の種類毎の給餌比率

図 8 給餌回数の変化

(12)

 初期にモツゴが多いのは,雛が小さいときは消化のよい魚を与えるためである。

 また,オス・メスの餌の種類毎の給餌比率を見ると図 1 のように,オスは孵化 8 日目の 5 月 6 日ま では,モツゴが 100%であり,その後も 80 〜 90%モツゴを給餌している。

 一方,メスは孵化 8 日目の 5 月 6 日まではモツゴを 100%近く給餌しているが,9 日目の 5 月 7 日 あたりからザリガニの給餌が多くなり,5 月 15 日以降は 70 〜 80%がザリガニである。

 ザリガニの給餌が増え始めた 5 月 7 日以降のオス・メスの給餌を比較すると,オスはモツゴ

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図 9 給餌のオス・メスの比率

(13)

84.2%,ザリガニ 14.7%,スジエビ 1.1%,これに対してメスは,モツゴ 37.5%,ザリガニ 61.3%,スジ エビ 1.2%とオス・メスで給餌する餌の種類に歴然とした差があることがわかる(表 4)。

 とにかく,2016 年の雛は,特に繁殖期後半は,メスが給餌するザリガニによって養われていたと いう印象の強い年であった。なお,過去 8 回の餌の種類の割合を表 5 に示した。これを見ると 2016 年は例年に比べても特に際立った特徴がある年ではないことがわかる。

図 10 給餌された餌の種類と割合

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(14)

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表 4 ザリガニの給餌が始まった後のオス・メスの給餌比

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* 表 5 過去 8 回の繁殖時における餌の種類の割合

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図 11 オス・メスの餌の種類毎の給餌比率

(15)

天敵アオダイショウの出現

 1995 年 9 月 1 日カワセミの巣立ちの日,5 時 7 分に 1 羽の雛が巣立った。その後は親鳥が雛に頻繁 に給餌していたので,今日の巣立ちはないと判断し,事務所に戻り展示室のテレビで生中継を見てい た。すると,8 時 19 分テレビの画面に大きなアオダイショウの姿が映ったと思ったら,1 分もしない

図 12 モツゴを運ぶオス

(撮影:飯田晋一郎)

図 13 ザリガニを運ぶメス

(撮影:飯田晋一郎)

図 14 餌を運ぶ親鳥(巣穴「K」)(撮影:本多菊太郎)

(16)

うちに全身がスルスルと巣穴の中に入ってしまった。残り 4 羽の雛がアオダイショウに呑まれてしま ったのである。背筋がゾクッとし,全身が身震いし地獄を見た思いだった。

 1995 年はオス親が育雛期途中で失踪し,メス親だけで子育てをしていた。ヘビが来た時メス親は 止まり木にいたのだが,大声を出して騒ぐこともなく,嘴で攻撃することもなく,只々恐ろしくて手 も足も出ない状態であった。

 そして 2016 年,ビデオのフィルムを整理していた奥津励君から,繁殖地にヘビがいるという驚き の情報が入った。ビデオを見直すと,5 月 19 日 17 時 28 分 28 秒に上のほうからアオダイショウが現れ,

3 回巣穴の中に入っている(図 15)。1 回目は 17 時 29 分 8 秒頭だけ,2 回目は 17 時 29 分 33 秒から 29 分 40 秒に頭から 15cm くらい,3 回目は 17 時 30 分 56 秒から 31 分 10 秒頭から 20 〜 25cm 巣穴 の中に入った。そして,17 時 31 分 16 秒に上の方へと去っていった。体長 120cm 位のさほど大きく ないアオダイショウだったが,去ったときに腹部が膨れていなかったので,雛は呑まれていないこと を確認してホッとした。

 この間,オス親は止まり木に止まり,餌をもったまま呆然とヘビを見ているだけで,大声を出した り攻撃することもなかった。1995 年のときはメス親であったが,2016 年はオス親である。「あなたは お父さんなんでしょう,子どもたちの命を守るため何か行動を起こさないんですか」と声を大にして 叫びたくなる心境であった。

 さっそく周りの草を刈り,赤土を削りヘビが再び近づかないよう対策したが,翌 20 日のオスはエサ なしで飛来したり,巣穴からすぐ飛び出したり頻繁に情緒不安定な行動をしていた。一方メスは現場 にいなかったせいか 5 時頃から通常の給餌をしていたが,オスは 7 時頃まで給餌することはなかった。

 このヘビ騒動は,その後のカワセミの行動に大きな影響を与えることになるのである。

図 15 巣穴近くをうろつくアオダイショウ(赤矢印)と止まり木で呆然と立ちつくすオス親(白矢印)

(17)

巣  立  ち

 2016 年は,5 月 18 日には給餌回数が 71 回あったが,翌 19 日には 46 回,20 日には 49 回と急激に 減少した,例年のように給餌の減少開始日から 4 日目の朝,すなわち 5 月 22 日の早朝に雛が巣立つ と予測した。

 ところが,5 月 21 日,1 羽目が 4 時 58 分,2 羽目が 5 時 1 分,3 羽目が 5 時 3 分,4 羽目が 5 時 5 分,

5 羽目が 5 時 34 分,合計 5 羽が巣立ったのである。予測よりも 1 日早い巣立ちである。

 これは,前述のアオダイショウの出現により,親鳥は 1 日早めて巣立ちを促したと推測されるので ある。

 そして,8 時 30 分頃オス・メスで巣穴の中に入り,雛がいないかの最後の点検を行った。

 繁殖期終了後の 6 月 2 日巣穴の中を水で洗浄し調査した結果,ペリットとしてザリガニの破片が多 数採集できたが,雛の遺体等は見つからなかった。2016 年の繁殖期の雛の数は 5 羽であることが確 定できた。

 これまで自然教育園で確認できた 5 回の巣立ちの時刻と所要時間を表 6 に示した。

 4 時 31 分〜 5 時が 7 個体,5 時 1 分〜 5 時 30 分が 19 個体,5 時 31 分〜 6 時が 3 個体,6 時 1 分〜

6 時 30 分が 2 個体,6 時 31 分〜 7 時が 3 個体,7 時 31 分〜 8 時が 2 個体,8 時 31 分〜 9 時が 2 個体 の合計 38 個体であった。

 時間台別でみると,4 時 31 分〜 5 時 30 分の早朝の時間台に巣立った雛は 26 個体で,全体の約 70%にあたる(図 16)。

 カワセミは天敵が活動する前の早朝に巣立つことによって身を守っているといえそうである。

 2016 年は,1 回目の繁殖期が早かったので 2 回目の繁殖も行うと思っていた。例年のように 2 回目 の巣穴掘りの準備もなかったので,同一の巣穴を使用すると推測していた。

 雛の巣立ち後の翌日の 5 月 22 日,カワセミのペアーが繁殖地に出現し,求愛給餌や交尾活動も見 られたので 2 回目の繁殖があるかと思われたが,巣穴に入ることはなかった。おそらく,ヘビの出現 が相当な影響を与えたと思われる。

 結局,2016 年は 5 羽の雛が巣立った 1 回の繁殖で終了したことになる。

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表 6 自然教育園におけるカワセミの雛の巣立ち時間台と所要時間

(18)

第 5 回中継「カワセミの子育て」

 これまで自然教育園では,カワセミの繁殖期に入園者を対象とした「カワセミの子育て─生中 継─」を 4 回実施してきた。ふだんあまり見ることのできないカワセミの生態が間近で見られるため,

なかなか好評であった。

 しかし,2016 年は繁殖地と展示室を結ぶケーブルが切断され,生中継をすることができなくなっ てしまった。

 そこで,苦肉の策として「2 日前の中継」をすることにした。2 日前のビデオの記録を整理し,テ レビの前に何時何分にカワセミが餌を運んでくる時刻を表示した(表 7)。

 以前の生中継のときは「1 時間見ているがカワセミは 1 度も来ない」などの苦情も多かったが,今 回は表示された時刻に展示室にくれば確実にカワセミの姿が見られるのである。無駄がなく入園者に

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図 16 巣立ちの時間台別個体数

(19)

とってはかえって喜ばれたかもしれない。ときにはイスが満席になり立ち見も出るほどであった(図 17)。

 しかし,2 日前の記録を毎日必ず整理しなくてはならず,こちらの負担は大きかったのである。

臨 時 写 真 展

 自然教育園でのカワセミの繁殖が園内のポスターやインターネットで世の中に知れ渡るとカメラマ ンが殺到した。カワセミのいるところにはカメラが列を作り自慢の写真を撮影している。これが 3 〜 5 月までかなり長い期間にわたっていた。

 ある人から皆いい写真を撮っているので,「写真展」を開催したらどうかという提案があった。

 ちょうど展示室の展示計画もなかったので,多くの方々に呼びかけ写真を募集した。その結果,か なりの数の写真が応募されたので,「臨時写真展カワセミの子育て 2016」を 6 月 19 日(日)〜 7 月

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表 7 カワセミが来る映像が見られる時刻表示

図 17 2 日前のカワセミ子育て中継を見る入園者

(20)

20 日(水)までの約 1 ヵ月間開催した(図 18)。

 カワセミの姿・採餌・求愛給餌・巣立ち・雛への給餌などのタイトルをつけ,53 枚展示した。な かなか好評であった。

 また,これまで撮ったビデオを編集し,「カワセミの子育て─巣作りから巣立ちまで─ 2016 年ダイ ジェスト版」も作成した(図 19)。

 巣作り・求愛給餌・抱卵期の交替・雛への給餌・天敵出現のピンチ・巣立ちの瞬間・雛の安全な場 所への誘導・園内での巣立ち雛への給餌など解説付きの動画で上映している。上映時間は約 19 分で ある。

 カワセミの繁殖期には直接立ち会えなかった人でも展示室で一連のカワセミの生態を知ることがで き,大変好評であった。

図 18 臨時写真展カワセミの子育て 2016

図 19 カワセミの子育て─巣作りから巣立ちまで─ 2016 年ダイジェスト版

(21)

自然教育園におけるカワセミの繁殖

 自然教育園では,これまで 28 年間にわたりカワセミの繁殖に関する調査を実施してきたので総ま とめをしたいと思う(表 8)。

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表 8 これまで 28 年間の自然教育園におけるカワセミの繁殖に関する記録

図 20 これまでに掘られた巣穴の記号と位置

(22)

 繁殖回数は,14 回で巣立った雛は 76 羽を確認している。この他「+α」を加えると 90 羽以上に はなると思われる。

 この他,使用巣穴・抱卵日数・育雛日数・巣立ち日などは表 7 の通りである。

 また,これまでに繁殖に使用された巣穴,ダミーとして掘られた巣穴の記号・位置を図 20 に示した。

 28 年間に 11 ヶ所の巣穴が掘られたことになる。但し,前述のように調査の関係で巣穴「A」以外 は入口を赤土で塞いでしまったため,現在では巣穴「A」しか見ることはできない。

謝     辞

 例年カワセミが繁殖すると,多くの方々にご迷惑をかけ,また,ご支援をいただいている。

 繁殖地の整備やビデオフィルムの操作・交換などでは奥津励君,大澤陽一郎君,資料整理にはかは くボランティアの渡辺緑さん,図表・テレビ中継の際の時刻表掲示板等の作成には與田順子さん・宮 尾友子さん,園報用の写真を提供していただいた白金自然写真クラブの飯田晋一郎さん・本多菊太郎 さん,ビデオダイジェスト版作成にご協力いただいた寶田晋睦さん,写真展に応募していただいた多 くの写真愛好家の皆様など多くの方々のご協力・ご支援をいただき,厚く御礼申し上げる次第である。

参 考 文 献

千羽晋示・坂本直樹.1989.自然教育園の鳥類の記録(1985〜1988).自然教育園報告, (20) :15-19.

古橋純一.1994.古橋純一写真集 翡翠・カワセミの親子三つがい四季を追う,95pp.光村印刷㈱.

飯村武也.1987.飼育下におけるカワセミの観察.神奈川県立自然保護センター調査研究報告,(4) : 19-24.

石川信夫.1992.カワセミグラフティ.AGS,(2):2-7.

金子凱彦.1988.帰ってきた東京のカワセミ.「都市に生きる野鳥の生態」,24-27.

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(23)

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矢野 亮.1994.自然教育園におけるカワセミの繁殖について(第 2 報).自然教育園報告,(25):

1-28.

矢野 亮.1995.自然教育園におけるカワセミの繁殖について(第 3 報).自然教育園報告,(26):

1-22.

矢野 亮.1995.カワセミ〜都心での子育て〜.国立科学博物館ニュース,(27):4-11.

矢野 亮.1996.自然教育園におけるカワセミの繁殖について(第 4 報).自然教育園報告,(27):

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矢野 亮.2001.自然教育園におけるカワセミの繁殖について(第 5 報).自然教育園報告,(32):

1-29.

矢野 亮.2008.自然教育園におけるカワセミの繁殖について(第 6 報).自然教育園報告,(39):

1-17.

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矢野 亮.2017.自然教育園におけるカワセミの繁殖について(第 7 報).自然教育園報告,(48):

55-77.

(24)

図 6 抱卵期におけるオス・メスの抱卵時間(2016 年)

参照

関連したドキュメント

Fiscal Year 1995: ¥1,100,000 (Direct Cost:

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2021.03.12⌧ᅾ䚷TC 8/SC 8 ISO 20233-2:2019Ships and marine technology -- Model test method for propeller cavitation noise evaluation in ship design -- Part 2: Noise source