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(様式7) 平成 31 年度(2019 年度) 大学院派遣研修 研究報告書

キーワード: 算数科 問題解決型授業 困難性 予期的モデル 偶発的モデル

1 研究の背景(目的) ・主題設定の理由等

平成 29 年3月に公示された新学習指導要領に

おいて、「主体的・対話的で深い学びの実現」を目 指した授業改善が求められている。同時に、小・

中学校においてはこれまでの教育実践の蓄積を 若手教員に引き継ぎながら授業改善を図ること の重要性も示されている。

1982 年にアメリカ NCTM(全米数学教師協議会) が「80 年代の数学教育の中心は問題解決であるべ きである」と提言した。この理論的背景には、

J.Polya(1945)『How to Solve It(いかにして問 題を解くか)』の数学の発見学習がある。我が国の 算数科の指導においては、NCTM の提言以前より

「数学的な考え方」の指導と方法に関する研究の 蓄積があった。そこに NCTM の提言が行われたこ とで、「数学的な考え方」を指導する方法として

「問題解決型授業」が定着し、展開されるように なったのである。

「問題解決型授業」の特徴として、「問題把握、

自力解決、集団検討、まとめ」の4段階の学習過 程であること、1時間の授業の中に個人思考、集 団思考の時間が設定されていること等が挙げら れる。しかし、教師は「問題解決型授業」を行う 上で様々な困難に直面している。例えば、授業の 過程が形式的になっていること、学力差によって 個人思考や集団思考が成り立たないこと、教師が 集団思考の指導に困難を感じていることなどが 指摘されている。そこで私は、質の高い「問題解 決型授業」の実現に向け、「困難性」の分析とその 改善策について検討することとした。

本研究を通して、算数科における「問題解決型 授業」の意義と方法を再検討し、学校現場で実現 可能な授業改善の視点を見いだしたいと考える。

2 研究の内容・研究の方法

主な研究の内容や研究の方法を以下に示す。

(1) 日本数学教育学会実態調査結果の考察 日本数学教育学会が実施した算数科の指導方 法に関する実態調査結果から、問題解決型授業の 定着度や教師の指導上の悩みを考察した。

(文献研究)

(2) A区実態調査結果の考察

都内A区の全小学校を対象として実施した算 数科の授業に関する実態調査結果から、問題解決 型授業を実施している教師の割合や指導上の悩 みを考察した。(質問紙調査)

(3) 「予期的モデル」、「偶発的モデル」に関する 論文の検討

Kilpatrick & Silve「UnfinishedBussiness」

を翻訳し、内容の考察をした。(文献研究)

(4) 先行研究の検討

算数科における問題解決型授業の様相、予期 的モデル、偶発的モデルの葛藤解消、授業の展 開、教師の意思決定に関する先行研究を考察し た。(文献研究)

(5) 授業事例の検討

実施した授業から、予期的モデル、偶発的モ デルの葛藤解消につながる授業場面、教師の意 思決定の事例を収集した。(事例研究)

(6) 検証授業の実施、考察

予期的モデル、偶発的モデルの葛藤解消を意 識した授業案を計画し、効果の検証を行った。

授業と事後研究に当たっては、指導教官、

所属校教員、大学院生、大学生ら複数の参観と 研究協議により、客観性を担保した。

(事例研究)

派遣者番号 29J01 氏 名 春日 学

研究主題

―副主題―

小学校算数科における問題解決型授業の困難性とその改善に関する一考察

-授業の「予期的モデル」と「偶発的モデル」の葛藤解消に着目して-

派遣先 東京学芸大学 大学院 担当教官 櫻井 眞治

所属 台東区立台東育英小学校 所属長 木村 和夫

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3 研究の結果

本研究では、まず「問題解決型授業」の「困難性」

について現職教員への実態調査と先行研究の考察 を行った。その結果、「困難性」は、以下の六つに整 理された。

・児童の実態に沿った本時の学習課題を設定しにく いこと

・個々の学び方を生かした学び合いを成立させにく いこと

・教師主導の「問題解決」になってしまうこと

・「問題解決型授業」を通して分かりやすく知識を 導くこと

・集団検討の指導に不安感があること

・限られた時間で「問題解決型授業」を成立させる こと

多くの教師は「問題解決型授業」の意義は理解し ているものの、「子供の予想外の反応の把握と解釈」、

「子供の反応に応じた意思決定」、「授業内での目標 の再設定や修正」といった授業の中での教師と子供 の相互作用に関して多くの「困難性」を感じている ことが明らかになった。

Kilpatrick & Silver は今後の算数教育の課題と して、「予期的モデル」と「偶発的モデル」の葛藤を 解消することを指摘した。すなわち、緻密な指導計 画に沿って指導を展開する立場と子供の問題意識 や授業の事実を軸として展開する立場の調和を図 る必要性である。私は、教師が感じている「困難性」

は両者の葛藤に起因するものと捉え、事前に作成さ れた指導計画を、子供の反応や事実に応じて修正し ながら展開する授業を「予期的モデル」と「偶発的 モデル」の葛藤が解消された授業と定義した。

上記のような授業の意義や様相について先行研 究の検討と授業事例を考察した結果、「予期的モデ ル」と「偶発的モデル」の葛藤解消が図られた授業 展開では、算数科の本質的な学習課題を内在した学 習の成立や個々の児童の成長を促す可能性を秘め ているということが見いだせた。さらに、「予期的モ デル」と「偶発的モデル」の葛藤解消が図られた授 業を支える教師の条件として、児童の反応の把握と 解釈、授業展開の意思決定、教授行動の選択を連続 的に行うという専門的力量が求められることが明 らかになった。

4 研究の考察

教師が「問題解決型授業」を実施する際に感じ る「困難性」は、「予期的モデル」と「偶発的モデル」

の葛藤に集約される。「予期的モデル」は、内容の効 率的な指導を可能にする反面、児童の学習意欲の低 下や、つまずきが解消されない可能性をもつ。一方、

「偶発的モデル」は、児童の思考に沿った授業展開 を可能にする反面、授業のねらいとのずれが生じる ことや、単元全体の指導計画の修正が必要になる可 能性がある。

この両者の葛藤解消を図るために、私は授業にお いて児童の予想外の反応を取り上げることに着目 した。教師は児童の予想外の反応を授業にどう生か すかを判断し、授業を展開する意思決定を行う。す なわち、児童の予想外の反応に含まれる、授業のね らいや算数科の学びにつながる価値の判断、それを 踏まえた「もどる」、「とどまる」、「すすむ」という 展開の判断を教師が連続的に行うということであ る。このような授業は、児童の知識や技能の獲得や 概念形成、児童一人一人の学習意欲や自己肯定感の 向上に好ましい働きをするということが複数の事 例から明らかになった。

本研究によって、「予期的モデル」をベースに、児 童の予想外の反応を軸とした「偶発的モデル」を組 み込むことで、質の高い「問題解決型授業」が実現 可能になるということが示された。

5 今後の展望

「予期的モデル」と「偶発的モデル」の調和を 図るためには、児童理解に関する知識、カリキュ ラムに関する知識、授業方法に関する知識が教師 に求められる。これらは教師の専門的力量といえ るものである。すなわち、授業において児童の予 想外の反応を捉え、その意図や背景を解釈し、展 開の方向や方法を選択するという教師の対応力で ある。また、児童が予想外の反応を表出しやすい 支持的な学級風土を醸成することも重要であり、

教師の信念が大きな影響を与える。

これらの課題について授業の事実を基に言語化 し、成果を蓄積していくことが、教師の対応力の 向上につながる。今後、授業研究の場において実 践的に追究していきたい。

参照

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