第66巻 第 2号 ,2007
シンポジウム 3
(215‑218)
病 院内事故 か ら子 どもを守 る
は じ め に
平成 16年 4月 に,神 奈り│1県は他の県立病院に 先駆 けて,こ ども医療 セ ンターに 「医療安全推 進室」 を設置 し,専 任 の医療安全管理者 を選任 しま した。それ以前 も,副 院長 を中心 に 「医療 安全管理会議」 において さまざまな検討 を行 っ て まい りま したが,セ ンター内の医療安全 を担 う中心的な部署がで きたことで,医 療事故報告 の集約化や情報収集 。発信の流れが統括 され, 組織が変化 しつつあ ります。平成16年か ら現在 までの医療安全推進の取 り組みを報告すること で,医 療事故の減少に向けて何が必要か,明 ら かに したい と考えます。
図1 神 奈川県立こども医療センター 【医療安全管 理体制】組織図 :
医療事故は減 らせ るか ?
尾 花 由 美 子 ( 神奈り│ 1 県立 こども医療セ ンター医療安全推進室)
I.神 奈川県立 こども医療センターの医療安全 管理体制
組織 図 (図1)に あ る ように,医 療安全推進 室 は,組 織 を横 断的 に活動 で きるように,所 長 ・ 病 院長 の直属 とな り,会 議の運営 をは じめ,医 療安全 に関連 した さまざまな取 り組 み を行 って い ます。室長 は副 院長 (兼務 ),副 室長 は専任 医療安全管理者が担 い,事 務職員 (兼務)を 含 め,5名 で構成 されてい ます。
Ⅱ.当 セ ンターの医療事故発生の現状
平成17年度 の 「医療事故」報告件数 は,2,805 件 で,医 療 安 全 推 進 室 が で きる以 前 に比 べ, 500件ほ ど多 くなってい ます。神奈 川県 の県立 病 院では,医 療事故の レベル判定 を取 り入 れて お り (表1),平 成17年度 の こども医療 セ ンター の イ ンシデ ン トは94%を 占め,ア クシデ ン ト発 生 は,6%で した。医師の報告の増加 ,看 護 師, コ ・メデ ィカルのイ ンシデ ン ト報告 の増加 が背 景 にあ り,医 療事故が増 えたわけでな く,意 識 が高 まった結果 と考 えます。
Ⅲ.子 どもの特性 と医療事故発生
多 くの子 どもは,大 人 と違 い,自 分 自身で安 全 を確保 で きず,大 人では,起 きに くい事故 も 発生 し,成 人対象 の改善策 もその まま活用 で き ない場合があ ります。
1.細 かい指示と機器の多用
微量 な輸液速度の設定や,流 量変更,希 釈 し て使用す る薬剤 も多 く,結 果的 に輸液 ポ ンプや
医療 安 全 管 理 会 議
セ ク シ ョン リス クマ ネ ー ジ ャー会 議
重 症 心 身 障 害 児 施 設 母
子 保 健 室
内 科 系 専 門 医 療 部 門
外 科 系 専 門 医 療 部 門
こ こ ろ の 医 療 部 門
周 産 期 医 療 部 門
医 療 技 術 部 門
臨 床 研 究 室
肢 体 不 自 由 児 施 設
神奈川 県立 こども医療 セ ンター医療安全推進室 〒 2 3 2 8 5 5 5 神 奈川県横浜市南 区六 ツ川2 ‑ 1 3 8 ‑ 4 Tel:045‑711‑2351 Fax:045‑721‑3324
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表 1 医 療事 故 の患者影響 レベ ル レベ ル 0
レベ ル 1 レベ ル 2 レハリレ3 1/´ヾフレ4 レハリレ5
小 児 保 健 研 究
間違 った こ とが発 生 したが,患 者 には実施 され なか った。
間違 った こ とを実施 したが,患 者 には変化 が生 じなか った。
患者 に何 らかの影響が生 じた可能性があ り, 観 察の強化や検査の必要性が生 じた。
事故 により, 患 者に何 らかの変化が生 じ, 治 療 ・処置の必要性が生 じた。
事故 によ り, 生 活 に影響する高度の後遺症が残 る可能性が生 じた。
事故が死 因となった。
イ ンシデ ン ト
ア クシデ ン ト
輸注ポ ンプの使用 も多 くな ります。最 も多い, 輸液 ・注射の事故はそのような背景か ら発生 し
ます。
2.家 族との連携
ご家族 との面会中に,ベ ッ ド柵の上げ忘れ等 の事故発生 もあ り,医 療者が十分な注意 をして も,予 防 しに くい事故が発生する特徴があ りま す。
3.行 動制限と成長 。発達
子 どもの行動制限は,さ まざまな問題 となっ て現 れることがあ ります。新生児 の挿管チ ュー ブや栄養 チ ユーブの抜去防止のために,身 体 の 固定 をす る と,運 動障害や不良肢位の原 因 とも な り,安全のために どこまで行動制限す るのか, 判 断す るの は,困 難 な現状があ ります。
Ⅳ.ど うすれば医療事故 を減 らせ るのか ? 1.事 実の確認
報告システムの確立 (1)報 告者の匿名化
すべ ての医療事故 は,規程 の報告書 に記載 し, 無記 名で 「医療安全推進室」 に届 け られ ます。
報告用紙 には,<こ の報告書 を提 出す ることで, 不利益処分 を受 ける ことはあ りませ ん>と 明記 され,誰 が起 こ したかではな く,何 が起 こった か に焦点 をあてて収集す ることで,報 告 しやす い システムを確立 してい ます。
(2)発 見者も報告
業務 に追 われ る と,患 者 さんに影響が なか っ た イ ンシデ ン ト報告がでに くい状況が起 こ りま す。 しか し,イ ンシデン トの中には,ア クシデ ン トに繋がる問題点が潜んでいることも多 く, 共有することが重要です。 自分が当事者でな く て も,気 になったことは,発 見者 として報告す
ることで,当 事者 に事実確 認 しやす くな り,事 故防止 に役立 ちます。
(3)合 併症も報告
医師の報告 は,増 える傾 向ですが,合 併症 と の判断が難 しい事例 もあ ります。
専 門的 な判 断が必要 な場合 も多 く,他 のセク シ ョンか ら指摘 しに くい状況 も生 まれ ます。 こ ども医療 セ ンターの 「医療安全管理医療マニュ
アル」には,【誤つた医療行為はなかったが, 患者に生じた不都合な結果】も報告することが 規程されています。
関係者が集まって事実の確認
報告内容 だけでは,起 こった結果はわか りま すが,背 景や誘引がみ えに くく,原 因 と思 って いたことが,結果だつた とい うことがあ ります。
分析 す る過程 で は,実 際の場や物品の確認,分 析 ツール を活用 しての多方面か らの事実の掘 り 起 こ しが重要です。
2.事 故の共有
自分の病 院で何が起 こってい るのか知 り,自 覚す るこ とが重要 です <他 のセ クシ ョンで起 き た こ とは, 自分 のセ クシ ヨンで も起 こる>。 そ のためには,す ばや く,わ か りやすい (一日で わかる写真や図の使用)情 報 を発信す ることが 必要です。
3.改 善策の検討
事故発生 した該 当セ クシ ョンで,分 析や改善 策の検討 をす るのは当然 ですが,起 こった事故 は,組 織 の問題 として,適 切 な改善策 を導 くた めの小委員会 をつ くります。事故内容 に習熟 し たメ ンバ ーの集 ま りも重要 ですが,ま った く違 う立場での意見は, 事故発生の原因に立ち返 り, 改善策のヒン トにな ります。
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第66巻 第 2号 ,2007
医療行為 その もの を止める
事故が起こると何とか工夫して,継 続するこ とを考えますが,【止められるか】を考えるこ とは重要です。行為がなければ事故は発生しま せん。人の努力に頼ることは, 改 善につなが ら ない ことが多い ことも意識す る必要があ りま す。
<事 例 >
内服薬 を必要量 よ り多 く出 し,ご 家族 の通院 の負担 を少 な くした。夜 間の緊急入 院で,処 方 通 り内服 させ た ことで,過 量薬剤投与 となって
しまった。
<改 善策>
薬剤 は,必 要量,必 要 日数 しか処方 しない。
システムを変える
子 どもの輸 液 は,ベ ッ ド柵 の必要や行動範囲 を狭 め ない よ うに輸 液 セ ッ トに延 長 チ ュー ブ (エックス テ ンシ ョンチ ュー ブ)を 接 続 す る こ とが多 く,緩みやはずれの原因 とな ります。ロ ッ ク式 を使 用す る と,留置針 との接続部が大 き く, 褥蒼発生 の リス クが多 くな ります。看護師が接 続 を確認す ることが,長 い間の改善策で した。
<改 善策>
輸液セ ッ ト接続倶1のみ ロ ック式 のエ ックステ ンシ ョンチ ューブに変更す る。
<結 果>
1年 半 に41件あった事故が 2件 に減少。
さらに現在,閉 鎖式輸液 ルー トの導入 を検討 してい ます。
患者さんやご家族の参加
病 院は,長 い間 【安全 な環境】 を医療者が準 備 し,患 者 さんや ご家族 に提供 す る場 で した。
しか し,子 どもの安全 は,子 ども自身や子 ども に関わるすべ ての大人の協力が必要です。
<事 例 >
禁忌薬 の記載が あ ったが 目立 たず,使 用 して しまい,発 疹が出現す る。
<改 善策>
・禁忌薬 ・ア レルギー等問診票 を作成 し,患 者 さんや ご家族 に記載 していただ く。
・問診票 は,黄 色用紙 とし,カ ルテの一番前 に 挟 む。患者 さん ご家族 とア レルギー情報 を共
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有 す る。
< 結 果 >
。新 た な事 故発生 な し。現在 ラテ ックスや喘息 の既 往 な ど一 つ に ま とめ た問診 票 を作 成 して います。
知識の共有
当セ ンターでは, 骨 折 の リス クの高い子 ども た ちが多 く,骨 折事故 は毎年発生 してい ます。
そ こで,<整 形外 科 医 師 > < 神 経 内科 医 師 >
< 薬 剤 師 ><理 学療法士 ><看 護師 ><医 療安 全管理者>が 集まり,①何故骨折が起こるのか,
②骨折のリスクを減らすにはどうしたら良いか を検討 し,ス クリーニング票を作成 しました。
また,知 識を広 くケアに活かすため,患 者さん とご家族の協力で 【骨折事故を予防するための ケア】というビデオを撮影しました。今後,職 員やご家族 と共に活用 し, 事 故の減少 を目指 し たい と思います。
業務の効率化
医療事故関連のみでな く,診 療報Elllの改訂 な どで新 たな取 り組みが増 えてい ます。それ らに 伴 い,チ ェ ック用紙 の増加 ,説 明時間の延長等 と医療 者 は,益 々多忙 に な ってい ます。NST のス ク リーニ ング票 を褥塘 と骨折 を組 み込 み,
1枚 にす る等,業 務 の効率化 をはか ることも医 療安全 につ なが ります。
これも大切
<改 善策は, じっくり無理をせず>
何 か を変 えて,定 着 させ るには,長 い時 間が かか ります。 また,十 分練 られた改善策で ない と,変えた ことで新 たな医療事故が発生 します。
効果 ・検証 を繰 り返す こ とが重要 です。
<先 行投資>
アクシデ ン ト発生 の結果,組 織が動 き,改 善 に向か うことは重要ですが,患 者 さんの不利益 や職員のダメージなどが伴います。インシデン
トの時′点での改善や他の病院で起 きた医療事故 を自分の病院で検証 し改善することで,リ スク を最小限にすることがで きます。
< 人 の確保 >
どん な に シス テ ム を変 えて も, 人 の介 在 な し
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に医療は行えません。患者サービスを低下させ ず,安 全に業務を行うには,人 の確保や人員配 置の工夫が必要です。
4.改 善策の効果 ・検証
改善策 の効果 を検証す るには,報 告書 の推移 や現場 ラウン ドで確認す ることが必要です。 ま た,患 者 さんや ご家族,医 療者 にア ンケー ト等 で評価 していただ くことも重要です。
小 児 保 健 研 究
お わ り に
多職種が 自分の専門性 を活か し,一 緒に医療 安全 の取 り組み を行 う過程 で,コ ミュニケー シ ョンが円滑にな り, ヒューマ ンエラーの減少 に繋が ります。患者 さんやご家族 も巻 き込んで, 安全な医療について考えていく先には,【医療 事故の減少】という結果で現れると信じていま す。