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2. 水質浄化施設および調査概要 (1) 水質浄化施設の概要本施設は図 1, 表 1のような構造 諸元である. 運河内の水深は約 3.5m であり, 富栄養化状態にある表層水 ( 管理水位 1.0m) と夏季に貧酸素化する底層水 ( 海底 +1.0m) をそれぞれ連続的に揚水 ( 流量 :25L/m

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尼崎運河水質浄化施設の水質浄化機能と

生態系サービスの評価

一色 圭佑

1

・山中 亮一

2

・上月 康則

3

・大熊 康平

1

・沓掛 安宏

4

森 紗綾香

5

・角元 陽一

6

・川井 浩史

7

・中西 敬

8

・橋丘 真

9 1学生会員 徳島大学大学院 先端技術科学教育部(〒770-8506 徳島県徳島市南常三島町2-1) E-mail: k.isshiki@kobelco-eco.co.jp 2正会員 徳島大学講師 大学院ソシオテクノサイエンス研究部(〒770-8506 徳島県徳島市南常三島町2-1) E-mail:ryoichi_yamanaka@tokushima-u.ac.jp 3正会員 徳島大学教授 大学院ソシオテクノサイエンス研究部(〒770-8506 徳島県徳島市南常三島町2-1) E-mail: kozuki@tokushima-u.ac.jp 4正会員 株式会社IHI インフラ建設(〒556-0017 大阪府大阪市浪速区湊町1-4-1) 5正会員 NPO法人 人と自然とまちづくりと(〒595-0039 大阪府泉大津市楠町東3-17) 6正会員 徳島県阿南市役所(〒774-0030 徳島県阿南市富岡町トノ町12-3) 7正会員 神戸大学教授 内海域環境教育研究センター(〒657-8501 兵庫県神戸市灘区六甲台町1-1) 8正会員 尼崎運河まるまるクラブ部長(〒660-0083 兵庫県尼崎市道意町7-21) 9正会員 兵庫県尼崎港管理事務所所長(〒660-0083 兵庫県尼崎市道意町7-21) 2012年3月に竣工した「尼崎運河水質浄化施設」は,優占生物(藻類,付着性二枚貝)を利用した水質浄 化システムを市民協働により運用するユニークな施設である.本研究では,市民協働に参与し,本施設設 置による効果を水質浄化量,活動意欲,生態系サービスの視点から評価した.その結果,2013年夏季には 本施設の水質浄化機能は69%の窒素除去率を示した.また現地実験により水質浄化機能向上に向け栄養塩 回収水路の流速を変更することにより藻類量が約37%増加し,さらなる浄化量の増加が期待できることが わかった.市民協働の参加者に対し実施したアンケート調査から,環境活動への参加意欲は,受動型の活 動よりも自主検討型の活動の方が,今後の活動参加意欲が高いことが示唆された.本施設によりハードと ソフトの融合により多くの生態系サービスが創出されたことが明らかとなった.

Key Words : amagasaki canal,water quality purification, ecosystem services,civic collaboration

1. 緒 論 大阪湾北東の湾奥に位置する尼崎運河では汚濁化1) 策と利活用促進を目的とし,2012年3月に「尼崎運河水 質浄化施設」が竣工した.本施設は生態系工学の考え方 に基づき設計された2) 3) 4).具体的には生物の物質循環機 能と市民協働による生物の系外除去により水質浄化が達 成される仕組みを有しており,水中から取上げた生物は 堆肥材料として活用されている(水質浄化活動と呼ぶ). 本施設での水質浄化活動は,市民組織による順応的管理 に基づき進められ,市民協働による水質浄化活動が本格 化している.具体的には産官学民から構成される緩やか な連携組織が結成され,海と陸との物質循環促進活動に 始まり,環境防災学習,レジャーを含む水面利用の実践, 世代間交流などが行われている.尼崎運河は公害の歴史 を持ち,人気のない大都市近郊の水辺であったが,現在 では,本施設の活用により水質浄化を核とした地域活性 化を含めた継続性のある環境再生効果が発現しており, 水質浄化と地域活性化の好循環を創出する新しい環境再 生手法として位置づけられる.このため尼崎運河での環 境再生事業は,大阪湾再生行動計画(第二期)5)のアピ ールポイントに選定されている. 本研究では,本施設の環境再生効果の総合的な評価を 目的とし,市民協働に参与し,水質浄化機能および協働 参加者への効果の定量化を行なった.さらに環境再生効 果を「生態系サービス」の観点から評価し,今後の尼崎 運河の環境再生活動の方向性について考察することを目 的とした.

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2. 水質浄化施設および調査概要 (1) 水質浄化施設の概要 本施設は図-1,表-1のような構造・諸元である.運河 内の水深は約3.5mであり,富栄養化状態にある表層水 (管理水位-1.0m)と夏季に貧酸素化する底層水(海底 +1.0m)をそれぞれ連続的に揚水(流量:25L/min)し, 生物棲息区画を通過させることで懸濁態および溶存態栄 養塩を水中から除去する仕組みとなっている.使用する 生物は,尼崎運河内の付着性の優占二枚貝であるコウロ エンカワヒバリガイ(Xenostrobus securis)や付着性藻類 である. 図-1 水質浄化施設の全体上面図と採水地点 表-1 水質浄化施設の各区画概要 区 画 名 称 概 要 懸濁物 除去水槽 ・水槽容量 (幅:1.0m, 奥行:1.8m, 水深:1.0m) ・滞留時間:72min ・曝気量:12L/min ・取水水深: 表層水 (管理水位-1.0m) ・コウロエンカワヒバリガイ沈設重量:9.7wet kg 曝気水槽 ・水槽容量 (幅:1.0m, 奥行:1.8m, 水深:1.0m) ・滞留時間:72min ・曝気量:12L/min ・取水水深:底層水 (海底+1.0m) 栄養塩 回収水路 ・系統:表層系(懸濁物除去水槽処理水) 底層系(曝気水槽処理水) ・延長:60m,幅:0.3m,水深:0.2m ・滞留時間:144min 人工干潟 ・面積:82.5m2 ,(幅:3.0m, 奥行:27.5m) ・地盤高:管理水位 - 0.3~0m,勾配:1/100 ・底質:砂質 (2) 調査概要 a) 水質浄化機能の定量法 図-1に示す8地点において2013年9月25日14時,9月26日 2時に採水を行い,懸濁態および溶存態の窒素(PN,DN) の濃度差から,浄化量を算出した.DNはTNTPオートア ナライザー(BLTEC製:AACS-V)を用いて分析した. PNは,採水試料をろ過した後,ろ紙(Whatman GF/C) を乾燥させ, CNコーダ(Thermo Finnigan製:NC Soil Ana-lyzer)を用いて分析した.また別途,栄養塩回収水路内 に付着している藻類の活性を測定した.活性の測定には 小型クロロフィル蛍光測定器(PSI製:AquaPen AP-P100) を用い,栄養塩回収水路の表層系および底層系で,パル ス変調クロロフィル蛍光測定法(PAM法)により付着 性藻類の量子収率としてFv/Fmを測定した.Fv/Fmは,一 般的に吸収した光エネルギーが光合成に用いられた割合 である量子収率と相関性をもっていると言われており, 光合成機能低下の指標となる6) 7).藻類の Fv/Fmを測定後, 測定箇所の藻類を剥ぎ取り,N,N-ジメチルホルムアミド で抽出後,吸光光度法によりクロロフィルa(Chl.a)量 およびフェオフィチン(Pheo.)量を測定した.あわせ て水路内のORPを多項目水質計(Hydrolab社製:MS-5) を用いて測定した. 人工干潟では,干潟表面に繁茂した微細藻類の栄養塩 固定速度をチャンバー法4)により測定した.藻類の活性 の経時変化を考慮するため,光量子束密度の違いによる 栄養塩固定速度の変化を考慮し8),式(1)~(3)を用いて一日 あたりの浄化量を求めた.

Gi = Gm・(Ii / Iopt)・exp(1- Ii / Iopt) (1)

Pday = Σ (Gi・⊿ t) (2) P = Pday+Pnight (3) ここで, Gi:i 時の栄養塩固定速度(mgN/hr),Gm:最 大栄養塩固定速度(mgN/hr),Ii:i 時の水中光量子束密 度 ( µmol/m2 /s ) , Iopt: 最 適 水 中 光 量 子 束 密 度 (µmol/m2 /s),⊿ t:時間刻み幅(hr)である.最適光量 子 束 密 度 は , 山 中 ら9)の 実 験 結 果 を 参 考 と し , 400µmol/m2/sに設定した.また,最大栄養塩固定速度 (窒素)はチャンバー法により藻類を培養した結果を用 い,189mgN/hrが得られた.昼間の光量子束密度の経時 変化に伴う栄養塩固定速度を式(1)により算出し,式(2) により合算することで昼間の栄養塩固定速度とした.時 間刻み幅は,1hrに設定した.また,本干潟は潮間帯に 位置するため,運河内での実測水位データ(尼崎運河内 北堀地区観測値)より冠水面積の時間変化を求め,冠水 部における栄養塩固定速度を求めた.夜間の栄養塩固定 量:Pnight(mgN)はチャンバー法による暗条件の結果を 用いた.日照時間は,日出から日没までとした.昼間と 夜間の栄養塩固定量を式(3)にて合算することで,P:一 日の栄養塩固定量(mgN/day)とした.また,人工干潟 に生息するコウロエンカワヒバリガイをコドラート (15cm×15cm)内で剥ぎ取り個体数を測定し,山中ら10) の方法により懸濁物除去速度を求め,浄化量を算出した. b) 水質浄化機能の向上実験 栄養塩回収水路における最適流速を明らかにするため, 栄養塩回収水路(表層水)の底部をコンクリートブロッ クで嵩上げし,通水流速を0.9,1.0,1.5,1.8cm/s(流 土木学会論文集B2(海岸工学),Vol. 71, No. 2, I_1489─I_1494, 2015.

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量:20,25,30,32L/minに相当)に調整し,各流速にお ける水路内の藻類量を測定した.各実験系は単一水路内 に互いに影響を及ぼさないよう2mの間隔で設置した. 水路流速は電磁流速計(ケネック製:VP1000)で測定 した.実験期間は2013年7月29日から58日間である. c) 水質浄化活動と人工干潟の順応的管理 水質浄化活動により水質浄化に寄与した生物は役目を 終えた(死亡間近)と判断された時点で人力で系外に除 去され,陸域で堆肥材料として活用される.栄養塩回収 水路から除去した生物(藻類)を重量計測した後,含有 窒素量を分析し,系外除去効果を定量化した.また,人 工干潟における2012年から2013年までの経過観察の結果, 有機物が堆積し続ける汚濁型干潟となっていることが判 明したため,生態系管理を行い生物多様性向上を促す対 策を施すこととなった.2014年5,6月に市民と著者らを含 む有識者,環境活動に取り組む中高生,行政,管理者に よる2度の市民ワーキング(参加者30名程度)を行い, 人工干潟の改良実験計画を作成し,2014年7月に市民協 働イベントとして干潟づくり活動を実施した.ここでは, 潮だまり,レキ浜,ヨシ原を人力で造成し,さらに,実 験的に汚濁化の一因である微細藻類と干潟にマット状に 生息するコウロエンカワヒバリガイを摂餌するウミニナ とイボニシを近隣の甲子園浜から持ち込み,干潟上に設 置したケージ内に投入し,継続して生残率を評価した. また,2014年8月と2015年1月に干潟づくり後の出現生物 種数を確認するため,コドラート(15cm×15cm)内の 生物種数を測定した. d) アンケート調査 2014年8月30日の水質浄化活動に参加した中学生およ び高校生28名を対象に表-2に示すアンケート内容で調査 を行った. アンケートは,活動終了後に実施し,記入 が終わり次第回収した. 3. 結果と考察 (1) 水質浄化施設の浄化量 2013年9月25日から26日までの水質浄化施設の窒素収 支を図-2に示す.図中の%で示した数値は,総流入窒素 量に対する除去率を示す.本結果より,このときの水質 浄化施設全体の水中からの窒素除去率は69%であること がわかった.下水処理施設と比較した場合,本浄化施設 の窒素除去率では高度処理施設(窒素除去率:65~70%) 11)と同程度の性能であることがわかった. 次に各区画の窒素の水中からの除去効果(固定量)に ついて評価する.懸濁物除去水槽でのPN固定量は 6.86gN/dayであった.この結果を山中ら10)の実験結果と比 較すると, 1.94倍高い値であり,その要因としてコウロ エンカワヒバリガイの摂餌だけではなく懸濁物の沈降に よる効果が推察された. 栄養塩回収水路における表層系と底層系の水質浄化量 を比較した場合,底層系では昼間における藻類の一次生 産による栄養塩固定量(DN固定量:0.04gN/hr)が設計 値(DN固定量:0.47gN/hr)より9割程度少なかった.調 査日において図-3に示す藻類の活性度合を表すFv/Fmが, 表層系と比較し底層系で小さく,藻類の活性低下が生じ 表-2 アンケートの質問内容 番号 質 問 と 選 択 肢 1 「あなたについて教えてください」 性別,職業,居住地,尼崎運河までの移動時間 2 各活動における参加・不参加を確認 ①参加した ②参加していない 活動内容:「花壇づくり」「水質浄化活動」「堆肥づくり」「潮だまりづくり」「レキ浜づくり」「ヨシ原づくり」 「イボニシ・ウミニナの定着実験」「スタンドアップパドルボード(SUP)体験」 3 「今後も浄化施設のイベントに参加したいと思いますか?」 ①とてもしたい ②機会があればしたい ③分からない ④参加したくない 図-2 夏季における窒素の固定・溶出速度(除去率:総流入窒素量に対する水質浄化施設により除去された割合)

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ていた.この原因として,調査日の底層系からの流入水 は還元状態(ORP:-60mV)であり底層系の水路内では, 海水が白濁し腐卵臭が発生していたことから,青潮に類 する状況となっていたと推察された.図-4に水路内に繁 茂した付着性藻類のChl.a量+Pheo.量に対するChl.a量の割 合を示す.表層系と比較して底層系のChl.a量の割合が少 なかった.一方,浄化活動による2013年夏季の取上げ藻 類量は表層系で13.8dry kg,底層系で12.3dry kgであり同程 度であった.以上の結果を踏まえ,表層系と比較して底 層系の浄化能が低かった原因は藻類の活性度低下である ことがわかった.夏季において底層系水路では汲み上げ た海水に硫化水素が含まれる可能性があり,底層系流入 水の水質悪化による浄化能低下への対策が必要である. 次に,栄養塩回収水路における流速ごとの藻類量を図 -5に示す.現在の定格流速1.0cm/sから0.9cm/sに変更する ことにより藻類繁茂量が約37%増加することがわかった. この結果は既往の研究12) 13)と定性的に一致しており,こ れにより,藻類取上げ量が増加し,系外除去効果が向上 されると期待できる. 人工干潟における窒素固定量は単位面積あたり 34.22mgN/m2/dayであり,これは矢持ら14)が実施した大阪 南港野鳥園湿地の結果(58~144mgN/m2 /day)には及ばな かった.繁茂した微細藻類の一次生産機能により溶存態 栄養塩の固定とコウロエンカワヒバリガイの摂餌活動に よる懸濁物除去により水質浄化効果が確認できた.一方, 人工干潟では,コウロエンカワヒバリガイのマット化に よる底質の嫌気化が発生しており,コウロエンカワヒバ リガイの密生場所では底質中のAVSが0.15mg/dry gと高く なっており,他のベントス類が出現せず,生物多様性の 観点からは人工干潟に加入するコウロエンカワヒバリガ イは除去すべきと判断された. (2) 市民協働での順応的管理による浄化効果 2013年7月29日に,栄養塩回収水路内での藻類の回収 作業が実施され,このとき回収藻類量は26.1dry kgであり, 含有窒素量は270.8gNであった.これは,前回に実施し た藻類回収(2013年3月20日)から今回の回収日までの 133日間に栄養塩回収水路内の藻類が水中から除去した と試算される窒素量 5208.3gNの5.2%にあたる.系外除去 効果の向上のためには藻類除去の頻度を上げることが考 えられるが,栄養塩回収水路では付着性藻類を捕食する ヨコエビ類の優占,ゴカイ類とフナムシの出現,枯死し た藻類の分解やデトリタスの状態で浮上し流出する様子 が観察されており,これらの複雑な生態系プロセスによ る藻類量の変動を含めた検討が必要である. 人工干潟での干潟づくり活動の結果,実施1ヶ月後の 潮だまりでは,2014年8月にハゼ類:5ind./m2,スジエビ モドキ:3ind./m2,2015年1月にはヨコエビ類:1012ind./m2 多毛類:88ind./m2の新規加入生物が確認された.また, 投入したウミニナとイボニシの生残率は2014年8月から 2015年1月の期間ででともに85%以上であり,現地適用 性が高いことがわかった. (3) 市民の活動参加意欲と生態系サービスの評価 アンケート結果を図-6に示す.参加した活動別の今後 の環境活動への参加意欲は,干潟づくり活動の参加者で 高い傾向が見受けられた.干潟づくり活動の計画は意見 を出しあい,プランを決定した自主検討型活動であり, 他の活動はイベント型活動であった.これらの結果より, 受動的に関わるイベント型活動よりも能動的に関わる自 主検討型活動の方が,今後の活動参加意欲が高まること が示唆された. 生態系サービスはミレニアム生態系評価(MA)15) よって提唱され,人間が生態系から享受している恵みを 総合的に評価することができる.近年,沿岸域の生態系 の価値評価にも用いられていることから,本施設の評価 でも有効であると考えられる.生態系サービスの分類は, MAに基づき,基盤サービス,供給サービス,調整サー ビス,文化サービスの4項目に分類し,さらに環境省16) 太田ら17),本田18)が提唱する沿岸域の生態系サービスと しての項目を統合し設定した.参与観察により把握した 本施設における生態系サービスを表-3に示す.本施設は 図-3 栄養塩回収水路に繁茂する 藻類のFv/Fm 図-4 藻類のChl.a量+Pheo.量に対する Chl.a量の割合 図-5 流量と藻類量の関係 (2013年夏季 表層系) 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 表層系 (N = 6) 底層系(N = 8) C h l. a 割合 mean=±SD 0 200 400 600 800 1000 0.9 1.0 1.5 1.8 藻類量(w et g /m ) 流速(cm /s) 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 表層系 (N = 3) 底層系(N = 3) F v /F m mean=±SD

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浄化機能と親水機能(船着き場,環境学習を行う場とし ての機能)に必要な設備を有している.表-3ではこのハ ード面の整備により享受できるようになった生態系サー ビスが「水質浄化施設の機能により受けられる生態系サ ービス」として示されている.興味深いのは,この他に 主に「市民協働活動により受けられる生態系サービス」 に含まれる一般市民の自主企画によるESD19)(水質浄化 教育,防災教育,地域歴史教育),スタントアップパド ルボート(SUP)体験による親水効果といった項目は, 浄化活動に参画する市民団体が運河および本施設がもつ 魅力や機能を活用することで,二次的に発生したもので ある.また,本施設の持つ親水護岸を利用しているSUP 団体による自主的な運河内の清掃活動や,浄化活動やイ ベントが世代間交流や地域の人が集う場を提供するなど, 二次的に発生した生態系サービスから,さらに三次的な サービスが創出されていることも特徴である. このように,本施設が中心となり,二次的,三次的な 生態系サービスが本来施設が有する機能の枠を超えて出 現していることは,本事業の大きな特徴である.このよ うな付加的な要素が発生した理由として,本事業では市 民協働による活動を水質浄化システムの一部と位置づけ, NPO,大学,企業など多様なグループの協働参画を促し ていることが施設の存在を周知させ,本施設の存在価値 や尼崎運河の価値を向上させていることが考えられる. また,都市近郊に局所的に存在する生態系サービスが, 都市に住む人々の生活の質や文化の質を向上させること が知られており20),本施設が有する生態系サービスも, 同様の機能を持っていると考えられる. 4. 結 論 本研究により,尼崎運河に設置した水質浄化施設の性 能とそれにより新たに享受可能となった生態系サービス を明らかにすることができた.2014年度の水質浄化施設 の利用者は2551名であり,研究,環境学習,レクリエー ションの場として,多くの市民が生態系サービスを享受 する場として利用されている.このように,本施設は水 質浄化のみならず,市民が生態系サービスを享受できる 仕組みとして機能する物であると言える.今後は,環境 工学と社会科学の観点から着目し,事業運営に最適な方 法を検討していく必要がある. 図-6 参加した活動ごとの今後の参加意欲 表-3 参与観察により確認された生態系サービス(■二次的,■三次的に発生した生態系サービス) 懸濁物除去水槽 栄養塩回収水路 人工干潟 親水護岸 浄化活動 ESD イベント 生物多様性16) 付着生物,魚類 (ボラ,クロダイ) の加入 -ヨコエビ類,多毛 類,フナムシの加 入 ヨコエビ類,多毛類, ハゼ類,スジエビ類 の加入 - 更なる多様性拡大 - -生息環境の提供16) 直立護岸 付着生物の生息 場提供 藻類の生息場提供 潮間帯の創出 更なる生息場拡大 - -食料16) - - - - 海産バイオマス堆肥を 用いた食物の栽培 - -原材料16) - 海産バイオマス の供給 海産バイオマスの 供給 海産バイオマスの供 給 -海産バイオマス堆肥 の供給 - -大気質調整16) 気温調整 - - - - - - -局所災害の緩和16) 洪水,高潮被害 の緩和 - - - -海産バイオマスの堆 肥化による物質循環 SUPを用いた清掃活動 生物学的防除16) - にごりの除去 富栄養化抑制 食物連鎖の拡大によ る赤潮発生抑制 - - - -自然景観の保全16) - - - ヨシのある風景 - SUPを用いた清掃活動 - -市民による観光ガイド SUP体験会 療養17) - - - - - 生物,水との触れ合い - 生物,水との触れ合 い,生物観察 教育17) 二枚貝による水 質浄化の仕組み 等,教育の場を 提供 藻類による水質浄 化の仕組み等,教 育の場を提供 干潟生物による水質 浄化の仕組み等,教 育の場を提供 - 世代間交流 水質浄化教育 防災教育 地域歴史教育 SUPによる親水効果 生物観察 伝統行事18) 運河博覧会(うん ぱく)開催 - - - -地域の人が集う機会を 提供 -地域の人が集う機会 を提供 基 盤 供 給 調 整 -生物との触れ合 いの場,親水性 のある場を提供 生物との触れ合い の場,親水性のあ る場を提供 生物との触れ合いの 場,親水性のある場 を提供 -市民協働活動により受けられる生態系サービス SUP,クルーズ の乗降場を提供 - -文 化 文献調査による 沿岸域での 生態系サービス 事業前の運河の 生態系サービス 水質浄化施設の機能により受けられる生態系サービス 水質浄化16) -PN,PP除去, 水質浄化活動の 場を提供 DIN,DIP除去, 水質浄化活動の場 を提供 DIN,DIP除去, PN,PP除去,水質浄 化活動の場を提供 -レクリエーション16) ボードウォーク, クルーズイベント

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謝辞:本研究における現地調査および分析に際し,桶川 博教氏,島巡蕗澪氏,山中健太郎氏,中川卓弥氏に協力 を頂いた.ここに謝意を示す. 参考文献 1) 中西敬,上月康則,森紗綾香,川井浩史,辻博和,上嶋 英機:尼崎港内運河における環境修復の取組み~閘門・ 水門を利用した流況制御・水質改善実験,海洋開発論文 集,第 23巻,pp.757-762,2007. 2) 山中亮一,上月康則,森友佑,森紗綾香,板東伸益,高 谷和彦,上嶋英機:尼崎運河での水環境改善に向けた新 しい曝気手法に関する現地実験,海岸工学論文集,Vol.55, pp.1246-1250,2008. 3) 森紗綾香,山中亮一,上月康則,板東伸益,高橋秀文, 上嶋英機:尼崎運河における護岸付帯式浅場を用いた砂 浜性二枚貝の生息空間創出に関する現地実験,海洋開発 論文集,Vol.25,pp.431-436,2009. 4) 山中亮一,上月康則,一色圭佑,森紗綾香,川井浩 史,石垣衛,上嶋英機,高橋秀文:尼崎運河に設置 した小水路における藻類を用いた水質改善手法の現 地実験,土木学会論文集 B2(海岸工学),Vol.66, No.2,pp.1201-1205,2010. 5) 大阪湾再生推進会議:大阪湾再生行動計画(第二 期),2014. 6) 園池公毅:パルス変調クロロフィル蛍光測定におけ るデータの解釈,日本光合成研究会会報, No.42, pp.7-12,2005. 7) 園池公毅:クロロフィル蛍光と吸収による光合成測 定,低温科学,Vol.67,pp.507-524,2009.

8) J.H.Steele:Enviromental control of photosynthesis in the sea,Volume7,Issue2,pp.137-150,1962. 9) 山中亮一, 上月康則, 桶川博教, 沢田晃聖, 前田真里, 沓掛安宏, 平井住夫, 一色圭佑:尼崎運河の藻類を用 いた水質改善水路での夜間 LED 照射による効果と適 用方法, 土木学会論文集 B2(海岸工学),Vol.68, No.2,pp.1166-1170,2012. 10) 山中亮一,上月康則,桶川博教,沓掛安宏,一色圭 佑,山中健太郎,島巡蕗澪,中西敬,川井浩史,石 垣護,上嶋英機,今中治夫:尼崎運河での優占二枚 貝を活用した水中懸濁物除去手法の開発,土木学会 論 文 集 B2( 海 岸 工 学 ) , Vol.69, No.2 , pp.1086-1090,2013. 11) 日本下水道協会:下水道施設設計指針と解説 ,2001. 12) Whitford, L. A. and G. J. Schumacher:Effects of current on mineral uptake and respiration by a freshwater alga. Limol.Oceanogr., 6,pp.423-425,1961. 13) 季勁松:流動が植物プランクトンに及ぼす影響に関 する研究,岡山大学環境理工学部研究報告,第 7 巻, 第 1 号,pp.45-43,2001. 14) 矢持進, 柳川竜一, 橘美典:大阪南港野鳥園湿地にお ける物質収支と水質浄化機能の評価,海岸工学論文 集,Vol. 50,pp.1241-1245,2003.

15) Millennium Ecosystem Assessment(横浜国立大学 21 世紀 COE 翻訳委員会翻訳):Ecosystems and Human Well-being General Synthesis(国連ミレニアム エコ システム評価 生態系サービスと人類の将来),オ ーム社,241p,2007. 16) 環境省:湿地が有する生態系サービスの経済価値評 価,2013. 17) 太田貴大,林希一郎,伊藤英幸:生態系サービスの 文化サービスに対する主観的価値の決定要因:愛知 県一色干潟における精神的療養と環境教育利用に着 目して,環境情報科学 学術研究論文,第 26 巻, pp.307-312,2012. 18) 本田裕子:里山里海の文化と生態系サービスの変遷, 千葉県生物多様性センター研究報告,第 2 号,pp.39-53,2010. 19) 環境省:ESD 環境教育プログラム, http://www.geoc.jp/esd/column,2015/5/21 アクセス, 2015.

20) Per Bolund,Sven Hunhammar:Ecosystem services in urban areas,Ecological Economics,Volume29, pp.293-301,1999.

(2015. 3. 18 受付)

ENVIRONMENTAL FUNCTION OF NEW BIOLOGICAL PURIFICATION

FACILITY IN AMAGASAKI CANAL FROM THE PERSPECTIVE OF WATER

PURIFICATION AND ECOSYSTEM SERVICES

Keisuke ISSHIKI, Ryoichi YAMANAKA, Yasunori KOZUKI, Kohei OGUMA

Yasuhiro KUTSUKAKE, Sayaka MORI, Yoichi KAKUMOTO, Hiroshi KAWAI

Takashi NAKANISHI and Makoto HASHIOKA

Amagasaki Sea Blue Project of Hyogo Prefecture in Amagasaki Canal constructed a biological purification facility in 2012. The facility was designed for water purification of eutropied seawater and recreation activities. To clarify the effect on nutrient removing function and social effects by the facility, field observation and participant observation to civic collaboration were conducted. As a result, it was found that max.69% of total nitrogen was removed from eu-tropied seawater with biological water purification technique using marine creatures in summertime of 2013. Moreo-ver, we found that ideal stream velocity for breeding sea algae was 0.9 m/s by reactive test. According to a question-naire survey, citizen’s desire of participation to eco-activities in Amagasaki Canal was affected by involvement with planning the project. Finally, from an analysis of ecosystem service, we found that the facility have a function not on-ly original plan of Amagasaki Sea Blue Project but also creating a self -sustaining civic collaboration.

参照

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