九州大学学術情報リポジトリ
Kyushu University Institutional Repository
重度・重複障害児の発達援助技法の開発
進, 一鷹
https://doi.org/10.11501/3100001
出版情報:Kyushu University, 1994, 博士(教育心理学), 論文博士 バージョン:
権利関係:
重度・重複障害児の発達援助技法の開発
進 一鷹
目次
序
第1章 重度・重複障害児とその定義 一一一一一ー一一一一ーーー一一ー一一一一一一一 1 第1節 教育行政用語としての重度・重複障害児 一一一ー一一一一一ー一-一一一一ー ー
l
第2節 児童福祉用語としての重症心身障害児 一一一ー一一一ー一一一一ー一一一一
2 第3節 重度・重複障害児の再定義とその行動特性
第2章 問題の分析 一一一一一一一一ーーーーー一一一一ーーーーー 一一一ー一一一一一一一一
6 第1節 外界の認知
第2節 外界への関わり ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー一一ー ーーー苧 ーーーーー一ーーーーーーーーー一
1 0
1.外界としての自己の身体部位への関わり ーーーーーーーー一ーーーーーーーー ーーー一一-ーーーーーー1 0
2.自己の身体の一部を道具化した外界への関わり 一一一一一ー ーー一一一一一一11
1)重度・重複障害児の身体部位と外界への関わり ーーー一一ーーー一一一一ー一一一12
2)健常乳幼児の身体部位と外界への関わり
14
(1)目と手 一一一一一一一一一一一一一一一一一ーーー一一一一一ー一一ー一一一
14
(2)口と目と手 一 一 ー ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー一一ーーーー ーーーー一ーーーー 15 第3節 姿勢と姿勢行動 一一一一一一ー 一一一一一ー一一一一一一ー一一一一一ー一一一 17 第4節 自己活動 一ー一一ーーー 一一ーーーーー一一一一ーーーーーーー一一ーーー一一ーーーー一一一 20 第3章 研究仮説 一一一一一一一一ー一一一一ー一一ー一一一一一ーーーー一一ー ー 24 第4章 事例研究とその方法論的検討 一ーーー一一一一一一一一一ーー一一ーーー一一一一 25 第1節 事例研究の方法 ーーーー 一一一一一一一一一一一一一一一一一一ーーー一一一一一 25 1.研究対象への接近の方法 一一一一一一一一ーーーー一一ー一一ー一一ー一-一ー一一一 25 2.方法論的な立場 一ー一一一一一一一一一一一一ー一一ーーーーーー一一一ー一一ーーー--. 26 第2節 事実の収集法 一ー一一一一ー一一一一一一一一一一一一ー一一一一一一一ーーーーー 27 1.行動の条件と行動の対応づけ 一一一一ー一一一一ーー一一一一一一一一一一ーーー 27 2.行動水準の明確化 一ー一一一一一一ー一一一ー 一 一ーーーー一一ー一一ーーーー--- - -. 28 3.事実収集の視点 一一ーーー一一一ーーーーーーー一一 ーー一一一ーー一一一一ーーーーーーー 一一 284.事実の系統性
一ー一一一一一ーー一 一 一一一一一一ー一ーーーー一一一一一ーー一 一 29第3節 系譜発見法による事例研究 一ー一一ー一ーーーーーーーーー一ー一一一一一一一ーーー一 29 第4節 事例研究の科学的価値 一一-- -一一一一一一一ー一一一一一一ー一一一ー一一一 32
第5章 発達援助技法の開発 一一一ー一一ー一一ーーーー一一一一一ー一一ーーーー一一"一 33 第1節 発達援助技法の枠組み 一一一一ー一一一ーーーーー一一一 一一一一ー一一ーーーーー 一一 33
1.姿勢 -ーーーーーーーーーー ーーーーーーーー ー ーーーーーーー ーーーーーーーー ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 3
3
2.認知領域と操作としての身体部位 一一一一一一一一ー一一ー一一一ーーー一一一ーー 34 3.教材 一一一一ーーー一一ーーーー一一一一一ー一一一一ーーーーー 一一一一一ー一ー一一 _
-
35 4.自己活動の活性化 一-一一一ーーーーー一一一一ーーー一一一一ーー一一一ー一一ー一一 36 第2節 発達援助技法の手順 一一一一ー一一一一ーー一一一一一一一一ーーー一一一一 37 第6章 研究事例 ー一一一一一一一ー一一ー一一一一一ーー ー 一 一ーーー一一ーーー一一一一一 48 1.事例収集 _ _ _一一一一ーーーーー一一一一一一一世一一ーー一一ー一一一ーーー一一一一一 482.事例選択の基準
48
3.障害内容 ー 『 ーーーーーー ー ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ーー ーーーーーーーー 48 4.研究事例の一覧 一ーーーーーーーーーーーーーー一一一 ーーーーーーーーーー一一ーーーー一ー一一ーーーー 49 5.発達援助技法とそれを適用した事例 一一一一一一一ーーーー一一ー一一一一一一一 50 第7章 発達援助技法による指導前後の比較 一一一一一一ーーー 一一一一ー一一ーーー一一
51
第8章 事象の系譜発見法による事例研究 一ー一一一一ー一一一ー一一ーー一一一一ー一一 56 第1節 事例の記述法 一ー一ー一一ーーーーーー一一ーーーー一一一一一ーーーーー一一一ー一一ー 56 第2節 事例 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ー ーーーーーーーーーーー ー ーーーーーーーーーーーーーーーーー 57事例1 外界との関わりの乏しい重度・重複障害幼児の操作行動の促進 一ー一一 57 事例2 動きの乏しい重度・重複障害幼児の外界刺激の受容と足の操作行動の促進 63 事例3 重度・重複障害幼児の姿勢と身体各部位による操作 一一ーーーーー一一ーー 69 事例4 定頚が困難な重度・重複障害児の姿勢と操作行動 一一一一一一一一__ - 75 事例 5 重度・重複障害児の側臥位の姿勢と手の操作行動の促進 一一ー一一ー_ _
-
80事例6 盲を伴う重度・重複障害幼児の外界刺激の受容と姿勢の調節 事例7 重度・重複障害幼児の机座位の姿勢の形成とその姿勢の維持 事仔1J8 重度・重複障害幼児の操作行動の高次化と机座位の姿勢の形成
4A つ心 ワl oo n3 Qd
事例9 重度・重複障害幼児における口、 手、 自の役割 一ー一一一一一一ーーー一一 103 事例10重度・重複障害幼児の姿勢と操作行動 一一一一ー一一一一一一一- 107 事例11重度・重複障害児の初期学習 ーー一一一一一ーー一一一一一- ー一一一一一ーー一 113 事例12重度・重複障害児の操作面の形成と手の操作 一一一一一ー一ー一一一一一 117 第9章 行動標本の系譜発見法による研究仮説の検証 一ー一一一一一ー 一一一一一-
-
12 5第l節 研究仮説1の検証 1.認知領域と自己活動 2.認知領域と操作活動 第2節 研究仮説2の検証 第3節 研究仮説3の検証 1.対象認知と身体部位 2.対象操作と身体部位 3.姿勢調節と身体部位 第4節 研究仮説4の検証
125 126 131 137 140 146 147 148 148
第10章 重度・重複障害児の行動発達 一ー一一一一一一ーー一一一一一一一ー一一ー ー 150 第11章 発達援助技法の今後の課題 一ーーーーー一一ーーーーー ーー一一ーーーー一一一- - -155 第1節 精神発達遅滞型の重度・重複障害児 一一一一一 一一一一一一一一一一一一
1 55
第2節 肢体不自由型の重度・重複障害児 一一一一一ーーーーー一一一一一ー一一一一一 156 文献 ' ー ー一ー ーーーーーーーーー ー ー ーーーーーー ー ーーーーーーーーーーーーーーーー ー ー ー ーーーーーーーーー ーーーーーーーーーーーーーーーー158
序
筆者が重度・重複障害児の研究を本格的に開始したのは、 1977年に国立特殊教育総合研 究所重複障害教育研究部に就職してからである。 その当時は、 養護学校の義務性をひかえ、
研究所においても重度・重複障害児の教育の内容や方法が検討されていた。 以後、 4年6か 月、 筆者は、 ①低緊張を有する重度・重複障害児の外界刺激と内的状態との相互作用、 ② 課題学習を通してみた重度・重複障害児の移動行動、 ③重度・重複障害児の微笑反応の成 立過程について研究した。
1981年、 熊本大学教育学部に転勤になってからも重度・重複障害児についての研究を継 続した。 ごの研究の中でいくつか重要な事実に出会った。 第1は、 寝たっきりの重度・重複 障害児が重視している感覚は触覚である。 われわれは目と手を使って外界から情報を収集 し外界に働きかけているので、 触覚の重要性に気がつかないで生活しているが、 重度・重 複障害児は触覚を重視し行動を組み立てている。 第2は、 われわれは目で見て手で外界に働 きかけるが、 重度・重複障害児は、 口や足が外界ヘ働きかける重要な身体部位である。 第
3は、 目で見て手で操作する姿勢の始まりは側臥位の姿勢である。 一般的には、 目で見て手 で操作するときは、 机座位の姿勢の姿を考えるが、 その姿は完成された大人の行動であっ て、 初期の段階にある重度・重複障害児は、 償11臥位の姿勢で目で見ながら手で操作する。
第4は、 姿勢に応じて、 外界を理解する身体部位、 外界ヘ働きかける身体部位が変化する。
これらの事実は、 重度・重複障害児と毎日接する中で彼らが筆者に教えてくれたことであ る。 本論文は、 上記の事実に基づ、いて具体的な発達援助技法についてまとめたものである。
障害児の発達や発達援助技法と言えば健常児の発達をモデルにした研究が主流を占めて いたが、 筆者はそのような 方法を採用しなかった。 重度・重複障害児は障害が余りにも重 度であるために、 既成の発達理論や発達援助技法で指導しても十分な成果が得られないと いう事情があったからである。 そのため、 原点に戻って、 その子供達との関わりを通して、
個々の具体的な事実を積み重ね、 重度・重複障害児の発達や発達援助技法を考えていく必 要があった。 また、 研究方法についてもそれに即した方法を考えなければならなかった。
そこで、 本研究は、 系譜発見 法に基づいた事例研究法を導入し、 重度・重複障害児の姿勢 を軸とした発達援助技法を開発し検討していった。 まだ不十分な点も多々あるが、 それは
筆者の今後の課題としていきたい。
最後に、 国立特殊教育総合研究所時代から今日に至るまで未熟な筆者を長年にわたりご 指導してくださった重複障害教育研究所理事長中島昭美先生に深く感謝いたします。 また、
本論文をまとめるにあたって直接ご指導してくださった九州大学教育学部丸野俊一先生を 始め九州大学教育学部教育心理学の諸先生方に深く感謝いたします。
第l章 重度・重複障害児と その定義
重度・重複障害児 は、 養護学校の義務性が施行されたために教育の対象として浮かび上 がってきた。 その ため、 重度・重複障害児 は、 重度であるということは共通していても、
さまざまな種類や程度の障害をもった障害児がその中に含まれることに なった。 さらに、
重度・重複障害児の定義その ものがさまざまな実態を含んだ用語であるために、 その用語 が教育現場に波及すると同時に、 さまざまな捉え方がなされ、 さらに概念、の混乱を来たし た。 一方 、 福祉行政では、 同じ障害児を指して重症心身障害児という用語を使用してい る。
い ず れにしても、 この用語も学問的 な見地からというよりも行政上の用語として使用され てきた経緯がある。 その意味では、 重症心身障害児という用語も重度とは言 えさまざまな 種類や程度の障害児が含まれてい るのが現状である。 このように、 重度・重複障害児と言 っても定義自体が明瞭で ないために、 まず研究に先だって重度・重複障害児の概念、を 明ら かにしておく必要がある。
そこで、 筆者は、 歴史的経過をも踏まえて両用語が使用されるに至った経緯を含めて検 討し、 筆者の研究目的に沿って重度・重複障害児について再度定義していきたい。
第l節 教育 行政用語としての 重度・重複障害児
1979年の養護学校義務性 施行以前は、 障害が重度で重複 していた児童また は生徒は就学 が猶予・免除されていたが、 義務制実施後は障害が重度、 重複で あることをもって就学を 拒否したり 猶予したりでき なくなった。 そのよう な教育 施策を実施するために、 特殊教育 の改善に関する調査研究部会 (部会長故辻村泰男)が発足し、 「重度・重複障害児に対す る学校教育の あり方」という部会の答申がなされた( 特殊教育の改善に関する調査研究部 会答申,1978)。 部会 は、 次の3つの観点から 重度・重複障害児とするという答申をだした。
①障害の状況に於いて2つ以上の障害をもっている者。
②発達の状況において発達が著しく遅れてい ると思われる者。
③行動の状況からみて特に 著しい問題行動があると思われる者。
しかし、 その定義に入りき れないが教育上困難な障害児が教育現場にはいると言う理由 で、 実際の判定に当たっては、 ④発達の状況が相当に遅れ、 同時に行動の状況でかなり問 題行動があると思われる者を加え、 以上の4つをもって「重度・重複障害児Jとすると答申 では述べてい る。
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「重複」ということに関しては、 「学校教育法施行令第22条の2Jで定められた5種類の障 害(盲・聾・肢体不自由・病弱)のうちの2以上の障害をあわせ有するものを重複障害児と 行政上考えてきた経緯があるので 、 その定義を継承している。
次に、 教育的観点から重度・重複障害児を定義した。部会では、 教育的観点からは障害が 重度になれば当然重複化し両者は相互に絡み合って教育的に重度になるので、 重度・重複 障害児と考えるという立場をとった(辻村,1978)。教育的重度については、 発達的な側面 と行動的側面との2つの側面から考えられた。発達的側面からは、 「精神発達の遅れが著し く、 ほとんど言語を持たず、 自他の意志の交換及び環境への適応が著しく困難であって、
日常生活において常時介護を必要とする程度」の者を重度とする。発達側面から重度とい うのは、 文部省初等中等教育局長通達「教育上特別な取扱いを要する児童・生徒の教育措 置について(局長通達.1978) Jのいう重度の精神薄弱のことである。その通達によ れば、
「重度の精神薄弱とは、 ほとんど言語を解さず、 自他の意思、の交換及び環境への適応が著 しく困難であって、 日常生活において常時介護を必要とする程度のもの(知能指数(IQ) による分類を参考とす れば25ないし20以下のもの)Jである。行動的側面からは、 「破壊 的行動 、 他動傾向、 異常な習慣、 自傷行為、 その他の問題行動が著しく、 常時介護を必要 とする程度」の者を重度と考えた(辻村.1978)。
第2節 児童福祉用語としての重症心身障害児
1948年に児童福祉法が制定され児童福祉対策が本格的に実施されたが、 法の谷間にいた 重症心身障害児はその恩恵、をうけることはできなかった。しかし、 重症心身障害施設の処 遇の問題が社会的な問題となって、 1963年、 厚生省は次官通達によって重症心身障害児に 対する考え方を示した。さらに、 1968年、 厚生省の次官通達で重症心身障害児の新しい定 義が示された。すなわち 、 通達には、 「身体的、 精神的障害が重複し、 かつそれぞれの障 害が重度である児童および満18歳以上の者(以下「重症心身障害児(者) Jという。)に ついては、 …」と記されている。
1966年、 文部省総合研究班「重症心身障害児の系統的研究」は、 次のように重症心身障 害児を定義した(Table 1)。
それによ れば、 「身体的精神的障害が重複し、 かつ夫々重度である者」、 「その知能障
害の程度は白痴及至痴愚に相当し、 身体障害は高度でほとんど有用の動作をなし得ず、キ目 まって家庭内寮育が困難な事はもとより、 精薄児施設においても集団生活指導の不可能の
円ノlM
者である」とされている。
Table
1 知能障害・身体障害からみた重症心身障害児の区分(DQ)
|刷上| 日 | 一 | 50寸 お
A正常B劣等教育可営訓練可能要保護C軽 D痴fSl
E白痴l 2 3 4 5
。
日常生活が不自由山もでき
l
るもの
6 7 8 9 10
E
制約占ぐ。されながらも有用な運動が11 l2 13
で るものE
ている の用な運も動がきわめて制限され1fi 17 18 19
W
何な有用な運動ができなL、もの21 22 23 24
この報告書には、 重症心身障害児とは、 上表の25、 24、 20に相当する者である が、 なお、
区分15に属する者 でも、 重篤な行動異常並びに視覚障害を有 する者もそれに含めている。
この定義の特徴は、 身体障害の程度を生活動作という視点から規定していること である。
江草(1982)によれば、 「重症心身障害児とは、 重度ないし最重度の精神遅滞を基本とし て、 これに重度の身体障害、 重度の感覚障害を加味するものであるJ
u
1967年、 児童福祉法の一部改正で「重症心身障害児施設は、 重度の精神薄弱および重度 の肢体不自由が重複している児童を入所させて、 これを保護するとともに、 治療および日 常生活の指導をすることを目的とする施設とするjという第43条の4が追加され、 ここでよ うやく重症心身障害児施設は、 法の定める児童福祉施設となった。 この法改訂では、 重度 精神薄弱と重度肢体不自由の重複障害にだけに限られることになった。
次に、 重度の定義であるが、 重度の規定は、 ①精神薄弱では「重度精神薄弱児収容棟の 設備及び運営の基準について(局長通達.1964)J、 ②肢体不自由では「肢体不自由児施設 重度棟制度の重度の基準(事務次官通達,1964)Jにある。
重度精神薄弱児収容棟の制度で 定められた重度:
知能 指数がおおむね35以下であって、 次 のいずれかに該当する者である。
1.食事、 着脱衣、 排池及び洗面等日常生活の介助を必要とし、 社会生活への適応が著しく 困難であるごと。
2.頻発な、 てんかん様発作、 または失禁、 異食、 興奮、 寡動その他の問題行為を有し、 監 護を必要とするものであること。
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3.盲(強度の弱視を含む)もしくはろうあ(強度の難聴を含む)または肢体不自由を有す る児童であって、 知能指数がおおむね50以下の精神薄弱児。
肢体不自由児施設重度棟制度で定められた重度:
1.各種舗装具を用いるも、 身体の移動が困難な者。
2.肢体の機能障害が重度であって、 食事、 洗面、 排池及び衣服の着脱等の日常生活動作の 大部分に介助を必要とする者。
上記の重度の障害の重複が重症心身障害児であると言える。
第3節 重度・重複障害児の定義の検討とその行動特性
重度・重複障害児、 重症心身障害児、 いず、れの定義を用いても、 さまざまな種類の障害 や程度のものを含んでいる。 また、 教育的見地から見れば、 必ずしも重度であると言えな い重度・重複障害児も含ま れている。 そごで、 教育上困難な重度・重複障害児を研究する という本研究の目的に沿って重度・重複障害児の定義について検討する。
1.重度・重複障害児の定義の検討
本研究も「重度・重複障害児の学校教育のあり方」で定義された定義を基本的には継承 するにしても、 その定義自体が広範囲の障害児を対象としているために、 研究対象を明確 にするためにはある程度限定せざるを得ない。
盲聾児に関しては、 1953年に梅津八三(当時東京大学教授)を中心とした盲聾児教育研 究会が山梨盲学校に結成された。 それ以来、 約10数年にわたって文部省の実験学校として 盲聾児の教育実践研究が山梨盲学校で実施された(文部省,1970;文部省初等中等教育局特 殊教育課,1970)。 ごれらの研究に基づいて全国各地の盲学校で盲聾児の教育に関しての教 育実践を積み重ね られている。 その意味では、 同じ重度・重複障害児と言わ れでも盲聾児 に対しては教育内容や方法がすでに確立していると言える。 しかし、 1979年の養護学校に 義務性が施行されて以来、 問題となっている寝たっき りの重度・重複障害児については研 究者の立場から体系的な研究が実施されていないのが現状である。 その理由は、 障害が重 度になればなるほど、 教育の可能性は狭ま り研究条件も一段と厳しくなってきて教育実践 的な研究を着実に積み重ねていくことが困難になるからである。 困難であるからこそ逆に、
重度・重複障害児でもさらに障害の重い障害児に対する研究が必要になっていると言える。
そのような障害児は、 重度の精神発達遅滞と重度の肢体不自由の重複した重症心身障害児 である。 それは、 文部省総合研究班「重症心身障害児の系統的な研究」の中で示された重
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症心身障害児の定義から盲襲、 行動異常を除いた部分である。 この研究報告が発表された 1966年当時、 重度・重複障害児という用語が存在せず、 重症心身障害児という用語で報告 がなされている。 その後、 「重度・重複障害児の学校教育のあり方」の答申(1978年)で 公に重度・重複障害児という用語が使用された。 それ以来、 教育現場において重度・重複 障害児という用語が浸透し、 その用語が一般的に使用されている。 したが って、 筆者は重 度・重複障害児という用語を使用するが、 それは、 重度の精神発達遅滞と重度の肢体不自
由の重複した障害児を指すことになる。
2.重度・重複障害児の行動特性
上記の定義 にそ って重度・重複障害児の行動特性を挙げてみれば、 次のようになる。
(1 )言語による交信はもとより、 簡単な身振りなどを使った他者との意思の交換も困難であ る。
(2)視力、 聴力など感覚器官に障害がなくても、 感覚を使って外界を認知し、 外界ヘ働きか けていく能力が著しく乏しい。
(3)座位は可能なものもいるが、 ほとんどは寝たっきりで、 自分で移動するなど有用な運動 は極めて少ない。
(4)食事、 排濯、 衣服の着脱は全面介助で日常生活においては常時介護を必要とする。
上記の行動特性は、 ①対人関係、 ②対物関係、 ③姿勢・運動、 ④生活能力の四つの側面 からみたものを列挙した。 しかし、 これらの前3項目は、 いずれも外界との関わりと関連し た行動であると言える。
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第2章 問題の分析
研究者や教育実践者などは、 重度・重複障害児に対して無表情で無反応で無関心である という印象を受ける。 しかし、 どんな に外界との関わりの乏しい重度・重複障害児と言え ども、 その子なりに外界の事物に関する情報を収集、 処理し外界への関わりを持っている。
指導者の関わりに対して重度・重複障害児が応じないのは、 指導者がその子がどのような 感覚器官を使ってどのように外界を認知しどのような身体部位を使って外界ヘ関わってい るかという基本的な問題を理解していないからである。 われわれ成人は目で見て 手で操作 するというように外界への関わりは目や手を中心に展開すると常識的に考えている。 しか し、 重度・重複障害児は、 自や手よりも口や足で外界からの情報を取り入れ口や足で外界 に働きかけていく。 それを理解しないで、 どうにかしなければならないという義務感だけ にかられて重度・重複障害児と接触しても余りにも障害が重度である ために十分な教育的 な成果はあげられない。 そのときは、 基本 に戻って彼らが外界とどのような交渉を行って いるのかを理解し、 その上で彼らと関わっていく必要がある。 そのためには、 彼らの有し ている問題をまず分析しそれに対応した関わりが必要となる。
第l節 外界の認知
認知とは、 「…生体が自らの生得的または経験的に獲得している既存の情報にもとづい て、 外界の事物に関する情報を選択的にとり入れ、
…略…新しい情報を生体内に 生成 ・蓄
積したり、 外部へ伝達したり、 あるいはこのような情報を用いて 適切な行為選択を行った り適切な技能を行使するための生体の能動的な情報収集・処理活動を総称していうことば」である(佐伯.1981)。 この定義は、 生得的または経験的に獲得している既存の情報によっ て外界の取り入れや情報の収集し処理するレベルに違いがあることを示している。 重度・
重複障害児に限らず、 障害児を対象とした研究では、 形や文字が理解できないのを障害の せいにする傾向がある。 精神発達遅滞が第一次的に存在してもそれが形や文字を理解でき ないことを説明する理由とはならない。 そこには外界の情報を取り入れ処理する認知レベ ルでの問題があるからである。
中島(1977)によれば、 「生理学的医学的には取り立てていうほどの感覚の障害が ない にもかかわらず、 その人自身が感覚を全く使おうとしなかったり、 あるいは使ってもその 使い方がごく初期の状態にとどまってJいるものがいる。 これは障害 によって障害児の行
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動を説明しようとするのではなく、 外界の情報を如何に収集し処理するかという認知レベ ルの問題として障害児 の行動を捉えようとしていると言える。中島(1980)は、 外界の刺 激の情報を収集、 処理する認知レベルの違いを生理学的感覚とヒトとしての感覚という2つ に分類した。中島(1977)は、 どんな 障害児でも外界の情報を収集、 処理し、 それを運動 として表現し外界に関わるという考えた。彼は、 この前者を感覚、 後者を運動と称してい る。彼はさらに、 単に視力があるいうのは生理学的な 感覚で、 その生理学的な感覚を活用 して外界を十分うまく取り入れ、 それを活用してその人の行動を組み立てていくのがヒト として の感覚であると考えた。彼がこのような分類を行った背景には、 関根手術者や盲聾 児(者)と の関わ りを通して得た経験があると考えられる(中島,1977)。
視知覚の側面からこの問題について問題を提起したのが、 モリヌークス(1879)である。
Locke (1879)がその著書「人間理解に関する覚え書き」の中で、Molyneuxの手紙を,紹介した のが始まりである。 この問題はモリヌークスの問題(Molyneux's question)として知られ 今日に至っている。モリヌークス の問題とは、 先天盲(と りわけ生来盲)で開眼手術を受 けた人は、 それまで手や指先で触って区別していた “立方体と球体" を、 討す後、 眼で見た だけで2つの物体を区別できるであろうかという問題である。この モリヌークスの問題以来、
開眼手術者を対象にして視覚機能の形成過程について研究が積み重ねられている(Morgan,
1977;Senden, 1932;鳥居,1977a,b,1983)。 この問題について最初に実際の事例に即して体 系的に整理したのは、 Senden(1932)である。彼は、 残存知覚の程度として、 ①明暗、 ② 明暗と色彩、 ③明暗と色彩と形態、の3種類 を区別し、 その程度に応じて術後の視覚機能も開 発されるとした。
鳥居(1977a,b)によれば、 開眼手術後の視覚機能の獲得過程は次のような 経過を辿る。
手術直後は、 それまでと比べて多量の光を受容することになるので、 術後の最初の課題は 目の怯惑するような光に慣れることである。術後しばらくは、 眼球は不随意で不規則な動 きを伴っているので、 意図的に眼球の動きを制御するのは困難である。初期の段階では、
眼球の動きを制御して注視や追視の機能を開発することが次の課題になる。最初はものの 動きに、 次に特定の色(特定の色彩をもったものがひとつのまとまりとなって特定の色が 際だってくる)に選択的に眼を向けようとするが、 事物などの形態、弁別はまだ困難である。
色彩視が成立した後、 簡単な 2次元図形の弁別へと進むが、 そこに至るまでに、 2次元面で の図形 のひろがりとその延長方向の把握が可能になる段階がある。2次元 の「方向」が識別 できるようになると、 簡単な2次元図形の「形態的特徴Jを把握して、 まず2種の図形の
一
7
_'「形」の弁別が可能となり、 次い で数種の図形の形を個々に見分け識別することも困難で なくなる。 始めのうちは、 図形領域と他の領域との境界(縁)を少しず、つ見ていき、 それ が変化する箇所(角や隅など)をあたかも触運動的に辿ると きのように探索して形を弁別、
識別する継時的な把握方式がとられる。 そのような継時的な探索は最初は頭部や図形を貼 った台紙を動かすことによ って行われるが、 漸次眼球の動 きがそれを代行するようになる。
したがって、 図形の特徴的な構成成分を継時的に捉える段階を経て、 図形全体を同時に把 握し、 ひと目で即座に識別し得るようになる過程が開眼手術後の図形知覚の学習の根底を なしている。
開眼者(開眼手術をうけた人)の例は、 生理的な障害が回復しても即座に視知覚機構が
正常化しない、 その正常化のためには、 系統的に順序を追 って視知覚機能を獲得する学習 を積み重ねていく必要があるということを示している。 開眼手術者の例をさらに一般化す れば、 目が見えても直ちに外界の情報を収集することはできず、 外界の情報を収集し認知 するためには学習を積み重ね視知覚機能を獲得していく必要があるということになる。 こ れは、 なにも関限手術者だけの問題ではなく、 重度・重複障害児の視知覚を含めた認知機 能全般の問題である。 行動としては、 単に見えるだけの状況から、 探索する、 見つける、
追従する、 見比べ、 もとに戻り確かめるというヒトとしての視知覚の獲得を促す学習を経 て始めて対象をきちんと見ることができるようになる(中島,1977)。 聴覚においても状況 は同様である。 単に聞こえるという生理学的な感覚から能動的に聴取できるというヒトと しての聴覚ヘ経路がある。 寺西(1982)は、 「旋律や言葉は聞く人が聞き取ろうとして頭 の中で音の系列を追うことによりはじめて聞 き取れる」と考え、 これを能動聴取と呼んだ。
この能動聴取というのは、 聴力が正常であっても時間的に系列音をたどっていく動作を学 習できなければ、 それが音楽や音声として認知されないという考え方である。 寺西(1982) によれば、 「視覚図形のもつ情報は刺激点の空間配列の中に存在しているので、 これを知 るためには空間的にたどるという動作が必要である。 しかし、 言語や音楽などの情報は系 列構成音の時間的配列の中に存在し、 これを得るためには時間的に系列をたどる動作が必 要となる」。 このよう に、 音楽や音声の認知は、 たどる動作、 能動聴取が基礎となってい
ると言える。
いずれにしても、 「どの感覚系に拠るにしても、 人間が外界の事物や環境の情報を知覚
し、 認知する活動とは、 基本的には能動的な情報探索・収集活動であ」る(鳥居, 1987)。
鳥居(1987)は、 「有効適切な情報の、 能動的な探索・抽出・操作活動が円滑に進行して
一 8
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ゆく過程のうちには、 いかなる場合にも眼や頭部の、 または手や指先や足などの、 あるい はまた口唇や舌などの身体の各器官による十分統御された運動の成分がそこに必ず伴って いるJという認知活動の特質を論じている。 外界を認知するために、 単に目や手の運動だ けでなく、 足、 口唇、 舌などの身体部位を使用するという見解は、 後述するように、 重度
・重複障害児の認知を検討するときにも重要なものとなる。 原初的な段階に留まっている 認知機能を高めるためには、 一定の順序にしたがって学習を積み重ねる必要がある。 した がって、 重度・重複障害児との係わりの究極の目標は、 「原初的・初期的な段階にとどま っている状況を克服して、 自律的・能動的な情報操作活動を営み得るような高次の行動体 制の確立を図る」ことになる(鳥居,1987)。
われわれの身体部位の役割は、 目で見、 耳で聞き、 鼻で臭いをかぎ、 舌で味わい、 口で 食べ、 手で持ち、 足で歩くというように決まっている。 しかし、 重度・重複障害児は、 音 を聞くのに耳で聞かないで頬や唇を音源に押しつけたり、 物の性質を知るのに物を口に持 ってきてなめまわしたりというように、 対象を認識するときに担う身体部位の役割は、 わ れわれのとは違っている。 最近、 重度・重複障害児の身体部位と認知機能について地道な 事例研究が報告されている(遠藤,1992;小林.1984;�ヒ島,1986 :進,1984 ,1989c,1992a.b;柴 田.1990.1991)。 これらの研究によれば、 重度・重複障害児には、 外界の事物に関する情 報を能動的に収集する認知領域が存在すると言える。
認知領域とは、 重度・重複障害児の行動の水準に適した最も適切で有効な外界の情報を 収集する窓口としての身体部位のことである。 重度・重複障害児でも初期の発達段階にあ
るものは、 手や目よりもむしろ足や口を優位に使って能動的に外界を探索し有効な情報を 収集し外界へ関わっている(中島,1983,1988;柴田,1990,進,1985a,c,1986,1987)。 口には、
また唇、 歯、 舌という3つの認知領域が存在する。 中島(1988)によれば、 「唇は突き出す ことが可能であり、 柔らかく、 すべすべした風船や人の肌のような表面の触刺激の受容に 適している。 それに対し歯は、 かむことを含めて、 固く冷たく形のあるものの振動を含め た触刺激の受容に適している。 舌は、 粗滑、 冷温、 柔軟などの皮膚感覚とともに、 その先 を細かく突き出すことによって、 輪郭線や位置、 形の弁別を含んだ触刺激の受容を可能に している。 」足は折曲げて外界の事物を引き寄せ、 手のように触るように足でもって外界 の事物を触る(進,1993b, c)。
口や足という認知領域も姿勢が背臥位から傾IJ臥位へと変化すれば、 その認知領域が 変化 する。 例えば、 進(1991. 1993b)の事例では、 背臥位の姿勢のときは口や足を使って外界
n可U
の刺激を受容し外界の事物に関わっていたが、 背臥位から側臥位に変化すると、 前方の玩 具を見て手を伸ばし操作するという行動が出現した。この事例は、 背臥位のときは足や口 が優位な認知領域であったが、 姿勢が背臥位から側臥位へと変化すると、 優位な認知領域 が目や手へと移行していった例である。また、 進(1988)は机にうつ伏せているときは口 を使って机上をなめていたが、 垂直に上体を起こせば目で見て手で教材を 操作する行動が 出現した事例を報告している。さらに、 上体を垂直に起こし手が自由になれば、 目と手を 使って外界を 認知し外界に関わりるようになる事例も報告されている(遠藤,1990b,進・奥 田,1991.柴田,1985, 1989c, 1990)。
上記のように、 重度・重複障害児は姿勢が背臥位、 側臥位、 前起こし、 座位という姿勢 が変化するにつれ、 外界を探索し外界の情報を収集する優位な認知領域が、 いわゆる優位 に機能する身体部位が変化すると言える。 前起こしとは、 うつ伏せの姿勢から肘あるいは 手のひらを床または机上について上体を起こす姿勢のことである。
第2節 外界への関わり
外界は自己の身体外の世界のことであると一般的には定義できるが、 しかし、 重度・重 複障害児の行動を例にとれば、 自分自身の体を触るなど、 自己の身体も外界として関わる。
そこで、 外界としての自己の身体への関わりと実際の外界への関わりについて検討する。
1.外界としての自己の身体への関わり
重度・重複障害児が最初に関わる外界としては、 自己の身体がある。自己の身体への関 わりについては、 Piaget(1948)も、 「知能の誕生」の中で述べている。Piaget(1948) は、 感覚運動期には3つの循環反応があり、 その最初の循環反応が第l次循環反応と呼び、
そ れが自己の身体へ関わりである。その循環反応は、 「興味をひく新しい結果を持続させ たり、 反復させようとする機能行使Jで、 「子どもの探求行動そのもののなかで発見され、
あるいは創出された反応」であると言う。
自己の身体への関わりを自己像との関係で考えたのが、 高松(1983)である。彼は、 外 界の環境吟味と自己の 確 認の2つの方向で、乳児の環境への探索を考えた。最初の環境探索器
は、 系統発生的に見ても個体発生的に見ても口で、 手が偶然に顔に届き口と接触し手が口 によって吟味される。生後3か月、 正中線上で両手が相互に接触して確かめ合う。手が視野 に入れば、 目と手と口との情報がマッチングし、 手は吟味されるものから吟味するものへ と、 その役割を 変化させていく。生後6か月、 手は、 体表面を触り、 吟味しながら次第に下
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降し、 遂に足先にいたる。乳児は、 足をつかんで引き寄せ、 両手で触り、 目で眺め、 口で なめる。この自己の身体への探索行動を通して原始的な自己像が形成される。それと同時 に、 この時期は、 外界探索機能も活発で、 乳児は、 目でっかみ(注視)、 手でっかんで引 き寄せ、 持ち換えて吟味し、 口に入れてさらに吟味を重ねる。環境の物質の形状、 重さ、
肌ざわり、 色調、 味などを、 すべての探索器官を総動員して吟味する。高松(1983)の考 えは、 口による外界の探索から目や手による外界の探索へと身体部位の役割が変化し、 そ の活動を通して最も原始的な自己像が形成されるというものである。その経過の中で手で 自分の体の表面を触る という自己の身体への関わりについて述べているD さらに、 高松 (1983)は、 口による吟味、 手による吟味も障害児の学習過程の中に導入する必要がある という見解も披露している。
重度・重複障害児が自己の身体への関わる行動を見れば、 触覚系では、 手で手を触る、
指をなめる、 視覚系 では、 手を前にかざして手の動きを見る、 聴覚系では、 呼吸器官の運 動を通して呼吸音を聞くなどの行動がある。この一次的な循環反応は、 子供自身が意図し
たときはいつでも自己の身体を対象に自ら積極的に関わることができるという特徴がある。
自己の身体への関わりには、 長短2つの要素がある。利点は、 自己の関わりの結果発生する 刺激の変化を、 自己の感覚器を通して直接受容しフィードバックし、 自己の行動を調節で きるということである。欠点は、 身体という対象自体の刺激の持っている特性である。身 体は、 触るなどの関わりができるけれどもそれを操作対象として操作することができない。
そのために、 その行動は、 常同行動として固定化しやすい。その固定化を防ぐためには、
身体への関わりを重視しながらも一方では実際の外界ヘ関わっていく学習が必要となる。
2.自己の身体の一部を道具化した外界への関わり
自己の身体が外界へ関わる核としての役割を担うようになれば、 それを基準に実際の外 界への関わりが開始されることになる。外界への関わりは、 身体の部位全体で関わるので はなく、 外界へ関わる身体部位とその関わりを支える身体部位とに役割が分化する。前者 を道具としての身体部位と呼び、 後者は姿勢としての身体部位と呼ぶことにする。これら の身体部位の役割は固定したものではなく、 外界との関わり方で変化する。椅子座位(注1) で足で操作するときは、 腰や背中でバランスをとって足で操作することになる。 そのとき 腰や背中が足の動きを支える姿勢としての身体部位となる。しかし、 同じ椅子座位で手で 操作するときは、 背中や腰はもちろんのこと、 足も姿勢を支える身体部位として働きをす ることになる。そこでは、 足は床に踏みつけ るごとによって上体を支えるという姿勢を支
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える重要な役割を担うことになる。 その意味では、 子供の姿勢の変化、 道具としての身体 部位を支える姿勢の変化を見れば、 どのように外界と関わっているかが推測できる。
姿勢は運動発達の視点か ら発達の)1贋序も含めて詳しく研究されている(Gesell, Tompson
and Amatruda, 1934)が、 外界との関わりの姿勢としての研究では背臥位や座位での手の 操作の研究が主流を占めている(Gese11,Tompson and Amatruda, 1934;Ha1verson, 1931;
Uzgiris,1967)。 しかし、 背臥位や座位の姿勢の以外でも側臥位の姿勢で外界との関わり を積極的に行う健常乳児や重度・重複障害児の報告がある(進,1991,1993b,1993c,1994b)。
さらに、 外界との関わりが変化すれば、 机上にうつ伏せになっていた重度・重複障害児が 上体を起こす座位をとることが可能になったという事例報告もある(進.1990,1993d,1993
h.
1994a)。 これらの研究を参考にして、 外界との関わりで姿勢を分類すれば、 背臥位、 側 臥位、 前起こし、 座位という4つの姿勢になる。 これらの4つの姿勢には、 発達の順序があ る。 背臥位、 側臥位、 前起こし、 座位というように、 発達の順序を追っている。 姿勢が変 化すれば、 それを支える身体部位の役割も変化するので、 道具としての身体部位もそれに つれ変化する。 背臥位のときは、 背中や手が足の操作を支える姿勢になる。 また、 座位で は足、 腰、 背中などが手の操作を支える姿勢になる。 次に、 身体の各部位の機能の統合化 について考えれば、 背臥位、 側臥位、 前起こし、 座位というように、 姿勢やそれに伴う外 界への関わりが変化すれば、 それぞれの身体部位の機能も一層統合されると言える。上記の視点に立って、 重度・重複障害児の身体部位と外界への関わり、 次に、 健常乳幼 児の身体部位と外界への関わりについて文献に即して論じることにする。
1)重度・重複障害児の身体部位と外界への関わり
重度・重複障害児の行動を見れば、 頭、 頬、 口(歯、 舌、 口唇)、 顎、 背中、 肩、 足な ど、 さまざまな身体部位を使って外界と関わりを持っている(中島,1983 ;柴田,1990;進,1 989b,1992a,b.c,1993a,b)。 中でも足や口は、 外界の刺激を受容する身体部位、 外界へ関 わる身体部位という2つの機能を備えているので、 比較的活発に外界に関わる身体部位とな
っている。 舌や足はその外界の対象物に沿って動かすことのできる器官である。 対象を再 現するかのように手や目を動かすことがその対象の認知にとって重要な条件である(結城,
1952)と言われているが、 それに類似した運動を再現できるのは、 初期の段階では舌や足 である(進,1992a,1989a)。 その意味では、 身体部位の器官の特性、 どういう運動が可能 かという特性が外界の対象を十分に認知しその外界の対象に関わる条件となると言える。
実際に、 背臥位の姿勢では、 足や口を使った教材が重度・重複障害児の行動を活性化する
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のに有効であるという実践研究がある(柴田.1990 ;進,1992a.1989a)。
しかし、 姿勢も背臥位から側臥位へと変化すればまた新たな身体部位の役割が出現する。
側臥位の姿勢は、 運動発達の上でも、 外界への関わりの上でも姿勢として問題にされるこ とのなかった姿勢である。 しかし、 手で外界ヘ関わる行動が乏しい重度・重複障害児でも 側臥位の姿勢であれば前方に提示された教材に手を伸ばし操作する(進.1991.1993c)。 座 位の姿勢では、 足と腰、 背中で操作を支える姿勢を作り、 手で操作することになる。 重度
・重複障害児の中には、 座位の姿勢で、 手で上体を支え抗重力姿勢を維持するために手を 使用し操作するためには手を使用できない ものもいるが、 そのような子供でも側臥位の姿 勢になれば床面がその姿勢支え手が自由になり手で教材を操作できる(進,1991)。
前起こしは、 机上で前方の教材を操作するために上体を起こす場合に出現する行動であ る。 口で操作するために上体を起こすという実践研究がある(進,1990,1993h,1994a)。 そ の研究では、 操作するための道具としての口を使用するために、 それを支える姿勢が変化 するということが報告されている。 道具としての口を支える身体部位は手、 腰、 足である。
口で教材を操作するときは、 手を机上の表面につき手を机に押しつけて上体を起こすこと になるので、 手も姿勢を支える身体部位になる。
外界との関わりの最後の姿勢は、 座位である口 座位では、 足、 腰、 背中でバランスをと って抗重力姿勢を維持し手で外界としての教材を操作する。 ここで、 手が本来の役割を獲 得し手で操作を行うことになる(進.1992c)。 さらに、 手の操作に目が加わることによっ て、 手が自の動きを調節する段階を経て目が手の動き を調節する段階へ目や手の役割が変 化していく(遠藤,1988,1990a,b;進.1993c;進・奥田,1991)。
4つの姿勢以外にも立位の姿勢での外界との関わりもあるが、 それは座位での延長線上で 考えることができる。 立位の姿勢も足、 腰、 背中などの身体部位で道具としての手を支え 外界に関わることになる。 また、 移動行動を伴った外界との関わりも想定できるが、 本研 究の範囲外となるので、 省略する。
上記の研究を参考にして姿勢と外界と関わる身体部位との関係について考えれば、 次の
通りになる。 ①姿勢が背臥位、 側臥位、 前起こし、 座位と高次化すれば、 外界に関わる道 具としての身体部位、 それを支える姿勢が姿勢の変化と共に変われば、 それに伴って身体 部位の役割も変化する。 ②身体部位の役割の変化と共に、 それぞれの身体部位の機能的な 統合も変化する。 背臥位では口や足は他の身体部位とは比較的独立して外界に関わるが、
座位では足、 腰、 背中、 頭が機能的に連携して座位を維持し手で外界に関わるというよう
円《U唱Eム
に、 姿勢の高次化に伴ってそれぞれの身体部位の機能も統合される。
2) 健常乳幼児の身体部位と外界への関わり
重度・重複障害児だけでなく健常乳幼児の研究も参考にすれば、 なお一層重度・重複障 害児の研究を深めることができると考えるので、 乳幼児研究についても検討していく。
乳幼児の身体部位と外界への関わりについては、 最近になって口についての研究も見ら れだしたけれども目と手に関する研究が圧倒的な数を占めている(Streri,1993)。 ここで
は、 目と手に関してはPiaget(1952)などの研究について、 口と目と手に関してはStern (1927)などの研究について検討する。
(1)目と手
Piaget (1952)は、 「知能の誕生」の中で、 目と手について5つの段階を考えそれぞれの
段階の特徴について記述している。 Warren(1952)によれば、 次の通りである。 年齢、 段 階の細部は省略し、 段階ごとの主要な特徴について以下に述べる。
第l段階 反射的な把握を含め瞬発的な運動が起こる。
第2段階 手の運動に関する循環反応が起ごる。
手を外界に関わりる道具としては使用しないが、 開発刺激があれば把握運動 の反復活動が出現する。 視覚や吸畷運動など他のシェマとの関係は存在しな
む\。
第3段階 手の運動が出現すると視線をその方向に向けるようになる。
視覚が手の運動を制御していないが、 視覚が手の運動に参加するようになる。
手はつかむために対象を取って見るなど2つのシェマの協調は出現 しない。
しかし、 対象を口に持ってい くために手でっかむという2つのシェマの協調 が出現する。 手が視野内に留まるようになれば、 視覚が手の運動を制御する ようになる。
第4段階 視覚が手の運動を制御するようになる。
見ている対象を手でっかもうとするとき、 手が視野内にあるか、 視野外にあ
るかによって、 対象への手の到達行動に差異が生じる。 手が視野内にあれば 固と手の協応が出現する。 Warren(1952)によれば、 これらの行動は、 3'"'-'4 か月の乳児の典型的な特徴である。
第5段階 対象が視野内にあれば、 手が視野外であっても、 乳児は手を視野外から持つ てきて対象をつかむ。 手の位置とは関係なく視覚対象が手の到達行動を出現
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させる。
Piaget (1952)の目と手の発達に対する見解の特徴は、 次の通りである。
①最初 は個々のシェマが単独に存在し発達と共 にそれぞれのシェマが協調していく。 最初 手は手だけの活動 として現れるが、 その手の運動 が視覚に統合されていく経過をとる。
Piaget (1952)自身は、 姿勢との関係を考慮に入れてないけれども、 発達に伴って手と自 のシェマが協調されていくという考えは、 姿勢が高次化すればそれぞれの身体部位が統合 されていくという見解と共通するものがある。
②手が機能的に視覚と協調するまでは、 手は乳児にとって興味のある触覚的な情報を得る ためのものである。 この考えは、 口の触覚を通して外界を認知するという筆者の見解と一
致する。
White (1971)とWhite,Castle and Held (1964)は、 落ちついた背臥位の姿勢の乳児の
目と手の行動を観察した。 対象への視覚的な 注意は視覚と手の協調より先に出現する、 視 覚が手の運動を誘導する以前に、 手への視覚的注意、が出現し手が興味ある視覚刺激となる というPiaget(1952)の観察と同じ事実を確認した。 しかし、 検査対象が近づくとき手の 予測的な聞き(anticipatory opening)の行動 が出現するという新たな事実も観察した。
いずれにしても、 発達経過の中で視覚が手の運動を漸進的に制御するようになるという彼 らの見解はPiaget(1952)と共通している。
(2)口と目と手
口と手と自の3者の関係を論じた研究は、 古くはStern (1927)、 最近ではUzgiris (196 7)の研究がある。
Stern (1927)は、 発達的な見地から乳児の行動を調節する空間を想定し、 その空間の担
い手として口、 手、 自の3つの身体部位を考えた。 また、 乳児は、 これらの器官の運動を通 して実際の外界 との関わり、 自己の中に空間を取り入れ、 それを行動を調節ための基準と すると考えた。
彼は空間を自己空間と外部空間 とに分類した。 自己空間は自己の身体に関する空間関係
である。 外部空間は、 さらに、 原空間、 近空間、 遠空間の3種の空間に分かれる。 それぞれ の空間の担い手は、 口、 手、 自である。 原空間は口を中心と した空間である。 その意味で は、 最初の空間の理解は口である。 生後2、 3週間後には口は把握器官になる。 口には確実 で精密な触覚があり、 口の触覚が他の器官(手と目)の不鮮明な感覚を確実なものにする。
すなわち、 口が他の器官の調整器官の役割を担うことになる。 手を口に持っていきその手
Fhd 'oi
の指をなめるごとによって接触知覚が原空間につくられる。近空間は、 体軸を中心とした
空間(Raum)
自己空間(Eigenraum)
「
原空間(刊Urraum) 外部空間(Auß
enaum町m川n心1)-<
近空間(仰NaraumπmL
遠空間(σFe訂rn町ra剖um川)
Fig.1 空間の分類(Stern, 1927)口(Mund) 手(Hand) 自(Auge)
半径3分の1メートルまで広がる前方の半円球の世界である。乳児は、 自分の手をかざし、
指を開く、 閉じる、 指と指の間隔を開く、 閉じるなど自分の手を動かす、 その手の動きを 通して多彩な 視覚的な印象を体験する。近空間には手以外の対象物が存在しないので、 乳 児は自分の手の動きを通して最初の視覚的な形態を理解することになる。次に、 2つの段階
を経てから手自らが道具(Wergzeug)となる。第1段階は、 接触した事物への把握運動で、あ る。第2段階は、 接触 していない事物への手の到達行動である。事物に目標を定め直接その 事物に手を伸ばす到達行動は、 3か月で可能となる。近空間内で手を伸ばすとき、 最初は身 体を緊張させたり 口を開いて直接口で触れる行動が出現する。このような手の到達行動を 通して近空間が形成される。 生後6か月で遠空間の形成が始まる。6か月の乳児は、 事物を 見るだけでなく、 手で取ってつかむことのできる距離が分かる。近(=把握内)と遠(=
把握外)との分化、 すなわち原始的な奥行き感ができる。6か月以前は、 口が手や自の原 調 整器官(Ur-Kontoro11organ)であったが、
6か月以後は、 手が自の調整器官となる。
上記のように、 Stern(1927)は、 口、 手、 自の身体部位を通して乳児が外界への関わか わる姿を描いている。しかし、 重度・重複障害児も手を使用する以前には、 口を使って、
あるいは手を口に持っていくなどの行動を示すことを考えれば、 健常乳児と共通した特性 を持ち併せていると言える。
U zg irs (19 67)は、 1か月から23か月までの乳幼児の事物への関わりを観察した。彼女は、
乳児の行動を、 ①保持(holding)、 ②口でなめること(mouthing)、 ③視覚的検証(vis
ual inspection)、 ④精査(examing)の4つに範隠化し、 次のような 行動を観察した。
①保持:初期の把握反射が消失すれば手の中の対象は落とすけれども、 生後1か月自にはい くつかの対象を保持できる。この保持が口でなめること、 見ることなどのシェマと把握す
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るシェマとの協調の前提になる。②なめること:物を見てなめようとして口を開閉した後 に、 対象を口に持っていけば 手と口の協調が起こる。この予測的な口の開閉については、
数名の研究者が指摘している(Bruner.1969;Stern.1927;White,1971)。 重度・重複障害児 にも同様な 行動を示す という事例報告がある(進,1992d)。③視覚的検証:持続的に対象 を注視し意図的に対象を見る。 手と自の協調が発現する時期には 特にこの行動が出現する。
④精査:乳幼児は、 対象を見るだけでなく、 対象を丹念に触りその対象を叩いたり方向を 変えたりして対象への関わりその効果を観察する。
彼女は、 乳幼児の行動観察を通して、 次のような結論をだした。触ること、 口でなめる
こと、 視覚などの独立したシェマは、 外界との相互交渉を通して組織化されていく。 外界 との相互交渉の転換点は、 精査を通して、 2つ、 または、 それ以上の事物の特徴を弁別する、
事物に対する乳幼児の活動の効果を観察するところにある。
以上、 健常乳幼児の3つの身体部位の統合過程についての研究について概括した。いずれ の研究も、 ①最初口、 手、 目という3つの身体部位は独立して機能しているが、 乳幼児の加 齢と共に口が媒介となってそれぞれの身体部位が統合されていく、 ②その口もやがて解放 され目と手の協応が起こるという2段階の発達 経過を経るという結論を得ている。
重度・重複障害児や健常乳幼児の研究を参考にすれば、 発達の初期の段階においては、
それぞれの身体部位は独立して機能しているが、 発達と共にそれぞれの身体部位は機能的 に統合し外界と関わる ようになる、 Piaget(1948)らの言葉では相互交渉を行うようにな る。健常乳幼児の研究では乳幼児の姿勢が問題とされていないが、 重度・重複障害児のと きは、 姿勢が重要な要因として関与してくる。した がって、 重度・重複障害児は、 背臥位、
側臥位、 前起こし、 座位というように、 姿勢が高次化するにつれ、 それぞれの身体部位は 機能的に連携して外界との関わりを持つようになると言える。このように、 乳幼児と重度
・重複障害児が共通の領域を有しているのであれば、 その共通項に気を配りながら、 健常 乳児の口、 手、 固などの身体部位に関する研究も視野に入れ、 重度・重複障害児の外界と の関わりを研究していく必要がある。
第3節 姿勢と姿勢行動
大島(1969)によれば、 姿勢とは、 「ある時間維持される身体の重力の方向の関係と、
身体の各部の相互の位置的関連性を示す もの」である。 姿勢については、 「それがある時 間維持される必要があり、 動作のある瞬間をとらえたものは姿勢とはいい 得ない(大島, 1
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969) Jという考えもある。 しかし、 重度・重複障害児が外界に関わ っていく場合、 関わる 途中でも姿勢を変化させ道具としての身体部位でもって外界に関わっている。 外界ヘ関わ
り、 時間と共に変わる姿勢は、 ある時間維持される姿勢とは区別できるので、 その変化す る姿勢を指して姿勢行動と呼ぶことにする。 机上に垂直にた った角柱のスイッチを提示し たとき、 机座位の姿勢でうつ伏せになっている重度・重複障害児が角柱を舌でなめ上体を
起こしてい って角柱のスイッチを口で、押して鳴らすという研究報告がある(進,1988 d)。
これは、 単なる静止した姿勢ではなく、 その操作に対応した動的な姿勢であるので、 姿勢 行動であると言える。 この事例は、 机の面での操作から垂直軸上の操作へと操作行動が高 まれば、 姿勢行動が前起こしの姿勢と なりそれから座位の姿勢へと変化したと言える。 こ のように、 操作するときには、 その操作に適した姿勢行動が出現するので、 操作行動を高 めれば、 それに対応して姿勢も高次化し結果的には姿勢の改善も見られる。
外界と姿勢との関係については、 重度・重複障害児 の事例だけでなく、 健常児 (者)を 対象とした研究でも論じられている(Gibson, 1979;Wallon, 1954, 1956;Werner and Wapner,
1978)。
Gibson (1979)は、 アフオーダンス(aff ordance)の概念を導入し 、 外界と姿勢との関
係を論じている。 í環境のアフォーダンスとは、 環境が動物に提供するもの、 良いもので あれ悪いものであ れ、 用意したり備えたりするものである。 …もしも陸地の表面がほぼ水 平(傾斜しておらず)で、 平坦(凹凸がなく)で、 十分な広がり(動物 の大きさに対して)
をもっていて、 その材質が堅い(動物 の体重に比して)ならば、 その表面を支えるごとを アフォード する。 それは支える者の面であり、 我々はそれを土台、 地面、 あるいは床とよ ぶ。 それは、 その上に立つ乙とのできるものであり四足動物やニ足動物に直立の姿勢をゆ るす。」このアフォーダンスは、 いず れにしても、 外界の知覚を通してアフォードされる
姿勢と外界ヘ関わるときの姿勢の両者が含まれていると考えられる。 Wallon(1954,1956) やWerner and Wapner (1978)も用語は異な っているが、 知覚と姿勢という点から姿勢につ いて考えているo Wallon (1954,1956)は、 運動を3つの形態に分類した。 第1の形態、は、
「外の世界の なかに自分自身の身体や対象を移動させる能動的で自己図的な運動Jである。
第2の形態は、 重力をはじめとする外力に応 じて生じる「受身的で外図的な運動jである。
第3の形態、は、 身体部分相互の関係、 この身体部分内の細部の相互関係の移動である(浜田.
1989)。 彼は3つの運動を起こす筋肉について 2つの機能を想定した。 ひとつは、 筋肉を屈 曲、 伸展させて手足を移動させる間代性的な機能であり、 もうひとつは、 筋肉の緊張状態
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を一定に保つ 緊張性(トーヌス)の機能である。 í緊張は、 姿勢をかたちすくるための原 素材であり、 この姿勢は、 一方で知覚的期待と結びつき、 他方で情緒的生活に結びついて いるjと言う。 緊張が姿勢を作り、 外界の知覚が自己に向け姿勢を塑形しその姿勢が逆に 外界を知覚していくというのが、 Wallon(1954,1956)の考えである。 Werner and Wapner ( 1978)は、 知覚の成立は、 有機体の状態、と対象物からの刺激との相互作用、 いわゆる身 体と対象物 からなる場によって影響されるという感覚・緊張説(sensory-tonic theory) を提唱した。 知覚は、 外界の刺激対象が有機体に与える影響の仕方と、 その後の有機体の 反応の仕方 の両方に依存する。 そこで起こっている現象は、 有機体の感覚・緊張の状態、に 左右される。 有機体の 筋トーヌスの状態、が知覚に影響すると同時にその筋トーヌスが知覚 に影響されるというのが彼らの考えである。 重度・重複障害児を対象とした研究では、 視 覚の活用によって筋トーヌスが高まり、 筋トーヌスが高まった状態のときに対象物を正確 に見るという進・高杉・大坪(1979)の研究がある。
以上、 外界と姿勢についての理論的な側面について検討したが、 これらの見解は、 事例 を検討するときに参考にすべき理論的な問題を有している。
次に、 姿勢や姿勢行動は運動障害と密接な関係があるので、 それについて検討する。
関口(1976)は、 脳性麻痩は「受胎から新生児( 生後4週間以内)までに生じた脳の非進 行性病変にもとづく、 永続的なしかし変化し得る運動および姿勢 の異常である。 その症状 は満2歳までに発現する。 進行性疾患や一過性運動障害、 または将来正常化するであろうと 思われる運動発達遅延は除外する」という、 厚生省脳性麻痩研究班の統一見解としての定 義をあげ、 「とくに重症心身障害施設で、は脳性麻痩の概念が広義に解釈されやすい傾向が あると思われるが、 医学的には厳密を期す必要がある。 …略…重度精薄の意欲欠如に伴う 二次的な運動機能障害も脳性麻痩に含める ならば、 本来の脳性麻痩という呼称は必要でな くなり、 その意義は失われてしまう」という診断上の問題について述べている。 彼の見解 によれば、 重症心身障害児(筆者の用語では重度・重複障害児)の中には重度の精神薄弱 が混在しており、 その精神薄弱が運動機能障害(特に筋緊張の低下)や意欲の欠如という 現象を伴うことになる。 この意欲の欠如による運動障害は、 筋力や筋の緊張低下、 姿勢反 射などの運動機能障害では説明できない問題を有しているということになる。
関口(1976)の説によれば、 重症心身障害児には、 ①脳性麻痩による重度の肢体不自由 が主でそれに精神薄弱が加味されたもの、 ②重度の精神薄弱が主で肢体不自由が加わった もの[麻痩はあっても軽度である、 どちらかと言えば、 低緊張(hypotonic)あるいは無緊