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Kyushu University Institutional Repository
近郊鉄道向け車両構体の耐衝突性能に関する研究
熊本, 秀喜
https://doi.org/10.15017/1441213
出版情報:Kyushu University, 2013, 博士(工学), 課程博士 バージョン:
権利関係:Fulltext available.
近郊鉄道向け車両構体の耐衝突性能に関する研究
2014 年 2 月
熊 本 秀 喜
I
第第
第第1111章章章章 緒言緒言緒言緒言 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・11 11
第 第 第
第2222章章章章 衝突解析の基礎理論と特徴衝突解析の基礎理論と特徴衝突解析の基礎理論と特徴衝突解析の基礎理論と特徴 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・55 55
22
22・・・・1111 緒言緒言緒言緒言 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5555 2
2 2
2・・・・2222 衝突解析と衝突実験の長所と短所衝突解析と衝突実験の長所と短所衝突解析と衝突実験の長所と短所衝突解析と衝突実験の長所と短所 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5555 22
22・・・・3333 衝突解析の基礎理論(時間積分法)衝突解析の基礎理論(時間積分法)衝突解析の基礎理論(時間積分法)衝突解析の基礎理論(時間積分法) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・7777 2
2 2
2・・・・4444 代表的な衝突解析ソフトウェア代表的な衝突解析ソフトウェア代表的な衝突解析ソフトウェア代表的な衝突解析ソフトウェア ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・14141414 2
2 2
2・・・・5555 衝突解析の品質確保衝突解析の品質確保衝突解析の品質確保 衝突解析の品質確保 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・15151515 22
22・・・・6666 耐衝突構造の設計における留意点耐衝突構造の設計における留意点耐衝突構造の設計における留意点耐衝突構造の設計における留意点 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・17171717 2
2 2
2・・・・7777 結言結言結言 結言 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・19191919
第 第 第
第3333章章章章 高い高い高いエネ高いエネエネエネルギルギルギ吸収特性を有する構造の開発ルギ吸収特性を有する構造の開発吸収特性を有する構造の開発吸収特性を有する構造の開発 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・20202020
3 3 3
3・・・・1111 緒言緒言緒言緒言 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・20202020 3
3 3
3・・・・2222 優れた衝突エネルギ吸収特性を有する車端部構造優れた衝突エネルギ吸収特性を有する車端部構造優れた衝突エネルギ吸収特性を有する車端部構造 優れた衝突エネルギ吸収特性を有する車端部構造 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・20202020 33
33・・・・3333 数値解析による衝突エネルギ吸収構造の特性評価数値解析による衝突エネルギ吸収構造の特性評価数値解析による衝突エネルギ吸収構造の特性評価数値解析による衝突エネルギ吸収構造の特性評価 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・26262626 3
3 3
3・・・・4444 エネルギ吸収特性に及ぼす諸因子の影響エネルギ吸収特性に及ぼす諸因子の影響エネルギ吸収特性に及ぼす諸因子の影響エネルギ吸収特性に及ぼす諸因子の影響 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・33337777 33
33・・・・5555 結言結言結言結言 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・44443333
第第
第第4444章章章章 一車両衝突試験と数値解析を用いた衝突挙動の解明一車両衝突試験と数値解析を用いた衝突挙動の解明一車両衝突試験と数値解析を用いた衝突挙動の解明一車両衝突試験と数値解析を用いた衝突挙動の解明 ・・・・・・・・4444444 4
4 4 4
4・・・・1111 緒言緒言緒言 緒言 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・44444444 44
44・・・・2222 車両一両衝突解析車両一両衝突解析車両一両衝突解析車両一両衝突解析 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・44444444 4
4 4
4・・・・3333 車両一両衝突試験車両一両衝突試験車両一両衝突試験 車両一両衝突試験 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・55557777 4
4 4
4・・・・4444 結言結言結言結言 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・66664444
第第
第第5555章章章章 高精度な重ね溶接継手の簡易モデル手法の開発高精度な重ね溶接継手の簡易モデル手法の開発高精度な重ね溶接継手の簡易モデル手法の開発高精度な重ね溶接継手の簡易モデル手法の開発 ・・・・・・・・・・・・6666555 5
5 5 5
5・・・・1111 緒言緒言緒言 緒言 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・66665555 55
55・・・・2222 重ね溶接継手に作用する荷重重ね溶接継手に作用する荷重重ね溶接継手に作用する荷重重ね溶接継手に作用する荷重 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・66667777 5
5 5
5・・・・3333 重ね溶接継手のせん断試験重ね溶接継手のせん断試験重ね溶接継手のせん断試験重ね溶接継手のせん断試験 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・66668888 55
55・・・・4444 ソリッド要素をソリッド要素をソリッド要素をソリッド要素を用いた用いた用いた用いた解析解析解析解析 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・77773333 5
5 5
5・・・・5555 シェル要素による高精度で簡易なモデル化手法シェル要素による高精度で簡易なモデル化手法シェル要素による高精度で簡易なモデル化手法シェル要素による高精度で簡易なモデル化手法 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・77779999 5
5 5
5・・・・6666 結言結言結言結言 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・88889999
II
第 第 第
第6666章章章章 柱状エネルギ吸収要素の性能向上柱状エネルギ吸収要素の性能向上柱状エネルギ吸収要素の性能向上柱状エネルギ吸収要素の性能向上 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・90909090
66
66・・・・1111 緒言緒言緒言緒言 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・90909090 6
6 6
6・・・・2222 柱状構造のエネルギ吸収特性柱状構造のエネルギ吸収特性柱状構造のエネルギ吸収特性 柱状構造のエネルギ吸収特性 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・90909090 66
66・・・・3333 発泡材充填柱状構造のエネルギ吸収特性発泡材充填柱状構造のエネルギ吸収特性発泡材充填柱状構造のエネルギ吸収特性発泡材充填柱状構造のエネルギ吸収特性 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・99998888 6
6 6
6・・・・4444 変断面柱状構造のエネルギ吸収特性変断面柱状構造のエネルギ吸収特性変断面柱状構造のエネルギ吸収特性変断面柱状構造のエネルギ吸収特性 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・102102102102 66
66・・・・5555 実車両への適用について実車両への適用について実車両への適用について実車両への適用について ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・101010106666 6
6 6
6・・・・5555 結言結言結言結言 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・101010107777
第 第 第
第7777章章章章 結論結論結論結論 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・10101010888 8
付録 付録 付録
付録1111 付録付録付録付録1111 アワーグラス変形についてアワーグラス変形についてアワーグラス変形についてアワーグラス変形について ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・111111111111 付録
付録 付録
付録2222 公称応力と公称ひずみから真応力と真ひずみを求める方法公称応力と公称ひずみから真応力と真ひずみを求める方法公称応力と公称ひずみから真応力と真ひずみを求める方法 公称応力と公称ひずみから真応力と真ひずみを求める方法 ・・・・・・・・・・・・111113131313
参考文献 参考文献 参考文献
参考文献 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・11111111555 5 謝辞
謝辞 謝辞
謝辞 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・118118118118
1
第 第 第
第 1111章章章章 緒言緒言緒言 緒言
輸送機器では、さまざまな要因により衝突事故が発生しているが、特に最近では、
人命保護や環境保護の観点から、その衝突性能評価を行う必要性が増大している。
近年のエネルギ問題や都市の交通渋滞問題の解決策として期待され、世界中で導 入計画が進められている鉄道に於いても、衝突安全が重要な課題となっている。特 に、欧州各国間では相互乗り入れが盛んに行われており、相互乗り入れ時の衝突安 全が課題となっている。このため、CEN(欧州標準化委員会)が制定する欧州規格 において鉄道車両の衝突安全に関する要求EN15227(1)が示されている。
この規格では、Fig.1・1・1に示す衝突シナリオが規定されている。シナリオ1は、
最も多くの被災者が出る同一の車両編成同士の衝突、シナリオ2は、旅客車両と貨 物車両(80ton)が混在する路線での衝突、シナリオ 3 は、踏切で立ち往生したロ ーリーへの旅客車両の衝突、シナリオ4は、自動車や動物の様な重心の低い障害物 との衝突を想定している。これらのシナリオに対して、車両の乗り上げの有無、エ ネルギ吸収量、サバイバル空間、減速度、脱線などを評価項目としている。
また、米国のFRA(アメリカ連邦鉄道局)に於いて、運行する路線、車両の運用 速度等に応じたカテゴリー分けと、それに対応した衝突強度要求が取りまとめられ、
規格化されつつある。
衝突安全に対する厳しい要求のある自動車の場合は、衝突性能評価のために完成 車を使った衝突試験が法規で義務付けられている。このため、衝突試験へ至る開発 段階では、数値解析による衝突性能評価が活発に行われ、開発段階にも実車を衝突 させて、耐衝突性能評価が行われている。
しかし、鉄道車両や船舶などの大型構造物では、単価が自動車に比べて高く生産 数が大幅に少ないため、製品毎に衝突試験を行なうことはコストの面から現実的で はない。また、鉄道車両の場合、質量が自動車の 10 倍以上あるため衝突時の衝撃 力が自動車に比べて一桁大きい。このため、試験設備の能力の点からも製品毎に実 車を用いた衝突試験を行なうことは現実的とは言えない。このため、数値解析を用 いて、衝突性能評価を行う技術への期待が高くなっている。
近年、数値解析により衝突性能評価を行うための解析ソフトウェアも多く開発さ れ、自動車などの衝突解析には、LS-DYNA(2)や PAM-CRASH(3)などの陽解法の有 限要素解析ソフトウェアが広く用いられている。また、解析とともに試験を行い、
解析の精度検証を行った報告もある(4)。しかしながら、数値解析を用いて衝突性能 評価がどの程度まで可能であるか、また、どのような点に注意して解析すれば良い かなどを論じた報告は少ない。
本論文では、自動車や船舶と同様に、最近その衝突性能評価の要求が増大してい る鉄道車両について耐衝突性能評価に関して実施した検討の結果を示す。具体的に
2
は、空間的な制約のために高速鉄道車両よりも耐衝突設計が難しい近郊鉄道車両に ついて以下の項目を実施した。なお、ここで対象とする近郊鉄道車両は、欧州規格
EN15227や米国FRAの衝突規格案で対象としている様な相互乗り入れを行う車両
ではなく、単一の鉄道事業者が運行する近郊鉄道車両である。このため、客先が要 求する耐衝突性能を満足する車両を開発した。
(1)衝突時のエネルギを吸収する車端部構造について、試設計および試設計した 構造での静的圧壊試験と静的圧壊解析の実施。
(2)静的圧壊試験と静的圧壊解析の比較による解析精度の向上と確認。
(3)静的圧壊解析によるエネルギ吸収特性向上のための構造改良および、静的圧 壊試験による確認。
(4)解析の精度向上のための、衝突性能に及ぼす諸因子(溶接部強度、形状初期 不整、ひずみ速度影響など)の影響度検討。
(5)上述の車端構造を採用した車両一両による衝突解析を実施し、衝突時の車両 の変形挙動を数値解析により調査。
(6)車両一両の衝突試験による耐衝突性能の確認。
(6)までの項目では、耐衝突性能の高い車両を開発すると同時に、可能な限り解 析精度の向上を含めた開発技術の向上のための検討を実施した。しかし、全ての課 題が解決できた訳ではなく、後年の課題として残さざるを得ないものも有った。
例えば、溶接部の破断はエネルギ吸収特性に強い影響を及ぼすが、鉄道車両構造 で使われる重ね溶接継手のモデル化手法についての研究が殆どなされておらず、上 述の開発で提案したモデル化手法の定量的な精度確認が十分には出来なかった。ま た、衝突解析を駆使して衝突エネルギ吸収構造を開発することは、多大な労力を要 するので、開発を効率化するための知見や設計技術が必要である。
これらの課題に対して、以下の項目を実施した。
(7)重ね溶接継手について、破壊挙動を精度よく再現でき、大規模な車両全体モ デルに組み込み可能なモデル化手法について検討を実施。
(8)最も単純な構造の一つである矩形断面の柱状構造を取り上げ、エネルギ吸収 特性を向上させる技術の検討を実施。
これらの研究成果をまとめた本論文は7章で構成されている。
第1章の緒言に続いて、第2章では、衝突解析の基礎理論とともに衝突解析の特 徴や実施上の留意点などの衝突解析全般の概論を示す。
第3章では、高いエネルギ吸収特性を有する車端部構造の開発に関して、数値解
3
析を用いた静的なエネルギ吸収特性評価と静的圧壊試験の実施と、両者の比較によ る数値解析精度の向上について示す。更に、衝突性能に及ぼす諸因子(溶接部強度、
形状初期不整など)の影響度について検討した結果を示す。
第4章では、第3章で開発した車端構造を採用した車両一両を用いて衝突試験を 実施した結果とともに、試験に先駆けて実施した数値解析結果を示すとともに、試 験のみでは明らかに出来なかった衝突時の車両の変形挙動が数値解析により解明 できたことを示す。
第5章では、重ね溶接継手について、大規模な車両全体モデルにも容易に組み込 むことが可能であり、かつその破壊挙動を精度よく再現できるモデル化手法につい て示す。
第6章では、エネルギ吸収構造の設計を効率化することを目的として、最も単純 な形状である、矩形断面の柱状エネルギ吸収要素についてエネルギ吸収特性を向上 させるための検討を示す。
第7章では、研究の総括として結論を述べる。
4
80 tons wagon Velocity 36km/hr
Scenario 2
Large deformable obstacle (15tons)
Velocity 110km/hr Scenario 3
Relative velocity 36km/hr Scenario1
Fig.1・1・1 Crash scenario of European standard(EN15227).
Operation speed Scenario 4 Low obstacle
(e.g. car, animal)
5
第 第第
第 2222章章 章章 衝突解析衝突解析衝突解析衝突解析の基礎理論と特徴の基礎理論と特徴の基礎理論と特徴の基礎理論と特徴 2
2 2
2・・・・1111 緒言緒言緒言 緒言
構造物の衝突安全性を評価するために実施する衝突解析は、弾塑性や大変形など の非線形挙動や慣性力や減衰力といった動的影響を考慮した過渡応答解析であり、
構造解析の中では最も複雑で計算時間を要する解析の1つと言える。
それでも、近年のコンピューターの高速化と市販の衝突解析ソフトウェアの発達 によりパーソナルコンピューターでも衝突解析が可能となっている。試験体の製作 を含め準備に多くの時間、労力および費用を要する衝突試験をパーソナルコンピュ ーターを使った衝突解析に置き換えることは、工業的には非常に魅力的である。
しかし、精度の良い衝突解析を実施するには、衝突解析の理論を含めた専門知識 と豊富な解析の経験が必要であるとともに、解析と試験の長所と短所をよく理解し て両方を上手く組み合わせて構造物の衝突安全性を評価する必要がある。
本章では、衝突解析と衝突試験の長所と短所、衝突解析の基礎となる時間積分法、
代表的な衝突解析ソフトウェア、衝突解析の品質確保などについて概説する。
2 2 2
2・・・・2222 衝突解析と衝突衝突解析と衝突衝突解析と衝突試験衝突解析と衝突試験試験試験の長所の長所の長所との長所とと短所と短所短所短所
本節では、衝突安全性評価に対する解析と試験の長所と短所および解析と試験の 組み合わせ方について述べる。
構造物の衝突安全性は、他の工学的な性能評価と同様に、試験あるいは解析によ り評価することが出来る。試験に於いては、実機あるいはそれを模擬した試験体を 使用するため、目標とする安全性能を満足する結果が得られれば、安全性を証明で きたと判断し易い。
しかし、衝突安全性評価の試験は動的(衝撃)試験であるため、試験を途中で止 めて様子を確認することは困難であり、所謂一発勝負となる。また、衝突試験設備 を有する機関が少なく、物体の運動を伴う試験であり運動の管理方法を工夫する必 要があり、静的強度試験と比べると実施が難しい。
一方、衝突解析には、理論を含めた専門知識と豊富な経験が必要であり、解析結 果がモデル化方法(解析範囲、解析モデル、荷重条件、拘束条件など)や解析プロ グラムの使用方法等の影響を強く受ける。言い換えると、解析者によって解析結果 が違う可能性も零ではない。これは、衝突解析に限ったことではないが、衝突解析 は線形の静的解析等と比べると解析者の影響が現れ易い。
例えば、Fig.2・2・1 に示すような正方形断面を有する箱に軸圧縮荷重が作用した 場合、線形の静的解析では4つの側面の要素分割が違っていても各面の応力には殆 ど差が発生せず問題とならない。一方、衝突解析に於いては微妙な応力の差により 最初に塑性化する面が決まり、その面の塑性変形により箱全体が座屈する方向が決
6
まる場合がある。
このため、解析で目標の安全性能を満足する結果が得られても、安全性の証明と して認められない場合がある。例えば、本論文の第3章と第4章で説明する地下鉄 車両の耐衝突構造の開発に於いては、車両を使用する鉄道事業者から衝突試験の実 施と事前に実施した衝突解析との比較と差異を埋めるための解析モデルの改善を 要求された。
当然、試験に於いても、試験体の固定方法や載荷方法によって結果は変化し、実 機を模擬した試験体の場合では、実機から省略した部分の影響も考えられる。
また、試験で評価できるのは使用した試験体の性能であり、試験体の寸法等のバ ラツキを含めたその製品全体の安全性能を評価するためには、それに見合った試験 体を用意して多数の試験を行わなければならない。
一方、解析に関しては、寸法のバラツキをパラメータとした解析を実施すること により、より広い範囲で安全性を評価することが可能となる。更に、衝突性能に強 い影響を及ぼす寸法を把握できるので、それを適切に管理することにより、品質の 安定化へ繋げることも可能となる。もう一歩踏み込むと、寸法のバラツキが大きく ても性能が確保し易い構造について検討することも可能となる。
これらのことより、製品開発のプロセスは解析を中心としたものにし、その中に 試験を上手に組み込みことが効率的な方法だと考えられる。試験を開発の適切な段 階に実施することにより、想定どおりの強度を有しているかを確認することや、解 析精度の確認に役立てることが出来、開発の手戻りを低減することに役立つ。また、
開発の最終段階には試験により耐衝突性能を確認するとともに、ここでも解析精度 の確認に使用できる。本論文の第3章と第4章では、解析と試験を組み合わせて実 施した地下鉄車両の耐衝突構造の開発について述べている。
150mm
150mm 2.5mm
900mm A
A
Sect. A-A Force
Fig. 2・2・1 Analysis object.
7
2 2 2
2・・・・3333 衝突解析の基礎理論(時間積分法)衝突解析の基礎理論(時間積分法)衝突解析の基礎理論(時間積分法) 衝突解析の基礎理論(時間積分法)
本節では、衝突解析で最も重要と考えられる時間積分法(1)について述べる。
慣性および減衰の影響を考慮した運動方程式は、以下の様になる。
t t t
t CU KU F
U
M&& + & + = (2・3・1)
ここで、tは時間、M は質量マトリックス、Cは減衰マトリックス、Kは剛性マ トリックス、Ftは外力ベクトル、Utは節点の変位ベクトル、U&tは節点の速度ベク
トル、U&&tは節点の加速度ベクトルを表す。なお、下添字tは時刻tでの値を表して
いる。
なお、慣性力と減衰力の影響が無視できる静的な問題の場合は、(2・3・1)式の運 動方程式の慣性項MU&&tと減衰項CU&tを除いた下式となる。
F
KU = (2・3・2)
(2・3・1)式を解くための積分法は、陰解法と陽解法の2つに分類できる。なお、衝
突解析では殆どの場合は陽解法が採用されている。
22
22・・・・3333・・・・111 1 陰解法陰解法陰解法陰解法(1)(1)(1)(1)
陰解法は、時刻tまでの変位、速度および加速度が既知であるとして、時刻t+∆t の変位、速度および加速度を時刻t+∆tの運動方程式を用いて計算する方法である。
t t t t t t t
t CU KU F
U
M&&+∆ + & +∆ + +∆ = +∆ (2・3・3)
(2・3・3)式を解くためには、変位、速度および加速度の間に関係式を仮定して、そ れを(2・3・3)式に導入する必要がある。ここでは、陰解法としてよく知られており、
汎用有限要素解析ソフトウェアの時間積分法として広く採用されているNewmark β法について説明を行う。この積分法は、時刻tから時刻t+∆tの間に加速度が線形 に変化すると仮定した線形加速度法を拡張したもので、以下の仮定を採用している。
( )
[ U U ] t
U
U&t+∆t = &t+ 1−δ &&t +δ&&t+∆t ∆ (2・3・4)
2
2
1 U U t
t U U
Ut t t t t t t∆
+
− +
∆ +
= +∆
∆
+ & β && β&& (2・3・5)
ここで、δ =12かつβ =16のときには、これらの仮定は線形加速度法となる。
8
(2・3・5)式より、先ず時刻t+∆tの加速度U&&t+∆tを求めることが出来る。
( t t t)
t t
t
t U U
U t U t
U −
+ ∆
− ∆
−
= +∆
∆
+ 2
1 1
2 1 1
β β
β && &
&
& (2・3・6)
これを、(2・3・4)式に代入することによりU&t+∆tは下式となる。
( t t t)
t t
t
t U U
t t U U
U −
+ ∆
∆
−
+
−
= +∆
∆
+ β
δ β
δ β
δ & &&
&
1 2
1 (2・3・7)
(2・3・6)式と(2・3・7)式を(2・3・3)式に代入することにより、時刻t+∆tの変位Ut+∆t に関する下式が得られる。
+ ∆
− +
∆
−
+
+ ∆ + ∆
−
+
=
+ ∆ + ∆
∆ +
∆ +
t t
t
t t
t t
t
t t
tU U
t U C
t U tU
U M
F
U t M tC
K
β δ β
δ β
δ
β β
β β
β δ
&
&
&
&
&
&
1 2 1
1 1 1
2 1 1
2 2
(2・3・8)
この式を解けば変位Ut+∆tが求められ、(2・3・6)式と(2・3・7)式に代入することによ
り、U&&t+∆tおよびU&t+∆tを得ることが出来る。
ただし、(2・3・8)式のUt+∆tの係数行列には剛性マトリックスKが含まれており、
逆行列を計算する必要がある。更に、衝突解析の場合は材料非線形および形状非線 形の影響を考慮する必要があるため、剛性マトリックスKは変形とともに更新され なければならず、(2・3・8)式の剛性マトリックスKは時刻t+∆tにおける剛性となる。
つまり、(2・3・8)式を解くためには剛性マトリックスKを反復法により更新しなけ ればならない。ただし、時刻t+∆tでの運動方程式を満足させた計算となるため、
荷重の釣り合いは満足されており、時間増分∆tを比較的大きく設定しても精度の良 い解析が可能となる。
このため、時間ステップは解析により得られる変形や応力等の周期を表すのに十 分な細かさとすれば良い。また、与える荷重条件の時間変化を適切に表すことも考 慮すべきである。
2 2 2
2・・・・3333・・・・2222 陽解法陽解法陽解法陽解法(1)(1)(1)(1)
先に述べたとおり、陰解法は、時刻t+∆tの変位、速度および加速度を時刻t+∆tの 運動方程式を満足させて解くのに対して、陽解法では、時刻tの運動方程式を用い て計算を行う。
ここでは、陽解法として最もよく知られており、汎用衝突解析ソフトウェアの時
9
間積分法として採用されている中心差分法について説明を行う。
この積分法では以下の仮定を採用して時刻tの運動方程式である(2・3・1)式を解く。
( t t t t t)
t U U U
U t +∆ − + −∆
= ∆1 2
& 2
& (2・3・9)
( t t t t)
t U U
U t +∆ − −∆
= ∆ 2
& 1 (2・3・10)
(2・3・9)式と(2・3・10)式を(2・3・1)式に代入することにより、時刻t+∆tの変位Ut+∆t に関する下式が得られる。
t t t
t
t t
U tC t M
U t M K F
U tC t M
∆
−
∆ +
− ∆
− ∆
−∆
−
=
+ ∆
∆
2 1 1
2 2
1 1
2 2
2
(2・3・11)
変位Ut+∆tを求めるためには、Ut+∆tの係数行列の逆行列を求める必要があるが、こ れには計算時間を要する。しかし、質量行列M と減衰行列Cを整合マトリックスか ら対角マトリックスに置き換え、対角成分で計算する方法をとれば、逆行列の演算 が不要となり、変位Ut+∆tの各成分が陽に計算できる。このため、このような計算方 法は陽解法と呼ばれている。
(2・3・11)式から得られた変位を(2・3・9)式および(2・3・10)式に代入することによ り、時刻tにおける加速度U&&tと速度U&tが計算することができる。
陽解法では、変位Ut+∆tの各成分を逆行列を計算せずに得ることが出来るために、
計算時間が短くて済む。しかし、この積分法では(2・3・1)式で示した時刻tの運動方 程式を用いているために、時間ステップ∆tが臨界値∆tcrよりも小さくしないと適切 な解が得られない(条件付安定)。臨界値∆tcrは、構造内を伝播する応力波が要素中 を通過する時間の最小値であり、適切な解を得るためには、(2・3・12)式を満足する 時間ステップ∆tを使用する必要がある。(2・3・12)式はクーラン条件(2)と呼ばれてい る。
t c t≤∆ cr =ιe
∆ (2・3・12)
ρ
c= E (梁要素) (2・3・13)
10
(1 ν2)
ρ −
= E
c (シェル要素) (2・3・14)
( )
( ν)( ν)
ρ
ν 2 1 1
1
− +
= E −
c (ソリッド要素) (2・3・15)
ιe:要素長さの最小値
c:要素中を伝播する応力波の速度 E:ヤング率
ρ:質量密度 ν :ポアソン比
同一材料で構成される構造物の場合、応力波の速度は同じであるため、時間増分 の臨界値∆tcrは要素長さに比例する。小さな要素があると時間ステップを小さくし なければならず解析時間の増大を招く。従って、無意味に小さな要素があれば要素 分割の見直しを行って計算時間を節約すべきである。
また、時間増分を大きくして解析時間を短縮する方法の1つとしてマススケーリ ングがある。これは、時間増分を支配する要素の質量密度を増加させて(2・3・12)式 の応力波の伝播速度cを低減する方法である。しかし、要素サイズは臨界時間増分
tcr
∆ と線形関係であるのに対して、質量密度ρはその平方根が∆tcrと線形関係であ るため、時間増分を2倍にするには質量密度を 4倍にする必要がある。非常に小さ な要素が少数であるならその要素の質量密度を大きくしても解析結果に与える影 響は少ないと思われる。しかし、過度に質量密度を大きくすると解析モデル全体の 質量と重心が変化して解析結果に影響を及ぼす場合があるので、マススケーリング を行う際には質量と重心の変化が悪影響を及ぼさない範囲にする必要がある。汎用 衝突解析プログラムのLS-DYNAでは、マススケーリングで時間増分を入力すると 質量密度を増加させるべき要素の抽出と密度の変更を自動的に行う。この場合、各 要素の質量密度の修正量とモデル全体の質量と重心の変化にも注意が必要である。
また、解析のプリ・ポストプロセッサを使って、Fig. 2・3・1に示すような各要素の時 間増分をカラーコンター図にすることが出来るので、このような機能を使って時間 増分を大きくする方法を検討すればよい。