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Academic year: 2021

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新刊紹介

柳父牽 ・水野 的 ・長沼美香子編 『日本 の和訳 論 ア ンソ ロジー と解題 』 ( 法政大学 出版 局 、201 0 年)

桑 山 佳 子

本書は、主 として 日本における翻訳の問題を扱っ た明治以降のテクス トのアンソロジ‑である。編者 である水野的、柳父車 らがこれ らのテクス トそれぞ れに解題を付 し, 日本において翻訳が どのようにな 位置を占めるものだと認識され,実際にどのような 翻訳方法が とられていたのかを解説 しなが ら、これ まで体系的に考 え られて こなかった翻訳 をめ ぐる 個々の言及を整理 し、 日本における トランスレ‑シ ョン ・スタディ‑ズ (翻昌明升究)の確立に向けた指 針づくりとでもいうべきものを示 したものである。

本書の構成は二部にわかれている。第‑部では、

編者の一入である柳父車が漢字の受容か ら西洋語翻 訳までの日本における翻訳の歴史を概観 し、漢字及 び西洋語の受容による日本語文体への影響を論 じて いるO本書の大半を占める第二部は、先に述べた明 治初頭か ら昭和初期までの三十一の日本の翻訳をめ ぐるテクス トのアンソロジ‑ とそれぞれの解題であ る。

編者の一人である水野的によると、本書の目的は

日本の翻訳論の全体像の輪郭を描 く」ことである。

水野によれば、「日本の翻訳論のアンソロジ‑はこれ までもなかったわけではないが、収録点数が少なか った り、現代に偏 って」いるものであった0本書の アンソロジーに選出された各テクス トで扱われるの は大半が文学の翻訳であるが、少数なが ら字幕や語 学の翻訳を扱ったものもあり、多角的にテクス トの 問題を扱おうと試み られているoまた、盲弱き面にお いても英語や ロシア語、フランス語な どか らの日本 語訳、俳句の英訳における問題が扱われてお り、多 様な讃 吾に関わる論を取 り込 もうと配慮 されている。

このように、本書のアンソロジーは日本の翻訳に 関わるこれまでのさまざまな言及を読者が一望でき るようにと選出されている。それぞれのテクス トに

付された解題は トランス レーション ・スタディ‑ズ にお ける主要な論点である 「翻訳規範 (ぬnslation norms)」、「異化的翻訳aoreiglizi喝tranSlation)」,「同 化的翻訳(dorrKStica血gtranslation)」の概念 を用いて、

各テクス トが前提 している翻訳規範の分析を行って お り、このことが本書の大きな特徴のひとつである といえる.翻訳規範 とは、水野によると 「

訳とは どのようなものであるべきか」 という考え方のこと で、翻訳者はこうした規範をときには内面化 し、と きには意識的に規範 に従いなが ら翻訳を行 う。規範 は可変的なもので、翻訳が行われる時代や翻訳者個 人によって異な り,‑様なものではない。 これ らの 分析において軸 となっているのは 「異化的翻訳」と

「同化的翻訳」の概念である。この概念はオ リジナ ルの言語 と翻訳する言語のどちらの社会文化的背景 に引き付けて翻訳を行 うか、という翻訳のあ り方を 指 し、前者をオ リジナルの言語に比較的近づけて訳 する、いわば直訳のような翻訳である。後者につい ては翻訳する先の言語吾 (本書のテクス トではほとん ど日本語)に引き付けて訳することを指 している。

この二つの概念を持ち込むことで、翻訳をその言語 約億櫛 のみに留まらないものとして捉えることが可 能になる。例えば柳父章は"individualや ‑right"のよう な従来なかった概念を言い表す際に 「個人

「権利」

といった漢字や漢文体を使った新たな表現が用いら れることを指摘 し、異化的翻訳が 日本の翻訳の主流 だと述べる。柳父によると、福揮諭吉 『福滞全集諸 言』の 「全体君等が西洋の原書を翻訳するに四角張 った文字卜盈)、り用ふるは何の為めなるや」 という一 節か ら読み取ることのできる異化的翻訳への批判的 見解は、日本において例外的なものである。『福滞全 集緒言』には、明治初期 という時代を背景 とし,翻 訳 を通 じて特定の階級だけでな く、よ り多 くの読者

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新刊紹介

に外国の文献や知識を広めようとした福輝の翻訳に 対する考えがみられるといえる。

本書の意義としては,個々に存在していた 日本の 翻訳に関わる様々な過去の言及を1 榔 こまとめたこ とが挙げられる。従来翻訳研究が対象としてきたの は文学に関わる言及が中心であったが、このアンソ ロジ‑には文学以外に関わるテクス トが含まれてお り、翻訳研究の対象を拡大 しようという編者 らの試 みは注目に健する。字幕翻訳に関わるものや、森鴎 外 「『即興詩人』時代と現時の細評」など、従来顧み られることの少なかったテクス トをとりあげたこと も評価すべき点である。また、規範に注目した解題 と併せて読むことで、翻訳がオリジナルとその翻訳 のみから成る孤立 した空間で行われるのではな く, 翻訳者と翻訳者を囲む社会文化的文脈において行わ れることを改めて確認することができる。これ らの 点で、本番は翻訳や翻訳研究に関心をもつ読者に有 用なものとなるだろうO

(くわやま ・けいこ 東京外国簿大学博士前期裸程)

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