東京外国語大学
留学生日本語教育センター論集 33:97~110,2007
「アカデミック・ジャパニーズ」での教育項目について考える
-JLC日本語スタンダーズの作成に向けて-
坂本 惠
(2006.10.31 受)
【キーワード】 アカデミック・ジャパニーズ、日本語スタンダーズ、教育項目、
4技能
0 はじめに
東京外国語大学留学生日本語教育センター(以下「センター」)ではJLC日本語 スタンダーズの完成に向けて、第一段階の案を本年3月に作成した。(注1)JLC日 本語スタンダーズというのは大学で勉強、研究するために必要な日本語教育をどの ように考えるか、どのように教育していくか、その基準を示したものである。それ はセンターで行われている日本語教育は主に、大学での勉学に向けたものであるた め、そして、限られた時間の中で必要な能力を付けさせるという目的のために考え られたものである。本稿は「JLC日本語スタンダーズ」のめざすもの、その内容 について考えたものである。
1 JLC日本語スタンダーズについて
日本語教育において、初級、中級、上級などの学生のレベルをどう考えるか、各 段階でどのような教育を行うべきなのかなどについてわかりやすい基準を考えたい ということからJLC日本語スタンダーズが作成されることとなった。この場合、
全ての日本語教育で利用できるような汎用性の高い基準を作ることは難しいと考え、
ここでは、センターで行われている教育を中心に考えることとなった。センターで 行われている日本語教育は大学学部に進学するための予備教育である1年コースと、
本学に在籍する非正規の学生を対象とした全学日本語プログラムがその中心である が、どちらも大学での勉学を目的とした日本語教育であると言える。そのため、こ の、「大学での勉学を目的とした日本語」を「アカデミック・ジャパニーズ」とし、
この範囲での日本語の基準を考えた。
「アカデミック・ジャパニーズ」の定義はいくつかあり、大学で必要とされる日
本語、と考えた場合、大学内での生活で必要ないわゆる「キャンパスジャパニーズ」
を含んで考えることも多い。しかし、ここでは、限られた時間の中で、中心となる ものを限定して考えるという方針を採り、あくまでも授業、研究生活の中で使われ る日本語を中心にして考えることにした。これは、生活を軽視しているとか、「キャ ンパス・ジャパニーズ」は必要ではない、ということではなく、狭義の「アカデミッ ク・ジャパニーズ」を優先して考えたいということである。
「JLC日本語スタンダーズ」では、最終的に日本語の技能として何が必要かと いう観点から、技能別に「ゴール」を設定し、各技能で最終的には何ができるよう になることを目標と考えるかを決めた。「読む」では専門書、論文が読めるようにな る、「書く」ではレポート、小論文が書ける、などである。ただし、この最終的なゴー ルは例えば予備教育段階ではそこで達成しなければならない、というものではなく、
予備教育後の大学教育の中で達成されるものであると考えている。
レベルとしては初級、中級をそれぞれ前半後半に分け、さらに上級までを含んだ 5段階として考えた。上級段階でゴールに達することができる、ということではな く、予備教育段階ではここが到達目標となるだろうと考えたからである。初級、中 級段階にあっても、最終的なゴールを考え、それに向かうような教育を行いたい、
という観点から各段階での目標を立て、これを「行動目標」とした。この行動目標 を実現させるための具体的な技能として「スキル」を立てた。この「スキル」を達 成させるために具体的な教育があると考えている。
2 日本語の範囲 教育の範囲
「アカデミック・ジャパニーズ」とは具体的にはどのようなものだろうか。我々 の想定している留学生の日常の中での日本語使用を考えると、次のような場面が考 えられる。
言語活動 日常生活 家族、同居人との生活場面での会話(ホームステイ先を含む)
買い物、修理など、公共料金支払いなど 店の人との会話 知り合い(趣味などの同好の士なども含む)との会話 アルバイト先での会話
キャンパスライフ
調べる 案内、掲示を見る
事務手続き(事務職員などとの会話)
指導教員、研究室内の会話 クラスメートなどとの会話
サークル活動など(含先輩後輩関係)
アカデミック 授業に出る 講義を聴く(ノート)
試験を受ける、レポートを書く
ゼミ 発表する 質疑応答 教員とのやりとり
(ビジネス 面接 ビジネス場面での会話 -就職活動の場などで)
日本で教育を受けようとする留学生にとって、どの場面での言語生活も必要では あるが、学習期間の制約を考えると優先順位をつけざるをえない。また、この中で 特に訓練が必要で、自然習得が難しいものを考えると、優先順位の高いのはアカデ ミックな場面での日本語ということになる。そのような観点から、アカデミックな 場面で使われる、すなわち、大学での勉学に必要な日本語として「アカデミック・
ジャパニーズ」を中心に考えてきたのである。
実際の教育を考えると、アカデミック・ジャパニーズという観点から、初級、中 級、上級の学習項目を考えなければならない。アカデミック・ジャパニーズは主に 中、上級の学習項目を考える上で考慮に入れるべき要素ではあるが、初級において も優先順位をつける上で考慮すべき要素であると言える。初級ではすべてをアカデ ミック・ジャパニーズに即したものに限定して教えると言うことはできないかもし れない。すべての言語活動の基礎となるものという意味では、アカデミックとは言 えないものでも必要になるということもある。ただ、傾向として軽重をつけること はできるだろう。たとえば、「受け身」はいくつかの種類が考えられ、基本的なもの は当然最優先であるが、その他の項目としては、無生物主語の受け身、または、「考 えられる」などの主語のない受け身はアカデミック・ジャパニーズとして必須の項 目である。その反面、いわゆる被害の受け身などは、日常生活の中でのみ使われる、
いわば特殊なものであると考え軽く扱う、などの判断が必要となるということであ る。
アカデミックな場面以外の日常生活やキャンパスの中での場面も必要ない、とい うことではないが、それらはほぼ、初級会話の応用により可能となる。初級会話の 中で最低限必要なものを学習すれば、その後は場面の中で自力での学習も可能であ ろう。もちろん、時間の余裕があれば、キャンパスの中でよく使われる用語、会話 などを優先的に学習することもできる。いわゆる「キャンパスジャパニーズ」とい
われるものは、次のようなものを想定していると考えられる。
読む:履修案内、シラバス 事務手続き 掲示 書く:事務書類 各種申込書
聞く:説明を聞く
話す:事情を話す 手続きをする 学生、先輩、教師との会話
これに対し、アカデミックな場面に限定した場合、具体的に以下のようなことが 必要になってくるだろう。
読む:教科書、専門書を読む
書く:試験解答、レポート、論文を書く
聞く:講義を聴く 発表を聞く (レジュメを読む)(ノートを取る)
話す:発表をする 質疑応答をする 教員と話す(質問する、指導を受ける)
アカデミック・ジャパニーズにおいては、このようなことができるようにさせる ための教育が必要となる。このような専門的な分野に使われる日本語は日常生活だ けでは身に付かないものであり、特別の教育を必要とするものである。ただ、これ らについては、いわば、アカデミックな能力と言える、抽象的な思考、専門書の読 み書きなどのアカデミックリテラシーと言えるものと、それを日本語で実現するこ ととは別物である。母語でこれらの能力を身につけている場合には、それを支える 日本語のみを教授すればいいことであるが、母語でもこれらの訓練を受けていない 場合には日本語だけでなく、これらのアカデミックリテラシーも同時に教育してい かなければならないことになる。逆に言えば、日本語母語話者にとっても、このリ テラシーの教育は必要であり、これこそが昨今日本の大学教育で必要が叫ばれてい るものであろう。これを「アカデミック・ジャパニーズ」と呼ぶ向きもあるのでは ないか。
ここでは、大学進学のための予備教育の観点から、このリテラシーを含んだもの として考える。大学院進学のための予備教育ではこれらの能力はすでに母語で身に 付いているはずであり、予備教育の部分では日本語の部分だけを教育すればよいこ とになる。交換留学などの短期留学生に対する教育ではこの中間、学生によっては 日本語の部分だけでよいが、リテラシーも身につけさせる必要のある学生もいるこ とも事実であるので、両方が必要となる。いずれにせよ、本センターで考えるべき
教育は、この部分が中心になっていると考えてもよいと考えられる。そこで、JL C日本語スタンダーズにおいては、この部分を中心に考えたわけである。次の段階 として、キャンパスジャパニーズ、そして、生活の中の日本語についても教育の方 法を考えなければならないと言える。
3 4技能を考える
では、具体的に何を教えるか。どんなことが項目になってくるのか。JLC日本 語スタンダーズ策定に際しては、アカデミック場面に限定した言語使用から、各技 能の「ゴール」が考えられた。この目標、「ゴール」と言えるものは「読む」、「書く」
ではかなり限定される。教科書などの専門書、資料を読むこと、そして、レポート、
論文などを書くことになる。「読む」で言えば、書かれたものを時間をかけて、ある いは速読して読み進むことは他の人は関わらない、個人的な作業である。「書く」も 同じである。レポートなどを書くまでに資料収集、アウトライン作成などの段階を 経て、実際に執筆することはやはり個人的な作業であり、教師などの他者は途中の 段階でチェックする他は、できたものを見ることしかできない。「読む」「書く」は 学習者個人の中で完結する技能であると言える。
これに対し、音声言語、「話す」「聞く」は互いに関連が深く、また、学習者個人 の中で完結するとは言えないものである。何かの観点を持って整理の方向を決める ことが重要であろう。「読む」「書く」同様、個人の中で完結する(に近い)作業が 行われる「聞く」「話す」ものは「講義(など)を聞く」「スピーチ、研究発表をす る」ということになる。どちらも他者は余り関わらない、「独話」と言えるものを聞 いたり話したりするタイプである。これらは、「読む」「書く」同様の訓練ができる ものである。
これとは違ったタイプの「聞く」「話す」はこの2つの動作が同時に行われる「会 話」であろう。「会話」は一問一答、話し手と聞き手が交代するもので、わからなかっ たところを聞き返す、言い換えをするなどその場での工夫が必要であるという点を 考えると難しいものであると言えるし、また、逆にそのようなストラテジーを駆使 することができるため、やさしいとも言えるものである。日本語教育では初級の最 初は会話体から入る教育をする場合が多く、問われたら答える、という形の「会話」
には学習者は慣れている場合が多いと言える。特に「会話」の練習、という場合、
「依頼」「誘い」といった、ある表現意図をかなえたいといういわゆる「機能会話」
の形で練習することも多い。これはこれで必要な技能であろう。この練習には待遇
表現も絡むため、この練習はある意味では重要なものである。ただし、このタイプ の会話は決まった型も多く、事前に練習をすることも可能である。この他の「会話」
としては「おしゃべり」と言ってもよい、親しくなるための会話なども考えられる。
このようなやりとりをする「会話」として、発表における質疑応答、ディスカッショ ン、ディベートといった内容のあることについての話も考えられる。
アカデミック・ジャパニーズの範囲で考えれば、特に、このような、内容のある 会話はその範疇に入ってくるだろう。「独話」を話す練習の中で、自分の考えや、ま とまった意味のあることを構成して話す、つまり、自分の言いたいことを的確に伝 える練習として考えることができる。「独話」の練習はスピーチを目標とするだけで なく、「会話」の中で自分の考えを話したり、説明をしたりする練習と位置づけられ るものもあると言えるのである。また、このようなやりとりにおいては、相手の言っ たことを理解、特に言いたいことをつかむこと、そして、相手の話に適切に「つっ こむ」つまり、わからないところ、不明なところ、あるいは疑問点のあるところを その場で考え、その問題を質問ができるようになるというような技能が必要になる。
これは「聞く」技能と言うことになるが、「独話」を聞いて理解する練習の中で行う ことができるものであると言える。
従って、アカデミック・ジャパニーズの中での「会話」は主に、質疑応答、ディ スカッションなどであるが、それも基本的には「独話」を話す、聞く、の練習の中 でその基礎が養成されるものであると言える。
4 教育項目 何を教えるか
4技能をアカデミック・ジャパニーズの観点から音声言語においても独話に限っ て考えると、音声言語、書記言語において、それぞれ、理解と表現(表出)に分け て考えることができる。次のような関係である。
理解 表出
音声言語 聞く 話す
書記言語 読む 書く
人の言語活動を表出の面から考えると次のようになる。まずは書記言語(「書く」) で考える。
Ⅰ 大枠の設定
○目的・意図 何のために書くか、どのような種類の文であるか(表現意図)
例 説明:事物について説明し、読み手に事実を理解してもらうため 意見表明:何らかの考え、意見を読み手に理解してもらうため 要求:自分のしたいこと、相手にしてもらいたいことを
読み手にわかってもらう、その要求をかなえてもらいたい 感想:何かの問題についての自分が感じたことを表明したい それを読み手にわかってもらいたい
論文:論を立てて主張する
○対象・媒体 誰に向かって書くか 何の媒体で書くのか 例 手紙:特定の相手に向かって
レポート・試験:課題を出した教員に向かって
あるいは 相手は特にいないと考えるか レポートなど、一つの形式として
記事:新聞などの読者に向かって事実を述べる 投書:新聞などの読者に向かって自分の意見を述べる 作文:誰に向かって書くのか不明(練習のために)
→目的、媒体は書く場合の文体や全体の調子に影響が大きい。
○態度 真面目に、ふざけて、熱心に、投げやりに など、書く時の態度はどうか ○内容 何について書くか(テーマ)
Ⅱ 構成
○アウトライン: 導入、本論、まとめ でどんな内容を書くか
序論:課題の提示、目的の提示、テーマの説明、先行研究、問題点の提示 本論:章立て 段落構成
どのような内容について書くか どのような展開で書くか 結論、まとめ:結論をどう書くか まとめとしては何を書くか
Ⅲ 段落単位
本論執筆の際の一段落程度のまとまり、部分、パーツとなる項目 定義・分類、変化、対比・比較、原因の考察、列挙、引用 同意、反論、帰結
仕組みの説明、歴史的な経緯の説明、分類、定義、比較・対照、因果関係 まとめ:感想、将来の展望、全体をまとめる など
Ⅳ 1文単位
文型、表現のレベルで、次のような項目が考えられる。
比較、様子・類似、程度・変化、対比・逆接、伝聞、時、様子・推測、予想・
期待原因・理由、説明・結論 Ⅴ 語レベル
具体的な表現、語彙、文末表現、文型、文字
最終的な成果物として出てくるのは最後のレベル、漢字、語彙、表現からなる文で あり、それがまとまった形での段落であり、一つの完成した形としての文章である ということになる。
書記言語の理解活動(「読む」)についてはちょうどこれと反対の活動が行われる ことになる。目にすることができるのは、「書く」の最終的な成果物である一つの完 成した文章である。それらは段落に分けてあり、そして、それぞれ語彙や表現が選 ばれている。そして、それが漢字を含む適切な文字で書かれているというわけであ る。「読む」際にはこの文字を見ることから始まる。ここであげた各項目は「書く」
を中心に、アカデミックジャパニーズ、中・上級の教科書から選んだ項目であり、
一つの例である。(注2)
書記言語 理解「読む」
Ⅵ 媒体は何か:専門書、レポート、新聞記事、手紙、ホームページ など Ⅴ 語レベル 文字 語彙
Ⅳ 文レベル 語彙、文法、表現、文末表現 文体 助詞相当語 指示語 従属節 接続表現 反語疑問詞 文の種類: 事実文、意見文、行動文
Ⅲ 段落レベル :中心文 支持文
分類、定義、経過、比較・対象、原因・結果、(位置)、列挙・順序、
根拠・理由 意見表明 Ⅱ 文の構造
構造:導入→本論→まとめ アウトラインを考える
背景説明、問題提起 意見・主張 論拠 データ提示 展望 Ⅰ 最終的に理解すべきこと
どのような性質の文か 意見表明/説明/感想を述べるなど(筆者の表現意図)
何について述べているのか 述べたい内容は何か 主張は何か
さらに次の段階として、理解者としての態度、意見もあるだろう。
0 感想、評価 反論/同意/支持
音声言語(独話)の場合も書記言語のようには時間がかけられない、という点は 異なるが、基本的には同様に考えられる。特に、「スピーチ」など準備したものでの 表出「話す」は「書く」と同様の段階を踏むと考えられる。
音声言語(独話) 表出「話す」
Ⅰ 大枠の設定 スピーチ/研究発表/説明
場と相手 1対多/1対1 改まった場/くだけた場
相手 多の場合:クラス/クラスメート/研究発表会/講演会など 1の場合:クラスメート/先輩/指導教員/その他の人
Ⅱ 構成
Ⅲ 段落単位 →この部分が会話においても「話す」のパーツとなる …(以下、「書く」と同じ)
「聞く」の場合は準備も難しく、また、通常の生活の中では後で聞き直すこともで きないので、独話を「聞く」場合が最も難しいと言え、特別の訓練、練習が必要と なるだろう。
音声言語(独話) 理解 「聞く」
0 何をどのように聞くのか
○状況、条件 どのようなものを聞くのか
講義?研究発表?スピーチ? 誰が?何のために? テレビ、ラジオなど ○目的 何のために聞くか
講義、講演を理解する/聞いて楽しむ/
情報を得る(テレビ、ラジオなどのニュースや解説など)/
必要な情報を得る(天気予報など自分にとって必要なところだけを聞く)
1 聞く
語彙、文 → 文としての意味の理解 重要な部分か、それほど重要ではない部分か
全体として何の話をしているのか、そのどの部分に当たるか 2 メモ、ノートを取る
聞いた語彙、表現を書き取る 章立てをして書く
わからないところがどの部分であるか、その手がかりとなるものを書く 3 聞いた後で 内容について振り返る 話をまとめる
何の話だったか
話し手の伝えたいことは何だったのか 必要な情報は得られたのか
(注3)
5 スタンダーズのスキルはどのように設定できるか
スタンダーズ策定に当たっては、学習段階の各段階ごと、5技能ごとにそこでの 到達目標を Can-do-statement の形で掲げた。「到達目標」はアカデミック場面を 想定し、そこで何ができるか、という観点で選んだものである。「スキル」はその到
達目標を達成するために必要な個別の「技能」とも言えるもので、場面を切り離し た形で記述してある。これは純粋に言語的な能力を向上させるための訓練と言って いい部分である。
ここで考えたいのは、その訓練をするための、内容に関する「項目」である。ス タンダーズをもとにした教育で、どのようなことを学習項目として考えてゆけばよ いかということである。「学習項目」というと、初級、中級では文型、語彙などがあ げられるが、独話の形成、理解を目的とした場合、どのようなことが学習項目とし て考えられるのか、どのような部分に分けて教育を行えばよいのかについて考える 必要があるということである。
「学習項目」を考える上で、理解、表出の各段階ごとに見る必要がある。「理解」
「表出」ともにそのテキストの、テキスト全体の単位(文話単位)での筆者(話者)
の伝えたいこと(表現意図)、内容はどのようなものであるか(内容)、そしてその 種類(内容の類別)について、整理された「項目」に分類していく、という作業を することになる。そのために、「表現意図」「内容」「類別」などについてその項目を 整理する必要がある。この段階のものは文章全体を覆う、全体の方向付け、性格付 けに関係するところであるので、(読み、書き、話す、聞くの)学習の前にこれを決 定しておく必要がある。
次に構成、アウトラインであるが、表出面ではこれを先に決定しておき、理解面 では、全体の文の意味の理解ができた段階で文章全体の構成を考えるという順序と なる。これは、前段階である「表現意図」「類型」「対象」などに向けて、どのよう な構成が考えられるかという組み立てが必要ということになる。
次に、「段落」の段階となる。各「段落」としては、どのような種類の類別が可能 か、明らかにする必要がある。その上で、「理解」では段落ごとにそのラベルを貼っ ていく、という作業が、そして、「表出」ではそのラベルに従った段落内の構成をす ることになる。「表出」においては、一つの完結した文章を書かせる前に、この、段 落単位の、いわばパーツの練習をさせていくことができる。この段落単位の練習の 際に、一文単位の典型的な文、文型が生きることになる。
以上のような考えに基づくと、上に上げた、理解、表出の各段階での項目「例」
を精査し、教育項目として確定してゆかなければならない。今後その作業を行って いきたいと考えている。
6 おわりに
大学で必要な日本語を獲得させるための教育基準を決めたJLC日本語スタン ダーズは今後、内容を精査するとともに、実際の教育をどのように行っていくかに ついても考えなければならない。その際に必要となる教育項目を整理、精査して、
確定し、実際の練習としてはどのようなものがあるのか、教育の例を通して具体的 な指導法を考えていきたいと思っている。
注1 2006.5『JLCシンポジウム報告書-日本語スタンダーズを考える』
東京外国語大学留学生日本語教育センター 注2 以下の教科書を参考にした
2001『大学・大学院 留学生の日本語1読解編』
アカデミック・ジャパニーズ研究会 アルク 2002『大学・大学院 留学生の日本語3論文読解編』
アカデミック・ジャパニーズ研究会 アルク 2002『大学・大学院 留学生の日本語4論文作成編』
アカデミック・ジャパニーズ研究会 アルク 2000『留学生のための論理的な文章の書き方』二通信子・佐藤不二子 スリーエーネットワーク 1997『論文ワークブック』浜田麻里他 くろしお出版
2002『日本語作文の方法』佐藤政光他 第三書房
2002『ニューアプローチ中級日本語基礎編』日本語研究社教材開発室 2002『ニューアプローチ中級日本語完成編』日本語研究社教材開発室 2004『自己表現の技法』畑山浩昭他 実教出版
2001『国境を越えて』 山本富美子 新曜社
注3 以上の内容を図示すると以下のようになる。
まとまった内容のあるもの(独話) 書記言語/音声言語
表現 (生成物)
理解
内容 構成 段落
態度(評価・感情) 導入 語彙 いい、悪い 本論
おもしろい、つまらない 例 文 文法 ニュートラル…… 定義など 表現 意図 ……
(書記)事実文 脱線 文末表現 説明文 文体 まとめ ……
意見文 まとめ 感想文 感想 エッセイ(作文) 問題、展開 手紙、日記など……
(音声)叙述 質問 意見
……
場面 (書記)媒体(何に?)/対象 (音声)媒体(何で?) 電話など 場 改まり度 待遇表現 人 人間関係 待遇表現 対象(人間性)
会話
1 依頼など行動展開 相手の反応を挟みながら意図を完遂できる 感謝など理解要請 同上
2 総合的なもの 上記のものが短時間に相互に行われる
相手の言うことを理解する、要点、つっこみどころ、ターンを取る 方略必要
→AJ:ディスカッション 質疑応答 会議 (おしゃべり)
Examining Learning Points in Academic Japanese
SAKAMOTO, Megumi
The Japanese Language Center for International Students, Tokyo University of Foreign Studies (JLC TUFS) is now in the process of creating "JLC Japanese Standards," which delineate clear criteria for the core academic Japanese skills in Japanese-language education. We limited the range of
"academic Japanese skills" to Japanese-language skills required for study at Japanese universities. After examining all language skills, we decided to focus on monologues, both in terms of "speaking" and "listening" skills. We consider
"conversation skills" to be interactive activities that involve both speaking and listening and separated them from monologues for our purposes. We took into consideration that "monologues" are both "understood" and "expressed" through
"spoken" and "written" language. We are striving to find the best teaching methods for learners to achieve their own goals in each language skill. We plan to continue to examine our educational methods and determine the "learning points" necessary to achieve the most effective Japanese-language education possible.