キャリア・アンカーと仕事意識 : 技術者を中心に
著者 佐藤 厚
出版者 法政大学キャリアデザイン学部
雑誌名 法政大学キャリアデザイン学部紀要
巻 6
ページ 139‑180
発行年 2009‑03
URL http://doi.org/10.15002/00007353
キャリア・アンカーと仕事意識――
技術者を中心に
法政大学キャリアデザイン学部教授
佐藤 厚
(構成)
1. 問題意識と分析視点
2. 人的資源管理の変化と方向性
3. 自信ある技術・分野の形成のプロセス 4. 自信ある技術・分野と仕事意識
5. 人的資源管理の重視事項と技術者の意識の乖離 6. まとめと含意
1. 問題意識と分析視点
本稿のねらいは、技術者が入社してから管理職になるまでのキャリアのプロ セスに焦点を当てながら、主として「自信ある技術・分野」(=本稿ではそれ をキャリア・アンカーと呼ぶ)の形成と初期キャリア管理の在り方の重要性を 実証的に明らかにすることにある(1)。
いわゆる初期キャリアの重要性については、すでにいくつかの研究において 指摘されてきた(2)。初期キャリアに厳密な定義があるわけではないが、入社→
初任配属→異動・ローテーション→昇進という雇用管理のなかでの初期段階と しよう。したがって標準的な新卒社員の場合、入社してから10年目程度、年齢 的には30歳代前半期までの時期にあたるとみてよい。ここで初期キャリアを研 究する意義としては以下が考えられる。
第1に、初期キャリアの考察は、いわゆる「7・5・3」と呼ばれる新規学 キャリア・アンカーと仕事意識――技術者を中心に 139
卒者の早期離職を抑制し定着と適応を促す方策を探る上で有意義である。
第2に、初期キャリアの考察は、人材がどのような経験を経て「一人前にな る」のか、その過程を明らかにすることとほぼ直接結びついているという意味 で有意義である。それはまた「キャリア・アンカー」や「一皮むけた経験」(3)
などの概念理解にとって実証的な知見を付加しうる。
第3に、初期キャリアの考察は、いわゆる「高業績」技術者(4)の人材育成の 環境条件や如何という文脈での配置・異動・昇進・仕事の経験、総じてキャリ ア形成の過程の在り方への問題関心にとって有益である(5)。
これらの意義をもつ初期キャリアの在り様と企業のキャリア管理の仕組みを 電機メーカーで働く技術者を対象としたアンケート調査データを分析すること で明らかにしてみたい(6)。
以下、本稿では次のような手順で論述を行う。図1の枠組みによりながら説 明しよう。
第1に、組織内でのキャリアの在り様は、企業の人的資源管理(Human Re-
source Management,以下HRMと略)の仕組みや方針と無関係ではない。
そこで、働く側のキャリア形成に影響を与える変数として調査対象となった電 機メーカーの人的資源管理を最近の変化も含めてその輪郭を明らかにする必要 がある。この点の解明は技術者のキャリアの過程にアプローチする際の前提と して重要である。
第2に、そうしたHRMの仕組みや方針の下で、人のキャリアや仕事意識の 実態の解明が必要である。すなわち、技術者が入社し、初任職場に配属され、
やがて異動し、リーダーや管理職を経験する、といったイベントをどのような タイミングで経験しているのか。そしてその際に自分が「自信をもつ技術・分 野(=キャリア・アンカー)」といえるものがいつ頃なにをキッカケとして形成
図1 分析枠組み
人的資源管理(及び変化)
↓
自信ある技術・分野(キャリア・アンカー)の形成過程
↓
職務能力・やりがい感・会社観・仕事意識・キャリア志向 140 法政大学キャリアデザイン学部紀要第6号
されたのか(7)。さらにその有無が技術者自身による職務能力・やりがい感・会 社観・仕事意識・キャリア志向などとどのように関係しているのか。これらに ついて明らかにする必要がある。
第3に、企業の人的資源管理の方向性と技術者の側からみたキャリア形成や 仕事意識の実態とがどの程度整合しているか、整合してない場合、その課題は 何かを分析し、今後の人的資源管理の在り方に対してもつ含意を探ることにし たい。
2. 人的資源管理の変化と方向性
以下では、調査対象となった企業の経営状況に一瞥を与えたのち、HRMが 過去5年間でどのように変化したのか、さらに今後はどのようなことを重視し ていこうとしているのか、について分析してみよう。
(1)経営状況
企業サンプル63社の経営と雇用を概観すると次のようになる。第1に、1992 年以降、経営危機があった企業は73.0%、うち約半数が1997年から2002年まで の間に起こっている。第2に、過去5年間(2002〜2007年。以下同様)の業況 は「上昇傾向」が31.7%、「下降傾向」が17.5%と回復傾向にある。第3に、
売上に占める研究開発費と教育訓練費の割合の推移を過去5年間についてみる と、研究開発費の割合が増加した企業は20.6%(減少したのは15.9%)、教育 訓練費の割合が増加した企業は22.2%(減少したが12.7%)となっており、と もに増加が減少を上回る傾向にある(8)。第4に、直近決算時の正社員数の平均 は5,614人、このうち技術者の比率は企業規模にもよるが平均43.9%である。
第5に、過去5年間において正社員、技術者は減少の傾向を示している(「減 少した」企業は社員全体(技術者)で42.9%(30.1%)だが、「増加した」企 業は社員全体(技術者)で17.5%(25.3%)であった)。
このように、1990年代後半から深刻な経営危機に襲われたものの、その後 2000年初頭に入って、雇用は減少気味だが、経営は回復にむかいつつあること がうかがわれる。また同時に研究開発や教育訓練投資が増加しつつある点も見 落とせない。
キャリア・アンカーと仕事意識――技術者を中心に 141
(2)過去5年間での人材マネジメントの変化
経営と雇用について近年の変化を概観したが、それでは人材マネジメントの ほうはどうか。表1は人材マネジメントの過去5年間での変化と今後重要視す る施策をみたものである。ここから以下が指摘できよう。
第1に、会社全体レベルの人材マネジメント施策のうち、過去5年間で強 まったもの(括弧内数値は「強まった」+「やや強まった」の合計)として挙 げられたものをみると、まず「中途採用」(79.4%)、次いで「有能な若年社員 の早期の昇進・昇格」(76.2%)、さらに「経営理念や方針の社員への意識付 け」(68.3%)などが挙げられ、いずれも6〜8割近くに達する。また「外部 人材の活用」(63.5%)、「企業戦略と整合的な人材配置」(57.1%)なども5割 を超える。これに対して、「長期安定雇用」(6.4%)、「労使間における協議」
(30.2%)、「管理職と専門職のキャリアの複線化」(22.2%)などは大きな変化 がみられなかった施策である。なおこうした傾向は技術者のレベルでの人材マ ネジメントにおいても当てはまる。
表1 人材マネジメントの変化
過去5年間で強まった事項 今後重視する事項 人材マネジメントの変化 ・中途採用(79.4%)
・有能な若手社員の早期の 昇進(76.2%)
・経営理念や方針の社員へ の意識付け(68.3%)
・経営理念や方針の社員へ の意識付け(65.1%)
・企業戦略と整合的な人材 配置(57.1%)
・労 使 間 に お け る 協 議
(47.6%)
技術者の能力開発 ・全 社 員 対 象 の 教 育
(46.2%)
・個人能力を高める教育訓 練(49.2%)
・長期的視野に立った能力 開発(58.7%)
・社 員 選 抜 に よ る 教 育
(44.4%)
成果主義及び賃金制度 <成果主義的人事制度>導入割合(85.7%)
<賃金制度>
・個人の業績や能力を評価する賃金制度多い
・役割給制度のある企業(44.4%;技術者を対象に役割 給に改定した企業は60.7%)
142 法政大学キャリアデザイン学部紀要第6号
第2に、人材マネジメントの今後の重視度をみると、重視度の多い順に「経 営理念や方針への意識付け」(9)(65.1%)が最も多く、「企業戦略と整合的な人 材配置」(54.0%)、「労使間における協議」(47.6%)、「有能な若手社員の早期 の昇進・昇格」(38.1%)がこれに続いている。「外部人材の活用」(3.3%)は 少ない。なお、技術者への人材マネジメントとして重視するものも全社レベル での傾向と大きな差異はなかった。
(3)技術者の能力開発
一方、技術者の能力開発についてはどうか。まず過去5年間での技術者に対 する能力開発の方針についてみると、「全社員対象の教育」(46.2%)、「現職務 に 対 応 し た 教 育・能 力 開 発」(44.4%)、「個 人 能 力 を 高 め る 教 育 訓 練」
(49.2%)などが多かった。ところが、今後5年間で重要視する方針をみると、
「現職務に対応した教育・能力開発」(17.5%)から「長期的な視野に立った 能力開発」(58.7%)へ、「全社員対象の教育」(31.7%)から「社員選抜によ る教育」(44.4%)へと能力開発に対する考え方に変化がみられる。また「従 業員の教育訓練は企業の責任」も増える傾向にある。
(4)人事考課と成果主義型人事制度
これまでも、いわゆる人事管理の成果主義型への変更という流れが指摘(10)
されてきたが、その点についてはどうか。
まず、技術者に対する人事考課制度をみると、複数回答で多い順に「目標管 理」(93.7%)、「能 力 評 価」(82.5%)、「行 動 評 価」(69.8%)、「絶 対 評 価」
(61.9%)などであった。上司と話し合って目標を決め、その達成度で評価す る目標管理、あるいは能力評価で考課を行うケースが多い。
次に成果主義型人事制度の導入状況をみると、導入している企業は全体の 85.7%、企業規模が大きくなるにつれ、また技術者比率の高いほど導入率も高 まる傾向にある。制度を導入した時期の多くは2000〜2004年が50%と最も多 く、1995〜1999年が22.2%とこれに続く。90年代中盤以降急速に導入が進んだ ことがうかがわれる。制度の対象職種は「すべての職種」が85.3%と多く、「技 術 系(SE含 む)」(13.0%)、「技 術 系」(13.0%)、「営 業・販 売 系」11.1%な キャリア・アンカーと仕事意識――技術者を中心に 143
どは少ない。
では、成果主義型人事制度を導入した理由は何か。「従業員のやる気の促 進」(74.1%)、「評価・処遇制度の納得性の向上」(72.2%)、「従業員個々人の 目標の明確化」(48.1%)、「賃金における勤続部分の廃止・縮小」(46.3%)と なっており(いずれも複数回答)、モラールアップや納得性の向上を狙って成 果主義を導入したケースが多いといえる。
(5)賃金制度
対象企業の85.7%が成果主義型人事制度を導入していることがわかったが、
成果主義型人事制度の導入は賃金制度の改革を伴う場合が多い。そこで賃金制 度についてみると以下が指摘できる。
第1に、技術者に対してどのような制度が導入されているかをみると、個人 業績を評価し賃金に反映するタイプの制度導入が多い。すなわち「賞与など・
個人業績と連動する部分」を導入する企業は9割強(92.1%)、「基本給・個人 の成果・業績評価部分」および「基本給・職務遂行部分の評価部分」を導入す る企業はいずれも8割強(81.0%)であり、個人の業績や能力を評価する賃金 制度の導入割合が多い。これに対して「基本給・組織の成果・業績部分」を導 入する企業は12.7%と少ない。業績といっても組織業績よりも個人業績が重視 されていることがわかる。なお、こうした基本給、賞与における個人業績部分 を重視するという傾向は、今後5年間においても大きくはかわらない。
第2に、成果主義型人事制度の導入に伴う賃金制度の一つとして注目されて いる役割給(11)についてである。結果をみると、役割給制度がある企業は44.4%
である。役割給が「ある」場合には技術者を対象に改定したケースが多く
(60.7%)、その改定内容は「役割・等級基準の明確化」70.6%、「他制度から 役割給制度への変更」(58.8%)などが多い。さらに制度を導入・改定した理 由としては「業務内容と処遇の関連の明確化」(76.5%)、「評価・処遇制度の 納得性の向上」(64.7%)、「年齢・勤続部分の廃止・縮小」(58.8%)が多い理 由の3位であった。
144 法政大学キャリアデザイン学部紀要第6号
(6)小括
1990年代後半以降、多くの電機メーカーは経営と人事管理の両面で大きな変 化を経験してきた。今後5年間で研究・開発投資とともに技術者への教育訓練 投資の比重も高めようとする姿が浮かび上がってくる点が見落とせない。
人事管理についてみると、今後重視する事柄の上位に挙がってきた「経営理 念や方針の社員への意識付け」や「企業戦略と整合的な人材配置」と他方で重 視されている賃金制度改革のキーワードとしての役割給の導入といった傾向に 注目しておきたい。経営理念を社員に浸透させること、企業戦略と人材配置を 整合させること、これが経営の構えであるが、その実現にはなんらかの制度的 装置が必要だ。それが役割給だと読めるからである(12)。
もうひとつ、経営理念を社員に浸透させること、企業戦略と人材配置を整合 させること、人材投資を行うこと、前述したこれらの重視事項はいずれも戦略 的人的資源管理(SHRM:Strategic Human Resource Managementの略)
の考え方と整合的である点も見落とせない(13)。競争力の源泉となる人的資源 の開発をベースに戦略にフィットしたHRMを構築する、これがSHRM論の 説く方向性であり、それと日本の電機メーカーの重視する方向とが軌を一つに しているからである。
そうであるなら、経営理念の社員への浸透や企業戦略と人材配置の整合の基 礎をなすであろう適材適所と技術者の人材育成が重要となる。とりわけ技術者 の人材育成のプロセス、つまり技術者は各々の専門分野で能力発揮のベースと なる「自信をもつ技術・分野(=キャリア・アンカー)」がいかなるプロセス を経て形成されていくのか、またその形成の有無が会社観やキャリア志向、仕 事意識にどのような影響を与えているのか――これらの解明が欠かせない。
以下、3では「自信をもつ技術・分野(=キャリア・アンカー)」形成の過 程を、4では仕事意識への影響について、それぞれ明らかにしていくこととし よう。
3. 自信ある技術・分野の形成のプロセス
冒頭に記したように、技術者が入社し、初任職場に配属され、やがて異動し リーダーや管理職を経験する、といったキャリアイベントをどのようなタイミ キャリア・アンカーと仕事意識――技術者を中心に 145
ングで経験しているのか。そしてその際に自分が自信をもつ技術・分野といえ るものが、いつ頃なにをキッカケとして形成されているのか。さらにキャリ ア・アンカーの有無が技術者の職業能力の他社通用性評価や仕事意識にいかな る影響を与えているのか――。これらが以下での分析課題である。
3−1 「自信ある技術・分野」(=キャリア・アンカー)の分析がなぜ意味が あるのか?
アンケート結果の分析に立ち入る前に、本稿の鍵概念をなす「自信ある技 術・分野」(=キャリア・アンカー)の分析が、「経営理念を社員に浸透させ る」あるいは「企業戦略と人材配置を整合させる」といった今後重要視されて いる人的資源管理の方向に照らしてなぜ重要なのか、この点について簡単な整 理をしておくのがよいであろう。
第1に、すでに注1に記したように、キャリア・アンカーとは、「適してな い仕事についたとき、自分にもっと適しているなにかに引き戻されている」と いうイメージ(=錨を下ろしている)であり、「個々人の内的キャリアの安定 性の自己認知の源泉」(14)である。「個々人は初期の職業経験を経るにつれて、
内的な達成感や満足と外的なフォードバックとのマッティングをベースにした 自己イメージを形成し始める。換言すれば、個々人は自らが得意と感じている ものと他者から(「彼はあれが得意だ」と――引用者)認知された外的フィー ドバックとの観点から自らを定義するのである」(15)。
またこの概念は「いかにして管理職へのキャリアが形成されているのか」と いう問題意識から浮かびあがってきたという経緯を有しており、その意味でも 本稿で焦点を当てる入社→配置・異動→昇進というキャリア管理や如何という 問題意識と実質的に重なっている。
第2に、キャリア・アンカー概念は、個人と組織のニーズのマッティングを 図る際に有意義な概念だということである。つまりキャリア・アンカー概念 は、「キャリア選択がどうなされるべきかを特定することを通じて、人を安定 化させ内的なキャリアに意味を与えるものであり、その結果、ヒトと組織の要 求のマッティング機会を高めることに貢献する」(16)。その意味で今後の人的資 源管理で重要視されている(企業と技術者のニーズの合致という)事項の実現 146 法政大学キャリアデザイン学部紀要第6号
を考察するに際して、技術者の側からみたキャリア・アンカーの形成過程を探 ることは重要である。
第3に、本稿で分析するサンプルは技術者であるから、Scheinのいう八つ のコンピテンスにそっていえば、技術的・職能別コンピタンス(Technical/
Functional Competence)に該当していると考えられる(17)。だが、専門・職能 的コンピテンスの(とりわけ日本的文脈での)経験的分析と知見の蓄積は課題 であり、日本の電機メーカーに勤務する技術者のサンプル分析はその意味でも 有意義である。
3−2 自信ある技術・分野の有無と技術者の属性
注1に記したようにキャリア・アンカーという概念を「自信ある技術・分 野」という調査票の設問から操作的な概念化を行い、経験的な分析を施す。こ れが本稿のねらいであった。
それでは自信ある技術・分野のある技術者とはどのようなものか。表2は自 信ある技術・分野の有無につき技術者の属性をみたものである。この表2から いくつかのことが指摘できるだろう。
第1に、自信(アンカー)のある者は、性別では、女性より男性の方が多い こと、学歴別では、高卒がやや多いがそれ以外は強い相関がみられないこと、
年齢別では、20歳代では少なく、その後30歳代にかけて漸次増加すること、職 種では、開発・設計でやや少なく、技術管理・特許管理でやや多いこと。これ らがこの結果から知られることである。
厳密な検証はこれからの課題だが、荒っぽくいえば、入社する前の最終学歴 の影響は小さく(最終学歴と自信(=アンカー)の有無とはあまり相関してな い)、むしろ年齢の影響が大きいことから、入社後の仕事経験の蓄積による効 果が少なくないことが示唆されている(18)。
第2に、組合員レベルでみると「十分自信ある技術・分野がある」と回答し た技術者の割合は約1割、「ある程度自信ある技術・分野がある」と回答した 技術者と合わせると67.7%を占める一方で、「あまり自信をもてる技術・分野 はない」と「自信をもてる技術・分野はない」と回答した技術者も32.3%と3 分1程度存在している。
キャリア・アンカーと仕事意識――技術者を中心に 147
表2 自信ある技術・分野の有無と技術者の属性 十分自信を
も て る 技 術・分野が
ある
ある程度自 信 あ る 技 術・分野が
ある
あまり自信 をもてる技 術・分野は
ない
自信をもて る技術・分 野はない
合計
(性別)
男性 n=3465 11.9 56.9 27.1 4.1 100.0 女性 n=174 3.4 42.5 47.1 6.9 100.0
(年齢別)
24歳以下 n=47 2.1 19.1 44.7 34.0 100.0 25〜29歳 n=597 6.7 43.6 42.9 6.9 100.0 30〜34歳 n=1073 10.6 57.8 28.6 3.0 100.0 35〜39歳 n=1067 12.3 60.7 24.0 3.0 100.0 40〜44歳 n=659 14.7 60.4 20.9 3.9 100.0 45〜49歳 n=125 17.6 60.8 19.2 2.4 100.0 50〜54歳 n=35 17.1 48.6 25.7 8.6 100.0 55歳以上 n=8 12.5 37.5 37.5 12.5 100.0
(職種別)
調査・企画 n=69 11.6 53.6 27.5 7.2 100.0 基盤研究 n=65 13.8 61.5 24.6 0.0 100.0 応用研究 n=129 13.2 63.6 21.7 1.6 100.0 開発・設計 n=2135 10.4 56.8 28.5 4.3 100.0 生産技術・IE n=403 16.1 59.1 22.6 2.2 100.0 生産管理・品質管理 n=166 10.2 56.6 28.9 4.2 100.0 技術管理・特許管理 n=60 25.0 10.0 15.0 10.0 100.0 情報処理・ソフト開発 n=343 10.2 51.3 32.7 5.8 100.0 営業・技術サービス n=141 11.3 57.4 27.0 4.3 100.0 その他 n=121 9.9 43.8 39.7 6.6 100.0
(社外職業能力通用性)
通用性がない n=1662 9.0 68.3 20.8 1.9 100.0 通用性がある n=638 35.0 57.4 6.6 1.1 100.0
(組合員と管理職)
組合員計 n=3639 11.5 56.2 28.0 4.3 100.0 管理職計 n=615 22.9 64.4 11.9 0.8 100.0
148 法政大学キャリアデザイン学部紀要第6号
第3に、労組員と管理職とで自信ある技術者の割合が異なっており、管理職 の方が自信ある技術者が多い。自信ある技術者は労組員レベルでは6割強だっ たが、管理職レベルでは9割弱(87.3%)に及ぶ。管理職の大半は自信ある技 術・分野を保有しているといえる。このことは管理職になるまでに一定のキャ リア・アンカーを形成しているか、もしくはキャリア・アンカーを保有してい るので管理職になったという可能性を示唆している。
3−3 自信ある技術・分野の有無と技術者の業績・評価
次に、自信ある技術・分野の有無と技術者の評価や業績とはどのような関係 にあるのか。この点についてみたものが表3である。ここでは、業績の高低を 注記したような同期と比べた際の昇進速度、特許出願件数、さらには技術報告 会などの指標で測り(19)、それと自信の有無とをクロス集計した結果である。
それによると、高業績者の場合、「自信ある」者が20.1%、「ある程度自信あ る」を合わせると82.8%を占めており、自信ある分野のあるものが大半に及 ぶ。これに対して、普通業績者では自信ある技術・分野のある者の割合は
表3 自信のある技術・分野(キャリア・アンカー)のある技術者と業績評価 自信ある
技術・分野ある
自信ある 技術・分野ない
合計
高業績者 n=326 82.8 17.2 100.0 普通業績者 n=1739 66.5 33.5 100.0 低業績者 n=538 58.6 41.4 100.0 注1:高業績者は「同期と比べて昇進がかなり早い方だ」+「まあまあ早い方だ」
に該当し、かつ過去3年間で「特許出願件数が1回以上」、「特許関連報奨金 総額が1万円以上」、「社内技術報告の回数が1回以上」のいずれかの実績の ある者を指す。普通業績者は「昇進がほとんど同じくらい」に該当する者を 指す。
低業績者は「同期と比べて昇進がやや遅い方だ」+「非常に遅い方だ」に 該当し、かつ過去3年間で「特許出願件数」、「特許関連報奨金総額」、「社内 技術報告の回数」のいずれにおいても実績のない者を指す。
2:表3の Pearson のカイ2乗検定値は54.385、自由度2.000で漸近有意確率(両 側)は0.000<有意水準=0.05で有意である。
キャリア・アンカーと仕事意識――技術者を中心に 149
65.5%、低業績者では、58.6%となっておりその割合は相当に低下する。
以上要するに、自信ある技術・分野の有無と技術者の評価や業績とは相関し ており、自信ある技術・分野のある技術者の評価や業績は高いといえる。
3−4 自信ある技術・分野の形成プロセス
ここでは、自信ある技術・分野はどのようにして形成されるのか、その形成 プロセスの輪郭を、学校卒業→入社→初任配置→異動・ローテーションの流れ にそって描いてみたい(20)。
(1)初期キャリアのプロフィール
まず技術者の初期キャリアのプロフィールをみてみよう(表4)。技術者の 最終学歴をみると、大卒が39.0%で最も多く、これに修士卒36.3%が続いてい る。採用形態では中途採用が少なく、定期採用で入社したものが大半を占め る。入社直後の職種で最も多いのが開発・設計(55.3%)、生産技術/IEが 10.6%、ソフト開発10.3%がこれに続く。今の職種もこれと大きく違わない。
担当製品分野では、家庭用電気機器(22.5%)、電子部品関係(16.9%)、ソフ ト開発(14.1%)となっている。
それでは、自信ある技術・分野の形成はいつ頃なされているのか。技術・分 野の形成と関連のあるチームのまとめ役になった時期なども含めてその平均値 をみると、組合員全体の平均年齢は35.7歳、勤続年数は12.5年である。
まず、現在の職位をみると、担当レベルが26.0歳、リーダーレベル(主任、
係長、チームリーダー相当)が33.2歳と、リーダーレベルが約7歳年長であ る。ちなみに今回の調査では、初めてチームのまとめ役になった年齢もきいて いるがそれは32.4歳。リーダーレベルの年齢よりも少し若い(21)。
次に、自信をもって取り組める技術・分野に関連した仕事を始めた時期は 27.1歳、自信をもった時期は31.2歳であり、4.1歳のズレがある。つまりその 分野で仕事を始めてから平均して4.1年で自信をもったことになるが分散は大 きい。そこで取り組み始めた時期と自信をもった時期の割合を年齢別に掲載し たのが図2である。図2から以下が指摘できる。
第1に、自信をもって取り組める技術・分野に関連した仕事を始めた時期 150 法政大学キャリアデザイン学部紀要第6号
表4 初期キャリアのプロフィール 平均年齢
平均勤続
35.7歳(5.695)
12.5年(6.680)
最終学歴(n=3646) 高卒(15.2%);専門学校(7.8%);大卒(39.0%)
修士卒(36.3%);博士課程(1.6%)
採用(n=3648) 定期(92.9%);中途(7.0%)
入社直後の職種(n=3639) 上 位3位:開 発・設 計(55.3%);生 産 技 術 IE
(10.6%);情報処理・ソフト開発(10.3%)
今の職種・担当製品分野(n=3634) 職種上位3位:開発・設計(58.6%);生産技術 IE(11.1%);情報処理・ソフト開発(9.5%)
製品分野上位3位:家庭用電子機器(22.5%); 電子部品関係(16.9%);ソフト開発(14.1%)
自信をもって取り組める技術・分野に関連した仕 事を始めた時期
27.1歳(4.086)
自信をもって取り組める技術・分野に関連した仕 事で自信をもった時期
31.2歳(3.753)
初めてチームのまとめ役になった年齢 32.4歳(4.112)
今の職位・地位についた年齢 担当レベル 26.0歳(3.558)
リーダーレベル 33.2歳(3.304)
注:%以外の( )は標準偏差
図2 自信ある技術・分野の仕事を始めた時期と自信をもった時期 (単位:%)
キャリア・アンカーと仕事意識――技術者を中心に 151
は、25歳、26歳にかけて急増し、最も多い年齢は26歳となる。そしてその後30 歳代前半にかけて減少し、30歳代後半には極めて少数となる。
第2に、自信をもった時期のうち最も多い年齢は、20歳代後半から急増し、
最も多い年齢は31歳である。その後30歳代後半にかけて徐々に減少する。36歳 以降に自信をもったというものは極めて少ない。
(2)自信ある技術・分野の形成と配置・異動との関係
これまでの分析結果から知られるように、自信をもって取り組める技術・分 野に関連した仕事を始めた最多年齢は26歳、自信をもった最多年齢は31歳とい うことであった。それでは、こうした自信をもって取り組める技術・分野に配 属されたのはどのタイミングなのだろうか。初任配属時なのだろうか。それと も何度か異動した後なのだろうか。
この点について、まず技術者がどれくらい職種や製品分野を変更しているか をみておく必要があるが、職種を変更したことがない者が最も多く全体の半数 強(53.3%)を占める(22)。また製品分野を変更したことがない者が最も多く 7割弱(69.3%)を占めている(23)。つまり技術者の多くは、職種や製品分野 を変更していない。そして実際の分析結果をみても自信をもって取り組める技 術・分野で自信をもったのは、最初の配属時であったという者が最も多いので ある。何番目の技術・分野を経験した時かを分析すると、1番目が最も多く 51.3%、2番目が29.3%でこれに次ぐが、それ以降は3番目12.8%、4番目 3.8%と非常に少なくなる。すなわち半数強の技術者は最初の配属先でキャリ ア・アンカーを形成しており、全体の約8割が最初か2番目までの配属先で キャリア・アンカーを形成していることになる。この結果は、技術者のキャリ ア・アンカー形成面からみた初任配属の重要性を強く示唆している。
(3)自信ある技術・分野の形成の契機
技術者が自信ある技術・分野をもつようになったキッカケ、契機となったの はどのようなものか。図3によれば、「重要な仕事を任された」が最も多く 57.6%、これに「リーダーを任されたり、一定の裁量権や権限を与えられた」
48.6%、「成果が上司や先輩、同僚に認められた」48.3%などが続いている。
152 法政大学キャリアデザイン学部紀要第6号
これら上位三つはいずれも「自分の仕事ぶり」を上司や先輩、同僚といった外 部の主体から「認知」されたことがキッカケとなっている。
この結果は、改めて先述したシャインによるキャリア・アンカーの「内的達 成感」と「外的フィードバック」を重視する概念規定を想起させる。すなわち、
「個々人は初期の職業経験を経るにつれて、内 的 な 達 成 感 や 満 足 と 外 的 な フィードバックとのマッティングをベースにした自己イメージを形成し始め る。換言すれば、個々人は自らが得意と感じているものと他者から(あいつは あれが得意だと――引用者)認知された外的フィードバックとの観点から自ら 図3 自信をもって取り組める技術・分野で自信をもった契機(3MA)(単位:%)
注:1〜9は以下の通り。
1 リーダーを任されたり、一定の裁量権や権限を与えられた 2 重要な仕事を任された
3 社内での講演や技報への執筆、社内表彰などを経験した 4 社外での講演や執筆、社外表彰などを経験した
5 成果が上司や先輩、同僚に認められた 6 成果が社内の重要事項として取り上げられた 7 成果が社外や顧客から高く評価された
8 アイデアが具体的技術となったり、製品化された 9 その他
キャリア・アンカーと仕事意識――技術者を中心に 153
を定義するのである」と。
(4)自信ある技術・分野の形成年齢とチームのまとめ役になった年齢はほぼ重複 ところで、自信ある技術・分野の形成された時期とチームのまとめ役になっ た時期との関係はどうなっているのか。その点をみたものが図4である。
図4によると、自信ある技術・分野の形成年齢とチームのまとめ役をやった 年齢のピークは重なっており、どちらも30〜34歳である。詳しくみると、技 術・分野で自信をもった年齢が25〜29歳で少し多く、まとめ役になった年齢は 35〜39歳で少し多いことから、一致していない者も一部に含まれていると考え
られるが、概ね両者の時期は一致している。
このことは、技術者自身が「自信をもった」という内的な自覚とそれが外的 にみて「自信をもった」と認知される契機とが時期的にほぼ一致していること を示している。
(5)チームのまとめ役就任時期と昇進の早さ
技術・分野に自信をもつ時期とはじめてチームのまとめ役をやる時期とがほ 図4 自信ある技術・分野の形成時期とまとめ役の就任時期 (単位:%)
154 法政大学キャリアデザイン学部紀要第6号
ぼ重なっていることはすでにみたが、チームのまとめ役になることと同期での 昇進の早さとはなにか関係があるのだろうか。図5はチームではじめてまとめ 役になった時期を同期と比べた昇進の早さ(自己評価)別に分析した結果であ る。図5によると、自分が同期と比べて昇進は早い方だと認識している技術者 ほどチームのまとめ役に早く就任する傾向のあることを示している。すなわ ち、早いと思っている者の約3割がチームのまとめ役に20歳代後半になってい るが、遅いと思っている者のその割合は約2割である。早いと思っている者は 30歳代前半期でも多いが、30歳代後半には漸減する。30歳代後半で漸増するの は遅いと思っている者である。図5からはこうした傾向が読み取れるのであ る。
要するに、まとめ役としてのリーダー経験をする時期は「アンカー形成の時 期」と符合し、リーダーを早く経験した者がその後の昇進も早くなる傾向があ る。図4と図5はこの点を強く示唆していると思われる(24)。
図5 チームのまとめ役就任時期と同期と比べた昇進の早さ (単位:%)
キャリア・アンカーと仕事意識――技術者を中心に 155
(6)自信ある技術・分野の有無と技術者としての職業能力の通用性
――ロジスティック回帰分析――
これまで技術者の初期キャリアについて自信ある技術・分野の形成プロセス に焦点を当てながら分析を試みてきた。この分析結果は、こうして形成された 自信が、技術者としての職業能力の通用性とどのような関係にあるのか、とい うさらなる関心を誘発する。この点に迫っていくために、これまでの分析結果 から時間の順序を整理してみると、自信をもって取り組める技術・分野に関連 した仕事を始めた時期は27.1歳。そしてその技術・分野で自信をもった時期は 31.2歳、それと時期をほぼ同じくしてチームのとりまとめ役になったのが32.4
歳ということであった。
一方技術者としての職業能力の通用性の形成時期だが、職業能力の通用性が
「ある」と回答した者の年齢をみると、職場レベルで38.4歳、社内レベルで 38.9歳、社外レベルでは39.0歳と、概ね年齢層は38〜39歳となっている。する と職業能力の通用性があると認識する時期は、自信をもった時期である30歳代 前半期よりも遅いということになる。
そこで、技術者としての職業能力の社外での通用性を目的変数とするロジス ティック回帰分析を試みることとしたい。技術者のキャリアの経験順序として みると、自信ある技術・分野が先で、その後に通用性認識が形成されていると 考えられるからである。もし技術者の性別、年齢、職種等の属性を統制して も、自信ある技術・分野の有無変数と職業能力の通用性変数との間に有意な相 関がみられるとすれば、自信ある技術・分野を形成していると認識している者 は、自分の職業能力について通用性があると認識している可能性が高いことに なる。
この仮説を検証するために以下のようなモデルを構成し、変数を投入した。
まず目的変数だが、これは技術者としての「職業能力の社外通用性」(1=あ る;0=ない)を用いた。次に従属変数には、技術者の属性にかかわるものと して年齢、性別、職種転換の頻度、自信ある技術・分野の有無、まとめ役の経 験、特許出願数を用いた。また人事管理関連指標として成果主義導入の有無な どを投入してみた。
その結果が表5である。この結果から次のことが指摘できる。第1に、自信 156 法政大学キャリアデザイン学部紀要第6号
表5 自信ある技術・分野が職業能力通用性に及ぼす影響
――ロジスティック回帰分析――
係数 Exp(B)
職種(基準:開発・設計) ―
調査・企画ダミー 0.305 1.356 基盤研究ダミー −0.240 0.787 応用研究ダミー 0.345* 1.412 生産技術・IE ダミー 0.045 1.046 生産管理・品質管理ダミー −0.320 0.726 技術管理・特許管理ダミー 0.041 1.042 情報処理・ソフト開発ダミー 0.154 1.167 営業・技術サービスダミー 0.317 1.373
年齢(歳) 0.012 1.012
職種変更頻度 −0.063 0.939
性別 −0.927* 0.396
最終学歴 0.681*** 1.977 採用形態 0.132** 1.141 自信ある技術・分野の有無 1.219*** 3.383 リーダー経験の有無 0.269** 1.309 特許出願件数 0.162*** 1.176 成果主義の導入の有無 −0.750* 0.472
定数 −2.489 0.083
サンプル数 2111.000
−2対数尤度 2318.126
カイ2乗 10.186
有意確率 0.252
p*<0.1 p**<0.05 p***<0.01
注:性別(男性=1;女性=2)、最終学歴(1高卒;2専門学校卒・短大卒;3 大卒;4大学院・修士修了;5大学院・博士修了)、採用形態(1定期採用;
2中途採用)、自信ある技術・分野(1あり;0ない)、リーダー経験(1「現 在まとめ役」or「過去まとめ役」;2「まとめ役経験なし」)、過去3年間特許 出 願 件 数 数(1=0件;2=1〜2件;3=3〜4件;4=5〜9件;5=
10〜14件;6=15〜19件;7=20件以上)、成果主義の導入の有無(1「導入 している」;2「導入してない」)
キャリア・アンカーと仕事意識――技術者を中心に 157
ある技術・分野の有無は1%、リーダー経験も5%でそれぞれ有意である。自 信ある技術・分野をもつ者は自らの職業能力が社外でも通用性するとみてい る。リーダー経験者も同様の傾向を示している。また特許出願数も1%で有意 であることから、特許出願数の多い技術者は他社通用性があるとみる傾向が強 い。
第2に、職種は最もサンプルの多かった開発・設計をレファレンスグループ としてみたが、応用研究がプラスで10%有意であるほかは有意なものはなかっ た。つまり応用研究に重視しているものは技術者としての職業能力の社外通用 性があると認識する傾向があるが、そのほかの職種の特徴はみられなかった。
第3に、性別では男性、採用形態では中途採用者が5%で有意である。また 最終学歴は1%で有意である。つまり高学歴ほど他社通用性があるとみてい る。第4に、成果主義的人事制度導入の有無は10%で有意であり、成果主義を 導入している企業の技術者のほうが、幾分他社通用性があるとみている。
以上の結果を要するに、職種や年齢をはじめ技術者の属性を統制してもなお 自信ある技術・分野のある技術者は自分の職業能力が社外的に通用性のあるも のと認識する傾向があるといえるだろう。
3−5 小括
3での分析結果について簡単な要約を施しておこう。以下が指摘できよう。
第1に、自信ある技術・分野の形成過程をみると、入社してから最初の配属 先で仕事をし、重要な仕事を任されたり、チームのまとめ役などを頼まれたり したことがきっかけとなって自信ある技術・分野が形成されている。ちなみに この点、仕事を通じた「内的な達成感と外的なフィードバック」によるキャリ ア・アンカーの形成というE.シャインの定義に照らして共鳴点が多い。
第2に、年齢的にみるとその形成時期は、20歳代後半から30歳代前半期にか けて顕著に多いことが知られた。それはHRM施策から捉え返すと、技術者の 初期キャリア管理の重要性を強く示唆している。
第3に、自信ある技術・分野の有無と昇進速度や客観的な業績・評価とプラ スに相関しており、自信ある技術・分野のある者は、自分の職業能力が社外的 にも通用性のあるものと認識する傾向がある。
158 法政大学キャリアデザイン学部紀要第6号
第4に、E.シャインによれば、キャリア・アンカーは「個々人の内的キャ リアの安定性の自己認知の源泉」であり、キャリア・アンカーのあることが
「ヒトと組織のニーズのマッティング機会の向上に寄与する」とされる。だと すると自信ある技術・分野の有無は、単に「自信の有無」という認知枠組みを 超えた広がりをもつものとして、たとえば、職場観や会社観、さらには将来の キャリアビジョンなどにも相当の影響を及ぼしていると考えられる。これらの 諸点については4で検討しよう。
4. 自信ある技術・分野と仕事意識
3では、技術者の初期キャリアに注目し、自信ある技術・分野の形成プロセ スを分析してきた。この4では、こうしたプロセスにおいて自信ある技術・分 野を形成した者と、形成してない者とでは、職務遂行能力、仕事や会社への関 わり方と仕事意識、業績評価の報酬への反映といった点でいかなる違いがある のかについて分析してみることとしたい。
4−1 職務遂行における能力・特性
まず、自信ある技術・分野のある技術者とそうでない技術者と職務遂行にお ける能力・特性という点で比較してみよう(図6)。この図6から以下が指摘 できる
第1に、自信ある技術・分野の「ある」人は「ない」に比べて、すべての能 力・特性において「十分備えている」+「ほぼ備えている」の合計スコアが高い。
第2に、12「責任感」や20「協調性」といった能力・特性は、指摘率が高い うえに、自信ある技術・分野の有無による違いが小さい。
第3に、しかしながら、1「専門の理論的知識や関連する広範な知識」、2
「論理的・体系思考能力」、4「問題点の把握力」、5「問題点の解決力」、8
「挑戦意欲」、13「対外折衝調整力」といった能力・特性については自信ある技 術・分野のある者とない者との差が大きく、自信ある技術・分野のある者のス コアが相当に高い。
以上、要するに、自信ある技術・分野のある技術者の能力・特性は概して高 いといえる。それでは、自信ある技術・分野の有無によるこうした特徴は、仕 キャリア・アンカーと仕事意識――技術者を中心に 159
事や会社へのスタンスという点でも違いを生み出しているのだろうか。
図6 自信ある技術・分野の有無と職務遂行における能力・特性 (単位:%)
注1:1〜20は下記の通り。数値は「十分備えている」+「ほぼ備えている」の計
(%)
2:*印は技術・分野の有無をグループ化変数、1〜20の項目を検定変数にした 独立なサンプルの T 検定の結果の有意水準を示す(p*<0.05 p**<0.01)
1** 専門の理論的知識や関連する 11** 向上心 広範な知識
2** 論理的・体系的思考能力 12** 責任感
3** 独創的な発想力 13** 対外折衝調整力 4** 問題点の把握力 14** 経済観念・コスト意識
5** 問題点の解決力 15** 企業・事業戦略との関連性の意識 6** プロジェクト・研究テーマの 16** 顧客意識
企画・立案力
7** 意思疎通(コミュニケーショ 17** リーダーシップ ン)能力
8** 挑戦意欲 18** 部下・後輩への育成意識 9** 自己管理能力 19** 傾聴力
10** 持久力 20** 協調性 160 法政大学キャリアデザイン学部紀要第6号
4−2 仕事や会社へのスタンス
(1)自信ある技術・分野の有無と仕事のやりがい感
自信ある技術・分野の有無は仕事のやりがい感とも関係していることをみた ものが図7である。「かなりやりがいがある」+「まあやりがいがあるほうだ」
と回答した者の割合は、自信ある技術・分野がある技術者では85.8%と多い が、それがない技術者の場合は62.5%とかなり低下する。要するに、自信ある 技術・分野のある技術者の方が仕事にやりがい感を感じている傾向があるとい える。
(2)自信ある技術・分野と会社観
自信ある技術・分野の有無は会社観とも関係している(図8)。図8による と、「会社発展のため自分の最善をつくしたい」とか「給料などの労働条件や 図7 自信ある技術・分野の有無と仕事のやりがい感 (単位:%)
注1:1〜4は下記の通り:
1「やりがいがある」、2「まあやりがいがあるほうだ」
3「あまりやりがいがない」、4「全くやりがいがない」
2:図8の Pearson のカイ2乗検定値は2.938、自由度3.000で漸近有意確率(両 側)は0.000<有意水準=0.05で有意である。
キャリア・アンカーと仕事意識――技術者を中心に 161
キャリアの見通しなどに応じて会社に貢献したい」といった会社観をもつ者 は、自信ある技術・分野のある技術者に多い。これに対して「雇われている以 上、それなりに働くつもりだ」とか「会社に対し特に何も考えてない」といっ た会社観をもつ者は自信ある技術・分野のない技術者に多い。概して自信ある 技術・分野のある技術者は前向きに今の会社に関わろうとする傾向があるとい えるだろう(25)。
(3)仕事についての考え方
今の仕事についての考え方を自信ある技術・分野別にみたものが図9であ る。図9からも明らかなように、いずれの項目においても、自信ある技術・分 図8 自信ある技術・分野の有無と会社観 (単位:%)
注1:1〜4は下記の通り。
1「会社発展のため自分の最善をつくしたい」
2「給料などの労働条件やキャリアの見通しなどに応じて会社に貢献したい」
3「雇われている以上、それなりに働くつもりだ」
4「会社に対し特に何も考えてない」
2:図9の Pearson のカイ2乗検定値は2.445、自由度3.000で漸近有意確率(両 側)は0.000<有意水準=0.05で有意である。
162 法政大学キャリアデザイン学部紀要第6号
野のある者の方が、仕事や職場について肯定的に捉えていることがわかる。な かでも「今の仕事は面白い」「自分の能力を発揮できる」「今の仕事に満足して いる」「自分の仕事は社会に貢献している」「今の仕事は自分に合っている」「重 要な仕事を任されている」といった項目では、自信ある技術・分野のある者と 図9 自信ある技術・分野の有無と仕事についての考え方 (単位:%)
注1:1〜12は以下の通り。数値は「あてはまる」+「ややあてはまる」の計(%)
2:*印は技術・分野の有無をグループ化変数、1〜12の項目を検定変数にした 独立なサンプルの T 検定の結果の有意水準を示す(p*<0.05 p**<0.01)
1** 仕事を一緒にする仲間に恵まれている 2** 今の仕事は面白い
3** 自分のペースで働くことができる 4** 自分の能力を発揮できる
5 自分の納得できる報酬や地位を得ている 6** 今の仕事に満足している
7** 自分の仕事は社会に貢献している 8** 今の仕事は自分に合っている 9* 評価、処遇は公平になされている 10** 重要な仕事を任されている
11** 今の職場では自分の技術・能力が活かせないので、職場を変わりたい 12** 仕事の話をしていると、すぐに時間がたってしまう
キャリア・アンカーと仕事意識――技術者を中心に 163
ない者との差が大きいことから、そうした傾向が顕著である。
4−3 業績評価への反映
これまで見てきたように、自信ある技術・分野のある者の職務遂行能力・特 性は総じて高く、仕事や会社への関わり方も前向きで積極的である。自信ある 技術・分野のある者にみられるこうした要素は(賃金に限定されない)広い意 味での報酬にどのように反映されているのだろうか。図10は、業績評価を反映 図10 業績評価を反映して実施されたもの(MA) (単位:%)
注1:1〜7は以下の通り(単位は%)。
2:*印は技術・分野の有無をグループ化変数、1〜12の項目を検定変数にした 独立なサンプルの T 検定の結果の有意水準を示す(p*<0.05 p**<0.01)
1** 業務の進め方に対し裁量が拡大した
2** 開発設備の充実や開発費の重点的な配分が行われた 3** より重要な仕事を任された
4** 技術に関する最先端知識を習得する機会を得ることができた 5* 技術経営管理について習得する機会を得ることができた
6* 業績評価は高かったが、上記1〜5はいずれも実施されなかった 7** 業績に対する高い評価は得られず、上記1〜5はいずれも実施されな
かった
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