知的障害と自閉症を併せ有する児童生徒の
「主体的・対話的で深い学び」に関する一考察
A Study on “Proactive, Interactive, and Deep Learning” for Students With Both Intellectual Disability and Autism Spectrum Disorder
園山 繁樹 趙 成河 時津 啓
(保育教育学科) (筑波大学人間系)(保育教育学科)
キ ー ワ ー ド : 知 的 障 害 自 閉 症 主 体 的 ・ 対 話 的 で 深 い 学 び 特 別 支 援 学 校
1. は じ め に
平 成 29 年 に 告 示 さ れ た 新 学 習 指 導 要 領 で は 「 主 体 的 ・ 対 話 的 で 深 い 学 び 」 が 重 要 な 改 訂 ポ イ ン ト と さ れ 、授 業 改 善 の 柱 と 位 置 付 け ら れ た 。こ れ は 、「 知・
徳・体 に わ た る『 生 き る 力 』を 子 供 た ち に 育 む た め 、す べ て の 教 科 等 を 、① 知 識 及 び 技 能 、② 思 考 力 、判 断 力 、表 現 力 等 、③ 学 び に 向 か う 力 、人 間 性 等 の 三 つ の 柱 で 再 整 理 し た 上 で 、こ れ か ら の 時 代 に 求 め ら れ る 資 質・能 力 を 育 ん で い く た め の 授 業 の 工 夫 や 改 善 の 在 り 方 」を 示 し て い る( 文 部 科 学 省 ,2017a)。こ の こ と は 特 別 支 援 学 校 小 学 部・中 学 部 学 習 指 導 要 領 の 改 訂 に お い て も 同 様 で あ り( 文 部 科 学 省 ,2017b)、特 別 支 援 学 校 で の 授 業 の 在 り 方 を 考 え る 際 の 基 本 的 方 針 と し て 位 置 付 け ら れ て い る 。
一 方 、知 的 障 害 や 自 閉 症 を 有 す る 児 童 生 徒 の 場 合 、そ の 障 害 特 性 ゆ え に「 主 体 的・対 話 的 で 深 い 学 び 」を 達 成 す る こ と は 容 易 で は な く 、様 々 な 検 討 や 工 夫 が 必 要 に な る と 思 わ れ る 。特 別 支 援 学 校 の 中 で も 学 校 数 と 在 籍 者 数 が 最 も 多 い 知 的 障 害 教 育 を 主 と す る 特 別 支 援 学 校 ( 以 下 , 知 的 障 害 特 別 支 援 学 校 ) で は 、 在 籍 幼 児 児 童 生 徒 の う ち 約 43% が 自 閉 症 を 併 せ 有 し て い る こ と が 報 告 さ れ て い る( 柳 澤 ,2018)。特 別 支 援 学 校 教 育 要 領・学 習 指 導 要 領 解 説 :総 則 編( 幼 稚 部 ・ 小 学 部 ・ 中 学 部 )( 以 下 ,「 解 説 」)( 文 部 科 学 省 ,2018,p.339) で は 、 教 育 課 程 を 編 成 す る 上 で 、指 導 上 の 必 要 性 か ら 、当 該 学 校 の 障 害 に 加 え て 自 閉 症 や 言 語 障 害 、情 緒 障 害 等 を 併 せ 有 す る 場 合 も 重 複 障 害 者 と 考 え て も よ い こ と が 示 さ れ て い る 。し た が っ て 、知 的 障 害 特 別 支 援 学 校 に 在 籍 す る 幼 児 児 童 生 徒 で 自 閉 症 を 併 せ 有 す る 場 合 に は 、知 的 障 害 と 自 閉 症 の 重 複 障 害 と 捉 え 、知 的 障 害 の 特 性 と 自 閉 症 の 特 性 を 考 慮 し た 教 育 課 程 や 指 導 方 法 を 検 討 す る 必 要 が あ る と 言 え る 。
本 稿 で は 知 的 障 害 と 自 閉 症 を 併 せ 有 す る 児 童 生 徒 の「 主 体 的・対 話 的 で 深 い
<研究・実践ノート>
学 び 」に つ い て 考 察 す る 。ま ず「 主 体 的・対 話 的 で 深 い 学 び 」の 意 味 す る こ と を 論 議 し た 上 で 、知 的 障 害 と 自 閉 症 の 障 害 特 性 か ら 想 定 さ れ る 学 び の 困 難 を 考 察 す る 。次 い で 、文 献 デ ー タ ベ ー ス を 利 用 し て 関 係 す る 先 行 研 究 を 概 観 す る と と も に 、知 的 障 害 と 自 閉 症 を 併 せ 有 す る 児 童 生 徒 に「 主 体 的・対 話 的 で 深 い 学 び 」 を 達 成 す る た め の 工 夫 や 課 題 に つ い て 考 察 を 加 え る 。
2.「 主 体 的 ・ 対 話 的 で 深 い 学 び 」 と は 何 か
「 今 日 の 哲 学 教 師 が 、教 え 子 に 料 理 を 出 す の は 、教 え 子 の 気 に 入 る 味 だ か ら で は な く 、 教 え 子 の 味 覚 を 変 え る た め で あ る 」
ヴ ィ ト ゲ ン シ ュ タ イ ン (Witgenstein, 1977)
歴 史 を 紐 解 く な ら ば 、「 主 体 的・対 話 的 で 深 い 学 び 」の 源 泉 は「 ア ク テ ィ ブ・
ラ ー ニ ン グ(active learning)」に あ る 。2014年( 平 成 26 年 )11月 の 中 央 教 育 審 議 会 へ の 諮 問 に お い て 、「『 ど の よ う に 学 ぶ か 』と い う 、学 び の 質 や 深 ま り を 重 視 す る こ と が 必 要 で あ り 、課 題 の 発 見 と 解 決 に 向 け て 主 体 的・協 働 的 に 学 ぶ 学 習 ( い わ ゆ る 『 ア ク テ ィ ブ ・ ラ ー ニ ン グ 』) や 、 そ の た め の 指 導 の 方 法 等 を 充 実 さ せ て い く 必 要 が あ る 」( 文 部 科 学 省 ,2014)と さ れ た 。す な わ ち 、ア ク テ ィ ブ・ラ ー ニ ン グ の 提 唱 で あ る 。そ の 中 身 は 、グ ル ー プ・デ ィ ス カ ッ シ ョ ン 、デ ィ ベ ー ト 、体 験 学 習 、調 査 学 習 、発 見 学 習 、問 題 解 決 学 習 、課 題 解 決・
探 究 学 習 、PBL(Problem/Project Based Learning) を 挙 げ る こ と が で き る 。 グ ル ー プ ワ ー ク 、協 調・協 働 学 習( 高 木 ,2019,pp.57-58)と い う 参 加 型 の 学 習 と 要 約 で き よ う 。
忘 れ が ち な の は 、そ も そ も こ の 概 念 自 体 が 大 学 改 革 の 文 脈 で 立 ち 上 が っ て き た 点 で あ ろ う 。高 等 教 育 が 大 衆 化 し 、ま す ま す 大 学 は 多 様 な 学 生 の ニ ー ズ に 応 答 す る 必 要 性 に 迫 ら れ て い る 。 進 学 率 が 50% を 超 え 、 特 別 な ニ ー ズ を 必 要 と す る 学 生 、留 学 生 、基 礎 学 力 に 課 題 を 抱 え た 学 生 、研 究 意 欲 が 低 い 学 生 、高 齢 者 も 当 然 想 定 す べ き で あ る 。さ ら に グ ロ ー バ ル 化 の 進 展 は 、海 外 の 大 学 と の 競 争 を も た ら し 、AI や ロ ボ ッ ト の 開 発 に 伴 っ て 、 単 純 作 業 の 反 復 や 正 確 性 よ り も 、課 題 発 見 と 課 題 解 決 能 力 の 高 い 人 材 を 企 業 も 求 め る よ う に な っ た( 高 木 , 2019,p.57)。そ こ で 、合 理 的 に 知 識 を 伝 達 す る こ と に 最 適 で あ っ た 講 義 中 心 の 授 業 ス タ イ ル か ら 、課 題 解 決 型 の ア ク テ ィ ブ・ラ ー ニ ン グ へ の シ フ ト が 時 代 的 に 要 請 さ れ た 。
新 し い 学 習 指 導 要 領 で 唱 え ら れ た「 主 体 的・対 話 的 で 深 い 学 び 」も そ の 延 長 上 に あ る 。今 回 の 改 訂 で は 、① 知 識・技 能 、② 思 考 力 、判 断 力 、表 現 力 、③ 学 び に 向 か う 力 、人 間 性 等 と い う 三 つ の 資 質 能 力 の 育 成 を 謳 っ て い る 。そ し て そ の 実 現 に 向 け 、2016 年 の 中 央 教 育 審 議 会 が 大 々 的 に 強 調 し た の が 「 主 体 的 ・ 対 話 的 で 深 い 学 び 」で あ っ た( 中 央 教 育 審 議 会 ,2016)。伊 藤 は こ の 答 申 を 次
の 三 つ の 要 素 に ま と め て い る( 伊 藤 ,2019,pp.36-37)( 下 線 は 筆 者( 時 津 ))。
「 学 ぶ こ と に 興 味 や 関 心 を 持 ち 、 自 己 の キ ャ リ ア 形 成 の 方 向 性 と 関 連 付 け な が ら 、見 通 し を 持 っ て 粘 り 強 く 取 り 組 み 、自 己 の 学 習 活 動 を 振 り 返 っ て 次 に つ な げ る『 主 体 的 学 び 』が 実 現 で き て い る か 。子 供 自 身 が 興 味 を 持 っ て 積 極 的 に 取 り 組 む と と も に 、学 習 活 動 を 自 ら 振 り 返 り 意 味 づ け た り 、身 に 付 い た 資 質 ・ 能 力 を 自 覚 し た り 、 共 有 し た り す る こ と が 重 要 で あ る 」
「 子 供 同 士 の 協 働 、教 師 や 地 域 の 人 と の 対 話 、先 哲 の 考 え 方 を 手 掛 か り に 考 え る こ と 等 を 通 じ 、 自 ら の 考 え を 広 げ 深 め る 『 対 話 的 な 学 び 』」
「 習 得・活 用・探 究 の 見 通 し の 中 で 、教 科 等 の 特 質 に 応 じ た 見 方 や 考 え 方 を 働 か せ て 思 考・判 断・表 現 し 、学 習 内 容 の 深 い 理 解 に つ な げ る『 深 い 学 び 』」
三 つ の 要 素 は 、子 ど も の 興 味 関 心 か ら 出 発 し 、そ れ を 他 者 と の 対 話・協 働 を 通 じ て 、内 容 に 関 す る 理 解 を 深 め る と 言 え よ う 。そ れ が 主 体 的・対 話 的 で 深 い 学 び の 内 実 で あ る 。 無 藤 隆 の 言 葉 を 借 り な が ら 敷 衍 す れ ば 、「 主 体 的 な 学 び 」 は 子 供 の 興 味 ・ 関 心 と 接 続 し 、「 対 話 的 な 学 び 」 は 子 供 同 士 、 教 職 員 、 地 域 の 人 と の 協 働 ・ 対 話 へ の つ な が り 、「 深 い 学 び 」 と は 、 各 教 科 等 の 特 質 に 応 じ た
「 見 方・考 え 方 」を 働 か せ て 知 識 を 関 連 付 け た り 、問 題 解 決 へ と 結 び つ く( 無 藤 ,2017,p.18)。こ れ は 先 述 し た 三 つ の 資 質 能 力 を 育 成 す る 手 段 で あ り 、そ れ 自 体 は 教 育 方 法 の 一 つ で あ る 。
冒 頭 の 奇 妙 な エ ピ グ ラ ム( 警 句 )に 戻 ろ う 。こ の 言 葉 を 残 し た ヴ ィ ト ゲ ン シ ュ タ イ ン は ウ ィ ー ン 生 ま れ で 、ケ ン ブ リ ッ ジ 大 学 で 長 く 教 壇 に 立 っ た 哲 学 者 で あ る 。現 在 日 本 全 国 で 推 奨 さ れ て い る「 主 体 的・対 話 的 で 深 い 学 び 」に よ っ て 、 子 供 た ち の 味 覚 は 変 わ り 続 け て い る の だ ろ う か 。そ れ と も 、日 本 全 国 で 子 供 の
「 お 気 に 入 り の 味 」 が 強 化 さ れ て い る の だ ろ う か 。 こ れ が 問 題 で あ る 。
筆 者( 時 津 )の 考 え は こ う で あ る 。こ れ ま で の 日 本 の 学 校 教 育 は 子 供 の 興 味・
関 心 に 注 意 を 払 っ て こ な か っ た の か 。そ ん な こ と は な い だ ろ う 。そ の 証 拠 に 膨 大 な 子 供 の 興 味・関 心 を 引 き 付 け よ う と 苦 労 し た 教 材 が あ ふ れ て い る 。教 科 書 は そ の 典 型 だ ろ う 。同 様 に 、対 話 す る に は 子 供 た ち は 対 話 す る 内 容 を し っ か り と 精 査 し 、そ の テ ー マ の 文 脈 や バ ッ ク グ ラ ウ ン ド を 理 解 す る 必 要 が あ る 。そ れ が 結 果 的 に 、 問 題 発 見 と 問 題 解 決 と い っ た 深 い 学 び へ と 結 び つ く の だ 。「 主 体 的・対 話 的 で 深 い 学 び 」と は 何 も 新 奇 な 教 育 方 法 で も な け れ ば 、ICTを フ ル 活 用 し た 最 新 の 学 習 で も な い 。む し ろ 、こ れ ま で の 授 業 実 践 に も 内 在 し て い る 歴 史 的 に 蓄 積 の あ る 教 育 方 法 で あ る 。そ し て 、そ れ は あ く ま で 子 供 の「 お 気 に 入 り の 味 」を 提 供 し 、常 に 子 供 に 好 ん で 食 べ ら れ る も の で も な い 。む し ろ 、子 供 が 顔 を ゆ が め る こ と も あ る だ ろ う 。そ れ で も 、味 覚 を 変 え る 、す な わ ち「 見 方・
考 え 方 」 を 変 え る 試 み と 言 え よ う 。
3.中 央 教 育 審 議 会 答 申( 平 成 28 年 )、特 別 支 援 学 校 小 学 部・中 学 部 指 導 要 領 、 お よ び 同 解 説 に お け る 「 主 体 的 ・ 対 話 的 で 深 い 学 び 」 に 関 す る 記 述
特 別 支 援 学 校 小 学 部・中 学 部 学 習 指 導 要 領( 文 部 科 学 省 ,2017c)で は 、「 主 体 的・対 話 的 で 深 い 学 び 」に つ い て「 第 1 章 総 則 第 4 節 教 育 課 程 の 実 施 と 学 習 評 価 1 主 体 的・対 話 的 で 深 い 学 び の 実 現 に 向 け た 授 業 改 善 」の(1)に 記 述 さ れ て い る が 、「 主 体 的 ・ 対 話 的 で 深 い 学 び 」 の 定 義 そ の も の は 示 さ れ て い な い 。そ の 意 味 を 理 解 す る た め に は 中 央 教 育 審 議 会 答 申( 平 成 28年12 月21日 )
( 以 下 ,「 答 申 」)( 中 央 教 育 審 議 会 ,2016)及 び「 解 説 」を 参 照 す る 必 要 が あ る 。 表 1 は 、「 主 体 的 ・ 対 話 的 で 深 い 学 び 」 に 関 す る 「 特 別 支 援 学 校 小 学 部 ・ 中 学 部 学 習 指 導 要 領 」と「 答 申 」の 重 要 記 述 、及 び「 解 説 」で 留 意 事 項 と さ れ て い る 記 述 を 抜 粋 し た も の で あ る 。
表 1 中 央 教 育 審 議 会 答 申 ( 平 成 28 年 )、 特 別 支 援 学 校 小 学 部 ・ 中 学 部 学 習 指 導 要 領 お よ び 同 解 説 に お け る「 主 体 的・対 話 的 で 深 い 学 び 」に つ い て の 記 述 ( 抜 粋 )
解説(7~8頁)
意 義
「主体的・対話的で深い学び」の実現とは,以下の視点に 立った授業改善を行うことで,学校教育における質の高い 学びを実現し,学習内容を深く理解し,資質・能力を身に 付け,生涯にわたって能動的(アクティブ)に学び続けるよ うにすることである。
主 体 的 な 学 び
学ぶことに興味や関心を持ち,自己のキャリア形成の方向 性と関連付けながら,見通しを持って粘り強く取り組み,自 己の学習活動を振り返って次につなげる「主体的な学び」
が実現できているか。子供自身が興味を持って積極的に 取り組むとともに,学習活動を自ら振り返り意味付けたり,
身に付いた資質・能力を自覚したり,共有したりすることが 重要である。
対 話 的 な 学 び
子供同士の協働,教職員や地域の人との対話,先哲の考 え方を手掛かりに考えること等を通じ,自己の考えを広げ 深める「対話的な学び」が実現できているか。身に付けた 知識や技能を定着させるとともに,物事の多面的で深い 理解に至るためには,多様な表現を通じて,教職員と子 供や,子供同士が対話し,それによって思考を広げ深め ていくことが求められる。
深 い 学 び
習得・活用・探究という学びの過程の中で,各教科等の特 質に応じた「見方・考え方」を働かせながら,知識を相互に 関連付けてより深く理解したり,情報を精査して考えを形 成したり,問題を見いだして解決策を考えたり,思いや考 えを基に創造したりすることに向かう「深い学び」が実現で きているか。
ア 児童生徒に求められる資質・能力を育成することを目指した 授業改善の取組は,既に小・中学校や特別支援学校を中心に多 くの実践が積み重ねられており,特に義務教育段階はこれまで地 道に取り組まれ蓄積されてきた実践を否定し,全く異なる指導方 法を導入しなければならないと捉える必要はないこと。
イ 授業の方法や技術の改善のみを意図するものではなく,児童 生徒に目指す資質・能力を育むために「主体的な学び」,「対話 的な学び」,「深い学び」の視点で,授業改善を進めるものである こと。
ウ 各教科等において通常行われている学習活動(言語活動,
観察・実験,問題解決的な学習など)の質を向上させることを主 眼とするものであること。
エ 1回1回の授業で全ての学びが実現されるものではなく,単元 や題材など内容や時間のまとまりの中で,学習を見通し振り返る 場面をどこに設定するか,グループなどで対話する場面をどこに 設定するか,児童生徒が考える場面と教師が教える場面をどのよ うに組み立てるかを考え,実現を図っていくものであること。
オ 深い学びの鍵として「見方・考え方」を働かせることが重要に なること。各教科等の「見方・考え方」は,「どのような視点で物事 を捉え,どのような考え方で思考していくのか」というその教科等 ならではの物事を捉える視点や考え方である。各教科等を学ぶ本 質的な意義の中核をなすものであり,教科等の学習と社会をつな ぐものであることから,児童生徒が学習や人生において「見方・考 え方」を自在に働かせることができるようにすることにこそ,教師の 専門性が発揮されることが求められること。
カ 基礎的・基本的な知識及び技能の習得に課題がある場合に は,その確実な習得を図ることを重視すること。
答申(49~50頁)
注)下線は筆者(園山)による。
特別支援学校小学部・中学部学習指導要領(69頁)
第2節の3の(1)から(3)までに示すことが偏りなく実現されるよう,単元や題材など内容や時間のまとまりを見通しながら,児童又 は生徒の主体的・対話的で深い学びの実現に向けた授業改善を行うこと。
特に,各教科等において身に付けた知識及び技能を活用したり,思考力,判断力,表現力等や学びに向かう力,人間性等を 発揮させたりして,学習の対象となる物事を捉え思考することにより,各教科等の特質に応じた物事を捉える視点や考え方(以下
「見方・考え方」という。)が鍛えられていくことに留意し,児童又は生徒が各教科等の特質に応じた見方・考え方を働かせながら,
知識を相互に関連付けてより深く理解したり,情報を精査して考えを形成したり,問題を見いだして解決策を考えたり,思いや考 えを基に創造したりすることに向かう過程を重視した学習の充実を図ること。
4. 知 的 障 害 と 自 閉 症 を 併 せ 有 す る 児 童 生 徒 の 障 害 特 性 お よ び 「 主 体 的 ・ 対 話 的 で 深 い 学 び 」 に 想 定 さ れ る 困 難
知 的 障 害 と 自 閉 症 を 併 せ 有 す る 児 童 生 徒 は 二 つ の 障 害 特 性 を 有 し 、そ れ ぞ れ の 障 害 特 性 が「 主 体 的・対 話 的 で 深 い 学 び 」に 影 響 を 及 ぼ す こ と が 考 え ら れ る 。 こ こ で は 、 障 害 特 性 に つ い て 米 国 精 神 医 学 会 の 診 断 基 準 で あ る DSM-5
(American Psychiatric Association; APA,2013) の 記 述 を 参 照 し 、 想 定 さ れ る 学 び の 困 難 を 考 察 す る 。
表 2 に 、DSM-5の 記 述 を 基 に 、 知 的 障 害 ( 知 的 能 力 障 害 ) と 自 閉 症 ( 自 閉 ス ペ ク ト ラ ム 症 )の 診 断 基 準 と 具 体 的 な 困 難 を ま と め 、さ ら に 障 害 特 性 が 三 つ の 学 び に 影 響 す る と 考 え ら れ る 困 難 を 整 理 し た 。
ま た 、知 的 障 害 の 程 度 や 自 閉 性 の 程 度 に は 個 人 差 が 大 き く 、授 業 を 行 う 際 に は 一 人 一 人 の 障 害 の 程 度 や 特 性 等 の 実 態 把 握 が 重 要 に な る 。DSM-5(APA,
2013)で は 、知 的 障 害 の 重 症 度 を「 概 念 的 領 域 」「 社 会 的 領 域 」「 実 用 的 領 域 」 の 観 点 か ら 「 軽 度 」「 中 等 度 」「 重 度 」「 最 重 度 」 に 区 分 し 、 自 閉 症 の 重 症 度 水 準 を「 社 会 的 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 」と「 限 局 さ れ た 反 復 的 行 動 」の 観 点 か ら「 レ ベ ル 1: 支 援 を 要 す る 」「 レ ベ ル 2: 十 分 な 支 援 を 要 す る 」「 レ ベ ル 3: 非 常 に 十 分 な 支 援 を 要 す る 」 に 区 分 し て い る 。
図 1 は 、 知 的 障 害 と 自 閉 症 を 併 せ 有 す る 児 童 生 徒 の 個 人 差 を 理 解 す る た め に 、知 的 障 害 と 自 閉 症 の 障 害 特 性 の 強 さ 、及 び 発 達・年 齢 を 軸 に し て 、筆 者( 園 山 )が 園 山(2003,p.30)を 改 変 し て 作 成 し た も の で あ る 。こ の 模 式 図 で は 、
表 2 知 的 障 害 と 自 閉 症 の 障 害 特 性 お よ び 想 定 さ れ る 学 び の 困 難
障害特性 想定される学びの困難
A.知的機能の障害
⇒論理的思考・問題解決・計画・抽象的思考・判断・学校での学習・経験からの学習の困難 B.適応行動の障害
⇒コミュニケーション,社会参加,および自立した生活といった複数の日常生活活動機能の限定 C.知的および適応の欠陥は,発達期の間に発症する。
A. 社会的コミュニケーション及び対人相互反応の障害(以下のすべて)
1. 相互の対人的―情緒的関係の欠落
⇒対人関係を開始できない、興味・感情の共有の少なさ、通常の会話のやりとりができない 2. 対人的相互反応で非言語的コミュニケーション行動を用いることの困難
⇒身振りの理解や使用の困難、顔の表情の理解や表出の困難 3. 人間関係を発展させ、維持し、それを理解することの欠陥
⇒社会的状況に合わせた行動調整の困難、仲間に対する興味の薄さ、想像遊びを他者とすることの困難 B. 行動・興味または活動の限定された反復的な様式(以下のうち2つ)
1. 常同的または反復的な身体の運動、物の使用、または会話
⇒おもちゃを一列に並べる、単調な常同運動、反響言語(エコラりヤ)、独特な言い回し 2. 同一性への固執、習慣的な頑ななこだわり、または言語的・非言語的な儀式的行動様式 ⇒変化への混乱、移行の困難、柔軟性のなさ、毎日同じ道を通る
3. 強度または対象において異常なほど、きわめて限定され執着する興味 ⇒一般的でない対象への強い愛着や没頭、過度に限局・固執した興味
4. 感覚刺激に対する過敏さまたは鈍感さ、または環境の感覚的側面に対する並外れた興味 ⇒特定の音や触覚等への過剰または過小な反応、物を過度に嗅いだり触れたりする C.症状は発達早期に存在していなければならない
⇒3歳頃までにAとBの症状が現れる
注)障害特性はDSM-5(APA, 2013)を参照し、A~C及び1~6はその記述を要約し、⇒は例示を要約したものである。
「対話的な学び」の困難
「主体的な学び」の困難
「対話的な学び」の困難
「対話的な学び」の困難
「深い学び」の困難 知
的 障 害
自 閉 症
個 人 差 を 次 の よ う に 示 し て い る 。A は 、 軽 度 の 知 的 障 害 を 有 し 、こ だ わ り が 多 く 感 覚 過 敏 も 強 い な ど の 自 閉 性 も 強 い 児 童 生 徒 。 B は 、 軽 度 の 知 的 障 害 を 有 し 、 自 閉 性 は あ る も の の こ だ わ り や 感 覚 過 敏 等 の 特 徴 が 少 な い 児 童 生 徒 。C は 、 中 重 度 の 知 的 障 害 を 有 し 、こ だ わ り が 多 く 感 覚 過 敏 が 強 い な ど の 自 閉 性 も 強 い 児 童 生 徒 。D は 、中 重 度 の 知 的 障 害 を 有 し 、自 閉 性 は あ る も の の こ だ わ り や 感 覚 過 敏 等 の 特 徴 が 少 な い 児 童 生 徒 。 通 常 の 学 級 に 在 籍 し て い る こ と が 予 想 さ れ る 知 的 障 害 を 有 し な い 自 閉 症 の 児 童 生 徒 の 場 合 も 、自 閉 症 の 障 害 特 性 に 留 意 し た 指 導 が 不 可 欠 で あ る 。
5. 知 的 障 害 と 自 閉 症 を 併 せ 有 す る 児 童 生 徒 の 「 主 体 的 ・ 対 話 的 で 深 い 学 び 」 に 関 す る 先 行 研 究
新 学 習 指 導 要 領 の 告 示 か ら 4 年 が 経 過 し 、 知 的 障 害 と 自 閉 症 を 併 せ 有 す る 児 童 生 徒 の「 主 体 的・対 話 的 で 深 い 学 び 」に 関 す る 実 践 や 研 究 等 の 取 組 が な さ れ て い る こ と が 予 想 さ れ る 。こ こ で は デ ー タ ベ ー ス を 用 い た 文 献 検 索 に よ っ て 、 先 行 的 な 取 組 を 収 集 し 整 理 し た 。
1) 和 文 論 文 の 検 索 と 内 容 分 析
( 1) 検 索 方 法
和 文 論 文 の デ ー タ ベ ー ス と し て 国 立 情 報 学 研 究 所 が 提 供 す る 日 本 の 学 協 会 刊 行 物 ・ 大 学 研 究 紀 要 ・ 国 立 国 会 図 書 館 の 雑 誌 記 事 索 引 デ ー タ ベ ー ス で あ る CiNii Articles( 以 下 ,CiNii)、 及 び 国 立 研 究 開 発 法 人 科 学 技 術 振 興 機 構 が 構 築 し た 日 本 の 科 学 技 術 情 報 の 電 子 ジ ャ ー ナ ル 出 版 を 推 進 す る プ ラ ッ ト フ ォ ー ム で あ る J-STAGE を 利 用 し た 。CiNiiで は 、検 索 フ ォ ー ム の「 タ イ ト ル 」に 、
「 主 体 的・対 話 的 で 深 い 学 び 」と「 自 閉 」ま た は「 知 的 」を 組 み 合 わ せ て 検 索 し た( 検 索 日:2021年 1 月 26 日 )。J-STAGEで は 、検 索 フ ォ ー ム を「 論 文 タ イ ト ル 」 に 指 定 し 、「 主 体 的 ・ 対 話 的 で 深 い 学 び 」 と 「 自 閉 」 ま た は 「 知 的 」 を 組 み 合 わ せ て 検 索 し た ( 検 索 日 :2021 年 1 月 26 日 )。 検 索 の 結 果 、CiNii で は 「 主 体 的 ・ 対 話 的 で 深 い 学 び 」 と 「 自 閉 」 で 0 件 、「 主 体 的 ・ 対 話 的 で 深 い 学 び 」と「 知 的 」で 11 件 が 検 出 さ れ た 。J-STAGE で は「 主 体 的・対 話 的 で 深 い 学 び 」 と 「 自 閉 」 で 0 件 、「 主 体 的 ・ 対 話 的 で 深 い 学 び 」 と 「 知 的 」 で 1 件 が 検 出 さ れ た 。 こ の 1 件 は CiNii で 検 出 さ れ た も の で あ っ た 。
図1 知 的 障 害 と 自 閉 症 を 併 せ 有 す る 児 童 生 徒 の 個 人 差 を 理 解 す る 模 式 図
A B
C D
知 的 機 能
・ 適 応 行 動 の 制 限
(なし)
(大)
自閉性の強さ
(強) (弱)
知的障害を有しない 自閉症の児童生徒
(小)
( 2) 分 析 対 象 論 文 と 内 容
文 献 検 索 で 検 出 さ れ た 11 論 文 の 内 容 を 第 1 著 者 と 第 2 著 者 で 確 認 し た 結 果 、2 件 は 知 的 障 害 を 直 接 取 り 扱 っ た も の で は な か っ た た め 、分 析 対 象 論 文 は そ の 2 件 を 除 く 9 件 と し た 。そ れ ら の 論 文 の 内 容 を 、実 践 に 基 づ く も の を 表 3 に 、 調 査 や 総 説 を 表 4に 整 理 し た 。
分 析 対 象 論 文 9 件 の う ち 、実 践 に 基 づ く も の が 6 件 、総 説 が 2 件 、調 査 が 1 件 で あ っ た 。実 践 に 基 づ く 論 文 は す べ て 紀 要 論 文 で あ り 、総 説1件( 丹 野, 2017)
の み が 学 会 誌 論 文 で あ っ た 。実 践 に 基 づ く 6件 の 論 文 は 、い ず れ も 知 的 障 害 特 別 支 援 学 校 小 学 部・中 学 部・高 等 部 に お い て「 主 体 的・対 話 的 で 深 い 学 び 」の 視 点 か ら 実 践 さ れ た 授 業 内 容 の 報 告 で あ り 、実 践 さ れ た 場 面 は 国 語・算 数 の 授 業 か ら 自 立 活 動 、生 活 単 元 学 習 ま で 様 々 で あ っ た 。主 な 実 践 内 容 と し て 教 員 が
「 主 体 的・対 話 的 で 深 い 学 び 」の 視 点 を 共 有 し 、評 価 に つ な げ る た め に シ ー ト の 作 成 方 法 を 工 夫 す る こ と か ら 、ア セ ス メ ン ト に 基 づ い た グ ル ー プ 分 け や 興 味 関 心 に 合 わ せ た テ ー マ の 設 定 、「 主 体 的 ・ 対 話 的 で 深 い 学 び 」 が 実 現 さ れ た 授 業 づ く り の た め に 各 項 目 と 照 ら し 合 わ せ て 活 動 を 設 定 す る 等 、様 々 な 工 夫 が 行 わ れ て い た 。 調 査 に 関 す る 論 文 1 件 は 特 別 支 援 学 校 教 員 を 対 象 と し た 質 問 紙 調 査 で あ り 、教 員 が 何 を 重 要 視 し 、ど の よ う な 視 点 で 授 業 づ く り を 行 っ て い る か を 調 べ た 結 果 を ま と め た も の で あ っ た 。
2) 関 係 書 籍 の 検 索 と 内 容 分 析
( 1) 検 索 方 法
デ ー タ ベ ー ス と し て 、国 立 国 会 図 書 館 や 全 国 の 公 共・大 学・専 門 図 書 館 及 び 学 術 研 究 機 関 な ど の デ ー タ ベ ー ス か ら 収 集 さ れ た メ タ デ ー タ を 検 索 で き る「 国 立 国 会 図 書 館 サ ー チ 」 を 利 用 し た 。「 国 立 国 会 図 書 館 サ ー チ 」 の 詳 細 検 索 フ ォ ー ム の 「 タ イ ト ル 」 に 、「 主 体 的 ・ 対 話 的 で 深 い 学 び 」 と 「 自 閉 」 ま た は 「 知 的 」の 組 み 合 わ せ を 検 索 語 と し 、す べ て の デ ー タ ベ ー ス を 対 象 に 、資 料 種 別「 本 」、
所 蔵 館 「 国 立 国 会 図 書 館 ・ 他 機 関 ・ す べ て 」 に て 検 索 し た ( 検 索 日 :2021 年 2月 9 日 )。 そ の 結 果 、「 自 閉 」 で 0件 、「 知 的 障 害 」 で 4 件 が 検 出 さ れ た 。
( 2) 分 析 対 象 書 籍 と 内 容
検 出 さ れ た 4 件 の う ち 市 販 さ れ て い る 3 件 を 分 析 対 象 書 籍 と し 、 以 下 に そ れ ぞ れ の 概 要 と 特 色 を ま と め た 。そ の 他 ハ ン ド サ ー チ に よ り 、知 的 障 害 特 別 支 援 学 校 に 関 連 し て 3 件 の 書 籍 が あ っ た( 国 立 特 別 支 援 教 育 総 合 研 究 所 ,2018;
武 富 ・ 松 見 ,2017; 横 倉 ・ 全 国 特 別 支 援 学 校 知 的 障 害 教 育 校 長 会 ,2020)。
吉 田(2019)で は 、東 京 都 立 八 王 子 特 別 支 援 学 校 の 取 組 が 紹 介 さ れ て い る 。 具 体 的 に は 、「 根 拠 の あ る 教 育(EBE)」の 理 念 に 基 づ き 、校 長 の リ ー ダ ー シ ッ プ の 下 、全 教 員 で 取 組 む 授 業 改 善 の 校 内 体 制 、「 分 か る 授 業 の た め の 4 つ の ベ ー ス ( 実 態 把 握 〔J☆skep 等 の ア セ ス メ ン ト ツ ー ル の 活 用 〕、 学 習 環 境 と 教 室
表 3 知 的 障 害 を 有 す る 児 童 生 徒 の 「 主 体 的 ・ 対 話 的 で 深 い 学 び 」 に 関 す る 実 践 論 文 の 内 容
No 著者 掲載雑誌
(発表年)
〔研究手法〕
研究目的 対象 実践された授業 主な研究内容
1 神代・上中・
田中・寺地・
吉村・菊池 熊本大学 教育実践 研究
(2020)
〔実践報告〕
主体的・対話的 で深い学びの 実現に向けた 授業実践の取 組を報告
特別支援 学校中学 部18名の 生徒
中学部「数学」 ○アセスメント項目:特別支援学校学習要領解説各教科編(小学部・中学部」(平成30年3月)「算数」
「数学」「国語」の目標をアセスメント項目とし、結果に基づいて4つのグループに編成して実施
○授業づくりのポイントおよび評価の観点を置いて指導
①主体的…問題発見をする場面、主体的に問題を解こうとする場面
②対話的…協同する
③深い学び…解決課程を振り返り、概念形成や体系化を行う場面
○Sシートの改善:数学の見方・考え方の項目や、授業づくりのポイントを添付して、効果的な授業構想に つなげる
○「ハートグループ」:中学部3年生1名、2年生1名、1年生3名の計5名を対象とし、特別支援学校学習指 導要領小学部の1段階から2段階の内容(お金、図形)を3グループに分けて教授。
○「ダイヤグループ」:中学部3年生2名、2年生2名、1年生1名の計5名を対象とし、特別支援学校学習指 導要領小学部の2段階から3段階、単元によっては中学部1段階の要素を含めた内容(長さ・高さ、三角 形・四角形)を教授。
○「スペードグループ」:中学部3年生2名、2年生1名、1年生1名の計4名を対象とし、特別支援学校学習 指導要領小学部の3段階から中学部1段階の内容(空位のある3位数の表し方、お金の出し方)を教授。
○「クローバーグループ」:中学部3年生1名、2年生2名、1年生1名の計4名を対象とし、特別支援学校学 習指導要領中学部の1段階から2段階の内容(図形<定義の言語化やイメージ化>、かけ算<有用性と 生活への般化>、表とグラフ<全体の関連性>)を教授。
2 中村 特別支援
教育
(2020)
〔総説・取組 例紹介〕
知的障害のある 児童生徒の「対 話的な学び」に ついて概説し、
特別支援学校 の取組例を紹 介
知的障害 のある児童 生徒
○A特別支援学 校:全校研修の 場、研究授業
○B特別支援学 校:小学部算数科 二段階アの(ア)の
「㋕数の系列が分 かり、順序や位置 を表すのに数を用 いること」の授業
○A特別支援学校の取組例
全校研修の場を活用して、教師それぞれがイメージした「主体的・対話的で深い学び」が実現された授 業を付箋紙に書き込み、その内容を分類してチェックリストを作成。校内の研究授業においてチェックリス トを使用し、修正・改善していく。
-長所:明文化することで改善の視点の共有が容易になる
-短所:「主体的・対話的で深い学び」を実現するためには特定の授業の形が存在するかのような誤解を 招きかねない
○B特別支援学校の取組例
ICT機器と学習ソフト「Scratch」トを活用。電車が好きな児童が多い実態を踏まえ、図を見て、六色ある電 車をそれぞれ同色の車庫に入れるには、どの順番で電車を動かせばよいかを考える課題を設定。生徒 同士で互いのタブレット操作を見て学び、自らの思考を言葉により表すことができるようになった。ここで得 た学びは学校生活をはじめとする生活の様々な場面に応用され、よりよく生活していくための、効率的・
効果的な物事の順序を自ら考えられるようになった。
3 上園・倉田・
古里・辻・
八幡 熊本大学 教育実践 研究
(2020)
〔実践報告〕
特別支援学校 高等部で行っ た家庭科にお ける年間計画 の作成、実践内 容、成果と課題 について報告
特別支援 学校高等 部1年9名、
2年8名、3 年9名
家庭科
○1年:衣(洗 濯)、保育・家庭看 護、食・調理
○2年:住居(整理 整頓、ごみの分 別)
○3年:食・調理
○3年間を見据えた年間指導計画を作成
○「学習内容の定着と般化」「家庭との連携の在り方」を意識した取組を行う。3学年ともに授業の構成と 流れを統一する。授業づくりのポイントや有効な手立てを共有し、整理する。
○主体的・対話的で深い学びに向けた授業づくりの3つの柱の観点を取り入れた授業実践に取り組む。
1)授業の構成と流れ:①つかむ・見通す(課題を認識する)、②さぐる(課題解決に向かう)、③深める(実 践する)、④まとめる・振り返る(何を学んだかを確認する)
2)主体的活動の工夫:①思考ツールの活用(シンキングルーツで整理)、②生徒の実態に応じた工夫
(理解度や国語力に合わせたシートの作成)、③評価の活用(パフォーマンス評価)
3)家庭との連携:家庭とつながるツールの活用(連絡帳、ワークシート活用、家庭bookを通して家庭での 様子把握)、親子学習。
4 加嶋 障害児教育 実践の研究
(2019)
〔実践報告〕
知的障害のある 小学部児童の 主体的・対話的 な深い学びとは 具体的にどのよ うな学びの姿 か、どのような 指導上の配慮 や工夫が必要 かを検証
知的障害 特別支援 学校小学 部1年生6 名(自閉ス ペクトラム 症及び自 閉傾向4 名、難聴1 名、知的障 害1名)
国語・算数「なの かでいっしゅうか ん」
○絵本「月曜日は何食べる」の展開に合わせて、模倣遊び、分類ゲーム、ふれあい遊び等の活動を行 い、分析する。
○主体的・対話的な学びは2つの学びが関連していることが多かった(例えば、教員の動作に目を向け、
動作を模倣する等)。1学期は教員と対話をきっかけに、学習に参加する姿が多かったが、3学期には、
新しい活動であったも、進んで取り組もうとする姿が多く見られた。
○深い学びは授業外で見られた姿が多かった。例えば、図画工作の授業では粘土でお弁当、野菜の歌 で登場したやさいをイメージしながら作る等、学んだ知識を関連させて学びを深めることができた。また、
授業で学んだことを、休み時間や朝の会、家庭など他場面での学びに関連させていたりする姿があっ た。授業での学びをきっかけにして余暇や人間関係、コミュニケーションの広がりもみられた。
○教員の指導の工夫や配慮点について、主体的な学び、対話的学び、深い学びに分類し、人・物・環 境・評価・般化・関連という項目で整理した。
5 三浦・春日 埼玉大学 教育学部 教育実践 総合セン ター紀要
(2019)
〔実践報告〕
問題解決学習 を取り入れた単 元を設定し、
「主体的な学 び」「対話的な 学び」「深い学 び」の視点から 実践を整理
知的障害 特別支援 学校中学 部1年生男 女6名
生活単元学習
「ラーメン店をひら こう」
○主体的な学び:「生徒の興味関心」「活動の広がり」「ストーリー性」を重視したテーマ設定
○対話的な学び:話し合い活動を設定
○深い学び:主体的な学びと対話的な学びを繰り返して実践し、定着すると深い学びへにつながると考 える
○問題解決学習の3つの単元の設定
①ラーメンの改良:「ラーメンをおいしくするにはどうしたらよいか」という話し合い活動を通して生徒たちか らのアイデアを募る。地域のラーメン店でインタビューを行い、いただいたアドバイスを実践する。
②お店をひらく準備:「お店をひらくには何が必要か」について、お店の写真を提示して生徒の考えて深 め、生徒のアイデアをもとに、お店作り、器作り、制服作りの3つの制作活動と調理・接客の練習を行う。
③お店の改良:「お店をよりよくするためにはどうしたらよいか」について、ビデオテープメッセージ等を見 て出た生徒のアイデアにより味噌ラーメン作り、提灯作りに取り組む。
6 白府・宮下・
髙石・清水・
山口・堀濱・
細谷・北村・
小渕 北海道 特別支援 教育研究
(2018)
〔実践研究〕
児童生徒が生 活上で求めて いる力を把握 し、その力を生 かせる授業像を 明確にした上、
授業実践を通し て、生活を豊か にしていく力を 育む授業の在り 方を明確化
特別支援 学校小学 部(17名)、
中学部(14 名)、高等 部(25名)
の児童生 徒
○小学部:自立活 動(課題学習)、合 わせた時間(音 楽、体育、制作活 動) ○中学部:自 立活動(課題学 習)、合わせた時 間(造形、体育、
音楽活動、作業学 習、生活実践)
○高等部:自立活 動(課題学習)、合 わせた時間(作業 学習、音楽、造形 活動)、総合的な 学習の時間(地域 活動)
○個別の教育支援計画の現在及び将来の願いを基に、児童生徒が必要としている力を分析、検討
○「自分の意思で取り組む状況」「自分や仲間の良さを共有する状況」「自分や仲間の良さを共有する状 況」の3つのできる状況づくりを授業の中で設定し、児童生徒の変容を把握
○児童生徒が必要としている力
①生活に必要な知識・技能
②身に付けた知識・技能を生かして、一人一人が自分の意思で活動する力(生活を豊かにしていく力)
○3つの状況づくりを各学部の実態に照らし合わせて設定することで、児童生徒の生活を豊かにしていく 力を横断的に育むことができた。
や 授 業 の 構 造 化 〔 主 体 的 な 活 動 を 促 す 環 境 〕、 手 立 て 〔 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン ブ ッ ク 、 ス ケ ジ ュ ー ル 帳 な ど 〕、 動 機 づ け 〔 強 化 シ ス テ ム 、 ト ー ク ン エ コ ノ ミ ー な ど 〕)」を 基 礎 と し た 7 つ の 授 業 実 践 事 例 、外 部 専 門 家 と の 連 携 、小・中・高 等 部 の つ な が り の あ る 学 び の 仕 掛 け な ど が 、解 説 と と も に 紹 介 さ れ て い る 。「 4 つ の ベ ー ス 」に は 、明 確 な 記 載 は な い も の の 、自 閉 症 を 併 せ 有 す る 児 童 生 徒 の 教 育 実 践 の 蓄 積 が 反 映 さ れ て い る と 考 え ら れ る 。
神 山(2019)で は 、「 主 体 的・対 話 的 で 深 い 学 び 」の 観 点 か ら 授 業 改 善 の コ ツ を 19 挙 げ 、分 担 執 筆 者 が 勤 務 す る 知 的 障 害 特 別 支 援 学 校 で 実 施 さ れ た コ ツ に 対 応 す る 19 の 授 業 実 践 が 、PDCAサ イ ク ル ご と に 重 要 ポ イ ン ト を 明 示 し な が ら 、 具 体 的 に 紹 介 さ れ て い る 。19 の コ ツ の 一 部 は 、 ① 授 業 の 学 び を 生 活 に 表 4 知 的 障 害 を 有 す る 児 童 生 徒 の 「 主 体 的 ・ 対 話 的 で 深 い 学 び 」 に 関 す る
調 査 研 究 ・ 総 説 論 文 の 内 容
No 著者 掲載雑誌
(発表年)
〔研究手法〕
研究目的 対象 主な研究内容
7 葛西・西永 共生科学
(2020)
〔質問紙〕
知的障害特別支援 学校の教員が授業 において、何を重要 視し、どのような視点 で授業づくりを行っ ているかを明確化
知的障害教育に携 わっている教員233 名(回収率 33.62%、有効総数 76名)
○質問紙調査(18項目)
「主体的・対話的で深い学び」の視点を踏まえた授業づくりにおいて何を重要視して いるかの尺度は「課題設定、解決方法の手立て」「主体的な学びにつなげる手立 て」「対話に必要な補助的な手立て」「学びを深める手立て」「対話に必要な時間の 確保」の5因子による因子構造であり、以下の有意な関係性が確認された。
・「課題設定、解決方法の手立て」:高等部、特別支援教育免許状の有無
・「主体的な学びにつなげる手立て」:性別
・「対話に必要な補助的な手立て」:高等部
・「学びを深める手立て」:高等部
・「対話に必要な時間の確保」:現在の年齢、教職経験年数、性別 8 石山・矢野
川・宇川 就実大学
大学院 教育学 研究科紀要
(2019)
〔総説〕
今後の展望と課題に ついての方向性に 関する基礎資料を、
新学習指導要領に 明示されたキーワー ドを基に提示
知的障害特別支援 学校
○「主体的・対話的で深い学び」が成立するための授業づくりの要件
①授業の目標が明確に提示され、教師や児童生徒に共有される
②児童生徒同士の対話や意見などの共有がみられる
③児童生徒が自ら考え、主体的に参加していることが評価される
④課題ややるべきことがはっきりしている
⑤授業の振り返りが次の授業に反映されている
⑥授業を通して、児童生徒に育んでいきたい力やどのような子どもに育ってほしいか が明確になっている
○「主体的・対話的で深い学び」のための授業デザインの視点
①授業内容を絞る(シンプルデザイン)
②授業環境を整出る(ユニバーサルデザイン)
③授業イメージを浮上させる(イメージデザイン)
④授業活動の共有化を図る(シェアデザイン)
⑤授業評価の共有化を図る(リフレクショナルデザイン)
⑥授業課題の明確化(エクササイズデザイン)
9 丹野
発達障害 研究
(2017)
〔総説〕
知的障害児童生徒 の学習上の特性等 を踏まえた事例に基 づき、その考え方や カリキュラム・マネジ メントについて概説
知的障害児童生徒 ○「答申」と学習指導要領における「主体的・対話的で深い学び」の重要点
①特定の指導方法ではなく、生涯にわたる「学び」という営みの本質を捉えながら、
教員が教えることにしっかりかかわり、児童生徒等に求められる資質・能力を育むた めに必要な学びの在り方を絶え間なく考え、授業の工夫・改善を重ねていくこと。
②学習指導要領 第1章総則第4節「教育課程の実施と学習評価」から、1)学ぶ文脈 を重視し、意味のある学習のまとまりを工夫し、計画を立てていく、2)各教科の特質 に応じた見方・考え方を働かせることができる学習場面により学習内容と学習活動を 工夫する。
〇授業事例
①中学校特別支援学級で小学生を迎える事前準備における、学習内容(他者の視 点に気づく)と学習活動(ウエルカムボードの設置場所を考える)。
②特別支援学校の「朝の会」で「拍手をする」ことの本質的な意義は、拍手を通し て、友達に自分の気持ちを伝えることなどである。
〇主体的・対話的で深い学び」を支える授業研究とカリキュラム・マネジメント
①学習活動を通して何を学び得たかを明確にしていくために、個別の指導計画に基 づく指導を授業のなかで展開していくことのできる専門性の向上。
②児童生徒等の思考・判断・表現への具体的なアプローチのさまざまな工夫が学習 活動を通して展開されるようカリキュラム・マネジメントが重要。
結 び つ け る 、③ 学 び の 積 み 重 ね を 形 と し て 残 す 、⑤ 自 己 評 価 と 相 互 評 価 の 場 面 を 設 定 す る 、⑧ 子 ど も が 選 択 す る 機 会 を 増 や す 、⑨ 子 ど も の 興 味・関 心 か ら 活 動 を 考 え る 、⑮ 行 動 分 析 の 視 点 を 取 り 入 れ る 、な ど で あ る 。学 級 に 自 閉 症 を 併 せ 有 す る 児 童 生 徒 を 含 む と 明 記 さ れ て い る 実 践 は 5 事 例 で あ っ た が 、 障 害 特 性 と 授 業 の 工 夫 に つ い て は 特 段 の 記 述 は な か っ た 。
全 国 特 別 支 援 学 校 知 的 障 害 教 育 校 長 会(2019)で は 、第 1 章「 理 論 編 」で 特 別 支 援 学 校 学 習 指 導 要 領 に 基 づ い て 、「 主 体 的 ・ 対 話 的 で 深 い 学 び 」 の 視 点 か ら の 授 業 改 善 と カ リ キ ュ ラ ム・マ ネ ジ メ ン ト に つ い て 解 説 さ れ て い る 。第 2章
「 実 践 編 」で は 20 の 授 業 実 践( 小 学 部 5 事 例 ,中 学 部 7事 例 ,高 等 部 8 事 例 ) に つ い て 、 実 践 の 概 要 、 単 元 の 目 標 、 単 元 に つ い て ( 児 童 生 徒 の 実 態 含 む )、
単 元 の 評 価 規 準 、単 元 指 導 計 画 、本 時 の 展 開 、児 童 の 学 び の 姿 ご と に 具 体 的 に 紹 介 さ れ て い る 。自 閉 症 を 併 せ 有 す る 児 童 生 徒 を 含 む と 明 記 さ れ て い る 実 践 は 2 事 例 で あ っ た が 、 障 害 特 性 と 授 業 の 工 夫 に つ い て の 特 段 の 記 述 は な か っ た 。 こ れ ら 三 つ の 書 籍 は い ず れ も「 主 体 的・対 話 的 で 深 い 学 び 」の 観 点 か ら の 授 業 実 践 の 紹 介 で あ り 、 授 業 の 中 で の 様 々 な 工 夫 が 具 体 的 に 紹 介 さ れ て い る 。
6. 総 合 考 察
文 献 検 索 の 結 果 、 知 的 障 害 と 自 閉 症 を 併 せ 有 す る 児 童 生 徒 に 焦 点 を 当 て た
「 主 体 的・対 話 的 で 深 い 学 び 」に 関 す る 先 行 研 究 は 、論 文 、書 籍 と も 見 当 た ら な か っ た 。一 方 で 、知 的 障 害 教 育 や 知 的 障 害 特 別 支 援 学 校 に お け る 実 践 に 関 す る 論 文 、書 籍 は 少 な か ら ず 刊 行 さ れ て お り 、学 校 現 場 で 様 々 な 取 組 が 積 極 的 に 行 わ れ て い る こ と が わ か っ た 。
知 的 障 害 と 自 閉 症 を 併 せ 有 す る 児 童 生 徒 に 焦 点 化 し た 先 行 研 究 が 見 当 た ら な か っ た の は な ぜ な の だ ろ う か 。知 的 障 害 特 別 支 援 学 校 に 自 閉 症 を 併 せ 有 す る 児 童 生 徒 が 少 な く な い 割 合 で 在 籍 し 、重 複 障 害 と し て 理 解 し 、両 方 の 障 害 特 性 に 留 意 し た 教 育 活 動 の 必 要 性 に 注 目 さ れ る よ う に な っ た の は 、筆 者( 園 山 )も 研 究 協 力 者 と し て 参 画 し た 国 立 特 別 支 援 教 育 総 合 研 究 所( 当 時 ,国 立 特 殊 教 育 総 合 研 究 所 )の プ ロ ジ ェ ク ト 研 究「 養 護 学 校 等 に お け る 自 閉 症 を 併 せ 有 す る 幼 児 児 童 生 徒 の 特 性 に 応 じ た 教 育 的 支 援 に 関 す る 研 究( 平 成 15 年 度 ~17 年 度 )」
( 小 塩 ,2004)頃 か ら で あ る 。こ の プ ロ ジ ェ ク ト の 研 究 目 的 の 一 つ は 、「 知 的 障 害 養 護 学 校 に お け る 自 閉 症 の 特 性 に 応 じ た 教 育 課 程 開 発 研 究 を 展 望 し ,知 的 障 害 と は 異 な る 特 性 に 応 じ た 指 導 内 容 を 実 践 的 に 整 理 す る 」こ と で あ り 、そ の 研 究 成 果 と し て 自 閉 症 教 育 実 践 ガ イ ド ブ ッ ク( 国 立 特 殊 教 育 総 合 研 究 所 ,2004)
な ど が 刊 行 さ れ た 。2008 年 に は 全 日 本 特 別 支 援 教 育 推 進 連 盟 が 編 集 す る 月 刊 誌 「 特 別 支 援 教 育 研 究 」 に 、「 特 集 : 自 閉 症 教 育 の 新 し い 取 り 組 み と 知 的 障 害 特 別 支 援 学 校 」が 組 ま れ て い る 。そ の 特 集 の 初 め に 渡 部(2008)は「 知 的 障 害
の バ リ エ ー シ ョ ン と し て 自 閉 症 に 対 応 す べ き で は な い 」こ と を 指 摘 し 、特 集 論 文 と し て 、 知 的 障 害 特 別 支 援 学 校 5 校 で の 自 閉 症 の 障 害 特 性 に 十 分 留 意 し た 教 育 実 践 や 理 念 が 紹 介 さ れ て い る 。全 国 特 別 支 援 学 校 知 的 障 害 教 育 校 長 会 で も 、 知 的 障 害 と 自 閉 症 を 併 せ 有 す る 幼 児 児 童 生 徒 の 教 育 実 践 に 焦 点 化 し た 書 籍 が 出 版 さ れ て い る( 樋 口・丹 野・全 国 特 別 支 援 学 校 知 的 障 害 教 育 校 長 会 ,2014;
全 国 知 的 障 害 養 護 学 校 長 会 ,2003)。そ の 他 、自 閉 症 教 育 に 関 す る 論 文 や 書 籍 が 多 数 刊 行 さ れ て い る は 周 知 の こ と で あ る 。
こ の よ う な 状 況 の 中 で 、知 的 障 害 と 自 閉 症 を 併 せ 有 す る 児 童 生 徒 の「 主 体 的・
対 話 的 で 深 い 学 び 」 に 焦 点 化 し た 先 行 研 究 が 見 当 た ら な か っ た 一 つ の 理 由 は 、 知 的 障 害 と 自 閉 症 の 障 害 特 性 を 明 確 に し た 上 で 、そ れ ら の 障 害 特 性 を 踏 ま え て
「 主 体 的・対 話 的 で 深 い 学 び 」の 教 育 実 践 を 構 築 し よ う と す る 視 点 が 明 確 に な っ て い な い こ と に よ る の で は な い か と 考 え ら れ る 。渡 部(2008)は 前 述 の 特 集 で「 自 閉 症 の 基 本 症 状 や 感 覚・知 覚 の 過 敏 性 等 の 特 異 な 困 難 さ 、ア ン バ ラ ン ス な 認 知 的 発 達 、 そ れ に 全 般 的 な 適 応 ス キ ル の 習 得 に 加 え て 、 応 用 ( 般 化 )・ 定 着( 維 持 )の 問 題 に 対 す る 指 導 が 同 時 並 行 的 に 求 め ら れ て い る 」と 述 べ て い る が 、「 主 体 的 ・ 対 話 的 で 深 い 学 び 」 に お い て も こ れ ら 自 閉 症 の 障 害 特 性 、 並 び に 知 的 障 害 の 障 害 特 性( 例 え ば ,園 山・趙・佐 藤 ,2021)の 両 方 を 押 さ え た 上 で 、そ れ ら に 対 応 し た エ ビ デ ン ス の あ る 指 導 方 法 を 創 り 出 し て い く 必 要 が あ る と 言 え る 。
表 5 は 、 表 1 に 整 理 し た 三 つ の 学 び ご と に 、 表 2 で 整 理 し た 知 的 障 害 と 自 閉 症 の 障 害 特 性 に よ る 困 難 を 別 の 観 点 か ら 記 述 し 、そ れ ら の 困 難 へ の 対 応 方 法 を こ れ ま で の 知 見 か ら 例 示 し た も の で あ る 。表 5 で は 、新 た に「 学 び の 基 盤 」 の 欄 を 設 け た 。こ れ は 学 び と し て の 授 業 が 成 立 す る た め の 基 盤 づ く り に お い て も 、 知 的 障 害 や 自 閉 症 の 障 害 特 性 が 困 難 の 一 因 に な る こ と が あ る か ら で あ る 。 一 つ は 行 動 障 害 の 予 防 と 改 善 で あ る 。行 動 障 害 の 発 生 は 重 度 の 知 的 障 害 と 自 閉 症 を 併 せ 有 す る 人 に 多 い こ と が 知 ら れ て お り 、適 切 な 対 応 、特 に 行 動 障 害 に 替 わ る 適 切 行 動 を 増 や す 建 設 的 対 応 が 重 要 で あ る( 下 山・園 山 ,2005)。二 つ 目 は 、 不 登 校 の 予 防 と 改 善 で あ る 。Sakai, Tsuge, Kouchiyama and Sonoyama
(2019)は 全 国 の 知 的 障 害 特 別 支 援 学 校 を 対 象 に 調 査 し 、不 登 校 の 児 童 生 徒 の 割 合 は 1.8%( 小 学 部 1.2%,中 学 部 2.0%,高 等 部 3.8%)で あ り 、全 校 体 制 や 専 門 機 関 と 連 携 し た 支 援 の 必 要 性 を 指 摘 し て い る 。行 動 障 害 や 不 登 校 は 知 的 障 害 と 自 閉 症 の 障 害 特 性 か ら 直 接 的 に 生 じ る も の で は な く 、環 境 と の 相 互 作 用 の 中 で 生 じ る 二 次 障 害 と 言 え る も の で あ る( 下 山・園 山 ,2005)。「 主 体 的・対 話 的 で 深 い 学 び 」が 成 立 す る た め に は 、こ れ ら の 二 次 障 害 を 生 ま な い 学 校 環 境 や 学 校 生 活 を 創 る こ と が 基 盤 と な る こ と を 忘 れ て は な ら な い 。
最 後 に 、「 主 体 的・対 話 的 で 深 い 学 び 」に よ り 育 成 さ れ る の は「 生 き る 力( 社
会 に お い て 自 立 的 に 生 き る た め に 必 要 と さ れ る 力 )」で あ る( 中 央 教 育 審 議 会 , 2016,p.11)こ と も 忘 れ て は な ら な い 。す な わ ち 、授 業 に よ っ て 児 童 生 徒 一 人 一 人 に 生 き る 力 が 獲 得 さ れ て い る こ と の 確 認 と 評 価 が 求 め ら れ て い る の で あ る 。丹 野(2017)は「 知 的 障 害 教 育 の 授 業 研 究 で は 、し ば し ば『 学 習 活 動 を 通 し て 、何 を 学 び 得 た の か 明 確 で な い 』と い う 、授 業 者 に と っ て は 大 変 に 厳 し い 指 摘 を 受 け る こ と が あ る 」 こ と を 紹 介 し 、「 個 別 の 指 導 計 画 に 基 づ く 指 導 を 、 授 業 の 中 で 展 開 し て い く こ と の で き る 専 門 性 を 向 上 さ せ て い く た め に 、授 業 研 究 を 柱 に し た 校 内 研 究 の 活 性 化 」を 求 め て い る 。授 業 が 上 手 く い っ た か ど う か と い う 表 面 的 な 評 価 で は な く 、子 供 た ち が 主 体 的 に 、か つ 、他 の 子 供 や 大 人 と の か か わ り の 中 で 、生 活 を 豊 か に す る 知 識・技 能 と そ の 活 用 の 仕 方 を 学 ん で い る か ど う か が 問 わ れ て い る の で あ る 。
【 付 記 】
本 論 文 は 著 者 3 人 の 共 著 で あ る が 、 主 た る 執 筆 分 担 は 、 園 山 が 1、3、4、5 の 2)、6、趙 が 5 の 1)、時 津 が 2 で あ る 。時 津 の 執 筆 部 分 は JSPS 科 研 費( 課 題 番 号 20K02921、20K02762) の 研 究 成 果 の 一 部 で あ る 。
表 5 三 つ の 学 び と 想 定 さ れ る 学 び の 困 難 お よ び 学 び の 工 夫 例
想定される学びの主な困難 学びの工夫例 主
体 的 な 学 び
学ぶことに興味や関心を持ち、自己のキャリア形成の方向性 と関連付けながら、見通しを持って粘り強く取り組み、自己の 学習活動を振り返って次につなげる「主体的な学び」が実現 できているか。子供自身が興味を持って積極的に取り組むと ともに、学習活動を自ら振り返り意味付けたり、身に付いた資 質・能力を自覚したり、共有したりすることが重要である。
【動機づけ】
・興味関心が狭い
・自発性が乏しい時がある
・やる気が乏しい時がある
・興味関心を活かす
・達成感を生み出す(トークンエコ ノミ―法など)
・選択の機会を設ける
・振り返りシート
対 話 的 な 学 び
子供同士の協働、教職員や地域の人との対話、先哲の考え 方を手掛かりに考えること等を通じ、自己の考えを広げ深める
「対話的な学び」が実現できているか。身に付けた知識や技 能を定着させるとともに、物事の多面的で深い理解に至るた めには、多様な表現を通じて、教職員と子供や、子供同士が 対話し、それによって思考を広げ深めていくことが求められ る。
【他者との関係構築】
・対人関係力が弱い
・コミュニケーション力が弱い
・表現の多様性が乏しい
・機能的なコミュニケーション手段 の確立(AAC,PECSなど)
・スクリプトの利用
・SST
・社会的強化システム
深 い 学 び
習得・活用・探究という学びの過程の中で、各教科等の特質 に応じた「見方・考え方」を働かせながら、知識を相互に関連 付けてより深く理解したり、情報を精査して考えを形成したり、
問題を見いだして解決策を考えたり、思いや考えを基に創造 したりすることに向かう「深い学び」が実現できているか。
【知識・技能の関連付け】
・複数の事柄の関連づけが 弱い
・想像力が弱い
・般化する力が弱い
・支援ツールの活用
・学校と家庭・地域が連携協力し た実際場面での学習機会
・代表例指導法
学 び の 基 盤
学校生活を楽しみ、安心感や期待感を持って登校し、クラス メートや教師たちと生き生きとしたかかわりを持ち、授業や諸 活動を通して有能感を育んでいるか。家庭生活や地域生活 を有意義に過ごしているか。衣食住の生活基盤や生活習慣 は十分であるかなど、教育活動が成立するために基盤となる 事柄が整っているか。
【教育活動の不成立】
・行動障害
・不登校
・二次障害
・楽しい活動の用意
・適切行動を増やす建設的対応 や肯定的関わり
・不快刺激の軽減・除去
・わかりやすく行動しやすい環境 設定
・個別の指導計画
・個別の教育支援計画 三つの学び(答申:49~50頁)
注)下線は筆者(園山)による。「学びの基盤」は筆者(園山)による追加。