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自閉症児の感情語を利用した言語コミュニケーショ ン指導

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自閉症児の感情語を利用した言語コミュニケーショ ン指導

著者 石山 東律, 玉村 公二彦

雑誌名 教育実践総合センター研究紀要

巻 19

ページ 213‑217

発行年 2010‑03‑31

その他のタイトル A case study of Language Intervention using

Emotional words for a Child with Autism

URL http://hdl.handle.net/10105/2984

(2)

1.問題の所在

障害のある児童の発話指導として、応用行動分析の 手法を利用した指導がなされている。中でも構成され たルーチンの中で対象児にスクリプトを形成し、一連 の作業の文脈の中で、プロンプトの出し方を工夫しな がら自発的な応答的発話を導く手法が効果を上げてい る(長崎・吉村・土屋,  1991;長崎・片山・森本, 1993)。自閉症児に対しても同様の手法で多くの実践 的研究が効果を実証している(佐竹, 1996 ; 関戸, 1996 他)。しかし自閉症児の場合、このように行動療法的 に誘発された応答的発話は般化しにくいことが示され ている(関戸, 1994, 1996: 川上・関戸, 2003)。これは、

スクリプトの中の状況そのものが先行刺激となって対 連合学習的にターゲットとする発話を習得しているた めではないだろうか。

フリス(Frith,  2009)は、自閉症者がカテゴリー化 と一般化に困難があることを指摘している。行動療法 的に習得したスキルの般化が難しいのは、自閉症児の 全体的統合の弱さに起因していることが推察できる。

コミュニケーションというものは、伝えようとして いる事柄の内容はもちろんであるが、コミュニケート しようとしていること自体をも伝えようとする意図 が、必ず伴うものである(Hobson,  2000)。心のこも らない言葉をかけられても、そこから、やりとりには つながりにくいことはだれもが経験していることだろ う。コミュニケーションは双方向のものであるので、

発話された言葉が、相手のコミュケーション意欲にど のように影響するのかを考慮することは重要なことで ある。そこで、相手のコミュニケーション意欲を高め る発話として感情語の発話を考えた。

自閉症児は感情の理解に弱さを持っていることが指 摘されている(Tager-Flusberg,  1989)。自閉症児自身 が把握を苦手とする感情語をターゲットにした発話指 導の研究は、わが国では少ない。しかし、情動的な感 覚と結びついた発話は、関わる相手に心のやりとりが できた満足感を与えるのみだけでなく、対象児に関わ る子どもたちや教師の、コミュニケーション意欲にも 好影響を及ぼすのではないだろうか。

石山東律

(葛城市立忍海小学校)

玉村公二彦

(奈良教育大学)

A case study of  Language  Intervention using Emotional words for a Child with Autism

Akinori ISHIYAMA

(Oshimi Elementary School)

Kunihiko TAMAMURA 

(Nara University of education)

要旨:知的障害を合併する5年生の自閉症男児に対して、特別支援学級での感情語を利用した言語コミュニケーシ ョン指導についての実践を報告した。実践では、子どもからの伝達が必要となる多様な場面(文脈)を反復的に提 供し、感情語や自分の感覚を表現する言葉の発話を促した。特に、感情語「うれしい」については、これまで「あ りがとう」とのみ言っていた場面で、「ありがとう」に加えて「うれしい」も相手に伝えるように指導した。結果は 交流学級の児童による質問紙によるアンケート調査、保護者からの聞き取り、指導者の観察記録をもとに分析した。

感情語の発話が相手の反応を誘発したことをきっかけに、本児は反応を期待してコミュニケーションに積極的にな り、やりとりの往復回数も増加した。結果から、感情語の利用は言語コミュニケーション能力の育成に有効である ことが示唆された。

キーワード:感情語 emotional words 自閉症 autism 言語指導 language intervention

(3)

2.目 的

本研究では、 文脈に即した会話の成立と感情語の 利用 を目指し、指導効果が顕在化した会話場面を評 評・検討すること、聞き取りやアンケートを通して対 象児童と保護者や交流学級児童との関わりの変容を検 討することを目的とした。

3.方 法

3.1.対象児

特別支援学級に在籍する、小学校5年生の男子児童

(以下A児とする)。正常出産(3100g)、始歩10ヶ月、

初語3歳。乳幼児期の言葉の発達が遅滞。3歳時に

「広汎性発達障害(自閉症)」と診断された。3年間の 幼稚園生活を経験して地域の小学校に入学、特別支援 学級に在籍する。以後、交流学級を学校生活の拠点に して必要に応じて特別支援学級で学習してきた。

心理検査の結果は、新版K式発達検査(CA10:10)で は、認知・適応(4:10)、言語・社会(4:0)全領域(4:4)

DQ40。太田のステージ評価(CA10:7)ではステージⅢ-1

(シンボル表象期の初期)。絵画語彙検査(CA10:7)

VA3:0未満。新版SM社会生活能力検査(CA10:7)では、

SA5:3。CARSでは42点であり、重度の自閉と評価さ れた。心理検査からも明らかなように、A児は中度以 上の知的障害を有するととらえることができ、意思疎 通の困難さや感情語を含めた語彙理解の未熟さは、認 知(知的)発達の遅れも強く影響している可能性が高 い。そのため、これまで小学校では、全体的な発達を 支援する取り組みを展開してきた。

特別支援学級担任は基本的に登校時から下校時ま で、見守りを続け必要に応じて支援をしている。学習 については、体育・図工・音楽・学級活動・学校行事 以外は、特別支援学級で学習している。学校生活の適 応は良く、欠席やトラブルはほとんどない。係活動や 当番の仕事は、順序が変わっても自分で対応が可能で ある。「あした、3じかんめ、おんがく」という報告 の発話、「あした、すもう、たのしみ」(4年生の2月)

というような気持ちを他者に伝える発話、「おーい、

ようちえんせんせみて、すごい」(5年生の4月)と いうように他者に賞賛を求める発話も見られるように

なってきている。問いかけに対しては、「うんうん」

と応じることはできるものの、1往復のやりとりが限 界であり、手助けをしてもらっても応答することはな く、話しかけられても応じることはできなかった。

3.2.手続き

発話の指導は、以下のように行った。

①1学期に、表1のような指導場面を設け、感情語や 自分の感覚を表現する言葉の発話を促した。また、感 情語「うれしい」については、うれしいことをしてく れた人に「うれしい」と応答的に伝えることを促し、

これまで「ありがとう」とのみ言っていた場面で、

「ありがとう」に加えて相手に「うれしい」という言 葉も伝えるように指導した。

②年間を通じて、日常生活の中で特別支援学級担任が 意識的に感情語を使い、その後にA児の感情を尋ねる というようにしながら、感情語及び自分の意志や気持 ちを伝える発話を促した。

実施期間は200X年4月〜200X+1年3月まで(本 児が小学校5年生時)で、公立のK小学校において特 別支援学級担任によって実施した。5月半ばまでは、

A児がクラス替えした交流学級に慣れることを優先 し、その期間に心理検査を含むアセスメントを行った。

そして具体的な指導は5月下旬から実施した。

尚、本研究を進めるにあたり、その目的・方法を保 護者に説明し、指導に対する同意とアンケートや聞き 取りに対しての承認を得た。また、研究結果について も、個人懇談の中で説明し、報告の承諾を得た。

3.3.記録と評価

A児の応答的発話とコミュニケーションの変化を知 るために、交流学級の児童全員に質問紙によるアンケ ート調査を行った。アンケート調査は、指導前と各学 期の終わりの合計4回おこなった。また、保護者(母 親)から、毎学期末に教育相談の中で、A児の言語活 動に見られた感情語及び自分の意志や気持ちを伝えよ うとした発話について聞き取りを実施した。さらに、

特別支援学級担任は、A児の言語活動について観察し、

感情語及び自分の意志や気持ちを伝えようとした発話 とやりとりが続いた場面について、その都度記録した。

・帰りの会で連絡帳を返却してもらう時、配ってくれた人を見て「ありがとう。うれしい。」と言うように指導する。

・学習課題が終わりに近づくと、「A君、もうすぐおわるなあ、終わったらパソコンしょうな」と終わった時の開放感を高める。そして、

課題を終えた時に「やったー、よう頑張ったなあ。うれしいなあ、嬉しいときは〈うれしい〉って言ってね。」と感情語の発話を促す。

・筆箱をひっくり返してしまう場面をつくり、片づけを手伝いながら、

  「A君、手伝ってもらってうれしいよなあ。こんな時には、〈ありがとう、うれしい〉って言ってね。」と発話を促す。

・暑いところから、クーラーの効いた特別支援学級の教室に戻って来たときには、「すずしいなあ。A 君はどう?涼しかったら、〈す ずしい〉って教えてよ。」と気持ちを言葉にするように促す。

・給食当番で、3年生の牛乳を1ケースを教室まで持っていく時に、「A 君、重たいなあ、どうA君重たい?先生に教えてよ。」と尋ねる。

・こけたりして、擦りむいた時、「大丈夫?いたい?」と痛さを尋ねて言葉で伝えさせるようにする

・楽しい行事がある時には、数日前がから、行事のことを話題にして、「A 君楽しみ?お母さんにも〈楽しみ〉って言っておいてね。」 などと、まわりの者に楽しみにしている気持ちを伝えるように促す。

表1 1学期に設定した指導場面

(4)

4.結 果

4.1.交流学級児童のアンケート調査

表2に、A児が「うれしい」といったのを聞いたこ とのある児童数を示した。

人数の増減を評価するために、人数の割合について フィッシャーの正確確率検定を行った結果、指導前と 1学期末・2学期末・3学期末との比較において、い ずれも有意差が見られた(p<.001)。

表3には、A児から「うれしい」と言われたことの ある児童数を示した。

人数の増減を評価するために、人数の割合について フィッシャーの正確確率検定を行った結果、指導前と 1学期末・2学期末・3学期末との比較(p<.001)及 び、1学期末と3学期末との比較(p<.05)において有 意差が見られた。

上記のように、3学期末には、「うれしい」を聞い たことのある児童数、言われたことのある児童数がと もに8割近くになるまでに増加した。聞いたことのあ る児童は1学期中に大きく増加し、言われたことのあ る児童は漸増し最終的に8割に達している。

表4は、「A君とよく関わっていますか」と言う質 問に対する人数を整理したものである。

アンケートでは、①ほとんど関わっていない、②あ まりかかわっていない、③まあまあ関わっている、④ よく関わっている、の4件法で回答を求めた。表4で は①と②、③と④を合計して整理している。これにつ いても、人数の増減を評価するために、人数の割合に ついてフィッシャーの正確確率検定を行ったところ、

指導前と3学期末との比較において、有意差が見られ た(p<.05)。

「うれしい」と言われた場面については、図1のと

おりであった。「その他」の解答は、「手をつないでい たとき(1学期)」「A児から何かを渡されたとき(2 学期)」「いっしょに遊んだとき(2学期)」といった 内容であった。

4.2.保護者からの聞き取り

「A児の発話で気づいたこと」についての質問対す る保護者の回答は以下のとおりであった。

「A児の行動で印象に残ったこと」についての、保 護者の回答は以下のとおりであった。

「A児に関わる人とA児との関係の変化で印象に残 ったこと」について保護者の回答は以下のとおりであ った。

4.3.感情語及び自分の意志や気持ちを伝えようと した発話についての記録

表5は、発話の記録から、「うれしい」に関わる部 分を日付順に並べたものであり、表6は、発話の観察 記録から、やりとりの場面の記録を日付順に整理した ものである。

表2 「うれしい」と言ったのを聞いたことのある人数(n=25)

  ある  ない

指導前(5/9)  5  20

1学期末(7/17)  19  6 2学期末(12/12)  18  7 3学期末(3/23)  20  5

表3 「うれしい」と言われたことのある人数(n=25)

  ある  ない

指導前(5/9)  2  23

1学期末(7/17)  10  15 2学期末(12/12)  16  9 3学期末(3/23)  19  6

表4 A児と関わっていると意識している児童数(n=25)

  まあまあ関わっている  よく関わっている   あまり関わっていない  ほとんど関わっていない

指導前(5/9)  9  16

1学期末(7/17)  15  10 2学期末(12/12)  15  10 3学期末(3/23)  18  7

図1 「うれしい」と言われた場面

・気持ちを伝えようとしていることが、強く感じられるよ うになった。

[新しく聞かれるようになった発話]

・(クーラーのきいた部屋に入ってきて)すずしいー。

・(外から帰ってきてアイスを食べて)おいしいー。

・いたい。

・学校であったことをよく話すようになった。

   (例、ごうどうがくしゅうかい たのしかった)

・(父親に叩かれたとき)いたい。叩いたらあかん。

・(Aは、先に食べとく?)うん たべとく。

・(ヘルパーさんを待たしたとき)おまたせ。ごめんなさいね。

・(手伝おうとすると)できる、できる。

・父親への緊張感がなくなって、父親に冗談をするようになっ た(冗談でツバをかける)

・イヤなことは「イヤ」と拒絶するようになった。

・公文の前まできたら「一人で行ける」と言うようになった。

・父親との関係がよくなった。

・反応があるので、父親も「このごろ、Aを可愛いと思う」

と言うようになった。

・父親のA児を見る 目が優しいものとなったように思う。

・A児も「叩いたらあかんで」と父親に言い返したり、ふざ けてツバをかけたり、話しかけるようになった。

・母親に対して、「お母さん 仕事休み?」と尋ねたり、 「仕 事あるよ」と言うと、さびしそうにしたり、「仕事イヤ?」

と尋ねると 「仕事イヤ」と答えるようになった。

(5)

5.考察

5.1.コミュニケーションの広がり

A児の「うれしい」という発話は指導後増加し、3 学期末には交流学級のの8割の児童と「うれしい」を 用いて関わりを持つようになっており、交流学級の児 童の側でもA児と関わっていると意識している者が増 えていることから、このコミュニケーションの広がり が、A児の独りよがりなものではないことがわかる。

また物を配られたり、拾ってもらったりした時に、

「うれしい」と発話しており、やみくもに「うれしい」

を多発させているわけではないことも窺われる。

このようなコミュニケーションの広がりには、「う れしい」を発話した時に相手から得る反応に気を良く して、A児が他者とのコミュニケーションに積極的に なったということが影響しているものと考えられる。

5.2.コミュニケーションの充実感

A児が自分の意志や気持ちを自発的に伝えることに 伴って、A児の発話には、「うれしい」「楽しい」だけ でなく「おもしろい」「おいしい」など感情語の種類 が増え、「すずしい」「重い」などの自分の感覚を表現 した発話もみられるようになった。また、これまでも 出ていた「楽しみ」「楽しかった」「おもしろかった」

などの言葉も使って自分から気持ちを相手に伝えよう としていることが、子どもたちのアンケートや母親か らの聞き取りから明らかになった。

このような感情や感覚や気持ちを伝える発話は、あ いさつ・説明・報告などの発話でのコミュニケーショ ンとは違い、個人の内面とコミュニケーションしたよ うな感覚を相手に与えるものと考えられる。保護者の 聞き取りの中に見られる「反応があるので、父親も

〈このごろ、Aを可愛いと思う〉と言うようになった」

と言うコメントや「〈仕事休み?〉と尋ねたり、〈仕事 7月8日  連絡帳を配ってもらった時に、自発的に 「あり

がとう。うれしい。 もう一回、配ってくた子に対 して 「ありがとう。うれしい。 配ってくれたNさ んがA児を見て頷いてくれる

9月1日  連絡帳を返してもらう時、相手に伝えようとし て相手の方を見ながら、意識的に 「ありがとう。

うれしい。 9月29日  帰りの会の際、

 T:「今日の組み立て、頑張ったから、宿題なし にするわ。

 C:「しゅくだいない。うれしい。 となりに座っ ているNさんに向かって 「しゅくだいなし。うれ しい」

10月8日  そうじ時間に、Bくんのところにほうきでゴミを 集めて、B君にむかって 「ありがとう。うれしい。 Bくんは、「Aくん、それは、僕が言うことや。 10月9日  朝、1時間目が始まる前に、保健室に欠席調べ

を持って行った時、

 養護T:ありがとう。

 C:うれしい。(語尾を上げて質問風に)

 養護T:うれしい。うれしい。

 C:(ニコッとする)

10月9日  2時間目の特別支援学級での学習で、

 C:あっ、電気消えた。   T:電気つけたるわ。

 と言って教師が電気をつけに行き、もどってき てしばらく学習する。

 C:おしっこ。        T:すぐ、帰ってきてや。

 トイレに行くために立ち上がったときに上を見 て、

 C: 「電気、ついた。ありがとう。うれしい。 11月20日  探検バックを配ってもらったとき、配ってくれ

たNさんに向かって 「Nさん、ありがとう。うれ しい。   N さんが反応せずにいってしまうので、

後ろから

 C:顔見したり。T:振り向いてほしかったなあ。

 C:うんうん。

6 26

 工事のおじさんが誤って教室の 電気を消してしまった時、

C:電気消した。電気消した。

T:電気消したらあかんて、言い たかってんなあ。

C:うんうん。

1 13

T:おはよう、Aくん。

C:おはよう。 山、雪ふってん ねん。

T:そう。山に雪降ってるのん。

C:うんうん。

1 13

T:Aくん、今週給食当番やろ。

C:うんうん

T:8番のエプロン着て、牛乳運 んでや。

C:うんうん。

T:給食担当じゃないから、クラ スの分だけでええわ

C:うんうん。

7 10

 クーラーのきいた特別支援教室 に入った時、担任の方を見て、

C:気持ちいい。

T:Aくん、だいぶ目を見て言え るようになったなあ

C:うん、うん、うん。

T:Aくん、目みるのはずかしい?

C:はずかしくなーい。 1 14

 1校時、視写にあきて、独り言 に没頭している時、

T:(Aくんの方を向く)

C:(おどろく)

T:独り言、楽しい?

C:(Tに反応しながらとても照 れた様子)

T:独り言してもええねんで、独 り言、楽しいなあ。

C:たのしい。

9 25

 英語の時間が急遽取りやめに なった時、

C:英語?

T:英語、お休み。

C:英語おやすみ

と言った後、ノートに「えいご、

おやすみです。」と書いていた。

9 29

 6校時、組み立て体操の練習を がんばった後、

T:「ようがんばったなあ。かし こかったなあ。

C:「うんうん、ようがんばった。 T:「もう、〈組み立て〉出来るな あ。

C:「うんうん。

その後、背中をさすってあげて、

頭を抱いてあげると、独言を言い ながら少し涙ぐんでいた。

2 12

もって帰っていたマジックを、ふ で箱から出して、

C:みて、これ。

T:これ、おうちの?学校の?

C:学校。

2 24

C:あした、休み?

T:あした、6年生を送る会。

C:たのしみ

T:(休みと聞き違えて)休み違 うで。

C:たのしみ。

T:6年生を送る会、たのしみ?

 C:うんうん、たのしみ。

  ※ T:担任、C:A児、養護T:養護教諭  ※ T:担任、C:A児

表5 「うれしい」に関わる発話記録表 表6 やりとりの場面の観察記録

(6)

あるよ〉と言うと、さびしそうにしたり、〈仕事イ ヤ?〉と尋ねると〈仕事イヤ〉と答えるようになった」

というコメントは、保護者とA児との間の情動的なコ ミュニケーションの報告であり、保護者がA児とのコ ミュニケーションにこれまでにない充実感を感じてい ることを示している。

5.3.感情語の利用がやりとりに及ぼした影響 特別支援学級担任による発話の記録を見ると7月8 日の記録には、A児が反応を求めて「ありがとう、う れしい」を繰り返し、その要求に相手の児童が応じて いる様子が記録されており、9月1日にも、「ありが とう、うれしい」を発話して相手からの反応を期待し ている様子が見られる。さらに、11月20日の記録から は、A児が反応を求めてしきりに発話している様子が 記されている。また、やりとりの場面の記録からは、

1学期の前半は1往復のやりとりが限界であったが、

1学期の終わりから2学期にかけて2往復のやりとり が見られるようになり、3学期になると3往復のやり とりも数回観察することができており、感情語の利用 はやりとりにつながりやすいことが示唆されている。

ホブソン(Hobson,  2000)は、自閉症児はどんなと きにコミュニケーションが成立するのかをわかってい ない場合が多いことを指摘している。本事例では、感 情語の発話により相手の反応が誘発され、その体験が A児の反応への期待を呼び、A児とのコミュニケーシ ョンを成立させる動機付けが高まった。その中でやり とりのためのターンテイキングが徐々に習得され、や りとりの往復回数が増えていった。このような一連の コミュニケーションに関わる学びは、自閉症児にとっ て「どんなときにコミュニケーションが成立するのか」

について気づかせていくことにつながる学びとなるの ではないだろうか。

5.4.感情語の利用と感情理解

9月29日の記録では、「宿題なしにするわ」という 教師の発言に対して「しゅくだいなし、うれしい」と 応じ、隣りの児童に「しゅくだいなし、うれしい」と 気持ちを伝えている。この場面では、宿題がなくなっ てうれしい気持ちと「うれしい」という発話とを一致 させており、自分の感情の表現として「うれしい」が 発話されたことが記録されている。10月8日と10月9 日の記録では、相手が喜ぶようなことをした際に、

「うれしい」という発話をし、相手から自分に向けて の「うれしい」を引き出そうとしている様子が記され ており、自他の感情の区別が明確ではないものの、感 謝の場面での感情として「うれしい」をあてはめよう そしているA児の様子が見られる。

このようなことから、感情語を利用したコミュニケ ーション活動は、A児の感情理解を高める上でも有効

なものとなると考えられるのではないだろうか。

(謝 辞)

今回の事例研究にあたって、対象児のご家族の了承 をいただき、全面的に協力をいただきました。ここに 記して感謝します。

文 献

Frith,  U.  2003  Autism  :  Explainning  the  Enigma Secand  Edi-tion.  Blackwell,  Publishing.  冨田真 紀・清水康夫・鈴木玲子訳 2009 自閉症の謎を 解き明かす 東京書籍 pp.274-290.

Hobson,  R.P.  1993  Autism  and  the  Development  of Mind.  Psychology  Press.  木下孝司監訳 2000 自閉症と心の発達 学苑社 pp.135-137.,  pp.270- 271.

川上賢祐・関戸英紀 2003 自閉症児に対する共同ル ーティンを用いた言語指導−4つの異なる文脈に よる「ありがとう」の習得− 横浜国立大学教育 人間科学部紀要, Ⅰ, 教育科学5, 149-161.

長崎勤・片山ひろ子・森本俊子 1993  共同行為ルーテ ィンによる前言語コミュニケーションの指導 −

「サーキット・おやつ」スクリプトを用いたダウ ン症幼児への指導− 特殊教育学研究,  31(2),  23- 34.

長崎勤・吉村由紀子・土屋恵美 1991 ダウン症幼児 に対する共同行為ルーティンによる言語指導 −

「トースト作り」ルーティンでの語彙・構文,コ ミュニケーション指導− 特殊教育学研究, 28(4), 15-24.

太 田 昌 孝 ・ 永 井 洋 子 編 著( 1 9 9 2 )自 閉 症 の 到 達 点 日本文化科学社 

佐々木正美 1993 自閉症療育ハンドブック 学研 佐竹真次 1996 自閉症児における伝達行動の指導−

精神薄弱養護学校の活動の中で− 行動分析学研 究, 9(2), 121-127.

関戸英紀 1994 エコラリアを示す自閉症児に対する 共同行為ルーティンによる言語指導 −「買い物」

ルーティンでの応答的発話の習得− 特殊教育学 研究, 31(5), 95-102.

関戸英紀 1996 自閉症児に対するスクリプトを利用 した電話による応答の指導 特殊教育学研究,  33

(5), 41-47.

Tager-Flusberg,  H.  1989  An  analysis  of  discourse ability and internal state lexicons in a longitudi- nal  study  of  autist-ic  children. Paper  presented at  the  Biennial  Meeting  of  the  Society  for Research  in  Child  Development,  Kansas  City, April. 

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