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吸着粒子間の間接的交換相互作用の理論(酵素特異 性の電子的機構)

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(1)

吸着粒子間の間接的交換相互作用の理論(酵素特異 性の電子的機構)

著者 六田 嘉明

雑誌名 奈良教育大学紀要. 自然科学

27

2

ページ 5‑14

発行年 1978‑11‑25

その他のタイトル Theory of Indirect Exchange Interaction between Adatoms : Mechanism for Enzyme Specificity

URL http://hdl.handle.net/10105/2483

(2)

奈良教育大学紀要 第27巻 第2号(自然)昭和53年 Bull. Nara Univ. Educ, Vol. 27, No. 2 (Nat.), 1978

吸着粒子間の間接的交換相互作用の理論

(酵素特異性の電子的機構)

六  田  嘉  明 (奈良教育大学電気教室) (昭和53年5月1日受理)

Theory of Indirect Exchange Interaction between Adatoms : Mechanism for Enzyme Specificity

Yoshiaki Muda

Department of Technology, Nara University of Education, Nara, Japan (Received May 1, 1978)

Abstract

Theory of indirect (via substrate) exchange interaction between adatoms on the substrate has been developed and applied to admolecules‑enzyme system to clarify the mechanism of enzyme speci丘city.

The second quantization formalism for nonorthogonal basis states has been developed. The indirect exchange interaction theory between two adatoms or admolecules has been presented. It has been shown that the interaction energy is アJ depending on the spin state of the system, where J is the eだective exchange integral proportional to hd3, h being the adatom‑substrate one‑electron hopping mteg‑

ral, and d being the overlap integral.

1.緒   呂

生化学反応の極めて強い特異性は,複雑な生命現象が誤りなく進行するのに重要な役害腫果た していると考えられるが,このような鋭い特異性がいかなる(量子力学的)機構によって発現し てくるかは,物理学的にも,また電子工学的にも分子によるパターン認識の問題として,興味深 い.例えば,タンパク質合成において転移RNA (tRNA)は,特定のアミノ酸とのみ結合し, かつ,伝令RNA (mRNA)上のコドンを正確に識別して遺伝情報をアミノ酸配列に翻訳する役 割を果たしている.しかし,その電子的機構は未だ明らかではない. R.W.Holley ら1)および S. H. Kim ら2)によると, tRNAの分子構造は一般に,塩基配列の鎖が3つのループをもつク ローバの葉のような形に折りたたまれており,柄の一端に一本鎖のCCAという塩基配列があ る.この3'末端にアミノ酸が結合するが,驚くべきことに,この3'末端はすべてのtRNAに 共通で,同じCCA という塩基配列をもっている.また mRNA上のコドンと結合する部位

(アンチコドン)は, 3'末端から遠く離れた他端のループ上にあり,その塩基配列は各tRNA によって異なる. 3'末端は,どのtRNAでも同じ原子構造をもっているのにもかかわらず,ア ンチコドン部が指示するアミノ酸とのみ特異的に結合するのはなぜであろうか.

分子のある部位における電子状態は,その近傍の原子環境によってはゞ決定されると考えるの

5

(3)

は物理的に自然な考え方であるように思われ,実際, R. Haydockら3)は,その考えに基づいて, 局所的電子状態密度を計算する方法を提案している.しかし,この考えからすれば, 3'末端の電 子状態はどのtRNAでもほゞ同じになり,上に述べた鋭い特異性は説明できない・それでは, いかなる機構によって3'末端から遠くにあるアンチコドン部の塩基配列が3'末端に情報を伝達す るのであろうか.本論文では,基体に吸着した二原子間の間接的交換相互作用の理論を展開し, 帝素やtRNA分子による分子認識の電子的機構として,間接的交換相互作用が考えられること

を提案する.

T. B. Grimley45やT. L. EinsteinとJ. R. Schrieffer53は,基体のBloch電子を介した‑電 子ホッピングによる間接的相互作用の機構を提案しているが,本論文では,その他に,間接的な 二電子相互作用,すなわち,基体を介した交換相互作用が存在することを明らかにする・基体を 介したこれらの相互作用は,必然的に長距離力であり,上に述べたtRNAの3'末端とアンチコ ドン部に相互作用が存在する可能性を与える.さらに, tRNAとアミノ酸を結合させる反応を 触媒するアミノ磯活性化酵素が, tRNAのアンチコドン部を認識して, tRNAにアミノ酸を受 け渡す反応においても,この酵素にtRNAか吸着した際, (アミノアシルAMP)一酵素複合体 のアミノ酸‑AMP結合が破れて,アミノ酸がtRNAに結合する機構も,吸着粒子間の相互作 用によって説明できる部分が多いように思われる.本論文では,第2章で,理論の道具立てとし て,非直交関数系による第二量子化法を述べ,第3章で,間接的交換相互作用の理論を展開し, 相互作用エネルギーの見積りを行う.

2,非直交関数系による第二量子化

酵素や遷移金属表面に吸着した原子・分子間の間接的交換相互作用については'これまで全く 研究が公表されていないが,本論文では第二量子化法に基づく理論を提示し,さらに相互作用エ ネルギーがhd3のオーダーであることを示す.ここで, hは基体と吸着原子との‑電子ホッピン グ積分, dはその重なり積分である.本章では先ず,その道具立てとして,非直交関数系による 第二量子化法6)を述べる.

totwiを,非直交‑電子spin orbitalの完備系とし,その重なり積分を

di}‑∫ b,* (ェ) ¢; (x)Ax ft)

とする.ここで,添字iはspinindexを含み,エは電子の座標rとスピンSを合わせて表わす ものとする.したがって, ∬に関する積分は, rに関する積分と∫に関する和を意味するものと する.

通常の第二量子化法では,直交基底関数系が用いられる・これは,非直交系を用いると,場の 演算子や生成・消滅演算子の交換関係が複雑になるためであると考えられる・本筋では,通常の 交換関係を満足する生成・消滅演算子を用い,非直交性はoverlap operator (operatorは以下で ばop.と略記する)を導入することによって解決している・

Ⅳ電子の電子状態を表現する基底関数として Slater行列

1

ri,‑iAJ1,‑‑‑,xN) =荷

¢ (*l) ‑‑・・¢ (xn)

<*.v (.r,ト‑‑如・ (∫.ヽ・)

を用いる.添字iには,任意ではあるが確定した順序を仮定する・すなわち, il‑iNは,

*1<*2<  <tN

の順に書くことにする.これは, Ⅳ電子状態の位相を任意ではあるが確定するためである・

(3)

(4)

吸着粒子間の間接的交換相互作用の理論 7

Th‑i*に1対1に対応するヒルベルト空間での状態ベクトルをLil‑iN>とし {¥il‑*サ}

は直交していると仮定する.本法の概念図を第1図に示す.通常の第二量子化では,実空間の直

1, (/l)叩, (/2)<>r 1, fu薫{C¥ci)

・a)直交系/」・ /ト

1, (/.)<. /2。,,

(b)非直交系

D, Fi, F2 (<r,+, c.)

芋 Dys。n;」(Sを,

(Hilbert空間) 第1図 非直交関数系による第二量子化

交系から Dyson 空間(Hilbert 空間)の直交系へ1対1の写像が行われるのに対して,本法で は,非直交系から直交系への1対1の写像が行われる.そこで,通常の第二量子化では, Schro‑

dinger表示での常数1および‑ミルトニアンの一体および二体のop.に対して,それぞれ, 1 およびfl‑∑hiid+cj,f2‑y2 ∑〔ij¥kl〕crcfcici,が対応するのに対して,本法では,それぞれ,

〈       /ヽ  〈

overlap op. DおよびFu F2が対応することになる.

¢,・(諾)に対応する電子の生成・消滅演算子cr  を,それぞれ, (4)(5)式のように定義する.

a I ii‑i jV>‑0. ¥ iv‑tNj>

ciつ   蝣iN^>‑Oiつil‑i‑iN>

Oi,Oi'に関する注意は通常の場合と同様である.上の定義式と{│*r・・*>>}の直交性とから, ci¥

ciは次のような通常の交換関係を満足することが証明できる.

〔 cj〕 ‑‑Sij, 〔a, cj〕+‑〔d+, Cj+〕+‑o       (6)

今       m‑cra      (7) と定義すると, (4)(5)式からniは固有値0又は1のみをもつことが証明でき, niはFermionの 数演算子を表わしていることがわかる.

(5)

次に場の演算子を

ty {x) ‑T>ci4>i (x)

I

++(∬ ‑I2ォV(∫)

l

とするとき, (6)式から+,サ十の交換関係は次のようになる・

{^(xl),サ(I)〕+‑s¢ (x')fr(x).

仲(x'サ+(ェ)〕+‑叶(x'),^(x)〕+‑0         鯛 物理的に意味があるのは,行列要素だけであるから, Schrodinger表示と等価な第二量子化の 表示は次のように求められる・すなわち, Schrodinger表示での2つの状態の間のop・の行列要 素が Hilbert空間での対応する2つの状態ベクトルの間の対応するop・の行列要素に等しけれ ば十分である.すなわち,

Jw一 蝣*Iz!>‑蝣>∬N)・h,‑sAJi,‑‑‑,xif)dxi‑dxN‑<Ch‑ IN I D ¥jl‑JN>  (ID

J"‑‑ '(・Zl.‑,£ (/l)< ‑ ifrl,‑,xN)dxv‑dxif‑<ii‑iNI^1¥j‑jit >

恒,‑ :(xu‑ gif) ifi)oJFh,‑iN(zi,‑>zv)<^i‑dxjv‑<z'i‑iN ㈲j¥‑JN>

/ヽ 〈  〈

が任意の添字の組(il‑iN)と(ii‑jN)に対して成立するようにA Flt F2を定める・ここで, (/l)。p, {ft)<はそれぞれ, Schrodinger方程式における‑体力および二体力の演算子である・

(/l) 。p‑∑[一芸F;2+ y(n)]

(/2) 。p‑y2∑∑e2/ │ n‑rj

i )

ここで h Jに関する和はすべての電子についてとる・

2. 1 Overlap operator

先ず, Dを求める. (ID式の左辺の積分は次のように与えられることがLowdin‑Slater73によっ て示されている.

K‑ rJl...iNdxl‑ Axn‑det

di,j, ‑‑‑dijti dixix '‑"‑'Niii

‑∑ (‑1)"P dixil‑dijN

p

ulfl

ここで, Pは添字の並び(./i‑jN)に作用する置換演算子で(‑!)蝣はPの偶奇性によって+1 または‑1の値をとる.

ノヽ

(16)式の中の対角項A,y,‑du をとると,この項に対応するものとして(ll)式のDの中には, diljl‑'diifji{fi'i十一CiN CjN‑Cj、が存在すれば良いことは明らかである・同様にして, (16)式の中の

(‑1)^4/,‑dt> に対して P^A一,7 .>‑.+ />蝣+/一蝣‑蝣chが対応する・ただし,後者では 係数(‑1)1がなくなっている・これは  cjの交換関係から, Pが奇置換のとき自動的に‑1

ノヽ

が出るからである.そこで, Dは次のように書かれる・

D‑∑ p A,/,‑&ii/J'ir c>i '‑C>N cln‑Cii       か

p

(川式は, (16)式の左辺に現われた添字の特定の組(il‑lN)と(jl‑jN)に対してのみ成立するか ら,任意の添字の組に対して成立するためには, (1の式で添字の組Ui‑jtf)と{J‑JN)に関す和 るをとれば良い.これはまたIylNji‑jN個々の添字についての和に置きかえることができ,

(6)

吸着粒子間の間接的交換相互作用の理論

/ヽ

このときPは不要になる.そこで, βの一般式は次のようになる.

B‑五g・・崇‑芳diik‑ rCi, ^cjN蝣Ch

和Z:は,紬Iのすべてのiについてとる・

F・

9

(18)

次に09)式を簡単な表蔓削こ書きかえる.まずJl‑JNに関する和の中で ji‑n,‑,jN‑tNなる 項をぬき出すと,それは

五g・・買diih‑ V^li十・CiN+C>N      (19)

となるが,これは恒等的に1に等しい.なぜなら,上式のci,以下の式はni.‑‑蝣niNに等しく (v da‑l, m‑a+ci), iv‑iNに関する和をとると一つの添字の組(ii‑iN)がnFn‑N¥ 個現 われるから, 09)式を任意のN電子関数Ii‑ly>に作用させると常にその関数自身を生成するか

らである.

つづいて, jl≠zl, 72‑ォ2,‑‑,JN‑INなる項をぬき出すと,それは

孟買一   一」7jv Cijy'''CizCji      但0' で与えられる.ここで,和∑はJ‑iを除くすべてのjについての和を意味する.上と同様の

J*i

議論によって, (20)式は(1/N!)∑‑∑ ∑  ci,^tli,‑lliNCj,に等しく,さらに, i2‑iNに関する

u <NIIキ)1

和からIN‑1) !が出るから,上式は,

寺号点'i^Ji ^7*1

に等しいことがわかる.またJl‑*l,j2≠i2,‑ JN‑INなる項も(21)式に等しく,結局但1)式に等し い項がⅣ個得られるから,その和は(21)式から係数1/Ⅳを琴り除いたものになる・

さらに, jl≠*1,J2≠12,J3‑t3, ‑,}N‑lNなる項をとり出すと,それは, N‑2) !

蝣1 >211キ11J2キ12

∑ ∑ ∑ ∑ dij.di^a^ci^c^Cj, e:l となるが, (22)式と等価な項はNC2‑N(N‑1)/21個存在するから,それらの和は(22)式にN(N‑1) /2!をかけたものになる.以下同様にJl‑‑jNに関する和の中で, 3つだけが対応するiに等し

I5i?

くない項,‑を求めてゆくと, Dは次のように表わされることがわかる.

D‑l+TアSdijCi+cj+K∑∑∑∑dijdkiCi+Ck+ciCj りres【TEXMl勺31

Hh去臣蔓Jl買・Bdi,‑J....+

u'NJNc'i‑C'NCIs'‑CJl e31

&)式は,重なりの効果を摂動的にとり入れる際には都合が良い.すべてのdi,を0とおくとD‑1 となり,通常の直交系による第二量子化の式に帰着することに注意しておく.

2.2 ‑体力演算子

ノヽ

次に, (12)式の定義から, ‑体力放算子Flを求める. (12)式の右辺の行列要素は L6wdin‑Slater7>

によって与えられている.それは次のように表わせる.

K‑Iff '(/i).p?V‑jsdxi‑‑‑dxN‑等差十1) pP^i;,・・・dis‑lj!S‑1hisjsdistljstl‑d‑'NIN 但4}

ここで,

h,j‑J頼れ一芸F2十V(r) 〕抽)dE

IiZI

は‑・電子ホッピング積分である. (12)式と(21式から, Flは次のように与えられる.

〈  〝

Fl ‑ ∑ ∑ Pdixh ‑dis̲Js̲lhisjsdistljsl.l‑蝣diNj  ‑CiN+cjN‑・Ch

p J‑l

Llil

(7)

ところで, ¢6)式は,特定の添字の組(iv‑iif)とUvJn)に対するものであるから,任意の添字の組 に対して成立するためには,餌式の各添字についての和をとり, Ⅳ!で割っておけば良い・そこ

′ヽ

で, ‑般にFlは次のように与えられる・

F1‑品買・・・崇・・・窯hi^j^di^j,・・・diNjNC{1十‑ ciN+cjN‑Cfl

′ヽ

Ei?

さらに,閉式をDの場合と同様にdのベキ級数の形に展開すると,

en

F1‑∑ ∑ had十cj+ E ∑ ∑ ∑ hijdkiCi+Ck*ciCj+‑ ‑

i ;    ・J A Iキl

・読写・・・開,・書2 )!i昆hixjldi2j2・・蝣diNjNdl+蝣・・CiNCjN‑‑‑Cjl

となる.和に関する注意は, (18)@0)式で述べたものと同様である・

ノヽ         〈

さらに, (23)式のDを用いると, Flは次のように表わされることがわかる・

〈       ′ヽ

Fy‑T. T> hijCi+Dci

I 1

2.3 ニ体力演算子

最後に, (13)式から二体力演算子F2を求める. (13)式の左辺の行列要素は, Lowdin‑Slator)によっ て与えられており,それは次のように書きかえることができる・

J ri,‑iAf2) ovVh.‑jNdxv‑dxN

‑諸色写(‑l) pp拍41¥j‑jlト〔imil¥jljm }}diljl‑ lサz‑iJm‑i

(Lキm)

&im+¥ jm+l‑‑ 'dii‑iji+idtiiiji+i ‑diNiN サォ<

〔ij │ *0‑∫ ;(xl)<j>J* (xi)孟¢ (*l)‑)dzicLr2

はクーロン相互作用の行列要素である・

(30)式の‑〔 nil│jljm〕に関する項は,和をとれば〔 nil│jmjのこ関する項の和と等しいから, (30)I5?

式から‑〔imilljljm〕を消去し,係数を言に変えることができる・ゆえに(13)Sから・ F2は次のよ うに与えられる.

P2‑韻邑苧P iimil I jmjl〕 divii‑蝣‑JM‑lim‑1*サm+lim+l"

dix‑iii‑ldtu¥jl+¥ '‑diNiNC>l+ '''C'N CJN‑Cj,         母

上式は,特定の添字の組に対してのものであるから,任意の関数Wについて03)式が成立するため

ノヽ 〈       〈

にはIvjNに関して和をとる・このとき D.Ftの場合と同様にして, F2は一般に次のように 与えられる.

倉2‑与・品11 IN買・・・芳〔hhIhh〕di3ノ3‑diNjsCil =・Cix CjN‑Ol

さらに, dのベキ級数の形に展開すると,

倉2‑与閂== 〔ij│ kl) a+cj+ackI I k

・昔閂EEE E〔ij¥kl〕 dmnci+cj+cm+cncICh^ 一] k  I m n≒m

・号・て孟郡買・・・崇h in買・;盈〔iiii ¥hh〕転'<2iNjNCil ‑'CiN CjN'‑Cjl

ノ̀ヽ

さらに(23)式を用いると, F2は次のように表わせる・

P2‑音写祥苧〔ij ¥ kV¥ ci+cj+Dc,ck

Jiコ W

(8)

吸着粒子問の間接的交換相互作用の理論 ll

この表示では, ‑ミルトニアンに対応する演算子は次のようになる.

H‑B B hiiCi+Dci+吉墾E E 〔尋kV]a+cj+Dc,ch

′ヽ

i  i      ^ i i k I

(23)(28)(34)(36)式において,すべてのdaを0にすると,通常の第二量子化法に帰着することに注意 する.

2. 4 Eぽective many electron e∬ects

本章で与えたものは,多電子問題を解く道具立てであるが,すでに軌道の非直交性から生じる

,ヽ

新しい物理的事実が陽に示されている.それは, (23)式のDを(36)式に代入してみるとわかるよう に,重なり積分と一体力積分とから,実効的多電子効果が生じることである.たとえば, Bの式 の第2項の一つとHの第1項の‑つとから次のようなEffective exchange termが生じる.

Z] ∑ ∑ ∑ hijdkiCi+Ck+ciCj       (37)i  I  k ll‑A

この結果 exchangetermは(38)式のようになり,真の交換積分〔102aつ2ala' ]に対して 2h, d21なる項が加わることになる.後者の重要性は,水素分子のHeitler‑Londonの理論で良く知

られている.本章の定式化では,それがeffective exchange項として明確に現われている.ま た,本定式化では, (39)式のようなクーロン項に対しては,重なり積分と‑体力とからの有効クー ロン項のような項は生じないこともわかる.

exchange項‡〔U2a'2ala〕 +2h12d21}cla+C2a′ "CwC‑ia

Coulomb項〔ltfl‑tfはtfl‑a〕ォ!ォト      (39) また, (23)式を(36)式に代入することにより,一般に次のような形の多電子項が存在することがわ かる.

1体力× (重なり積分)n‑‑2{n+l) ‑Fermion term 2体力× (重なり積分" >2{n+2)‑Fermion term

3.間接的交換相互作用

吸着原子1および2の原子軌道を¢1qおよび¢2gとする. multi‑orbitalsの効果は簡単のため 考えない. 6はスピン関数を意味する.基体は‑電子状態紬kqlをもち,基底状態は¥k¥k{k'†kll

‑>で表わされるものとする.これは, Hartree‑Fock近似に相当する.極kqiは互いに直交し ているものとし, ‑ミルトニアンの非対角行列要素wを持たないとする.また,原子1と2 は十分離れていると考え, ¢1Uと¢2gの重なり積分d12および直接の相互作用hn,ォ21は零とす る.しかし, ¢1g,¢2gと t¢kqlの問には,重なり積分d¥h,dikと‑電子相互作用hik,h2k等が 存在する.この模型は,金属表面に吸着した原子の場合に直接通用できるが, ¢16および¢2qをア ミノ酸およびtRNA分子の他端にあるアンチコドンに対応させ, {<M はtRNA分子の鎖を 表わすと考えることもできる.また, ¢1gおよび¢2gはそれぞれ, tRNAとアミノアシルAMP に相当し,酵素が基体に相当すると考えても良い.

′ヽ

(23)式および(36)式からOverlap op. DおよびハミルトニアンHは次のようになる.

2

D‑l+∑∑∑ (dikCi<,+ckォ+h. c.)

a i=¥ k 2 2

・嶺搭開{dikdjk'Cia+Cja'+ck'n'Cka+dik dk'jCio+ck′Q′十cja'Cka+h. C.)

・去qa

2 2 2

∑ ∑ ∑ ∑ ∑ ∑ (dikdjk'dhk>Ci<,+Cja′ 'ch,'+Cka'Ck′q′Ck6

‑1 1‑1 *‑1 k  ′ kw

(9)

+diudjk,dk‑hCia+Cj。′+ck〝 Chi,′′Ck′・'Ck。+dikdk'j dhk'Ci<j+Ck′O, Ch<,"+Ck'。‑Cj<,,Ckq

+ dikdk'jdk'hCia*Ck', ′+Ck'*>+che>Cj<,′Ckq′ + h. c.) w

2        2

ii=∑∑S,vcia+DCia+∑∑∑(hikCia十bch<r+h.c.) ∑ tck<,+Dck。

a i=l       <s i‑¥ k       ha

・÷写        = {[Ia2a'¥2ala'}c‑+C2a′ ‑DCle′C2ォ+h.C.)

ノヽ       ノヽ

661 2       ノ、

+∑ ∑ ∑ ([ioka'lkaiol] d<,+Cka′ Dci<,'Cka+h. C.) } +‑      (43)

qq′ ;= k

ここで, h.c.はエルミート共役を意味する. (43式ではd3の項までをとった. (43)式では,原子 1から2へ二個の電子を移動させる項などの二体力項は省略した. Schrodinger方程式は,

〈  ノヽ       〈  ノ̀ヽ

H¥・>‑ED¥・>

で与えられるが, (4功(43)式を用いて, (44)式の真の固有関数を求めることは不可能であるから,本論 文では,系の基底状態を比較的簡単な波動関数で近似し,間接的交換相互作用を明らかにするこ

とにする.

基底状態に対する近似として,基体は Hartree‑Fock の1重項状態であるとし,原子1, 2 はそれぞれ1個のunpaired electronをもつとすれば,系の可能な状態は1重項と3重項であ り,それぞれ次のように表わすことができる.

1重項(Singlet) :ト>‑ (Wテ(II†21k†勘k'†k'J‑ >‑│l│2†k}k[k'†k'1‑>) 3 重項(Triplet) : │1>‑出2†kT・=>      (*‑1)

+>‑(Wす(│112†k†ゑ十‥>+u12†k†kい‑サ(5,‑0) ト1>‑田21*t‑>       (*.‑ ‑!)

以上の電子状態はすべて,全スピン演算子(S2)< および仝スピンのz成分の演算子Jz)。pの正 確な固有関数になっていることに注意する.これらの関数はすべて,スピン状態が異なるのみで, 軌道への電子の配分の仕方は全く同じである。また,これらの波動関数は,吸着原子に関しては Heitler‑London形の波動関数になっていることに注意する.さらに近似を進めるためには,吸 着原子がイオン化した電子配置 ¥e.g‑¥l†11k¥k{‑‑>)や,基体から吸着原子やまたその逆の電 子移動が生じた項 fi.gつ1†112Jk¥k>†klt‑>)などの励起状態の電子配置を含めて配位間相互作 用(Con丘guration interaction)の計算を行えば良いが,本論文では吸着電子状態を正確に定める ことが目的ではないので省略する.なお上に仮定した4個の波動関数のうち,三重項の波動関数 のエネルギーは縮退しているので,以下では 5Z‑Oの波動関数 +>(47>式を三重項状態の計算 に用いることにする.

(45)(47)式のエネルギーは,次式によって計算できる.

E等‑<二日Hl干>/<芋D T> m

ここで,序>はl‑>またはl+>を合わせて表示したものである.

柱>は,原子1と2のスピンが入れ変わった電子配置のみを含むから, (43)式のHから特に原

ノヽ

子1と2の間の交換項に注意してとり出すと, Hは次のようになる.

2      2

fI‑∑∑sic flia+∑∑ek。 nkc‑¥‑∑ Uni↑nり

a i=l a k i‑1

2

‑号写真写{Kriianko+h.c.) ÷写.Fl等(KaS ck‑.+ci‑サCka+h. C.)

‑÷写(んwloォ20+h.の+ (J‑cl,+<72t+Cy↓ C2↑+h.c.) ここで,

K‑[iaka' k<ji<j' ¥+2hik dM

J± ‑[1<t 2士a¥2a l土a]+2∑∑【hikdkzdvk′dkn +/ii2f12サ'flt'Wii]<Mtォ><ォ*'±q>

k k'

(10)

吸着粒子間の間接的交換相互作用の理論 13

Kは原子* (*‑1,2)と基体の電子I¢kqIとの間の有効交換積分で 2.4節でも述べたように真 の交換積分[iako',¥kaio' ¥に‑体力hikと重なり積分dkiの積の項が入っている・これらの量 子力学特有の効果を古典的に説明することは困難であるが,おゝよその物理的概念を得るために 説明してみると,真の交換積分は交換電荷¢ (x)¢kq(ェ)問のクーロンカ 7rサ によるエネル ギーを意味するのに対して,有効交換項は,交換電荷がハミルトニアンの一体カポテンシャルか ら受けるエネルギーを意味すると考えて良いであろう.したがって,前者が常に正 Repulsive) であるのに対して後者は常に負 attractive)であり,その和Kはしばしば負になることがある・

これは,有効交換項の重要性を物語っている.

J̲tは原子1と2の問の有効交換積分で, 〔162土a¥2al士6〕が真の交換積分,第2項が‑体力 と重なり積分から生じた有効交換項である. Kでは,重なり積分の1次の項の帰与があったのに 対し J+では, 3次の項の帰与が最低次であることに注意する.これは,原子1と2の間の直

接的相互作用h12とd12を省略したためであって,もし, hit≠0,dn≠0とすれば, (51)式と同様 にしてJVにも2hi2dy,なる有効交換項が生じることになる. 2h12d2iは,基体の電子が全く関 与していないという意味で直接的交換相互作用を表わしている・これに対し, (52)式の第2項は,

基体の電子を介したもので,間接的交換相互作用と呼ぶことにする.間接的交換相互作用の物理 的概念は,上に述べた有効交換積分と同様量子力学的概念であるが,おゝよその意味は,原子1 の電子が基体の電子¢kqを介して原子2に移り,運に原子2の電子が¢k′Q′を介して原子1へ移 る過程を表わしていると考えられる. J.とJ‑の相異は,基体の平行スピン電子が関与している か(J+),反平行スピン電子が関与しているか(J‑)の相異であり,前者は原子1と2の問のnon spin‑flip exchange相互作用(対角)を,後者はspin‑且ip exchange相互作用(非対角)を表わ

している.

つぎに,間接的交換相互作用Jj=の最低次は, hd*のオーダーであることを簡単に示してお

」」蝣

く.まず, (42)式のDを(43)式の右辺の第1項に代入しても,

cl<,+C2<,メ ‑cu′ C2a

ノヽ

の形の項は表われない.ここで注意すべきことは,第1項とDの2次の項とから   {‑djk dkjCja′ Hk。′C,a')Cic のような項が生じるが,これは演算子の形からは,原子1と2の問のeffec tive non spin‑flip exchange termのように考えられるが,これはむしろ(50)式第1項のsis (敬 道¢iqのエネルギー)に対する非直交性の補正項と考えるべきである.同様にして, (43)式の右 辺第3項からも間接的交換相互作用は生じない. (43)式右辺第2項とDの中のdの1次の項からも (53)式の形の項は生じないことは明らかである. dの偶数次の項は ckc 又はckqを偶数個含むか ら,これを(43)式右辺第2項に代入すると, t¢kqiに関する生成・消滅演算子が1個余ってくるこ とは明らかであり,やはり(53)式の形の項は生じない.しかし, D中のdの3次の項は, t¢kqIお よび紬1g,¢2qlに関する生成・消滅演算子をそれぞれ奇数個含むから,これを(43)式右辺第2項 に代入すると(53)式の形の項が生じる.

なお.ゥ式では省略したが,二体力積分w¥mと重なり積分とからも次のような有効交換項 が生じることを付記しておく.

韻芳¥J‑jCia Cja′十cja'Cjo+h. C.)

XSE ここで,

L ‑ ‑ ∑ {[ォ/V l¥j<}ka']dki<Cnka′ > + [iajo'¥koi<j']dkj<nka>}

k

Mi

(11)

+ ∑∑ t【iaja'¥kak'a']dkjdk,蝣+ liak'a'¥kaia'}dkjdjk'} <ォ*<‑><>*′ q′ >

‑W.I

なお, (52)ョ式における<tlka>は ukaの基底状態に関する期待値を意味する.

本章の定式化では,ハミルトニアン(50)式の中にすでに,原子1と2の問の間接的交換相互作用 が陽に現われており,その存在が証明されにたことなる.以下では, (49‑(48)式で与えた近似波動 関数を用いて相互作用エネルギーを計算しておく.

(4EM47>(49)(50)(42)式から,今ciT‑ォi (ォ‑l, 2)と仮定すればけ†21k†kl‑>と1112†k†kl‑・>の対 角行列要素は等しく,かつll†2J‑>とt112†‑>の問の非対角行列要素はJ‑に等しい・ゆ えに ト>とL+>のエネルギー差は2J̲で,間接的交換相互作用によって1重項と3重項 にエネルギー差が生じる. ⊥が負であれば1重項が安定化し,正であれば三重項が安定化す る.相互作用エネルギーWは間接的相互作用J̲+をスイッチ・オンした時とオフした時の系のエ ネルギー差で定義すれば,本章の近似基底状態 T>に対しては, W‑士J‑となる(複号同 順).

本論文では,非直交関数系による第二量子化法の概要を述べ,その定式化を用いて,吸着原子 間の間接的交換相互作用の存在を導いた.本論文で示した第二量子化法は,実空間の非直交系か

らDyson空間(Hilbert空間)の直交系への1対1の写像に基づいており,非直交性はoverlap op.の導入によって取扱われている.本定式化によって,非直交性から生じる効果は,ハミルト ニアンの中に陽に現われてき,一般に,重なり積分と‑体力または二体力とから有効多電子効果 が生じることが明らかになった.間接的(基体を介した)交換相互作用もその一例であり,軌道 の重なりを無視する理論では現われない効果である.間接的交換相互作用の最低次の項は hd3 のオーダーであり,正確には(52)式のように与えられる.ここでhは原子1又は2と基体のBloch 状態¢kdとの一体力積分, dは原子1又は2と¢kqとの重なり積分である・また,本論文で示

した間接的交換相互作用は,生体高分子における長距離相互作用の機構の一つを与えるものと考 えられる.

参 考 文 献

(1) R. W. Holley, J. Apgar, G. A. Everett, J. T. Madison, M. Marquisee, S. H. Merill, J. R. Pen swick, and A. Zamir; Science 147 (1965) 1462.

(2) S. H. Kim, F. L. Suddath, G. T. Quigley, A. McPherson, J. L. Sussman, A. H. J. Wang, N. C.

Seeman, and A. Rich; Science 185 (1974) 435.

(3) R. Haydock, V. Heine and M. J. Kelly; J. Phys. C (Solid State Physics), 5 (1972) 2845.

(4) T. B. Grimley; Proc. Phys. Soc. London 90 (1967) 751.

(5) T. L. Einstein and J. R. Schrieffer; Phys. Rev. B7 (1973) 3629.

(6) Y. Muda and T. Hanawa; Jap. J. Appl. Phys., Suppl. 2, Pt. 2, 867 (1974).

(7) J. C. Slater; "Quantum Theory of Molecules and Solids " (McGraw‑Hill, N. Y., 1964) vol. 1, p285‑

参照

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