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― ― ― ― 連邦大陪審の「剣」としての告発機能について

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(1)

連邦大陪審の「剣」としての告発機能について

― Indictment, Presentment, Report の各種権限を参考に―

篠 𠩤   亘

 合衆国憲法には,大陪審の権限として

presentment

indictment

が規定されている.これらにより,

大陪審は「剣」(告発機能)と「盾」(告発審査機能)の二重の機能を担ってきたと解することができる.

ところが,presentmentの権限は,現在,連邦刑事訴訟規則にはその文言すら見当たらず,事実上廃止 された状態となっている.およそ18~20世紀あたりの判例と大陪審説示ではかかる権限の重大性が指摘 されてきたにも拘わらず,である.そうすると,今現在は大陪審が二重の機能を果たしていないことに なる.とはいえ,大陪審は未だに二重の機能を誇る機関と説明されているのが現状である.

 そこで,事実上廃止された

presentment

の権限同様,告発的性質を有する

report

を発する権限とその 経緯を概観した.そこから浮かび上がるのは,実は

presentment

の一部の権限が

report

として現存して いるという可能性である.つまるところ,大陪審が今現在も二重の機能を担っているとすれば,以前は

indictment

presentment

の権限によるそれから,indictmentと

report

によるそれへと変わったと解す る余地があるのである.とはいえ,このように解したとしても,presentmentと

report

では告発の内容・

度合いに歴然たる差があることは明白であり,したがって,大陪審の「剣」(告発)の機能は弱体化して いると結論付けることができる.

目 次

Ⅰ は じ め に

Ⅱ 「剣」と「盾」

― Presentment

とIndictment

Ⅲ 「剣」としての

Presentment

の混乱

Ⅳ 「剣」としての大陪審報告書(Grand Jury Report)

Rocky Flats

事件

Ⅵ 考   察

Ⅶ お わ り に

Ⅰ は じ め に

 刑事手続の訴追段階において国民が司法参加す る制度の一つとして,我が日本では検察審査会が,

米国においては大陪審制度が設けられている.と ころが,この両者の審査対象は,一方は不起訴処 分であり,もう一方は起訴すべきとの主張である.

これらの大きな違いがあるためか,両者の比較研 究が進んでいるとはいい難い状況にあるものの,

この比較研究は検察審査会の発展のためには欠か せない.本稿は,検察審査会と大陪審の比較可能 性を探るための前段階として,米国において長年 認識・称賛されてきた二重の機能,すなわち,剣

(告発機能)と盾(告発審査機能)の機能を分析す るものである.

* しのはら わたる  法学研究科刑事法専攻博 士課程後期課程

2016年10月 7

日 推薦査読審査終了

1

推薦査読者 椎橋 隆幸 第

2

推薦査読者 柳川 重規

(2)

 かかる研究の一環として,前稿にて,大陪審の 二重の機能に関する議論が混乱しており,それは,

presentment

indictment

は,主としてではある ものの,各々が「剣」と「盾」とされるべきとこ ろ(便宜上,以後「二重の機能独立説」と称す る.),時代の流れに伴い,indictmentの中に「剣 と盾」の両者を見出そうとの概念(便宜上,以後

「二重の機能混合説」と称する.)が生じたことに 起因する可能性を指摘した1)

 そこで,今回は,二重の機能独立説からみた大 陪審の二重の機能,とりわけ

presentment

権限を 核とする告発機能について考察することとする.

これは,二重の機能混合説を否定するものではな く,あくまで,同説に立った上での告発権限の考 察については他稿に期する,という程度のもので あることをあらかじめ断っておく.なお,かかる 前提は本稿全体に及ぶものとする.

Ⅱ 「剣」と「盾」

Presentment と Indictment

 合衆国憲法制定のはるか以前から存在し,その 歴史上果たしてきた役割の重要性ゆえに,大陪審 起訴を行う大陪審は,犯罪行為を訴追する「告発 者団体」としての役割と,行き過ぎた刑事手続か ら守ってくれる「市民の保護者」としての二重の 機能を担うとされ2),犯罪を訴追するとともに市 民の保護をも同時に行う「剣と盾」いう言い回し が繰り返して用いられてきた3).今なお,合衆国 最高裁判所がかかる姿勢を崩すことはない4).  これら大陪審の権原は合衆国憲法第

5

修正であ る.すなわち,「何人も,大陪審の

presentmentま

たは

indictment

によらない限りは,死刑に相当す

る罪,またはその他の重罪につきその責めを負わ されはしない」5)のである.(下線筆者加筆.)

 以下,この

presentment

indictment

の概要を 簡潔に見てゆくこととする.なお,内容上の理由 により,indictmentから説明することとする.

1

.Indictment

 この

indictment

とは,大陪審の起訴・起訴状を

指すのであり,犯罪行為を行った人物を起訴する ためのものである6).主として検察官が大陪審に

(bill of)

indictment

を 提 示 す る こ と で 告 発

(charge)し,大陪審は,その告発を支えるのに十 分な証拠があるか否かを審査(review)する.そ して,その告発が十分な証拠に基づいていると判 断された場合,(bill of)

indictment

が回付(return)

されることで正式な起訴状(true bill)として承認 され,一方で,十分な証拠がないと判断された場 合には

indictment

は棄却(no bill)されなければ ならない.なお,この,検察官によって起草され

indictment

は,古くは,ラテン語を用いて,文

語体(formal language)で羊皮紙に書かれる7)な どしており,非常に格調高いものである.

2

.Presentment

 上のような

indictment

に対して,presentment とは,他者や大陪審員自身らの知見に基づく事実 や捜査によって明らかになった事実を基に,大陪 審員らが自らの主導で行う起訴のことを指すもの とされ8),つまるところ,検察官による事案の提 起(告発)が介在しない点に大きな特徴がある.

その手続きは,第一に,大陪審員らが,専門用語 を使わずに

presentment

を作成し,それを裁判所 に提出することで告発(charge)を行う9).次い で,presentmentで申し立てられている告発内容 の中に犯罪行為に該当するものが含まれる場合,

その告発を基に,裁判所の官憲によりpresentment が再度起草し直され,indictmentへとその姿を変 える10).ゆえに,presentmentは,

indictment

の訴 状の形式を採らない,あらゆる犯罪についての通 知書であり11)

indictment

を作成せよとの指示書12)

との位置づけになっていた.この意味において,

indictment

が「大陪審起訴」であるならば,起訴

という効果を生ぜしめない

presentment

は「大陪 審告発」と称することもできよう.

(3)

 indictmentとpresentmentは古くは以上のような 関係にあった.presentmentがひとたび

indictment

になってしまえば以後の手続きは同じであるので,

両者には,事案の提起(告発)が検察官によるも のなのか,それとも大陪審自身によるものなのか という違いしか見受けられない.ゆえに,第

5

修 正にも,

“presentment or indictment”と規定され

たのであろう.

 ところが,今現在,その権限の地位という観点 からみると,presentmentと

indictment

には大き な違いが存在している.

Ⅲ 「剣」としての Presentment の混乱  presentmentは合衆国憲法に明確に規定されて いるものの,結論から述べると,かかる権限(手 続き)による起訴は現在の実務上行われておら ず13),したがって

presentment

の地位は不明確な ものである.そこで,かかる権限についてみてゆ くにあたり,まずは連邦刑事訴訟規則に着目する こととする.

1

.連邦刑事訴訟規則

 1946年に施行された連邦刑事訴訟規則

7

条は,

5

修正上の保障を現代的な形式で再度規定した もの14)とされる.連邦制度上,大陪審の起訴を受 ける被告発者の権利は,この両規定により確立・

定義される15).以下,関連条文を見てゆく.

連邦刑事訴訟規則

7

条(a)16)

 「重罪につき,(A)死刑,若しくは,(B)一年 以上の懲役に相当する犯罪(裁判所侮辱罪を除く)

に つ き 公 訴 を 提 起 す る 場 合,大 陪 審 起 訴

(indictment)によらなければならない.」(下線部 は筆者が加筆.)

連邦刑事訴訟規則

7

条(c)17)

 「(1)総則.大陪審起訴状(indictment)又は検 察官起訴状(information)は,簡潔かつ告発され た犯罪を構成する本質的な事実を明確にした文書 でなければならず,連邦検察官の署名がなければ

ならない.」(下線部・括弧は筆者が加筆.)

 これら連邦刑事訴訟規則では,presentmentと

indictment

の両者を含む第

5

修正が基礎とされたに も拘わらず,(a)と(c)の両者ともに

presentment

による大陪審起訴については言及がなされていな い.更に,留意すべきは,information(検察官起 訴)も同様のことが言えるが,indictmentにより 起訴する際には,検察官の署名がないと起訴状を 発付することができない.これは,「検察官が事案 を提起(告発)する手続きが

indictment

である」

との連邦刑事訴訟規則制定以前の実務に関する歴 史に鑑みると当然のことであろう.以上のことか ら察するに,連邦の実務においては,歴史的経緯 もあり,行政部門が訴追機能を独占することが前 提とされるようになり,それゆえに

presentment

の規定が設けられなかったのであろう18).連邦刑 事訴訟規則の注釈においては,presentmentはも はや時代に遅れ,その使用が認められない手続き19)

とまですら述べられている.

 以上のことから,一見すれば,憲法制定当時に 用いられていた

presentment

は既に失われてしま ったとするのが大半の見解となるであろう.そこ で,次節にて,いつから,どのような理由にてか かる状況に至ったのかを簡潔に概観することとす る.

2

.判例・大陪審説示

 連邦刑事訴訟規則が制定されるよりもはるか以 前,アメリカ(合衆国)がイギリスの植民地下に ある時代から18世紀の終わりまで,

presentment

の 権限は,政府官憲の犯罪行為を告発することなど を目的として頻繁に使用されていたという20).そ こで,大陪審の密行性を理由に大陪審の活動や審 議内容等の公表がほとんどなされないことからそ の数は少ないものの,判例と,裁判所から大陪審 に対してなされる大陪審説示を通して,当時の

presentment

の位置づけを見てゆくこととする.

(4)

【Wilson裁判官の大陪審説示(1790年)】21)

 1790年,James Wilson裁判官は,巡回裁判所で の大陪審説示で次の通り述べている.

 「諸君らは,……合衆国憲法の名の下に招集され たのである.諸君らの義務は,政府の強化と活動 を尊重しつつ,他方で人民の利益と安全を尊重す ることである.犯罪者をみつけ罰しようと熱心に なり,それと同時に無辜を保護しようと真摯に努 めることになろう.いずれに関しても,懸命に調 査した上で正当な

presentment

を提出することは,

当然の権利であることに疑いはなく,熱心に取り 組んだことの証となるであろう.」(一部抜粋.)

 この説示では,大陪審の伝統的な二重の機能を 果たすべきことを確認し,その責務を遂行するに

presentment

の権限が必要であること,加えて,

それ以上に当然の権利たることまでもが明言され ている.この点,かかる大陪審説示が,

presentment

の規定を含む合衆国憲法が制定されたわずか

2

年 後に為されたものであることからも,かかる説示 にみる

presentmentの地位と憲法上の presentment

の地位にかい離が見られないことは至極自然であ ろう.

【Chase首席裁判官の大陪審説示(1868)】22)

 とりわけ政府の役人を取調べる権限を大陪審が 有することを踏まえ,大陪審の

presentment

の権 限を広く肯定したと思われるのが

Chase

裁判官に よる説示である.

 「諸君らは,宣誓をする以上,妬みや憎しみ,反 感による告発を行ってはならず,また,恐れや好 意,情実ゆえに告発しないといった事態を生ぜし めないようにするという最も厳粛な義務を負って いる(一部省略).諸君らが,考慮に欠け,十分な 注意を払わずに捜査を行うなどして,上の義務に 反することなどあってはならない.検察官が自身 ら(大陪審員ら)に提起する事案について判断を 下すだけで満足してはならない.特定の犯罪につ いて情報を有する大陪審員が事案を提起する場合 もあるのである.諸君らの権限と義務は一段と踏

み込んだものである.諸君らは,自分たちが判断 を行う上で適切な情報を有していると思料される 政府の役人やその他の者らを召喚し,尋問するこ とができるのであり,また,そうしなければなら ないのである.」

 この説示においても,不当な告発を防ぎ,正当 な告発を行うべきとの二重の機能を担うべきこと が確認されている.その上で,検察官により提起 される事案のみならず,大陪審員自身らで事案を提 起するための権限についての説明がなされている.

つまるところ,

indictment

のみならず

presentment

の権限を当然に有していること,そればかりか,

presentment

を積極的に行うことが義務であると

さえ述べられているのである.

 これまで見てきたのは,presentmentに対して 肯定的な説示であったが,実のところ,この19世 紀中頃以降,大陪審制度そのものへの批判が高ま るにつれて23)

presentment

の権限の地位も揺らぎ 始める.

【Field首席裁判官の大陪審説示(1872)】24)

 上の

Chase

裁判官の説示からわずか

4

年後にな

された

Field

裁判官の説示において,presentment は,既に上の説示とは異なる様相を見せている.

 「Presentmentは,専門的な形式が必要とされる 点,また,通常は,検察官から何らかの訴状(事案 の提起)を受けることなしに,大陪審が自身らの知 見や自身らへ提示された証拠に基づいて為すもので ある点においてindictmentとは異なる.

Presentment

とは非公式的な訴追(informal accusation)であ り,一般的にはその指示に基づいて

indictment

が 作成されるものである.かかる訴追形式が使われ なくなってしまったのは,今日,一般的には,検 察官が大陪審に付き添い,大陪審の捜査に助言を するといった実務が確立したためである.」(括弧 内は筆者が補足.)

 これは,一見すると,単語の定義をした上で現 状の実務を解説しているにとどまるとみることも できる.しかしながら,大陪審説示がその任期の

(5)

開始時になされること,専門家たる裁判官から大 陪審員という素人に対してなされる点を考慮する と,Field裁判官は,職業検察官の存在により

presentment

が廃れたことを強調し,あらかじめ

大陪審員らによる

presentment

の使用を牽制する 意図を含んだ上でなしたものとみることもできよ う.

【Fisbie v. United States (1895)】25)

 本件は,大陪審起訴状(indictment)に大陪審 長の署名がなく,したがって,

“true bill”として

の承認が欠けるとの異議が申し立てられたものの,

かかる瑕疵は重大でなく,大陪審起訴の効果に影 響を及ぼしはしないとされた事案である.その判 旨は次の通りである.

 「連邦法上,そのような(大陪審長の署名によ る)承認や認証を法的に義務付ける命令規定はな いので,かかる争点については一般原理に基づい て判断すべきである.確かに,母国において,少 なくともかつては,『承認は

indictment

の一部分で あり,それをもってして完成する(King v. For, Yel.

99.)』とも言われており,そのような承認や認証が

必要不可欠であったことは認められ得る.しかし,

合衆国における一般的な実務は,大陪審に対して 誰がどのように事案を提起しようとも,大陪審は,

犯罪と主張されている事柄の捜査を行い,容疑を かけられた当事者を公判に付すことを正当化する に足りる証拠があると判断した後には,正式な起 訴(formal charge),大陪審起訴(indictment)の 準備を命ずるというものである.ゆえに,大陪審 がこれらの告発を裁判所に回付したという事実そ れ自体が承認をしたことの証なのである.」(下線 は筆者が加筆)

 この判示における「誰がどのように事案を提起 しようとも」との文言に,「大陪審員が自身らの知 見に基づいて事案を提起する」もの,すなわち,

presentment

だけは含まれていないと解するのは

困難であろう.そうすると,presentmentについ ても,大陪審が告発を行ったということ其れ自体

が 重 要 な こ と で あ り,か か る 効 果 と し て,

indictment

の準備が行われなければならないとす

るのが「一般原理」と考えたものといえよう.

【Hale v. Hankel (1906)】26)

 Hale v. Hankelは,大陪審の面前での証言を拒 否したとして証人が裁判所侮辱罪に問われた事案 であるが,証人の特権のみならず,大陪審による 正式な起訴の必要性,大陪審による証人の召喚な どの重要な争点にも検討を加えた重大な事案であ る.法廷意見では,さまざまな判例・事柄が多数 引用され,presentmentを行う権限の歴史的根拠 が強調されている.その判示を一部次に抜粋する.

 「最古から行われてきた大陪審長の宣誓による と,Shaftesbury伯爵の裁判,8 Jow. St. Tr. 769で も見られるように,大陪審は,自分自身の意思そ れのみに基づいて活動する法的権限を有している ことが示されている.この宣誓は,『諸君(各陪審 員)らは,告発の役務を担うに際して,自身が知 るところとなる物事などについて,懸命に捜査し,

真の

presentment

を行う』というものであった.

そして,この宣誓は,今日まで実質的に変わらな い.もちろん,私人による告発と自身らの知見に 基づく告発の

2

つの場合の名称には違いがあった.

私人による告発の場合,大陪審の活動は,大陪審 による審査を求めて彼らに提示される

indictment

において形になるのであり,自身らの知見に基づ く告発の場合には,presentmentにおいて形にな るのである27).」(一部省略,括弧内は筆者が加筆.)

 「United States v. Hillにおいては,presentment 及 び

indictment

は,同 じ 一 つ の 行 為 で あ り,

indictment

presentment

を修正したものに過ぎ ないとみなすべきこと,このアメリカ合衆国にお いては,検察官によって刑事手続を開始するには ふさわしくないと思料された

presentment

は,手 続きから外され,看過されてきたことが

Marshall

首席裁判官により指摘された.」

 「アメリカ合衆国において

presentment

は使用さ れなくなってしまったが,自身らの知見や自ら入

(6)

手した情報による関心に基づき,調査した結果を

indictment

に組み込むという大陪審の実務は未だ

広く受け入れられている.イギリスの初期の手続 きも同様であったかに関して疑問が残るかもしれ ないが,公に選任される州の官憲が公訴を行うと する我が国の実務は,合衆国憲法の採択以来完全 に定着したものとなった.現代の実務を熟知して いる当裁判所の

Wilson

裁判官は,ペンシルバニア 大学の学生の前で行った講演において,次の通り 述べている.『大陪審は,自分たちに提示された告 発状(bill)や検察官が彼らに提示した証拠に限り 捜査を行うものと思われてきた.しかし,このよ うに捉えるのは狭きにすぎるのであって,大陪審 員の果たすべき義務と彼らに置かれる信頼の観点 からすると不十分である.大陪審は,検察官や裁 判所に任命されるのではなく,政府と人民に任命 されるのである.加えて,政府と人民の両者にと って重要なのは,一方では,検察官が担当したか 否か,専門的技術を用いて記されたものか否かに 関係なく,あらゆる犯罪が法の非難たる刑罰を受 けなければならない点であり,もう一方では,正 規の形式で,法的に統制のとれた組織の訴追者に より強い非難が無辜に向けられた場合に,十分な る捜査に基づいて,不当な侵害を受けないことを 保証する法により無辜が保護されるべき点であ る.」』

 「一般訴訟裁判所(court of common pleas)の 裁判長たる

Addison

裁判官による1791年の大陪審 説示の際に,(次の文言が)使用されている.『大 陪審が,自身らや他者の知見,または証人の尋問 から,カウンティにおいて何らかの犯罪が発生し たことを知り,その犯罪について

indictment

が自 身らに提起されていない場合,州の訴追を担当す る官憲にその犯罪について知らせ,indictmentを 自身らに提起するようにと要請することは大陪審 の職務である.また,官憲らがその要請に応じず

indictment

を提起しなかった場合,特定の書式か

否かを問わず,犯罪となる事柄を裁判所に提示す

ることも彼らの職務である.これが

presentment

と称されるものである.』これらの文言から見て取 れる,当時普及していた大陪審の責務に関する実 務からは,自身らの個人的な知見のみならず,証 人 尋 問 か ら 得 た 知 見 な ど を も 根 拠 と し た

presentment

をすることも可能であったというこ

とである.」

 「Blaney v. State (74 Md. 153, 21 Atl. 547)にお いて,裁判所は,『大陪審の機能に限度はあるもの の,当メアリーランド州では,大陪審は完全なる 糾問的権限を有しているのであるから,たとえマ ジストレイトによる予備審問がなくとも,また,

裁判所や州の検察官が事案を大陪審に提起せずと も,法律と自らの意思に基づいて犯罪を起訴する ことができる.』と述べている.(これは,メアリ ーランド州に限ることではなく),連邦の下級審も 同趣旨である.」(括弧内は筆者が追加.)

3

.小   括

 以上,大陪審の

presentment

の権限に関連する 判例と大陪審説示のいくつかを概観してきたが,

基本的には

presentment

の権限を肯定するもの,

肯定するにとどまらず,これが大陪審の義務であ るとするものが多数見受けられた.初期の,とり

わけ

Chase

裁判官の説示が大陪審の二重の機能を

改めて確認した上で

presentmentに言及しているこ

とから,やはり,

indictmentのみならず presentment

を行うことこそ,大陪審が二重の機能を果たすこ とになるとの考えに基づいていることが見て取れ よう.

 とはいえ,

Field

首席裁判官の大陪審説示に見て 取れるように,presentmentに否定的,若しくは,

廃止されたとの主張も比較的早い段階からなされ てきたこともまた事実であり,まさに混乱期とい えよう.そして,この混乱の結末は,上で見たよ うに,憲法に規定が残っていることは別にして,

もはや

presentment

の廃止なのである.

 これらの点を,二重の機能独立説(presentment

(7)

indictment

は,各々が「剣」と「盾」とされる べき)の立場から考慮すると,事実上

presentment

が廃止されてしまった今,必然的に大陪審の二重 の機能は失われてしまったとの結論に至る.この 点,そのような連邦の裁判所の判断が未だない点 とうまく符合しないようにも思われるが,これは,

単に合衆国最高裁判所が明示的に判断していない だけで,やはり実際には大陪審の二重の機能は既 に失われているとみることができる.当然,二重 の機能独立説それ自体が誤りである可能性を除け ば,である.しかし,安易に結論を導かず,更な る検討を加えたい.

 二重の機能を考察するに際して真に考慮すべき は,「剣」と「盾」の本質といえよう.大陪審の最 大の意義は,市民に害をなす犯罪等を剣にて「告 発(剣)」し,一方で「告発を審査(盾)」するこ とにより官憲から市民を守ることである.つまり,

二重の機能の本質とは,大陪審の「告発」と「告 発の審査」である.そこで,本稿の趣旨に沿って,

大 陪 審 の「 告 発 」す る と い う 剣 の 権 限 を

presentment

に限定せず意味内容的に広く検討す

ると,新たなる示唆が得られるように思われる.

この際に検討対象となるのが,犯罪には至らない 不正行為等を世に「告発」する大陪審報告書

(Grand Jury Report)である.

Ⅳ 「剣」としての大陪審報告書(Grand Jury Report)

1

.大陪審報告書の概要

 大陪審が起訴・不起訴の判断を主たる責務とす ることは周知の通りである.当然,警察・検察に よる捜査,もしくは自らの捜査を経て,審査対象 者が犯罪を行ったと疑うに足りる相当な理由があ る場合には大陪審起訴し,相当な理由に満たない 場合や犯罪を行っていないことが明らかになった 場合には不起訴の処分をする.しかしながら,捜 査,とりわけ大陪審が自ら行う過程においては,

犯罪ではないが,その妥当性に疑問が残るような

捜査対象者の行為が明らかになることもある.こ のような不正・不当な行為に関する捜査結果をま とめ,自身ら大陪審を招集した裁判所に提出する 報告書が大陪審報告書(grand jury report)と称 されるものである28).これは,indictmentと同様 に,裁 判 所 に 受 理 さ れ る と 公 式 記 録(official

record)となり

29),開示対象となる.したがって,

大陪審報告書を発するということは,不正・不当 な行為を正式に世に「告発」することなのである.

 現在の連邦の実務上,大陪審報告書を発する権 限は,注釈付合衆国法律集タイトル18の3333条に 明記されている30)ものの,特別大陪審しか行使で きない31)上に,報告書では至極限定的な事柄しか 取り扱うことができない.すなわち,第一に,組 織犯罪活動に関連する部署に任用された公務員・

公的機関従事者による犯罪ではない規範逸脱行為

(noncriminal misconduct),不正行為(malfeasance),

失当行為(misfeasance)についてであり32),33),第

二に,

大陪審の担当管轄内の組織犯罪に関連する

事柄について34)のみである.

 このように,大陪審報告書とは,今でこそ,政 府機関や公務員の公務行為・活動に批判を加える ことを目的としたものである35)ものの,時代を少 し遡ると,コミュニティにおける何らかの不健全 な状況に,道徳的非難・民衆の怒りをぶつけ,そ のような望ましくない行為・状態を修正すること を主たる目的としたもの36)と定義されることもあ り,報告書にて取り扱うことのできる内容は,時 代とともに縮小してきているようである.かかる 変化こそあるものの,大陪審報告書が犯罪者に裁 きを受けさせることを目的になされるものでなか ったことだけは明確といえよう.

2

.大陪審報告書と

presentment

 犯罪の訴追を目的としない点が最大の特徴であ ると言及したが,実はこの大陪審報告書は,犯罪 の訴追を意図した

presentment

と深く関連するど ころか,presentmentの一部であると考える見解

(8)

がある37).とりわけ,犯罪には至らない不正行為

(misconduct that fall short of a crime)で 公 的 機 関や公務員を告発(charge)する大陪審報告書は,

presentment

の一部と思料・分類される傾向が強

38)との指摘もあるものの,かかる報告書はまさ に連邦刑事訴訟規則に規定されている大陪審報告 書そのものである.そのためか,presentmentを

「大陪審報告書とも称される」ものと表現し,ほぼ 同一視する裁判例も見受けられる39)

 これは一体どういうことであろうか.上で見て きたような,犯罪者を訴追することを意図した

presentment

と,そうではない大陪審報告書との

間には明確な違いがあるように思われる.現に,

アメリカ合衆国憲法には“presentmentまたは

indictment”と規定され,連邦刑事訴訟規則には

“indictment”と“report”の各々の規定が設けら

れており,これら

3

つの権限が別物であることを 示している.

 そこで,次節では,かかる混乱の様子も含め,

大陪審報告書の概要を理解すべく,その歴史的経 緯をみることとする.

3

.歴史上

presentment

に包括されていた大陪 審報告書

 歴史上,大陪審報告書が活用され始めた正確な 時期や取り扱うことのできる内容・範囲について は定かではない40).しかしながら,古くは17世紀 後半のイギリスにおいて,既に大陪審報告書は一 般的実務となっており41),大陪審が王室官憲らの 不正行為を調査したり,コンスタブル(奉行)や 裁判官に対する批判を為していたといわれる42).  1697年,エセックスカウンティの大陪審は,カ ウンティの検視官が,自身の指示(検視結果と思 料される)に従わずに大陪審が評決を下したこと を理由に,その大陪審に対して迷惑行為を行った として,また,

7

名の治安判事らが,令状の発付,

年季奉公契約書への署名などに対して過度の報酬 を要求したとして,これらを告発4 4(present44444 44)し

43)

 また,

1744年,ノーサンバーランドの大陪審は,

競馬の過剰な増加を防ぐための有益法(salutary

law)が施行されていないことや,闘鶏が国民の怠

惰をあおっていると指摘し,これら不正な行為の 主催者・興行主を全て告発4 4(present44444 44)し,治安判 事にこれらの者たちを訴追するよう命じた44).  ここまでは,上で説明したような,訴追を目的 とした純粋な

presentment

ということができ,大 陪審報告書とは別論だとの主張も可能である.し かしながら,次のような事例ではどうとらえるべ きであろうか.

 1678年,グロスターシャー州の大陪審は,「浮浪 者や物乞いが著しく増加し,それにより住民への 迷惑行為となり,苦情が生じている」こと,そし て,それらが「かかる業務の委託を受けていた官 憲らの怠慢のせいである」こと,そして四季裁判所

(Quarter Sessions)にその改善策をも4 4 4 4 4 4 4

“present

44444 44

した45).これに対して同裁判所は,かかる問題に 関連する全てのコンスタブルと小役人らに対して,

直ちに浮浪者と怠惰な者らを刑に処す法律により 対応(cause)するようにとの命令を発するとい う,当該大陪審が提示した改善策を採用すること で事態に対処したのである46).この一連の手続き において,大陪審のなした“present”が,いわゆ る起訴することを目的とした,いずれ

indictment

へと姿を変える純粋な

presentment

でないことは 明白であろう.

 更に,当時の大陪審の実務はこれのみに留まら ない.例えば,酒類販売者等が不正な計量器を使 用したといった事柄47)や道路や橋,監獄,その他 のカウンティの不動産が適切に補修されていない ことなどに関連しても役人への

presentment

44444 44 4 4 44

を行 っていた48)

 この当時,大陪審は,地元行政に関する下級役 人の行為を捜査し,政府役人の犯罪ではない作為・

不作為を批判するために

presentment

44444 44 4 4 44

を行ってお り,政府の汚職・腐敗と闘うことに傑出した機関49)

(9)

とも評されるようになった.

 そして,その評価ゆえ,イギリスから植民地下 のアメリカに大陪審制度そのものが移植されたの と同様,報告書を発する実務も各植民地に引き継 がれた.とはいえ,アメリカの大陪審は,イギリ スの植民地政策に対するコミュニティの不満が募 るにつれ,刑事法執行の枠を超え拡大するように なり,アメリカにおける王家役人への批判を行う ため頻繁に

presentment

44444 44 4 4 44

を用いたのみならず,植 民地の重要な政府機関へと発展した50)

 例えば,1688年のニューヨークでは,ある大陪 審が,宿屋を営業している者のみしか酒類を販売 してはならないとの提言を

present

したり,ハイ ウェイの修繕などの州の所有物の問題についても

presentment

44444 44 4 4 44

を行った51).また,ニュージャージー の大陪審は公共の事柄に対しての

presentment

44444 44 4 4 44

を したのであり52),ヴァージニアでは,植民地の行 政に対する自身らの見解を

presentment

44444 44 4 4 44

によって 社会に示すことが一般的な実務となっていた53).  このように植民地の行政的役割を担うとともに,

一方では,刑事訴追に関しても,適切な刑事訴追 をすべく,王家役人と頻繁に争っていた54).有名 なJohn Peter Zengerへの刑事訴追に関しても,訴 追せよとの王家からの圧力に屈することなく大陪 審起訴状の発付を退け,一方では王家が起訴する ことを頻繁に拒絶してきたイギリス軍兵士などの 王家役人を刑事訴追(criminal presentment)して いたのである.

4

.考   察

 以上のことから

2

つのことを指摘しておきたい.

 一つ目に,

“presentment”と大陪審報告書の関

係である.イギリスにおいても,植民地下のアメ リカにおいても,大陪審が大陪審報告書を発付す るという実務が行われてきたことがうかがい知れ る.これらの事例によると,今現在の実務のよう な

“issue report”

ではなく,

“present

(ment)

の 文言が使用されていたことから,名称も含め,厳

密な区別がなされてこそいなかったものの,その 性質上,①訴追という効果をもたらすpresentment と,②コミュニティ内の改善等を目的として国家 やその役人らの批判を行う

presentment

があった ことを指摘することができる.②の

presentment

こそまさに前節で述べた今現在の大陪審報告書

(grand jury report)のことである.

 当然ながら,これら両者の区別は結果論である.

大陪審が裁判所に告発を行い,その結果犯罪を構 成する行為である場合には①の

presentment

に,

構成しない場合には②の

presentment

になるだけ の話であろう.なるほど,捜査や調査の段階にお いては,コミュニティ内の不適切な状況の原因や,

対象となる行為が犯罪を構成するか否かは不明で あり,捜査が終了してみないとわからないという のが実際のところであろうし,両者は同一の大陪 審による捜査から派生することもある.また,犯 罪行為を行った者の起訴という効果の有無でこそ 大きく異なるものの,②コミュニティ内の改善等 を目的として国家やその役人らの批判を行う

presentment,すなわち,今でいう大陪審報告書

も,不当な状況・行為を世に広めるという広義の

「告発」行為を行うものである.これらの点に鑑み ると,presentmentと大陪審報告書(grand jury

report)が同一視されたり,内包されるとする理

解があることにも納得がゆく.

 ただし,

“presentment”が合衆国憲法に規定さ

れている一方,大陪審報告書(grand jury report)

の憲法規定はなく,また,presentmentが結果的 に具体的な刑事訴追に至ることを想定したもので あるから,犯罪訴追を意図してはいない大陪審報 告書とは区別されて然るべきとする見解55)がある 通り,今現在となっては,presentmentと

report

2

つの文言を同一視するのではなく,区別すべ き で あ ろ う.② の 批 判 を 目 的 と し た 当 時 の

presentment

を“presentment report”と称する論 者56)もおり,混乱を生じさせないためにはかかる 呼称を用いることも有効であろう.したがって,

(10)

本稿において,以後は,当時の4 4 4「訴追のみならず,

改善・提言等を目的として批判する

presentment」

のことを“presentment report(告発報告書)

”と

称することとする.(以上の権限の推移につき図

1

を参照のこと57).)

 そして,ふたつめとして,二重の機能に関する

2

つの理解である.

 第

1

の 理 解 は,Ⅲ

3

小 括 に て 述 べ た 通 り,

presentment

が「剣」であり,indictmentが「盾」

であるとする二重の機能独立説に立てば,憲法規 定を除いては

presentment

が既に失われてしまっ た現在,合衆国最高裁判所による明示的判断はな いものの,大陪審は事実上二重の機能を失ってい るとする理解である.

 他方で,上で指摘した通り,合衆国憲法の制定 時,

“presentment”という文言には,起訴という

効果をもたらす純粋な

presentment

(大陪審告発)

とpresentment report(告発報告書)の両者が含ま れていたことが判明した.ゆえに,起訴を目的と した純粋なる

presentment

(大陪審告発)が失われ たとしても,依然として

presentment report

(告発 報告書)は grand jury report (大陪審報告書)と 名前を変えて存在しているのであって,「剣」とし ての

“presentment”

の機能は完全には失われてい

ないといえる.このように捉えた場合には,現在 の大陪審報告書にて取り扱うことのできる内容が

presentment

におけるそれと比して著しく縮小さ

れたとはいえ,大陪審は今現在も二重の機能を担 っているとする理解も決して不可能ではない.な お,合衆国最高裁判所が未だ大陪審の二重の機能 を否定していない現状には,かかる第

2

の理解の 方がたやすく合致するであろう.

Ⅴ Rocky Flats 事件

 本章では,比較的近年の連邦制度上の事例であ る

Rocky Flats

58)事件を取り上げる.

 本件は,連邦環境犯罪につき,起訴できないと の連邦検察官の結論に反し,ともに捜査に当たっ た特別大陪審が,関係者数名を訴追すべき旨の文 書の提出,すなわち,presentmentを行ったので ある.この

presentment

は,現在の実務上,如何 なる位置づけになり,如何なる効果を有するので あろうか.前章までにおいて述べてきた,大陪審 の

indictment, presentment, report

の各々権限へ の理解を踏まえた上で,今現在の連邦制度の実務 について確認することとする.

 なお,本稿の趣旨に照らせば,主として見るべ きは本件判示ⅤAの判示部分となる.しかしなが ら,presentmentと深い関係を有する現在の大陪 審報告書が,公務員等の不正行為等に限らず,コ ミュニティの一般的事柄等にまでその射程が及ぶ のかなど,判示全体を通して詳細なる検討が行わ れており,資料的価値の意味合いもかねて,この 機会に本稿において事件全体を詳細に紹介するこ ととする.

1

.事案の概要

 1989年

8

1

日,特別大陪審89-2(以下,特別 大陪審もしくは大陪審とも称する)は,コロラド 州ジェファーソンカウンティの

Rocky Flats

核兵 器工場(以下

Rocky Flats)で発生した可能性のあ

る連邦環境犯罪を捜査するため名簿から選任され 図

1

 大陪審の二重の機能(「剣」と「盾」の経緯)

(出所)筆者作成

(11)

た.

 

3

年に及ぶ捜査の後,コロラド地区の

district attorney

は,

Rockwell

社とRocky Flatsの経営者を 刑事訴追するのに十分な証拠がそろっているとの 結論に至った.

 しかしながら,連邦検察官(U. S. Attorney)は,

Rocky Flats

Rockwell

社に雇用されていた者ら とエネルギー省(DOE)の職員数名に対する大陪 審起訴は,訴追するには法的根拠が十分でないと の結論を示した.1992年

3

月24日,特別大陪審は,

任務の終了に伴って解任されたことに基づいて,

検察官に提起されていた

Rockwell

社,

Rockwell

社 およびエネルギー省の両幹部らの訴追を主張する

indictment,及び,それらを Presentment

と称さ れる文書に構成したものを裁判所に提出した.連 邦検察官は大陪審らが提起した

indictment

への署 名を拒否した.特別大陪審は,indictmentに加え て,自身らの捜査結果(report of it’s findings)(以 下「本件報告書」と称す)も同様に提出した.1992 年

3

月26日,Rockwell社と合衆国司法省は答弁協 議の締結へと至り,その結果,

Rockwell

社は

Rocky

Flats

での業務に関連する連邦環境法違反を含む10

の刑事訴追に対して有罪答弁を行った.

 Rockwell社が有罪答弁を行い,裁判所が本件報 告書

report

を受け取った1992年

3

月から,1992年 の

9

月まで,当裁判所(district of Colorado)は,

特別大陪審に関連する多くの文書,議事録,記録,

及び,機密資料を検討し,特別大陪審の報告書の 内容の詳細な分析に多くの時間を費やした.当裁 判所は,1992年

9

月25日,当該特別大陪審の報告 書は,大陪審報告書を公表するための法的基準を 満たしていないとの結論に伴い,特別大陪審の報 告書を公文書(public record)として申請(file)

することを禁ずる命令を出した.その後数週間に 渡って,誰であるかは確認できてはいないものの,

特別大陪審の数名が,陪審員ではない者に対して,

審議内容等を漏らしていたようである.そのこと については事実か否かは不明であるものの,そう

仮定して話を続ける.

9

月の下旬か10月に,陪審 員ではない者らが,1992年

1

月24日付けの

Rocky

Flats

に関する大陪審の報告書らしき文書を所持す

るようになったのは明白だからである.その文書 には,特別大陪審の陪審員が

Rocky Flats

に関して 記した所見と提言を抜粋したものが記されていた.

 

1992

10

月,Denver Publishing Company と

KUSA-TV

は共同して,当該特別大陪審の報告書

“report”

),

“indictment”

の形式で記された文書,

“presentment”の形式で記された文書を含む種々

の大陪審に関連する文書の開示を申請した.

2

.判 決 要 旨

Ⅱ.大陪審の義務と宣誓

 1989年

8

1

日,長く由緒ある大陪審の歴史に 沿って,裁判所は特別大陪審89-

2

に対して大陪審 説示を行い,とりわけ,厳粛な義務と責任に関し て以下の通り述べた.

 ……諸君ら各陪審員は,誰かしらが,大陪審 手続に関するあらゆる情報を得ることを目的と して,若しくは,陪審員に何かしらの目的で影 響を与えることを意図して接触してきた場合に は,それが誰であっても,如何なる体裁を装っ たものであっても,そのことを裁判所に対して 報告しなければならない.…….

 諸君らは,公平なる判断を自由に下すことが できるのであり,これらは,国民から批判され るからと躊躇したり,判断へ影響を及ぼしては ならない.諸君ら大陪審員は,無辜を保護する と同時に真の犯罪者を告発する役割を担ってい るのであり,いずれの観点においても法の十全 性を支えるのである.……諸君らの行う手続は 密行的に行われるのであり,当該裁判所が,司 法の利益のために手続きやその一部を公開すべ きと判断するまでは,恒久的にそれを保持せね ばならない.…….

 証人の証言が公開されれば,証人は威迫や報

(12)

復を受けかねず,公判前であれば買収されてし まう可能性もある.更に,密行性の要件は,捜 査の対象とされたものの,大陪審の捜査により 疑いが晴れた無辜をも保護する.…….ゆえに,

大陪審がその者が犯罪を行ったか否かを検討し てきたことが明らかになると,結果的にはその 捜査対象者が大陪審起訴されないとしても,そ の者の評判や名声には多大なる損害が生じ,不 公正な影響が及んでしまう.その捜査対象者は 公判手続を経ないのであるから,そのことが万 一不運にも世に知れてしまったとしても,自身 の名誉を回復する機会はない.…….

 諸君らは,家族や友人,マスコミ関係者,そ の他大陪審評議室での出来事に関心を持った者 らにその内容を明かさないようにし,大陪審手 続の密行性を保つよう注意せねばならない.大 陪審員は,大陪審評議室においてのみ,また,

自分たちの間のみにてしか議論できない.…….

……諸君ら大陪審の評議の内容,及び,誰がい ずれに投票したのかに関しては,検察官にすら 明かしてはならない.

 陪審の役務(jury service)は,市民としての 義務を遂行することである.諸君らは,既に大 陪審員として包括的宣誓を行った.これは,歴 史に根差したものであり,何千もの諸君らの先 人が過去に同じ宣誓を行ってきたのである.先 人らが宣誓を遵守してきたからこそ,今日の司 法制度と正義の感覚を保持してきたのである.

諸君らもこの努力の連鎖に加わるのであり,心 を強く,職務に忠実でなければならない.

 特別大陪審89-

2

は,大陪審の密行性に関する法 についての説示も受け,その法律である連邦刑事 訴訟規則

6

条の謄本を受け取った.同規則

6

条は,

大陪審に対して,例外を除いては,自身らの審議 内容・出来事を公開することを禁じ,それと知っ て連邦刑事訴訟規則に違反すれば裁判所侮辱罪で 処罰される可能性があることを規定していた.ま

た,同規則では,(1)裁判手続に先立って,若し くは,裁判手続に関連して裁判所が開示を命じた 場合,(2)被告人の申請を受け,裁判所がそれを 許容した場合,(3)連邦検察官が別の連邦大陪審 に開示する場合,(4)連邦検察官の要請を受けて,

法執行を目的として州や地方の官憲に開示するこ とを裁判所が許容した場合を除いては,大陪審の 審議内容・出来事の開示はできないことも記され ている.

 特別大陪審への説示に先立って,同大陪審の陪 審員は厳格な守秘義務と公正さについての宣誓を 行った.宣誓内容は次の通りである.

 諸君らは,当該大陪審のメンバーとして,証 拠を入手すべき,また入手することのできる当 該地区内において発生したあらゆる犯罪(public

offense),若しくは,当該地区内で公判に付す

べき犯罪について,諸君らは熱心に調査を行い,

正当な

presentment

を行うことを厳粛に誓うも

のである.

 諸君らは,自身らや同じ大陪審員の考え,合 衆国の見解についてはそれを明かさすことはせ ず,正当な司法手続における要請がない限り,

諸君らが取り調べた証人の証言や自身を含めた 大陪審員が述べた事柄,また,何らかの投票を 行った場合に,自身や他の陪審員が如何なる投 票をしたのかについて公開しない.

 諸君らは,他者に対して,悪意や憎悪,敵意 から告発(presentment)したり,若しくは,恐 怖心や情実,好意,何らかの見返り,約束やそれ によって得られる利益から告発(presentment)

しないなどといったこともしない.諸君らの行 う

presentment

indictment

においては,諸君 らの最高のスキルと理解に従った嘘偽りのない 真実を告発(present)するものである.神に誓 います(か?).

 そこで行われた大陪審員の宣誓は非常に重要な

(13)

ものである.宣誓を行えば,大陪審が検察官や裁 判所に同意できない場合ですら,宣誓に反する例 外は認められなくなるという極めて神聖な約束事 である.事実,当裁判所は,特別大陪審89-

2

に対 して,「大陪審として,合衆国議会が制定した刑事 法が賢明か否かを意識するべきではない……我が 国合衆国では,統治を行うのは人ではなく法なの である」との大陪審説示を行っている.

 各個人が密行性についての宣誓を行えば,如何 に正当な理由があろうとも,宣誓は有効なのであ る.その宣誓は,我らが合衆国の社会における司 法制度の基本的な土台であり,検察官や裁判官,

証人,弁護士,小陪審員,そして,大陪審員がそ のような宣誓を行うからこそ,それら司法制度が 機能するのである.宣誓に拘束力が認められなけ れば,社会が瓦解してしまうことは明らかである.

1166年以来の機関たる大陪審制度の十全性は,沈

黙し公正に取り組むという宣誓を誠実に遂行する ことにある.告発を行って宣誓に違反すれば,(本 来宣誓することにより)具体的にされているはず の安定性が見せかけに過ぎないことを意味する.

あまりにも残念なことだが,宣誓に反して告発が されれば,裁判所の判断から抜け落ちることにな り,私的社会の論争に晒されてしまうことは避け られない.裁判所は,デュープロセスにより指針 の示されていない秘密裏の判断を公表することか ら個人のプライヴァシーを保護する唯一の手段で ある.州の権限により,正当性を持ってそこでの 非公開の情報を開示したり,覆い隠したりするこ とが可能な市民の捜査団体が創設された場合に,

そのような行動(公表・秘匿)を規制しなければ ならないのも州の権限である.合衆国議会は,こ れらの原理へ同意したことを法に具現化したので あり,構造化された社会で,個人ではなく,法の 統治下において生きることを認めているのが,ま さにそのような法なのである.

 宣誓違反に関して弁解の余地や司法の判断を仰 ぐことを許容すると,将来の大陪審に,確立され

た法や手続からの逸脱や無視,大陪審の密行性に 故意に違反することを許容することになる.ゆえ に,如何に崇高な目的があったとしても,超法規 的な情報の開示と大陪審の密行性違反に関して裁 判にて争う適格など認められない.

Ⅲ.特別大陪審89-

2

の置かれた特殊な状況  当法廷は,当初,大陪審員ではない者が

Rocky

Flats

に関する公式の特別大陪審報告書(

1

月の文

書)を入手したことは明らかであると述べた.そ の文書は1992年

1

月24日付となっており,1992年

10月に世に広められた.その文書の見出しは次の

通りである.

Colorado Federal District Court Report of the Special Grand Jury 89-2

January 24, 1992

CONFIDENTIAL DOCUMENT – NOT FOR PUBLIC DISCLOSURE.

 この文書には,Rocky Flatsに関連する事柄,及 び,特別大陪審の陪審員による見解と提言の抜粋 が含まれている.当該裁判所は,特別大陪審から

1

月の文書を受理していなかったにも拘わらず,

その文書は真正のものであるとされ,当該手続に おける申請人の要請の根拠となっている.一方,

特別大陪審が当裁判所に正式に提出した報告書は,

実際には公知のものとはなっていなかった.

 仮 に こ の

1

月 の 文 書 が 大 陪 審 員 ら に 起 因

(originate from)するものであれば,それは法に 違反したということになる.仮に当該裁判所の保 管下(possession)にあった場合でも,公的記録 たる裁判所文書(court document)であるために,

開示することの正当性は絶対にない.必ずしも大 陪審員でなく,一般市民の誰かしらに起因する可 能性もあるが,一般市民の私的な手紙に法が適用 され得ないことは疑いようがない.

 当裁判所は,大陪審報告書を公開するために如 何なる提出方法を採るべきかの要件を特別大陪審 に対して詳細に説明していた.Rocky Flatsの業務 について知る権利のあるコミュニティに対して,

(14)

特別大陪審にはそれらを知らせる固有の機会があ った.それに伴い,当裁判所は,特別大陪審が,

受理を可能とするような報告書や,当該裁判所が 良心に従って公開することのできる報告書を作成 することが可能であった点を明らかにしなければ ならない.特別大陪審が,自身らの招集された目 的を達成していないことを当裁判所が傍観してい たのは遺憾である.特別大陪審は,公開するため の法的要件を充たしていない報告書を提出してし まったのである.また,大陪審の陪審員が,大陪 審の審議内容・出来事についての見解を公の場で 述べ,裁判所の審査を経ずに告発文書を開示して しまったことも明白である.

Ⅳ.法律上の大陪審報告書

 法律上,大陪審での審議内容・出来事は守秘の 対象である.だが,開示に必要な要件が厳格に定 められていれば,特別大陪審による大陪審報告書 を裁判所に提出すること,さらには,社会に対し て公表することが可能である.特別大陪審の報告 書を公開するか否かの裁判所の裁量は,注釈付合 衆国法律集タイトル18の3333条,及び,連邦刑事 訴訟規則

6

条に関連するコモンロー上の原理によ り規律される.

A.裁判所への提出

 特別大陪審89-

2

は,§3333 (a)の基準を満た した大陪審報告書であれば主宰裁判所に提出でき ることを告知されていた.しかし,§3333 (a)に は,特別大陪審89-

2

の大陪審報告書を提出する根 拠を見出すことはできないと思われる.§3333 (a)

は次の通り規定している.

(a)

district court

により選任された特別大陪審 は,過半数の同意があれば,本来の任期又は延 長された任期の終了時に,次に規定する事柄に 関する報告書を裁判所に提出することができる.

① 離職や懲罰の勧告の根拠として,組織犯 罪活動に関連する部署における,任命を受け た公務員や公的機関の従事者による犯罪では ない規範逸脱行為(不正行為),失当行為.

② 担当地区内の組織犯罪に関連する事柄  この §3333 (a)が,大陪審報告書を提出する大 陪審の権限に制限を設けていることは明白であり,

本件の大陪審報告書はいずれの規定にも該当して いない.第一に,当該大陪審報告書は,実際には,

何らかの集団犯罪活動について詳細を記していた わけではなく,それとは反対の内容たる申請人の 主張自体失当である.第二に,当該大陪審報告書 は,必然的に,「解雇や懲罰を勧告するための根 拠」として資する主張ではない.ゆえに,当該大 陪審報告書は,適切な裁判所への提出基準を満た してはいない.

B.社会への公表

 公務員の不正行為が刑法違反たることを証明す るには至らなくとも,大陪審報告書を公表する権 限により,特別大陪審は国民の信頼を損なう行為 を世に公表することができる.当裁判所は,大陪 審報告書の重要な目的に鑑みた上で,仮に当該大 陪審報告書が提出基準を充たしていた場合でも,

公的記録としての開示ができなかったと結論付け る.特別大陪審に対しては,注釈付合衆国法律集 タイトル18の §3333 (b)に該当する場合に限り,

裁判所が特別大陪審の報告書を世に公開すること ができると説示されていた.§3333 (b)は次の通 りである.

(b)上記大陪審報告書の受理にあたる裁判所は,

その特別大陪審の報告書及び議事録を検討し,

……その裁判所により大陪審報告書が本条(a)

項の規定,及び,次の点を満たしていると判断 された場合にのみ,当該報告書を公的記録とし て受理し保管する命令を発することとする.

① 当該報告書が,3332条 (a)に定められた 捜査の過程において明らかになった事実に基 づき,証拠の優越の程度に支えられている場 合,及び,

② 特定の人物に対する批判ではない場合  当裁判所による1992年

9

月25日付の命令におい て述べた通り,当該大陪審報告書は,特別大陪審

(15)

の捜査の過程において明らかになった事実に一部 しか基づいておらず,その報告書で導き出された 結論が証拠の優越により支えられていないことか ら,適切な開示の対象とすることはできない.そ の上,当該報告書は,その者の地位により特定が 安易な人物を激しく批判するものであるから,か かる理由それのみで §3333 (b)の基準を充たし ていないと言わざるを得ない.大陪審報告書が §

3333

(b)に該当しない場合,同法により,裁判所

は,「その報告書を非公開にし,公的記録として保 管してはならない」と規定されている.ゆえに,

当裁判所は,当該大陪審報告書を社会に公表する 根拠が同法にはないものと結論付ける.

 申請人は,当該特別大陪審の各種資料を公開す る根拠をコモンロー上にも見いだせると主張する.

大陪審報告書の発付に関する法律上の処理は法律 それ自体で終了するのか否か,また,同様の処理 をするためにコモンロー上の原理の適用が適切で あったか否かという点には,未だ議論の余地があ る.しかし,コモンロー上の原理に依ったところ で当該大陪審報告書を社会に公表するとの結論に は至らないため,かかる議論には言及しない.

Ⅴ.コモンロー上の大陪審

report A.indictment, presentment, reports

  本件申請人らは,

indictment, presentment,

report

を含む,様々な名称の大陪審の書類の開示

を要求した.コモンローの観点から分析するにあ た り,申 請 人 ら が 要 求 す る す べ て の 文 書 は,

indictment

でも

presentment

でもなく,せいぜい

report

で あ る こ と を 指 摘 す る.た と え ば,

indictment

は,刑事手続の全過程を開始させるも

のである.つまり,令状の送達,検挙と逮捕,訴 追や召喚,罪状認否や勾留,そして,合理的疑い

(reasonable doubt)を超える程度の証明をする義 務のある刑事公判などの手続きが開始される.大 陪審は,検察官の同意や参加がなくとも捜査を行 うことができるものの,U.S. Attorneyの署名と承 認なくしては,indictmentを回付することもでき

ず,有効な訴追を開始することもできない.さら に,indictmentに署名をする/しないとの検察官 の判断は,裁判所が強制することもできないし,

審査することもできない.特別大陪審89-

2

は,自 身らの提起した

indictment

には

U.S. Attorney

の署 名がなく,法により無効となることを認識してい たことは明白である.

 当裁判所は,署名のない文書に

indictment

とし ての効力を持たせる手段,かかる文書を開示する 手段が別に設けられているとの申請人の主張を検 討したが,請求申請を却下する.第一に,申請人は,

連邦刑事訴訟規則

7

条(c)により「(indictment)

には,連邦検察官が署名するものとする(shall)」

と規定していることから,実際には連邦刑事訴訟 規則により

U.S. Attorney

の署名が義務付けられて いると主張する.とはいえ,検察官に

indictment

への署名を命ずる「強制的な」文言とするには程 遠く,単に,大陪審の文書を

indictment

にし,公 開するためには,連邦検察官による署名が必要で あるというだけのものである.もしそうでなけれ ば,行政機関の訴追裁量は損なわれ,連邦刑事訴 訟規則

6

条,及び,注釈付合衆国法律集タイトル

18の3333条に具現化されている保護は損なわれて

しまう.歴史的にみても,裁判所や大陪審が検察 官の不起訴判断を無効にはできない.大陪審は,

検察官の訴追権限を抑制してきたのであり,代わ りを担ってきたのではない.

 第二に,申請人は,連邦刑事訴訟規則

6

条によ り,indictmentは公開の法廷で回付されなければ ならないと主張する.indictmentが公開の法廷で 回付されなければならないか否かは,それが

indictment

か否かという問題から始まるが,本件

では,特別大陪審89-

2

及び連邦検察官両者の署名 がなされた

indictment

は存在していない.

 最後に,申請人は,特別大陪審が作成したいわ ゆる

indictment

を,政府と

indictment

において特 定された個人両者からの答弁(response)ともに 裁判所が開示すべきと主張するが,当裁判所は,

参照

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