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(1)

図2 F1の回転反応スキームのモデル([13]より改変

) A:回転のトラジェクトリの模式図。各 dwell time

(ステップの停止時間 )のイベントが示されている。

B

:「リン酸先抜けモデル」

C

:「リン酸後抜けモデル」

F

1

-ATPaseP-loop 変異体における化学共役スキームの解明

Chemomechanical coupling scheme in F

1

-ATPase investigated with a P-loop mutant

物理学専攻 成田宏夏

要約

回転分子モーターである F 1 -ATPase においては、 ATP 加水分解生成物である ADP とリン酸の解離順序について 2 つ のモデルが考えられている。 2010 年には、それぞれ異なる解離順序を支持する論文 [1][2] が報告されており、この結論は まだ確定していない。しかし、野生型 F 1 はリン酸解離速度が非常に速いため、直接解離を見ることは困難である。そ こで、本研究ではリン酸の解離が遅い P-loop 変異体 TF 1 (βG158A) に着目し、モデルを決めることにした。 P-loop 変異体 の一分子回転観察を行ったところ、 ATP 加水分解とリン酸解離待ちの角度で長い停止が見られた。野生型と P-loop 変異 体を用いて作成したハイブリッド F 1 についても同様に回転実験を行い、加水分解待ちを含む停止時間の時定数を考察 すると、リン酸が ADP よりも先に解離する共役スキームであることを示唆する結果を得た。

導入

生命体の細胞中では、化学変化による自由エネルギー差 を使って力学的な運動をするタンパク質でできた分子モー ターが多く存在しており、それらは生命活動において重要 な役割を担っている。 FoF 1 -ATP 合成酵素(図 1 左)は、ほ とんどの生物の生体膜上に存在する膜タンパク質であり、

プロトンの流れで放出される電気化学ポテンシャル差と ATP 合成の化学ポテンシャルを可逆的に共役するイオン ポンプとして注目されている。構造的には、膜内在性の Fo 部分(a 1 b 2 c 10~13[3] と膜から突き出た F 1 部分 (α 3 β 3 γδε)からなって おり、F 1 部分を取り出すと単独で ATP 加水分解活性を示すことか

ら、F 1 -ATPase とも呼ばれる。さらに、 δ 、 ε サブユニットがなくて

も活性を示すので、 α 3 β 3 γ 複合体を F 1 (図 1 右)と呼び、本研究で 扱っている。

これまで、 F 1 について、 3 つの触媒部位 β サブユニットはそれぞ れ反応位相を 120°ずらして、共同的に γ サブユニットを一方向に ステップ状回転させていることが分かっている。 [4] そして、 ATP 加 水分解の各反応素過程(図 2 A)が起きるときの γ サブユニットの 向き(反応角度)と 120°ステップについては、ATP 結合、 ADP 解

離により 80°のサブステップが引き起こされ、 ATP 加水分解とリン

酸解離により40°のサブステップが引き起こされることが明らかに なった。1 つの β サブユニットに ATP が結合したときの反応角度 を 0°(γ=0°) とすると、 γ サブユニットが 0°で結合した ATP は γ サ ブユニットが 120°ステップしたのち ADP とリン酸に加水分解

( γ= 200° )され、その生成物であるADP はさらに 40°ステップ

したのち触媒部位から解離( γ= 240°)する。 [5]-[12]

図1 左がFoF1

-ATP

合成酵素、右が

F

1

-ATPase

の模式図。

(2)

しかし、もう一つの生成物であるリン酸の解離の角度については、ADP とリン酸解離の順序の違いで現在 2 つのモ

デル [13] (図 2 B、 C)が考えられている。一つ目は ATP が加水分解された後に生成物の ADP よりも先にリン酸が解離す

る「リン酸先抜けモデル」 (図 2 B)と、もう一つは、生成物の ADP よりも後にリン酸が解離する「リン酸後抜けモデ ル」 (図 2 C )と呼ばれている。リン酸の解離速度が~1000 s -1 と非常に速いため計測することが困難であり、スキームを 定義できなかった。そこで、我々はリン酸の解離が遅い変異体を用いた F 1 の 3 つの β サブユニットのうち 1 つを変異 体にしたハイブリッド F 1 の回転を解析することで、変異体のリン酸が抜ける角度を特定することでリン酸解離角度を 明らかにしようと試みた。

P-loop 変異体

我々はリン酸解離を遅くする変異導入場所として β サブユニットの P-loop 構造( 156 GGAGVG 161 )に着目した。

Bandyopadhyay ら [10] による P-loop 変異体 TF 1 (βG158C)の調査によると、加水分解活性が下がることは分かった。これに ついて、我々は活性の低下原因はリン酸解離が遅くなったためであると考えた。また P-loop の構造は ATP を取り囲む ような構造をしていることからもリン酸の結合解離に関与していると予想した。さらに、先行研究 [14] によって一分子回 転観察ができる 158 番目の Gly を Ala に変異させた TF 1 (βG158A) 変異体の活性を調査した結果、野生型の 1/2.6 まで低 下することが報告されているので、この変異体 G158A を用いることにした。

実験方法

全反射蛍光顕微鏡を用いて一分子観察を行った。数ミリ秒程度 の反応速度定数を求めるために、目印として、直径40nmの金コロ イド粒子を利用した。 F 1 はα 3 β 3 リングに導入した His-tagを利用して

Ni-NTAガラス上に固定する。 γ サブユニット先端に変異導入した

Cysをビオチンで修飾させ、アビジンで修飾した金コロイド粒子を γサブユニットにビオチン-アビジン結合させる。均一強度のレー ザー光を試料面(チェンバー)で全反射させることで発生するエ バネッセント場に照射された金コロイドの散乱光の重心解析を行 い、dwell time(ステップの待ち時間)のヒストグラムをフィッティ ングした式から時定数を求め反応の速さを調べた。

一分子回転観察は高濃度ATP(5 mM)条件下で行い、 ATP加水分解と

図3 野生型とP-loop変異体の結晶構造(

PDB; 4XD7、 [15]より参考)

(a)は野生型TF 1

(b)はP-loop

変異体

TF 1 (βG158A)の構造。それぞれ、青色が β

サブユニット、黄色はP-loop構造を示しており、

ADP

存在下。

図4 全反射顕微鏡の光学系(

[16]より改変)

(3)

リン酸解離の反応速度定数を求めた。次にハイブリッドF 1 を作成し、同様に回転観察を行い変異体のリン酸解離待ちの 反応角度を調べた。

実験結果

F 1 がステップ回転する際の停止時間 (dwell time)のヒストグラムをフィッティングすることで反応の時定数を求めた。

ATP飽和濃度(5 mM)の場合、dwell timeは律速段階が ATPの加水分解とリン酸の解離と2段階あるのでの二次の指数関数

でフィッティングすることで 2つの時定数を得られる。

結果を見るとばらつきはあるがG158Aの2つの時定数は野生型と比較して明らかに長くなっているため、G158Aは

ATP加水分解・リン酸の解離共に野生型に比べて遅いことが分かった。よって、G158Aを用いたハイブリッドF 1 を作成

し、ATP飽和濃度で回転観察することで F 1 の回転反応スキームを決定できる期待が高まった。

次にハイブリッドF 1 の回転観察を行ったところα 3 β 2 β(G158A)γの結果を得ることができた。(図 6)

図5 野生型WTと変異体

G158A

の比較

(a)野生型WT、 (b)変異体G158A

dwell time

のヒストグラム。囲みは

dwell time

のヒストグラムから得られた時定数、

N

は粒子数。ヒストグラムは次の式でフィッティングした。

𝒚 = 𝑪(𝒆

−𝒕/𝝉𝟏

− 𝒆

−𝒕/𝝉𝟐

) , 𝜏

1

,𝜏

2

=𝜏

ℎ𝑦𝑑

, 𝜏

𝑃𝑟𝑒𝑙

6

ハイブリッド

F

1の結果

(a)金コロイドの重心分布解析図 (b)

トラジェクトリ

(c)停

止角度のヒストグラム (d)dwell timeのヒストグラム

(e)ハ

イブリッド

F

1、

WT、 G158A

のそれぞれの

dwell time

から 得た時定数の平均値の比較。Nは粒子数。

(4)

明らかに、1回転ごとに長いdwellが一回起こっていることが分かる。そのdwellをDwell 1とし、その他の2つのdwellを 順にDwell 2、 Dwell 3とした。 WTと G158Aとの結果も合わせて、各 dwell timeのヒストグラムから求めた時定数をまとめ

た。 Dwell1はG158Aの時定数にあてはまることから、 Dwell 1はハイブリッドF 1 の変異の触媒部位 β(G158A) で反応してい

ることが考えられる。また、 Dwell 2、Dwell 3はWTの時定数であることから WTの触媒部位β(WT)で反応していると考 えられる。したがって、このハイブリッドF 1 について回転反応スキームを考えていき、検証していく。

結論

まず、Dwell 1 について考えて いく。γ が 0°で ATP が β(G158A) に結合すると、 200°で加水分解し、

240°で生成物のADP は解離する。

ここで、 200°で起こるリン酸解離

待ちは、 「リン酸先抜けモデル」

だと加水分解待ちと同じ触媒部 位 β(G158A) で起こる一方で、 「リ ン酸後抜けモデル」だと加水分解 待ちとは別の触媒部位 β(WT)で 起こる。今回の実験より、 200°に おける 2 つの反応待ちは

β(G158A)で起きていると考えら れるため、 「リン酸先抜けモデル」

に当てはまる。

次に、同様に Dwell 2 に関して 考えていく。時定数をみると 320°

で起こる2 つの反応はどちらも同

じ触媒部位 β(WT) で起きていると考えられるため、 「リン酸先抜けモデル」に当てはまる。

したがって、本研究より F 1 は ADP よりも先にリン酸が解離する「リン酸先抜けモデル」であることが分かった。

参考文献

[1] Shimo-Kon, R., et.al, Biophys.J, 98, 1227 (2010) [2] Watanabe, R., et.al, Nat.Chem.Biol., 6, 814 (2010) [3] Steigmiller Graeber, PNAS, 105, 3745 (2008) [4] Noji H et al., Nature, 386, 299 (1997) [5] Boyer et al., Faseb, 3, 2164 (1989)

[6] Adachi, K et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 97, 7243 (2000)

[7] Hirono-Hara, Y., et.al, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 98, 13649 (2001)

[8] Kinoshita, K., Jr., et.al, Annu. Rev. Biophys. Biomol Struct, 33, 245 (2004)

[9] Nishizaka, T., et.al, Nat. Struct. Mol, 11, 142 (2004) [10] Shimabukuro, K., et.al, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 100, 14731 (2003)

[11] Yasuda, R., et.al, Cell, 93, 1117 (1998) [12] Yasuda, R., et.al, Nature, 410, 898 (2001 [13] Adachi, K., et.al, Cell, 130, 309 (2007)

[14] 星名仁志、2014 年修士論文

[15]Shirakihara, Y., et al, FEBS J, 15, 2895 (2015) [16] Ueno, H., et.al, Biophys J, 98, 2014 (2010)

図7 ハイブリッド

F 1

の回転反応スキーム

([13]より改変 )

A:回転のトラジェクトリの模式図。各 dwell time

のイベントが示されている。

B:

「リン酸先抜けモデル」

C:

「リン酸後抜けモデル」

橙色が変異導入した

G158A

の触媒部位での反応(

Dwell 1)

、緑色が

WT

の触媒部位での 反応(

Dwell 2)

、青色が

WT

の触媒部位での反応(

Dwell 3)を表している。

図 6   ハイブリッド F 1 の結果

参照

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