修士論文要旨 (2014 年度)
三状態制御方式を用いた
電流制御モード昇圧型DC−DCコンバータの 周波数特性の解析
The analysis of the frequency characteristics of a current-mode boost DC-DC converter which adopt a tri-state control scheme
電気電子情報通信工学専攻 土田 高志 Takashi Tsuchida
1 はじめに
近年、スマートフォンやデジタルカメラ、ノートパソ コンなどの小型携帯機器の急成長に伴い、今後さらに携 帯機器の小型・軽量・薄型化の要求が強まるとともに、
連続使用時間の長時間化も求められている。これらの機 器は二次電池を電源として用いているが、内部回路の動 作電圧はそれぞれ異なるため、二次電池のような単一の 電源を用いる電子機器の場合には、DC-DC コンバータ により内部で異なるいくつかのレベルの電圧に変換す る必要がある。
DC-DC コンバータは、入出力電圧が変化すると周波
数特性が変化し、負帰還回路の安定性が変化する。した がって、DC-DC コンバータの設計時には各入出力電圧 の設定毎に安定性をチェックし、回路を調整しなければ ならない。これは設計効率低下の原因となっている。そ こで、DC-DC コンバータの周波数特性が入出力電圧に 依存しないように設計出来るならば、定まった安定性と 回路の統一化を実現することができ、DC-DC コンバー タの設計効率の向上を図ることができると考えた。
本論文では、昇圧型 DC-DC コンバータにおいて、入 出力電圧に依存しない一定の周波数特性を実現するた めに、出力部に新たに三状態制御方式を用いた回路を 提案し、周波数特性の一定化についての検討を行った。
また、実際に試作した IC チップの評価を行い、得られ た特性から理想的な特性との比較検討を行った。
2 一般的な昇圧型 DC-DC コンバータの周 波数特性
図 1 に全体ループの周波数特性を示す。図 1 の動作条 件は入力電圧 V in =1.5[V]、負荷電流 I out =40[mA]、ス イッチング周波数 f s =1[MHz] とし、出力電圧 V out を 2.0[V] から 6.0[V] と 1.0[V] ずつ変化させた条件で測定 したものである。図 1 より、昇圧型 DC-DC コンバータ のにおける全体ループの周波数特性は、入出力電圧に依 存して変化してしまっていることがわかる。また、図 1
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図 1: 二次スロープを用いた全体ループの周波数特性
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図 2: 利得調整回路を施した全体ループの周波数特性
の測定回路に、Duty 依存性を持つ利得の変化を打ち消 す回路を新たに施したものの周波数特性を図 2 に示す。
図 2 より、利得を一致させることはできたが、右半面の 零点の影響は残ってしまっている。
図 1 および図 2 の結果のように昇圧型 DC-DC コン バータでは、降圧型と異なり二次スロープ補償を施すだ けでは全体ループの周波数特性が一定とならない。 [1][2]
したがって、二次スロープ補償を施すことにより電流 帰還ループの周波数特性は一定とすることができるが、
出力部の伝達関数 Z CR の影響により、全体ループの周
波数特性には Duty 依存性と右半面の零点の影響が残っ
てしまう。そのため、高 Duty の条件では右半面の零点
がユニティゲイン周波数付近に現れるため、回路動作が
1
不安定になる可能性がある。Z CR の式を式 (1) に示す。
Z CR = ∆v out (s)
∆i L (s) = (1 − D)R
1 − sL (1 − D) 2 R sCR + 2 (1)
3 三状態制御方式を用いた昇圧型 DC-DC コンバータ
3.1 動作原理
従来の昇圧型 DC-DC コンバータ出力部の回路構成で は、出力部の周波数特性は入出力電圧依存性を持ち、右 半面の零点も発生してしまう。そのため、入出力電圧条 件が変化してしまうと、安定動作ができなくなってしま う可能性がある。そこで、出力部の回路構成を変えるこ とにより、これらの問題の解決を図る。
従来の出力部の回路構成では、出力部のスイッチを開 閉させることにより、スイッチ ON の期間と OFF の期 間とで二つの回路状態に分かれる。そのため、定常状態 における一周期のインダクタ電流の波形は、インダクタ にエネルギーを蓄える期間 DT s と、インダクタからエ ネルギーを放出する期間 (1 − D)T s の二つとなる。
これに対して、図 3 に示す回路は、出力回路状態を三 つの状態に分ける三状態制御方式の出力回路構成であ る [3]。従来の昇圧型 DC-DC コンバータ出力部の回路 に対して、インダクタと並列にスイッチ Q k を付け加え ることで、二つのスイッチの開閉状態により回路はイン ダクタにエネルギーを蓄える期間 D a T s 、インダクタか らエネルギーを放出する期間 D b T s 、インダクタのエネ ルギーを保持する期間 D c T s の三つの状態に分かれる。
D a 、D b 、D c は一周期におけるそれぞれの回路状態の 割合である。D b を一定の値 k として、状態平均化法に
. % 4
8KP 3
3M
8QWV
&C6U &D6U &E6U 6U
ࠗࡦ࠳ࠢ࠲㔚ᵹ+
.㔚ᵹ㧵
ᤨ㑆㨠 㨪 㨪
図 3: (上) 三状態制御方式昇圧型の出力部の回路構成 (下) インダクタ電流の時間遷移図
より三状態制御方式の出力部について解析すると、 Z CR
及び T ps は以下のように導くことができる。
Z CR = ∆v out (s)
∆i L (s) = kR
sCR + 1 (2)
T ps = ∆i L (s)
∆D a (s) = V in
R
sCR + 1
s 2 LC + s L R + k 2 (3)
式(2)から分かるように、この出力回路構成における 出力部の周波数特性 Z CR では、従来の昇圧型 DC-DC コンバータで問題となっていた Duty 依存性と右半面の 零点が無くなっている。したがって、三状態制御方式の 出力回路構成で、D b を一定とする制御を行うことで、
出力部の周波数特性における Duty 依存性と右半面の零 点を消すことができる。
次に、三状態制御方式における最適なスロープ補償方 式について検討する。三状態制御方式での電流帰還ルー プの周波数特性 T CF L は
T CF L = ∆i L (s)
∆v c (s) = 1 K cf b
1 s 2 ω n 2 + 2s
ω n ζ + 1
(4)
となり、ダンピングファクタ ζ 以下のような形となる。
ζ = π
2 ( 2LD a T s m 0 c V in K cf b + 1
2 ) (5)
よって、この三状態制御方式出力部の回路構成の場合、
m 0 c = 0 とすればダンピングファクタ ζ=π/4 で一定と なるということがわかる。m 0 c = 0 とはスロープ補償を 施さないことを意味する。したがって、三状態制御方式 ではスロープ補償を施さないことにより、電流帰還ルー プの周波数特性が入出力電圧に依らず一定になると考 えられる。したがって、出力部、電流帰還ループともに 周波数特性の入出力電圧による依存性を打ち消すこと ができた。
3.2 シミュレーション結果
出力部を三状態制御方式で構成したスロープ補償を 施さない、電流制御方式昇圧型 DC-DC コンバータに おける全体ループの周波数特性のシミュレーション結 果を図 4 に示す。図 4 は出力電圧 V out =2.0[V]、負荷 電流 I out =40[mA]、スイッチング周波数 f s =1[MHz]
と し 、入 力 電 圧 V in を 、0.8[V](Duty=30.0[%])、
1.0[V](Duty=20.0[%])、1.2[V](Duty=13.3[%])、と 変 化させた条件で行ったシミュレーション結果である。
図 4 の結果より、Duty 依存性及び右半面の零点が存 在しない一定の周波数特性を、昇圧型 DC-DC コンバー タにおいて実現できたことが確認できる。
3.3 実測結果
実際に試作した IC チップを用いて、三状態制御方式
で構成したスロープ補償を施さない、昇圧型 DC-DC コ
2
)CKPF$
2JCUGFGI
(TGSWGPE[*\
8KP=8?&WV[=?
8KP=8?&WV[=?
8KP=8?&WV[=?
図 4: 三状態方式の全体ループ周波数特性 (V in 依存性)
ンバータの実測を行った。図 5 に今回試作を行った三状 態制御方式を用いた昇圧型 DC-DC コンバータの全体構 成を示す。また、図 6 に図 5 における lx での出力電圧 V lx の波形と、電流検出回路の出力電圧 V i の波形を示 す。DC-DC コンバータの入力電圧は 1.0[V]、出力電圧 は 2.0[V]、負荷電流は 40[mA] としている。図 6 より、
図 5 における Q が ON している期間に電流検出回路が インダクタ電流の傾きを検出していることがわかる。ま た、Q が ON から OFF に切り替わってから 200[ns] 後 に図 5 における Q k が ON しており、三状態にて回路 が動作していることが V lx よりわかる。ここで、一周 期は 1[µs] なので、一定期間 k の割合は 20[%] というこ とがわかる。 次に、全体ループの周波数特性の実測結
FKQFG 8QWV
% 4QWV 4E . 4.
8KP
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3 3AM
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24'$7(('4
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4H
4H 4H
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EQOR 8TGH 5 4 3
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㔚ᵹᬌㇱ
54 3
NZ
8K
8E
4EHD
図 5: PWM 制御型電流制御方式を用いた昇圧型 DC-DC コンバータの三状態制御方式の全体回路構成
果を図 7 に示す。図 7 は図 4 と同様の条件で実測した もので、実線が実測結果、点線が図 4 の結果、×印が
SPICE を用いたシミュレーション結果である。
図 7 より、実測の特性は入出力依存性を持たずに一定 の特性となっているが、 100[kHz] から高周波帯にかけて 図 4 とは大きく離れる特性となってしまった。100[kHz]
近傍より、利得が上がり位相が遅れる、いわゆる正の零 点が発生してしまっている。
4 高域の零点に対する検討
実測では 100[kHz] 付近から計算式では存在していな かった正の零点が発生していた。これは高周波の信号を
ǴUGE
8
O8
図 6: 図 5 における lx での電圧波形 V lx と電流帰還電圧 波形 V i
)CKP=F$?
2JCUG=FGI?
(TGSWGPE[=*\?
8KP=8?&WV[=?
8KP=8?&WV[=?
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̖⸘▚⚿ᨐ
̖*52+%'
図 7: 三状態方式の全体ループの実測での周波数特性
注入した際に DC-DC コンバータが発振動作をしてし まっていたことに起因するものと考えられる。図 8 に図 5 を動作させるトリガパルスと、各端子の電圧波形およ び素子の電流波形のタイミングチャートを示す。I L は インダクタ L を流れる電流波形を、V out は出力端子を 大きく拡大化したものである。また、S と R は図 5 を 動作させる、それぞれのクロックを生成するために用い
る SR-フリップフロップに入力されるパルスである。S
は DC-DC コンバータの基準クロックである OSC によ る信号であり、このトリガによって動作を始める。R は 図 5 における電流帰還信号 V i と電圧帰還信号 V c によっ て生成されるコンパレータの出力波形である。
その後、R の信号を k 期間生成回路にて一周期に対 して k の割合だけ遅らせた信号 S’ を生成し、このトリ ガパルスを用いて Q k を動作させる。最終的に R’ は S と同じ信号を用いて動作し、I L が一定値となる期間が 終わると同時に次の周期が始まる。次に、図 8 から Q の ON する期間が変動した場合を考える。図 9 お D a 期 間が短くなった場合の波形を示す。本来は Duty の変動 によって、直流の電位や電流も上下に変化するが、ここ では動作を考えやすくするため考慮しないこととする。
図 9 より、Q の Duty の割合が変化すると、S’ の周期 がスイッチング周期である 1[µs] よりも長くなったり、
短くなってしまい、動作周期が定まらない、すなわち
発振してしまっていることがわかる。これは S’ を生成
3
M M M
5
V
V
V
V
V
V
V 4
5
4 5
+
.8QWV 8NZ
図 8: トリガパルスでのタイミングチャート
するトリガが周期性を持たない R のトリガによるため に起こるものである。したがって、Duty 変動の少ない 低周波の信号を注入した場合は回路が発振しないため、
計算値と同じような周波数特性が得られるが、Duty 変 動が大きくなる高周波の信号を注入した場合、Q k が スイッチング周期から大きく外れ、回路が発振するた め、不安定な状態で回路が動作する。そのため、計算値 と大きく異なる周波数特性となってしまった。図 10 に
M M
5
V
V
V
V
V
V
V 4
5
4 5
+
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QXGTE[ENG
&C &E
WUGE
&C
&E
図 9: D a 期間が短くなった場合
信号を注入した際の過渡解析のシミュレーション結果 を示す。図 10 は、定常状態 V in =1.0[V]、V out =2.0[V]、
f s =1[MHz]、I L =40[mA] にて動作する三状態制御を用 いた昇圧型 DC-DC コンバータの出力に、振幅 10[mV]、
周波数 200[kHz] の信号を注入した際のものである。図 10 からわかるように、1 周期である 1[µs] を大きく前後 する周期で動作していることが確認できる。したがっ て、発振動作を起こし、不安定動作になってしまうた め、PWM 制御方式において三状態制御方式は用いるこ とができないことがわかる。
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