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清 多 英 樹

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ア ル ベ ー ル ・カ ミ ュ研 究[V]

異 邦 人 』研 究 通 史 考 ノ ー ト(13)

イ ザ ベ ル ・ア ン セ ル 『カ ミ ュ の 《異 邦 人 》(1981)』 か ら

清 多 英 樹

は じ め に

イ ザ ベ ル ・ア ン セ ル の バ カ ロ レア準 備 参 考 書 「カ ミュ の 《異 邦 人》(1981)1)』 は,新 書 版130 頁 の 小 品 で あ る が,著 者 の 解 説 の 視 点 に は これ ま で の 『異 邦 人 』 研 究 の 成 果 が ほ と ん ど網 羅 され て い るの み な らず,植 民 地 問 題 を ア ル ベ ー ル ・カ ミュの 盲 点 と断定 す る な ど,な か な か エ ポ ック メ イ キ ン グ な とこ ろ もあ る 力 作 で あ る。 我 々 が 『異 邦 人 』 通 史 研 究 を再 開 す る に あ っ て,イ ザ ベ ル ・ア ン セ ル の 具 体 的 考 察 に満 ち た 仕 事 は格 好 の指 標 とな る だ ろ う。

異 邦 人』 は,全 知 全 能 の 一 人 称 話 者 主 人 公 が 創 世 す る 物 語 宇 宙 で あ る。 そ こ に は,独 自 の 時 間 が 流 れ,固 有 の 出 来 事 が あ り,物 語 の 造 作 が あ る。 また,話 者 主 人 公 が,い つ,ど こで,ど の よ う に して,何 故 に物 語 を語 っ て い る か,あ る い は,書 い て い るか,こ れ らの 物 語 の 各 要 素 が 問 題 とな ろ う。 こ う した問 題 を,我 々 は 「物 語 時 間」,「物 語 事 実 」,「物 語 手 法 」,そ して 「物 語 時 点 」

と定 義 して,こ れ ま で考 察 を重 ね て きた が,イ ザ ベ ル ・ア ンセ ル の検 証 は我 々 の研 究 項 目 に さ ら に新 た な資 料 を付 け 加 え る こ と に な る。 次 に,『 異 邦 人 』 第 一 部 最 終 章[殺 人]最 終 段 落 「不 幸 の 扉 」 にお け る主 人公 の 行 動 が,テ キ ス ト自体 に よ っ て の み 解 釈 され る が,こ れ は,我 々の 通 史 研 究 に初 め て 収 録 され る項 目 とな る。 そ して 最 後 に,あ る意 味 で 今 後 の ア ルベ ー ル ・カ ミュ研 究 の原 点 とな ら ざ る を え な い と考 え られ る ア ル ジ ェ リ ア植 民 地 問題 と人 種 差 別 問題 の 実 態 を見 極 め る事 が 小 論 の さ さや か な 目的 で あ る。

一)《 異邦 人》 再考 物語 要素(物 語 時間 ,物 語 事実,物 語 手法,物 語 時 点)

1)物 語 時 間 。

異 邦 人 』 の 物 語 時 間 は,1930年 代 後 半 か ら1940年 代 前 半 に特 定 され る 。 お お む ね執 筆 年 代 の 直 前 直 後 の想 定 で あ る 。 物 語 の 全 体 の 期 間 は,あ る 年 の 夏 か ら次 の 夏 まで の一 年 間,そ の 年 の恐 ら く7月 第 一 週 な い し第 二 週 の 木 曜 日か ら翌 年 の ほ ぼ 同 時期 まで と考 え ら れ る 。 さ らに 分 別 す れ ば,第 一 部 六 章 は,始 ま りの 木 曜 日か ら数 え て3度 目 の 日曜 日 まで の18日 間 の 内,最 初 の 木,金, 土,日,月 曜 日,2度 目 の 日曜 日,物 語 第 三 週 目の とあ る週 日,そ して3度 目の 日曜 日 の8日 間

1)ANSEL‑LAMBERT,Isabelle:L'EtrangerdeCamus(EditionsPedagogicModerne,Collection"Lecto‑

guide2,11",Paris,1981.

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22

が 記 述 対 象 と な っ て い る。 第 二 部 五 章 の 期 間 はそ の後 の 約 一 年 間 で あ る が,逮 捕 直 後 に始 ま っ た で あ ろ う予 審 手 続 きが11ヶ 月 ほ ど続 き,法 廷 が2日 間 開 か れ,死 刑 判 決 後 の数 日 間(恐 ら く2日) の 記 述 で 終 る 。 物 語 時 間 に 関 して は,議 論 の余 地 は全 くな い 。

2)物 語 事 実 。

物 語 事 実 と は,『 異 邦 人 』 に お け る ス トー リー そ の もの に他 な らず,主 人 公 に よ っ て語 ら れ た すべ て の テ キ ス ト内 容,す な わ ち,人 の 良 い レス トラ ン亭 主 の お 悔 や み か ら,主 人 公 の 反 キ リス

ト教 主 義 まで,こ の 作 品 を構 成 す るす べ て のエ ピ ソ ー ドを意 味 す る。

い ま,プ レ イ ヤ ッ ド文 庫 『ア ル ベ ー ル ・カ ミュ全 集 』 の 割 り付 け に従 っ て ,『 異 邦入』 の2部 1ユ章 ユ81段(3222行)の そ れ ぞ れ の段 落 に タ イ トル を付 け,物 語 の全 容 を遺 漏 な く鳥 鰍 してみ る 。

もち ろ ん こ れ とて すべ て の物 語 事 実 を網 羅 す る もの で は な い 。 一 つ の 段 落 に複 数 の エ ピ ソ ー ドが 含 まれ て い る場 合 には,物 語 に とっ て よ り重 要 と思 わ れ る も の を 選 ん で あ る。 出 来 うる か ぎ りテ キ ス トそ の もの を抜 き出 して 命 名 して み た が,ど う して も上 手 くお さ ま ら ない 場 合 に は,適 宜 我 々 の 創 作 と した 。

異邦 人』 部章段 落 タイ トル

(1)母 の 死:

1 2 3 4 5 6 7 8 9 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 0 1 2 3 4 0 0 0 0 0 0 0 0 0 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 2 2 2 2 2 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1

電 報 休 暇 願

セ レ ス トの お 悔 や み バ ス で マ ラ ン ゴへ 老 人 ホ ー ム 院 長 習 慣 の 問 題 遺 言 守 衛

安 置 室 の 午 後 守 衛 の お 喋 り 守 衛 の来 歴 煙 草 編 み物 通 夜 の 老 人 達 泣 く女

間違 った 印 象 老 人 達 退 室 夜 明 け 葬 列 準 備 開 始

トマ ・ペ レ マ ラ ンゴ の 司 祭 葬 列 整 列 葬 列 出 発

[1]無 意 識 の 死

1125 1126 1127

死者の年齢 炎天下の行進 埋葬

(2)再 会:

1201 1202 1203 1204 1205 1206 1207 1208 12a9 12ユ0 1211

社 長 の 気 持 ち マ リ ・カ ル ドナ 再 会

フ ェ ル ナ ンデ ル マ リの 残 り香 ス ク ラ ッ プ ブ ッ ク テ ラス の 午 後

タバ コ屋 と カ フ ェ タ 立

サ ッ カ ー選 手 の 帰 還 気 取 っ た若 者 た ち 結 局,変 化 な し

(3)隣 人 達 1301

1302 1303 1304 1305 1306 13Q7

社 長 の気 遣 い トラ ッ ク 徒 歩 帰 宅 サ ラマ ノ 老 人 隣 人 レ イ モ ン

ワ イ ン とブ ー タ ン レイ モ ンの依 頼

(3)

1308 1309 1310 1311 1312 1313

情婦の裏切 り 質札

仕返 し 手紙代筆 仲間

湿った暗い風

(4)二 度 目 の 日 曜 日 1401

1402 1403 1404 1405 1406 1407 1408

赤 と白 の ドレス 窓 を 開 け た ま まで 私 を愛 して い るか レ イ モ ン の暴 行 証 言 依 頼 交 友 犬 の 失 踪 サ ラマ ノ働 実

(5)転 勤 と結 婚

1501

1502 1503 1504 1505 1506 1507 1508

レイ モ ン の招 待 情 婦 の 兄 パ リ転 勤 拒 否 結 婚 話

マ リの用 事 小 柄 な女

サ ラ マ ノ身 の 上 話 初 め て の 握 手

(6)三 度 目 の 日 曜 日,殺 人

1 2 3 4 5 6 7 8 9 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 0 1 2 3 4 5 0 0 0 0 0 0 0 0 0 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 2 2 2 2 2 2 6 6 6 6 6 6 6 6 6 6 6 6 6 6 6 6 6 6 6 6 6 6 6 6 6 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1

陰 欝 な顔 眩 しい朝 日 ア ラ ブ 出 現 別 荘 へ 輝 く海 マ ソ ン マ ソ ン の 口癖 泳 ぐキ マ イ ラ 海 中抱 擁 早 い 昼 食 男 達 の散 歩 第 一 次 対 決(3対2)

レイ モ ン負 傷 ア ラ ブ退 却 医 者

レ イ モ ンの 怒 り 第 二 次 対 決(2対2) 睨 み合 い

拳 銃 独 り海 岸 へ 光 の 剣 再 び 泉 へ

第 三 次 対 決(1対1) 太 陽 の錨

不 幸 の 扉

(1)予 審:

2101 2102 203 2104 2105 2106 2107 2108 2109 2110 2111 21ユ2 2113

予 備 尋 問 予 審 判 事 国 選 弁 護 士 母 の 死 に際 して 厄 介 な成 行 き 皆 と 同 じ 予 審 初 日 犯 行 再 現

予 審 判 事 の 疑 問 第 一 撃 と後 続 発 射 の 問 鼻 先 に キ リス ト 頑 な な魂

ア ンチ ・キ リス ト

[H]意 識 され た死

(2)未 決 囚

2201

2202 2203 2204 2205 2206 2207 2208 22x9 2210 2211 2212 2213 2214

話 した くな い事 未 決 囚 房 面 会 室 マ リの 第 一 声 沈 黙 と微 笑 ジ ヤ ン ヌ 出 所 した ら結 婚 沈 黙 の小 島 引 きつ っ た微 笑 み 枯 木 の 洞

自 由 煙 草

過 去 回想 発 見 睡 眠

(4)

2215 226 2217

三 面 記 事 昨 日,明 日 独 り言

(3)開 廷:

2301 2302 2303 2304 2305 2306 2307 2308 2309 2310 2311 2312 2313 2314 2315 2316 2317 2318 2319 2320 2321

父 殺 し 法 廷 移 送 被 告 入 廷 取 材 陣 弁 護 士 裁 判 長 若 い記 者 証 人 点 呼 暑 気

人 定 尋 問 裁 判 長 質 問 検 事 質 問 昼 食

ホ ー ム 院 長 証 言 ホ ー ム 守 衛 証 言 ペ レ証 言

セ レス ト ・マ リ証 言 マ ソ ン ・サ ラ マ ノ証 言

レイ モ ン証 言 罪 人 の 心 もて埋 葬 す 初 日閉廷

(4)判 決:

2401 2402 2403 2404 2405 2406

被告の関心 計画的犯行 確信犯 反省 なし 死刑求刑 太陽主犯

2407 2408 2409 2410 2411

最終弁護 疲労 待機 陪審評議 死刑判決

(5)死 刑 執 行 前 夜

1 2 3 4 5 6 7 8 9 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 0 1 2 3 4 5 6 0 0 0 0 0 0 0 0 0 1 1 1 1 1 1 1 1 ー ユ 2 2 2 2 2 2 2 5 5 5 5 5 5 5 5 5 5 5 5 5 5 5 5 5 5 5 5 5 5 5 5 5 5 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2

死 刑 囚独 房 不 当判 決 父 の 話 死 刑 論 ギ ロチ ン 夜 明 け と控 訴 聞 き耳 控 訴 棄 却 恩 赦

4度 目の 面 会拒 否 御 用 司祭

司 祭 の手 無 信 心 神 の助 け 我 が 友 睨 め っ こ 司 祭 動 揺 坐 る か立 つ か 見 る こ と 神 の 顔 石 壁 の 汗 司 祭 の 悲 しみ

も う一 つ の 生 盲 い た 心 反 抗

ア タ ラ キ シ ア(平 安)

こ う し て 改 め て 『 異 邦 人 』 の 粗 筋 を 追 っ て み る と ,こ の物 語 の あ る種 の い びつ さが 判 然 と して く る よ う に 思 わ れ る 。 そ も そ も作 品 の 中 核 を な す ス トー リ ー と は 何 か と い え ば,そ れ は な に よ り も ま ず,一 人 の 男 が 殺 人 を 犯 し,裁 判 の 結 果,死 刑 に な る お 話 で な け れ ば な ら な い 。 仲 間 の トラ ブ ル に巻 き 込 ま れ た 男 が,本 来 自 分 と 無 関 係 な そ の ト ラ ブ ル の 相 手 を 拳 銃 で 撃 ち 殺 し,裁 判 にか け ら れ る 物 語 で あ る 。 で あ る と す れ ば,こ の メ イ ン ス トー リ ー は,908行 に 及 ぶ 長 い プ ロ ロ ー グ を 経 た 後,第 三 章 第 五 段 落[1305],[隣i人 レ イ モ ン]を も っ て 始 ま る こ と に な る 。全 体 の21.72%

が 導 入 部 と し て 使 わ れ て い る 計 算 で あ る 。

ア ン セ ル の 仮 説 に し た が っ て,「 異 邦 人 』 が 探 偵 小 説 あ る い は 推 理 小 説 で あ る と仮 定 す れ ば ,

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こ こ に語 られ て い る殺 人事 件 の始 ま りは,ム ル ソー が レ イモ ンの た め に代 筆 した 曖 昧 な 手 紙 に 由 来 す る こ と に な る。 そ して,こ の 出 来 事 を利 用 して,主 人 公 が 自分 の死 を招 来 す る た め に母 親 の 死 を利 用 す る(あ る い は 母 親 の死 を 自責 して,自 死 を 希 望 す る)の で な け れ ば,老 人 ホ ー ム の 電 報 か ら物 語 を始 め る 理 由 は な い 。

母 親 の 死,マ リ との 再 会 の 結 果,主 人 公 が レイ モ ン ・サ ン テ ス な る問 題 の 人 物 と知 り合 う わ け で は ない 。 た ま さか 夕 食 に 誘 わ れ,空 腹 と怠 惰 ゆ え に この 好 ま しか ら ざ る人 物 と関 わ りを持 つ よ う に な っ た と き,主 人 公 は 母 親 を亡 く し,昔 の 同僚 の 魅 力 的 な タ イ ピス トと再 会 した ば か りだ っ た,と い う だ け な の で あ る。 殺 人 事 件 の 中 核 には,主 人 公 と レ イモ ンの 交 際 が あ る の だ が,両 者 の 関係 は,こ の 物 語 の 中 で も,非 常 に不 可 解 な出 来 事 の 一 つ で あ ろ う。 そ れ まで,挨 拶 の 言 葉 を 交 わ す 以 上 の付 き合 い で は な か っ た 主 人 公 が,倉 庫 係 を 自称 す る う さ ん くさい 隣 人 に乞 わ れ る ま ま,有 害 な 手 紙 を代 筆 す る の み な らず,わ ざ わ ざ嫌 い な警 察 署 に 同 行 し偽 証 ま で 引 き受 け る。 と て も善 良 な 市 民 の 為 す べ き とこ ろ で は な い 。 しか し こ の望 ま しか ら ざ る 交 流 は,ご く 自然 な もの の よ うに始 ま り,発 展 す る。 我 々読 者 が こ の 関係 に必 要 な警 戒 を抱 か な い の は,そ れ が ベ ル ク ー ル の男 達 の モ ラ ル あ る い は仁 義 に準 拠 して い るか らで あ り,主 人 公 の 語 りが 事 実 を 中 和 して い る か らで もあ る 。 い ま こ の点 を詳 し く説 明 す る余 裕 は な い が,『 異 邦 人』 の 数 限 り ない 粉 飾 の 一 つ が こ こ に も見 られ る と だ け指 摘 して お こ う。

ヤ クザ の仲 間 と して 警 察 署 で 偽 証 す る こ とに よっ て レ イモ ンの 悪 行 に加 担 した と きか ら,主 人 公 が 無 実 で は あ りえ な い の は 自明 の こ とで あ る 。 の み な らず,ヤ クザ と付 き合 い を深 め た あ げ く・

そ の ヤ クザ の讃 い の 相 手 を,ま るで 代 役 の ご と く殺 害 す る と なれ ば,釈 明 の 余 地 は な い 。 が,そ の 実 際 の 動 機 は遂 に不 明 の ま ま,裁 判 は終 る 。 実 は この 裁 判 が 『異 邦 人 』 きわ め つ け の粉 飾 そ の

もの なの だ が,そ の 詳 細 な検 討 は後 の 機 会 に譲 り,い ま は作 者 本 人 が 注 釈 して い る よ う に,母 親 の埋 葬 に涙 を見 せ ない 息 子 は 死 刑 判 決 を受 け る恐 れ が あ る事 を と りあ え ず 肝 に銘 じて お く と し よ う。

初 読 の段 階 で は なか な か 気 付 か れ な い の だ が,刑 務 所 に収 容 さ れ て,主 人 公 の 人格 は一 変 す る 。 もち ろ ん 入 所 直 後 に急 変 した とい うの で は な い 。 監 獄 生 活 を送 る う ち に,徐 々 に変 化 す る の だが, 読 者 が そ れ を合 点 す るの は ほ ぼ物 語 が 終 了 す る時 点 に な っ て か らで あ ろ う。 主 人公 の変 身 につ い て は,ま ず も っ て,日 常 か ら非 日常 へ の 陥 落 とい う事 態 を考 慮 せ ね ば な ら な い の み な らず,予 審 判 事 や 弁 護 士 とい う法 曹 関係 者 の 特 別 な 感 化 を 看 過 で き な い 。 い ず れ にせ よ,か か る事 由 を も っ て,い わ ば 不 条 理 に覚 醒 した ム ル ソ ー は変 身 を 遂 げ,「 真 実 の 殉 教 者 」 とな る。 主 人 公 は 第 二 部 にお い て,第 一 部 の そ れ とは 別 人 格 と な り,両 者 に お け る 言 表 行 為 の 諸 変 化 は,主 人 公 の この 変 身 を忠 実 に 表 現 す る もの だ 。

さて,こ れ らの物 語 事 実 が,予 め 選 別 され て い る とい うの は す で に定 説 と して あ る 。 ア ンセ ル に よ れ ば,主 人 公 は 「恣 意 的 な話 者 」 で あ り,「客 観 性 を見 せ か け た 語 り」 を 駆 使 す る の だ が, 不 自然 を感 じ させ る記 述 が い くつ か 追 加 指 摘 され て い る。 例 え ば,[l!27][埋 葬]に お い て は, 時 間 的 欠 落 の説 明 が 十 分 で は な い 。 葬 儀 一 式 が 終 了 し,ア ル ジ ェ に戻 るバ ス に乗 る前 の長 い 時 間, 主 人公 は マ ラ ン ゴで何 を して い た の で あ ろ うか 。 ま た,[1202][マ リ ・カ ル ドナ 再 会]で ・ 主 人 公 は彼 女 に母 親 が い つ 死 ん だ の か と 聞 か れ て,「 昨 日」 と答 え るが,ム ル ソ ー夫 人 の 死 は水 曜 で あ っ た ろ う か ら,正 し くは 「四 日前 」 と返 答 せ ね ば な ら な い と こ ろで あ る 。 さ ら に[2317][セ

レ ス ト.マ リ証 言]で,検 事 は 主 人 公 とマ リ との 関 係 が,母 親 の 死 の 翌 日に始 ま っ た と述 べ る が ・ 被 告 も弁 護 士 も反 論 し ない の は何 故 か 。 こ う した一 連 の 指 摘 は,私 見 で は,ア ンセ ル の そ れ が 最 初 の もの で あ る よ うに 思 わ れ る。

3)物 語 手 法 。

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物 語 手 法 と は,言 表 行 為(エ ノ ン シ ア シ オ ン)の 一 つ の 形 で あ り,物 語 事 実 を文 字 で表 現 す る そ の す べ て の仕 方 を 意 味 す る 。 い ま,『 異 邦 人 』 の 語 りに注 目す れ ば ,こ の物 語 に は四種類 の語 り方 が あ る こ とが わ か る。 この作 品 は,次 な る四 つ の 時 間 を,そ れ ぞ れ 手 法 の 異 な る別 々 の 語 り 口で 描 い て い る と考 え て よい 。 す な わ ち,ア ル ジ ェ 下 町 の しが な い サ ラ リー マ ンで あ る主 人 公 の 母 親 の死 に始 まる 三 週 間 の 内 の7日 を 日記 記 述 風 に,彼 が 殺 人 を犯 す3度 目の 日曜 日 を ドキ ュ メ

ン タ リ ー記 述 風 に,予 審 か ら判 決 を経 た処 刑 前 夜 ま で の 約 一 年 間 を 回想 記 述 風 に

,そ して 死 刑 判 決 確 定 後 の 数 日を再 び 日記 記 述 風 に 回 帰 して 記 述 して い る 。 ア ンセ ル に よれ ば ,『異邦 人』 は"日 記 に仮 装 さ れ た 回顧 言輩"で あ り,"ム ル ソー に よ っ て 見 直 さ れ校 正 され た 事 件 の 過 程"で あ り,

"ム ル ソ ーは法廷 が意 味重 要 な瞬間 とみ なす時 間か ら自分 の物語 を極 め て正確 に始 めて いる2)"

の で あ る。 した が っ て 読 者 は,"素 直 に 受 け とる"か ,あ るい は"辛 抱 強 く解 読 し判読 す る"か しな け れ ば な らな い 。

数 々 の 問題 点 は,な に よ り も まず 行 為 者 ム ル ソー に優 先 す る話 者 ム ル ソ ー の 内 面 に潜 んで い る と考 え な け れ ば な ら な い。 我 々 は常 に話 者 主 人 公 と正 対 す る姿 勢 を保 持 せ ね ば な ら な い 。先 に述 べ た 通 り,『異 邦 人 』 の 全 知 全 能 な る 話 者 は,常 に"恣 意 的"で あ り,そ の語 りは絶 えず"偽 っ て 客 観 性 を"装 っ て い る。 作 者 カ ミュ と話 者 ム ル ソ ー と行 為 者 ム ル ソ ー は ,絶 妙 の三位一体 を成

して,「 異 邦 人 』 神 殿 の 中核 に あ る。

4)物 語 時 点 。

異 邦 人 』 の物 語 時 点 は い わ ば 永 遠 の 謎 で あ る。 そ れ は特 定 で きな い し,特 定 す る こ とに と り わ け 意 味 が あ るわ け で は な い 。 話 者 主 人 公 で あ る ム ル ソ ー が す べ て を取 り仕 切 る作 品 世 界 に あ っ て,そ れ が い つ 語 ら れ て い る か を特 定 す る作 業 は そ もそ もの 始 め か ら多 くの研 究 者 批 評 家 の 関 心

を誘 っ て き たが,物 語 全 体 を矛 盾 な く説 明 し うる仮 説 は 遂 に現 在 に い た っ て も出 現 して い な い

「一 元 説 」,「多 元 説 」,「連 続 多 元 説 」 と諸 説 あ るが,逆 に 言 え ば,た しか に魅 力 的 な 題 材 で は あ るが,こ の 問 題 は証 明 に値 しな い の か も しれ な い。 ア ンセ ル に お い て も

,こ の 問題 に 関 して は, 特 に 記録 す るべ き記 述 は な か っ た。

死 刑 判 決 を受 け た ム ル ソ ー が,仮 に再 審 請 求 を し上 首 尾 を得 た か ,あ るいは恩赦特 赦 の恩 恵 に 浴 した の で あ れ ば,そ もそ も彼 が 『異 邦 人』 を書 く必 要 は生 じなか っ た で あ ろ うか ら,こ の物 語 は 判 決 か らそ の執 行 ま で の 問 に書 か れ た の で な けれ ば な らな い 。 あ る 意 味 で そ れ 以 上 の 詮 索 は 無 用 の 問 題 な の で あ る 。

二)ム ル ソーの犯罪 の検 証

「明 白 な動 機 を持 た な い 主 人 公 」 の 犯 罪 は,物 語 の 中 で い か に して 合 理 化 され て い る の で あ ろ うか 。 最 初 は た だ の 傍 観 者 にす ぎ なか っ た ム ル ソー が,頼 ま れ た 「手 紙 の 代 筆 」 と レイ モ ンの た め の 「偽 証 」 をへ て,仲 間 の事 件 に 巻 き込 ま れ,ア ラブ人 を殺害 す るに至 るス トー リー は,ど の よ うな 手 順 で 自然 な 出 来 事 の ご と くに展 開 され る の か 。

第 一 部 第 六 章 「三 度 目 の 日曜 日,殺 人 」 は,第 一 部 第 一 章 「母 の死 」 の 通夜 と葬 儀 の 要 素 が 再 出 現 し,[1‑1]が[1‑6]と 密 接 に関 連 して い る こ とを 暗 示 して始 ま る3) 。 『幸福 な死』 の挫 折 と 『異 邦 人 』 の 成 功 の 秘 密 は,実 に この 一 点,主 人 公 の 殺 人 を招 来 し,主 人 公 の死 を正 当化 す る 第 三 の 死 の 実 現 にあ っ た の だ が,そ の議 論 は別 の 機 会 に譲 る と して,こ こで は まず,犯 罪 当 日

2)Ansel;pp.55‑57.

3)Une"teted'enterrement",unecigaretteau"goutamer" ,unjour"pleindesoleil":1'ombreduvendredi hallucinantetcauchemardesquepesedejasurledimancheencoreavenir .(92)

(7)

の様 子 を再 現 して み る こ と にす る。

レイ モ ン とア ラ ブ の対 立 は,そ の ま ま ヨ ー ロ ッパ 人対 ア ラ ブ人 の抗 争 構L図の 縮 図 で もあ る。 今 こ の様 に 述 べ る と,日 常 現 実 化 した す ざ ま じい 世 界 情 勢 の ま っ た だ 中 に乗 り出 して ゆ く よ う な錯 覚 に捉 え られ るが,こ れ は あ くま で も二 十 世 紀 前 半,先 の 第 二 次 世 界 大 戦 以 前 の お 話 で あ る。 た だ しこ の 問 題 は,拙 論 《ア ル ベ ー ル ・カ ミュ研 究 ノ ー ト(4)4)》 に お い て 一 度 論 じた こ とが あ る の で,重 複 を避 け なが ら,こ の た び の ア ンセ ル に よ る新 た な 指 摘 を追 加 し,検 討 を深 め る こ と

に した い 。

ム ル ソー は,結 局,4度 ア ラ ブ 人 と対 峙 し,4度 目 の敵 対 時 に殺 害 す る こ とに な る の だ が,そ の4回 の 遭 遇 は巧 み なス テ ッ プ を踏 む こ と に よっ て,物 語 を一 点 に 絞 り込 んで ゆ く。 我 々 読 者 は,

ム ル ソ ー とア ラ ブ 人 の 対 決 が,正 に必 然 で あ る か の よ う に導 か れ る こ と に な る 。 ア ンセ ル の 言 う この"規 則 正 しい 闘 争"は,3度 目 の 日曜 日の朝 に始 ま る。 マ ソ ン の別 荘 に 出 か け る た め,家 出 た 主 人公 は,タ バ コ屋 の 前 に た む ろ す る ア ラ ブ人 グ ル ー プ の 存 在 を レイ モ ン に知 ら さ れ る が, そ の時 か ら ム ル ソ ー とア ラ ブ の 抗 争 は 開 始 され る。 彼 らは主 人 公 か ら,物 語 にお け る彼 固有 の 態 度 で あ る"無 関 心"を 纂 奪 す る形 で登 場 す る。

海 岸 で の最 初 の抗 争 は,ア ラ ブ 人2対 フ ラ ンス 人3で 行 わ れ る が,こ の と きは レ イ モ ンが 仲 間 内 の 主 導 権 を とっ て い る 。 レ イ モ ンが ア ラ ブ を 見 つ け,そ の場 の 喧 嘩 の 差 配 をす る。 ム ル ソ ー が 傍観 す る 殴 り合 い で 負 け た ア ラブ が ナ イ フ を使 い,レ イ モ ン を切 る。3度 目の 遭 遇 で は,ム ル ソ ー と レイ モ ンが,同 時 に ア ラ ブ を 見 つ け る5)。 そ の 時 ム ル ソー は,「 我 々 の 二 人 の ア ラ ブ 人 」 とい う言 い方 をす るが,本 来 は 「レ イ モ ンの 二 人 の ア ラ ブ 人 」で あ るべ きで あ ろ う。ベ ル ク ー ル の 「男 」 の 流 儀 に固 執 す る ム ル ソ ー は レイ モ ン に指 図 し,拳 銃 を あ ず か る 。何 故 か こ の場 面 で は ム ル ソ ー が 指 図 す る 立 場 に変 わ る6)。 そ して,ア ラ ブ の退 却 後 も,拳 銃 は ム ル ソ ーが 持 ち 続 け て い る 。 あ た か も,拳 銃 と と もに ム ル ソ ー は レイ モ ン の遺 恨 も引 き継 ぐか の ご と くに な る 。 こ の 時sレ イ モ ン と ム ル ソ ー が 決 定 的 に入 れ 替 わ っ た か の よ う だ。

前 出拙 論 に お い て,我 々 は"ム ル ソー が 拳 銃 を手 に入 れ る瞬 間 を今 や 遅 しと待 ち か まえ て い た ひ とつ の 意 志 が 存 在 す る の で は な い か7)"と 推 論 し た が,こ の 「物 語 外 の 意 志 」,即 ち カ ミュ の 狙 い に関 して は ひ と まず お くが,我 々読 者 は ム ル ソ ー と ア ラ ブが 衝 突 を重 ね る う ち に,い つ の 間 に か 主 入 公 と彼 の仇 敵 た る ア ラ ブ の 争 い とい う図 式 が 脳 裏 に す り込 まれ て ゆ くの で あ る。 読 者 は, ム ル ソ ー と ア ラ ブ 人 の争 い に,知 らぬ 間 に,慣 れ させ ら れ て ゆ く。 そ して4度 目 の そ れが 最 後 と

な る 出会 い を迎 え る訳 だ 。そ して,ア ン セ ル に よれ ば,そ の 時 殺 人 を犯 す の は紛 れ も な くム ル ソ0 そ の 人 な の で あ る8)。 で はSい っ た い何 故 ム ル ソー は,レ イ モ ンが 面 目 を保 つ こ とで,一 件 落 着

した か に思 わ れ た後 に,遠 い 泉 に戻 っ た の だ ろ うか 。 さ ら に,彼 は退 転 の 可 能 性 が 残 され た状 況 の 中 で,何 故 最 後 の 致 命 的 な一 歩 を踏 み 出 した の で あ ろ う か 。 不 可 解 な点 は まだ あ る。 殺 人 の 状 況 は故 意 に省 略 され て お り,法 廷 で 再 現 さ れ る こ と も な い 。 報 告 事 項 の 選 択 ・決 定 は話 者 の専 管 事 項 だ が,こ の偏 向 は何 を 意 味 す る の だ ろ うか 。 ア ン セ ル の 指 摘 通 り,"も は や 自分 が 何 を書 い て い るか 知 ら ない ふ りを装 うか の よ う に,ム ル ソー は我 々 に 自分 が 何 を してい る の か,も は や知

らな い が ご と き印象 を与 え よ う と して い る9)"の で あ ろ うか 。

4)『 異 邦 人 』 少 考(創 価 大 学 一 般 教 育 部 論 集 第10号,1986.2)

5)La,nousavonstrouvenosdeuxarabes.[1‑6‑17]

6)...ilyaeuunepassationdepouvoir,untransfertd'autoriteetderespontabiliteentreRaymondet Meursault...(96)

7)論 集,p.29.

8)RaymondnetuepasparMeursaultinterpose;c'estMeursaultquituesouslemasquedeRaymond.(97)

9)ア ン セ ル.(99)

(8)

三)「 殺人」 動機 の解 明。

ム ル ソ ー の 殺 人 動 機 の テ キ ス ト に 準 拠 した 説 明 は ,従 来 ほ とん ど行 わ れ て い な い 。 まず,マ ソ ン の 海 の 家 の 階 段 の 前 で,何 故 ム ル ソ ー は 真 昼 の 海 岸 を 歩 い て 遠 い 泉 に ま た 行 く こ と を 選 ん だ の か 。 ア ン セ ル に よ れ ば,そ れ は 「 主 人 公 の 価 値 基 準 」 の 結 果 で あ る 。 ム ル ソ ー に は,二 つ の 理 由 が あ っ た 。 「地 形 的 理 由 」,主 人 公 に は 「monter」 よ り 「descendre」 を 好 む 性 向 が あ る 。 「 哲 学 的 理 由 」,主 人 公 は 「1'effort」を 嫌 い,「1'elevation」 の 拒 否 を 選 択 す る 。 か く て ム ル ソ ー は,あ た か も彼 を押 し と ど め よ う と す る か の よ う な 太 陽 に 抗 い な が ら ,海 岸 を 歩 き始 め る の で あ るlo)。

次 に,海 辺 の 泉 の ほ と りで,何 故 ム ル ソ ー は ア ラ ブ 人 を殺 害 し た の か 。 こ の 日 曜 日 の 最 初 の 出 会 い の 時 に 暗 示 さ れ て い た よ う に,三 度 目 の 遭 遇 時 に は ,彼 らが 主 人 公 の 固 有 の態 度 で あ る 「無 関 心 」 を 横 取 り し て い た こ と が 伏 線 と し て あ り,最 終 場 面 で は,主 人 公 は 彼 の 泉 と 日 陰 を取 ら れ た こ と で,遂 に 逆 上 す る に い た る 。 「 清 潔 」 好 き の 主 人 公 は ,「 不 潔 」 な 作 業 服 姿 の ア ラ ブ人 を毛 嫌 い し て も い た は ず だ 。 そ れ ゆ え,"ム ル ソ ー は,彼 の 日 陰 と ア イ デ ン テ ィ テ ィ を 奪 わ れ た が ゆ え に,ア ラ ブ 人 を殺 害 し た11)"の で あ る 。

さ て,以 上 の ア ン セ ル の 説 明 が 十 分 な 説 得 力 を 持 つ か と い え ば ,か な ら ず し も そ う で は な い 。 ム ル ソ0の 価 値 基 準 の 「水 平 性 」 と 「垂 直 性 」 を 捉 え た だ け で は

,真 の 殺 意 を 解 明 す る こ と に は な ら な い だ ろ う 。 他 者 が 占 め る 場 所 を 自 分 の も の に す る た め に い つ も そ の 他 者 を 殺 害 す る 必 要 は な い か ら だ 。 ア ン セ ル 説 の 唯 一 の 意 義 は ,ロ ベ ー ル ・シ ャ ン ピニ の ご と く,テ キ ス トにの み根 拠 を お い て,物 語 世 界 を 説 明 し よ う と い う 姿 勢 が 近 年 珍 し い も の に 思 わ れ る こ と に で も あ ろ う か

。 殺 人 の 場 面 で は,絢 燗 た る 装 飾 文 体 の 連 弾 の 中 で ,そ れ まで 尊 重 され て き た 「ベ ル ク ー ル の男 達 の 倫 理 」 が な い が し ろ に さ れ,一 人 の 男 の 死 が ほ と ん ど無 視 さ れ る 。 事 実,"拳 銃 な く し て は 太 陽 は 何 も の で も な い12)"の だ か ら 。

四)物 語 の不 自然 さとカ ミュの 「盲点 」

異 邦 人 』 の 物 語 の不 自然 さ は,い ろ い ろ な角 度 か ら観 察 さ れ る。 例 え ば ,物 語 の発 端 をなす レイ モ ン と ア ラ ブ女 を巡 る ム ル ソ ー の 手 紙 と偽 証 は,「 真 実 の殉教 者」 とい う作者 が主 人公 に与 え た名 称 を裏 切 る最 た る もの だ ろ う。 ム ル ソ ー が 「真 実 の 殉 教 者 」 を 自称 で き る の は,第 二 部 に お い て の み な の で あ る。 ア ンセ ル は,第 一 部 に お け る ム ル ソ ー の 虚 偽 報 告 の証 拠 と して

,レ イ モ ン と ア ラ ブ(情 婦 とそ の 兄)を 巡 る経 緯 をあ げ,主 人公 が 自分 を無罪 に導 く語 りを駆使 している と指 摘 す る13)。あ る い は,す で に周 知 の 「滑 稽 な裁 判 」 と 「不 条 理 な判 決」 を巡 る問 題 が あ る

ア ル ジ ェ リ ア に お い て 良 き フ ラ ンス 人 が 貧 しい ア ラ ブ人 を助 け る構 図 しか 頭 に な か っ た植 民 地 育 ち の作 家 は,自 身 そ れ を彼 な りに実 践 して きた 自負 もあ っ た ろ う。 しか し現 実 には,植 民 地問 題 と人 種 差 別 問題 に直 面 す る ア ル ジ ェ リ アの フ ラ ンス 人 の 立 場 を,そ れ と知 らず,作 家 は具現 す る こ とに な っ た 。 この 問 題 は,カ ミュ の死 の 直 後 か ら,声 高 に語 られ る よ うに な り,『異 邦人』

解 釈 の 第3の 波 を形 成 す る に 至 っ た 。 モ ー リス ・ブ ラ ンシ ョを先 頭 とす る 「文 学 的 解 釈 」 と ジ ャ ン=ポ ー ル ・サ ル トル に始 ま る 「哲 学 的解 釈 」に次 ぐ,「社 会 学 的解 釈 」の登 場 で あ る 。我 々 の 『

10)...derriereladecisionfatale(retournerverslaplage)sepressenttouteslesvaleursduperso

nnage...

(103)

11)…Meursault・t・e1'Arab・par・equece1・i‑ciavaitv・les。nombre,$S。 磁 湘6

.(103)

12)(lesoledneseraitriensanslerevolver) ...(109)

13)Meursaultment.(76}

(9)

邦 人』 研 究 通 史 に お い て もそ の代 表例 は す で に収 録 済 み で あ る14)。

ア ンセ ル は,こ の 問 題 を い っ そ う明 確 に取 り上 げ て い る 。"小 説 は カ ミュ の 目論 見 や 意 図 に 一 致 して い な い 。 文 学 的労 作 は作 家 の照 準 を狂 わ せ た 。作 品 は そ の 創 造 者 の手 をす り抜 け る15>"こ

と に な っ た の だ 。 で は,何 故,作 品 は作 者 を裏 切 っ た の か 。 そ れ は また,「 異 邦 人』 の 裁 判 が 低 質 な パ ロデ ィ に堕 す る理 由 で も あ る 。"『異 邦 人 』 は く 影 の な い 〉,明 快 な作 品 とは な りえ ない 。 なぜ な ら,無 実 に して 有 罪 な,犠 牲 者 に して 死 刑 執 行 人 た る,不 条 理 の 主 人 公 が,ア ル ジ ェ リア 生 まれ の フ ラ ンス 人 作 家 ア ル ベ ー ル ・カ ミュ の矛 盾 す る植 民 地 的価 値 観 を体 現 して い る か らで あ る 。16)"「異 邦 人 』 にお け る 登 場 人 物 と して の非 支 配 者 民 族 の 扱 い が,議 論 の余 地 な く,作 家 の 無 意 識 そ の も の の 実 態 を浮 か び上 が らせ る 。 こ の 事 情 は 『ペ ス ト』 に お い て も同様 で あ り,ア ンセ ル の指 摘 す る ご と く,"植 民 地 問 題 は カ ミ ュの 思 想 と作 品 にお け る 盲 点 を形 成 して い る"の で あ り,

"[カ ミ

ュ]は,『 異 邦 人』 の 太 陽 の 悲 劇 が,《 世 界》 や 運 命 と神 々 の古 代 宇 宙 の 中 にで は な く,

「歴 史 」 とそ の 暴 力 に よ っ て し る さ れ た現 実 の 人 間 の 一 時 的 な 世 界 の 中 に,そ の根 を 下 ろ して い る こ と を見 る こ とが 出 来 な か っ た し,見 る こ と も望 み も しな か っ た17)"の で あ る 。

結 論 に代 え て。

優 れ た 文 学 作 品 は,時 代 と と も に 生 き る 。 歴 史 の 荒 波 に も ま れ て も,輝 き を 失 わ ず 存 在 し 続 け, そ し て 生 き残 る 。 二 十 世 紀 の 古 典 的 作 品 と称 さ れ る 『 異 邦 人 』 で は あ っ て も,こ れ が 真 に そ の 様 な 作 品 た り う る か ど う か,結 論 を 下 す の は ま だ 早 す ぎ る だ ろ う。 イ ザ ベ ル ・ア ン セ ル が,最 後 に ア ル ベ ー ル ・カ ミュ に 与 え た 尊 称 は,そ の 解 釈 に よ っ て は 評 価 が 大 き く分 か れ る と こ ろ の"偉 大 な る神 話 創 造 者18)"で あ っ た 。

(2001.10.21)

14)創 価 大 学 一 般 教 育 部 論 集 第20号(1996):

HenriKREA;≪LeMalentendualgerien≫(1961)

r PierreNORA;≪Pourunautreexplicationde"L'Etranger"≫(1961)

ReneeQUINN;≪LethemeracialBansL'Etranger≫(1969) ConorCruiseO'BRIEN;(Camus)(1970)

15)ア ン セ ル;p.80.

16)Ibid.,pp.82‑83.

17)Ibid.,p.89.

18)cegrandcreateurdemythes(lbid.,p.114}

参照

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