保健学研究
肺炎 を繰 り返す放射線肺 障害患者 に対 す る 免疫栄養食投与 の 1 症例
田川 泰1・松川明 日美2・山田 直子3
保健学研究 19(2):75‑78,2007 二二 二二 喜.I
は じめに
栄養食 品のなかで も免疫機能 を増強 ・修飾す る免疫栄 養法 をめ ぐっては, これ まで に数多 くの臨床治験が集積 され,手術患者や外傷患者 にお ける免疫栄養食 の感染症 発 生 防止 効 果 が 明確 な 臨床 的 エ ビデ ンス とな って き た1,2).免 疫栄養食 に使 用 されてい るアルギニ ンやW‑3 脂肪酸 , グル タ ミンな どの,抗炎症作用や生体防御 ,創 傷治癒 に関わる免疫担当細胞‑ の作用機序 も分子生物学 的手段 を用 いて解 明 され, 日本 で も免疫栄養 の経 口補助 食 イ ンパ ク ト⑧を始 め と して,最近 ようや く免疫栄養食 が市販 され,術前 ・術後 における臨床 デー タが蓄積 され つつある35).現在 ,お こなわれてい る臨床治験 はイ ンパ ク ト⑳を始 め とす る免 疫 栄養食 を,術 前4‑ 7日間 に 750mL〜1500mLを大量短期投与 で行 うもので,術前 ・ 術後の大量短期投与 によ り,外科侵襲 に伴 う免疫機能低 下が改善 され,術後感染症 の合併症 の減少効果 を得 るこ
とがで きた と論 じている35).
著者 らは,昨年冬 に肺癌術後 の放射線肺 障害 によ り, 繰 り返す肺感染症で苦 しめ られている患者 に免疫力増強 による体力 回復 と肺感染症予防のため,免疫栄養食 イン パ ク ト⑧250mLを約3ケ月間長期少量投与す るこ とで, 患者の満足 を得 る有効 な結果 を得 た.そ こで,今 回は肺 感染症 を併発 したため,肺感染症時 に同様 の長期少量投 与 を試み,入院 を回避で き経済的削減効果 を得 たので経 過報告す る.
本論文 は患者 に論文投稿する旨を説明 し,同意 を得 た.
なお,外科関連学会協議会 において採択 された 「症例報 告 を含 む医学論文及 び学会研究発表 における患者 プライ バ シー保護 に関す る指針」 に従 った6).
症 例
患者 :58歳,男性 ,主訴 :左背部痛 ,家族歴 :特記す べ きことな し.
既往歴 :平成10年6月左肺痛 にて左上葉切 除術 +第1 肋骨合併切除術 +胸膜合併切除+縦隔 リンパ節郭清 を施 行 .病理 は腺癌であ り,胸壁浸潤 の可能性 も否定で きな
い ことよ り,平成10年8月 に50Gyの放射線照射 を左胸 壁上部 に施行 .平成11年3月肺転移 のため右上葉部分切 除 を施行 . この ころ よ り,胸部X線撮影 で放射線照射部 位 に一致 して左肺尖部 に浸潤影が認 め られた.その後 , 左肺尖部 の空洞化 とその周 囲の浸潤 陰影が出現 し,放射 線肺 障害 と診 断 した (図1).平成13年3月血尿 にて膜 月光腫蕩が発見 され,γUR‑Bt(経尿道的切除術)施行 .
この時期 は外来診療 にて胸部 Ⅹ線撮影 と採血 に よる血液 検査 を1ケ月1回の定期検査 としていた.平成15年1月,
8月, 9月 には発熱 な らびに呼吸困難,全 身倦怠 にて, 放射線肺障害 による肺炎 の診断の もと年 間3回入 院 ・退 院 を繰 り返 した. さらに,平成16年2月,平成17年3月 には血疾 を伴 うようにな り,同様 に肺炎 にて入 院.平成 17年4月患者か ら全 身倦 怠感 ,体重減少 を認め ることよ り栄養 に関す る相談 を受 け,味 の素 フアルマ社 の免疫栄 養食 イ ンパ ク ト⑧投与 を開始 ,1日 1パ ック (253Kcal/
図1.胸部 Ⅹ線写真
左上肺野の空洞化 とその周囲の浸潤陰影が認 め られる
1 長崎大学大学 院医歯薬学総合研 究科保健学専攻 2 独立行政法人国立病 院機構長崎医療 セ ンタ‑
3 北九州市立八幡病院
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症例報告
250mL)を約3ケ月間服用 させ るに,49.8kgか ら51.0kg と軽度体重増加 を認 め,釣 りや農 園作 業 を始 め るな ど 活気が出て きた.
現病歴 :体調良好 にて定期 的に外来受診 していた. こ の頃はイ ンパ ク ト⑧を服用 していなかった.平成18年12 月4日左背部痛 を主訴 として受診.微熱,全身倦怠 もあ
り,WBCの増加,CRP上昇.胸部 Ⅹ線撮影 (図2) に て,前 回繰 り返 していた放射線肺臓炎 を基盤 に した細菌 性肺炎 と考 え,抗菌剤 を投与 し,左背部痛 は改善 した.
WBCやCRPの改 善 は認 め られなか った (表1). そ こ で,平成18年12月25日よ りイ ンパ ク ト⑧服用 を開始 し, 抗菌剤 は中止 した.平成19年1月15日外来受診,胸部Ⅹ 線撮影,WBCで は改善 は認 め られ なか ったが,CRPの 低下 を認めた (表1).患者 は 「正 月には温泉 に行 き, 楽 しく過 ご していた」 ことを告 げ,体調良好で入院 を希
図 2.胸部Ⅹ線写真
左上肺野の空洞化 と中肺野に新たに出現 した浸潤陰影 (肺炎像)が 認め られる.
望せず,抗菌剤 の投与 を中止 した ままインパ ク ト⑧のみ の服用の方針で当 日の外来診療 を終 えた.現在 ,電話 に よる要経過観察 中である.
考 察
日本 における免疫栄養食の臨床 的有用性 に関する報告 では,上部消化管手術3),下部消化管手術 4),肝胆謄手 術5)など消化器疾患 と手術 における 「免疫 と栄養」 の感 染予 防 に関す る論文が多 い. さらには,免疫栄養 と経済 効果の関係 に関 しても興味 を持たれ始めている6).欧米 に おいては,Senkalら2)の論文によると,消化器癌術後の早 期 における免疫栄養食 (IMPACT⑧:SandozNutrition, Bern,Switzerlab)投与は術後感染症 ,創部合併症 を減 少 させ,経済的削減効果を認めたことより,彼 らは免疫栄 養食の臨床 的アウ トカムを高 く評価 し,これからは栄養指 標や免疫機能評価 よりも,現実の臨床 的アウ トカム評価が 重要であるとする指摘 をおこなっている.消化器手術 以外 を対象 とした免疫栄養食の論文では,Chuntrasaku17)は アルギニ ン, グル タ ミン,W‑3脂肪酸 の免疫機能 に対 する評価 を重症外傷患者 な らびに火傷患者で無作為 に検 討 し, これ らの免疫栄養食 は感染症 を抑 え,ICU滞在 日 数の短縮 な らびに人工呼吸器か らの離脱短縮 を成 し遂 げ たことを強調 している.
手術や外傷 と直接 関係 ない肺炎予防効果 に関 しては, 院内肺感染症の減少,人工呼吸器関連の肺炎防止 などの 論文が散見 され る8,9). しか し,今 回取 り上 げた放射線 肺障害 による肺炎予防 と免疫栄養食 の論文 は見つけるこ
とがで きなかった.この放射線肺臓炎はT細胞の細胞性 免疫能 と深 く関与 してお り10),炎症性サ イ トカインの上 昇 を引 き起 こす非細菌性肺炎 を基盤 に肺炎 を換 り返 し, 時 には混合感染 を引 き起 こす とされてい る11・12).今 回の 患者 は痛患者であ り,放射線肺障害 による肺炎 (放射線 肺臓炎) を繰 り返す ことより,細胞性免疫機能の低下 を 考 え,免疫栄養食の有効 な適応症例 になるのではないか
とイ ンパ ク ト⑧を投与 した.
表1.体温 な らびに血液検査 データ
月 .日 12月4日 12月11日 12月18日 12月25日 1月15日
体温 37.1 37.7 37.2 36.6
WBC 15700 12100 10000 11700 14400
Stab 2 1 2
Seg 73 75 65.3
Ly 21 20 23.2
Mono 3 1 6.8
Eo
0
2 2.7Bas° 1 1
0
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症例報告
免疫栄養 の臨床 治験 は手術 またはICUにおける合併症 の予防な らび在室 日数の短縮効果の検討が ほ とん どであ り,免疫機能低下 の癌患者や高齢者感染症患者 の増加 に よる日常の外来診療 における検討 はな されていない.そ こで,著者 らは,免疫機能低下が予想 された肺癌術後 の 放射線肺障害 による肺炎予防効果のため,長期少量投与 を試 み,良好 なア ンケー ト結果 を得 た.そ こで,今 回は 抗菌剤 に抵抗性 を示す放射線肺 障害 による肺炎 の治療 に 免疫栄養食 を取 り入れ,入院 を回避 で きた貴重 な症例 を 経験 したので僕覧 した.抗菌剤 との併用効果 な らびに経 済的抑制効果の問題 はこれか らの医療課題 となるだろう.
謝 辞
御協力頂いた病院の関係者の皆様 に感謝する とともに, 論文作成 にお しみな くご助力頂 いている江上陽子 さんに 御礼 申 し上 げ ます.
引用文献
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症例 報告
A Cas eofAdmi ni s t r at i onofl mmunonut r i e nt si n Radi at i onPne umoni t i sPat i e ntWhoRe pe at sPne umo ni a
YutakaTAGAWAl,AkemiMATSUKAWA2,NaokoYAMADA3
1 DepartmentofNursing,GraduateSchoolofHealthSciences,NagasakiUniversity 2 NationalHospitalOrganization,NagasakiMedicalCenter
3 KitakyushuCityYahataHospital
Received18January2007 Accepted22March2007
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