1.はじめに
東洋ゴムのデータ偽装、旭化成の杭打ちデータ改ざん、三菱自動車の燃費デー タ改ざんやスズキの燃費データの不正計測、かんぽ生命の不適切販売、日産自 動車元社長の不正支出疑惑など、大手企業の不祥事が相次いでいる。
企業の不祥事が明らかになったとき、ステークホルダーや消費者、あるいは 大衆とどのようなコミュニケーションをとるべきなのかについては、クライシ ス・コミュニケーション研究で進められている。危機(
crisis
)は、不祥事や 組織的不正、事故、自然災害などによって、企業活動やステークホルダーにネ ガティブな影響を与える可能性をもつ予期せぬ出来事である(Coombs 2010
)。Ha and Riffe(2015)
の調査によると、クライシス・コミュニケーション研究の論文数は、1992-1996年の
24
本から、2007-2011年には334
本と大幅に増加 している。学術的にも関心が高まっている研究テーマである。クライシス・コ ミュニケーション研究では、「災害・疫病」に関する情報提供をテーマにした ものもあるが、本論文では、「企業不祥事」に焦点を合わせる。不祥事が企業内部で発覚したとき、企業は不祥事の情報公開に二の足を踏む ことは少なくないだろう。その理由には、「情報が集まっていない」、「情報の 正確さの裏付けに時間が欲しい」、「情報公開して消費者の反感を買いたくない」
といった、さまざまな企業側の不安が考えられる。しかし、クライシス・コミュ ニケーション研究では、「スティーリング・サンダー(stealing thunder)」と呼
情報の先行性と情報量の違いが 消費者の心理に与える影響
畠 山 仁 友
ばれる、メディアなどの第三者に先駆けて企業自らが危機についての情報を先 行して公開することの有効性が確認されている。
そこで本論文では、スティーリング・サンダーの有効性を定量的な調査によっ て検証している。既存研究と異なる点は、情報公開の先行性だけではなく、そ の際に発信される「情報量の違い」にも注目している点である。情報公開のス ピードと情報量には、トレードオフの関係が想定できるためである。つまり、
情報をスピード感を持って公開していくためには、情報量を犠牲にする必要が 現実にはあると考えられる。
情報公開のスピードと情報量に着目した理由は、企業は不祥事が起きたとき に、正確な情報をできるだけ詳細に語ることが必要なのかということに疑問を 持ったためである。情報量が少なくても、こまめに情報を公開していくことが 有効な可能性もある。危機状況下にある企業が、情報量を犠牲にしてスピード を優先させることが定量的な証拠に基づいて検証されれば、実務的に有用なイ ンプリケーションとなる。
2.先行研究
⑴危機における情報発信の先行性が与える影響
クライシス・コミュニケーションにおいては、誰が先に危機についての情報 を公開するのかという情報公開の先行性に関する研究がされている。企業がメ ディアなどの第三者よりも先行して情報を公開する「スティーリング・サンダー
(
stealing thunder
)」と呼ばれる戦略がそうである。一方で、企業が情報公開に及び腰になっている間に、メディアなどの第三者に危機についての情報を暴き 出されて、先に公開されてしまうことは「サンダー(thunder)」と呼ばれる。
スティーリング・サンダーの有効性については、理論的(
e.g. Arpan and Pompper
2003; Claeys 2017
)にも、定量的(e.g. Claeys and Cauberghe 2012; Arpam and
Roskos-Ewoldsen 2005; Claeys, Cauberghe, and Pandelaere 2016)にも、ある程
度確認がされている。
これらの先行研究をまとめて
Claeys(2017)
は、スティーリング・サンダーが 有効である理由を以下の6
つの観点から説明している。・メッセージの信憑性
企業のメッセージに対する信憑性(credibility)が上がる。これには受け手 があらかじめ持っている2つのバイアスが関係している(Arpan and Pompper
2003
)。1つは、危機的状況にある企業に所属する話し手が発する情報は、企 業の好意的な評判を守ろうとするものだろうというバイアスである。もう1つ は、不利益な情報を伝達する話し手の自発性は、ねじ曲げられたものだと大衆 が信じる傾向にあるというバイアスである。こうした2つのバイアスを前提に したとき、積極的かつ正直に情報を開示すると良い意味でバイアスが裏切られ、情報の信憑性が増す。
・深刻度
危機についての人びとが知覚する深刻度(
severity
)が下がる。これにも人 びとが持っているバイアスが関係している。それは、企業は危機が深刻であれ ば、情報を公開せず隠すだろうという事前の予測である。そのため人びとは、「企 業が自分から危機の情報を公開するぐらいだから、それほど深刻なものではな いのだろう」と感じる。・注目度
第三者が出す危機についての情報の注目度(attention)が下がる。人びとが マスメディアなど第三者の情報に注目するのは、企業が情報を隠して手に入り にくくするからである。情報を公開すれば「情報の希少性」が失われ、情報に 対する興味が薄まり、注目度も下がる。
・雰囲気の醸成
危機についての第一印象をコントロールできるため、雰囲気の醸成(
setting
the tone
)ができる。危機そのものは発生した時点ですでにネガティブな印象を与えてしまうが、自分たちの言葉でストーリーを語ることで、印象を和らげ ることもできる。
Claeys(2017)
は、トーク番組の司会者が不倫を暴露された時 に、自身のトーク番組でユーモアを交えてカミングアウトし、ネガティブなイ メージを最小限にした例を挙げており、これと同様に企業の場合でも雰囲気の 醸成に有効だと述べている。・消費者行動
企業に対する認知的な効果だけではなく、消費者行動にも良い影響を与え る。スティーリング・サンダーとサンダーで比較した場合、危機を起こした 企業であっても将来その企業の製品を買いたいと思う傾向は、スティーリン グ・サンダーを行なった場合の方が高かった(
Fennis and Stroebe 2014
)。また、Einwiller and Johar(2013)
では、スティーリング・サンダーが、ネガティブな情報を拡散するモチベーションを減少させるとしている。
・倫理
クライシス・コミュニケーションにおいて倫理(
ethics
)は、最も重要である。謝罪をした企業はより好意的な態度を持たれるし、人びとはそういった企業を より倫理的だと評価する傾向にある。
以上の
Claeys(2017)
の整理に基づくと、消費者の最終的な行動にも影響を与えるものの、スティーリング・サンダーは人びとの危機に対する認知的な側面 に効果が期待できそうである。つまり、スティーリング・サンダーによって、
企業が危機についての情報を先行公開し、人びとがその情報に最初に接触する
ことで、企業にとって望ましい情報を解釈する枠組みを形成することができる と考えられる。
本論文では、スティーリング・サンダーが形成する危機についての情報を解 釈する枠組みのことを「フレーム(frame)」と呼ぶことにする。その構成要素は、
Claeys(2017)
に基づくと、「メッセージの信憑性」、「深刻度」、「注目度」の3
つを考えることができる。
⑵スティーリング・サンダーが有効になる条件の探索
スティーリング・サンダーは全般的な傾向として、効果的だとされる。しかし、
人びとは危機についての情報を判断するのに、先行性のみに注意を払っている わけではない。例えば、
Zhou and Shin(2017)
は「スティーリング・サンダーは 常に機能するのか?(Does stealing thunder always work?)」という論文で、文 化的な違いをベースに、スティーリング・サンダーが消費者心理に与える効果 の心理的変数による違い、採用されているメッセージ戦略の違いについて検証 している。もちろん、Zhou and Shin(2017)のような文化的な要因が作用するこ ともあるだろうが、より単純な要因を検証する必要があるのではないだろうか。それは、「情報量」の問題である。
危機についての情報公開において、先行性が重要な要因になるとすれば、仮 に企業は少ない情報しかなくても、先手を打つことが必要になるのだろうか。
企業が危機に陥ったときに、いつどのように情報を開示すべきかについては、
「すべてをすぐに話す(
tell it all, and tell it fast
)」という言葉がある(Arpan and
Pompper 2003
)。だが、情報のスピードと量を両立するのは難しく、トレードオフの関係にあると言えるだろう。
情報量という観点ではないが、例えば
Claeys and Cauberghe(2012)
は、2
(タ イミング:先手・後手)×2
(メッセージの種類:客観的情報のみ・客観的情 報+謝罪)で実験をしている。その結果、従属変数が「組織の信憑性(organizationcredibility)
」のとき、タイミングとメッセージの種類に交互作用が見られた。情報公開が先手の場合には、メッセージの種類によって差はなかった。しかし 後手の場合、客観的情報のみのメッセージの方が謝罪を加えたメッセージより も有意に信憑性を下げる効果が見られた。
Claeys and Cauberghe(2012)
の結果に基づけば、スティーリング・サンダーという情報の先行性の優位さは、情報量に影響を受けないと推測できる。そこ で本論文では、情報の先行性と情報量の関係が、消費者が危機を知覚するフレー ムにどのような影響を与えるのかを検証するために、以下の仮説を立てた。
仮説
1a
:危機情報の公開において、情報量の多少にかかわらず、企業が第三 者よりも先行公開した方が、消費者が知覚する情報の信憑性が増す仮説
1b
:危機情報の公開において、情報量の多少にかかわらず、企業が第三 者よりも先行公開した方が、消費者が知覚する危機の深刻度が下がる仮説
1c
:危機情報の公開において、情報量の多少にかかわらず、企業が第三 者よりも先行公開した方が、消費者の情報への注目度が下がるまた
Claeys and Cauberghe(2012)
に基づけば、情報公開が後手に回った場合には、情報量が求められると推測できる。しかしその場合、消費者のフレー ムは第三者によって公開された情報によって形成されていると考えられる。そ こで、従属変数はフレームに関するものではなく、クライシス・コミュニケー ションの結果として測定されることが多い「信頼性」「評判」(e.g. Coombs and
Holladay 2002
;畠山・大瀬良・武谷2017
;畠山2018
)についての仮設を立てた。仮説
2:
危機情報が第三者に先行公開されてしまった場合、企業が発信する 情報の量は少ないよりも多い方が、企業の信頼性、評判が高い加えて、企業の評判にはクチコミ(word of mouth)が関係することから、
クチコミについても検証すべきだと考えた(
e.g. Coombs 2007; Coombs and Holladay 2008; Coombs and Holladay 2009)
。クチコミには一般的に好意的なク チコミと批判的なクチコミが存在する。情報量の多少が信頼性や評判に影響を 与えるのであれば、クチコミにも同様の影響を与えると考え、以下の仮説を立 てた。仮説
3a
:危機情報が第三者に先行公開されてしまった場合、企業が発信する 情報の量が少ないよりも多い方が、消費者のポジティブなクチコミ を誘発する傾向にある仮説3b:危機情報が第三者に先行公開されてしまった場合、企業が発信する 情報の量が少ないよりも多い方が、消費者のネガティブなクチコミ を防ぐ傾向にある
3.調査概要と分析
仮説
1a・b・c
を検証すべく実験1を、さらに仮説2・3a・3b
を検証すべく実験
2
を行い、分析を行なった。⑴実験1の調査概要
①調査設計と手続き
具体的な現実の事例を用いると、危機の種類によって責任の重さや影響の範 囲が異なったり、事前のブランドイメージや被験者がもっている事前のブラン
ドへの態度が異なってしまうため単純には比較ができない。そこで、仮説
1a
・b
・c
を検証するため、仮想シナリオを用いた実験を実施した。仮想シナリオを用 いることで、危機の種類や危機対応の方法をコントロールし、クライシス・コ ミュニケーションの効果を比較することが可能になると考えたためである。仮想シナリオとして被験者には、架空の企業である洋皇ダイニングが長時間 労働やサービス残業について、労働基準監督署から是正勧告を受けたという不 祥事についてのストーリーを提示した。調査当時、働き方改革についての議論 が活発になされていたこともあって、一般消費者にとって、最も身近でリアリ ティが高いと考えた。
本論文では、情報公開の先行性という「速さ」の効果を検証することを目的 としている。そこで、調査ではソーシャルメディアである
実験は、インターネット調査を通じて
2019
年6
月に行った。被験者は、投稿・リツイートなども利用している」「アカウントがあり、閲覧・フォロー を中心に利用している」と答えた、Twitter利用者
300
名(Mage=37.53、SD
age=
12.44
)から回答を得た。なお、男女比は均等割り付けである。接触する情報として「Twitter情報量少」「Twitter情報量多」「新聞のネット記事」の
3
パター ンを用意し、被験者はランダムに分けられた。計3
群(各100
名)の被験者間 計画である。140
字という文字制限があるため、文字数に加えツイート数によっても情報量の多少をコントロールした。
上から下に情報が新しくなるようにしている。また、企業の公式アカウントで あることから、フリーソフトを用いてロゴをオリジナルで作成した。
情報量が少ない場合については、
2
ツイートとした。具体的には、「先日、労使協定で定めた
70
時間の上限を超えて当社従業員を残業させたことなどの 理由から、労働基準監督署から是正勧告を受けたことをお知らせします。1
部 店舗の店長については、140時間のサービス残業があったと指摘されておりま す。当社は、この勧告を真摯に受け止めております。」「現在、社内調査を行っ ております。詳細につきましては正確を期すため、情報を精査してから、みな さまにあらためてご報告いたします。」と、客観的な事実と調査中である旨を 発信する内容とした。一方で、情報量が多い場合については、畠山・大瀬良・武谷(
2017
)で有効だっ た「改善策」と、Coombs(2017)
の「謝罪」を組み合わせて、6
ツイートとした。「改 善策」として残業を減らす仕組みを整え、具体的にノー残業デーの設定や50
時間以下の残業を目標にすること、および「謝罪」として、顧客・社員・スタッ フとその家族に対するお詫びのメッセージを、労働基準監督署からの是正勧告 を受けた事実に加えて提示した(図1)。また新聞のネット記事に関しては、当該企業が労働基準監督署から是正勧告 を受けていること、その内容、および問い合わせに対して「労基署から是正勧 告を受けたことは事実だが、現在調査中のため、回答は差し控えたい」という 回答があったことを内容とした(図
2)
。この記事に関しては、新聞社社員1
名に表現等の確認を行ない、リアリティを高める手続きをとった。図
1 企業公式アカウントの 6
ツイート(情報量が多いパターン)図
2 新聞のネット記事
②操作チェック
「シナリオの現実性」、「発信者の信憑性」、「責任の重さ」についての質問を 被験者に回答してもらい、その結果を用いて操作チェックをした。架空のシナ リオおよび架空の企業であるため、シナリオのストーリが現実にも起こりうる か、また架空の企業であっても発信者の信憑性が新聞というメディアと差がな いかを確認しておくことは重要だと考えた。また責任の重さの違いによって、
被験者のフレームにバイアスが生じないようにすることも重要だと考えた。
シナリオの現実性については、
Wang, Mattila, and Bartlett (2009)
を参考に「こ のようなトラブルは現実にも起こりうることだ」という1項目についてリッ カート尺度の7件法で尋ねたii。シナリオの現実性については、M
=5.35(SD
=
1.55)
と高い値が得られた。その一方で、グループ間(M
情少=5.09
,M
情多=5.40, M
新聞=5.56)において、 10%水準で統計的に有意な差が生じた(F(2,297)
=
2.40
,p<.10
)。ただし、情報量が少ない場合であっても平均が5
を超えることから十分にシナリオの現実性は担保できていると考えた。
発信者の信憑性は、Mackenzie and Lutz(1989)の「広告主の信憑性」を参考 に
3
項目についてSD
尺度の7
件法、責任の重さはWhelan and Dawar(2016)
の「
blame
」に基づいた3
項目についてリッカート尺度の7
件法で尋ねた。それぞれ尺度の信頼性を確認するため、
Cronbach's αを算出した。発信者の信憑性(α
=
0.91
)と責任の重さ(α=0.81
)と高かったため、尺度については、十分に 信頼性が確保されていると判断した。分析の結果、発信者の信憑性(F(2,297)=
1.03
,p
=.36
,n.s.
)と責任の重さ(F(2,297)
=0.24
,p
=.79
,n.s.
)につ いては、グループ間で統計的に有意な差は見られなかった。以上より、被験者 の操作は首尾よくできていると判断した。③測定尺度
測定尺度については、操作チェックに使用した尺度も含めて、表
1
の通りである。メッセージの信憑性は、
Mackenzie and Lutz(1989)
の「広告の信憑性(adcredibility
)」の尺度を参考に2
項目を用いた。深刻度と注目度についてはリッカート尺度の7件法、メッセージの信憑性は
SD
尺度の7件法を用いた。深刻 度については、Arpan and Pompper(2003)の「危機の深刻度(severity)」を測 定する3
項目について危機を「不祥事」に変更して用いた。注目度について は、Eisend(2008)
の「価値知覚(value perception)」の3
項目を用いた。これは、表
1 実験1の質問項目
質問項目 平均 標準偏差 α
シナリオの現実性:このような不祥事は他にも起こりそうだ
5.35 1.55
発信者の信憑性
.91
この情報の発信者は【1】誠実ではない
/【7】誠実である 4.27 1.16
この情報の発信者は【1】信頼できない/【7】信頼できる 4.15 1.13
この情報の発信者は【1】正直ではない/【7】正直である 4.28 1.18
責任の重さ
.81
企業に今回の不祥事の責任がある
5.02 1.39
企業は今回の不祥事を説明する義務がある5.02 1.37
今回の不祥事は企業の過失である4.93 1.31
メッセージの信憑性
.79
この情報は【1】信用できない
/【7】信用できる 4.26 1.20
この情報は【1】偏っている/【7】偏っていない 4.20 1.16
深刻度
.94
この不祥事は重大である
4.91 1.47
この不祥事はひどい
4.92 1.50
この不祥事は深刻である
4.95 1.47
注目度
.78
この情報には魅かれる
3.61 1.43
さらに情報を手に入れたい
3.70 1.57
この情報には価値がある
4.28 1.41
スティーリング・サンダーの注目度を下げる効果が欠乏効果(scarcity effect)
という概念からも説明されるためである。情報が欠乏された状態では、人はさ らなる情報を集めようとするが、人は情報が十分に満たされた状態になったと 感じれば、情報の価値を低く見積もって興味関心を失い注目しなくなる。つま り、情報の価値が低くなったと知覚することで注目度が下がる。
それぞれ尺度の信頼性を確認するため、Cronbach's αを算出した。メッセー ジの信憑性(α=
0.79)
、深刻度(α=0.94)
、注目度(α=0.78)といずれも 0.75
を超えることから、尺度については十分な信頼性があると判断した。⑵実験1の分析結果と考察
①分析結果
仮説1a・b・cを検証すべく、一元配置分散分析を行なった。その結果、
メ ッ セ ー ジ の 信 憑 性(
F(2,297)
=4.40
,p<.05
)、 深 刻 度(F(2,297)
=3.11
,p<.05
)、注目度(F(2,297)
=3.67
,p<.05
)のすべてで統計的に有意な差が確 認された。そこでBonferroni
法による多重比較をそれぞれ行なった。メッセージの信憑性については、新聞のネット記事の方が、企業が発信する
M
新聞=4.48 vs. M
情少=4.16
,p<.10;vs. M
情多=4.06,p<.05)
。そのため、仮説1a
は棄却された。深刻度については、企業が
4.72 vs. M
新聞=5.20, p<.05)
。しかし、情報量が多い場合と新聞のネット記事には有意な差が見られなかった(
M
情多=4.86 vs. M
新聞=5.20
,p
=.28
,n.s.
)。以上から、仮説1b
は部分的に支持された。注目度については、企業が
M
新聞=4.13 vs. M
情少=
3.71
,p<.05
;vs. M
情多=3.74
,p<.10
)。そのため、仮説1c
は支持された。以上の結果は、表
2・図 3
にまとめている。表
2 一元配置分散分析の結果
情報量 少 情報量 多 新聞平均 標準偏差 平均 標準偏差 平均 標準偏差
F
値 多重比較 メッセージの信憑性4.16 1.05 4.06 1.11 4.48 1.02 4.40
** 情少*・多**<新聞深刻度
4.72 1.38 4.86 1.37 5.20 1.43 3.11
** 情少**<新聞注目度
3.71 1.17 3.74 1.26 4.13 1.22 3.67
** 情少**・多*<新聞**
p<.05
*p.<.10
図
3 一元配置分散分析の図
②考察
実験
1
では、スティーリング・サンダーの有効性を調査・検証した。独立変 数は、情報量の多少で、比較対象として新聞のネット記事に先行された情報を 提示した。従属変数は、消費者の情報を解釈する枠組みであるフレームに関す るもので、仮説1a
・b
・c
について、検証を行なった。メッセージの信憑性については仮説が棄却され、最も信憑性が高いのが新聞 のネット記事であった。発信者の信憑性はコントロールされていたため、企業 が情報を発信したメディアが
総務省のソーシャルメディアの活用状況についての調査iiiでは、ソーシャルメ ディアの活用目的として、「商品や催物の紹介・宣伝(
68.7
%)」「定期的な情 報の提供(53.6
%)」「会社案内・人材募集(40.6
%)」「マーケティング(17.3
%)」 が上位であった。プロモーション活動が多く、消費者には「企業の都合の良い 情報を流す媒体」としての印象がありそうである。深刻度および注目度については、
新聞のネット記事よりも有意に低かった。つまり、スティーリング・サンダー の効果として、深刻度と注目度を下げる影響が検証されたと言えるだろう。多 い情報量と比較しても差が無いため、危機がそれほど深刻ではないことを印象 付けるためには、少ない情報で構わないから、第三者に先行されないようにス ピードを重視して、情報を発信すべきだと言える。
⑶実験
2
の調査概要①調査設計と手続き
つづいて、仮説
2
と仮説3a・b
を検証するために、実験2
を行なった。洋皇 ダイニングの長時間労働やサービス残業という架空のシナリオ、100
名をインターネット調査で集めた。Twitterの利用に関して質問をし、「アカウントがあり、閲覧・フォローおよび投稿・リツイートなども利用してい る」「アカウントがあり、閲覧・フォローを中心に利用している」と答えた、
新たに集めた
100
名の被験者には、新聞のネット記事を閲覧し、実験1
と同 様にメッセージの信憑性や深刻度といった消費者フレームに関する質問に回答 した後、実験1で用いた情報量が多いTwitter(図 1
参照)を閲覧し、信頼と 評判に関する質問に回答してもらった。分析にはこの
100
名に、実験1
で「新聞のネット記事」に割り当てられた被 験者100
名を加えた。実験1
のこの被験者は、新聞のネット記事を閲覧し、信 憑性や深刻度といった消費者フレームに関する質問に回答した後、情報量の少ない
めである。
以 上 を ま と め る と 実 験
2
の 被 験 者 は、「 新 聞 →→
2
群 に 分 け ら れ、 実 験 は 各100
名(M
age=37.19
、SD
age=11.80)の被験者間計画である
iv。なお、男女比は均等割り付けである。②操作チェック
実験1と同様の質問項目と尺度を用いて、被験者に「シナリオの現実性」、「責 任の重さ」についての質問に回答してもらい、その結果を用いて操作チェック をした。シナリオの現実性は
M
=5.35(SD
=1.57)と高く、グループ間で統
計的に有意な差も見られなかった(t(198)
=0.45
,p
=.65
,n.s.
)。責任の重さ(
t(198)
=0.76
,p
=.45
,n.s.
)についても、グループ間で統計的に有意な差は 見られなかった。また、後手に回った場合の
1
で検証した「メッセージの信憑性」「深刻度」「注目度」についても操作チェックを行なった。メッセージの信憑性(t(198)=
0.66,p
=
0.51, n.s.)
、深刻度(t(198)=0.41, p
=0.82, n.s.)
、注目度(t(198)=0.42,
p
=0.85
,n.s.
)と、同じ新聞のネット記事を読んだ結果に統計的に有意な差 は見られなかった。尺度の信頼性は、責任の重さ(α=0.81
)、深刻度(α=0.95)
、注目度(α=0.80)は高かった。ただし、
メッセージの信憑性 (α=0.51)
については、一般的な基準として使われる
0.7
を下回っていた。しかしながら、すべての尺度でグループ間の有意差は見られなかったため、被験者の操作は首 尾よくできていると判断した。
③測定尺度
測定尺度については、操作チェックに使用した尺度も含めて、表
3
の通りで ある。信頼性(trustworthiness
)は中谷内・工藤・尾崎(2014
)を参考に3
項 目を、評判(reputation)はPonzi, Fombrun, and Gardberg (2011)
と松本・五十 嵐・広瀬(2011
)を参考に、畠山・大瀬良・武谷(2017
)で開発した3
項目 をそれぞれ用いた。クチコミ意向については、Goyette, Ricard, Bergeron and Marticotte(2010)
のeWOM
意向を参考に、TwitterやSNS
に 限定して、ポジティブなクチコミで2
項目、ネガティブなクチコミで2
項目を 作成した。いずれもリッカート尺度の7
件法を用いている。つづいて、それぞれ尺度の信頼性を確認するため、
Cronbach's αを算出した。
信頼性(α=
0.86
)、評判(α=0.82
)、ポジティブなクチコミ(α=0.85
)、 ネガティブなクチコミ(α=0.84)といずれも 0.8
を超えることから、尺度に ついては十分な信頼性があると判断した。⑷実験
2
の分析結果と考察①分析結果
仮説
2
を検証すべく、t
検定を行なった。その結果、信頼性(t(198)
=0.08
,p
=.93,n.s.)
、評判(t(198)=0.98,p
=.33,n.s.)と、いずれも統計的に有
表
3 実験 2
の質問項目質問項目 平均 標準偏差 α
シナリオの現実性:このような不祥事は他にも起こりそうだ
5.51 1.57
責任の重さ
.81
企業に今回の不祥事の責任がある
4.99 1.39
企業は今回の不祥事を説明する義務がある5.11 1.38
今回の不祥事は企業の過失である4.82 1.35
メッセージの信憑性
.51
この情報は【1】信用できない
/【7】信用できる 4.50 1.09
この情報は【1】偏っている/【7】偏っていない 4.38 1.11
深刻度
.95
この不祥事は重大である
5.17 1.40
この不祥事はひどい
5.28 1.37
この不祥事は深刻である
5.21 1.42
注目度
.80
この情報には魅かれる
3.80 1.40
さらに情報を手に入れたい
4.11 1.44
この情報には価値がある
4.59 1.32
信頼性
.86
この企業は信頼できる
3.33 1.24
この企業は頼りになる
3.27 1.34
この企業に任せておいて安心である
3.18 1.28
評判
.82
この企業に対して良い印象を抱いた
3.20 1.33
この企業は尊敬できる企業である3.24 1.22
この企業に対する評判は良くなると思う3.34 1.32
ポジティブなクチコミ
.85
SNS
でこの企業について発信するなら好意的な投稿をする
3.13 1.38
SNS
でこの企業の良い面を投稿する
3.06 1.40
ネガティブなクチコミ
.84
SNS
では主にこの企業の悪い所を投稿する
3.36 1.50
SNS
でこの企業に対する手厳しい意見を投稿する
3.41 1.52
意な差が見られなかった。そのため、仮説
2
は棄却された。仮説
3a
・b
も同様に、t
検定を行なった。その結果、ポジティブなクチコミ(
t(198)
=2.06
,p<.05
)、ネガティブなクチコミ(t(198)
=0.98
,p
=.33
,n.s.
)と、ポジティブなクチコミのみに統計的に有意な差が確認された。そのため、仮説
3a
は支持され、仮説3b
は棄却された。仮説
2
および3a・b
を検証した結果は、表4
にまとめている。②考察
実験
2
では、危機に関する情報が第三者に先行され、企業が後手にまわった 場合を想定して、情報量の多少で、クライシス・コミュニケーションの結果に 違いが出るのかを調査・検証した。独立変数は情報量の多少で、従属変数は信 頼性と評判、クチコミ意向で、仮説2
および仮説3a
・b
について検証を行なった。信頼性、評判、ネガティブなクチコミについては、情報量の多少で、統計的 に有意な差が見られなかった。不祥事で一度下がってしまった信頼性や評判は、
単発の情報を出したからといって、簡単に回復するものではないということだ ろう。また、ネガティブなクチコミについても情報量は関係ないようだが、情 報量が少なくても
M
=3.29
、情報量が多くてもM
=3.48
と7
件法で4
を下回っ ている。このことから、不祥事が起きて第三者に情報を先行公開されても、き ちんと何らかの情報を発信すれば、消費者はネガティブなクチコミを防ぐこと表
4 t
検定の結果情報量 少 情報量 多 平均 標準偏差 平均 標準偏差
t
値 信頼性3.25 1.15 3.26 1.12 0.08
評判3.18 1.14 3.33 1.07 0.98
ポジティブなクチコミ2.91 1.33 3.28 1.24 2.06
ネガティブなクチコミ3.29 1.44 3.48 1.36 0.98
**p<.05
**
ができそうである。
ポジティブなクチコミについては、情報量が多い方が発信される意向が有意 に高かった。ただし、
7
件法でM
=3.28
と絶対値が高くない。そのため、情 報量を多くすれば、必ずしもポジティブなクチコミを拡散することができると いうわけではなさそうである。4.まとめと今後の課題
本論文は、クライシス・コミュニケーションにおいて、情報の先行性と情報 量が、消費者が危機を知覚するフレームや、信頼や評判、クチコミにどのよう な影響を与えるのかを、定量的な調査と統計的な分析によって検証した研究で ある。実験1では、少ない情報であっても、第三者より先行して企業自らが危 機についての情報を発信する「スティーリング・サンダー」が、有効であるこ とが確認された。具体的には、消費者が知覚する危機の深刻度を下げ、情報に 注意を払う注目度も下げるという危機を知覚するフレームへの効果が見られ た。実験
2
では、第三者に先行されてしまい企業が後手にまわった場合を想定 して、情報量の多少が消費者の企業に対する信頼や評判、クチコミ意向にどの ような影響を与えるのかを検証した。その結果、ポジティブなクチコミのみに 情報量の多少によって差があることが確認された。しかし、絶対値が低いこと と、信頼性、評判、ネガティブなクチコミという3
変数には差が無かったため、情報公開が後手にまわってしまった場合、情報量の多少についての効果はほと んど無いと考えた方が良いかもしれない。
本論文のクライシス・コミュニケーション研究における貢献は、以下の2点 である。第
1
に、スティーリング・サンダーが有効な条件を探索し、情報量の 多少が関係せず、むしろ情報量が少ない方が危機に対する深刻度と注目度を下 げる効果があることを定量的に明らかにしたこと。第2
に、第三者に危機に ついての情報を公開されてしまい後手にまわると、情報量を多くしてもリカバリーすることが難しいことを明らかにしたこと。
ただし、本論文には以下の
3
点に課題がある。第1
に、架空企業のシナリオ 調査のため、現実の企業とは異なり「ブランド態度」などの変数が考慮されて いないこと。事前に企業やブランドに対して消費者が形成している態度は、現 実ではクライシス・コミュニケーションの結果に影響を与えると考えられる(e.g. Beldad, Laar, and Hegner 2017)。第
2
に、1つの企業不祥事にのみ焦点を合 わせた点である。不祥事の種類や責任の重さの違いによって、消費者の心理へ の影響が異なる可能性がある。第3
に、実験2
については新聞のネット記事から
験
2
は情報公開のタイムラグではなく、「接触順序」の実験と捉えることもで きる。ただしこの点は、「消費者がアクセスしやすい・頻繁にアクセスするメディ アで情報を発信する必要がある」という示唆を得られる可能性も示している。このような貢献と課題がある本論文だが、以上に基づけば、「情報量は少な くても良いので危機が起きた場合には第三者よりも先行して情報公開すること が有効である」という実務的な示唆が得られる。危機状況下にある企業は、す べての情報を正確に伝えるべきだと考えるかもしれないが、情報を公開するこ とを躊躇っていると、消費者の(余計な)心配を引き起こしてしまい、状況を 悪化させてしまう可能性がある。不祥事などの危機を企業内部で発見したとき から間を置かず、情報は少なくても構わないから、積極的に開示していくべき である。それが倫理的な行動というだけではなく、消費者に余計な心配をかけ ずに済むという意味で、クライシス・コミュニケーションの効果的な方法だと 考えられる。
また、本論文では企業の不祥事を対象としたが、災害や疫病といった異なる 危機でも有効になる可能性がある。行政や対策を行う該当機関は、第三者にさ まざまな情報が公開される前に、情報量は少なくても頻繁に情報を公開してい くことで、人びとに不要な心配をかけない情報公開方法になるだろう。
<記>
本論文は、令和元年度立正大学研究推進・地域連携センター支援費の助成を 受けて行なった研究の一部である。
<参考文献>
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<注>
i
海外のクライシス・コミュニケーション研究では、Twitterをはじめとしたソー シャルメディアを利用した情報発信への関心が高まっている
(e.g. Fowler 2011;
Eriksson 2018)。
ii
本論文の調査で用いたリッカート尺度はすべて、「まったくそう思わない」と「と てもそう思う」を両極としている。
iii
総務省「平成
30
年度通信利用動向調査の結果」https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/statistics/data/190531_1.pdf
iv
実験
2
の被験者は「新聞のネット記事閲覧→フレームに関する質問→Coombs, W. Timothy (2007) “Protecting Organization Reputations during a Crisis:
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(2011)「コーポレート・コミュニケーションの情
報源がコーポレート・レピュテーションに与える影響−永続的関与を考慮して−」『広告科学』第