日本経済の長期停滞と産業 はしがき
日本は、戦後、約 15 年間の「高度経済成長期」を経験した後、約 20 年間続く「安定成長期」へと移行した。しかしその中で生じたバブル 経済の崩壊後、「失われた 10 年」さらに「失われた 20 年」と称される 長期的な停滞に陥っている。この長期停滞の実態とは何であり、なぜ こうした長期停滞の状態に陥っているのであろうか。こうした問いに 答えることは、今後の日本経済の再生を考えていくうえで不可欠であ る。経済停滞をどうとらえ、その原因をどう見るかは、今後の日本経 済のあり方を考えていくうえで決定的な違いをもたらすからである。
本書は、日本経済の長期的停滞を主として産業に着目して分析する ことを目的としたプロジェクト「日本経済の長期停滞と産業」の報告 書である。長期停滞をマクロ、ミクロの両視点から主として産業に着 目して分析する点に特徴がある。産業の活動が日本経済の成長率に及 ぼす影響に関する巨視的な分析と、より細かく分類した産業別の分析 を総合し、日本経済の長期的停滞の実態とその原因を明らかにする試 みである。
本書は、以下のような構成内容である。
第 1 章では、高度経済成長の終焉期以降の日本経済の成長要因を供 給面から分析した。産業レベルの成長会計分析と経済全体の経済成長 との関係を明確にすることにより、停滞の要因を明らかにした。
第 2 章は、第1 次産業から農業を取り上げ、日本の産業構造におけ る農業のシェアの低下を確認し、その原因を自由貿易の論点から批判 的に考察した。そのうえで、効率性だけではない多元的評価の必要性 を主張した。
第 3 章は、第2 次産業から酒造業を取り上げた。歴史的アプローチ により、酒造業における労働の形態、雇用関係を新たな史料を用いて 明らかにし、労働者のインセンティブへの影響を考察することにより、
高度経済成長の終焉以降停滞を続けている日本の酒造業を理解する試 みである。
第 4 章では、第3次産業の中から銀行業を取り上げる。まず、バブ ル崩壊後、銀行業が直面してきた不良債権問題が銀行の融資の抑制を もたらした一要因であると論じる。次に、金融規制の緩和・自由化の もとで生じた変化の実態を確認したうえで、そうした変化が生み出す 競争的な環境が銀行の「本来的業務」に及ぼす負の影響について分析 した。
第 5 章は、日本の産業全体と国民生活について論じた。生産年齢人 口の減少が産業に及ぼす影響と、就業形態と労働時間の変化が消費活 動・ライフスタイルの決定(出産の決定を含む)に及ぼす影響の両面 から論じ、国民生活を向上させる政策を提言する。
なお、このプロジェクトは、2012年度兵庫県立大学特別研究助成の 支援を受けたものである。また、2013年度前期には、特別課題科目と して連続講義の形で学生に研究成果の一部を還元した。
2014年1月
萩原 弘子