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基礎量子化学 2013年4月~8月 118M講義室
5月2日 第4回 10章 原子構造と原子スペクトル
水素型原子の構造とスペクトル 3.スペクトル遷移と選択律 4.多電子原子の構造
担当教員:福井大学大学院工学研究科生物応用化学専攻 教授 前田史郎
E-mail:[email protected]
URL:http://acbio2.acbio.u-fukui.ac.jp/phychem/maeda/kougi
1.水素型原子の構造とスペクトル 2.原子オービタルとそのエネルギー 3.スペクトル遷移と選択律
4.多電子原子の構造
5.ボルン・オッペンハイマー近似 6.原子価結合法
7.水素分子
8.等核ニ原子分子
9.多原子分子 10.混成オービタル 11.分子軌道法 12.水素分子イオン
13.ヒュッケル分子軌道法(1)
14.ヒュッケル分子軌道法(2)
15.ヒュッケル分子軌道法(3)
2013年度 授業内容
3
4月26日
l = 1
,m
l =±
1の
2pオービタルの波動関数は次の形を持つ.
( ) ( ) ( )
rf e r
e a re
Y Z r R p
i
a i Zr
φ
φ
θ
π θ φ
θ
±
±
± −
±
=
⎟⎟⎠
⎜⎜ ⎞
⎝
= ⎛
=
2 sin 1
8 sin , 1
2 1
2 5
2
0 2 1 1
, 1 1 , 2 1
0
m
m
p+
と
p-の一次結合,つまり
p++p-をとることによって実数関数として,
pyを導け.
344
( )
sin sin ( ) ( )21i2 p 1 p 1 r f r yf r
py= + + − = θ φ =
( ) ( )
( )
( )
( )( )
( )( )
( )r
f ri
i r f r
i i
r f r
e e
r f r
r f e r
r f e r
p p
i i
i i
φ θ
φ θ
φ φ
φ φ
θ θ
θ θ
φ φ
φ φ
sin sin 2
sin 2 2 sin
1
sin cos
sin cos
2 sin 1 2 sin
1
2 sin sin 1
2 1
2 1 2 1
2 1
2 1
2 1 2
1 1 1
−
=
−
=
−
−
−
=
−
=
+
−
= +
−
−
− +
(
p p)
r f r yf rp = i + = θ φ =
344
( )
{ }
) (
) ( sin sin
) ( sin sin 2 2
2
2 1 2 1
1 2 1
1
r yf
r f r
r f i ri
p i p
py
=
=
−
=
+
= + −
φ θ
φ θ
5
( )
( )
sin sin ( ) ( )2
) ( )
( cos 2 sin
1
1 2 1
1
1 2 1
1
r yf r
f r
p i p
p
r xf r
f r
p p
p
y x
=
= +
=
=
=
−
−
=
− +
− +
φ θ
φ θ
( )
cos cos( )
( )2 4
1 2 0
2 5
0 r e r f r zf r
a Z
p a
Zr
z = θ − = θ =
π
344
図10・15
pオービタルの境界面.節面は原子核をよぎり、それぞれ のオービタルの2つのローブを分断する.暗い部分と明るい部分は,
波動関数の符号が互いに反対の領域を表している.
10・3 分光学的遷移と選択律
原子オービタルは原子内の電子に対する1電子波動関数である.
水素型原子オービタルは,
n,
l,
mlという
3つの量子数で定義される.
主量子数:
角運動量量子数(方位量子数):
磁気量子数:
エネルギー:
L 3 , 2 ,
=1 n
l l l
l
ml = − ,− +1,L, −1, 1
, , 2 , 1 ,
0 −
= n
l L
2 2 2 0 2
4 2
32 n
e En Z
ε h π
− μ
En =
E1 E2 E3
0 E∞=0
エネルギーは主量子数
nだけで決まっている.
2s
と
2pオービタルのエネルギーは同じである.
3s
,
3p,
3dオービタルでも同様である(多電子 原子ではこれらのエネルギーは同じではない).
346
7
(
r,θ,φ)
Rn,l( ) ( )
r Yl,m θ,φΨ =
2 2 0 0
0
2 , ,
,
, 4 2
) ( )
(
e a m
a Zr
e n L
N r
R
e l n
n l l n l
n
πε h ρ
ρ ρ
=
=
= −
( ) θ
,φ
φ(
cosθ )
,
l ml
l im m
l Ne P
Y = ±
水素型原子オービタルの1電子波動関数は,
(
cosθ)
m
PJ
:ルジャンドル陪多項式
l
Ln,
:ラゲール陪多項式
:球面調和関数
:動径波動関数
第4の量子数であるスピン量子数
msは である.
水素型原子の中の電子の状態を指定するためには,4つの量子数,
つまり,
n , l , ml , msの値を与えることが必要である.
また,電子のオービタル角運動量の大きさは であり,
その任意の軸上の成分は である.すなわち,
mlは角運動量 のz成分の値を決める量子数である.座標軸は空間に固定されてい るわけではない.電場や磁場をかけたときに自動的に空間軸が決 まり,それをz軸とすることができる.つまり,
mlは電場や磁場が原
2
± 1
( )
l +1hl h
ml
9
⑥図13・2 フォトンが放出される ときにエネルギーが保存されるの で,放出の前後の原子のエネル ギーの差は,放出されるフォトン のエネルギーに等しくなければな らない.
高いエネルギー準位E
2(n2,l2,m2)から低いエネルギー準位E
1(n1,l1,m1)へ遷移するときには,過剰なエネルギーΔ
E=hνを振動数νの電磁波のフォトン(光子)として放 出する.
しかし,あらゆる状態間の遷移が許容されるわけではない.
遷移によって角運動量が保存されなければならない(角運動量保存則).
2s
にいる電子は光を放出して
1sに落ちる(
Δl = 0)ことはできない.
同様に,
1sにいる電子に光をあてて励起すると
2s(Δl = 0)ではなく
2p(Δl = 1)へと遷移する.
一般的に水素原子における光学遷移は
lが1だけ変化するオー ビタルの間で起こる(m
lは,0 もしくは
±1 だけ変化する).n l 副殻 ml 副殻の中のオービタルの数
1 0 1s 0 1
2 0 2s 0 1
2 1 2p 0, ±1 3
346
11
これは,フォトンがスピン角運動量1を持つ素粒子であることに起因す る.角運動量保存則より,光吸収により電子が励起するときに,光が 消滅すると同時に軌道角運動量が1だけ変化しなければならないため である.
1 ,
0
1 = ±
±
= m
ll Δ
Δ
水素原子に対する選択律
主量子数
nは角運動量には直接関係していないので,上記の 選択律さえ満足していれば,いくらでも変化できる.
346
数値例10・2
4d電子はどのオービタルに放射遷移を起こすか.(手順1)最初に
l の値を決める.(手順2)この量子数に対する選択率を当てはめる.
[解説]
4d電子は
l = 2である
. Δl = ±1であるためには,
l = 3 (nf)(Δl = 1)または l = 1 (np) (Δl = -1)のオービタルにしか遷移することはできない.ns (l = 0;
Δl = -2 )やnd (l = 2;
Δl = 0)のオービタルへの遷移は禁制である.
[解答例]
Δ ml =0 または ±1の条件の下で,電子は4dオービタルから,任意のnpオービタルと任意のnfオービタルへ遷移する.
346
13
水素型原子における選択律
1 , 0 ,
1 Δ = ±
±
=
Δ l m
l素粒子 スピン 例
フェルミ粒子 半整数 電子,陽子,中性子 ボース粒子 整数 光子
光子(フォトン)
質量は0,スピンは1,振動数νの光子はエネルギーhνを持つ.
図10・17 グロトリアン図 これは水素 原子のスペクトルの全容と分析の結 果をまとめたものである.線が太いほ ど遷移が強い.
水素型原子の電子エネルギー準位 は主量子数
nだけで決まるので,
2s, と2pのエネルギー準位,また3s,3p,
3dのエネルギー準位は等しい.
Paschen Lym
np
→
1sの遷移
an15
10・4 オービタル近似
多電子原子の波動関数は,すべての電子の座標の非常に複雑な 関数であるが,各電子が,“それぞれ自分の”オービタルを占めてい ると考えることによって,この複雑な波動関数を各電子の波動関数 の積の形で近似することができる.これをオービタル近似という.
( r1, r
2, r
3, K ) Ψ ( ) ( ) ( ) r
1 Ψ r
2 Ψ r
3 L
Ψ ≅
多電子原子の構造
13・4
オービタル近似
(b)パウリの排他原理
2個よりも多くの電子が任意に与えられた1つのオービタルを 占めることはできず,もし,2個の電子が1つのオービタルを占 めるならば,そのスピンは対になっていなくてはならない.
すなわち,4つの量子数がすべて同じ状態を取ることはでき
ない.
(n,
l,
ml)が同じであれば,スピン
sが
½と
- ½の対になっ
ていなければならない.
17
(c)
浸透と遮蔽
多電子原子では,2sと2pは縮退していな い(E
2s<E
2p)。電子は他の全ての電子か らクーロン反発を受ける。
図10・19 原子核から
rの距離にある電子
は,半径
rの球の内部にある全ての電子 によるクーロン反発を受けるが,これは原 子核の位置に負電荷があることと等価で ある。この負電荷は,原子核の実効核電 荷をZeからZ
effeに引き下げる。ZとZeff
の差を遮蔽定数
σという.
σ
−
= Z Z
eff遮蔽定数はs電子とp電子では異な る.これは両者の動径分布が異なる ためである.
(1)s
電子の方が同じ殻の
p電子よりも 原子核の近くに見出される確率が高 いという意味で内殻に大きく浸透して いる.
(2)s
電子は
p電子よりも内側に存在確 率が高いので弱い遮蔽しか受けない.
浸透と遮蔽の2つの効果が組み合 わさった結果,s電子は同じ殻のp電 子よりもきつく束縛されるようになる.
3p
3s
図10・20
s電子の方が
352
同じ殻のp電 子よりも原子 核の近くに見 出される確率 が高いという 意味で内殻に 大きく浸透し ている.
19
浸透と遮蔽の2つの効果によって,多電子原子における副殻の エネルギーが,一般に,
の順になるという結果がもたらされる.
元素 Z オービタル 遮蔽定数σ 有効核電荷Zeff
He 2 1s 0.3125 1.6875
C 6 1s 0.3273 5.6727
2s 2.7834 3.2166
2p 2.8642 3.1358
f d
p
s < < <
353
表10・2 実効核電荷
Zeff = Z −σ炭素原子の場合:
1s電子は原子核に強く束縛されている.
1sと
2s,
2pとの エネルギー差は大きい.
2p電子は,
2s電子よりは原子核の束縛が強くな い.したがって,各電子のエネルギーは1s<<2s<2pの順である.
1s
電子は原子核 に強く束縛され ている
(d)
構成原理
(Aufbau principle)(1)オービタルが占有される順序は次の通りである.
1s 2s 2p 3s 3p 4s 3d 4p 5s 4d 5p 6s …
(2)電子はある与えられた副殻のオービタルのどれか1つを二重に
占める前に,まず異なるオービタルを占める.
(3)基底状態にある原子は,不対電子の数が最高になる配置をとる.
N(Z=7):[He]2s22px12py12pz1
電子数=3,不対電子数=3
O(Z=8):[He]2s22px22py12pz1
電子数
=4,不対電子数
=221
22
第6版図
13・
23元素のオー ビタルエネルギー.
カリウム付近の
3dオービタ
ルと
4sオービタルの相対的
なエネルギーの大きさに注
目すること.
23
24
赤線で囲った元素(典型元素)は
ns2npx(
x=1→
6)と規則的であるが,
25
1, 2, 3, 4, 5, 6, 7, 8, 9, 10, 11, 12, 13, 14, 15, 16, 17, 18
典型元素
遷移元素
26
図 ・ 元素の第1イオン化エネルギー .原子番号プロット
元素の第1イオン化エネルギーを原子番号に対してプロッ トすると,2種類の元素群に分けられる.同一周期で右に 行くほどイオン化エネルギーが,
(1) ほぼ単調に増大する元素群 (
2
)ほとんど変化しない元素群
(典型元素),
(遷移元素,ランタノイド,アクチニド)
27
原子番号 元素記号 電子配置
電子はsオービタルに 順番に入る
電子はsオービタルに 順番に入る
同一周期の元素では,最外殻電子は同じである.周期表の右へ行く ほど核電荷が大きいのでイオン化エネルギーが大きくなる.
第1周期のHeから第2周 期のLiへ移ると,イオン化 エネルギーは小さくなる.
また,Be→Bのように,最 外殻電子がs電子からp 電子に変わるところでもイ オン化エネルギーは小さ くなる.
28
原子番号 元素記号 電子配置
電子はpオービタルに 順番に入る
電子は
sオービタルに 順番に入る
電子は
sオービタルに 順番に入る
N(2p3)
は球対称であ り,O(2p
4)よりも第1イオン化エネルギー が高い.
[第2周期の典型元素]
29
図
13・
24元素の第1イオン化エネルギー
vs.原子番号プロット
同一周期の元素では,最外殻電子は同じ副殻の電子である.周期表の 右へ行くほど核電荷が大きいのでイオン化エネルギーが大きくなる.
O(2p4) N(2p3)
N(2p3)
は,
O(2p4)よりも第1イオン化ポテンシャルが高い.
(1)O(2p4)では2pが二重に占有されるが,電子-電子反発が大きい.
(2)半分満たされた副殻は球対称性を持ち,エネルギーが低い.
原子番号 元素記号 電子配置
電子はpオービタルに 順番に入る
電子は
sオービタルに 順番に入る
P(3p3)
は球対称であ り,S(3p
4)よりも第1イオン化ポテンシャル が高い.
同一周期の元素では,最外殻電子は同じ
3p電子である.周期表の右 へ行くほど核電荷が大きいのでイオン化エネルギーが大きくなる.
[第3周期の典型元素]
31
図10・22 元素の第1イオン化エネルギー.原子番号に対してプ ロットしたもの.
P(3p3)
は,
S(3p4)よりも第1イオン化ポテンシャルが高い.
(1)S(3p4)では3pが二重に占有されるが,電子-電子反発が大きい.
(2)半分満たされた副殻は球対称性を持ち,エネルギーが低い.
原子番号 元素記号 電子配置
4sオービタルが詰まった
後,電子はdオービタル に順番に入る
電子は
4sオービタルに順 番に入る
例外:
d5
とd
10電子 配置は球対 称であり,
d44s1
と
d94s1よりも安定に なる.
3d
遷移元素(
Sc-
Zn)33
[Ar]3d24s1
[Ar]3d14s2
Sc : [Ar]3d14s2
図
10・
21
Scの基底状態においては,もしこの原子が
[Ar]3d24s1では なく,
[Ar]3d14s2という電子配置をとれば
3dオービタル内の強い電子
-電子反発が最小になる.
355
図
10・
22元素の第1イオン化エネルギー.原子番号に対してプ ロットしたもの.
3d遷移元素(Sc-Zn)
3d
の方が
4sよりもエネルギーが高いので,
3dn4s2の電子配 置をとる(CrとCuは例外的に3d
5or104s1となる).
Znは3d104s2という閉殻構造を持つ のでイオン化エネルギーが高い
35
原子番号 元素記号 電子配置
電子は
pオービタルに 順番に入る
[第4周期の典型元素]
原子番号 元素記号 電子配置
4d遷移元素(
Y-
Pd)例外:
d5
とd
10電子 配置は球対 称であり,
d44s1
と
d94s1よりも安定に なる.
5sオービタルが詰まった
後,電子は
dオービタル に順番に入る
電子は
4sオービタルに順
番に入る
37
図10・22 元素の第1イオン化エネルギー.原子番号に対してプ ロットしたもの.
4d遷移元素(Y-Pd)
4d
の方が
5sよりもエネルギーが高いので,
4dn5s2の電子配 置をとる(
Moと
Pdは例外的に
4d55s1と
4d10となる).
Cdは4d105s2という閉殻構造を持 つのでイオン化エネルギーが高い
原子番号 元素記号 電子配置 ランタニド(稀土類元素)
La-
Yb例外:
f
7電子配置は球対 称であり,4f
8よりも 安定になる.
6s
オービタルが詰まった
後,電子は
4fオービタル
に順番に入る
39
図10・22 元素の第1イオン化エネルギー.原子番号に対してプ ロットしたもの.
ランタニド(稀土類元素)
La-Yb
図10・22 元素の第1イオン化エネルギー.原子番号に対してプ
ランタニド
(稀土類元素)
3d遷移元素 4d遷移元素
2s2 2p3 3s23p3 3d10 4s2 4d10 5s2 He,Ne,Ar,Kr,Xeは稀ガス元素であり,最 外殻電子配置はns2np6の閉殻構造を持つの でイオン化エネルギーが非常に高い.
最外殻電子配置が閉殻または部分
的閉殻だとイオン化エネルギーが高
い.
41
1, 2, 3, 4, 5, 6, 7, 8, 9, 10, 11, 12, 13, 14, 15, 16, 17, 18
5
月2,学生番号,氏名
(1)自習問題10・7
4s電子はどのオービタルへ電気双極子許容の放射・吸収遷移を起こせ