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2019年のエジプト考古学研究所の 調査・研究について

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2019年のエジプト考古学研究所の 調査・研究について

吉村作治*1・黒河内宏昌*2・矢澤健*3・山下弘訓*3・菊地敬夫*2・岩出まゆみ*4

【要 旨】

 本稿は学校法人昌平黌東日本国際大学エジプト考古学研究所による2019年の調査報告である。

2019年は第2の太陽の船(現場主任:黒河内宏昌)、ダハシュール北遺跡(現場主任:矢澤健)、大 ピラミッド探査(現場主任:山下弘訓)、王家の谷アメンヘテプ3世王墓(現場主任:菊地敬夫)

の4つのプロジェクトが進行しており、その成果についてまとめ、最後にエジプト考古学研究所に よる事業報告(所長:岩出まゆみ)を付した。

【Abstract】

This paper reports the brief results of research project conducted in 2019 by Institute of Egyptian Archaeology, Higashi Nippon International University, Japan. Four projects are in- cluded in this article: Second Solarboat of Khufu (Field chief: Hiromasa Kurokochi), Dahshur North (Field chief: Ken Yazawa), Great Pyramid Scanning (Hirokuni Yamashita), Tomb of Amenhotep III (Field chief: Takao Kikuchi). The summary for this year's results of these re- searches are provided below. The last chapter reports the activities of the Institute in 2019.

(1)はじめに(吉村作治)

 エジプト考古学研究所の2019年度の調査研究について、以下個別にご報告させていただきます。

本学のエジプト考古学研究所は、1966年から始まった現早稲田大学エジプト学研究所の調査・研究 の大半を引き継ぎ、現地調査と研究を続けてまいりました。この間幸運にも1年の途切れもなく日 本学術振興会の科学研究費補助金を受け、自己資金を加えて続けてまいりました。現在エジプト国 内には7カ所の調査地点を持ち、活動を続けています。7カ所とは、上エジプトでは①ルクソール 西岸王家の谷西谷アメンへテプ3世王墓の修復とその周辺の発掘、②ルクソール西岸クルナ村貴族 墓、下エジプトでは③ダハシュール北遺跡、④アブ・シール南丘陵遺跡、⑤ギザ地区クフ王大ピラ

(2)

ミッド南側に位置する第2の太陽の船発掘・修復・復原プロジェクト、⑥クフ王のピラミッド西側 墓地の3D地下マップ作成とクフ王墓探査プロジェクト、⑦クフ王ピラミッドの宇宙線ミューオン や地中レーダーによる3Dスキャニングです。本稿では、この中で2019年に行われた第2の太陽の 船プロジェクト、ダハシュール北遺跡調査、クフ王ピラミッドのスキャニング調査、アメンヘテプ 3世王墓調査について概要を報告します。

(2)第2の太陽の船プロジェクト(黒河内宏昌)

 本プロジェクトは吉村作治学長のもと、日本とエジプトが共同で、ギザ遺跡・古代エジプト古王 国時代第5王朝クフ王のピラミッド南側の地中ピットに分解、収蔵されている木造船を取り上げ、

保存修復し、組み立て復原することを目的としている。2019年は独立行政法人国際協力機構(以下 JICA)の支援、および日本学術振興会科学研究費補助金{基盤研究A「古代エジプト・クフ王第 2の船の復原に関する研究」(JSPS科研費JP26257309、2019年3月まで)}を得て活動した。

 現地で行った作業は以下の4項目である。

①ピットからの部材の取り上げ

②取り上げた部材の保存修復

③保存修復を終えた部材の測量、図化、船の復原考察(マニュアル測量と三次元測量)

④ 測量を終えた部材のGrand Egyptian Museum Conservation Center(大エジプト博物館保存修 復センター、以下GEMCC)への移送

 部材の取り上げを2019年度末までに終了し、その後はJICAの支援で建設中のGrand Egyptian Museum(大エジプト博物館、以下GEM)において7年をかけて組み立て復原を行い、公開展示 する計画である。

①部材の取り上げ

 規模と構造のよく似た第1の船(現在ギザ遺跡の船博物館にて展示中)を参照した結果、第2の 船もほぼ同数の約1,200点の部材からできていると推測された。2019年9月末の時点で、それらの うち約1,050点の部材が取り上げられた。それらの中で長さ4メートルを超す大型部材は77点を数 えた。ピットの底に近づくにつれ部材の劣化、崩壊は激しさを増しており、ピットの中でアクリル 樹脂(パラロイドB72ほか)の塗布や、和紙によるフェーシングなどの応急処理を十分に施したのち、

部材を取り上げている。取り上げはすでに最終層に着手しており、ピットの底が大きく見えてきて いる(図1)。

 この作業は高橋寿光氏(東日本国際大学エジプト考古学研究所客員教授)と本プロジェクト所属

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のエジプト人スタッフが中心となって行っている。

②保存修復

 取り上げられた部材を、これ以上の崩壊を止め、測 量や移送が可能な程度までの強度を持たせるために、

アクリル樹脂(パラロイドB72ほか)を用いて強化し た。また判明する範囲内で部材の変形を矯正し、破損 した個所を破片のパズルを解いて接合するなどの修復 作業を継続した(図2)。2019年9月末の時点で、約 1,030点の部材の保存修復を終了している。そのうち 前述の大型部材は74点を数える。復原考察が終了して 当初の部材の形状が正確に判明したのち、第二段階の 保存修復作業を行い、組み立て復原を行う予定である。

 この作業はアイーサ・ジダン氏(General Director of Executive Affairs for Conservation at Grand Egyptian Museum)を中心として、リチャード・ジャ スキ(保存修復家)、吉村佳南(同)、西坂朗子(東日 本国際大学エジプト考古学研究所客員教授)、エジプ ト考古省所属の保存修復家たち(12名)が行っている。

図1 ピット内の俯瞰写真(部分)

中央の白い部分はピットの底

図2 パピルス葦船をかたどる船首柱の保存修復

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③測量と組み立て復原考察

 本プロジェクトでは部材の測量に、巻尺で寸法をとって図化するマニュアル測量と(図3)、レー ザースキャナーを用いた三次元測量を行っている(図4)。本プロジェクトでは、単なる部材の三 次元測量によるデジタル記録にとどめず、コンピューター上で部材の変形をシミュレーションする ことができる新たなシステムを開発し、デジタルデータによる復原考察を行うことを目標としてい る。2019年9月末の時点で、マニュアル測量は約1,000点の部材を終了。うち大型部材は66点を数 える。また三次元測量は舷側板を中心とした船体のスキャニングを継続している。

 マニュアル測量は柏木裕之氏(東日本国際大学エジプト考古学研究所客員教授)を中心として、

図3 マニュアル測量による甲板パネル復原図の一例

(柏木裕之・山田綾乃、「クフ王第2の船甲板-実測調査報告その2-」、

『昌平エジプト考古学紀要第6号』、P.46、2018)

図4 三次元測量による図像の一例

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山田綾乃氏(同客員准教授)、マムドゥーフ・ターハ氏(Supervisor, Giza Inspectorate, Ministry of Antiquities)、エジプト考古省所属のメンバー(2名)が行っている。三次元測量は大石岳史氏

(東京大学生産技術研究所准教授)、影沢政隆氏(同助教)を中心に、エジプト考古省所属のメンバー と本プロジェクト所属のエジプト人スタッフ合計5名が行っている。

④GEMCCへの移送

 保存修復または測量を終えた部材のうち、2019年9月末の時点で約860点の部材を、現場から GEMCCへ移送した。

 この作業は黒河内宏昌(東日本国際大学エジプト考古学研究所教授)、アイーサ・ジダン氏(前出)

が中心となり、エジプト考古省所属メンバーと本プロジェクト所属のエジプト人スタッフが総出で 行っている。

 国内での広報活動の一例として、5月27日(月)に第8回太陽の船シンポジウム「太陽の船をデ ジタルで造る」が東京・早稲田大学の小野梓記念講堂で開催された。今回はコンピュータシミュレー ションシステムを開発中の大石岳史氏、影沢政隆氏が登壇し、デジタルデータを組み立て復原に利 用する試みについて、満員の聴衆に講演をした。

(3)ダハシュール北遺跡プロジェクト(矢澤健)

 2019年1月から2月に実施されたダハシュール北遺跡第26次調査では、2010年に行われたGPR

(地中レーダー)探査で大型のシャフト開口部の存在が推定されたグリッド3E65を中心に、625㎡

の範囲で発掘を実施した。結果として、12基のシャフト開口部と5基の土壙墓が発見され、シャフ ト墓は7基、土壙墓は5基全ての発掘を実施した。本稿では、この内重要な発見があったシャフト 158の成果について概要を報告する。

 シャフト158の遺構(図5)は、深さ10mのシャフト底部から南に地下室(A室)が設けられ、

A室中央部にも深さ1.9mのピットが掘削されていた。壁龕は2つあり、それぞれA室の東壁(壁 龕①)と、ピット内の東壁(壁龕②)に設けられていた。A室の東壁と西壁には最上部に間隔を置 いて2つの横穴があり、これらはピット上に丸太を架けるための受け口と推測された。また、ピッ ト上部の南北方向にも丸太を架け渡した痕跡が認められた。A室内部での移動でこうした設備が必 要な重量物は石棺以外考え難いが、棺の破片等は発見されなかった。おそらく当初は石棺がピット 内部に収められ、再利用を目的として搬出されたと推測される。

 シャフト最下部はタフラ(岩盤)の屑がA室入口の天井の高さまで堆積しており、締まりが強く、

(6)

意図的に充填されていたと推測される。A室入口側のタフラは盗掘時に掘削されていたが、石棺の 搬出に十分な空間は無かった。また、A室内のピットはタフラの屑によって埋められていた。上記 のように石棺の搬出を想定するならば、ピットの埋め戻し、シャフト下部のタフラの充填は、石棺 搬出後に行われたことになる。タフラの意図的な充填は、この墓が再び利用された可能性を示唆し

図5 シャフト158平面・断面図

シャフト158 地下平面図

シャフト158 A-Aʼ断面図 シャフト158 B-Bʼ断面図(部分)

シャフト158 D-Dʼ断面図

横穴 横穴

横穴 横穴

横穴 横穴

横穴 横穴

横穴 横穴

シャフト158 C-Cʼ断面図

シャフト部

A室

A室内ピット 壁龕①

シャフト部

A室

A室内ピット シャフト160

壁龕①

壁龕②

シャフト161 A室へ

A室内ピット

A室 シャフト161 A室へ

壁龕①

壁龕② A室内

ピット

10.0m

3.4m

3.1m

2.9m

1.9m

1.7m

1.5m

A室

A室内ピット

A A’

B’

B

D’

D

C’ C

N

0 5m

(7)

ている。また壁龕が2つあることは、再利用を裏付ける根拠となる。即ち、石棺を利用した最初の 埋葬ではピット内の壁龕②が使用され、ピット内へのタフラ充填後は壁龕②が使用できないため、

地下室東壁の壁龕①が新たに掘削された。壁龕①は壁龕②に比べ掘削が雑であることも、これらが 同時に作られたものではないことの傍証になる。

 A室の入口前、シャフト部の床面付近からはファイアンス製、石製、青銅製の小型の遺物群がま とまって出土した(図6)。ファイアンス製品は動物や蜂を象った小像や、容器、板状の台、ビー ズ類など、石製品は小型の容器などがあった(図7)。青銅製品はナイフ、鎖状の遺物、スタンプ 形印章などが発見された。同種の遺物群はエジプト各地で散発的に発見されていたが、多くは詳細 な出土位置・状況が記録されておらず、その用途については不明な点が多い。本例のように出土状 況が明確で、まとまって発見された例は希少であり、遺物群の用途を検討する上で重要な資料とな り得る。

 遺物群の大部分は、出土状況から見てA室開口部を封鎖していた日乾レンガ壁の前に置かれてい たと推測され、最初のA室ピット内の石棺を利用した埋葬に付随していた可能性が高い。石棺の搬 出に伴って、A室開口部前の遺物群は撹乱を受けたと考えられる。また、A室ピット内に充填され たタフラ堆積中より人骨片が出土したことから、石棺搬出時に内部のものが取り出されたと推測さ れる。さらに、遺物群には殻竿を構成していたファイアンス製品が含まれていた。殻竿は通常棺の 中に置かれる副葬品だが、これが混在していた原因は搬出時の作業に由来する可能性も考えられる。

遺物群が再利用時に使用された可能性も排除はできないが、その場合はシャフト下部に充填された タフラによって覆い隠され、より撹乱の少ない状態が保たれていたと予想される。また、王権を示

図6 A室入口前遺物群出土状況

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す蜂のヒエログリフを象ったファイアンス製品や、スタンプ形印章の存在から、これらの遺物群は 石棺を使用できる高位の人物の埋葬に付随していたと考える方が妥当である。

 また、大型丸底壺(ビール壺)の断片の多くがシャフト部床面付近、タフラ堆積の下から出土し ており、最初の埋葬に関連するものと推測される。既往の研究を参照すると、頸部の形状はアメン エムハト3世の治世から第13王朝初期に年代づけられ、その他の土器についてもこの年代と矛盾し ない構成であった。最初の埋葬はこの時期に行われており、前述の試論に従えば、A室開口部前出 土遺物群も同時期となる。

 以上から、シャフト158の最初の埋葬は中王国時代後期と考えられ、石棺が使用されていた可能 性が高い。同墓はダハシュール北遺跡では最大の規模を有し、石棺は同遺跡の中王国時代の墓では これまで発見されておらず、特異な存在と言える。A室開口部前出土の小型遺物群はA室が閉鎖さ れた後に置かれていたと考えられることや構成から見て、葬儀の際に埋葬室の閉鎖後行われた儀式 で使用された可能性がある。同種の遺物を用いた儀礼行為については不明な点が多く、その実態を 示す希少な資料が得られた。

図7 A室入口前出土ファイアンス製・石製・青銅製遺物

①石製容器

②石製容器

③石製(?)容器or土器

④石製容器

⑤石製容器(?)(⑥と同一個体)

⑥石製容器(?)(⑤と同一個体)

⑦顔料(黒色、赤色)

⑧青銅製スタンプ

⑨青銅製品(用途不明)

⑩青銅製ナイフ形製品

㉑ファイアンス製イヌ小像

㉒ファイアンス製台(3点)

㉓ファイアンス製容器と蓋(6点)

※①と⑬には暗褐色の内容物が残存して いた。

⑪ファイアンス製蓋

⑫ファイアンス製丸底碗

⑬ファイアンス製平底碗

⑭ファイアンス製平底波状頸部壺

⑮ファイアンス製平底波状頸部壺

⑯ファイアンス製ビーズ

⑰ロータス形ファイアンス製品

⑱蜂(bit)形ファイアンス製品

⑲ファイアンス製ライオン小像

⑳ファイアンス製ライオン小像

① ② ③

④ ⑤ ⑥

⑧ ⑨ ⑦

⑫ ⑬

⑭ ⑮

⑯ ⑰

⑳ ㉑

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(4)大ピラミッド探査プロジェクト(山下弘訓)

 昨年の予備調査に引き続き、大ピラミッド探査プロジェクトでは本年の2月、4月と6月の3度 にわたって調査を行った。以下、それぞれの概要について記す。

第一次調査(2019年2月3日~16日)

 山下弘訓、設樂丘(有限会社タイプエス;測量班)、三森(株式会社フロントブリッジ;測量班)、

朝田健治(有限会社ぱとす;撮影班)の4名で第一次調査を行った。第一次調査では、ドローンを 用いて写真測量用の写真撮影を行った。当初、純日本製のドローンPF- 1 Surveyを用いて撮影を 行う予定であったが、ドローンの輸出は困難であることが分かり、結局はエジプトのドローン会社 iFLYに協力を依頼。iFLY所有のPhantom 4 Proという機体を用いて撮影を行った。フライトプラ ンは設樂氏が作成、パイロットはiFLYのアハメド・ジダン(Ahmed Zidane)氏が担当した。

 大ピラミッドについては、南面から撮影を開始し、4面全てについて高度を変えながら撮影した。

その他、カフラー王、メンカウラー王のピラミッド、西部墓地、スフィンクス周辺まで、ギザ台地 のほぼ全てのエリアをカバーするように撮影を行った。4日間に及ぶ撮影で、2,684枚の写真と24 本の動画を撮影した。

第二次調査(2019年4月6日~16日)

 山下、設樂、三森、野口泰謙(株式会社ジェピコ;撮影班)、土屋賢太郎(株式会社ジェピコ;

撮影班)、朝田の5名で第二次調査を行った。第二次調査では、三次元レーザースキャナGLS-2000 を用いた測量と、1億画素カメラPhaseOneを用いた高精細な写真の撮影を行った。

①三次元測量

 三次元レーザースキャナはトプコン社のGLS-2000を用いて、トプコン社とトプコン社の販売代 理店サーベイングシステムズ(Surveying Systems)の協力のもと測量を行った。測量チームは、

有限会社タイプエス設樂氏、株式会社フロントブリッジ三森氏、トプコンのハイサム・エル=フ セイニー(Hitham El-Hussieny)氏、サーベイングシステムズのアブドゥルラフマン・アッバース

(Abdelrahman Abbas)氏、ムハンマド・ロシュディ(Mohamaed Roshdy)氏の5名である。

 5日間に及ぶ測量で、クフ王のピラミッド外側と内側の全ての部屋・通路について測量を行い、

3億2千万点に及ぶ点群データを取得した。

 第一次調査で取得したドローンで撮影された写真データをSfM処理ソフト(Agisoft Metashape)

により3D点群化し、3Dレーザースキャナーで取得した3D点群データと3D点群処理システム

(10)

(福井コンピュータ株式会社のTREND-POINT)にて合成する作業を現在行なっている。

②PhaseOneでの撮影

 (株)ジェピコ エキスパートの野口泰謙氏と土屋賢太郎氏が、PhaseOne社1億画素カメラシス テム(XF IQ3)を利用した撮影を行なった。5日間の撮影で、合計1,150枚の写真を撮影した。帰 国後、王の間、王妃の間、スフィンクスについて、撮影した写真データを、SfM処理ソフト(Pix 4Dmapper)を利用し、日立システムズ社にて3次元化の作業を行っている。王の間、王妃の間、

スフィンクスについては3次元化完了済みである。

 現在、ピラミッド外観の3次元化について作業中。今後、ピラミッドに関しては、設楽氏・三森 氏が作成した点群データの代表ポイントのうち、いくつかの点の座標情報をSfM処理時に加えるこ とで、寸法情報を持つ3次元メッシュデータとして生成予定である。高精細な写真データをSfM処 理、加えて座標情報を点群データに加えることで、精密なメッシュデータを生成することが可能と なる(図8)。

第三次調査(2019年6月14日~19日)

 吉村作治、岩出まゆみ、山下、佐藤源之(東北大学;探査班)、朝田の5名で第三次調査を行っ た。国立天文学・地球物理学研究所(National Research Institute of Astronomy and Geophysics : NRIAG)の協力を受け、同研究所所有のGPR(Ground Penetrating Radar:地中レーダー)を用 いてテストを行った(図9)。

 ピラミッドに使われている岩石の構造と電気特性は電磁波の伝播に大きな影響を与える。そこで、

2019年6月15日と16日に、岩石の電気特性を理解するために、GPRを使用して計測を行った。電気 特性を計測するために、GPR CMP(Common Midpoint)法を用いて計測を行った。また、大ピラ

図8 大ピラミッドの3次元モデル

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ミッド西側においてGPRプロファイル探査を行い、クフ王第二の船坑の蓋石に対しては、石灰岩の 特性を知るために電波の伝搬について計測した。

 シミュレーションにより、大ピラミッドに関しては電磁波(EM : electromagnetic wave)は 10MHzが適切であることが分かった。

 第三次調査では、上述したようにGPRのテスト計測に加え、6月17日にはNRIAGで情報共有と 今後の調査の進め方に関して、関係者全員で会議を行った。出席者は、日本からは吉村、岩出、山下、

佐藤、朝田(敬称略)、エジプト側はNRIAGの所長であるガッド・エル=カディ(Gad El-Qady)博士、

ムハンマド・エル=ガブリ(Mohamed El-Gabry)博士、スエズ大学のアイマン・ハメド(Ayman Hamed)博士他が参加した。

 会議では、まず山下がこれまでの調査の概要について説明し、次に佐藤氏が今回行ったGPRのテ ストについて説明。その後、ガブリ博士が重力計を用いた計測について説明した。アイマン博士か らは今後の調査スケジュールについて項目を整理し、提案を受け、その上でスケジュールを共有し た。

今後の展望

 本年12月28日から2020年1月3日まで、再び調査を行う予定。主な目的は大ピラミッド内部での GPRのテストで、このテストを受けて2月に本調査を行う。ミュオン検出器による探査については、

九州大学の機材をエジプトに向けて送る準備は完了。こちらはエジプトでの通関を経て1月半ばに 九州大学のメンバーとともに調査を行う予定である。

図9 地中レーダーによる計測の様子

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(5)王家の谷アメンヘテプ3世王墓プロジェクト(菊地敬夫)

 古代エジプト新王国時代に、ファラオは、現在のルクソール西岸に位置する王家の谷に王墓を造 営した。第18王朝のアメンヘテプ3世も、その墓を王家の谷・西谷に造っている。王墓の入口から 下降通路と階段、またいくつかの部屋を通り、80mほど地下に下ると、東西約15.4m、南北約8.2m、

高さ約3.1mの規模をもつ埋葬室(J室)に至る。この地下にある王墓の壁面と天井には、当時の 荘厳な壁画が残っている。

 アメンヘテプ3世王墓は1799年にナポレオンのエジプト遠征に随行した技師によって発見され、

ヒエログリフの解読者として著名なシャンポリオンも1829年に調査した。このように、アメンヘテ プ3世王墓はエジプト考古学研究史においても重要な遺跡であり、本学のエジプト考古学研究所は、

この王墓に残る壁画の修復とデジタル技術を用いた記録を進めている。

 2019年には、日本学術振興会科学研究費補助金を得て、次に述べるように3月、および8~9月 の2度にわたる現地調査を実施した。以下、それぞれの概要を報告する。

 最初の調査は、2019年3月5日~11日の日程で行われた。前年、2018年8月から9月にかけて実 施した調査では、アメンヘテプ3世王墓の天井の撮影・記録手法を現地で確立することを目指して いたため、王墓のC室において天井面の試験的な撮影を行った。この撮影に用いた手法は、従来、

王墓のJ室(埋葬室)の壁面に描かれているアムドゥアト書のデジタル撮影に用いた方法であった が、天井面の撮影には、天井面のあらたな測量方法を組み込む必要があった。

 この測量方法と得られた撮影画像の分析、加工に時間を要したため、2019年3月に行った調査 では、撮影対象を天井面にある壁画から、王墓のE室とI室の壁に描かれている壁画に変更して、

測量を必要としないデジタル撮影を実施した。使用した機材は、デジタル一眼レフカメラCanon EOS 5DsR(5060万画素)、ならびにCanon EOS-5D Mark II(2110万画素)、およびCanon EF 50mm F1.8レンズである。このレンズの絞りをF8に設定し、使用するカメラの高解像度と、より 深い被写界深度を得られる設定とした。これらの撮影機材を、これまでの現地調査で使用してきた 360°回転し、15°上下に方向を変える自動パノラマ撮影装置に据えて壁面の撮影を行った。

 撮影では、壁面を分割して小画像としてデジタル記録し、その得られた小画像を、画像接合ソフ トPTGuiを利用して接合した。その結果、撮影対象としたそれぞれの壁面に描かれた壁画を1枚の 大画像にすることができた(図10)。E室、I室の壁面は、いずれも幅が約3.6m~5.1mと規模が小 さいため、PTGuiで作成された大画像には、補正を必要とするほどの歪みは生じていないと思われ る。この大画像をもちいて、モニターで拡大縮小して観察することによって、描かれているモチー フのみではなく、壁画の制作過程の証左となる下絵のライン、碑文の書き直しなどの周辺情報も得 ることができる。

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 さらに本年は、2019年8月27日~9月4日の日程で、アメンヘテプ3世王墓とセティ1世王墓に おいて、壁画のデジタル撮影調査を行った。アメンヘテプ3世王墓では、これまでデジタル撮影の 対象となっていなかったJ室(埋葬室)に設えられている柱に描かれた壁画を撮影した。一方、セ ティ1世王墓では、C室の天井にある天井碑文を撮影した。

 この調査では、これまで一貫して使用してきた自動パノラマ撮影装置ではなく、あらたに GigaPan Epic Proを導入して、上述のデジタル画像の撮影に使用した。GigaPan Epic Proはバッテ リーにより駆動するため、これまでのような電気系統の複雑な配線を省略することが可能となった。

とりわけ、セティ1世王墓における撮影環境は、アメンヘテプ3世王墓と比べて格段に劣っており、

軽装な装置による撮影が適しているとの判断に基づいてこの装置を使用することにした。

 セティ1世王墓のC室天井の撮影では、GigaPan Epic Proにデジタル一眼レフカメラCanon EOS 5DsR (5060万画素)とCanon EF 35mm F2レンズをF22に設定して装着し撮影を行った。同 様に、アメンヘテプ3世王墓のJ室柱の撮影では、レンズをCanon EF 50mm F1.8に変更して撮影 を行った。ともにレンズの絞りはF22とし、撮影範囲のなかで良好な画像を得ることができた。なお、

照明としては小型のストロボを複数台使用した。両王墓において撮影したデジタル画像は、これま で同様に画像接合ソフトPTGuiを利用して接合し、1枚の大画像を得ることができた(図11、12)。

 ただし、これらの接合によって得られた大画像は、その撮影環境によって補正が必要な歪みが生 じている。そこで、カメラと撮影対象との距離を測量し、そのデータを利用して画像の歪みを補正 する必要が生じている。今回は、Microsoft Real Sense Depth Cameraをカメラに装着して、カメ ラと撮影対象との距離データを得た。今後、このデータを用いて、撮影したセティ1世王墓C室の 天井面にある天井碑文と、アメンヘテプ3世王墓のJ室柱の壁画について、歪みの少ない高精細大 画像を作成する予定である。

図10 アメンヘテプ3世王墓I室、西壁の壁画(分割撮影画像と接合画像)

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図11 セティ1世王墓、C室天井(分割撮影画像と接合画像)

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(6)事業報告(岩出まゆみ)

 2019年の事業活動は以下です。

①第2回「エジプトトラベルスタディ」の実施(2月13日~20日)

 昨年2月、本学が連携をしている福島民報社と協力し、私たちの太陽の船発掘現場見学を取り入 れた特別ツアーが企画され、大きな反響を呼びました。昨年同様に新聞社から記者が同行し、随時 取材を進めながら原稿、写真を日本に送り、報道していきました。

 昨年同様40名程が参加し、今回はリピーターの方々のためのコースも設定されており、その時々 で2班に分かれての行動になりました。現地では、太陽の船発掘主任の黒河内宏昌先生のレク チャー、吉村作治学長によるサッカラの遺跡での解説、太陽の船発掘現場での解説も行われました。

(主催:JTB)

②ピラミッド・キャップストーン除幕式(5月23日)

 吉村作治学長が今から40年ほど前、1978年、テレビ番組企画でギザにミニピラミッドを建設しま 図12 アメンヘテプ3世王墓、J室柱5西面(分割撮影画像と接合画像)

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した。2か月間の工期で、クフ王の大ピラミッドの14分の1の大きさのピラミッドが建設されまし た。石灰岩の切り出し、運搬、積み上げなどに実験考古学を取り入れた画期的な番組でした。その ピラミッドのキャップストーンが日本テレビ本社ビル前に展示されていましたが、この度、社屋建 設に伴い本学に運ばれることになりました。除幕式当日は、テレビ局プロデューサで元日本テレビ 専務の佐藤孝吉ご夫妻もご出席下さいました。本学のシンボルの様な存在になると思います。

③太陽の船シンポジウム開催(5月27日)

 「第8回太陽の船シンポジウム~太陽の船をデジタルで造る~」が、18:30~20:30、早稲田大 学小野記念講堂で行われました。今年も会場は満員御礼で盛況でした。

④ギザ・プロジェクト発表会(5月29日)

 一昨年から開始したギザ台地に於けるクフ王墓探査プロジェクトですが、その成果報告会を開催 しました。調査に関わる学術関係者、私たちの発掘調査にご支援を頂いている皆様にお声がけし、

調査の概要が報告されました。黒河内宏昌先生は「太陽の船」、山下弘訓先生は「ギザ墓地」とい うテーマで、お話されました。

 その後、引き続き懇親会が開催されました。(於:リーガロイヤルホテル東京)

⑤第2回エジプト考古学研究所特別隊員認定式(6月11日)

 東日本国際大学学食で、2月に実施した第2回「エジプトトラベルスタディ」に参加した方々を 特別隊員として認定し、その後、懇親会を開催しました。

図13 キャップストーン除幕式の様子

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⑥第4回「公開研究発表会」開催(7月3日)

 本年で4回目となる研究会が、13:00~15:00、東日本国際大学1号館階段教室で行われました。

今年のプログラムは、「ダハシュール北遺跡2018年度の調査」、「大ピラミッド探査プロジェクト」

について発表され、多くの聴講者を集め盛況でした。

⑦「古代エジプト文明―気候変動と水辺の民―」展開催(8月1日~9月30日)

 福井県若狭市にある「年縞博物館」で、展覧会が開催されました。この展覧会は、開館1周年を 記念して企画されたもので、年縞博物館と隣接する若狭三方縄文博物館の2つの会場で行われまし た。8月18日には吉村作治学長の記念講演会「古代エジプトの魅力と日本の最新調査」が行われ、

大盛況でした。展覧会には本学の所蔵する古代エジプトの出土遺物や、レプリカを貸し出し、協力 しました。

⑧エジプト現地実習の実施(9月6日~15日)

 エジプト考古学マネジメントコースに在籍中の学生5名が、エジプトへ実習に行きました。出発 前には、結団式が行われました。(8月7日)その模様はマスコミにも取り上げて頂きました。

 実習には本学の教員2名(山下弘訓、矢澤健)が同行し、無事にプログラムを修了することが出 来ました。帰国後は、解団式も行われました。また実習に行った学生たちの発表会が11月30日に行 われることも発表されました。

⑨駐エジプト特命全権大使 特別講演会開催(10月2日)

 現在、カイロに着任されている能化正樹閣下の特別講演会が、12:50~13:20、開催されました。

講演テーマは「外交官への道、エジプトへの道」でPPTを使って楽しいお話を伺いました。(於:

東日本国際大学1号館階段教室)

⑩エジプト考古大臣 特別講演会開催(10月24日)

 天皇陛下の即位の礼に関わる行事にエジプトアラブ共和国大統領の名代として出席するため、エ ジプト考古大臣カレッド・エルエナニ閣下が来日され、早稲田大学国際会議場で特別講演会が開催 されました。講演テーマは「エジプト考古学および現在進行形のプロジェクト」で、会場は立ち見 が出るほどの盛況でした。

 その後、会場を移して歓迎懇親会が開催されました。駐日エジプト大使のアーマン・カーメル閣下、

緑川浩司理事長も出席され、和やかな会となりました。考古大臣閣下ご夫妻は懇親会終了後、帰国 の途につかれました。(於:リーガロイヤルホテル東京)

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⑪第1回エジプト考古学研究所・特別隊員研究会(11月30日)

 昨年、今年と2回開催された「エジプトトラベルスタデディ」に参加された方々を、特別隊員に 任命していますが、その方たち対象の研究会が行われました。

 プログラムは、吉村作治学長の講話「エジプト遺跡の見方」、続いてエジプト実習に参加した5 名の発表がありました。各学生は10日間にわたるエジプト実習に参加し、自身で決めたテーマに沿っ てPPTを使って発表に臨みました。会場からは温かい拍手も頂戴し、学生たちの今後が楽しみな発 表会となりました。(於:東日本国際大学1号館階段教室)

 研究会終了後、市内レストランに場所を移して懇親会が開催され、特別隊員、発表した実習生な ど40名が参加しました。

⑫エジプト展示「エジプト考古学者のおしごと展」(11月30日、12月1日)

 本来なら10月最終週に行われる本学の文化祭「鎌山祭」ですが、今年はいわき市一帯が台風19号 による被害を受け、断水に見舞われ休校となったため、開催が中止となりました。しかし準備を重 ねてきたこともあり、日にちを変えてエジプト展示を行うことを許可して頂き、開催に至りました。

(於:東日本国際大学1号館101教室)

図14 エジプト考古学者のおしごと展チラシ

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⑬吉村作治学長受賞(11月4日)

 エジプトのギザで開催されていた第12回国際エジプト学者会議に於いて、吉村作治学長の50年に 及ぶ功績が評価されて表彰されました。エジプト考古学者会議は世界中のエジプト考古学者が集い、

4年に1回、各国で開催されるもので、エジプトでの開催は4回ごとになります。

 表彰式はギザのメナハウスの会場で行われ、吉村学長に記念の盾がエジプト考古大臣カレッド・

エルエナニ閣下によって手渡されました。授賞式の模様はエジプトのテレビで報道され大きな反響 がありました。

⑭エジプト特別番組の放送(12月8日)

 私たちエジプト考古学研究所が調査している「太陽の船復原」、「ギザ・クフ王墓探査」を、大ピ ラミッドの謎やツタンカーメンの謎と関連付けて、エジプト特番が毎年、制作されてきました。テー マは「ピラミッドの正体~鍵は太陽の船とツタンカーメン~」(制作RKB)で、15:30~16:48、

TBS系列で放送されました。このようなドキュメンタリー番組は私たちの調査研究を広く日本の 方々に知って頂くために最適のものだと思います。

 エジプト調査も、太陽の船復原プロジェクト、ダハシュール北遺跡調査、ギザ西武墓地調査、大 ピラミッド探査プロジェクトが行われました。

 今後の予定としては、2020年3月14日(土)15:00~18:00、早稲田大学国際会議場で、「エジ プトフォーラム28」が開催予定でしたが、コロナウイルスの影響により中止致しました。

 これからもエジプト考古学研究所所員一同、調査研究に邁進して参ります。

図15 駐エジプト全権特命大使能化正樹閣下と授賞式の会場にて

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*1 東日本国際大学学長・教授

*2 東日本国際大学エジプト考古学研究所教授

*3 東日本国際大学エジプト考古学研究所客員教授

*4 東日本国際大学エジプト考古学研究所所長・客員教授

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