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小学校における燃焼教材のあり方について
著者 森本 弘一, 仲村 充代
雑誌名 奈良教育大学教育研究所紀要
巻 31
ページ 1‑8
発行年 1995‑03‑01
その他のタイトル The study on combustion materials in elementary school
URL http://hdl.handle.net/10105/6897
小学校における燃焼教材のあり方について‡
森本 弘一・仲村 充代 (理科教育研究室)
要旨:明治以降現代までの教科書に見られる小学校理科の燃焼教材の変遷につ いて調べ、それをもとに教材の検討を行った。明治以降現代まで登場してきた 教材は、26種類あっれそのうちの5つの教材は若干途切れながらも一貫して 使われてきたことが分かった。これらを検討していくといずれの教材も燃焼と いう現象や概念を教えるのに基本的な教材であることが示唆された。
キーワード:燃焼教材 歴史的変遷 小学校理科
1.はじめに
小学校における燃焼教材は、子供の興味を引くものであり日常生活との結びつきの深さから価 値あるものと思われる。その検討については、これまでまとまったものとしては、勝俣仁 〕2〕の研 究があり、そこでは、「1日5学年の内容に準じ燃焼を支える空気との関連から燃焼を扱う」「燃焼 のプロセスよりも燃焼後の生成物から化学変化をとらえさせる」「身近な燃えるものを扱う中で の燃焼を学習の中心に据え金属の酸化は扱わない」「乾留実験は必要に応じて発展学習とすれば よい」ということが主張されている。また個々の教材の検討については、野村好俊ヨ〕大村高4〕があ り、子供の考えについては、塚原健5jなどがある。しかし、いずれの研究も歴史的な考察を行っ ているものではない。
そこで、明治以降から現代までの教科書を調べ、燃焼教材についての変遷をまとめると共に、
その在り方についての考察を行った。
2.燃焼教材の変撮
燃焼教材の変遷について調べるために、明治6年一昭和23年までは日本教科書体粛〕を用い、
昭和25年一平成3年までは大日本図書の教科書刊を用いて掲載されている教材をまとめたのが図 1である。また、その掲載年をまとめたのが表1である。表1を見ると長期間にわたり用いられ ている教材と短期間しか用いられていない教材が存在していることが分かる。比較的長期間にわ たり用いられている教材は図1に示されているB,C,E,J,Kであり、短期間しか用いられて いない教材はA,D,Fなどであり、それぞれについて検討を行った。
*The study on combustion materia1s in elementary school
**Kouichi MORIMOTO,Mitsuyo NAKAMURA(Department of Science Education.Nara Universi−
ty of Education)
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図ユー1 燃焼教材例
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図1−2 燃焼教材例
表1−1 明治以降の教科書にみられる燃焼教材の変遷
明治6年 7年 13年 20年 21年 26年 27年 33年 44年 大正7年 11年 昭和4年 1τ年
22年 23年 25年 27年 28年 29年 33年 35年 36年 40年 43年 46年 48年 51年 54年 57年 60年 63年
平成3年
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3.長い期間使われている教材 (1〕B,Kについて
図1−1のBの教材は、酸素の中で植物体が激しく燃える現象を示したものであり、燃焼と いう現象を視覚的、直覚的にとらえさせるのに効果があり、物質の変化を追究する意欲を増大さ せることができると指摘されている!〕。酸素に関しては、子供達は、人間が吸うもの、植物が昼 に吐き出すもの、火が燃えるのを助ける、空気中に含まれる酸素は最も大切なもの、という考え を持っており、このことをこの実験により喚起することができる。さらに、ろうそくの炎の色の 違いは温度差によるものという知識を与えることにより、どうして外側がよく燃えるか?空気(酸 素)がたくさんあるからではないかという予想をもとに、炎に酸素を吹きかけて燃える様子を観 察するなどの学習活動を展開することができる。図1−1のKは、子供達自身で酸素を発生、
表1−2 明治以降の教科書にみられる燃焼教材の変遷
NOPQRSTUVWXYZ
明治6年 7年 13年 20年 21年 26年 27年 33隼 44年 大正7年 11年 昭和4年 17年 22年 23年 25年 27年 28年 29年 33年 35年 36年 40年 43年 46年 48年 51年 54年 57年 60年 63年
・平成3隼
捕集させるというもので、この技能を身につけさせることは極めて重要であると指摘されている副。
12〕Cについて
図1−1のCの教材は、植物体を燃やした後に二酸化炭素ができたことを石灰水の白濁によ り調べたものである。子供達はそれまで「水の3つのすがた」(水蒸気・水・氷)、「ものの温ま り方」で水の物理的変化を学習しているが、ここで初めて燃焼による酸素から二酸化炭素への質 的変化を学習することになる臼〕。二酸化炭素に対する子供達の考えは、人間がはいた息、植物が 昼に吸うもの、清涼飲料水にとけているもの(炭酸飲料)、二酸化炭素中毒で死ぬ、などといっ たものであり剛mj、酸素と同時に日常的な会話にも登場してくるものであると考えられる。しかし、
酸素、二酸化炭素は無色透明であり、燃焼により酸素が使われ二酸化炭素ができたという変化は 目に見えない。それをはっきりと目に見えるかたちで解決していくのに石灰水を導入することは
、L
10 2
図2 気体検知管による測定
表2 燃焼の前後における酸素、二酸化炭素の割合
燃焼前 燃焼後
酸 素 21% 17%
二酸化炭素 O.03% 3%
効果的であると指摘されているコ 〕。この理由から、長い期間、図1−IのCの教材は使われてき たのだろう。一方、この実験を行うことで、燃焼前は空気中に酸素があり、燃えると酸素は全て なくなり、二酸化炭素で満たされるといった考えを持ちやすい。そこで、実際はそうではなく燃 焼の前後に酸素、二酸化炭素が存在することを示すのに、気体検知管という新しい教材で調べる ことができる。その様子と結果を図2、表2に示す。これを見ると、燃焼後もかなり酸素がある ことが分か糺また、二酸化炭素は思ったほど増えていないことも分かる。ここでは、補足の話 として、ヒトは酸素濃度が16%あれば大丈夫だが、16%未満から10%までで気分が悪くなり、10%
以下では意識不明になる 却。だから、危険が予想されるところでは、ろうそくに火をともして持っ ていき、ろうそくの火が消えるかどうかでその危険度を調べることができるといったことも子供 に話すことが可能である。
13)E,E について
図1−1のE,E は、燃え続けるには空気の出入りが必要であることを示す実験である。子 供達に火を消すにはどうしたらよいかという問いを発すると、それに対する考えは、水をかける、
吹き消す、であり、ぬれたふとんなどをかぶせるといった空気の遮断方法にふれたのはごくわず かであった、と報告されている 帥。アルコールランプを使った際、火を消すのに蓋をしていても、
それが空気の遮断であるという意識はないと言われている岨〕。これから考えると、野外でのはん 合炊さん、やきいも、キャンプファイヤー、焼却炉などで、木がよく燃えるようにするにはどう したらよいかといったことを考えさせても、空気の出入りを意識する子供はわりといないのでは
ないかと思われる。だから、キャンプにいって、はん合炊でまきを燃やす場合、まきをどっさり 積んだ上に火種の新聞紙をのせたり、ごみを燃やすにしても、いちばん上に火種をのせたりする のだろう。まわりを少し持ち上げ、すき間を作り、火種を入れることはほとんど知らないようで ある。この教材は、日常生活との関連を持たせるうえにも、燃焼には空気、特に酸素の供給が必 要であることをとらえさせるためにも必要だと考える。
14)Jについて
図1−1のJは、乾留実験であり、これは空気が入れ替わらない場合でも熱を加えると質的に 変化することをとらえさせるのがねらいである。しかし、通常このような燃焼の形式を見ること
はないし、空気が入れ替わらないところでは酸素が不足し、物は燃え続けることはできないと考 えらえる。それなのに、「空気が入れ替わらないようにして木を熱し続けるとどうなるか」と一 見矛盾しているような内容であるため、子供は混乱しやすい内容である。子供達の多くは、木片 を空気の入れ替わらないところで熱するとき炎をあげて燃え出さないのは、「アルコールランプ の炎が直接当たっていないため」と考え、「空気がないから」と考えた子供はごくわずかである という報告がある1〕。これはまさにしかりといったところである。この教材が長い間使われてい る理由としては、昭和23年までは、木炭が燃料として長い間実生活で使われたためではないかと 考えられる。木の乾留による熱分解生成物としての木炭に関する学習は、生活に使われていた石 炭と共に価値ある教材と考えられたが、今では生活で使われていないため、まるで生活単元学習 時代の遺物のようにも思える。これは発展教材として扱うなどの大きな検討を要すると考える。
4.短い期間しか使われていない教材 11〕A,G,H,Pについて
A(図1−1)の炎は光と熱を発する、G(図1−1)のろうそくの炎の構造、H(図1−1)
の酸化鉄のさび、P(図1−2)の塩素酸カリ、二酸化マンガンをマッチの先にづけることで火 をつきやすくする、は、3(1)で述べたB,Kに関連のある教材である。
Aの教材に関して述べると、ろうそくの炎を観察して、「熱い」という発熱を指摘した子供の 割合は第5学年では100%に達しているが、「光っている」という発光を指摘した子供の割合は約 35%と低い値を示すことが報告されている1引。これは燃焼用ガスやアルコールの炎は青白く、昼 間では気付きにくいという事実が発光の指摘率を低くしている要因であろう、と述べられてい る1 〕。子供達は、キャンプファイヤーでは光の意識があるだろうが、ガスコンロでは光の意識は あまりないと思われる。光と温度の関係は、後の星の学習のところで生かされているので消えた のは惜しい気がする。
Gの教材に関しては、松森ら 訓の報告にあるように、炎の三層構造が同定できないのではない かという議論があり、教材として好ましくないということで削除されたようである。
Hについては、燃焼との直接の関わりを説明することが困難なために削除されたと思うが、新 学習指導要領1冊では、金属の燃焼という別の形で登場している。
Pについては、当時、マッチは日本の重要な産業であるという時代背景を反映していたのでは
ないかと考えられるが、内容が難しかったため削除されたと考えられる。
(2〕D,L,M,N,Xについて
D (図1−1)のろうそくを燃やすと水ができる、L (図1−1)のろうそくの炎に二酸化炭 素をかけると炎は消える、M(図1−1)のろうそくを燃やすと水面が上昇する、N(図1−1)
の二酸化炭素の捕集、X(図1−1)のろうそくを燃やすとすすができる、は、3(2)で述べたC の関連のある教材である。
D,Xの教材に関して述べると、ろうそくが燃えると、二酸化炭素と水ができすすができる。
これは、ろうの中に炭素や水素が含まれ、これらが燃焼時、酸素と結び付き二酸化炭素と水がで きるという内容である。しかし、このときの水は通常、炎の熱で水蒸気の形になるため、観察さ れることはない。だから、学習指導要領では、このことを特に取り上げて指導することはない、
ということで省かれている。だが、集気ビンの中でろうそくを燃やすとき、外気の温度が低いと、
ガラスがくもることがある。これについて、勝俣仁1〕は、「学習指導要領では、水の生成について は何もふれられていない。これでは化学変化としての押さえ方が弱いといわざるを得ない」と述 べ、これらの教材の必要性を主張してい乱
Lについて述べると、この実験を見せると、子供達は、二酸化炭素は炎を消す働きがあると勘 違いしてしまう。二酸化炭素が空気より重いことは示せても誤解を招いてしまうものである。学 習指導要領で重さについて扱うことがなくなったので、今はない教材である。
Mの教材については、面白く印象的な実験だが、誤解しやすい教材ではないかと思㍉ろう そくを燃やすと水面がコップのほぼ1/5程上昇し、空気中の酸素が全部使われるというように受 けとられてしまう。つまり、燃えるものがあると空気中の酸素がなくなるまで燃え続けると勘違 いしてしまうのである。このことを打解するには先に述べたように気体検知管を使った実験が効 果的であるが、わざわざ誤解の多い教材を使うことはないものと考える。
Nについては、二酸化炭索のみを取り上げることの必要性から、取り入れたり取り入れられな かったりしたのではないかと考えられる。
13)F,R,Sについて
F (図1−1)の石炭ガスをつくる装置、R (図1−2)のまき・炭など家で使っている燃料、
S(図1−2)の石炭の使い道、は、3(4)で述べたJに関連のある教材である。
これらの教材は、昭和30年代までの教材である。これこそ木炭・石炭を燃料として実生活で使 われていた時代にあった教材であり、理科全体の内容の削除の中で消えていった教材である。時 代の変遷と共にした教材といってもいいだろ㍉
5. おわり こ
本稿では、「小学校における燃焼教材のあり方について」と題し、小学校における燃焼教材に ついて、明治以降の教科書にみられる燃焼教材の変遷を調べることによって教材を検討してきた。
今後は、本研究で明らかとなった問題点や、また、小学校に入学する前に体験すると考えられて いる原体験と小学校の延長上にある中学校理科の関連を考慮して、小学校6年生の燃焼教材の検
計を続け、授業プランの作成を行っていきたい。
〈参考文献〉
1)勝俣仁:小学校における化学教材の課題と展望〜燃焼教材の指導出,理科の教育,p22−p24,
東洋館出版,1993.8
2)勝俣仁:「初等理科教育における燃焼教材に関する研究」,横浜国立大学大学院教育学研究 科理科教育専攻理科教育専修修士論文,昭和57年度
3)野村好俊:小学校5年「酸素と二酸化炭素」,理科の教育,p28−p31,東洋館出版,1981.9 4)大村高:「燃焼や加熱とものの変化」,初等理科教育臨時増刊号,p279−p285,初教出版,
1990.7
5)塚原健:連続してかかわり続ける授業の展開,6学年「ものの燃え方と空気」を通して,初 等理科教育,Vol,27.No.8,p26−p29,初教出版,1993.7
6)日本教科書体系近代編 講談杜発行
第22巻理科(二)昭和40年発行(明治6一明治13年度)
第23巻理科(三)昭和41年発行(明治20一昭和4年度)
第24巻理科(四)昭和42年発行(昭和17一昭和23年度)
7)小学校理科教科書,大日本図書(昭和25一平成3年度)
8)初等理科研究会:5学年「火と空気」(2)酸素と二酸化他炭素,初等理科教育,Vol.24.No.12,
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10)5学年「酸素と二酸化炭素」,初等理科教育,Vo1.23.No.12,p56−58,初教出版,1989.
11
11)初等理科研究会:5学年「火と空気」,初等理科教育,Vo1.23,No.11,p60−p62,初教出版,
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12)飯島俊一郎:まちかどの科学,p62−p64,共立出版
13)初等理科研究会:5学年「火と空気」,初等理科教育,Vol.24,No.11,p60−p62,初教出版,
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14)川原寄人:「燃焼に関する子供の認識の発達」,理科の教育,p14−p18,東洋館出版,1981,
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