日本 管理会計 学会誌
管理 会 計学1996 年第 4 巻第 2号
論 文
総 合 原 価 計 算 に お ける非 度 外 視法 の 研 究
仕損 じお よ び減損が一 定 点で発生する場合一
村 田 真 理 *
〈論文要旨〉
総 合 原 価 計 算にお い て, 工 程で仕 損 じ お よ び減 損が 生ずる場 合に従 来か ら用い ら れる 方法と しては,度外視法と非度外視法が あ り,非 度 外 視 法は原 価 管理 目的のた め,な ら
び に正 確な製 品 原 価の測 定の た め に有 用である と さ れてい る.し か しなが ら, その測 定 構 造 に はい くつ かの 問 題 点が存 在 する.ま ず,通 常 は工 程の 広い 範囲に分布して存 在 す
る と考 えら れ る期 末 仕 掛 品の状態を単一の
進 捗 度の値に よっ てあら わ し, その値に もと
つ い て仕損じ費お よび減損費の追 加 配 賦の方法を 決定し てい る た め,本来は そ れ ら の発 生 点 を通過 して い ない 期末仕掛 品が仕損 じ費お よび減損 費を負担 し た り, 発生点を通 過 してい るの に仕 損じ費 お よ び減 損 費を負担 してい ない期 末 仕 掛 品 が 存 在 する場 合が 生 じ
る.また,工 程に おける仕損じ と減損の発 生点を あら わすため に用い ら れ てい る進 捗 度
の概念と,そ れ らの完成品 換算数量 を求め る際に用い ら れ る本 来の意味で の進 捗 度の概 念とが 混 同 されてい るばか りで はな く, 原 価 計 算 上の仕 損 じと減 損の区 別が明 確で な く,
互 い に どの よ うにか か わ りあっ てい るかにつ い て も 明示さ れ てい ない の で ,伝統的 な方 法に よっ て求め ら れ る完成品原価は,必 ずしも正確で あ る と はい えない .
そこ で本 研 究は,正 常 な仕 損 じ と減 損 と が そ れ ぞ れ工 程の一定 点で発 生 す
る場 合にお
い て, 総 合 原 価 計 算の 先 入 先 出 法に よる非 度 外 視 法につ い て,伝 統 的 方 法の 特 性 とその 問題点を究明する と と もに,そ れ らを 改善する新 しい 製 品 原価の測 定 方 法 を提案する.
こ の 方 法で は, 仕 損 じと減 損 につ い て , 概 念 上の区 別 だ けではな く計算上の 区別 も明確
に し,仕 損 じ と減 損の 関 連の 仕方 を 反 映 させ ,ま た仕損じと減損の 発 生点を あら わす 進 捗 度が完 成 品 換 算 数 量 を算 出 する た めの進 捗 度 と必 ず し も 同一で はない こ とを 指 摘 し,
両 者 を明確に 区 別 して 取 り扱う.さら に, こ の 方法は個々 の 仕掛 品の 進捗状 況 を と ら え,仕損発生点を通 過 し た仕 掛品の 数量と,減損発 生点を通 過 し た仕 掛 品の 数 量を把握 し, 実 際に それ らの 発 生と因 果 関 係の ある ものだけに仕 損 じ費お よび減損 費を正 しく追 加配 賦 す ること を 可能にする.
〈 キーワー ド〉
総 合 原 価 計 算, 非 度 外 視 法, 進 捗 度, 仕 損 じ費, 減 損費, 仕 損 発 生 点, 減損発 生 点
1995 年12月 受付 1996年 2月 受 理
*東 京 理 科 大 学 経 営 学 部 助 手
The Japanese Association of Management Accounting
The Japanese Assoolatlon of Management Aooountlng
管 理会計 学 第4巻第2号
1. は じめ に
総合原価計 算の方法は,原価 計算期間内の 時間の 経過に応 じて生 産 活 動の状 況 を継 続 記 録的に測定する動的 な方 法 と, 原 価 計算期 間内の 時 間の経 過を と くに考 慮 しない 静 的 な方 法 と に大 き く分 けるこ と がで きる.伝 統的 方法は, 期 末 仕掛品の 進 捗 度の 概 念を用い て 計算し た完成 品換算数量に もとつ い て 期 末仕掛品 原価と期 中完成品原価と を求め る とい う
簡 便な方 式 によっ て お り, 原 価 計 算 期 間 中の時 間の経 過に 応 じて継 続 記 録 法に よ り原 価が 変 化 する過 程を と くに測 定 するこ と を し ない の で , 静 的な方法で あ る. こ の伝統 的 方法に
よっ て仕 損 じ と減損が 生ずる場合の 製品原 価 を測定する方 法には ,度 外視法 と非度外視法
がある こ とは周知の とこ ろで あるが , これ らの 方 法の特 性 を究 明 した うえで期末仕掛品原 価 と期 中完 成 品 原 価の 測 定 方法を十 分 に検 討 す る こ と は, こ れ まで必ずしも十 分に行わ れ て い る と はい えない . と く に非度外視法は, 原価 管理 El的の ため ,お よび製 品原価の 正確
な測 定 目的の ため に用い る方 法で ある とい われ なが ら, その 測 定 構 造 につ い て は, 少 な く ともつ ぎの 3 つ の 問 題 点が存 する とい える.
すな わ ち, まず第1の 問 題 点は, 通 常は 工程の 広い 範囲に分 布し てい る期末仕掛 品全体
の 状 態 を単一の 進捗 度の値に よっ てあ らわ す とい う方 法 に よっ て い る こ とで ある. この 方法は と くに, 仕損 じ ない し減損の発生点を考慮して期 末仕掛品に 正常仕損 じ費と 正常 減 損 費とを負担 させ る ときは 非常 に 不 合理 と な る. し た が っ て期末仕掛品が 工程の 全 区 間に
ある場 合 を対 象 と しうる新 しい 方 法へ と伝 統 的 方 法 を拡 張 する必 要がある.
ま た,第2 の 問 題点は, 工程に お い て 仕 損 じ と減損の そ れ ぞ れ の発生点をあら わすた め に進 捗度の 概 念が用い られ てい る が, こ の 進 捗 度が , 仕 損 じと減損の そ れ ぞ れの 完成 品 換算 数量 を計 算する ときに用い ら れ る進 捗 度と必 ずし も同一 の もの で ある と はか ぎ ら な
い に もか か わ らず, い つ も同一
視さ れて い る こ とで あ る. し た が っ て, 仕 損 じ と減 損の そ れ ぞ れの 発 生点をあらわ す 進 捗 度と そ れ らの 完成 品換 算数量 を計 算す る ときの 進 捗 度 と の 関係 を明 ら か に する必 要が ある.
さ らに, 第3 の 問題 点 と して , 発生原 因と発生形 態が異なる 仕 損 じ と減 損 とは概 念 上 こ そ 区 別 され て い るが, 測定方式 上は 通常は必 ず しも明確に区別さ れ てお らず,仕損じと減 損と は 互い に どの よ うに 関わ りあっ て い る か につ い て必ずし も明ら か に しない で 総合原価 計算を行っ てい るこ とを あ げる 必要が あ る.とくに非度外視 法で は,仕損 じ と減 損の 関連
の仕 方 を明 らかにする こ とが 重要である.仕損じと減損との 関 連の 仕 方に つ い て ,すで に 標 準 原価 計 算の 領 域 におい て は片 剛 4]と佐 藤 進 【8}に よ っ て, 減損 数 量が良品 と して の 完 成品と仕損じ品と両方の 産出数量の 関数として 生ずるもの で ある と して 直 接 材 料費の差 異 分 析の 方 法を提 案 してい る .
総 合 原 価 計 算にお ける非 度 外 視 法の研 究
伝統的方法と して の 非度外視法の これ らの 問題点は十分に議論 する こ と が重要で ある. また, 総 合 原 価 計 算の動 的 な 方 法は, 片 岡[1】, [4亅に よ り原 価 計 算 期 間 中の 時 間の経 過 を とくに考慮 し, た んに払出材料に つ い て だけで は な く, 工程の 生産活 動 の状 況 を と らえ るの に継続記 録的先入先出法を適 用 して , 消 費 価 格 , 消 費 能率 , 歩留り等, すべ て の 変 数 を時間の 経過 に応 じて変化 する値と して と らえる こ と に よ り, 生産活動を現実の 状況 に即 した よ り正確に測 定 する方 法 と して提 案 さ れた . し か し な が ら, こ の 動的 な方法は , 仕損
じ と減損の 測定方法を採 り入 れ た精 緻で 完 全な測 定 方 式 と して は い ま だ展 開さ れて い な
い .今 後, こ の動 的 な方 法は, 仕 損 じと減 損 が 発 生 する様々 な状 況 を対 象と して農 開 され る必 要がある.その た め に は,まず 静 的な方法に おい て仕 損 じ費 と減 損 費の 測 定 方法 と そ
れ ら を期末 仕 掛 品 と期 中 完 成 品 と に正 確 に負 担 さ せ る基 本 的 な方 法 を十 分 に検 討 するべ き
で ある とい える.
そ こで本論 文で は,正常な仕損 じと減損 と が そ れ ぞ れ 工程の 進捗 の 一一定 点で発生す る 場 合につ い て , 総 合 原 価 計 算の伝 統 的 な方 法で ある静 的 な方 法と して の先 入 先 出 法に よる
非 度外 視 法 につ い て , 上述の 3 つ の 問 題 点に対 処 し た新 しい 方 法 を提案する こ と を目的と してい る.た だ し,仕損 じ品はすべ て売却 ない し棄却さ れ るもの とする.な お, 以下 ,た ん に仕 損 じ費お よび減損費 とい う場 合は, 正常なもの を指す もの とする.
2. 伝 統 的 方 法の基 本 構 造 と前 提 的考 察
本 節で は, まず伝統的 方 法 と しての 先入先 出 法に よ る非 度 外 視 法 (以下, た ん に 「伝統 的 方 法」 とい う)の計 算 構 造 を示 し, つ ぎに , 第 1の 問 題 点 に関 連 して期 末 仕 掛 品が 工程 全体に存する場合を対象としうる よ うに伝統的方法を拡張し, 以後の議 論の 前提とな る考 察 を行 う.
総合原価計 算の伝 統的方 法で は仕損じ と減損とは概念こそ区 別 さ れて い る が , 測定方式 上 ない し処 理 上は , た とえば 「減 損の 処理 は仕 損 じ に準 ずる」 (原 価 計 算 基 準 第4 節 27)
とされて お り, とくに区 別 されて い ない . そこ で 以下で は, 伝 統 的方 法に仕 損 じ と減 損の 区 別 を導入 して 検討 を行 うこ と にする.そ こでつ ぎに基本的な記号を定義する.
i :任意の 原価要 素 (i= 1,2,
… …
,n) c,、:原価要素iの期首仕 掛品原価 額 QB:期首仕 掛品数量 (完成 品数量単位 尺 度) c、、:原 価要素iの 期中投入原 価額 Q。 :完 成 品 産 出数 量 (完 成 品数 量 単 位 尺 度) θBi :原 価 要 素iの 期 首 仕 掛 品進 捗 度
Q。 :仕損じ 品産出数量 (完成品数量 栄位尺度 )θnt :原価要 素 iの 仕損進 捗度
Qw:減 損 産 出 数 量 (完 成 晶 数 量単位 尺 度) θw, 1原 価 要 素iの 減 損 進 捗 度
Q。 :期 末 仕 掛 品数 量 (完 成 品数 量 単 位 尺 度) e。、 :原 価 要 素iの 期 末 仕 掛 品進捗 度
The Japanese Association of Management Accounting
The Japanese Assoolatlon of Management Aooountlng
管理会計 学 第4巻 第2号
以 上の 記 号 を用い て , 伝 統 的 方 法の 計 算 構 造 を示 す た め に,期 中に投 入さ れ た任意の 原価 要 素iの 完成品換算数量 Q;をつ ぎの よ うに定 義する,
QI= Qa 一 QB eB t + Q. e. ,+ QiV ew,+ Q. e.、 (2.1)
(2.1)式 を用い て, 原 価 要 素iの期 中の 完成品原価CGi, 仕損 じ原 価 CD、, 減損原価 (すな わ ち減損 費)Cw,お よび期 末仕掛 品原価C。tは,それ ぞ れ以 下の各 式に より分離計 算さ れ る. CG、= CBi+Cl、(QG一亀 θB、)/Ql (2.2) C.e= c,、QD砺、ノQl (2.3) Cw、= C∬、Qw θw、/Ql (2.4)
CE、=C, 、QEθE、/Ql (2.5) 以上め各式は , 従 来は仕 損 じ と減 損 とを必 ず しも明確に計 算 上 区 別 しなか っ た の に対
して , こ の 区 別を明 示 し た もの にすぎない の で , 基 本 的に伝 統的方法に よ る もの で ある
とい える.
そ こ で まず, 期 末 仕 掛 品の 進 捗 度と その 完 成 品換 算 数 量 につ い て検 討 する .伝 統 的 方 法で は任 意の 原 価 要 素iにつ い て , ある 工 程の 期 末 仕 掛 品の状 況は, 単一の 進 捗 度 θ。 ,の
値 で 示 さ れ るの が ふ つ うで あ る.1つ の 進 捗 度の 値で あ ら わ さ れ る とい うこ と は, その
工 程 にある すべ て の 期末仕掛品 が同一の 進 捗 状 態 (図 1参照〉にある か, あるい は, そ
の 工程に 一定の 範 囲に存して い る場 合 に は, それ らの 仕 掛 晶の平 均 値 をあ ら わ して い る
(図2参照)と み な さ ざる を えない こ と に な る.
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一一■■一一一■噛■一一■■一一■唱
Q・
図 1.同一の 進 捗 状 態の 期 末仕 掛 品
Q,, Q,,
図 2.一 定の 範 囲に存在 する期 末 仕 掛 品
図 1 と図 2 の 横 軸は, 期末 仕掛品数量 を あ らわ し, 縦 軸は進 捗度 を示 し て い る.図 1
で はすべ て の期 末 仕掛品数 量 Q。が e。、とい う 同一の 進 捗 度の 状 態 にあ り, 減 損 発 生 点 bwt
を通 過し た こ と, す なわち eEi> ∂. ,で ある こ と をあ ら わ して い る.
図 1が示すよ うに, 原価要素iにつ い てすべ て の 期末仕掛 品が同一の 進 捗状態にある場 合 には , 単一の 進捗度の値 で 示 さ れ る こ と が適 切であるこ とは 当 然で あ り, し た が っ て