青年期における対人的葛藤のあり方と自己愛傾向との関連−質問紙法とロールシャッハ法による検討− [ PDF
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(2) 「注目・賞賛欲求」 「優越感・有能感」 「自己主張性」の. Table1. 各群の心理的対処反応尺度因子の平均値と標準偏差. 3 因子からなる(30 項目、5 件法)。. 61.00. 近づき 不安群 50.18. (12.28). (11.38). 葛藤高群. 4)実施手続き:講義時間に一斉配布、集団で実施。 2.結果と考察. 萎縮. しがみつき. 1)青年期の対人的葛藤、不安の特徴 山アラシ・ジレンマ尺度において対他要因の得点が高い. 見切り. 傾向にあった。青年が円滑な関係を求め相手を気遣う傾 向が支持されていると考えられる。. 総得点. 2)対人的葛藤、不安のタイプの現れ方. 38.92. 遠ざけ 不安群 54.77. (11.71). (13.53). 葛藤低群. 27.32. 22.16. 19.50. 25.29. (7.49). (5.76). (5.57). (6.91). 56.95. 48.87. 41.80. 43.17. (10.63). (11.12). (8.69). (8.09). 145.27. 121.22. 100.23. 123.23. (21.67). (24.02). (21.04). (24.72). 対人的葛藤、不安のパターン抽出のため、山アラシ・ジ. F値. 多重比較. 19.47. 1>2>3* 4>3*. 9.99. 1>2,1>3* 4>3*. 13.40. 1>2>4* 1>2>3*. 18.53. 1>4>3* 1>2>3*. ( )内は標準偏差 *p<.05. レンマ尺度についてクラスター分析(Ward 法)を行っ た。結果を Fig.1 に示す。. (2)自己愛傾向と各群×NPI-S 各因子の一要因分散分 析を行った結果、 「注目・賞賛欲求」 「自己主張性」因子 において有意な主効果が見られた。多重比較(Tukey 法). 2 1.5. の結果を Table2に示す。. 1. Table2 各群の自己愛人格目録短縮版NPI- S因子の平均値と標準偏差. 0.5 APP 対自 0 -0.5. クラスタ1 クラスタ2 クラスタ3 クラスタ4. -1. LEA対自. 35.09. 近づき 不安群 29.16. (8.14). (7.99). 葛藤高群. APP 対他. 注目・賞賛欲求. LEA対他. 28.80. 遠ざけ 不安群 34.09. 6.38 1>2,1>3*. (7.06). (8.30). 4>2,4>3*. 葛藤低群. F値. 多重比較. -1.5 -2. 優越感・有能感. 24.45. 25.05. 28.15. 25.06. (7.75). (6.93). (6.76). (7.54). 1.94. n.s.. 3.53. 3>4*. 1.33. n.s.. Figure1 各クラスターの山アラシ・ ジレンマ尺度下位因子プロフィール. 自己主張性. Fig.1より、クラスター分析の結果、全ての因子得点が. 29.45. 30.09. 33.17. 28.09. (8.28). (6.34). (6.23). (8.61). 総得点. 90.0. 84.30. 90.13. (21.44). (16.34). (15.95). 高い『葛藤高群』 (22 名) 、近づくことへの不安が高い『近. 87.23. (20.52) ( )内は標準偏差 *p<.05. づき不安群』 (93 名) 、全ての因子得点が低い『葛藤低群』 (40 名) 、近づくことでの自分の傷つきが感じられにく. Table2より、「注目・賞賛欲求」因子について、「葛藤. く、離れることへの不安の高さが特徴的である『遠ざけ. 高群」と「遠ざけ不安群」がそれぞれ「近づき不安群」. 不安群』(35 名)の4群を得た。. 「葛藤低群」より有意に高い得点を示した。 「葛藤高群」 と 「遠ざけ不安群」 は共に対他的な不安が高い群であり、. 3)対人的不安のタイプと心理的対処反応、自己愛傾向. 「注目・賞賛欲求」と他者評価懸念との関連を指摘する. との関連. 先行研究(小塩,1998a、岡田,1999)を指示する結果. (1)各群×心理的対処反応各因子の一要因分散分析を. が得られた。 「自己主張性」因子については、 「葛藤低群」. 行った結果、3因子全てにおいて群間に有意な主効果が. が「遠ざけ不安群」より有意に得点が高かった。. 見られた。多重比較を行った結果を Table1に示す。 Table1 の結果より、 「萎縮」については葛藤高群が他 群に比較し高い得点を示した。近づく不安、離れる不安. Ⅲ.第二研究. の葛藤の結果、萎縮という動きの停止に繋がることが示. 対人的な葛藤、不安が無意識レベルではどういった様相. されたといえるだろう。現代青年について、自他の傷着. を呈すか、探索的な検討を行った。. ロールシャッハ法からの検討. きを避けるため互いに踏み込まない表面的な関係を持ち やすい傾向が指摘されている(岡田,1993)が、本研究. 1.方法. でもその傾向が指示されていると言えよう。また、近づ. 1)調査対象:第一研究の被験者のうち、協力の得られ. くことへの不安が高いと関係を断ち切る「見切り」の対. た 12 名(男性3名、女性9名)。平均年齢 20.83 歳. 処を取りやすいことが示された。. (SD=0.83)。.
(3) 2)実施時期:2004 年 10 月. を伴う反応が算出され、次第に Anxiety(不安感情)が. 3)調査内容:個別面接形式にて実施。. 加わり、終盤では Hostility(敵意感情)を伴うものへと. 4)分析方法:名古屋大学式技法によるスコアリング。. 変化していった。対象と関わっていくほどに不安な気持. 臨床心理学を専攻する大学院生 4 名によって評定された。. ちや敵意が高まるようであり、反応が明細化されるにし. 第一研究における4群について、分析を行った。内訳は. たがって不安や敵意をはらむものに変化していった。対. 葛藤高群1名(女性、事例 A) 、近づき不安群6名(男性. 象に近づくほどに不安感が募る様子がみられた。また脅. 2名、女性4名。事例 B∼G) 、葛藤低群1名(女性、事. 威や不安を感じさせる対象を「山の奥」 「海の奥深く」と. 例 H) 、遠ざけ不安群4名(男性1名、女性3名。事例 I. 遠ざけるという対処が取られたことも興味深い(Ⅰカー. ∼L)であった。そのため統計的な検定は行わず、事例. ド、Ⅳカード) 。対象との距離のとり方をめぐるゆれ動き. 的に検討することとした。. が捉えられたといえよう。. 2.結果と考察. 3)葛藤低群. 各群に特徴的な事例を取り上げて検討した。. ①形式分析:. 事例 H(女性). H%=36.4%であり、対人的にはやや過敏である。感情 1)葛藤高群. 事例 A(女性). カテゴリーについては N%=59.1%であり、感情的な動. ①形式分析:. きがやや乏しい。敵意感情 Hostility や不安感情 Anxiety. 情緒的に揺さぶられやすく、外界に対して主観的になり. といった不快感情は全く見られず、快的感情 Positive. やすい(F%=16.7) 。人間反応の割合も高く(H%=45.8) 、. Feeling の割合が 75%と突出しており、ついで依存感情. 対人的な過敏性がうかがえた。決定因については FV,FT. Dependency25%となっている。全般的にポジティブな. の割合が比較的高く、内省力の高さと共に他者との心理. 情緒性を持っていると考えられるが、愛情欲求や退行願. 的距離への過敏さがうかがえた。感情カテゴリーについ. 望との結びつきも考えられる。. ては不快感情(Total. Unpleasant)、特に不安感情. ②継列分析:. (Anxiety)の高さが特徴的であった。. 事例 H の特徴としては、Hostility や Anxiety といった. ②継列分析:. 不快感情がまったく見られないことであった。これは、. 人間反応・人間運動反応の占める割合が高く、その内容. 敵意や不安が抑圧されていることもうかがわせるが、反. も非現実的人間反応が多い。現実的な人間関係を避け、. 応の流れを見ると情緒的な動きがまったくないのではな. 空想的な世界に逃避しやすい傾向が推察される。また対. く、不安を感じたであろう場合もうまく立て直している. 象が脅威をもって受け取られやすく、不安感情の高さが. ことがうかがえる。本研究においてはこの群の対象者が. 特徴的であった。このことは、事例 A の属する葛藤高群. 1名であったため一般化は難しいが、事例 F については. が総じて対人的な不安の高い群であることを考えると整. 適度に刺激を受けながらもそれに揺さぶられることなく. 合性のある結果だと言えよう。. 上手に対応できていると考えられるのではないだろうか。. 2)近づき不安群. 事例 F(女性). ①形式分析:. 4)遠ざけ不安群. 事例 J(男性). ①形式分析:. 内的な情緒の豊かさと共に外界に対して主観的になりや. H%=26.9 であり、対人的には若干過敏であるといえ. すい傾向がうかがえた(F%=28.6) 。H%=50.0 であり、. よう。感情カテゴリーの割合について、N%=34.6 であり、. 対人的には過敏であるといえよう。感情カテゴリーの割. 適度な感情の動きがあったと考えられる。カテゴリーの. 合については、N%=52.6 であり、緒的にはやや動きが乏. 比率について、Hostility(敵意感情)の割合の高さ(40%). しいか、統制されていた。流れとしてはカードの全般に. が特徴的であった。間接的な敵意が多く、対人的な緊張. Positive Feeling を伴う反応が算出され、 次第に Anxiety. が強いか、あるいは反動形成によって敵意が防衛されて. (不安感情)が加わり、終盤では Hostility(敵意感情). いる可能性も考えられる。 事例 J は遠ざけ不安群に属し、. を伴うものへと変化していった。対象と関わっていくほ. 自分が傷つくことへの不安が低く、対照的に相手に近づ. どに不安な気持ちや敵意が高まるようである。. いて傷つけてしまう不安が高いことが特徴的な群である。. ②継列分析:. 対人不安が強く自分の傷つきよりも相手への加害が強く. 人間反応を継列的に追うと、前半には Positive Feeling. 意識されるか、あるいは自分の敵意ゆえに対象を傷つけ.
(4) てしまうのではないかという不安が根底に存在している. 様々な様相が見いだされた。同じ不安感情の現れ方にし. のかもしれない。. ても、葛藤高群では空想的な対象に向けられたものであ った。近づき不安群では対象に関わるに連れて不安が生. ②継列分析:. じる様子がうかがえ、また遠ざけ不安群においては不安. Ⅰカードでは「お面」と「人の絵」 「かぶと」という反応. の背景に敵意感情が見られ、そこから近づくことで相手. をしており、すべて人に関する反応でありながら防衛的. を傷つける不安が高まっているという様子がうかがえた。. な様子が伺える。. 第二研究においては全体的に第一研究で得られた群の特. 事例 J においては敵意感情の高さが特徴的であった。. 徴にそった傾向が認められた。しかし単なる不安の高低. これは J 以外の遠ざけ不安群においても同様の傾向が見. のみならず、その揺れ動きがとらえられた点ではロール. られた。本事例においてはその敵意が不安感情の後に表. シャッハ法による検討が有用であったと言えよう。. れる傾向が特徴的であった。特に後半Ⅷカード移行の流 れにおいてはその傾向が顕著であり、情緒的な刺激にさ. Ⅴ.まとめと今後の展望. らされて対象に対する不安が高じ、敵意が誘発される様. 心理的な距離をめぐる対人的葛藤・不安の問題は健常青. 子が伺える。事例 J の属する遠ざけ不安群は相手と離れ. 年においても、また臨床場面で出会うであろうクライエ. ることに対する不安が高い群であるだけでなく、近づく. ントにとっても、ともに重要な問題である。その意味で. ことへの不安に特徴のある群である。それは相手と近づ. は質問紙法だけによる接近でなく、ロールシャッハとい. くことに関して、相手を傷つける不安は高いが自分が傷. う方法を用いてその無意識的、力動的側面について検討. つくことへの不安が感じられにくいという点である。こ. を行うことが出来たことは興味深いものであった。. の点をロールシャッハにおける流れから推察すると、対. 本研究においては第二研究の対象者が 12 名と少なく、. 象に不安を感じながらもそれを回避しようとするがうま. 数量的検討および一般化の難しさが課題として残った。. くいかない場合に敵意に転じ、その敵意がクローズアッ. 今後は対象範囲、対象数を広げ、より詳細な検討を行な. プされ対象を傷つけてしまう不安が意識化されやすいの. いたい。また今後は名大法の「思考・言語カテゴリー」. ではないだろうか。このような意識の流れは質問紙法で. についても詳細な検討を加えたい。ロールシャッハとい. は捉えられないところであり、ロールシャッハ法による. う対人場面におけるコミュニケーションのあり方をより. 力動的な理解が有用であることを示唆しているのではな. 具体的、詳細な検討を行うことで研究の発展が望めるの. いだろうか。. ではないかと考えられる。今回の研究では様々な問題 点・反省点が挙げられるが、対象と近づき、離れ、適度. なお、 葛藤高群および葛藤低群では対象者が一名であり、. な距離を模索しての揺れ動きについて、今後より詳細に. 代表性という点での問題が考えられる。その一方でロー. 検討したい。. ルシャッハ法の被験者に協力することが既に対人的な関 わりの場面であると考えられ、協力者の数に偏りが生ま. Ⅵ.主要な引用文献. れるということも十分に考察に値するだろう。. 藤井恭子. 2001. 青年期の友人関係における山アラ. シ・ジレンマの分析 Ⅳ.総合考察 第一研究:対人的葛藤・不安のあり方と心理的対処反. 岡田努. 1999. 教育心理学研究,49,146-155.. 現代大学生の認知された友人関係と自. 己意識の関連について 教育心理学研究,47,432−439. 2002. 応との関連について、4群間に有意な差が見られた。 「近. 小塩真司. づく」 「遠ざかる」両面の不安が高く心理的距離を巡る葛. 試み―対人関係と適応,友人によるイメージ評定からみ. 藤を抱く群は「萎縮」という対処を取りやすい傾向が示. た特徴―. 教育心理学研究,50,261―270.. され、自他の傷付きを恐れてすくんでしまう青年の姿が. 田川隆博. 1999. 見いだされた。また自己愛傾向との関連について、「注. ョンの現代的諸相―アイデンティティとの関連性を中心. 目・賞賛欲求」と対他要因との関連が認められ、他者評. に― 名古屋大学教育学部紀要(教育学) ,46,2,81-90.. 価懸念との関連を示す先行研究(小塩,1998)の結果が 支持された。 第二研究:4群に特徴的な事例について検討する中で、 基本的な対人関係にまつわる感情について、群ごとに. 自己愛傾向によって青年を分類する. 青年期における友人コミュニケーシ.
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