中学校音楽科における歌唱指導の研究
r 自然で無理のない声jをめざした発声指導のあり方
教科・領域教育専攻 芸術系(音楽)コース 富 田 美 穂
1 はじめに
歌うことは、人聞にとって音楽における最も 身近で直接的な表現の手段である。また、人間 は歌うことによって、自己を解放し自らのから だを通して、生きている存在感、充実感などを 実感できる。そして、自分の本来持っている声 を生かして自由に生き生きと歌うことにより、
歌う喜びを味わい、その表現をさらに豊かなも のにしていくと考えられる。学校教育において 歌唱指導の果たす役割は大きなものを担ってい る。
こどもは潜在的に歌いたいという欲求をもっ ている。しかしながら、音楽科の授業において、
学年が上がるにつれて歌うことに消極的になる こどもが見受けられる。小学校・中学校音楽科 の歌唱指導においては自分の本来持っている声 を生かして歌えるような発声指導が必要であるD
また、発声指導では、発声とからだの関わりを 切り離して考えることはできない。中学生の多 感な時期において、自分のからだと対話し、自 分の声のあり方から自分自身を見つめることは、
生きる力の育成においても重要なことといえる。
平成10年の学習指導要領では、歌唱表現の目 標および内容において小学校では「自然で無理 のない声で歌うことj、中学校では「曲種に応じ た発声」という記述が加わった。しかし、その 概念に関しては明示されていない。また、指導
指導教員 頃 安 利 秀
法についての根拠となる詳細な記述もなく、そ の解釈や指導法はそれぞれの教師に委ねられて いるのが現状である。
そこで、本研究は、中学校音楽科における発 声の基盤となる「自然で無理のない声」につい ての考察を試み、その解釈を踏まえた指導法の あり方を検討し、生徒にとって体感し、理解し やすい発声の指導法について明らかにすること を目的とする。
2 論文の概要
第 1章では、歌うということ、発声とからだ の関わり、義務教育における健全な声の育成な どの観点から「自然で無理のない声jをめざし た発声指導の意義について述べた。そして学習 指導要領、教科書、教師用指導書の発声指導に 関する内容を概観し、学校現場における発声指 導の現状や課題を明らかにした。ここでは、教 師はそれぞれに「自然で無理のない声j のイメ ージをもっているのにはかかわらず、体やのど の力を抜いた感覚をつかませたり、子どもが自 分の本来持っている声で、歌っているという実感 を持たせたりするための実際的、具体的な指導 法をもっていないという現状が明らかとなった。
そこで、生徒にとって体感し、理解しやすい発 声の指導を行うためには、歌うことにおいて人 間としてのからだのあり方との関連を考える必
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要性が明らかとなった。
第2章では、野口三千三の理論をもとに、人 間としてのからだのあり方と「自然で無理のな い声jで歌うことの関わりについて考察し、「自 分のからだの重さを感じてバランスよく立つこ とJリラックスすることJの重要性について述 べた。また、声楽家によるある中学校での音楽 の授業を分析し、発声指導の内容を検討し、生 徒が具体的に体感し、理解していく過程を考察 した。ここでは、人間としてのからだのあり方 (姿勢・バランス)の指導が歌唱指導の内容に 有機的に関わっていることが明らかとなり、「自 然で無理のない声Jを考える視点の有効性を確 認することできた。
第 3章では、野口三千三の理念を発声法に取 り入れた「重力とバランスから生まれる声Jに 着目した声楽指導を通して、中学生の発声の指 導法を考察した。ここでは、自分のからだと対 話し、からだの重さと中身の変化を感じること
の必要性や、からだほぐしの重要性について述 [学位関連演奏曲目:ソプラノ独唱]
べた。からだほぐしは、体育科においても注目
3 おわりに
本研究を通して「自然で無理のない声」につ いて結論づけたことは、人間としてのからだの あり方と歌うこととの関連性から導き出された ものである。「自然で無理のない声」の指導は、
生徒にからだの使い方と声の関係、ほぐれてい るからだから自然に出てくるいい声を実感させ ることなくしては成り立たない。また、「自然で 無理のない声Jがめざすものは、人間として歌 うことにすばらしさや喜びを感じるあり方であ る。
本研究で考察したことを踏まえ、生徒に自分 自身の声で生き生きと自由に歌うことの喜びや、
自らのからだを通して 生きている存在感、充 実感などを実感させる授業を行っていきたい。
そのために、生徒の可能性を引き出せるよう、
今後も研鎖を続けたい。
されているが、歌うこととも密接に関係してい ・歌劇《リナノレド>>HWV7bより
る。そして、筆者が体感した声楽指導の内容を rLascia ch'io pianga (私を泣かせてください)J もとに、座り方、立ち方、呼吸、発声練習、簡 G.F.Handel 単な楽曲による練習など、中学生の発声の指導
法を具体的に述べた。また、発声指導において の指導者のあり方について述べ、今後の課題と
した。
第4章においては、「自然で無理のない声jを 導く理論が、演奏上にどのようにかかわってい るのか、関連演奏曲の楽曲分析を通して考察し た。分析の視点は、「重さとバランスJ と音楽づ くりとの関連である。ここでは、自分のからだ の重さが歌うエネルギーになることを確認する ことができた。
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. rDie Forelle ます)J op.32 D550 F.Schubert
‑歌劇《ジャンニ・スキッキ》より
r 0 mio babbino caro 私 の お 父 さ ん )J G.Puccini . rVocalise (ヴォカリーズ op.43.no14J
S.Rachmaninoff