株式会社中野工業所(以下、同社)は、愛知 県名古屋市に立地する 1937 年創業の企業で、 ドラム缶を再生する事業を行っている。使用済 みの空ドラム缶を回収し、へこみ直しや内壁洗 浄等を行った後に、塗料を塗り直して、新品同 様のドラム缶に再生する。 一般的に、新ドラム缶は 4,000 円弱だが、再 生ドラム缶は 3,000 円弱の価格で販売されてい る。同社のドラム缶は、石油業界や塗料業界へ の納入が多く、主に川崎、横浜、和歌山、神戸、 四日市などの全国各地に納入されている。中部 エリアにおいてはドラム缶再生事業者が少な いため、同社がほぼ独占しているという。 ドラム缶の製造・販売等に伴う CO2 排出量 は、再生ドラム缶は新ドラム缶の 1/6 になると いう。日本人の「もったいない精神」を大事に して、半世紀以上ドラム缶をリユースすること によって、環境負荷の軽減に貢献している。
もったいない精神で
ドラム缶をリユース
株式会社中野⼯業所(愛知県)
循環
File 18
同社のドラム⽸を再⽣する⼯場。使⽤済⽸を内部洗浄し、塗料をはがした後のドラム⽸が並んでいる。企業設⽴・事業開始の経緯
⾃転⾞屋からドラム⽸修理業へ
同社の創業者である中野昌訓氏は、昭和初期 に自転車屋を営んでいた。自転車修理のため店 先で溶接作業を扱っていたこともあり、1937 年に近隣に精油所ができた際に、その石油会社 から当時高価であったドラム缶の損傷箇所の 修理を依頼された。 それをきっかけに個人事業としてドラム缶 修理を開始した。徐々に事業を拡大し、1949 年 には名古屋地区のほとんどの石油販売会社の ドラム缶修理業務を請け負うまで成長し、1953 年に同社を設立した。当時は、日本石油や昭和 石油の油槽所構内で作業を行っていた。 戦後、日本経済の復興に伴い、ガソリン、軽 油、灯油、重油などの燃料油の需要が飛躍的に 増大した。当時、現在のような大型タンクロー リーによる燃料油の大量輸送が普及しておら ず、ドラム缶が燃料油の輸送機材の中心であっ た。当時はドラム缶が高価であったことから、 石油販売会社では、使用後の空ドラム缶を回収 し、ドラム缶再生業者に洗浄・修理を委託して、 再生不能となりスクラップになるまで何度も リユースを行った。ドラム⽸再⽣事業の本格化
1961 年には、日本石油と昭和石油の油槽所 構内にあったドラム缶修理作業所を撤収し、同 地内借用地に大規模なドラム缶洗浄工場(旧名同社の特⻑ポイント
▶
使⽤済みドラム⽸を回収し、新品同様のドラム⽸に再⽣
▶
業界でも随⼀の処理能⼒を誇る⼯場で、環境にやさしい再⽣ドラム⽸を⽣産
▶
海外にも展開し、「もったいない精神」を世界に
回収された使⽤済のドラム⽸(左)と、再⽣されたドラム⽸(右)。古屋工場)を新設した。その後は、石油業界以 外にも積極的に事業を展開すると同時に、ドラ ム缶の売買事業も本格的に開始した。 1992 年には、名古屋市港区潮見町に用地を 取得し、最先端のドラム缶洗浄工場(現名古屋 事業所)を新設し、旧工場の業務を全面移転し た。そして、2001 年、現社長である中野雅人氏 (以下、同氏)が代表取締役社長に就任した。
再⽣ドラム⽸需要が低迷する中で成⻑
1960 年代にドラム缶の総需要は急増したが、 1970 年代には、燃料油輸送が大型タンクロー リーによる大量輸送に大きくシフトし、総需要 は減少した。さらに大量生産により新ドラム缶 の価格が低下し、石油販売会社がドラム缶の資 産保有を止め、ドラム缶容器代込みの売り切り 制度に移行したため、空ドラム缶の買戻しが必 要となり再生ドラム缶の数は激減した。 1980 年以降は、化学産業の市場拡大に伴い 新ドラム缶需要が激増したことから、産業構造 や物流手段が多様化する中で、ドラム缶の総需 要は安定的な数値を維持している。新ドラム缶 の需要が増加する一方で、再生ドラム缶は微減 傾向で、2002 年には新ドラム缶が再生ドラム 缶の生産本数を上回る状況となった。新ドラム 缶の増加の背景には、新ドラム缶納入先の約 7 割を占める化学産業の輸出の増加があり、新ド ラム缶の輸出率は 4 割程度にのぼるという。ま た、再生ドラム缶の輸出は、約 1 割であり国内 のドラム缶需要が減少していることという。 同社の名古屋事業所にある主⼒⼯場2,243
2,468
764
1,373
1,479
1,095
0
500
1,000
1,500
2,000
2,500
3,000
3,500
4,000
1963 1965 1967 1969 1971 1973 1975 1977 1979 1981 1983 1985 1987 1989 1991 1993 1995 1997 1999 2001 2003 2005 2007 2009 2011 2013ドラム缶生産本数の推移
合計
新ドラム
更生ドラム
(万本)
ドラム⽸⽣産本数の推移。1975 年以降は、ドラム⽸の⽣産本数は横ばいで推移している。出典:ドラム⽸⼯業会そのような状況の中、同社のシェア(更正ド ラム缶出荷ベース)は増加しており、1990 年頃 には業界シェア 5%程度であったが、最先端技 術が使用された工場への大規模な設備投資に より、現在では業界トップクラスの 10%程度ま でシェアを伸ばし、売上高や従業員数も増加し ている。
中国に海外展開
2008 年には海外進出を果たし、中国天津で ドラム缶再生事業を開始した。同社を含む日本 のドラム缶再生業者 5 社で構成された投資会 社(6 割出資)と中国の新ドラム缶業者(4 割 出資)で合弁会社を設立し、ドラム缶再生事業 を行っている。中国では日本のドラム缶は高品 質のため信頼性が高く、リユース率も高いとい う。しかし、中国ではドラム缶は危険廃棄物に 該当し、ドラム缶の収集運搬には免許が必要と なるため、免許を保有した収集運搬業者に使用 済み空ドラム缶の回収を依頼している。中国で 危険物の免許が取得できれば、高い仲介手数料 を回避できると同氏はいう。 中国では、板厚の薄い新ドラム缶が安価で販 売されており、今まではその需要を伸ばしてき たが、現状は使用済みのドラム缶が環境問題化 してきている。環境規制も厳しくなってきてお り、今後はリユースへの関心が高まると思われ る。事業概要
ドラム⽸の再⽣・販売
使用済の空ドラム缶を回収し、洗浄処理等を 行い、再生ドラム缶として販売している。回収 元は、大手メーカ、自動車整備工場、ガソリン スタンドなどである。使用済みドラム缶の大部 分は、同社を含む同業者約 65 社によって構成 される「日本ドラム缶更生工業会」(以下、同 工業会)の会員企業によって回収される。同氏 は同工業会の企画委員会委員長を務めている。 同社のようなドラム缶再生業者は、ドラム缶 を回収して、再生可能なドラム缶を洗浄・加工 し再生する。再生不可能なドラム缶は、スクラ ップ作業によって鉄資源となる。再⽣ドラム⽸と新ドラム⽸の⽐較
ドラム缶の主な供給先は、大手化学メーカ (54%)、石油販売(25%)、塗料メーカ(12%)、 その他(9%)となっている。化学業界では、新 ドラム缶が使用されることが多いが、それ以外 の業界については再生ドラム缶が多く使用さ れている。 日本で製造されるドラム缶は、年間約 2,500 万本であり、その内訳は新ドラム缶が約 1,300 万本、再生ドラム缶が約 1,200 万本となってい る。そのうち、約 2,000 万本は国内で使用され、 1,350 万本が同工業会によって回収されている。 残りの 650 万本はリサイクルの判断がされず、 直接スクラップ工場に持ち込まれている。回収 された 1,350 万本のドラム缶は、1,200 万本が 再生され、150 万本はスクラップされる。 同工業会は、ライフサイクルアセスメント (LCA)を用いて、ドラム缶の製造・販売等に 伴う CO2 排出量を算定している。原料調達、 製造、納品輸送の全工程におけるドラム缶一本 当たりの CO2 排出量は、新ドラム缶は約 39kg で、再生ドラム缶は約 7kg と新ドラム缶の 1/6 となっている。現在、直接スクラップ工場に持 ち込まれている 650 万本を回収し、再生することができれば、現在と比較して約 34%の CO2 削減効果が期待できるという。