社会科における関心・意欲の評価の理論と実際
社会系教育講座原田智仁
1. はじめに 春稿は,本学社会科教育研究室(岩田一彦,中村哲,原田智仁,尾原康光) と附属小学校(大西誠一,大橋尚人,大前孝夫,堂本大明)との共同研究r子 どもの関心・意欲を育てる社会科授業構成と実践分析」に基づくものである。 その成果の詳細は,すでに兵庫教育大学学校教育研究センター締『学校教育学 研究』第5巻(1993)第6巻(1994)第7巻(1995,掲載予定)に報告さ れている. 研究の連旨は,次のとおりである. く問題意識〉 開心・意欲は,どのような社会科授業設計および実践の中で育てていける のか. また,関心・意欲の視点から,授業分析をすることおよび評価をする ことはどのようにすればよいか0 く研究仮説〉 認識内容の深まりが関心・意欲を育て,関心・意欲の育ちが認識内容の深 まりを進展させるという関係にある。 く研究方法〉 ①小単元ごとに絵および説明文を書かせ,子どもの認識内容の構造を評価 する。 ②小単元ごとに,関心・意欲の評価を行う方法を開発し,実施する。 ③子どもの評価内容を組み込車ながら授業設計を行い,実践を行う. ⑥子どもの発言と問いの関係は視点を当て,学習指導案および授業の分析 を行う。 ⑥研究仮説の観点から,授業設計,授業実践,知識理解および関心・意欲 の整理を行い,問題点を明確化する。 以上の連旨に基づき,小学校3年の単元「人々のくらしと商店」を取り上げ, スーパーとコンビニエンスストアを事例とする実験授業を行った。 ここでは, その授業構成の実際と関心・意欲の評価を中心に報告する。「66-2. 授業構成の実際 授業構成に当っては,商店の工夫,商品の流通(他地域との結びっき),消 費者の工夫の3点から探求していくことを心がけた. く単元名〉人々のくらしと商店一買物を10倍楽しむ方法-く単元目標〉 ①スーパーとコンビニの違いに関心をもち,意欲的に地域の商店のことを ・討べ,グループで小冊子にまとめることができる。 ⑧商店が消費者のニーズを考え,利益をあげるために経営の仕方を工夫し ていること(販売対象を絞り,対象者が求めやすい形で販売するなど)や, 商品が全国から社町に来ていることを理解することができる。 ③A消費者がよりよい(晶質・価格など)晶を求めて情報に通じ,あわせて 環境のことも考えていることを理解し,自らも消費者の一員であることを 自覚することができる。 く単元計画〉 第1次「買物の楽しみ方を話し合おう」(3時間) ①どんな店があるか話し合う。 ②今考えつく「買物を楽しむ方法」を出し合う。 ③買う人(主に家族)の声を集める. ⑥集めた声をまとめ,人々がどんな店をどのように利用しているか知る. 第2次「売る人・買う人の秘密を探ろう」(10時間) ①訴べる店を絞る。 ②ベルショップとローソンの共通点と相違点を話し合い予想し合う。 ③現地へ調べに行くに当っての目当てを立てる. ⑧現地へ調べに行く。 ⑥予想したことと現地で確かめたことを比べ,見学の結果をまとめる。 ⑥店の商品がどこから来ているか謝べる。 ⑦飼べた結果から,商品の流通についてはなし合う。 ⑧男物をするときに家の人が考えていることを予想する. ⑨家の人に聞いてきたことを発表し,買う人が考えていることを話し合う。 第3次「とっておきの楽しみ方をまとめよう」(3時間) ①「買物を10倍楽しむ方法」をまとめる. ⑧「買物を10倍楽しむ方法」発刊記念発表会をする。
3. 関心・意欲の評価 3. 1. 関心の育ちの評価 3. 1. 1. 関心の定義と評価法 一般に,執心はr興味・関心」という用意に示されるように,興味と同義的 な概念として把握されがちである。 だが,関心を興味と同じ心理的レベルで捉 えているかぎり,客観的評価は難しい。 そこで,ここでは関心を「問題関心」 と定義する。 すなわち,子どもが社会事象について,「どのようになっている か」「何のためか」「なぜか」「どうすればよいか」といった問いをもつに至 った状感を,子どもが関心をもった状感と捉えるのである。 この定義に基づけ ば,関心の所在は子どもに発言させたり文字で表現させたりすることによって, 明確に把握できるはずである。 従って,関心の育ちを測るには,個々の子どもの問いが単元を通してどのよ うに変容したかを追跡することが必要である。 ここでは,単元の開始直前,第 2次終了後,第3次終了後の計3回,rお店の仕事や買物の仕方について,特 に(さらに)どんなことを学習してみたいですか. 」とのテストを実施した。 評価は,この回答の分析により行った。 分析視点は,以下の5点である。
店の仕事や景物に関する何らかの事実について,より詳しく
HIMS 深まり〉 く関心の 広がり〉 知りたいと答えているか。 ⑧漠然とした開延関心から,「なぜ∼なのか」といった明確な 撫求的問いへと変化しているか. ③漠然とした問題関心から,「-するには,どうすればよいか」 といった実践的問いへと変化しているか.r::
店の仕事や景物への問題関心から,類似の事象や関連する他 分野の事象の問いへと変化しているか。 店の仕事や異物に関して,視点の移動・複数化が見られるか. 3. 1. 2. 評価賭果とその考察 全般に多様な関心の育ちが見てとれたが,数的に最も多いのは視点①である。 例えば,r発注」r商品としての野菜」rエコマーク」「お母さんの工夫」 「お店の工夫」「レジ」「商品の配置」などについて,より辞しく知ることを 求めている。 次に多いのが視点②である。 なぜ疑問の数を比較しても,プリテストで4人, 第2次終了後で5人,第3次終了後で12人と増えている。 中でも,2人の子ど68-もがよく似た変化を示した。 最初は「レジの使い方」と「お菓子の値段」であ ったのが,2度日はいずれも「どこから商品は来ているのか」と商品を通して 社町と外部とのつながりに目を向け,3度目には「なぜ買いに来た人は商品を 奥から取るのか」と消費行動の意味を探求する問いへと深まりを見せている。 また,この両者以上に注目されるのが,最初は「兵庫県にお店は何軒あるのか」 と答えた子どもである. 2度目には「なぜお母さんたちは牛乳を臭から取るの か」と先の二人と同じ探求的問いをもつに至り,3度日には「どんな置き方を しているか謝べたい」と,商品配置の一般的親則性にまで問いを深めている. この他,プリテストの段階で全く見られなかったエコマークやトレーの回収 などへの言及が多く出てきたことは,消費者の工夫との関連で評価される。 3. 2. 意欲の評価 3. 2. 1. 意欲の定義と評価法 一般に,意欲はr子どもが問題解決のために,積極的に飼べ,考えている状 態」と捉えられており,本稿でもこの裁定に従いたい。 ただ,従来「積極的に 翻べ,考えている」と見なされる子どもの外的状慮一例えば,何度も現地に行 く,図書館で謝べる,グループで活発に議論するなど-を捉えて,その子ども は意欲的であると評価されることが多かった。 しかしながら,このような捉え 方や評価法は主観的であるとともに,社会科に固有のものとも言えないだろう。 社会科の評価で問題にすべきは,図書館で謝べること,グループで活発に議 論することそれ自体ではなく,そこで「何(どんな内容)を,どのように(ど のレベルまで)話し合い考えたか」である? そのような翻査内容,思考内容は, ノートをはじめとする子どもの表現から具体的に読み取ることができるので, そうした意欲の捉え方は子どもの事実に即した客観的なものであると言える。 ここでは,第3次に子どもがグループで作成した冊子「買物を10倍果しむ方 法」を取り上げ,その記述内容から子どもの意欲を捉え,それを単元の目樺に 照らして評価することにした。 ただし,本研究において分析可能な子どもの表 現はこの冊子のみであるので,単元を通じての子どもの意欲は凍えられるが, その育ちは捉えられない? O・」u・^・評価結果とその考寮 7つのグループがそれぞれ冊子を作成したが,いずれも①商店の工夫,⑧消 費者の工夫,③他地域との結びっきの3つの部分から構成されている。 このう ち,とくに①と⑧の記述から,子どもの意欲を読み取り評価した。
く商楢の工夫〉 例えば,Aグループはローソン,ベルショップの商品棚にど/vなメーカーの どんな種類のポテトチップやチョコレートが陣列されているかについて一覧表 を作った上で,「ローソンは菓子の種類が多く新発売のものも多いoベルショ ップは菓子が安いo」というまとめをしているC このように,子どもは視線を低くして,商品の陳列の仕方という事実を丹念 に調べており,意欲的な謝蛮活動を窺わせる。 しかしながら,まとめの捜階で は,自らが謝べた事実から目が離れ浮き上がってしまっているO調査の事実か らすれば,「ローソン,ベルショップのいずれでも特定の薬子メーカーの商品 が多く,子どもの手に取りやすい位置に置いてあるe」といった抽象化が可能 であり,本単元の目標からしても,こうした抽象化へと子どもを導くことが必 要であったと言えるO く消費者の工夫〉 いデー「lJ>')ルー∴'. !i.,vviサ). ''つてこ畔、if-;;主nil∴1・言;!<! :・'.-.:. 良 く,「高くていいものを安く買う」「新鮮なものをたくさん買う」「広告を見 る」といった抽象度の高いまとめ表現が多く見られるo
Iii)川畑;v;I". /ことけy,! :7V<),}・'・七、も/vりこなせ欲的に▲洲ノW*i-小x:`'. ・蝣.). 授業の当該部分で「お家の人の買物の秘密・工夫・苦労を探ろう」という問題
tt」かなさ寸,tH、'て+蝣>Ltc/. Ml柚i(/,ppL∴'. ・i-si-1.--,一二K蝣、・、・語、 1.V-ノ:-",'皆蝣>・','.!Iこ隼A-!.1;祝を圭<'L'(.,そ! '. '-'.Iりt一鞘十「蝣蝣蝣;#;です、従 って,子どもの視線は事実から遠ざかるのであるJ子どもに視線を低くし,買
物の事実を丹念に調べさせるには,「買物の時,お家の人は何を見ているか」
「†守. /./∴蝣'A告、. ;trLLていifrjとい・. TL二・IfT'rも"''寸)∴:・''t. 仲川し /:>'.>! .'「t-寸・、・ヒ言::_上・)、 4. おわリに 本研究では,関心を認識内容,意欲を認識活動として明確に規定することに より,それぞれの育成の論理と評価の方法を考察LようとしたO実践分析の結 果から,以下のことが明らかになったO まず,全般的にこの授業は,子どもが本来関心をもちやすいr買物」を主腰 に取り上げ,なじみの深い身近な地域の商膚に出かけて観察・取材するという 体験的活動を取り入れたことにより,活発な学習を成立させることができたr,
-70-軌も、については,買物に粥する多様な問いが単元展開とともに一定の問いへと 個々に深まりを見せた点で,その育ちが評価された。 それを可能にしたのは, 第:次rJこIi'r'蝣r判'A-JHff. と、・t;2枚(ノ)D-ソン-,::・レンヨ・ソー>Vj]い†:-サ. ド.∴こ 、∴蝣サ蝣蝣':,「J'、′こよ∵vJ、 意欲については,特に「商店の工夫」に関して,丹念な調べ活動に基づく認 識がなされており,意欲的な学習がなされたことが認められた。 ただし,「消 費者の工夫」は具体的な事実を踏まえない抽象的な認識にとどまっており,問 いの設定の仕方に不備が指摘されたoまた,意欲の育ちを追跡するには,第3 次終了後の冊子のような,子どもの認識活動の成果を段階ごとに把握する資料 が不可欠であlらその点でも今後の謙塞が明らかになったO また,本稿では紙幅の都合で具体的な論述を割愛したが,こどもの知識・理 解も関心の高まりと意欲的な学習活動に支えられて深まりを見せたOその点で, 認識内容の深まりと関心・意欲との相関関係が改めて確認されることになった。 【参考文献】 ・宕EH一彦他「チビもの関心・意欲を育てる社会科授業構成と実践分析-3年 「甲l. i,¥。巨ュrc」与JI岬主として・」iVWir'j大・、V,・ I**、rp朽tt-fjf叶*t. ン'/一叫 F学校教育学研究』第5号,1993 ・岩酔う要地「子どもの関心・慮欲を育てる社会科授業構成と実践分析川) ・-′√i:r'こ1L午¥¥¥&-JiK'蝣蝣</)CJ、,し一一'<&! 蝣?'.二浮上.i'n'rてIIP. J¥>rぺキ*サ.-か; たくらし」を事例として-」rI-'学校教育学研究J第(,㍗-,持9′1 ・岩田一彦他「子どもの関心・意欲を育てる社会科授業構成と実践分析(Ⅶ) -小学校3年「人々のくらしと商清一貿物を10倍楽しむ方法」を事例として」 『学校教育学研究cl第7号1995(掲載予定)