博 士 ( 医 学 ) 大 場 雄 介
学 位 論 文 題 名
低 分 子 量 GTP 結 合 蛋 白 質 Rap2 の 機 能 解 析 学位論文内容の要旨
Rap2はRasファ ミリ ーに 属す る低 分子 量GTP結合 蛋白 質で ある 。Rasは細胞増 殖や分 化において枢軸 を担う蛋白であると言う報告が多数あるのに対し,他のRasファミリー蛋 白に関しては未 知な点が多い. RaplはRasと標的分子結合部位がアミノ酸レベルで同一で あ るが ,多 くの 点でRasと競合的に働き、Ras依存性 のRafセリン/スレオニンキ ナーゼ お よびMAPキ ナー ゼカ スケ ード を抑 制す るこ とに 起因 する と 考え られている。 一方で RaplがMAPキ ナ ーゼ を活 性化 する 環境 も存 在す るら しい .神 経細 胞で はRaplはB‑Raf の活性化を介しMAPキナーゼを活性化する.
Raplに はGTPに結 合し た活 性化 型とGDPに 結合 した 不活 性化 型と が存 在す る.Rapl の 活性 化は グア ニン ヌク レオ チ ド交 換因 子(GEF)に より誘導される,RaplのGEFとして は、チロシンキ ナーゼにより活性化されるC3G,カルシウムとジアシルグリセ口ールによ り 活性 化さ れるCalDAG‑GEFI, サイ クリ ックAMPに より 活 陸化 され るEpac/cAMP‑GEF が ある .こ れら のGEF蛋 白の発見は多くの情報がRaplに集約することを示してい る.一 方,Raplの不活 性化因子であるGTP水解促進 因子(GAP)はraplGAP,S王)A・1およびTSC2 の 三っ が報 告さ れて いる .raplGAPのイ ソ型 変異 雉で あるraplGAPIIが三量体G蛋白質 G.のアルファサブユニットに結合しその情報を伝達するという報告を除けば,他のGAPの 活性制御につい てはほとんどわかっていない,
Rap2はRaplと アミノ酸レベルで60%以上の同一性を有しているが,そ の機能や活性制 御 はほ とん ど未 知である,Rap2は大部分の標的分子 をRas,Raplと共用するので ,これ ら3つのG蛋白質 問で情報伝達のク口ストークを存在することが示唆され る.本研究では Rap2の 機 能 と 制 御 機 構 に つ い て , Raplと 比 較 し な が ら 解 析 し た . Rap2蛋白の発 現をマウスの臓器と培養細胞を用いウエスタンブロッテ ィングで解析し たところ、大脳 に多く発現していたが、調べた限りのすべての臓器及び細胞に発現が確認 さ れた 。ヒ ト胎 児腎 臓由 来の993T細 胞にFlagタグ付きのRap2を発現させ,免疫 螢光染 色と,免疫電子 顕微鏡で観察したとニろRap9は主に細胞膜に存在しており,細胞質内にも 観察された,
Rap9はGEFを発 現し ない 状態 でもGTP結 合型 が60%程 度存 在し 、Raplの活性fヒ因子 と して 報告 され ているEpac、CalDAG‑GEFI、C3Gはい ずれもRap9を活性r匕した。 一方、
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Raplの 不活 性 化 因子 で あ るraplGAPIIは 細 胞 内及 び試験 管内でRap9お よびRaplのGTP 加水分 解を促 進するが 、Rap2はGAPに対す る感受 性がRaplに比 べ優位 に低かっ た。GAP に 対す る 感 受性 の 低 さがRap2の 高 いGTP/GDP比 を維 持 し てい る も のと 考 え られた 。 Rap9もRaplと 同 様 にRasの 情報伝達 経路に 関与する かどう かを、転 写因子Elklの活 性をルシフェラーゼ活性でモニターし解析した。293T細胞において活性化型変異体Rasに よるElklの活性化を15%まで抑制した.この抑制は野生型と活性化型変異体で同程度であ った.Rap2を単独 で発現さ せても ,Elklの活 性化は見られなかった。また、Rap2はRaf と野生 型と活 性化型で 同程度 の効率で 結合した .Rap2はRasとRafの結合 を競合するた めにRasの作 用を抑制 すると 推測され 、また、 高いGTP/GDP比で 存在する ため、野生型 も活性化型変異体と同程度の作用を有すると考えられる。
Rap2の活性が細胞外刺激によりどのような変化を示すかを検索したところ、リソホスフ ァチジ ン酸刺 激によっ てRap2の一過性の上昇、rap lGAPII依存性に一過性の減少を認め た。
本研究でRap2が、1)各臓器にほぼ普遍的に存在し、細胞内では主として細胞膜に局在 すること、2) Raplと共通の分子により活性を制御され、共通の標的分子に結合すること、
3)他のRasファミリーとは異なり60%程度が活性化型であるGTP結合型で存在すること、
4) Ras依 存 性 の 細 胞 増 殖 シ グ ナ ル を 抑 制 す る こ と を 明 ら か に し た 。 Rap9とRaplは 、Rasが 細胞膜 に存在す るのと は異なり、細胞質内の膜分画、すなわち ゴルジ装置や小胞体に存在するという報告がある。生化学的では膜分画をさらに細分する ことは時に困難であり、また、固定する試薬によって染色像が変化する場合もある(未発 表)。
細胞内 でRasあるいはRapが 標的分子 と結合 し情報を 伝達する のは、 活性化型である GTP結 合 型の み で ある 。し たがって 、GEFが膜で活 性化され た場合 は細胞膜 にあるRap が活性 化され る。Rap9がRas依存 性の増殖 シグナ ルを抑制するのはRap2が細胞膜におい て、Rafの活性化をRasと競合し阻害すると考えられる。
Rap2は現 在までに 報告の あるRaplの制御分子により、その活性を制御されている。ま た 、標 的 分 子の 大 部 分をRasやRaplと 共 用 する 。さ らに、Rap9はRapl同様 にRas依 存 性の転 写因子Elklの活性化 を抑制 した。こ れらの 結果はRap2とRaplが同じ 情報伝達経 路上で 機能し ているこ とを示唆する。Rap9は非刺激時にもGTP結合型の比率が高く、GAP に対する感受性が低いことから、シグナルの定常レベルの決定や、より緩徐で持続する伝 達様式を取るものと推測される。
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学位論文審査の要旨 主 査 教授 長嶋和郎 副査 教授 菊池九二三 副 査 教授 田中一馬 副 査 教授 北畠 顕
学 位 論 文 題 名
低 分 子 量 GTP 結 合 蛋 白 質 Rap2 の 機 能 解 析
Rap2はRasファ ミリ ーに 属す る低 分子 量GTP結合 蛋白 質で ある 。Rasは細 胞増殖や分 化において 枢軸を担う蛋白であるという報告が多数あるのに対し、他のRasファミリー蛋 白に関して は未知な点が多く、特にRap2の活性制御機構、生理的機能はともにまったく不 明である。 本研究ではRap2の機能と制御機構を明らかにする事を目的として、最も近緑の 蛋白質であ るRaplと比較しながら以下の解析を行った。
Rap2はGEFを 発現 しな い状 態で もGTP結合 型が60% 程度 存在 し、Raplの活 性化 因子 で あ るEpac、CalDAG‑GEFI、C3Gは い ず れ もRap2を 活 性 化 し た 。 一 方 、Raplの 不活 性 化 因 子 で あ るraplGAPIIは 細 胞 内 及 び 試 験 管 内 でRap2お よ びRaplのGTP加水 分解 を 促 進 す る が 、Rap2はGAPに 対す る感 受性 がRaplに 比べ 優位 に 低か った 。GAPに 対す る 感 受 性 の 低 さ がRap2の 高 いGTP/GDP比 を 維 持 し て い る も の と 考 え ら れ た 。 Rap2はRasとRaplの 標 的 分 子 で あ るRafお よ びRalGDSと 結 合 す る が 、Rap2はMAP キナーゼを 活性化せず、Raplと同様にRasの依存性の転写因子活性化を阻害した。また高 いGTP/GDP比 で存在 するため、野生型も活性化型変異体と同程度の効率で標 的分子に結 合し、同程 度の転写因子抑制作用を有すると考えられた。
レト口ウ イルスのコードする癌遺伝子v・ srcで形質転換した繊維芽細胞において、GTP 結 合型Rap2が著 しく減少しており、このRap2の 不活性化はv‑Srcの活性化に 誘導される raplGAPの 蛋 白 量の 増加 に依 存す るこ とを 示し た。 また 、こ の 細胞 にRap9のGAP非感 受 性 変 異 体 を 導 入 す る こ と に よ り 、v‑Srcに 形 質 転 換 が 形 態 的 に 正 常 復 帰 し た 。 副査 の北 畠教 授か ら 、Rap2とRaplの差 について質問があり、Rap9はRaplと異なり、
生化学的に はその大部分がGTP結合型で 存在することが最大の差であると回答しだ。腫瘍 治療への応 用の可能性について質問があり、ウイルスベクター等を用いた遺伝子治療に応
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用したいと回答した。腫瘍のない心筋細胞におけるRasやRapの機能について質問があり、
Rasの 活性化 によって心筋細胞の増殖が起こる事例をあげ肥大型心筋症など病因に関与す る 可能 性が あると回 答した。 続いて 副査の田 中教授 からRaplとRap2の内在性 のGTPase 活 性に つ い て質 問 が あ り、Rap2とRaplでは内 因性GTPase活性 がほぼ 等しく、Rasに 比 べ10分 の1で あると回 答した 。Raplのノッ クアウ トマウス を作成 した場合易腫瘍形成が 見られるか、またそのような実験を行っているかについて質問があり、他のグループで実 験を行っているが自分では実験を開始していないと回答した。Rap2の優勢不活性化型の導 入がRasから のシグナ ルが増 強するか どうかについて質問があり、Rasの優勢不活性化型 は確立 してい るのに対 し、RaplやRap2の優勢不活性化型はいまだ確立していないと回答 した。RaplがRafに結合 するにも かかわらず、Rafを活性化しない機序について質問があ り 、Rafの2つ の 結 合部 位 に 対す るRasとRaplの親和性 の違いに より、 結果とし て活性 化するか否かの差が生じると回答した。副査の菊池教授から、ウエスタンブ口ッティング に おい てRap2の バンドが2本 存在する 理由につ いて質 問があり 、Rap9はそ のC末 が脂質 修 飾を 受け たものと 受けない ものと で2本 検出さ れる可能 性がある と回答 した。Rasと Raplの活 性化機構が、Rasは細胞外の刺激に対して比較的直接的に活性化されるのに対し て、Raplはセカンドメッセンジャーによって活性化される。この違いの意義について質問 があり 、Raplにもアダプター分子によって活性化される点、Rasにもセカンドメッセンジ ヤーを介して活性化される経路があり、両者の活性制御には類似点があると回答した。Rapl やRap2がMAPキナ ーゼカ スケード に対する 抑制機 能のほか に、生 理的な機能を有してい るか、過剰発現系以外にRap2の生理機能が見られるかという質問があり、細胞接着に対し RaplやRap9が 関与 し て いる 可 能 性があ り、GTP結合型 の多いRap2は形態を 維持す るの に関与 してい る可能性 、また 、Srcに よって形質転換している細胞では内在性のGTP結合 型Rap2が 減少して おり、 間接的で はあるがRap2の減少が腫瘍形成のーつの経路となって いる可能性があると回答した。
この 論文はそ の活性機 序が未 知であっ た低分 子量GTP結合蛋 白質Rap9に対する詳細な 生化学検討とモデルを用いたRap2の抗腫瘍効果に関する機序の解明点で高く評価され、今 後Rasを 介す る シ グ ナル 伝 達 の関 与す る疾患の 遺伝子 治療等へ の効用 が期待さ れる。
審査員一同は、これらの成果を高く評価し、大学院課程における研鑚や取得単位なども 併 せ申 請者 が博士( 医学)の 学位を 受けるの に充分 な資格を 有する ものと判 定した。
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