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ベーリング海スケトウダラ資源の 密度依存・独立型の成長履歴解析

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Academic year: 2021

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(1)

     博士(水産科学)片倉靖次 学位論文題名    ー

ベーリング海スケトウダラ資源の 密度依存・独立型の成長履歴解析

.学位論文内容の要旨

【目的】

  

スケトウダラTheragra chalcogramma は,漁獲量,資源量ともに世界最大 を誇り,北太平洋およびその隣接海域の亜寒帯海洋生態系では鍵種(

key species

)に位置づけられ,その資源動向は亜寒帯海域の低次から高次まで の各種栄養階層生物の食物網を通した個体群動態などにも大きな影響をお よばす。べーリング海では,1970 年代後半にアリューシャン海盆域(以下 海盆域)中央の公海域で漁場が開拓され,

1989

年には,約140 万トンのス ケトウダラを漁獲した。しかし,

1990

年代に入って漁獲量は激減し,

1992

年には僅か

1

万トンの漁獲となった。この資源の悪化に伴って,1993 年か らは同海域のスケトウダラ漁業の操業は停止されているが,現在も資源は低 水準のままである。スケトウダラをはじめとするタラ科魚類資源は,

1990

年代前半から世界的に減少し,その原因究明の研究が継続して行われてい る。資源変動のメカニズムを明らかにするためには,漁獲可能な資源として 加入するまでの若齢期の成長・生残過程などの把握が重要であるが,これま での研究は,主に仔稚魚と成魚を対象として展開されており,その間を結ぶ 幼魚か ら未成魚までの若齢期の生活史を長期的に解析した研究はない。

  

海盆域のスケトウダラ資源は,成魚のみで構成され,4 歳までの若齢魚は

ほとんど出現しない。同海域のスケトウダラ成魚は資源減少に伴って体長が

大型化しており,その要因のひとっとして,同海域に加入する以前の若齢期

の成長が影響した可能性が指摘されている。海盆域に隣接する東部大陸棚海

域では,毎年スケトウダラ若齢魚の分布が確認されており,この魚群の一部

(2)

が 成 熟 後 に 海 盆 域 に 加 入 す る 。 ス ケ ト ウ ダ ラ の 内 耳に は , 体 成 長 と と も に 成 長 し , 一 度 形 成 さ れ る と 一 生 涯 変 質 す る こ と が な い 硬 組 織 の 耳 石 が 存 在 す る 。 こ の 耳 石 内 部 に 形 成 さ れ る 輪 紋 を 用 い て 年 齢 ・成 長 履 歴 の 解 析 は 行 わ れ て い る 。 海 盆 域 で は 若 齢魚 は 採 集 で き な い が , 成 魚の 耳石の 両端 (Rostrum to Postrostrum)と 耳 石 核 (Core) を 通 し た 断 面 の 薄片 標 本 を 用 い る こ と に よ っ て , そ の 若 齢 期 の 成 長 様 式 な ど の 生 活 履 歴 解 析 が 可 能 と な る 。   そ こ で 本 研 究 で は , 海 盆 域 の ス ケ ト ウ ダ ラ の 生 活環 境 ・ 資 源 動 態 と 密 接 に 関 係 す る 成 長 履 歴 に 焦 点 を 当 て , 成 魚 と 若 齢 魚 の 長期 的 な 成 長 様 式 の 変 化 を 明 ら か に し , 成 長 と 資 源 動 態 の 変 化 を 引 き 起 こ す 要因 に つ い て 検 討 す る こ と を 目 的 と し た 。

  ま ず , 耳 石 に よ る 年 齢 査 定 と 成 長 解 析 の 結 果 を 用い て , ス ケ ト ウ ダ ラ 成 魚 の 各 年 齢 の 資 源 豊 度 と 体 長 と の 関 係 に っ い て 解 析 した 。 次 に , ス ケ ト ウ ダ ラ 若 齢 期 の 成 長 様 式 を 成 魚 の 耳 石 か ら の 逆 算 推 定 に より 求 め る た め , 耳 石 と 体 長 の 関 係 式 を 導 い た 。 この 関 係 式 を 用 い て , 若 齢期 の成長 様式 に変 化が 生じ る 時 期 の 特 定 と そ の 原 因 の 究 明 に っ い て 検 討 し た 。最 後 に , 資 源 減 少 に 伴 う 体 長 の 大 型 化 メ カ ニ ズ ムに っ い て 考 察 し た 。

【材料と方法】

  ス ケ ト ウ ダ ラ 供 試 魚 , 耳 石 標 本 およ び 魚 体 測 定 デ ー タ , 船 よ び 漁 獲 量 統 計 資 料 ( 一 部 年 齢 デ ー タ を 含 む ) は ,遠 洋 水 産 研 究 所 , 北 海 道 区 水 産 研 究 所 , 米 国 ア ラ ス カ 漁 業 科 学 セ ン タ ー , 北海 道 大 学 水 産 学 部 か ら 提 供 を 受 け た 。 ス ケ ト ウ ダ ラ は ,19 782003年 ま で の 期 間 に , べ ー リ ン グ 海 の 海 盆 域 お よ び 東 部 大 陸 棚 海 域 で 調 査 船 , 用 船 さ れた 漁 船 , お よ び 大 学 練 習 船 に よ り 採 集 し た 。 ス ケ ト ウ ダ ラ 標 本 は , 魚 体 測 定後 , 耳 石 を 摘 出 し た 。 耳 石 は , 任 意 抽 出 し た 一 対 の 片 方 を 年 齢 査 定 に 用 い ,他 方 は 耳 石 長 を 測 定 後 , 薄 片 標 本 に 加 工 し た 。 耳 石 薄 片 標 本 は , 耳 石 核 か ら , 耳 石 先 端 のRostrumま で の 短 半 径 を 測 定した(FL: 4.6−803 mm,Ages0―24,Year―classes 1963−2002,ロ、=2354)。

さ ら に , 海 盆 域 の 成 魚 の 薄 片 標 本 に つ い て は , 耳 石 核 か ら15歳 の 各 年 輪 の 外 側 縁 辺 部 お よ び2歳 の 年 輪 内 側 縁 辺 部 (1歳 夏 期 ) ま で を 測定 し た(Ages 6−22, Yearーclasses 1964−1996,ロ 937)。

    ―55―

(3)

【結果と考察】

1

.スケトウダラ成魚の資源動態と成長

  1978‑ 2003

年における海盆域のスケトウダラ資源は,時代毎に卓越年級 群が長期間存在する特徴があり,1970 年代後半には1965 年級,1980 年代〜

1990

年代前半までは1978 年級群,

1990

年代中盤〜

2000

年代初頭までは

1989

年級群,2002 年には1996 年級群が卓越した。1980 年代後半にみられた海盆 域スケトウダラの高い豊度は,1978 年級群により支えられていたが,同年 級の減少とともに資源豊度は低下した。スケトウダラの各年級群豊度の低下 に伴い,5 〜  10 歳の年齢毎の体長は雌雄ともに時間経過(年)にしたがって 大型化していたことから,成魚は密度依存型の成長であると判断された。し かし,加入開始年齢の5 歳魚でも体長が大型化していたことから,大型化の 現象は同海域への加入以前に始まっていた可能性が考えられ,若齢期の成長 解析が必要となった。

2

.耳石長と体長の関係式

  

スケトウダラ若齢期の成長解析に必要な耳石と体長の関係式を導いた。こ こでは,スケトウダラの耳石長と体長の生涯にわたる複雑な成長様式を,連 続する合成関数モデルで関係式に反映させた。式は,耳石長と体長の分布の 中心を常に式が通過するように,耳石長の増加に伴って増加する体長の標準 偏差で重み付けし,最尤法で当てはめた。同様に,耳石短半径と耳石長の関 係式および体長と体重の関係式も作成した。求められた3 種類の式は,生涯 相 対 成 長 式 (

Lifetime allometric equation)

と 命 名 し た 。

3

.スケトウダラ若齢期の成長履歴解析

  1965‑.1996

年級のスケトウダラ成魚の耳石を用いて逆算推定した1 〜

5

の各年齢における尾叉長,年間成長量および相対成長率の経年変化を解析し

た。その結果,1 ー

2

歳間の成長がその後の成長に強く影響することが示唆さ

れた。さらに,加入後の成魚の体長と若齢期の成長を比較検討した結果,成

魚の体長は

1

―2 歳間の成長,特に

1

歳夏期の成長の優劣に影響を受け,そこ

で決定した成長の優劣が,その後も反転することなく継続することが示唆さ

れた。パスモデル解析から,東部大陸棚海域のスケトウダラ生物量が増加す

ると,海盆域ヘ加入するスケトウダラ個体群の年級群豊度は低下するが,こ

    

56

(4)

れに反して

1

歳夏期の体成長が良くなり,その結果,成魚の体長が大型化す ることが示された。

1

歳夏期の成長の変化は,東部大陸棚海域のスケトウダ ラ成魚の増加に伴って小型個体への選択的な捕食圧(共食い)が高まり,大 型個体のみが生き残った結果として生じたと考えられた。一方,O ー1 歳間の 成長は,水温環境の変化と同調して変化した。すなわち,成長は温暖年には 良く,寒冷年には悪いという関係が明らかとなった。長期的には,1965t 1977 年よりも,

1978

〜1996 年の成長が良く,1976/77 年の寒冷期から温暖期への レジームシフトが,O 一11 歳間のスケトウダラにおける餌環境を好転させたこ とにより,成長が好転した可能性が考えられた。しかし,

0

―1 歳間の成長様 式は,加入後の体長を左右する1 歳夏期の成長やスケトウダラの資源動態の 変化との関係は薄いことから,生息環境要因に依存する資源独立型の成長様 式を呈すると考えられた。

  

本研究では,広い年齢範囲の耳石を試料とすることで,数年おきに実施さ

れた断続的な調査の標本から,海盆域の漁業が開始される以前の1965 年級

群から1996 年級群まで,連続した

32

年級群間のスケトウダラ若齢期の成長

履歴を解明することが可能となった。解析結果から,生活史初期における生

活履歴の優劣が,その後の生涯にわたる生活史を大きく左右することが明ら

か と な っ た 。 こ の 成 果 を , 成 長 分 岐 点 仮 説 (

Career turning point hypothesis

)として提案する。

(5)

学位論 文審査の要旨 主査

副査 副査 副査 副査

教 授   桜 教 授   高 教 授   西 助 教 授  綿 室 長   西

井 泰 憲 橋 豊 美 山 恒 夫 貫    豊 村    明

学 位 論 文 題 名

( 北海道東海大学)

(北 海道区 水産研 究所 )

ベー リング 海スケトウダラ資源の 密度依存 ・独立 型の成長履歴解析

【目的】

  スケトウ ダラTheragra chalcogrammaは, 漁獲量, 資源量と もに世界最大を誇り,

北太平洋 およびそ の隣接海 域の亜寒 帯海洋生態系では鍵種に位置づけられている。べ ーリング 海では,1970年代後半 にアリュ ーシャン海盆域(以下海盆域)中央の公海域 でス ケ ト ウダ ラ 漁 場が 開 拓さ れ ,1989年に は約140万 トン,そ の後1990年代 に入つ て漁獲量 は激減し ,1992年には 僅か1万ト ンの漁獲 となった 。この資源の悪化に伴つ て,1993年か らは同海 域のスケ トウダラ 漁業の操業は停止され,現在も資源は低水準 のままで ある。海 盆域のス ケトウダ ラ資源は ,成魚の みで構成さ れ,4歳までの若齢 魚はほと んど出現 しない。 同海域の スケトウダラ成魚は資源減少に伴って体長が大型 化してお り,その 要因のひ とっとし て,同海域に加入する以前の若齢期の成長が影響 した可能 性が指摘 されてい る。

  そこで本 研究では ,海盆域 のスケト ウダラの生活環境・資源動態と密接に関係する 成長履歴 に焦点を 当て,成 魚と若齢 魚の長期的な成長様式の変化を調べ,資源変動に 伴う成長 様式の変 化,特に 資源減少 に伴う大型化のメカニズムを明らかにすることを 目的とし た。

【 材料と方 法】

ス ケトウダ ラ供試魚 ,耳石標本および魚体測定データ,および漁獲量統計資料は,

    ‑ 58

(6)

遠洋水産 研究所, 北海道区 水産研究所,米国アラスカ漁業科学センター,北海道大学 水産学部 から提供 を受けた 。スケトウダラは,1978〜2003年までの期間に,べーリン グ海の海 盆域およ び東部大 陸棚海域で調査船と大学練習船などにより採集した。標本 は,魚体 測定後に 耳石を摘 出した。耳石は,任意抽出した一対の片方を年齢査定に用 い,他方 は耳石長 を測定後 ,薄片標本に加工した。耳石薄片標本は,耳石核から,耳 石先端までの短半径を測定した(尾又長:4.6―803 mm,年齢:0ー24歳,1963−2002年 級群,標 本数:2354) 。さらに ,海盆域の成魚の耳石薄片標本については,耳石核か ら1〜5歳の各 年輪の外 側縁辺部お よび2歳の 年輪内側 縁辺部(1歳夏期) までを測 定 した(年齢:6―22歳,1964−1996年級群,標本数:937)。

【 結果およ び考察】

1. スケトウ ダラ成魚 の資源動 態と成長

  19782003年におけ る海盆域 のスケトウダラ資源は,卓越年級群が長期間存在する 特 徴 が あり ,1965年級,1978年級,1989年 級,およ び1996年級群 が卓越し た。1980 年 代後半の 海盆域ス ケトウダ ラの高い資源豊度は,1978年級群により支えられ,同年 級 の減少と ともに低 下した。 スケトウダ ラ資源豊 度の経年 的な減少に伴い,5〜10歳 の 年齢毎の 体長は雌 雄とも大 型化していたことから,密度依存型の成長であると判断 さ れた。し かし,資 源加入年 齢の5歳魚で 既に大型 化が認め られたことから,大型化 は 同海域へ の資源加 入以前に 生じたと推定されたため,若齢期の成長解析を行った。

2. 耳石長と 体長の関 係式

  ス ケトウダ ラ若齢期 の成長解 析に必要な耳石と体長の関係式を導いた。ここでは,

耳 石長と体 長の生涯 にわたる 複雑な成長様式を,連続する合成関数式に反映させた。

式 は,耳石 長と体長 の分布の 中心を常に式が通過するように,耳石長の増加に伴って 増 加する体 長の標準 偏差で重 み付けし,最尤法で当てはめた。同様に,耳石短半径と 耳 石長,お よび体長 と体重の 関係式も作 成した。 求められ た3種類の式は,生涯相対 成 長式(Lifetime allometric equation)と命 名した。

3. スケトウ ダラ若齢 期の成長 履歴解析

  19651996年級の 成魚の耳石 を用いて 逆算推定 した1〜5歳 の各年齢 における 尾又 長 ,年間成 長量およ び相対成 長率の経年変化を解析した。その結果,1−2歳問の成長 が ,その後 の成長に 強く影響 すること, 特に1歳夏 期の成長 の優劣が,その後も反転 す ることな く継続す ることが 示唆された。パスモデル解析から,東部大陸棚海域のス

(7)

ケトウダラ生物量が増加すると,海盆域ヘ加入するスケトウダラ個体群の年級群豊度 は低 下す る。 しか し, これに反して1歳夏期の体成長が良くなり,その結果,成魚の 体長 が大 型化 する こと が示された。1歳夏期の成長の変化は|東部大陸棚海域のスケ 卜ウダラ成魚の増加に伴って捕食圧(共食い)が高まり,その個体数の減少によって 生残した個体の成長が好転したためと推定された。一方,0―1歳間の成長は温暖年に は良く,寒冷年には悪いという関係が認められた。長期的には,1965〜1977年よりも,

1978〜1996年 の成 長が 良く,1976/77年の寒冷期から温暖期ーのレジ←ムシフトが|

O−1歳間のスケトウダラにおける餌環境を好転させたことにより,成長が好転した可 能性が考えられた。しかし,.0―1歳間の成長様式は,加入後の体長を左右する1歳夏 期の成長やスケトウダラの資源動態の変化との関係は薄いことから,生息環境要因に 依存する資源独立型の成長様式と判断された。

  本研究では,広い年齢範囲の耳石を試料とすることで,数年おきに実施された断続 的な 調査 の標 本か ら, 海盆 域の 漁業が 開始 され る以 前の1965年級群から1996年級群 まで ,連 続し た32年級 群間 のス ケトウ ダラ 若齢 期の 成長履歴を解明することが可能 となった。解析結果から,生活史初期における生活履歴の優劣が,その後の生涯にわ たる 生活 史を 大き く左 右す るこ とが明 らか とな った 。この成果を,成長分岐点仮説   (Career turning point hypothesis)として提案した。

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