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Japanese Journal of Nursing Art and Science Vol. 6, No. 2, pp 4 11, 2007 原 著 殿部筋肉内注射部位における上殿神経 動静脈損傷の危険性について A Study on the Risk of Damaging to the Su

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原  著

殿部筋肉内注射部位における 

上殿神経・動静脈損傷の危険性について

A Study on the Risk of Damaging to the Superior Gluteal Nerve, Artery,

and Vein on the Intramuscular Injection Sites in the Buttocks

 佐

Yoshie Satoh

藤好恵

1)

 藤

Tetsuya Fujii

井徹也

2)

 佐

Kaori Saeki

伯香織

2)

 新

Yukari Niimi

實夕香理

2)

 渡

Maki Watanabe

邉真紀

3)

 小

Yuki Ozawa

澤由紀

4)

 中

Takashi Nakano

野 隆

4) 殿部筋肉内注射部位として選択される「四分三分法の点」と「クラークの点」における上殿神経・ 動静脈等に関する形態学的検討を行い,より安全性の高い部位について検討した.実習用遺体 24 側で上殿神経・動静脈の走行を観察し,76 側で皮下組織・筋の分布について計測した.「四分三分 法の点」では,梨状筋上孔から中殿筋の後方筋腹へ分布する上殿神経後枝が小殿筋表層の投影点を 通過して走行する例は 20 側(83.3%)であり,小殿筋表層での上殿神経の刺入または密接例は「四 分三分法の点」が「クラークの点」よりも 2.6 倍多かった.よって「四分三分法の点」は上殿神経・ 動静脈の損傷の危険性が高い部位であった.また「四分三分法の点」と比較して,「クラークの点」 は皮脂厚が 1.3 ± 0.9 cm で有意に薄く(p<0.01),中殿筋の厚みは 2.1 ± 0.8 cm で有意に厚かっ た(p<0.01).したがって「クラークの点」がより安全な筋肉内注射部位であると考える. キーワード:殿部筋肉内注射,上殿神経,中殿筋

The first purpose of this study was to observe superior gluteal nerve, artery, and vein of intramuscular injection sites in 24 buttocks of 14 cadavers. As intramuscular injection sites in the buttocks “right and/or left upper quadrant of the buttocks” and “the site of Clark” were taken in this study. When the injection needle prick the top of gluteus minimus mus-cle, 20 buttocks (83.3%) were observed damage to the backward branch of the superior gluteal nerve on “right and/or left upper quadrant of the buttocks.” And “right and/or left upper quadrant of the buttocks” had 2.6 times higher risk of damaging to the superior glu-teal nerve than “the site of Clark.” Therefore “right and/or left upper quadrant of the but-tocks” had high risk of damaging to the superior gluteal nerve, artery, and vein. The sec-ond purpose of this study was to measure sebaceous and muscular thickness of intramuscu-lar injection sites in 76 buttocks of 43 cadavers. The sebaceous thickness of “the site of

受付日 : 2006 年 10 月 4 日 受理日 : 2007 年 4 月 12 日

1)関西福祉大学看護学部 Department of Nursing, Kansai University of Social Welfare, College of Nursing 2)名古屋大学医学部保健学科 School of Health Sciences, Nagoya University

3)津島市立看護専門学校 Tsushima Nursing School

4)愛知医科大学医学部 School of Medicine, Aichi Medical University

連絡先:佐藤好恵 関西福祉大学看護学部 〒 678─0255 兵庫県赤穂市新田 380─3 E-mail : y-satoh@kusw.ac.jp

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Ⅰ.はじめに

筋肉内注射は医師の指示によって看護師が行う看護 技術であり,安全な注射技術のエビデンスを明らかに することは現在の看護の課題である.川島らは安全な 筋肉内注射を構成するために必要なことは,第一に神 経や血管の分布から見た安全性の高い部位の選択であ ると述べている(川島・黒田 2005). 現在,殿部への筋肉内注射部位として「四分三分法 の点」と「クラークの点」が臨床で一般に推奨されてい る(岩本ら 2002 ; 水戸・花里 2001 ; 柴田ら 2002).ま た高橋らはアンケート調査を行い,岩手県内の看護師 47 名のうち,「四分三分法の点」を選択している看護 師が 40 名(82%),「クラークの点」を選択している看 護師が 8 名(16%),「ホッホシュテッターの部位」が 1 名(2%)であり,「四分三分法の点」が圧倒的に多かっ たと報告している(高橋ら 2003). 「四分三分法の点」は日本のみで選択されている方法 で,薄井が「クラークの点」を特定しにくいとして,よ り簡単に部位を特定でき,「クラークの点」とほぼ一致 している方法として考案した(薄井 1972).しかし, 考案された時点で「四分三分法の点」について解剖体で の検証はされていなかった.一方で,生体および遺体 において「四分三分法の点」と「クラークの点」の距離が 約 4 〜 5 cm あり,2 点が一致しないことが明らかに なった(佐藤ら 2005).また,注射部位における上殿 神経および上殿動静脈の分枝および走行について明確 にした報告は少ない.したがって,従来「クラークの点」 に近似し簡便な方法として多く推奨されてきた「四分 三分法の点」について安全性を形態学的に検討する必 要があるのではないかと考える. また,「四分三分法の点」および「クラークの点」は, 面積を有しない『点』であるのに対して,「ホッホシュ テッターの部位」は,一定の面積を有する『領域』であ り,部位の特定が困難である.また,対象者の体格, 実施者の手掌や指の大きさによって部位が変動する可 能性があるため,客観性に乏しい.これらの理由から, 今回は「ホッホシュテッターの部位」については選択し なかった.「四分三分法の点」と比較する部位として「ク ラークの点」を選定し,上殿神経および上殿動静脈と の位置関係について詳細な形態学的検討を行い,より 安全な筋肉内注射部位を検討した.

Ⅱ.方法

1.測定Ⅰ:上殿神経および上殿動静脈の走行観察 1938 年に Lanz と Wachsmuth が「殿部筋肉内注射 部位として上外 4 分の 1 が好まれ,上前腸骨棘と上後 腸骨棘を結んだ線の上方がよい」としていることが紹 介されている(押田 1973).また,上殿神経後枝は全 般的に上前腸骨棘と上後腸骨棘を結ぶ線より下方(尾 側)を外側に向かって走行していた(佐藤ら 2005).そ こで,上前腸骨棘と上後腸骨棘を結ぶ線(以下‘横線’ と称する)より上方(頭側)の部位の安全性について明 確にするために,「四分三分法の点」と「クラークの点」 との位置関係や上殿神経後枝の走行について観察を 行った. 1)対象 A 医科大学解剖セミナーに供された実習用遺体(ホ ルマリンの静脈内注入により固定し,アルコール内で 保存)より 14 体 24 側(うち男性 17 側,女性 7 側)の殿 部を対象とした.14 体中 4 側は殿部片側が他の教育・ 研究目的ですでに剥皮されており本研究では正確な値 が出せないため症例数に含めなかった.また対象は肉 眼的に殿部の褥瘡や外傷を有しないこと,仙骨神経叢 の枝の保存が良好なこと,および下肢帯の筋萎縮や拘 縮などが認められないことを条件に選択した. Clark” had a significantly thinner than “right and/or left upper quadrant of the buttocks”

(p < 0.01). The gluteus medius muscular thickness of “the site of Clark” was thicker than “right and/or left upper quadrant of the buttocks(p < 0.01)”. These results were

suggest-ed that in comparison with “right and/or left upper quadrant of the buttocks,” “the site of Clark” is a safety site of intramuscular injection in the buttocks, because it has lower dam-ages to the superior gluteal nerve, thinner sebaceous thickness, and thicker gluteus medius muscular thickness than “right and/or left upper quadrant of the buttocks.”

Key words : intramuscular injection in the buttocks, superior gluteal nerve, gluteus medius muscle

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対象の年齢は 45 〜 89 歳であった. 対象の死因は老衰,急性心不全,肺炎,脳梗塞,悪 性新生物等であった.直接死因以外においても,筋萎 縮や拘縮など著しい運動器系の変形を伴う中枢神経系 疾患,下位運動ニューロン疾患および筋疾患は含まれ ていない. 2)用語の定義 ・ 上殿神経前枝…上殿神経のうち,中殿筋の前方筋 腹および大腿筋膜張筋を支配するものとした. ・ 上殿神経後枝…上殿神経のうち,中殿筋の後方筋 腹を支配するものとした. ・ 小殿筋表層の「投影点」…各点で注射針を皮膚に直 角に刺入して,その注射針の針先を小殿筋表層ま で到達させた点とした. ・ 神経への「密接例」…針先が神経に刺入してはいな いが,神経の周囲 3 mm 以内に位置する例とし た. 3)研究方法 体表面上で「四分三分法の点」と「クラークの点」を実 測により計測した後,各点より皮膚に直角にカテラン 針(22G 7.0 cm)を刺入した.針の断面が観察できるよ うに剥皮し,脂肪組織,筋,上殿神経および上殿動静 脈を剖出した.梨状筋上孔から中殿筋後方筋腹への侵 入点までの上殿神経後枝の長さと,梨状筋上孔から「四 分三分法の点」あるいは「クラークの点」までの距離を 計測した.また,上殿神経後枝および前枝,上殿動静 脈の走行について図示した.次に,‘横線’にたこ糸を 張り,各点と‘横線’との位置関係を観察した.上殿神 経後枝の走行については,当研究者間で検討し,タイ プ別に分類した. 4)分析方法 「四分三分法の点」と「クラークの点」における梨状筋 上孔からの距離について,独立サンプルの t 検定を 行った. 2.測定Ⅱ:皮下組織・筋の分布 1)対象 測定Ⅰと同様の実習用遺体 43 体 76 側(うち男性 43 側,女性 33 側)の殿部を対象とした.43 体中 10 側は 測定Ⅰと同様の理由で症例数に含めなかった. 対象の年齢は 45 〜 93 歳であった. 対象の選定条件については,測定Ⅰと同様である. 2)研究方法 測定Ⅰと同様に,「四分三分法の点」と「クラークの 点」より皮膚に直角にカテラン針(22G 7.0 cm)を刺入 し,針の断面が観察できるように剥皮した.脂肪組織 を切離し,皮下組織の厚み(以下,皮脂厚と称する)を 計測した.その後,筋を剖出して各点での大殿筋・中 殿筋の厚みを計測した. 3)分析方法 「四分三分法の点」と「クラークの点」における厚み (皮脂厚,中殿筋に到達するまでの厚み,中殿筋の厚み, 合計の厚み)と,その男女差について独立したサンプ ルの t 検定を行った.また,「四分三分法の点」におけ る中殿筋に到達するまでの厚み,合計の厚みは大殿筋 が分布している場合,分布していない場合,両方を含 む全例それぞれにおいて独立したサンプルの t 検定を 行った.

Ⅲ.倫理的配慮

今回の計測は死体解剖保存法に基づいて実施し,生 前に本人の同意により篤志献体団体に入会された方の 御遺体を対象とした. 実施にあたっては,A 医科大学医学部解剖学講座 の教授,助教授と倫理的側面を検討し許可を得た.

Ⅳ.結果

1.測定Ⅰ:上殿神経および上殿動静脈の走行観察 上殿神経は梨状筋上孔を通って骨盤腔外に出て,中 殿筋の前方筋腹および大腿筋膜張筋に分布する 1 本の 前枝と,中殿筋の後方筋腹に分布する数本の後枝に分 枝し,中殿筋と小殿筋の間を走行していた.また上殿 動静脈は上殿神経前枝・後枝に伴走していた.よって, 上殿神経の走行を中心に示す. 1)梨状筋上孔からの距離(図 1) 梨状筋上孔から「四分三分法の点」までの距離は 5.9 ± 1.2 cm,「クラークの点」までの距離は 7.1 ± 1.3 cm であった.また梨状筋上孔から各点までの距離は,「ク ラークの点」が「四分三分法の点」より有意に離れてい た(p < 0.01). 梨状筋上孔から中殿筋後方筋腹への侵入点までの上 殿神経後枝の長さは 6.0 ± 1.8 cm であった.上殿神 経後枝の長さは全般に最短で 2.0 cm,最長で 9.5 cm と多様であり,上殿神経の分岐・角度などの走行につ いては個体差がみられた.しかし,全例において,「四 分三分法の点」が「クラークの点」より殿部内側(梨状筋

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上孔側)に位置しており,「四分三分法の点」がより上 殿神経後枝の走行に近い位置に分布していた(写 真

1

). 2)上殿神経後枝の走行について 24 側の上殿神経後枝の走行については,主に 3 種 類に分類された(図 2 〜図 4). Type 1 は,上殿神経後枝が「四分三分法の点」の小 殿筋表層の投影点を通過して走行し,「クラークの点」 より上方を走行する例である.また,どの上殿神経後 枝が「クラークの点」より上方を走行するか,あるいは 「クラークの点」の小殿筋表層の投影点も通過して走行 するかという点に着目すると,さらに 4 つのタイプに 分類できた(図

2

). Type 2 は,上殿神経後枝が「四分三分法の点」,「ク ラークの点」の小殿筋表層の投影点に密接せずに走行 し,「クラークの点」より上方を走行する例である.ま た,「クラークの点」に加えて「四分三分法の点」より上 方を上殿神経後枝が走行するかという点に着目する と,さらに 2 つのタイプに分類できた(図

3

). Type 3 は,上殿神経後枝が「四分三分法の点」の小 殿筋表層の投影点を通過して走行し,「クラークの点」 より上方を走行しない例である(図

4

). 3)上殿神経前枝の走行について 上殿神経前枝は,すべてのタイプにおいて‘横線’よ り下方(尾側)を水平に,あるいは斜め上方または下方 にゆるやかに外側へ走行していた(図 2 〜図 4). 4)小殿筋表層での上殿神経の刺入または密接例に ついて 各点で直角にカテラン針を小殿筋表層まで到達させ た時,「四分三分法の点」で上殿神経への刺入例が 18 側(75.0%)あり,うち前枝に 1 側(4.2%),後枝に 17 側(70.8%)であった.また上殿神経への密接例が 5 側 (20.8 %)で, う ち 前 枝 に 2 側(8.3 %), 後 枝 に 3 側 (12.5%)であった.「クラークの点」で上殿神経への刺 入例が 5 側(20.8%)あり,うち前枝に 1 側(4.2%),後 枝に 4 側(16.7%)であった.また上殿神経への密接例 が 4 側(16.7%)で,うち前枝に 1 側(4.2%),後枝に 3 側(12.5%)であった. 小殿筋表層での上殿神経の刺入または密接例は,「四 分三分法の点」が「クラークの点」よりも 2.6 倍多かっ た. 2.測定Ⅱ:皮下組織・筋の分布(表

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皮脂厚は,「四分三分法の点」では 1.9 ± 1.2 cm(男 性 2.1 ± 1.3 cm,女性 1.7 ± 1.0 cm),「クラークの点」 で は 1.3 ± 0.9 cm( 男 性 1.5 ± 1.0 cm, 女 性 1.1 ± 0.7 cm)であった.皮脂厚の男女差は 2 点ともみられ なかった.皮脂厚は「四分三分法の点」が「クラークの 点」より有意に厚かった(p < 0.01). 「四分三分法の点」で皮下組織の直下に大殿筋が分布 四分三分法の点 .± . cm 上殿神経後枝の長さ . ± . cm クラークの点 . ± . cm   M S 図 1 梨状筋上孔から各点までの距離 ● 四分三分法の点  1 上前腸骨棘   M 梨状筋   ◎ クラークの点   2 上後腸骨棘   S 坐骨神経 ○ 梨状筋上孔    3 大腿骨大転子 中殿筋 大転子 坐骨神経 中殿筋 腸骨稜 上殿神経後枝 四分三分法の点 クラークの点 梨状筋上孔 上殿神経前枝 上前腸骨棘へ 上後腸骨棘へ 横線 写真 1 中殿筋下部の上殿神経後枝・前枝の走行

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していた例が 75 側中 22 側(29.3%)あり,大殿筋の厚 みは 1.3 ± 0.9 cm であった.「四分三分法の点」で中 殿筋に到達するまでの厚みは,大殿筋が分布している 場合は 3.7 ± 1.7 cm(n = 22)であり,大殿筋が分布し ていない場合は 1.7 ± 0.9 cm(n = 52)であった.全例 での厚みは 2.3 ± 1.5 cm(n = 74)であった.「クラー クの点」では全例で皮下組織の直下に中殿筋が分布し ており,中殿筋に到達するまでの厚みは皮脂厚と同じ であるが,「四分三分法の点」で大殿筋が分布していな い場合より有意に薄かった(p < 0.05).また,「クラー クの点」は,大殿筋が分布する場合,さらに全例での「四 分三分法の点」より有意に薄かった(p < 0.001). 中 殿 筋 の 厚 み は,「 四 分 三 分 法 の 点 」で は 1.8 ± 0.7 cm( 男 性 1.9 ± 0.7 cm, 女 性 1.6 ± 0.5 cm),「 ク ラークの点」では 2.1 ± 0.8 cm(男性 2.2 ± 0.9 cm,女 性 2.0 ± 0.6 cm)であった.中殿筋の厚みは「クラーク の点」が「四分三分法の点」よりも有意に厚かった(p < 0.01).また,「四分三分法の点」においては中殿筋の 厚みに男女差がみられた(p < 0.05). 合計の厚みは,「四分三分法の点」では大殿筋が分布   S M P A   S M P A a 「四分三分法の点」の小殿筋表層の投影点を通過した 後,同じ後枝の延長が「クラークの点」より上方を走 行する例         ( /  側) b a に加え,他の後枝が「クラークの点」の小殿筋表 層の投影点を通過して走行する例    (/  側) c  本の後枝が  点の小殿筋表層の投影点を通過して 走行する例         (/  側) d 「四分三分法の点」の小殿筋表層の投影点を通過し,他の後枝が「クラークの点」より上方を走行する例   (/  側)   S M P A   S M P A 図 2 上殿神経後枝の走行 Type 1 ● 四分三分法の点  ◎ クラークの点  1 上前腸骨棘  2 上後腸骨棘  3 大腿骨大転子  M 梨状筋  S 坐骨神経 A 上殿神経前枝    P 上殿神経後枝  → 梨状筋上孔  …… 上前腸骨棘と上後腸骨棘を結ぶ線(‘横線’)

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している場合で 5.7 ± 1.9 cm,大殿筋が分布していな い場合で 3.3 ± 1.3 cm であった.「クラークの点」で は 3.4 ± 1.4 cm であった.合計の厚みは,「クラーク の点」が「四分三分法の点」で大殿筋が分布している場 合より有意に薄かった(p < 0.001).また,「クラーク の点」は,大殿筋が分布しない場合を含む全例での「四 分三分法の点」より有意に薄かった(p < 0.05).

Ⅴ.考察

殿部筋肉内注射部位に注射針を刺入する際,最も損 傷する危険性が高い神経は,殿部の上外側 4 分の 1 の 領域において中殿筋と小殿筋の間を走行し,両筋およ び大腿筋膜張筋を支配する上殿神経である.佐藤らは, 「四分三分法の点」は,「クラークの点」に比べて梨状筋 上孔からの距離が短く,かつ,上殿神経への刺入また は密接例が多いため,上殿神経損傷の危険性が低い「ク ラークの点」がより安全な注射部位であることを報告 した(佐藤ら 2005).また,当研究において対象数を 増やし,同様の結果が得られた. 佐藤らは,「クラークの点」よりも上方(腸骨稜側)が 上殿神経の走行が少なく安全性が高いことを報告した (佐藤ら 2003).今回は,体表面から特定しやすい指 標として‘横線’(上前腸骨棘と上後腸骨棘を結ぶ線)に 注目し,上殿神経後枝との位置関係について詳細な観 察を行った.その結果,24 側中 23 側(Type 1 および Type 2)において,上殿神経後枝が‘横線’よりも上方 を走行していた.また,20 側(Type 1 および Type 3) において,上殿神経後枝が「四分三分法の点」に密接し ていた.一方,「クラークの点」への密接例は 7 側 (Type 1b および Type 1c)であった.したがって,今 回の結果からも殿部への筋肉内注射部位として「ク   S M P A   S M P A a  点よりも上方を走行する例      (/  側) b 「四分三分法の点」と「クラークの点」の中間を走行 する例      ( /  側) 図 3 上殿神経後枝の走行 Type 2 ● 四分三分法の点  ◎ クラークの点  1 上前腸骨棘  2 上後腸骨棘  3 大腿骨大転子  M 梨状筋  S 坐骨神経 A 上殿神経前枝    P 上殿神経後枝  → 梨状筋上孔  …… 上前腸骨棘と上後腸骨棘を結ぶ線(‘横線’)   S M P A 図 4 上殿神経後枝の走行 Type 3 (1/24 側) ● 四分三分法の点  ◎ クラークの点  1 上前腸骨棘 2 上後腸骨棘  3 大腿骨大転子  M 梨状筋  S 坐骨神経 A 上殿神経前枝  P 上殿神経後枝  →  梨状筋上孔 …… 上前腸骨棘と上後腸骨棘を結ぶ線(‘横線’)

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ラークの点」が「四分三分法の点」より安全であると考 えられた.しかし,この結果は上殿神経後枝の走行お よび分布は個体差が大きいことも示しており,かつ, 対象者の体格差等を考慮すると,安全な注射部位を 『点』として求めることは困難である.したがって,よ り安全な『領域』を定めることが重要である.今回の結 果からは,「クラークの点」を通る‘横線’より上方が安 全な部位であることは言及できなかった.筋肉内注射 を行う場合は,上殿神経後枝のみでなく前枝の走行も 考慮して,安全な『領域』を明確に定める必要があると 考えられる.今後は,‘横線’より上方の範囲内におい て神経損傷の危険性が低い『領域』を特定したい.これ については,現在研究中である. 次に,注射針の刺入深度について,佐藤らは「四分 三分法の点」は「クラークの点」に比べて皮脂厚が有意 に厚く,中殿筋の厚みが有意に薄いことと,「四分三 分法の点」では皮下組織の直下に大殿筋が分布してお り,大殿筋の厚みを考慮してより深い刺入深度が必要 であることを報告した(佐藤ら 2005).また,当研究 において対象数を増やし,同様の結果が得られた.さ らに,「クラークの点」において中殿筋に到達するまで の厚みは,大殿筋が分布していない場合の「四分三分 法の点」よりも有意に薄く,中殿筋が有意に厚いため 薬剤を筋肉内に安全に投与できると考えられる.実習 用遺体はホルマリン固定後,約 1 年間アルコール内で 保存したものであるため,生前に比べて皮下組織・筋 などの組織の収縮があることは否定できない.また, 実習用遺体は仰臥位で保存されており,殿部が圧迫さ れ生体時の殿部の形状が保たれないため,生体での数 値とは異なると考えられる.しかし,当研究は,同一 条件下で「四分三分法の点」と「クラークの点」での厚み の比較をしており,2 点の有意差については組織の収 縮が及ぼす影響は少ないと考える.さらに,厚みの男 女差について,「四分三分法の点」での中殿筋の厚みと 合計の厚み(全例)においてみられている(p < 0.05) が,実習用遺体を対象にした今回の研究では,性別, 年齢,体格等の個別性については重視していない.個 別性を考慮した各部位での刺入深度については今後の 検討課題である.

Ⅵ.結論

‘横線’に注目し,殿部筋肉内注射部位と上殿神経後 枝との位置関係について詳細な観察を行った結果,24 側中 23 側(Type 1, Type 2)において,上殿神経後枝 が‘横線’よりも上方を走行していた.また,20 側 (Type 1, Type 3)において,上殿神経後枝が「四分三 分法の点」に密接していた.一方,「クラークの点」へ の密接例は 7 側(Type 1b, c)であった.よって,「ク ラークの点」が上殿神経・動静脈の損傷の危険性が少 なく,安全性の高い部位であると考えられた.また,「ク ラークの点」を通る‘横線’より上方が安全な部位であ 表1 各点での厚み(cm) 男 性 女 性 全 体 四分三分法の点 皮脂厚 2.1 ± 1.3(n=41) 1.7 ± 1.0(n=33) 1.9 ± 1.2(n=74) 大殿筋の厚み 大殿筋(+)の場合 1.5 ± 0.9(n=14) 1.1 ± 0.8(n=8) 1.3 ± 0.9(n=22) 大殿筋(-)の場合 0(n=28) 0(n=25) 0(n=53) 中殿筋に到達するまでの厚み 大殿筋(+)の場合 4.1 ± 1.8(n=14) 3.0 ± 1.4(n=8) 3.7 ± 1.7(n=22) 大殿筋(-)の場合 1.7 ± 0.9(n=27) 1.7 ± 1.0(n=25) 1.7 ± 0.9(n=52) 全例 2.5 ± 1.7(n=41) 2.0 ± 1.2(n=33) 2.3 ± 1.5(n=74) 中殿筋の厚み 1.9 ± 0.7(n=42) 1.6 ± 0.5(n=33) 1.8 ± 0.7(n=75) 合計の厚み 大殿筋(+)の場合 6.3 ± 1.9(n=14) 4.8 ± 1.5(n=8) 5.7 ± 1.9(n=22) 大殿筋(-)の場合 3.5 ± 1.3(n=27) 3.2 ± 1.3(n=25) 3.3 ± 1.3(n=52) 全例 4.4 ± 2.0(n=41) 3.6 ± 1.5(n=33) 4.0 ± 1.8(n=74) * クラークの点 皮脂厚 1.5 ± 1.0(n=41) 1.1 ± 0.7(n=33) 1.3 ± 0.9(n=74) 中殿筋の厚み 2.2 ± 0.9(n=42) 2.0 ± 0.6(n=33) 2.1 ± 0.8(n=75) 合計の厚み 3.7 ± 1.6(n=41) 3.1 ± 1.2(n=33) 3.4 ± 1.4(n=74) *p<0.05 **p<0.01 ***p<0.001 * * * * * * * * * * * * * * * *

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ることは言及できなかった.「クラークの点」は「四分 三分法の点」より皮脂厚が有意に薄く,中殿筋が有意 に厚いため注射針を中殿筋内に安全に刺入しやすい. したがって殿部への筋肉内注射部位として「クラーク の点」が「四分三分法の点」より安全で適切な部位であ ると考えられた. 謝辞:献体された方々,献体者のご遺族の皆様に心より感 謝申し上げます. 文 献 岩本テルヨ,芳賀百合子,山田美幸(2002):注射技術のエビデ ンス,臨牀看護,28(13),2034─2050. 川島みどり,黒田裕子(2005):川島みどりと黒田裕子の考える 看護のエビデンス,24─38,中山書店,東京. 水戸優子,花里陽子(2001):続・看護技術を科学する 教科書 チェック 看護技術の再構築 特別編 筋肉内注射(2)─文献 レビュー,ナーシング・トゥディ,16(9),64─68. 押田茂實(1973):筋肉内注射法の歴史的考察,日本医事新報, 2557,13─20. 佐藤好恵,中野隆,木村勝,他(2003):殿部への筋肉内注射の 適切な部位の検討─第 2 報 上殿神経の損傷を避ける注射部 位─,解剖学雑誌,78(第 108 回日本解剖学会総会・全国学術 集会抄録),183. 佐藤好恵,成田伸,中野隆(2005):殿部への筋肉内注射の選択 方法に関する検討,日本看護研究学会雑誌,28(1),45─52. 柴田千衣,石田陽子,高橋有里,他(2002):筋肉内注射技術に 関するテキスト記載内容について─日米のテキスト及び文献 検討より─,岩手県立大学看護学部紀要,4,105─110. 高橋有里,菊池和子,三浦奈都子(2003):筋肉内注射の実態と 課題─看護職者へのアンケート調査より─,岩手県立大学看 護学部紀要,5,97─103. 薄井坦子(1972):注射部位の再検討について,週刊医学界新聞, 1020.

参照

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