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教員・保育者養成における保護者理解の学習 ─アクティヴィティによる試み─

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教員・保育者養成における保護者理解の学習

─アクティヴィティによる試み─

井上 大樹

Ⅰ.はじめに

 教員・保育者と保護者との関係づくりが近年さらに困難になってきている.いわゆる「モンスター・ ペアレント」対策は教育委員会レベルで進みつつあり,現職教員を対象にした研修機会が増えている. また,若手教師の病気休職や自殺の一因にも保護者との関係づくりへの苦悩があげられ(久冨・佐藤 2010),教員養成段階における学習機会をつくることは急務である.  さて,教員向け研修で現在注目されているのは小野田正利をはじめとする「新・学校保護者研究会」 が展開しているワークショップである.そもそも小野田は「モンスター・ペアレント」という言葉を 用いない.現在学校に寄せられる「無理難題要求(イチャモン)」の大半は 100%理不尽とは言い切れず, 教員と保護者のコミュニケーションの「ねじれ」に起因する場合が多いことを事例研究で小野田は明 らかにしている.小野田は,「イチャモン」をつけるほど学校への強い関心をもつ保護者に対し,教 師たちが丁寧に対応することで,対立から協同へのきっかけにできると指摘している(小野田 2006, 2011).  2005 年 8 月から小野田らが始めたワークショップは,これまでの事例研究をもとに実践的「教訓」 をマニュアルしつつ「保護者対応力」を高めることを目的にしている.そのプログラムは小グループ による経験交流,ロールプレイ(学校側 vs 保護者)を軸に,教員どうしの相互理解や協力しようと する意識づけにもつながる展開になっている.ロールプレイでは,保護者の立場を演じることで共感 的理解につなげる一方,保護者対応に関する教師の「ワザ」を伝え会う機会になっている.また,校 内でも同僚性の構築が困難と言われている中,違う世代でグループをつくり,お互いの話を聞きあう 空間で世代間の相互理解が進む.さらに経験交流を通じ,様々な教員の苦労をその人の身になって共 感しあうことで,語りを聞き取ってもらうことの「癒し」,自分の(失敗)経験を「開く」安心感を 実感し,一人で抱え込まず教員の「同僚性」を高めることを学んでいる.(小野田 2008,2009)  しかし,現在の教員養成及び保育士養成の学生が教育実習も含め保護者との関係づくりについて実 践的に学ぶ機会は十分に得られていない.特に,教育実習など現場で保護者と自ら関わることはほと んどない.国立教育政策研究所が教職課程の授業担当者に行った「教員養成の充実・向上に関する調査」 (平成 22 年度実施)によると,「保護者対応」について現在の小中学校の教師には 9 割近い担当者が 「非常に強く求められている」「かなり求められている」と認識しつつも,現在の教職課程では「とて も役に立っている」「ある程度役に立っている」を合わせても 1/4 程度にしか満たない.つまり,今 の新人教師は子どもとの関わりほど実地で経験がないのに,これまで以上に「正確な」対応を保護者 との関係では迫られるという今までにない困難を初めから背負わされていると言える.  そこで筆者は,擬似的でも保護者との関わり方を実践的にイメージできる学習機会を,現在の教員・ 保育士養成の枠組みで直ちに可能な方法を探ることとした.さしあたり,筆者が授業を担当している A 大学及び B 専門学校で,「新・学校保護者研究会」のものを参考にしつつロールプレイ中心のプロ

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グラムを実施する試みを 2009 年度から始めた.本稿では 2010 年度の実施状況及び学生の様子から, 大学・専門学校の授業で「保護者対応力」を身につける可能性と課題について論じたい.特に,現職 教員向けの研修で小野田もその効果を指摘した「保護者理解の深まり」「保護者理解を深めるための 手立て」の視点から検討する.

Ⅱ.プログラムの設計

1.教員向けからの「転用」  現在,「新・保護者研究会」が行っている(推奨する)研究プログラムの主な構成は以下のとおり である(約 2 時間). ・無理難題要求(イチャモン)の現状(講義/約 35 分) ・ワークショップ(30 ~ 40 分) *ロールプレイとグループディスカッション ・まとめ(教職員へのアドバイスなど)(講義/約 35 分)  なお,ロールプレイの題材としては「卒業アルバム」(資料 1-1),「手足口病」1)「吹奏楽部」2)「け が」(資料 1-2)が紹介されている.  このプログラムを学生向けに「転用」するには,学校現場を経験していない分,教員が研修に望む 場合とのレディネスの決定的な違いを考慮しなくてはいけない.  当然であるが,学生自身が教員として保護者に対応した経験はなく,他の教員が保護者に対応する 過程を把握する機会がほとんどないことである.そのため,いわゆる「モンスター・ペアレント」問 題について,テレビなどのマスコミによる「偏った」情報から「保護者」イメージが形成されている 可能性が高い.なお,教員・保育者養成課程の学生は全員が「絶対教師になる」という意識を持って いるわけでなく,子どもと直接関わるわけではない「保護者対応」に興味・関心をどれだけ持つかと いう根本的な問題もある.さらには,ワークショップのように設定された課題に対しテンポよく行動 することが難しい学生も少なくない3)  そのため,学生向けプログラムの設計については以下の点に留意し,「新・保護者研究会」向けの ものを「改良」することとした. ・ 教員が保護者の要求に対して神経質になっている実態や背景を具体的にイメージできる内容を盛り 込む. ・ ワークシートを活用するなど,一つひとつのプロセスや項目について丁寧に振り返ることができる ように配慮する4) ・ 多様な保護者イメージや教員の的確な対応について一人でアイディアを膨らませることは難しいた め,これらについてはグループで検討する時間を保障する5) 2.基本的な構成 1)目的  ロールプレイで「イチャモン」をつける保護者役,それに対応しようとする教師役を演じることを 直接・間接に経験する中で,「保護者への共感的理解の契機」,「保護者や他の教師との積極的な関係 づくりへの動機づけ」にむすびつける.

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2)活動内容  基本的な活動内容について 90 分× 2 コマの構成とした. ①事前学習(1 コマ目)  事前学習として給食費未納問題を取り上げ,ドラマ「モンスター・ペアレント」(関西テレビ/ 2008 年 7 月 15 日放送)を視聴させている.  フィクションではあるが,保護者の言動の「様々な」背景やそれに四苦八苦する教師の様子がわか りやすく描かれている.特に給食費を「払えない」保護者と「払わない」保護者の言動や心情が比較 でき,わかりやすい.などの理由でワークショップ実施以前から教材として使用している. ②グループ分け(10 分程度)  「保護者との関係づくりがうまくいかないのは教師個人の責任である」という意見に同意できる割 合(%)の順番に一列に並んでもらう.割合の近い者どうしで 6 人程度のグループを組む.その後のロー ルプレイでは,割合が高い方の班は教員側,割合の低い方の班は保護者側を演じてもらう. ③作戦会議(グループ,15 分程度)  教員側の班,保護者側の班で情報量の異なるシナリオを配布する(資料 1).シナリオは,「新・保 護者研究会」が作成したものから,学生が比較的問題内容について理解しやすいものかどうかという 基準で筆者が選んだ6).同じシナリオで自分(たち)の役のものしか見られないのは教員向け研修と 同様のルールである.  それに基づき,教員側の班は想定される保護者の言動を想定しながら対応方法について話し合う. はじめは担任役だけで対応するが,状況によって主任役や管理職役などに助けを求めてもよいことと する.保護者側は,その時の気持ちを考え,教員にどう思いをぶつけるかを話し合う.最後に実演の 配役(担任,主任,教頭/母親,父親 など)と(他の班の実演に対する)コメンテーターを決める. 資料 1-1 ロールプレイで使用したシナリオ A(卒業アルバム) 教員側  「今日は卒業(園)式.子どもたちを送り出しほっとしていたあなたに,タロウ君の保護者が学校 にたずねて来られました.  あなたが今までにこの保護者と特にもめたことはありませんが,タロウ君の妹の担任からは「ちょっ としたことで文句を言いに来る困った親だ.」と聞いています. 保護者側  卒業(園)式から帰宅後,さっそくタロウ君と一緒に卒業(園)アルバムを開いた.ところが,タ ロウ君が写っているスナップ写真がほとんどなく,友達のしんのすけ君は 10 枚でしかも大きく写っ ている.いてもたってもいられなくなったあなたは,事情を聞きにもう一度園に向かいました. ・ 先生の対応によって感情的になったり,要求をエスカレートさせてもかまいません.(机をたたく, 「全員のアルバムを回収してつくりなおせ」 など)

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資料 1-2 ロールプレイで使用したシナリオ B(けが) 教員側  授業も終わり,デスクワークも片付いた午後 7 時ごろ,クラスのハナコさんの保護者から突然電話 が来ました.  ハナコさんは今日も特に本人やクラスメイトとのトラブルもなく,元気よく下校しています.保護 者も何度か会ってますが,特に厳しいことを言われたりという記憶もありません. →小学 3 年のクラスです. 保護者側  共働きの家庭のあなたは,仕事中の午後 4 時ころ,一人娘のハナコさん(小 3)から携帯電話で泣 きながら電話が来ます.「どうしたの?」と声をかけると,「クラスのケンちゃんに突き飛ばされた」 と言い,「足が痛い」と苦しそうに言います.これはただ事ではないと思ったあなたは急いで帰宅し, ハナコさんを病院に連れて行きます.すると,医者から「1 週間は家で安静にしているように」との こと.  理不尽な思いにかられたあなたは,娘にけがをさせたケンちゃんに対する怒りがこみ上げ,とっさ に思いついたことは娘と同じ日数だけ学校を休ませることでした.思いつくままに,担任の先生に電 話を入れてこの要求をぶつけることにしました.ただ,くわしい事情を聞こうにもハナコさんはただ 泣くばかりで,詳しいことはわかりません. ・ 最初の要求は「うちの子をケガさせた子も休ませろ」ですが,さらに,要求が受け入れられなけ れば,回復後もうちの子を来校させないと主張します. ・ 出てくる保護者は母親だけでも,父親が出てきてもかまいません. ・ 相手の出方によっては激高したり,謝るまで話を終わらせないなどの態度をとります. ④実演(全体,30 分程度)  あらかじめ決めた教員役の班と保護者役の班の組み合わせで順次,全体に向けて実演してもらう(5 分程度).他の学生には教員側の対応でよいところ,改善すべきところを探しながら見てもらう.保 護者が納得したら終了だが,5 分程度やりとりしてもらちがあかない場合は途中でも打ち切りにする. 終了後,実演していない班のコメンテーター 1,2 人から教員側の対応でよかった点,学べる点につ いて 1 分程度でコメントしてもらう.この間,講師(筆者)はコメントはせず進行役に徹する.ただし, 保護者役の言い方が弱いなどの理由で演技面のアドバイスをすることはあった. ⑤まとめ(20 分程度)  全ての実演が終わった時点で講師から実演の総評と本時のまとめを行う.まとめでは,①技術的な 面も含めて保護者への対応について学び続けること,②他の教師とすみやかに協力関係を築くこと, ③日常的に保護者と直接間接のコミュニケーションをとる努力を続けることの重要性について説明す る.①では,受け入れられない要求に対しても「そうですか」などと「聞き取る」方法があること, 一般社会では当たり前であるお客様への扱い(応接スペースに通す,お茶を出すなど)をする,こと

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などを説明している.②については,一人で抱え込まないことが自分を守ることにつながることを若 手教師やベテラン教師の実例を紹介しながら説明している.③については特に「学級通信」など間接 的に子どもたちの学習の様子を伝える方法を紹介している.  最後5分程度,今日のワークショップで学んだこととして,「保護者との関係づくりにはどんなこ とが大切か」について書いてもらう. 3.実施状況 1)A 大学  A 大学は小学校及び中学校教員の養成を主とする大学である.筆者が担当している講義は,2 年以 上を対象にした生徒指導及び進路指導に関する内容(2 単位)である.全 15 コマのうち,最後の 2 コマをこのワークショップの時間にあてた.1 クラスはおよそ 40 ~ 70 名である7)  実施にあたっては,他の回と評価方法を整合させる,時間が限られている,実演や話し合いに集中 してほしいということなどの理由で,提出物としてはリアクションペーパーのみとした.ただし,メ モのためにレジュメは配布している(資料 2-1). 資料 2-1 A 大学(通常講義)で使用したレジュメ(項目) 1.グループ分け 「保護者との関係づくりがうまくいかないのは教師個人の責任である」  →同意できる割合(   )% の順で一列に 2.グループ別作戦会議  ・シナリオに沿ってどのように演じるか話し合う 3.実演 4.分析  ・教師の対応の良かったところ  ・教師の対応の改善すべき点  *保護者の意図をどのように理解するか? 5.まとめ 6.リアクションペーパー記入  なお,集中講義クラスについては講義スケジュールの組み立て上,8,9 回目にあたる時間帯に実 施した.また,それまでのディスカッションが活発だった8)ことから,班内でシナリオ A の実演と 分析を行い,くじで決めた代表者同士でシナリオ B の実演をしてもらい9),全体で分析とまとめを行っ た.(資料 2-2) 資料 2-2 A 大学(集中講義)で使用したレジュメ(項目) 1.役割分担  ・担任役−保護者役のペアを3組  ・残り1人は司会・全体発表者  ・役が決まったら,司会者は役割指示書を受け取り,メンバーに配布する   *担任用と保護者用を間違えないこと!

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2.グループ内実演 *シナリオA  ・各組3分程度実演  ・見ている人は教師の対応について観察する 3.分析  (1)保護者役に感想を述べてもらう  ・教師にどういう気持ちを伝えたかったか?  ・教師の対応によって言うこと(要求)を変えたか  など  (2)教師役に感想を述べてもらう  ・どういうところが大変だったか  ・保護者の気持ちを和らげるコツ  など 4.分析発表+実演(代表者) 5.まとめ 6.リアクションペーパー記入 2)B 専門学校  B 専門学校では,保育士養成に特化した F 学科(2 年制)2 年,保育士・幼稚園教員免許に加え児 童福祉について重点的に学ぶ G 学科(3 年制)1,2 年,保育士・幼稚園教員免許に加え医療事務の 資格が取得できる女子のみの H 学科(3 年制)1,2 年の各クラス(18 ~ 33 人)で実施した10)  A 大学に比べ,B 専門学校では以下の違いから何点かプログラムの変更を行うこととした. まずは「現場との接点が少ない」ことである.実習の回数及び期間については A 大学より多く11) 専任教職員には元幼稚園教諭,保育士の専任教員がいる.しかし,日頃の授業で現職教員との接点は ほとんどなく,最新の実践についての情報を入手しづらい状況だった.  二点目は,「ワークショップそのものが不慣れ」であることである.総合的学習の時間に象徴され る調べ学習や発表など,「動きのある」,様々な表現する学習に慣れていない,あるいは苦手としてい る学生が多かった.  三点目は,「自主的な情報収集」の困難である.レポート作成の様子を見聞きしている範囲だが, 文献や新聞はおろか,テレビ番組やインターネットなどで情報収集することにも慣れていない,ある いは苦手,興味がない学生が多い.そのため,「モンスター・ペアレント」問題についても言葉その ものに対する印象が薄い学生が半分ほど見られた.  実施にあたり,A 大学とは以下の点を変更して実施した. 一点目は,評価対象としてワークシート(資料3)の配布,回収を行った.それは,自分がやる作業(実 演の観察や話し合いのポイント)の明確化ができ,自分の発言内容の準備がスムーズにすすみ話し合 いに参加しやすいようにである.  二点目として,保護者役を子どもがいる専任教員に演じてもらったことである.これは,ワーク

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ショップのリアリティを高め,学生にも一見「理不尽な」要求をする保護者の気持ちについて実感を もって把握できるためである.  三点目として,学生たちが保育者としての対応を考える参考にするため,最初に担任教員か筆者 12)が演じる「悪い見本」(保育者役)を見てもらったことである.それは,悪い点を分析することで, 改善点として「良い対応」を学生がより具体的に検討できるようにである.さらに,これまで学んだ ことからすぐ活用できるよう,椅子などを使い,保護者をどう迎えるか、から考えてもらった13)  四点目として,列討論は行わずグループ編成を席の近い者どうしにしたことである.A 大学と違い 悪い見本の観賞と分析に時間をかける分,残り時間で実演の時間を確保するためである. 資料3 B 専門学校で使用したワークシート(項目) 1.事例分析  A.保護者のクレーム内容  B.「悪い見本」はどんな点が悪かったか  C.自分が担任だったらどう対応するか? 2.実演  実演を見てどういうところが良かったか(実演した人は実演した感想も) 3.保護者との関係づくりで大切なこと(自分の考え)

Ⅲ.学生の学びの様子

 A 大学および B 専門学校の学びの様子について,ロールプレイ実施前の意識,実演,実演後の感 想の傾向は以下の通りであった. 1.A 大学 1)実施前の学生の意識  A 大学は 1 年次から他の教員養成系の大学よりも現場との接点が比較的多い.教職入門(1 年次) では,オムニバス形式で様々な現場の教師の話を聞き,教科教育法の講義では随時近隣の学校の授業 見学を行っている.2 年次の介護等体験実習では養護学校に行く学生もいる.保護者との接点は大学 の講義などではほとんどない.しかし,筆者が担当している講義では,事例研究で「キレる」子ども や保護者の気持ちを分析する学びを経ているため,子育てに困難を抱える親の気持ちを知ることはで きていると考えられる.また,いわゆる学校を題材にしたドラマやバラエティ番組の雑談に反応する 学生も多いことから,様々なメディアで「モンスター・ペアレント」について何らかの情報は持って いると考えられる.  事前学習の後,2 コマ目冒頭で行った「保護者との関係づくりがうまくいかないのは教師個人の責 任である」をテーマにした列討論では,この意見への賛同割合が 50%未満という保護者に共感的な 意見を持つ学生は 3/2 程度いた14) 2)実演の様子  3 クラス合わせて 10 組の実演のうち,5 分程度で言いあいが収束したのは約半数であった.教師 役については保護者役の話をじっくり聞き取る余裕がなく,自己弁護に終始する場合が多く見られた.

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当然,保護者役は怒りを増幅させるのだが,中には教師役の反論にあっさりと保護者役が引き下がる 場合も見られた.保護者役の攻撃が弱くなりがちな理由としては,同じ学年,コースの知人同士で手 加減してしまった,「イチャモン」をつける保護者の気持ちがイメージしきれなかった,などが推測 される.  なお,集中講義クラスで行った学生の分析からは,教師と保護者の「思い」のすれ違いについて比 較的丁寧に検討している様子が伺える.  「保護者の真意」について,「写真が少ないことで息子の学校での存在感に不安を感じたのではない か」,「アルバム委員が選んだ写真を教師がチェックしてないのでは?」と捉えていた.  「教師のホンネ」としては,「申し訳ないけど,本当に 1 枚なのか?見落としじゃないのか?確かめ たい」,「言いたいことはたくさんあるけど,子どもの親だからやわらかくしか言えない」,「作り直し はムリ」などの思いがあると理解していた.  「教師と保護者のすれちがい」としては,卒業アルバムの意味や考え方の違いがそのままコミュニ ケーションのズレに至っているのではないかと分析していた.「親は自分の子だけしか見ていないが, 教師はクラス全体として友達関係などが反映されているか」という視点の違いも指摘していた. 3)感想の傾向  ロールプレイでは教師役のグループなど今の自分たちではうまく対応できないが,個別に保護者に 合わせた対応をすることの大切さを率直に認める内容が大半であった.また,保護者との日常的な連 携のあり方を自らの課題として関心をもつ学生も多く,教師の助け合いの必要性を実感したという感 想も多く見られた. 2.B 専門学校 1)実施前の学生の意識  2 年生は学科に関わらず実習経験後であり,事前学習後の感想文からは保護者に共感的な意見も若 干,見られた.一方,いざ自分が対応しなくてはならない場合にどうすればよいかという疑問と恐怖 心を持つ学生が多数見られた.1 年生については,事前学習の段階で保護者に共感的な意見はほとん ど聞かれなかった.まだ保育者のイメージもあいまいなためか,「こんな保護者に会ったらいやだなあ」 という気持ちは持つもののあまり切迫感はない学生が多数見られた. 2)実演の特徴  B 専門学校では前述の通り,学生には班から数名が教員側(担任役,管理職役など)のみ演じた.学年, クラスに共通した傾向として,「悪い見本」の分析をする時間があった分,解決策はある程度発見し ているものの,それを提示できるまでのやりとりに四苦八苦していたことがあげられる.  2 年生の教師役の特徴としては,比較的早い段階で適切な対応方法を見つけることはできるが,保護 者役を対話可能な状態にまでどう展開させるかに苦労をしていた.また,保護者役の理解が得られな いまま,エスカレートする要求に教師役が引きずられる傾向が見られた.しかし,他クラスに比べて 授業態度など学校の勉強に適応できないクラスの方が保護者役を納得させるような対応ができていた.  1 年生については学生の特性に応じて教師役の傾向が分かれた.比較的「まじめ」に授業を受けて

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いる学生が教師役の場合よりも普段の授業からはクラス担任など教員の印象が良くない学生が教師役 の場合の方が格段に優れた対応をしていた.「まじめ」な学生はどこかに「『こんなわがままな要求受 け入れられない』という自分が正しい」という思いがあるのか,次々と保護者役の機嫌を損ねる言葉 を連発してしまう.一方,そうでない学生は,低身低頭,保護者役の話をまずはよく聞き,的確に自 分たちの非の部分を認めることにより見事なまでに保護者役の機嫌をなおしていった.うまく演じる ことのできた学生にはアルバイトを高頻度でこなしているという共通点があり,これは学校の勉強ス タイルに適応できなくても社会体験の中で接客のノウハウが身につき,それが活かされていたと推測 される.  なお,保護者役を子育て中の専任教職員にしたことによる様々な好影響をもたらした.まずは,親 としての気持ちをこめた実演により,保護者の園への思い入れを学生が肌身をもって実感できたこと. 特に,「親として」不快な言葉遣いなどに敏感に反応するため,解決策が適切であっても「話が進まない」 展開がよく見られた.また,ロールプレイの終了後に短い時間でも総評をしてもらうことで,理不尽 な要求に込められた親の思いを学生がより的確に理解することができた. 3)感想の傾向  学年,クラス共通して,保護者対応に関する技術的な力量への興味関心を持ったという感想が多く 見られた.  一方,2 年のいくつかのクラスで授業後,「どんな対応が正解なのか?」と筆者に詰め寄る学生が いた.その学生たちは比較的「まじめ」15)であったが,自分や自分のグループの実演がうまくいかなかっ た学生である.シナリオ 1 で同じお手製のオリジナルアルバムを贈るという方法でも,教師役とのや りとりの違いで保護者役の態度に差が出たことへの不満や,決まった正解追求への拘泥が要因と推測 される.  1年クラスでも 2 年ほどではなかったが,いわゆる「まじめ」な学生から,決まった正解を教えて ほしいという要求が出された.しかし,その学生たちも実演がうまくいった学生からコツを聞くなど するうちに,自分なりに納得したようである.また,自分一人ではなかなか解決できないことも納得 し,同僚性や上司との連携の大切さを実感した感想が多く見られた.

Ⅳ.成果と課題

1.ワークショップによる「学び」  これらの一連の取り組みでは,親責任論を超えて保護者に共感的に関わるという新たな教師イメー ジの獲得が可能になっていると考えられる.また A 大学の場合は,子ども理解についてその家庭に ついて理解することの重要性の理解が広がった.さらに,B 専門学校 1 年生の場合は,普段の授業で は評価されない学生たちの秘めたる対人コミュニケーション能力(保護者対応力)が発揮され,自身 の自己肯定感につながる一方,ほかの「まじめ」な学生の新たな学びの視点の獲得につながった.  しかし,B 専門学校 2 年生の場合に象徴されるように,「まじめ」に授業や実習はこなしてきたので, 自分は「正しい」先生になれる,これが転じて「自分は正しい」という立場が,擬似的ではあるが理 不尽な保護者の要求の前に「ゆらぐ」ことへの不快感や不満が噴出する場合が見られた.A 大学では ほとんど見られなかったことから,学力面や「要領の良さ」などを含め多面的に学校で認められてき

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た学生と「まじめ」でしか評価されなかった学生が教員(保育士)養成課程で形成されるアイデンティ ティの質の違いも窺えた.  ロールプレイ実施前では,保護者の声を聞く「ゆとり」が A 大学生> B 専門学校 2 年> B 専門学 校 1 年の順であるように見えた.実施後では B 専門学校 2 年についてはそれがなくなっているよう に見受けられた.それは一部の学生から拒否感に近い異議が出されたことからも,やっと社会に通用 する幼稚園教諭・保育士としての「殻」付きの「強い」自己が得られつつある段階で,それを揺さぶ る学びへの抵抗は強かったと考えられる16)  しかし,普段の学校の授業には「不適応」だった学生がほかの「まじめ」な学生よりも保護者役を うまく説得できた姿からあらたな学び,ある種の「殻」を破る可能性を見いだすことができた.昨今「ゼ ロトレランス」に象徴されるように,教師に不寛容さが社会的には求められ,学力などの能力ではな く「まじめ」さだけがとりえ(だと思っている)学生にとっては,「先生」になる近道のように思え るのかもしれない.しかも,B 専門学校ではあいさつや礼儀,言葉遣い,服装など取り組みへの態度 を最重視するため,担任をはじめとする専任教員からも「まじめ」な学生への評価はいっそう高くな る.しかし,このロールプレイを通じ参加した教員から次々と驚きの声が上がり,学生への見方が変 わる契機になった教員もいた17) 2.今後の課題  筆者が実施したワークショップでは,「保護者理解を深めるための手立て」を保護者と関わる中で「保 護者理解」を「深」めながら粘り強く関わろうとする意識が学生に芽生えるきっかけになっていたと 考えられる.ただ,そのプロセスについては様々であり,それまでの大学や専門学校の学びによって 形成された「教師アイデンティティ」に関わることが考えられる.さらに,高校までの被教育体験や 大学・専門学校のカリキュラムなどによって基礎づけられていると考えられる.場合によっては,「教 師」という「殻」を付けているために,保護者理解が妨げられていた.  保護者理解を進めるためには,子ども理解やその背景としての家庭理解が必要である.また,子ど もにどう関わるか「共同」するための保護者理解でないと,教師と保護者の関係は,「サービスの提供者」 と「サービスを受ける者」の関係に陥ってしまうのではないか.  これからの若手教員にも「即応性」が求められているという理由だけでなく,保護者理解や対応を 学ぶ機会のより一層の充実が教員・保育士養成課程に求められているのは言うまでもない.しかし, それは「保護者対応技術」などという特定の講義,演習に押し込むのではなく,関連する講義,演習 に「保護者理解」を関連付けて展開する方がより現実的かつ実践的であると筆者は考える.  また,保護者対応や保護者理解が教師のアイデンティティ形成と深いつながりがあることからも, 教員・保育士養成系学生の重要な学習過程としてより詳細な実態の把握を進めなくてはいけない.

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1) 手足口病で休んでいた子が学校(園)に出席することに対し,わが子への感染を心配した保護 者からその子をもう少し休ませるよう学校(園)に要求が出る事例. 2) 夏休み昼間の練習に対し,近隣住民から苦情が出る事例. 3) 筆者は,様々な大学・専門学校でワークショップのような「動きのある」学びを学校・大学で 展開してきた.その経験から言えることは,「動きのある」成立させるためには,テーマや個々 の課題そのものに対する興味・関心が大きく作用する.また,高校までに総合的学習の時間など で方法までも細かく指示されての「学ばされ」学習の逆効果で,自分で考え行動することに慣れ ていない,そもそも「動きのある」学習への忌避反応も見られる. 4) 例えば,「DVD の感想」,「(ある事例の)保護者の気持ち」,「(ロールプレイで)教員の対応で よかった点」など. 5) 教員向けプログラムでは,実際の場面と同様の状況を作るため,教員役(主任,管理職役も含 む)の打合わせは禁止されている. 6) 卒業(園)アルバムのケースについては小野田(2009)も,どの校種も身近で共通する話題 であると同時に保護者や子どもなど様々な立場に立って検討しやすいこと,さらには実際に起き ている事例であることを指摘している.しかしこれについては,「卒業(園)アルバムは誰がど れだけ写っているかをかなり以前から教員総出で確認しているので,今では起きない事例ではな いか」という現場教員(小学校)・保育者からの指摘も少なくない. 7) 科目名「生徒指導・進路指導の理論と方法」(半期 15 コマ).筆者は前期(71 名履修),前期 集中(9 月末実施.44 名),後期(56 名)の計 3 クラスを担当した.この科目は,必修でかつク ラス指定がされており,再履修者を除くと学年かつ学科・コースが同じ学生たちであった. 8) クラスが 44 名でかつ履修科目がほぼ同じなため,中学・高校のクラスでたまに見られる「仲 の良い」雰囲気で学生同士性格などを熟知しあっている可能性が高いと考えられる. 9) 全体の実演と分析についてはくじで班毎に代表実演(保護者役,教師役,教頭役),分析(保 護者の真意,教師のホンネ,教師と保護者のすれちがい)の 6 つの役割を分担した. 10) B 専門学校のワークショップ実施状況は以下の通りである. 学科 学年 クラス数 人数 実施時期 コマ数 実施科目 F 2 23,21 9 月初旬 1 教育原理△ G 1 24,25 2 月上旬 2 教師論   G 2 33 2 月上旬 2 教育原理  H 1 16 2 月上旬 2 教師論   H 2 18 2 月上旬 1 教育原理△ * 1 コマは 45 分. *全てのクラスで事前学習(前述)を実施. *なお,G,H 学科は通信制短期大学の併習にて幼稚園教員免許(二種)が取得できる.「教師論」  及び「教育原理」はこの通信科目でもある. *週当たりの時数は,△印の科目は週 1 コマ(45 分),それ以外は週 2 コマ(90 分)である. * G 学科 1 年 B クラスは,3 コマ目に実演の動画を見ての振り返りを実施した.

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11) 1 年次の体験実習(2 日),保育実習(2 年次,3 年次 10 日ずつ),教育実習(G,H 学科のみ. 2,3 年次 10 日ずつ),選択実習(F 学科 2 年次 保育所か福祉施設を選択 10 日),この他に (福祉)施設実習(F 学科 5 日)が行われる. 12) 保護者役を担任が演じる場合は筆者が演じ,それ以外の場合には担任が「悪い見本」(保育者役) を演じた. 13) B 専門学校では,系列校(他学科)も含め 1 年次に「ビジネスマナー」の授業を実施している. また,普段からあいさつや言葉遣い,職員室の入り方など,礼儀やマナーについて厳しく指導し ている. 14) 実施時点では保護者により共感的な意見は半数未満だったが,増加傾向にある. 15) ここで言う「まじめ」とは,先生などが言った通りに取り組もうとする態度はとれる.勉強な どができなくても,先生には嫌われないように受け身の態度で「やりすごす」ことを指す.高校 までは十分通用したものの,実習など積極性や自発性が否応なしに問われる専門学校では適応が 困難になり,学生指導上の重要課題になっている. 16) A 大学では入学試験に学力試験はあるが,B 専門学校は基本的には無試験である(現在は授業 料減免など奨学生枠の試験はある).B 専門学校の学生の中には,教師や保育士になりたかった が大学にはいる学力(あるいは推薦試験に足る内申点)がなかったり,看護師になりたかったが 看護学校に入学できる学力がないなど,いわゆる「不本意入学」と思われる学生も散見された. 17) 同じ学科の 2 クラスを掛け持ちで担任していた教員は,普段の学習状況では「まじめでおとな しい」クラスより「ふまじめでうるさい」クラスのほうが的確な対応ができていたことに驚いて いた.実際に就職内定のペースは後者のクラスの方がはやかった.

文献

久冨善之・佐藤博,2010,『新採教師はなぜ追いつめられたか』高文研. 小野田正利,2006,『悲鳴をあげる学校』旬報社. 小野田正利,2008,「学校と保護者の良好な関係性構築のためのワークショップ実践」『日本教育経 営学会紀要』50:82-90. 小野田正利,2009,『イチャモンどんとこい−保護者とのいい関係をつくるためのワークショップ』 学事出版. 小野田正利,2011,「保護者と学校の関係をつなぎなおす」『教育』61(3):13-21.

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Investigating the Views of Students Undergoing Teacher Training on the

Significance of Good Relations with Parents

INOUE Hiroki

Abstract: Recently, in Japan, establishing good relations between theachers and parents has become more

difficult. Noticing that teacher training colleges have limited curricula on good relations between teachers and parents in educational practice, I improved Masatoshi Onoda's program for in-school training. To understand what students at teachers' colleges think of the significance of good relations between teachers and parents in educational practice, I implemented this program on a atrial basis at a classroom and recorded several hours of classroom instruction. From the recording, many students considered it as important to understand parents as it is to understand their children. Howerer, a few "serious" students did not appear to be as broad minded; they were strongly dissatisfied with the program because they were less willing to allow parental communication to influene their teaching.

参照

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