1082 46: (4) 1082∼1086, 1997.
腰椎椎 間板 ヘ ルニア 自然縮小例 の検討
岡山労災病院整形外科
時
岡
孝
光 ・島
田
公
雄
大
茂
壽
久
Spontaneous
Regression
of Lumbar
Disc
Herniation
by
Takamitsu
Tokioka, Kimio
Shimada
and Toshihisa
Oshige
Department
of Orthopaedic Surgery,
Okayama Rosai Hospital
We analyzed
fifteen
cases
which
showed
spontaneous
regression
of lumbar
disc
herniation
on MR imaging.
Their characteristic
clinical
pictures
were as follows;
pa-tients
complained
of acute
onset of severe leg pain,
the pain
decreased
within
several
weeks,
but numbness
and/or
muscle
weakness
remained
in some
cases.
Types
of
herniation
were sequestration
in 7 cases, extrusion
in 8 cases.
Gd-DTPA
enhanced
MRI
were performed
in 12 cases, and eleven of them showed
the finding of a
"wrapped
disc"
that was enhanced
around
the herniated
mass.
The herniated
mass demonstrated
high
intensity
on T2 weighted
images
in the course of spontaneous
regression.
Key words: Lumbar Disc Herniation(腰 椎 椎 間 板 ヘ ル ニ ア)
は じ め に 近 年 の 画像 診 断 の 進 歩 に よ り,腰 椎 椎 間 板 ヘ ル ニ ア の 自然 縮 小 例 を 見 る よ うに な った.今 回,我 々 はそ れ らのMRI所 見 と臨 床像 の特 徴 に つ い て 検 討 した. 対 象 及 び 方 法 対 象 は 当 院 で これ まで にMRIを 複 数 回 撮 像 し,ヘ ル ニ ア の 自然 縮 小 が 認 め られ た腰 椎 椎 間 板 ヘ ル ニ アの 15例 で あ り,男11例,女4例 で あ った.初 診 時 の 年 齢 は17∼75歳,平 均46.8歳 で あ った.ヘ ル ニ ア 高 位 は,L2/3が4例,L3/4が3例,L4/5が5例,L5/S1 が3例 で あ っ た.追 跡 期 間 は3カ 月 か ら3年,平 均 14.3カ 月 で あ った. 結 果 臨 床 症 状 の 発 症 様 式 は,急 性 発 症 が8例,慢 性 に経 過 中 に急 性 増 悪 した もの が7例 で あ っ た.慢 性 に経 過 した7例 で は,そ の 期 間 は5カ 月 か ら20年,平 均 8.5年 で あ っ た. 初 発 症 状 は,下 肢 痛 が 主 な もの が13例,下 肢 痛 が 数 日 で消 失 して麻 痺 が 出 現 した もの が1例,麻 痺 で発 症 した もの が1例 で あ っ た. 下 肢 痛 及 び しび れ の 経 過 に つ い て,JOAス コ ア を 用 い て 図1に 示 した.初 診 時,全 例 に 下 肢 痛 を生 じて 図1 下 肢 痛 及 び し びれ の経 過 縦 軸 はJOA scoreの 下 肢 項 目,横 軸 は 発 症 か らの経 過 を 週 で示 した.
-148-い た が 短 期 間 で 改 善 した.最 終 調 査 時,下 肢 のJOA ス コ アは3点 が3例,2点 が11例,1点 が1例 で あ り, 0点 は な か っ た,大 部 分 の症 例 で は しび れ を 残 して い た.下 肢 痛 が 改 善 す る まで の期 間 は5日 か ら3カ 月 で あ った.下 肢 痛 が再 発 した例 は な か っ た. 初 診 時 と最 終調 査 時 の 臨 床 症 状 の 推 移 を 見 る と, SLRテ ス トは 初 診 時 に30°以 下 が3例,30∼79° が6 例,70° 以 上 が4例 で あ ったが,最 終 調 査 時 に70。以 下 の 例 は な か っ た.ま た,神 経 脱 落症 状 の推 移 は,初 診 時 に 筋 力低 下 を きた した症 例 は15例 中7例 で あ り, 保 存 的 治療 で 筋 力 は 回復 したが,4例 に軽 度 の 筋 力 低 下 が 残 存 して い た.知 覚 障 害 は,初 診 時14例 に 認 め られ,最 終 調 査 時 に は10例 に残 存 した(表1). JOAス コ ア は 初 診 時4∼23点,平 均11.6点,最 表1 臨 床 症 状 の 推 移(n=15) 終 調 査 時 は21∼29点,平 均25.4点 へ 改 善 し,平 均 改 善 は84.7%で あ っ た. 初 回MRI撮 像 時 に推 察 され たヘ ル ニ ア の形 態 は, extrusion typeが7例,sequential typeが8例 で あ っ た.ま た,脱 出 したヘ ル ニ ア はT2強 調 像 で 高 信 号 の 領 域 を認 め た.
造 影MRIを 撮 像 した12例 の う ち11例 で ヘ ル ニ ア 周 囲 の 全 周 性 の 造 影 効 果 が 見 ら れ,い わ ゆ る wrapped discの 所 見 を呈 して い た.MRI撮 像 の 間 隔 は 一 定 してい な か っ た た め,正 確 な ヘ ル ニ ア縮 小 時 期 は 判 定 困 難 で あ るが,3カ 月 か ら6カ 月 で 縮 小 が 見 られ た. 症 例 〈症 例1〉55歳 男 性.以 前 よ り慢 性 の腰 痛 が あ り,平 成7年10月 初 旬 よ り激 しい右 下 膝 痛 が 出 現 し た.右 膝 痛 は数 日で 軽 快 したが,右 膝 の脱 力 が 出現 し,歩 行 困 難 と な っ て 受 診 し た.右 大 腿 四 頭 筋 の 筋 力 は MMT4で あ り,右 下 肢 の 知 覚 障 害 も認 め た,初 回 MRI撮 像 時 に はL3/4椎 間板 よ り頭 側 に 遊 離 し たse-questration typeの ヘ ル ニ ア を 認 め た.T2強 調 像 で は 遊 離 したヘ ル ニ ア は わ ず か に 高 信 号 領 域 の 部 分 が 混 在 して い た.造 影MRI像 で はwrapped discの 所 見 を認 め た(図2).本 症 例 は 鳶 職 で あ り,手 術 も 考 慮 した が,短 期 間 で痛 み が 消 失 して た た め,本 人 の
図2 症 例1. 55歳 男 性 右L3/4椎 間 板 ヘ ル ニ ア
初 診 時MRI像:L3/4よ り頭 側へ 遊 離 脱 出 した 椎 間 板 ヘ ル ニ ア で, 造 影MRIで はwrapped disc像 を呈 した.T2強 張 像 で は ヘ ル ニ ア 塊 に高 信 号 領 域 の混 在 を認 め た.
図3 症 例1.
3カ 月 後MRI像:右L3/4の 遊 離 脱 出 したヘ ル ニ ア は 自然 縮 小 した.
図4 症 例2. 62歳 女 性L2/3椎 間板 ヘ ル ニ ア
初 診 時MRI像:L2/3 extrusion typeの 椎 間板 ヘ ルニ ア.L4/5, L5/ S1に も椎 間板 の 膨 隆 を 認 め た.L2/3の ヘ ルニ ア 内 にT2強 調 像 で 高 信 号 領域 が 混在 した. 希 望 もあ っ て 保 存 的 治 療 を 行 っ た.3カ 月 後 のMRI 像 で はL3/4の ヘ ル ニ ア脱 出 塊 は 消 失 してい た(図3). 臨 床 的 には 右 大 腿 四 頭 筋 の 筋 力 は回 復 した が,右 大 腿 前 面 に しび れ と知 覚 鈍 麻 が 残 存 した. 〈症 例2〉62歳 女性.数 年 来 の 慢 性 腰 痛 が あ り,平 成 7年3月 に右 大 腿 前 面 に強 い 痛 み と しび れ が 出 現 し, 歩 行 困 難 とな った.神 経 学 的 に はFNSTが 右 で 陽 性 あ る が,筋 力 知 覚 は 正 常 で あ っ た.初 回MRI撮 像 時 にL2/3に 椎 間板 にextrusion typeの ヘ ル ニ ア を認 め た.ま たL4/5に も椎 間 板 の 膨 隆 を 認 め た.T2強 調 像 で はL2/3の ヘ ル ニ ア は 一 部 で 高 信 号 領 域 を示 し た(図4).痛 み が 強 く,手 術 を予 定 して い た が,約1 カ月 で 疼 痛 が 消 失 した た め,保 存 的 治 療 を行 っ た.3 カ月 後 のMRI像 で はL2/3の ヘ ル ニ ア は 縮 小 傾 向 に あ り,造 影MRIでwrapped disc像 が 認 め ら れ た (図5). 7カ 月後 のMRI像 で はL2/3の ヘ ル ニ ア脱 出 塊 の 縮 小 を認 め た.L4/5の ヘ ル ニ ア に は 変 化 は見 ら れ な か った(図6).
図5 症 例2. 3カ 月後MRI像
L2/3の ヘ ルニ ア はT2強 調 像 で 高 信 号 が 増 強 した.L4/5, L5/S1は 信 号 変 化 な し.造 影MRIで はwrapped disc像 を認 め た.
図6 症 例2. 7カ 月 後MRI像 L2/3ヘ ル ニ ア は 自 然 縮 小 し た が,L4/5, L5/S1は 不 変. 考 察 腰 椎 椎 間 板 ヘ ル ニ ア の 自然 縮 小 に つ い て は1985年 Teplikらs;がCTを 用 い て 報 告 し,最 近 のMRIの 普 及で 多 数 報 告 され る よ う に なっ た1-5). 一 般 に,髄 核 が 主 成 分 の 脱 出 ヘ ルニ ア は 吸 収 され る と考 え られ て い る.摘 出 したヘ ルニ ア を免 疫 組 織 学 的 に検 索 した研 究が 多 数 報 告 され,ヘ ル ニ ア に対 す る免 疫 反応 に よ り,吸 収 が起 こ る と推 察 され て い る')2)今 回,我 々 が 経験 した 自然 縮 小例 の 臨床 経 過 を検 討 した 結 果,下 肢 痛 は急 激 に発 症 した が 短期 間 で軽 快 し,こ れ まで 報 告 され た よ うにMRIで の ヘ ル ニ ア の 縮 小 の 時期 は臨 床 症 状 の 改 善 よ りも遅 れ て い た1)5).その一 方 で,ヘ ル ニ ア が 縮 小 ま た は 消 失 し た に も か か わ ら ず, 障 害 神 経 根 の 支 配 領 域 に し び れ を の こ す も の が 多 く, 筋 力 低 下 が 残 存 し た 例 も あ っ た.こ の こ と は,単 な る 圧 迫 性 のradiculopathyと は 異 な り,ヘ ル ニ ア が 吸 収 さ れ る 際 の 免 疫 反 応 に よ っ て 強 い 炎 症 が 起 こ り,神 経 根 が 化 学 的 に 障 害 を 受 け た 結 果 生 じ た も の と 推 察 さ れ る.
MRI像 で はsequestration typeは 診 断 可 能 で あ る が,extrusion typeは そ れ がsubligamentous な の か,あ る い はtransligamentousで あ る か は 判 定 困 難 で あ っ た.硬 膜 外 腔 に 遊 離 し た ヘ ル ニ ア,あ る い は 露 出 した ヘ ル ニ ア が 吸 収 さ れ る もの と考 え ら れ る. T2強 調 像 で の 経 時 的 信 号 変 化 を 見 る と,ヘ ル ニ ア 塊
は や や 高 信 号 で あ り,経 過 中 にヘ ル ニ ア塊 は さ らに 信 号 輝 度 が 増 した.こ の変 化 は,髄 核 成 分 を含 ん だ ヘ ル ニ ア で あ るた め 高 信 号 を呈 し,さ らに組 織 の融 解 が起 こっ た た め 含 水 量 が 増 して信 号 輝 度 が 増 した こ と を示 す もの と考 え られ る.最 終 的 に は脱 水 の機 序 が働 き, 高 信 号 部 分 が 低 信 号 に変 わ り,ヘ ル ニ ア塊 は縮 小 す る と推 察 され る.椎 間 板 の 変 性 が 進 ん だ もの ほ ど縮 小 傾 向 が 強 い との 意 見5)が あ るが,高 齢 者 に多 い 終 板 軟 骨 を伴 っ た ヘ ル ニ アで も 同様 に縮 小 す る か ど うか は 明 ら か で な い.
造 影MRI像 に よ るwrapped discの 所 見 は 自 然 縮小 す る 可 能 性 を示 唆 す る もの で あ り,治 療 方針 決 定 に有 用 で あ る.し か し,造 影 効 果 出現 時 期 は不 明 で あ り,椎 間 板 ヘ ル ニ アの 発 症 直 後 で は造 影 され な い 可 能 性 もあ る. ま と め ① 腰 椎 椎 間 板 ヘ ル ニ アの 自然 縮 小 例 の15例 に つ い て,MRI像 と臨 床 像 につ い て検 討 した. ② 臨 床 像 の 特 徴 は,急 激 に 強 い 下 肢 痛 で 発 症 し,短 期 間 で 下 肢 痛 が 軽 減 す る 傾 向 に あ っ た が,し び れ と 筋 力 低 下 を 残 す も の が あ っ た. ③ 自 然 縮 小 例 のMRI所 見 は,T2強 調 像 で ヘ ル ニ ア 塊 に 高 信 号 領 域 が あ り,造 影MRIで はwrapped discを 認 め た. 参 考 文 献 1) 東 村 隆 ・他:硬 膜 外 へ 穿 破 した腰 椎 椎 間 板 ヘ ル ニ ア の 保 存 療 法 の 適 応.整 ・災 外,39: 29-36, 1996. 2) 東 村 隆 ・他:遊 離 脱 出 し た 椎 間 板 の 運 命-MRIと 免 疫 組 織 学 的 検 討 か ら.日 脊 会 誌,4: 36, 1993. 3) 中 村 孝 文 ・他:脱 出椎 間板 の 自 然吸 収 と臨 床 的 意 義. 臨 整 外,29: 465-469, 1994. 4) 小 林 茂 ・他:腰 椎 椎 間板 ヘ ル ニ ア の 自 然 縮 小 機 序. 整 ・災 外,39: 3-14, 1996. 5) 小 森 広 達 ・他:MR画 像 に お け る腰 椎 椎 間 板 ヘ ル ニ ア の 自然 経 過.臨 整 外,29: 457-464, 1994.
6) Teplik, J.G. et al.: Spontaneous regression of herniated nucleous pulposus. AJR, 145: 371-375, 1985.