動 植 物 名 よ り見 た る 紅 頭嶼 と
バ タ ン諸 島 と の 類 縁 關 係
鹿
野
忠
雄
I
紅 頭嶼 ヤ ミ族 が フ ィ リ ッピ ン北 部 の バ タ ン諸 島 人に極 め て 近 縁 な る事 は 、紅 頭嶼 に於 け
る傳 承 並 に物 質文 化 に よ り想 像 され る處 で あ る。 然 し乍 ら紅 頭嶼 に於 て兩 者 の近 縁 を比 較
す る資 料が 充分 な りとは 云へ 、バ タ ン諸 島 に於 け る此 の種 の資 料 を缺 く現 在 、兩 地 域 の充
分 な る比 較 研 究 ば 不 可 能 と云 は ね ば な らな い 。
此 の 間 に あって兩 地 域 の近 縁 を立證 す る材 料 と して は 唯言 語 の み が擧 げ られ る。 何 とな
れ ば バ タ ン諸 島 の 多 くの單 語 に就 て は 、DOMINICOS
の 西 班 牙 語-バ
タ ン語 の辭 典 が あ り、
又
言 語 學 的 研 究 は シ ェー ラー(OTTO SCHEERER)に
よ り行 はれ て 居 るか らで あ る。 此 の貴
重 な る 資 料 に 幸 さ れ て 、 淺 井 恵 倫敎 授1)は兩語 の 比 較 研 究 を 行ひ 、 共 の 結 果兩 語 は單 に 近 縁 な る程 度 を 超 え 、兩 者 略 同 一 と見做 す 事 が で き る と結 論 せ られ て 居 る 。 筆 者 は1927年 よ り紅 頭嶼 に10回 渡 島 、340日 を滯 在 し て 同 島 を 研 究 し た 。 共 の 第-義 的 な 目 的 は 同 島 の 生 物 地 理 學 的 調 査 に あった の で 、 共 の 機 會 に ヤ ミ族 の 動 植 物 名 を 可 及 的 集 め 、 共 の數 も數 百 に 達 し て 居 る 。 一方 バ タ ン語 の 動 植 物 名 は DOMINICOS,SCHEERER,共 の 他 フ ィ リ ッ ピ ン動 植 物 を 取 扱った 諸 種 の 文 献 に 散 見 す る の で 、 之 等 を 比 較對 照 す る事は 有益 で あ る と信 す る 。 本 篇 に 於 て は兩 地 方 の 動 植 物 名單 語 を 比 較 し 、 夫 等 よ り得 た る兩 島 の 文 化 關 係 に 就 き 述 べ て 見 た い と思 ふ 。 II 第1表 の ヤ ミ-バ ク ン 語對 照 表 に 於 て 、 バ タ ン語 の 資 料 は VARIos pp.DOMINICOS の Diccionario Espaho1-Ibatan(Manila,1914)に 仰 い だ 。 同 書 は 西 班 牙 語-バ タ ン語に 配 列 し て あ る が 、pp.555-574に は 、appendice と して 、 動 植 物 名404語 が 、 バ タ ン-西1) ASAI, E.- A Study of Yami Language : An Indonesian Lauguage spoken on Botel Tobago Island. 1.936, Leiden.
動 植 物 名 よ り見 た る紅 頭嶼 とバ タ ン諸 島 との類 縁 關係 435
班 牙 語 に配 列 され て あ る。DOMINICOS
の 掲 げ た バ タ ン語 には 、牛 、
鼠 、
豚 等 の如 く總括 的
名稱 で 問 題 の ない もの もあ るが、其の他 の動 植 名 に は何 れ も正 確 な る學 名 を用ひ て 居 らず 、
紅 頭嶼 に於 て筆 者 が 調べ 得 た動 植 物 と種又 は亞 種 の程 度 に至 る まで 同 一 で あ るか 如 何 か は
今 の處 判 明 しない 。然 し乍 ら各單 語 に説 明 され た摘 要 は紅 頭嶼 の 動 植 物 に符 合 し、且 從 來
の生 物 地 理 學 的 研 究 に 於 て は 、紅 頭嶼 とバ タ ン諸 島 とは兩 者 共通 種 多 く且全 般 的 に極 め て
近 縁 な るた め 、兩 者 略 同 一物 を指 示 す る もの と考 へ て よい と思 はれ る。前 述 せ るが 如 くバ
タ ン語404の
中 、此處 に對 照 し得 た の は120語
で あ り、尚 多 くの比 較 し得 ない單 語 を殘 す
原 因 と して は 、同 一動 植 物 に對 し兩地 蕃 語 を異 にす る もの 以外 、兩
地 動 植 物 相 互 の 存 否 、
彼
我兩 島 に於 け る蕃語採 録 の不 完全 が擧 げ られ る であ ら う。 尚第1表
に於 て は DOMIINIGOS
の擧 げ た バ タ ン語 は 原 著 の 西 班 牙 語 綴 り其の ま ま に して 置い た點 を注 意 され た い。
第 ,1表
バ タ ン ・紅 頭嶼兩 語對 照 表(バ タ ン語 は DOMINICOS の資料は
に よる)
(35)
動 植 物 名 よ り見 た る紅 頭嶼 とバ タ ン諸 島 との類 縁 關 係 437
438 鹿野 忠 雄 第 2表 バ タ ン ・紅 頭嶼兩 語對 照 表(バ タ ン語 は O.SCHEERER の 資 料に よ る)
次 に第1表
に對 照 せ るバ タ ン語 と ヤ ミ語 に就 き 若 干 の 註 記 を試 み る な ら ば 、 1の
Vaca
と Baka
は全 く同様 で あ る。 西 班 牙 語 に於 て はVとBは
同一 で あ るか らで あ る。
紅 頭嶼 に於 て現 在 ヤ ミは 牛 を飼養 せず 、
今 日同 島 に あ る 牛 は駐 在 所 の放 養 せ る もの で あ る。
然 しヤ ミの 家 屋 内 には 古い 水 牛 の角 を保 存 して 居 り、祖 先 傳 承 の物 と傳 へ るか ら 、
Baka
の語は 古 くよ り用ひ られ た もの と思 はれ る。2の
山羊 は紅 頭嶼 に 於 て 三 毛 色 の 美 麗 な 品
動 植 物 名 よ り見た る紅 頭嶼 と バ タ ン諸 島 との類 縁 關係 439 種 で あ る が 、 此 の 品 種 が フ ィ リ ッ ピ ン Negros 島 に 於 て 現 在 見 られ る の は 興 味 が あ る 。 バ タ ン 島 の 山 羊 は 紅 頭嶼 の もの と 同 一 で あ る か 否 か は 分 ら ない が 、 ヤ ミは 山 羊 を バ タ ン 島 よ り傳 へ た と稱 して 居 る 。3の Chito は バ タ ン語 の 犬 に對 す る蕃 名 で あ る 。 紅 頭嶼 に 於 て は 現 在 犬 を Rako-no-kora と呼 ぶ 。 大 き な 猫(Kora)の 意 で あ る 。 犬 は 最 近 同 島 の 駐 在 所 に 飼 養 され た もの に 就 き 上 記 の 蕃 名 を 與 へ た もの で 、 元 來 ヤ ミは 犬 を知 らず 從って 犬 に對 す る蕃 名 を 持って 居 な かった か に 見 え る 。 然 し ヤ ミの 古い 紳 話 傳説の我を尋 ね る に Chito と 呼 ぶ 動 物 が 現 れ 、 之 は 丁 度 犬 位 の 大 さ に 當 り、 水 を汲 ん だ り種 々主 人 の 忠 實 な 手 助 を し て 居 る 。 之 に よって 見 れ ば 、 昔 時 に 於 て は ヤ ミが 犬 を 他 の イ ン ド ネ ジ ア 諸 種 と 同 様 に飼 養 し て 居 た が 、 共 の 後 犬 を 何 等 か の 原 因 で 飼 養 しな く な り 、遂 に 犬 を 忘 れ 、神 話 傳説 に 於 て Chito と 云 ふ 語 に よ り名 淺 を止 め て居 る もの と考 へ られ る 。4の Caram-Karam は 共 に 鼠 を指 す が 、 現 在 紅 頭嶼 に2種 が 見 られ る 。1は コ ウ トウ ネ ズ ミ(Rattus mindanensis MEARNS)で 土 着 の 種 で あ り Karam-rirara と呼 ば れ 、 他は シ チ ロ ウ ネ ズ ミ(Rattus norvegicus norvegicus ERXLEBEN)で Karam-riraol と呼 ば れ 世 界 廣 汎 種(cosmopolitan)
で あ る 。後 者 の 鼠 は 元 來 紅 頭嶼 に 居 らず 、 比 較 的 最 近 イ ワ ギ ヌ杜 海 岸 に 上 陸 し た 外 國 船 よ り移 入 繁 殖 し た と傅 へ る の は 、 此 の 鼠 が 同 じ く世 界 各 地 に 近 代 に 於 け る船 舶 の 各 地 寄 航 に よ り傳 はった 事 實 を思 ふ と き 、事 實 を物 語 る も の と考 へ られ る 。5の Panichi は兩 地 共 に 全 く 同 一 で あ る 。 紅 頭嶼 に 於 て 小 形 の蝙蝠 タ イ ワ ン キ ク ガ シ ラ カ ウ モ リ(Rhinolophus monoceros ANDERSEN)は Puipuigut と呼 ば れ る が 、食 果 性 の オ ホ カ ウ モ リ(Pteropus)
は Rako-no-puipuigut 又 は Panichi と呼 ば れ る 。
バ タ ン諸 島 の 鳥 類 に 就 て は マ グ レ ガー(R.C.MAC GREGOR)の 報 告 が あ る の で 、 彼 我 鳥 相 を 良 く比 較 す る 事 が で き 、其 の 結 果 バ タ ン 語 と ヤ ミ語 の對 照 に 當って も蕃 語 の 同 定 上 安 全 に 之 を 取 扱 ふ 事 が で き る 。8,9,10,12,14,15は MAC GREGOR の 報 告 に其 の 種 と し て の 存 在 が 記 され て 居 り、Ratieu-Rachiu の キ ク チ メ ジ ロ(Zosterops simplex batanis MAC GREGOR)の 如 き は 、紅 頭嶼 、 バ タ ン 諸 島 に 共 通 に し て 固 有 の亞 種 で あ る 。 當 紅 頭嶼
に 於 て オ ホ グ ン カ ン ド リの Tagarit は Karorogo1 と も呼 ば れ る 。
魚 類 に 於 て 31 の Idec は Iluk に 當 る もの と見 て よ い 。 紅 頭嶼 に 於 て Iluk は稍 特 殊 な 魚 で 、 新 造 船 の 前 途 の 漁 獲 を 占 ふ 際 、 或 は 豊 漁 に對 す る 呪 術 に 於 て も用ひ ら れ る が 、 此 の 蕃 名は テ ン ヂ ク イ サ キ(Kyphosus cinerascens (FORSKAL))に 宛 て られ て 居 る 。 而 し て ル ソ ン島 北 部 に 分 布 す る Ilokano 族 が、 同 じ く此 の 魚、を Ilec1)と呼 ぶ が 、 ミ ン ダ ナ オ 島
1)
RLANCO.
G, J.-
Fisheries of Northeastern Luzon and the Babuyan and Batan
Islands. Phil.
Journ. Sc., vol. 66, p. 506, 1938.
440 鹿野 忠 雄
Zamboanga 地 方 に 於 て は 、 之 と 同 系 と 見 られ る Ilak を イ ス ズ ミ(Kyphosus lembus CUVIER & VALENCIENNES)に 宛 て て 居 る 。 但 し紅 頭嶼 に 於 て は イ ス ズ ミ を Minipagaran
と 呼 ぶ 。 斯 く の 如 く Iluk 類 似 の 語 が 紅 頭嶼 よ り廣 く フ ィ リ ッ ピ ン諸 島 に分 布 し て 居 り、 且 紅 頭嶼 に 於 て 特 殊 な 魚 な る點 を見 れ ば 、Kyphosus 屬 の 魚 類 が フ ィ リ ッ ピ ン を 根 源 とす る 或 る系 統 の 文 化 に 深い 關 係 が あ る 事 を察 す る事 が 出 來 る 。 カ サ ガ ビ類 に 用ひ られ る 47 Sisi は バ タ ン 、紅 頭嶼 共 に全 く同 一 で あ る 。 而 し て ミ ン ダ ナ ヲ 島 に 於 て も此 の 介 類 を Sisi と 呼 ぶ 。50の Umang は Oman に 相 當 し 、 バ タ ン 、紅 頭嶼 同 一 で あ る が 、 ヤ ドカ リに 對 し ては 、i臺灣 東 海 岸 の ア ミ族 が Uman と 呼 び 、 更 に 我 が 沖繩 諸 島 に 於 ては Aman と 呼 ぶ 事は 筆 者 が 沖繩 諸 島 族 行 中 現 地 に て 確 め 得 た 事 で あ る 。 此 の Umang,Oman,Uman,
Aman が 同 一 系 統 の 語 で あ る事 は 疑 な く 、 フ ィ リ ッ ピ ン よ りバ タ ン諸 島 、紅 頭嶼 を經 て臺 灣 東 海 岸 を掠 め 、 沖繩 諸 島 に 至 る 一 連 の 文 化 潮 流 を示 す 一 例 で あ ら う。53の 章 魚 に對 す る Cuita は Koita と 明 か に 同 一 で あ り 、Ilokano 族2)に於 て は Kurita と呼 ぶ 。56の 椰 子 蟹 ば 共 に Tatos で あ る が 、 ミ ン ダ ナ ヲ 島 に 於 て も Tatos と呼 ぶ と云 ふ 。
次 に 植 物 の 蕃 名 を 見 る に 、70の Nala は Nara に 同 一 な る事 は 明 か で あ る が 、 之 ば 紅 頭嶼 に 存 せず 南 方 よ り漂 木 と し て 同 島 に 流 れ 着 く もの で 、 ヤ ミは 之 を 用ひ て 或 る種 の 道 具 を作って 居 り 、 正 確 な る學 名 を今 知 り得 ない 。
次 に OTTO SCHEERER の Batan Texts with Notes(Phil.Journ.Sc.,vo1.31,No.3, pp
.301-341,1926)に は 第2表 に 示 す 四 の バ タ ン語 動 植 物 名 を 見 出す 事 が 出 來 る 。又 淺 井敎 授 の A Study of Yami Language(1936)に は 、 Kawaran と Vuit の2單 語 を バ タ ン語 と し て擧 げ られ て 居 る が 、Vuit は Voit と 同 一 な る事 は 明 か で あ り 、紅 頭嶼 に 於 て Voit は タ イ ワ ン ヅ ア カ ア ヲ バ ト(Sphenoceicus permagnus formosae(SWINHOE))に 宛 て られ て 居 り 、 ヲ ナ ガ バト(Macropygia fenuirostris phaea MAC GREGOR)は Ivoao と呼 ぶ 。此 の 鳩 は 紅 頭嶼 以 外 バ タ ン諸 島 よ りル ソ ン 北 部 に 限 り分 布 す る大 形 の 鳩 で あ る が 、バ タ
ン島 に 於 て は 此 の 鳩 の 蕃 名 は 未 だ採 録 せ られず 明 か で ない 。但 し ル ソ ン の Benguet lgorot 族 は Ibuoo と 呼 び 、兩 者 關 係 あ る を思 は せ る 。
前 掲 の バ タ ン語 は 、動 植 物 の總稱,飼 養 動 物 、 栽 培 植 物 を 除 き 、 何 れ も正 確 な る 學 名 を 伴はず 、 紅 頭嶼 の 動 植 物 と正 確 に 之 を 比 較 す る事 困 難 で あ る が 、 バ タ ン語 に 學 名 を 附 記 せ
1)
DOMANTAY,
J. S.- The Fishery Industries of Zantoanga. Phil. Journ. Sc,. vol. 71, p. 99, 1940.
2) BLANCO
,G. J.-
loc. cit. p. 511.
動 植 物 名 よ り見 た る紅 頭嶼 とバ タ ン諸 島 との類 縁 關係 441 る もの を 求 め る に 、 植 物 名241)を得 る 事 が 出 來 る 。
*1 Uhango Bandanus tectorius SOLAND シ マ タ コ ノ キ
2 Agagai Coix Lachryma-Jobi L.ジ ュ ズ ダ マ
3 Amriong orientalis BLUME ウ ラ ジ ロ エ ノ キ
*
4 Tagaditak asiatica URBAN ツボ ク サ
*
5 Hanot IIibiscus L.ヤ マ ア サ
* 6 Batarao Calophylum inophylum L. テ リ ノ ボ ク
* 7 Tipuho or Palupo Wikstroemia indica C.E.MEY イ ン ド ガ ン ピ
*
8 Cipo Sophora tomentosa L.イ ソ フ ヂ
* 9 Auai Flagellaris indica L. ト ウ ヅ ル モ ド キ 10 Biau Miscanthus sinensis ANDERS.
* 11 Bayangbang Nephrolepis hirsutula PRESL.
*12 L asa Abrus precatorius L. ト ウ ア ヅ キ
*13 Kuhasi or Nubasi Commelina benghalensis L. マ ル バ ツ ユ ク サ
*1 4 Tachin-kabayo Malvastrum cormandelium GARKE エ ノ キ ア フ ヒ
*15 Tubhus Litsea glutinosa C.B.ROBINSON
*16 Taling-baka Sida rhombifodia L. キ ン ゴ ジ ク ワ
*
17 Tairas Euphorbia hirta L.タ イ ワ ン ニ シ キ サ ウ
*18 Daldal Asclepas curassavica L. ト ウ ワ タ
*1
9 Pichik Oxalis repens THUNB. カ タ バ ミ
* 20 Chipuhu Antiaris toxicaria LEACH
*
21 Negegan Abroma fastuosa JACQ. *
22 Hantak Sterculia oblongata R.BR. *
23 Yayasi Ficus ulmifolia LAM.
* 24 Peris Garcinia venulosa CHOICY.
* を 附 せ る も の は第1,2兩 表 に 無 き も の
前 掲24種 中 に於 て10よ
り24ま
で は紅 頭嶼 に 産 せず 、
從って 彼 我 軍語 を比 較 し得 ない 。
最 初 の9種は 紅 頭嶼 に産 す るが 、8,9は
筆 者 が 未 調 査 な るた め之 を省 く。 今 上 掲7種
に
1
) BROWN
,W. H.-
Philippine Fiber Plants. 1919
"
-
Wild Food Palants of the Philippines . 1920.
(
Department of Agriculture and Natural Resources,
Bureau of Forestry Bulletin)
GUERRLKO,L. M.- Philippine Medicinal Plants. in Encyclopedia of the Philippines. Vol. vii,
Science, 1936, Manila.
442 鹿野忠 雄
就 き バ タ ン 、 ヤ ミ兩 語 を對 照 す れ ば 次 の 如 く で あ る 。
Uhango-Wago Tipuho or Palupo-Taruchikul Anariong-Ananariong Bataras-Agagapunitan
Agagai-Agugui (又ハ Anipasarau)
Hanot-Ganot (又 は Menotu) Tagaditak-Asumusumuno
之 に よ りて も 明 か な る如 く 、 シ マ タ コ ノ キ 、 ウ ラ ジ ロ エ ノ キ 、 ジ ュズ ダ マ 、 ヤ マ ア サ ば 同 一 で あ る が 、 イ ン ドガ ン ピ 、 テ リハ ボ ク 、 ツ ボ ク サ は 全 然 異 る の を 見 る 。
更 に 7 の Biau が バ タ ン島 に て Viscauthus sinensis ANDERS.に 宛 て られ て 居 る が 、 紅 頭嶼 に 於 て は Aviau は 之 に 極 く 近 縁 な る トキ ハ ス ス キ(Miscanlhus japonicus
ANDERS。)に 宛 て られ て 居 る 。又バ タ ン 島 に て Bayangbang は 羊齒 の1種 な る NephrolePis hdrsutula PRESL.を 指 す が 、ヤ ミ語 で は Varanvan は シ 。ログ キ シ ダ(DayoPteris leucostipes C.CHR.)を 指 す 。 以 上2種 の 如 き 場 合 に 於 て は 、 一 定 の 植 物 に 附 せ られ た 蕃 名 が 、之 に 近 縁 な る 植 物 に 流 用 され る事 は 極 め て 當 然 で あ ら う 。 III 第3表 は ヤ ミ 、 バ タ ン兩 語 に 加 へ て 、臺灣 並 に フ ィ リ ッ ピ ン諸 語 を 、 豚 、 犬 、 鶏 、 蚊 、 魚 の5種 を 選 ん で對 照 し た もの で あ る 。 豚 は イ ン ド ネ ジ ア 語 で babui と 呼 ぶ が 、之 は臺 灣 、 フ ィ リ ッ ピ ン諸 蕃 族 間 に も 屡 々 見 ら れ る 事 は 第3表 の 如 くで あ る 。 然 る に獨 りバ タ ン 、 ヤ ミ兩 語 に 於 て kuis,kois の 語 を 用 ひ る の は 、 バ タ ン 島 と紅 頭嶼 の 近 縁 を 示 す もの で な け れ ば な らない 。 犬 亦 之 と 同樣 で あって 、共 に chito で あ り 、之 に 最 も近い もの を 求 め る に Ibanag 族 の itu,kitu,Tiruray 族 の itu を擧 げ る事 が で き る 。 鶏 は 彼 我 共 に manuok,manok で あ る が 、 o.DEMPWOLFF1) に よれ ば イ ン ド ネ ジ ア 語 で manuk で あ る 。 而 し て 之 が フ ィ リ ッ ピ ン諸 族 に 通 有 で あ る に 反 し 、臺灣 本 島 諸 蕃 族 に 見 られ な い の は 、紅 頭嶼 が フ ィ リッ ピ ン諸 島 に 近 縁 な る 一 面 の 相 を 示 す も の と云 へ よ う 。又 蛇 が vuday-volai で 彼 我 の 關 係 ば 明 か で あ る 。魚 類 に對 す る單 語 は among-amon を 以 て 同 一 で あ り、 他 の 諸 族 が 之 と全 然 異 る 語 を 用ひ る を 見 る 時 、 バ タ ン 、 ヤ ミ兩 語 の 類 縁 は 明 か で あ り 、 更 に am を 語 根 とす る もの を 見 る に 、 kalamian の yam を擧 げ 得 る 許 りで あ る。 IV 以 上 筆 者 は 動 植 物 名131單 語 に 就 き バ タ ン 、 ヤ ミ兩 語 を比 較對 照 し た る結 果 、彼 我 極 め 1) DEMPWOLFF
,O.- Vergleichende Lautlehre des Austronesischen Wortschatzes. Beihefte Zeitschr. f. Eingeborenen-Sprachen. Heft 15, 1934, Berlin.
動 植 物 名 よ り見 た る紅 頭嶼 とバ タ ン諸 島 との類 縁 關係 443
第3表
紅 頭嶼 ・バ タ ン諸 島近 接地 諸 語 比 較 表
444 鹿野 忠 雄 て 類 似 せ る を 知 り得 た 。又總稱 的 な 動 物 名5種 に 就 き 、 近 隣 諸 語 に 共 の 類 似 を 求 め た る結 果 同 一 の 結 論 に 到 達 し た 。 事 實 筆 者 が臺灣 諸 蕃 族 に 於 て 共 の 動 植 物 名單 語 を比 較 し た る經 驗 に よ る に 、總稱 的 名稱(例 へ ば 犬 、鶏 等)は 各 種 族 の 間 に類 似又 は 共 通 な る 事 は 稀 で ない が 、特 殊 な る 動 植 物 の 種 に對 す る單 語 、 即 ち 細 別 的 な 名稱 は 全 然 異 る 場 合 が 普 通 で あ る 。 然 る に バ タ ン 、 ヤ ミ兩 語 に 略 共 通 な る細 別 的 名 彙100以 上 を得 た 事 は 、 バ タ ン諸 島 と紅 頭 嶼 の 近 縁 を物 語 る の み で な く、 極 め て 最 近 ま で 彼 我 の 交 渉 が續 け られ て 居 た と の 想 像 に 達 せ ざ る を得 な い の で あ る 。 前 述 せ る が 如 く 、バ タ ン語 と ヤ ミ語 と は 共 通又 は 極 め て 類 似 せ る單 語 に 富 む の で あ る が 、 彼 我兩 語 を 比 較 し て 若 干 の 差 異 を 認 め る 事 が 出 來 る 。 第 一 に 注 意 され る の は 、 バ タ ン語 の y が ヤ ミ語 に 於 て r に轉ず る sound change で あ る 。即 ち其 の 例 と し て は 次 の4例 を擧 げ る事 が 出 來 る 。 Camaya →Kamara Yabnoy →Rabunui Parayan →Pararan Bayangbang →Varanvan 又 ヤ ミ語 に 於 て は 、バ タ ン語 に a の prefix を 附 す 場 合 が 稀 で ない 。即 ち其 の 例 と し て は Piec →Apiyuk Chied →Achiud Viau →Aviau Niyoy →Annyoi 尚 此處 に 注 目 を 要 す る の は 、牛 に對 す る單 語 Vaca,Baka で あ る 。 而 し て 西 班 牙 語 に 於 て も牛 を Vaca と 呼 ぶ 。 バ タ ン諸 島 に は フィリッピ ン諸 島 が 西 班 牙 の 有 に歸 し て よ り、西 班 牙 人 と の 接觸 に よ り 、horas(時)、venens(毒)、1ugar(場.所)、trabaho(仕 事)、cabecilla (主 長)共 の 他 多 くの 西 班 牙 語 が 流 入 し て 居 る が 、前 述 の Vaca,Baka が 西 班 牙 語 よ り轉 用 され た もの で あ る と した な ら ば 、紅 頭嶼 と バ タ ン諸 島 と の 相 互 交 渉 は 、 少 く と も バ タ ン 島 が 西 班 牙 の 影 響 を 受 け て よ り後 に 於 て も尚續 け られ て 居 た もの と考 へ ざ る を 得 な くな る 。
ヤ ミ族 の傳 承(イ ラ タ イ社 所 傳1))に
よれ ば 、今 よ り11代前-1代25年
と して275年
前-ま
1)鹿 野 忠 雄-傳 承 に よ る紅 頭嶼 ヤ ミ族 と フ ィ リ ッ ピ ン、 バ タ ン諸 島 と の 交 渉 、 東 京 人 類 學 會 、 日 本 民 族 學 會 聯 合 大 會 第3回 記 事 、1938.p.70. 鹿 野 忠 雄-フ ィ リ ヅ ピ ン 、 バ タ ン 諸 島 、 紅 頭嶼 、臺灣 、 民 族 移 動 線 、 新亞 細亞 vo1.2.no.11. pp.26-36,]940.動 植 物 名 よ り見 た る紅 頭嶼 どバ タ ン諸 島 との類 縁 關係 445
で は 、紅 頭嶼 とバ タ ン諸 島 とは盛 ん な る往 來 を して居 た と云 ふ が 、現 在 よ り275年 前 に於
て は フ ィ リ ッピ ン諸 島 は 既 に 西班 牙 の侵 略 過 程 に あったの で あ るか ら 、先 づ バ タ ン諸 島 に
Vaca の語 が流 入 し、之 が 更 に紅 頭嶼 に導 入 され た 事 は 充分 考へ られ る。
然 し乍 ら紅 頭嶼 に西 班 牙 語 起 原 の單 語 は 他 に無 いで あ ら うか 。僅 か に1例 を以 て彼 我兩
島間 交 渉 の ク ロ ノ ロジ ー を打 ち立 て る事 は 大膽 に過 ぎ る。 更 に斯 くの如 き例 を求 め る に 、
筆 者 は次 の1例
を追 加 し得 る樣 に思 ふ 。即 ち新 造 せ る大 船 の進 水 式 の當 日、Mipaluk1) と呼
ば れ 、
新 造 船 の豊 漁 を所 願 す る式 が あ る。 此 の 式 の 主 要 部 分 は Vinaga と呼 ば れ る壺(明 か
に 支那 製 で あ るが 、
バ タ ンよ り傳 へ た と云 はれ,る)の 中 に入 れ られ た Paluk に Pararowai
(大 刀)の 尖 端 を浸 し、新 造 船 の船 縁 に塗 るの で あ るが 、此 の Paluk は 水 の 中 に數 個 の粟
粒 を撒 い た もの で あ る。飜って バ タ ン諸 島 に於 て は 、甘蔗 よ り製 した酒 を Vashi と呼 び
島 民 に嗜 好 せ られ るが 、英 の海 賊 に して航 海 者 な る WILLIAM
DAMPIER(1625-1715)が
1687年 、 ル ソ ン北 部 を巡 航 して よ り後 、
palek (又 は palcek2))と呼 ばれ るに 到った と云 ふ 。
而 して此 の palek は 明 か に西 班 牙 語 の pale よ り由 來 した もの と思 はれ る。 紅 頭嶼 に於 て
は 現 在 如 何 な る種 類 の酒 も全 く之 を作 らず 、又 知 らない が 、昔 時 に於 て は 矢 張 りバ タ ン島
の 如 く Vashi 酒 を用ひ た もの と思 はれ 、新 造 船 進 水 式 に於 け る Mipaluk
の式 の paluk
も初 め は此 の Vashi酒(Palek)で
は な かった か 。夫 れ,が其 の後 何 等 か の 原 因 に よって 酒
の使 用 が廢絶 し 、水 に粟 粒 を加へ た 現 在 の paluk に其 の遺 影 を止 め る もの で は ない か 。
即 ち palukは
palek (又 は paloek)に
相 當 し、從って paluk は 西班 牙 語 起 原 と認 め る
可 きで あ ら う と思 はれ る。
紅 頭嶼 ヤ ミ族 とバ タ ン諸 島 との類 縁 關 係 は 、 少 くと も動 植 物 の單 語 の 比 較 よ り見 る時 は
極 め て 近 い と云 ふ 事 が で き る。而 して 此 の事 實 ば 、兩 島住 民 の 人種 的 に も近い 事 を大體 示
す もの で あ らうが 、之 等 の結 果 を得 る には バ タ ン諸 島 に渡って 現 地 に親 し く得 られ る體 質
人類 學 的 材 料 に よって 比 較 傳 受 せ ね ば な らぬ 。 筆 者 が現 在 抱懷 す る之 に對 す る想 像 で は 、
紅 頭嶼 、バ タ ン兩島 人 は體 質 的 に は全 く同 一 で は ない と思 ふ 。紅 頭嶼 ヤ ミ族 の 基 底 をなす
人種 群 が總 て バ タ ン島 よ りの供 給 に よ る もの で は な く、 フ ィ リ ッピ ン諸 島 の他 地 方 よ りの
分 子 を も加 へ て 居 る もの と思 ふ 。 動 植 物單 語 が極 め て類 似 せ る事 實 は 、兩島 人 の 近 縁 以 外 、
過 去 長 期 に 亙って 行 は れ た 相 互 交 渉 に よ り、彼 我兩 島 間 にバ タ ン文 化 と も云 ふ 可 き小 文 化
圏 が發 生 した る結 果 ら し く思 はれ る。而 して 此 の彼 我 交 渉 は 、西 班 牙 文 化 が バ タ ン諸 島 に
影 響 し初 め た 頃 まで續 け られ た 事 、傅説 の 語 る如 くで は な いか と想 像 す る。
1)鹿 野 忠 雄-紅 頭嶼 ヤ ミ族 の 大 船 建 造 と 船 祭 、 人雜 vol.53,PP.141-142,1938 . 2)SCHFERRER ,O.-Phil.Journ.sc.,vo1.31,P.303,1926. (45)446 鹿 野 忠 雄