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Economic Indicators   定例経済指標レポート

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Academic year: 2021

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EU Trends

英国のEU離脱(Brexit)を考える

発表日:2015年4月2日(木)

~備えあれども憂いあり~

第一生命経済研究所 経済調査部 主席エコノミスト 田中 理 03-5221-4527 ◇ 5月の英国の総選挙で保守党が勝利すれば、英国のEU残留/離脱の是非を問う国民投票が実施される 可能性が高まる。英国では元々欧州懐疑論者が多いが、最近ではEU拡大による英国への移民の流入 拡大や、欧州債務危機の克服過程で統合強化を進めたことが、反EU機運を高める一因となっている。 ◇ 保守党内の強硬派や英国独立党からは国民投票の前倒し実施を求める声も出ている。その場合、EU との関係見直し協議に割く時間が少なくなり、離脱リスクが高まることに注意が必要だろう。 ◇ 英国がEUを離脱した場合、貿易取引の減少、直接投資の流入減、多国籍企業の国外移転、金融およ び関連サービス業の地盤沈下、スコットランドの独立問題再燃、政治的な発言力低下など、様々な影 響が指摘されており、打撃は避けられない。 ■ 英国で広がる欧州懐疑論 3月31日付けレポート「大接戦が予想される英国総選挙~高まる離脱投票への不安~」では、5月7日 の英国下院議会選挙で保守党が勝利した場合、英国の欧州連合(European Union:EU)からの離脱 (Brexit:BritainとExitを組み合わせた造語)の是非を問う国民投票が実施される可能性が高まることを 紹介した。本稿では英国で欧州懐疑論(Euroscepticism)が広がっている背景を整理するとともに、離脱 のプロセスや離脱時の影響について検討する。 英国はEU加盟国の中で欧州統合への不信感が最も強い国の1つである。欧州委員会が実施するユーロ バロメーター調査(2014年12月)によれば、「EUを信頼しているか?」との問いに対して「どちらかと 言えば信頼している」と答えた割合は、英国で26%にとどまり、これはEU28ヶ国の中でギリシャとキプ ロスに次いで低い(図表1)。第二次大戦後の1946年に「欧州合衆国(United States of Europe)」構想 を提唱し、その後の欧州統合プロセスの口火を切ったのは、大戦下に英国首相を務めたウィンストン・チ ャーチルであったが、英国はその後も欧州統合からは微妙な距離を保ち続けた。1951年にEUの前身であ る欧州石炭鉄鋼共同体(ECSC:European Coal and Steel Community)が創設された際も英国は参加を見送 った。その後、統合の流れに乗り遅れることに危機感を強めた英国は統合参加に舵を切る。だが、フラン スのシャルル・ドゴール大統領(当時)による拒否権発動で、二度にわたり加盟申請を却下されるという 苦杯をなめる。三度目の申請でEUの前身である欧州共同体(European Community:EC)への参加が認 められたのは1973年のことだった。

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での緩やかな結び付きの統合を望んでいた。この点、欧州を二度と戦場にしない「不戦の誓い」を立て、 政治統合を最終形態に据えて統合の歩みを開始したドイツやフランスなどの大陸諸国とは、そもそも統合 に求める価値観が大きく異なっていた。そして、ひとたび統合に参加すると、統合のメリットよりもデメ リットの方が目に付くようになる。さらに、ドイツとフランスが主導する欧州統合への不信感、大英帝国 時代からの大国意識、米国との「特別な関係」、主権意識の強さ、大陸欧州諸国と異なる独自の制度や文 化を育んできた歴史も、英国で欧州懐疑論が広がる素地となった可能性がある。 英国民のEUに対する不信感は、1979年に誕生したマーガッレト・サッチャー政権時代に一層強固なも のとなる。新自由主義を標榜するサッチャー政権は大胆な民営化と規制緩和を推し進め、EUを無駄な規 制を押し付ける非効率な官僚組織として目の敵にした。その後、1993年のマーストリヒト条約や2009年の リスボン条約発効を経て、欧州統合は様々な立法・行政・司法分野に広がっていったが、英国は自国の国 益に反すると判断した政策分野については適用除外(オプトアウト)の権利を獲得し、統合にストップを 掛けてきた。EU加盟国の英国がデンマークとともに域内共通通貨であるユーロを採用していないのも、 国境を越える人の移動の自由を認める「シェンゲン協定」を批准していないのも、こうした適用除外の権 利を行使したためだ。英国がこうした例外的な地位を認められてきたことに対しては、大陸欧州諸国から 「いいとこどり」や「責任を果たしていない」と言った批判の声も聞かれる。さらに近年では、①中東欧 諸国のEU加盟により、新規のEU加盟諸国から英国への移民流の流入が加速し、様々な社会的な軋轢が 生じていることや、②欧州債務危機を克服する過程で、財政規律の強化や銀行行政の一元化など、統合強 化の動きが一段と加速してきたことも、英国内で反EUの機運を高める一因となっている。 出所:欧州委員会資料より第一生命経済研究所が作成 (図表1)ユーロバロメーター調査「欧州連合を信頼しているか?」 「どちらかと言えば信頼している」と答えた割合(%) 2325 2629 30 3436 37 3739 39 4042 43 4346 46 48 4849 4951 51 5253 54 55 59 60 0 10 20 30 40 50 60 70 ギリシャ キプロス 英国 イタリア スペイン ドイツ フランス EU平均 アイルランドクロアチア ポルトガル スロベニア オーストリアベルギー チェコ ラトビア オランダ ハンガリー スウェーデンポーランド スロバキア ブルガリア デンマーク エストニア ルクセンブルクフィンランド マルタ リトアニア ルーマニア

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■ 保守党が勝利すれば離脱投票へ 保守党のディヴィッド・キャメロン首相は2013年1月に行った演説の中で、2015年5月の次期総選挙で 保守党が単独過半数を獲得して勝利した場合、5つの分野(①規制緩和を通じた競争力、②オプトアウト を通じた柔軟性、③加盟国への権限移譲、④民主的な説明責任、⑤公平性)でEUとの関係見直し協議を 行ったうえで、2017年末までに英国のEU離脱の是非を問う国民投票を実施することを約束した。キャメ ロン首相は「EUにとどまることが英国の国益に適う」とも語っており、EUとの関係見直し協議で満足 のゆく結果が得られる場合には、全身全霊でEU残留のキャンペーンを行うことを表明している。EU残 留を支持するキャメロン首相が国民投票の実施方針を打ち出した背景には、保守党内の強硬な欧州懐疑派 との融和を図るとともに、国民投票の実施を求める世論に配慮し、次期総選挙での保守党の劣勢を挽回す る意図や、離脱カードをちらつかせることで、EUとの関係見直し協議を有利に進める狙いがあったもの と思われる。発表当時の世論調査では野党・労働党が明確にリードしていたほか、英国独立党の躍進が保 守党の票を奪うとの懸念が広がっていた。 5月の総選挙は大接戦の様相を呈しており、保守党・労働党ともに単独での過半数獲得は難しいとの見 方が大勢を占めている(図表2)。保守党以外の主要政党では、英国のEU離脱を掲げる「英国独立党 (UK Independence Party:UKIP)」、北アイルランドの地域政党である「民主統一党(Democratic Union Party:DUP)」、緑の党などがEU離脱の是非を問う投票実施を求めている。保守党が単独過半数を獲 得できない場合も、これらの政党と合わせて過半数に届くならば、離脱投票が実施される可能性が高まる。 この他にも態度を保留している地域政党などが、各地域の英国からの独立を問う住民投票を実施すること と引き換えに、EU離脱投票の実施に賛成する可能性もある。なお、政権奪取の可能性がある労働党や、 現在保守党と連立を組む自由民主党は、EUへのさらなる権限移譲が進み、英国の国益が大幅に損なわれ ない限り、離脱の是非を問う国民投票は実施しないのが基本方針だ。ただ、投票実施の可能性を完全に排 除した訳ではなく、国内世論の動向や連立協議の行方次第では投票実施に傾く可能性もある。 英国のEU離脱の是非を問う世論調査によれば、キャメロン首相が国民投票を実施する可能性を示唆し た2013年頃は離脱派が残留派を一貫して上回っていたが、その後は離脱派と残留派が拮抗し、最近では残 留派が優勢の調査結果が増えている(図表3)。ただ、昨年9月にスコットランドで行われた英国からの 独立を問う住民投票では、投票日が近づくに連れて独立賛成派が勢いを増し、金融市場に動揺が広がった。 独立時の混乱を恐れた有権者が残留支持に回ったことで、最終的に独立は回避されたものの、英国でEU 離脱を問う国民投票の実施が決まれば、英国やEUの将来を巡る不透明感が増すことは避けられない。E U諸国の間では、英国の“いいとこどり”への不満も広がっており、EUとの関係見直し協議が英国の望 み通りに進まない可能性もある。その場合、EUへの不満が広がり、離脱派が勢いを吹き返すリスクも無 視できない。 なお、英国では過去にも欧州統合への参加の是非を巡って国民投票を実施したことがある。1974年の総 選挙で政権を奪取した労働党のハロルド・ウィルソン政権は、選挙公約に従い、保守党のエドワード・ヒ ース政権下で前年に加盟した欧州経済共同体(European Economic Community:EEC、EUの前身)への 加盟条件の再交渉をしたうえで、EECへの残留/離脱を巡って1975年に国民投票を実施した。結果は、残 留支持が67.2%と離脱支持の32.8%を上回り、離脱は回避された。

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注:15調査の平均値の時系列推移 出所:ukpollingreport.co.uk資料より第一生命経済研究所が作成 (図表2)英国下院議会選挙の政党別支持率調査 0 5 10 15 20 25 30 35 40 45 50 20 10 / 5 20 10 / 8 20 10 / 11 20 11 / 2 20 11 / 5 20 11 / 8 20 11 / 11 20 12 / 2 20 12 / 5 20 12 / 8 20 12 / 11 20 13 / 2 20 13 / 5 20 13 / 8 20 13 / 11 20 14 / 2 20 14 / 5 20 14 / 8 20 14 / 11 20 15 / 2 保守党 労働党 自由民主党 英国独立党 緑の党 (%) (図表3)英国のEU残留/離脱の世論調査 20 25 30 35 40 45 50 20 13 / 1/ 3 20 13 / 1/ 1 8 20 13 / 1/ 2 5 20 13 / 4/ 8 20 13 / 5/ 1 0 20 13 / 5/ 1 7 20 13 / 7/ 2 4 20 13 / 11 / 11 20 14 / 2/ 1 0 20 14 / 3/ 2 4 20 14 / 4/ 4 20 14 / 4/ 2 5 20 14 / 5/ 1 9 20 14 / 5/ 3 0 20 14 / 6/ 2 0 20 14 / 6/ 3 0 20 14 / 8/ 1 1 20 14 / 9/ 2 2 20 14 / 10 / 24 20 14 / 10 / 31 20 14 / 11 / 17 20 14 / 11 / 21 20 14 / 12 / 1 20 15 / 1/ 1 9 20 15 / 2/ 2 3 20 15 / 3/ 2 3 残留 離脱 (%)

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■ もはや離脱はタブーではない 過去にはデンマークから自治が認められたグリーンランドが欧州共同体から1985年に離脱したことや、 フランスから独立したアルジェリアが1962年に欧州経済共同体から離脱したことがあるが、英国ほどの経 済規模を誇り、しかもEUの中核メンバーである国が離脱した前例はない。2009年にリスボン条約が発行 する以前は、EU条約に離脱の手続きを定めた明文規定は存在しなかった。同条約の第50条に新たに盛り 込まれた離脱規定は以下の通り。  いかなる加盟国もそれぞれの憲法上の求めに応じ欧州連合からの脱退を決意することが出来る。  脱退を決めた加盟国は欧州理事会にその意向を伝えることが求められる。欧州連合は、欧州理事会か ら示された指針を考慮し、脱退の手順についての取り決めと脱退後の欧州連合との関係の枠組みにつ いて、当該加盟国と協議し結論を下す。~(中略)~ 上記の合意は欧州議会の同意を得た後に、欧 州連合に代わって欧州理事会が条件付き多数決で決議する。  脱退合意の発効日もしくは第2項に記された(加盟国の脱退意思の)通知から2年が経過した後、欧 州理事会が当該国との合意の下で上記期限の延長を全会一致で決議する場合を除いて、当該国に対す る(欧州連合に関する)条約の適用は停止される。  脱退した国が欧州連合への再加入を求める場合、第49条に記された(新規加入申請時の)手順に従う こととする 同規定に基づけば、次期総選挙の結果を受け、2017年末までに英国のEU離脱の是非を問う国民投票が 実施され、投票で離脱派が多数を占めた場合、英国政府はEUに脱退の意向を伝える。脱退の意向を伝え てから2年以内に離脱の手順や脱退後のEUとの関係の在り方を協議する。このスケジュール感に従えば、 英国のEU離脱は早くても2019年以降となる。ただ、保守党内の一部の離脱強硬派や英国独立党からは国 民投票を前倒しで実施することを求める声も出ている。総選挙の結果次第ではスケジュールが前倒しとな る可能性も否定できない。その場合、EUとの関係見直し協議に十分な時間を割くことが出来なくなる恐 れがある。関係見直しを勝ち取り、英国民の反EU感情を和らげたうえで投票に臨むキャメロン首相が思 い描くシナリオが崩れ、EU離脱のリスクが高まることになる。他方、上記の離脱規定では両者の合意に 基づき2年の協議期限を延長することも可能とされている。また、離脱には欧州議会の同意や欧州理事会 の条件付き多数決が必要で、他のEU加盟国から“待った”が掛かることも予想される。さらに、実際に EUを離脱するとなれば、離脱協議と同時並行で様々な分野で多国間・二国間協定を締結する必要がある。 前例がないだけに、スケジュール通りに進むかは不透明だ。 ■ EU離脱時の影響は多岐に 英国の貿易取引の半分程度をEU向けが占めており、EU離脱により関税や非関税障壁がないメリット を失うことになれば、その影響は大きい。そこで英国がEUを離脱する際には、欧州自由貿易連合 (European Free Trade Agreement:EFTA)や欧州経済地域(European Economic Area:EEA)に参加す ることが考えられる。EFTAは1960年に欧州経済共同体に加盟していなかった英国、オーストリア、デンマ ーク、ノルウェー、ポルトガル、スウェーデン、スイスの7ヶ国が結成した自由貿易協定である。英国は 1973年の欧州共同体への加盟に伴いEFTAを脱退し、現在はアイスランド、ノルウェー、スイス、リヒテン シュタインの4ヶ国が参加する。スイスを除くEFTA諸国は1994年にEU諸国とともにEEAを設立し、両 地域間ではEUの域内市場同様に、財・サービス・人・資本の移動の自由が保障されている。アイスラン

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ドやノルウェーは主に漁業権益を守る目的でEU加盟から距離を置いている。アイスランドは今年の3月 にEU加盟申請を取り下げ、ノルウェーは1994年の国民投票でEU加盟を否決した。スイスは独自の金融 行政や政策の自由度を確保するため、EU域外にとどまるだけでなく、EEAにも参加していない。その 代わりにEUとの間で多くの二国間協定を結んでいる。英国がノルウェーやスイスのようにEFTAやEEA に参加すれば、関税や非関税障壁がない自由貿易協定のメリットを引き続き享受できるが、研究・開発、 教育、環境、消費者保護などの分野ではEUの共通ルールを遵守することが求められる。この場合、EU のルールに一定程度従う必要があるにもかかわらず、その立法過程に関与できなくなるデメリットがある。 英国がEUを離脱した場合に予想される影響としては、①関税や非関税障壁がない単一市場のメリット を失い、貿易シェアの半分程度を占めるEUとの貿易取引が減少する、②EU内の進出拠点としての英国 の魅力が薄れ、英国への直接投資の流入が細るとともに、多国籍企業の国外移転が進む、③EUの金融セ ンターとしての「シティ」の魅力が低下し、金融ハブ機能が欧州の大陸諸国に移転し、周辺サービス業を 含めた地盤沈下が起きる、④親EU派が多いスコットランドで独立気運が再燃し、英国の分裂につながる、 ⑤EUの政治リーダーとしての地位を失い、国際社会での政治的な発言力が低下する、⑥安価な労働力の 供給主体である移民の流入が減少することで、企業の人件費高騰や経済活力が低下する可能性がある。 非営利のシンクタンク「オープン・ヨーロッパ(Open Europe)」が最近発表した調査レポートによれば (Open Europe, ‘What if...? The Consequences, challenges & opportunities facing Britain outside EU’, March 2015: http://openeurope.org.uk/intelligence/britain-and-the-eu/what-if-there-were-a-brexit/)、英国が2018年1月1日にEUを離脱し、EU諸国との間で自由貿易協定を締結できない最悪シ ナリオでは、EUに残留した場合と比べて2030年の英国のGDPが2.2%ポイント低下するとしている。E U諸国との間で自由貿易協定を締結できれば、マイナス影響は0.8%ポイントに縮小すると試算している。 英国がEUを離脱すれば、EU予算への拠出金負担が軽減されるものの、貿易取引の減少、多国籍企業の 国外移転、金融および周辺サービス業の地盤沈下を通じて、マイナス影響が上回るとの試算が多い。 以上

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