安全で効果的ながん治療を
通院で可能にする
公益社団法人 北海道勤労者医療協会 勤医協中央病院
2017.8
42
No.
外来化学療法室
勤医協中央病院
※乳がんは一度再発すると根治はかなり困難ですが、単臓器再発 の中には治癒可能な症例もあります 0 2 4 6 8 10 12 14 (g/㎗) 診療科担当医 患 者 さ ん へ の 説 明、 治療方針の決定、抗 がん剤の選択、治療 効果の判定、副作用 の確認と対策
外来
で
の
が
ん化学療法
の
流れ
来院 帰宅 抜針、安静、観察 ミキシング 薬剤部で抗がん剤を 診察 問診 検温・血圧測定、 採血診療科外来で
外来化学療法を選択
投与外来化学療法室
専任看護師 がん化学療法看護認定 看護師 1 人 ソーシャル ワーカー 外来化学療法室室長 日本がん治療認定医機構 がん治療認定医 専任薬剤師(3 人) がん薬物療法認定薬剤師 1 人 (8 人) 3 2 がんは全身に及ぶ疾患です。臓器別診療で は病態やその変化が見えにくいことから、外 来化学療法室では専門知識を持つ多職種が診 療科を越えたチームをつくって診る体制を整 えました。 がん化学療法を安全に行うために最も重要 なのは 「患者状態の把握」 「副作用の早期発見 ・ 迅速な対応」といったリスクに対するモニタ リングです。医師・看護師・薬剤師がそれぞ れの立場から副作用に対する症状マネジメン トを行い、問題がある時には全員が意見を出 し合って最善の対処法を見いだしています。 副作用を予防し軽減させることが、患者の Q O L (生活の質)の向上と治療の継続につ ながり、治療効果を向上させます。 長い間、がん治療は手術療法が主流で、抗 がん剤を使った化学療法は補助的な位置づけ でした。しかし、抗がん剤の安全な使用法が 確 立 さ れ、 外 来 で の 施 行 が 可 能 に な る な ど、 がん治療の流れが大きく変わりました。 現在、勤医協中央病院の外来化学療室で抗 がん剤治療を施行している主な疾患は、呼吸 器がん、乳がん、消化器がん、血液がんなど です。外来でがん治療を受ける患者数は年々 増加傾向にあります。 がん治療の中でも抗がん剤を使った化学療法は、「強い副作 用がある大変につらい治療」というイメージがありましたが、 近年になり副作用の少ない新薬や副作用を抑えることができ る薬が開発され、治療効果が向上しました。勤医協中央病院 では「通院によるがん治療」に積極的に取り組んでいます。外来化学療法室
勤医協中央病院
安全で効果的ながん治療を通院で可能にする
外来化学療法
での
「がん治療」
外来化学療法室 室長
血液病センター長石
いしはら原 敏
としみち道
●日本内科学会認定内科医 ●日本がん治療認定医機構がん治療認定医 がん治療のさらなる発展のため、多くのス タッフと共に頑張りたいと思っています 24 時間のバックアップ体制治療当日
(投与前・投与中・投与後) 医師・看護師・薬剤師がそれぞれ の視点で患者の状態を観察し、問 題がある場合は迅速に協議を行 い、治療について再検討する ※万一重篤な副作用が発現した場合は、 救急医の協力を得ることができる 外来化学療法室で電話対応する帰宅後
救急外来で対応する夜間・休日
チー
ム
医療
に
よ
る
リ
ス
ク管理
で
治療効果向上
へ
入院か
ら外来
へ
移行した
が
ん治療
●ベッド7床 ●リクライニングチェア3床 ※カーテンで区切られ、それぞれにモニタと ヘッドフォンがありTVやDVDを鑑賞できる 肝転移巣に対し、 ドセタキセル肝動注(40mg / body / q3w)、 アナストゾール 1mg 内服を開始 治療 現在 138カ月経過。 外来通院にて経過観察も、再再発なし 経過 観察中 アナストゾール投与 寛解後 10年間 50 歳代・女性左乳がん T2N0M0 stage Ⅱ A
臨床経過
再発 タモキシフェン内服中であったが、 術後 17カ月で多発肝転移 肝両葉に最大径 1.8cm の転移巣が多発 他臓器転移なし 症例1
転移巣が縮小 完全寛解 経過 観察中 [診断から2年弱] 完全寛解 CT 画像上では 10カ月で転移巣が見られなくなった 腫瘍マーカーは 24カ月で正常化 6カ月後 12カ月後 乳房温存手術を施行 現在、元気に外来治療を継続 ※女性の基準値:11 ~ 15g/㎗ 治療開始時 4.5g/㎗が、ほぼ基準値に戻りました 赤血球輸血 ビダーザ投与 80 歳代・女性貧血(汎血球減少)で当院来院
臨床経過
身体所見・ 検査結果 白血球・赤血球・血小板の数が著しく減少 赤血球と血小板の輸血が必要で、 感染症にかかりやすい状態 血液内科 で診断 血液内科に紹介となり、 骨髄異形成症候群(血液のがん)と診断 骨髄細胞の31%を芽球(白血病細胞)が占める 症例2
入院して抗がん剤ビダーザを開始 (1カ月ごとに 7 日間、点滴を受ける治療) 入院 次第に効果が出て、白血球・赤血球・血小板はいずれも増加 4コース終了した時点で輸血不要となり、11コース目から外 来治療に切り替え その後も同じ治療を計 23コース実施 外来 貧血の度合いを示すヘモグロビン濃度の変化(※) 治療後 入院治療 外来治療 骨髄細胞の芽球(矢印)は診断時の 31%から 1 ~ 2%まで減少 初診時専門職
の
有機的
な
つながり
が
看護師
医師
働きながら、子育てや家事をしながら
がん治療を受ける患者さんを支えたい
誰もが最適な治療を選択できるよう
医療費の相談に迅速に対応
患者指導と副作用モニタリングで
患者さんの QOL 向上に貢献
外来化学療法の安全性を守ります
外来化学療法室の室長を務める石原敏道医師と薬剤師、看護師、ソー シャルワーカーがチームを組み、安全に適切に外来で化学療法を実施 しています。専門職種間の垣根がない情報交換・情報共有が副作用の 早期発見、迅速な対応を可能にしています。 外来化学療法室には、化学療法に 5年以上 の ス キ ル を 持 つ 専 任 看 護 師 が 所 属 し て い ま す。一人一人の患者さんから「困っているこ と」 「大切にしていること」 を引き出してチー ムで共有し、治療中のケアや意思決定を支援 します。患者さんが重症化した場合はプライ マリーナーシングを併用し、患者さんやご家 族との関係性を深めながら支援します。 免疫チェックポイント阻害剤や分子標的治 療薬などの新薬導入時には、学習会開催やマ ニ ュ ア ル 改 定 な ど に 積 極 的 に 取 り 組 み ま し た。外来化学療法の対象疾患が増え、治療の 選択の幅は広がっています。がん患者さんに は、仕事や家事、趣味などを楽しみ、自分ら しい生活を送っていただきたいと思います。 また、他部署への連絡も看護師の重要な役 割です。病棟や在宅のスタッフ、ソーシャル ワーカーと連携しながら、シームレスながん 治療を提供し、 地域包括ケアへとつなげます。 患者さんの外来化学療法初回指導依頼の連絡は、外 来化学療法室の医師から看護師を通して入ります。看 護師が聞き取った患者情報は事前に電子カルテに記録 されているため、患者背景を理解した上で、患者さん とコミュニケーションを取ることができます。副作用 の説明や予防薬の情報を事前に提供し、安心して治療 を受けられるようにサポートしています。 薬 剤 師 が 得 た 患 者 情 報 は 随 時、 医 師 や 看 護 師 に フィードバックします。副作用の発現には個人差があ るため、治療中の患者さんを専門的な視点でモニタリ ングし、薬剤の追加や減量・中止を医師に提案するな どレジメン (治療計画) の精査や変更にも関わります。 投与中に吐き気などの副作用が発現した場合は、薬 剤師にも連絡が入り、医師・看護師と協力して対応し ています。 外来化学療法室の担当薬剤師は 3人。医師や看護師 と頻繁に連絡し合う体制が「安全管理」につながって います。 がん化学療法を受けている患者さんの自己負担額 は、高額療養費制度の利用によってある程度は軽減 できますが、家計に与える影響はかなり大きなもの です。治療を進めるうちに経済的に困窮し、治療を 中断せざるを得なかったケースもありました。 特 に 治 療 効 果 の 高 い 新 薬 は 高 額 な た め、 「 払 え る か、払えないか」が治療法の選択を左右しているこ とから、無料・低額診療の対象になる場合は制度を 紹介し利用を勧めます。制度を知らずに治療を諦め ている患者さんをゼロにしたいと思っています。 診察室の医師や外来化学療法室の看護師からの連 絡が入ると、 8人いるソーシャルワーカーのうち誰 かがすぐに駆けつけて相談に応じます。がん治療は 時間的な猶予がないことから、当日対応が重要だと 考えています。 また、外来化学療法を受けるために介護サービス を利用することもできます。訪問看護が必要になっ たら、私たちが手続きを行い、シームレスな医療を 提供しています。 (がん化学療法看護認定看護師)岡本 麻子
外来看護師長 患者さんのQOL維持向上のための ケア用品についても説明します 外来化学療法室の看護スタッフ菊池 健
がん薬物療法認定薬剤師(左) 薬剤部渡邉 大毅
主任(右) 医療福祉課 (ソーシャルワーカー )古田 陽介
課長ソーシャルワーカー
薬剤師
点滴ルートの確保や介助、投与中の観察、副作用に対する症状マネジメント、
セルフケア支援、意思決定支援、各部門との連携
高額医療費の問題解決支援、活用できる制度の手続き支援、地域医療連携
患者への治療説明
(抗がん剤の効果と副作用)、
副作用と有効性のモニタリング、
副作用対策の処方提案、レジメンの管理、抗がん剤調製
「がん化学療法委員会」
がん化学療法に関わる多職種が一堂に会する 「がん化学療法委員会」は毎月第 3 木曜に開 催され、エビデンスに基づいた抗がん剤治療 が病棟でも外来でも適切に行えるよう、がん 化学療法全般に関わる審議を行っています。多職種を束ねる
勤医協中央病院外来化学療法室のあゆみ
実績
勤医協中央病院が外来化学療法室を開設したのは 2006 年 5 月。外来中央処置室のベッド 6 床を使い、 主に乳がんの患者さんを対象に化学療法を始めました。医師、薬剤師、看護師がチームを組み、共に学 びながら、それぞれの専門性も高めました。11 年目の現在も「安全・安心・快適」をポリシーに、患 者さんの心身をサポートする看護と副作用・有害事象対策を重要視しながら実績を日々重ねています。副作用
の
軽減と
治療効果
の
向上を目指し
て
外来化学療法室開設当初に室長を務 めた私が看護スタッフにお願いしたの は、 患 者 さ ん が「 体 調 の わ ず か な 変 化」を気軽に相談できる雰囲気づくり でした。化学療法は副作用管理が治療 効果を左右することから、点滴や処置 中の会話から副作用の発現を捉えるこ とが、重要なケアのひとつです。 2007 年 度 の 延 べ 患 者 数 は 年 間 634 人でしたが、 2016 年度には 2300 人を超えています。担当医の 治療方針に従った外来化学療法が専任 スタッフ下で進められています。 化 学 療 法 は 今 後、 さ ら に 多 様 化 し、 対象疾患も施行件数も増加することが 予想されていますが、当院には積み重 ねてきた経験と患者さんや家族を支え るスキルがあります。治療を受けなが ら、仕事や子育てを続ける患者さんを 私たちは、これからも支え続けます。進化し続ける化学療法に対応するため
2004 年 10 月 がん化学療法委員会を設置 中央処置室で「外来化学療法」を実施 2006 年 5 月 外来化学療法室を 6 床で開設 医師・看護部・薬剤部と共同で学習会を開催 2008 年 4 月 外来化学療法室加算Ⅰを取得 2008 年 6 月 リウマチ・膠原病の生物学的製剤治療を開始 2011 年 7 月 がん化学療法看護認定看護師を配属 2013 年 4 月 北海道がん診療連携指定病院に指定 2013 年 5 月 病院の新築移転に伴い 10 床に増床 部署再編成による新メンバーで再スタート 2015 年 4 月 血液内科標榜に伴い、がん化学療法患者数が増加 2017 年 4 月 部署再編成し、専任看護師 1 人増員で 8 人体制に 外来化学療法室カンファレンス延べ患者数の推移
疾患別管理患者数
(2017年7月) 3,000 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2016 (年度) 2015 2,500 2,000 1,500 1,000 500 0 (人) 6 7 委 員 長:河島 秀昭(副院長) 事務局長:渡邉 大毅(薬剤部主任) 事 務 局:石原 敏道(外来化学療法室室長、血液病センター長) 岡本 麻子(外来看護師長) 委員:診療科医師 薬剤師 外来化学療法室看護主任 病棟看護主任 事務 委員会を中心とした院内連携
■
レジメンの登録・管理
■
医薬品適正使用の推進
■
安全にがん化学療法を
行う環境整備
など看護部
ソーシャルワーカー
薬剤部
事務
各診療科
●呼吸器センター
●消化器センター
●乳腺センター
●血液病センター
レジメン登録申請
承認
がん化学療法委員会
全職員
セミナーの実施
が ん 化 学 療 法 委 員 会 で は 多 職 種 の メ ン バーがそれぞれに専門的な視点で、抗がん 剤治療の有効性と安全性の確保を確認しな がら、レジメン(治療計画)の登録や精査 を行っています。関連するインシデントの 迅速な共有と対策の検討も委員会の重要な多職種
の
専門的
な視点
で
治療
の
有効性
と
安全性
を
確保
役割です。 抗がん剤の曝露対策や化学療法パ ス・投与基準の整理、説明同意書の 見直しなども行い、患者さんにとっ ても医療者にとっても安全で適切な がん化学療法を目指します。 患者ケアの充実、変化への迅速な 対 応 の た め に、 日 常 的 な 情 報 交 換・ 情報共有も積極的に行っています。 乳腺センター センター長鎌田 英紀
委員会メンバー
スキルをさらに高めて
より安心・安全・快適な外来化学療法を
78人 35人 12人 4人 11人 3人 リウマチ・膠原病 乳がん 肺がん クローン病など 10人 血液疾患 消化器がん 前立腺がん 2016年度 2,374人 リウマチ治療薬が 皮下注射に移行たまねぎ通信 42号 発行/公益社団法人 北海道勤労者医療協会 勤医協中央病院 発行責任者/事務長 松田 安正 制作/有限会社 慶文社