香川大学幽学蔀学術報告 112 ノリ養殖場の環境に及ぼす抄紙廃水の影響
田 中 啓 陽,井 上 裕 堆
Ⅰ ま え が き 増益殖場として好適と考えられる水域や従来から効率的に.利用されてきた水域等が,叔近,埋立,干拓事業によっ て逐次減少の一途をたどり,また,残された増養殖漁共においても産業・都市汚排水による汚濁を受けて−いる. 他方において,漁業者個々人は生産盈を低減させまいとして‥漁場の生産性を無視した育成管理を行ない,それがさ ら紅環境悪化に連なり,生産性を低下させると云った悪循環を惹起している 小松島湾湾奥部和田島地先に比較的好適なノリ養殖場があったが,埋立土地造成が行なわれ養殖場の単部が消失し た.このため付近水域の海水流動に変化が生じ,また埋立地に・設立された製紙工場からの抄紙廃水の影響も出るよう になったり本報は,和田島ノリ養殖場の環境が埋立→工場設立→廃水,および埋立→漁場喪失→過密養殖といった一 連の過程の申で,どのように.影響を受けて:いるかの一億を示すものである. 貰Ⅰ和田島ノリ養殖場の概況 和田島ノリ養殖場ほ小松島湾南東部に・位置しているが,現在,西側ほ埋立てられて製紙工場が建設されている.東 側は太田川の堤防に・よって境され,また前面には約350肌にわたって低い捨石墟(低湖時に現出する)がある.養殖場 の面積は約12×104ガである ノリ養殖の実情紅関する漁業者からの聴き取りおよび徳島水試報(1)によれば,昭和44年皮はノリ湘の漁場への移殖 を11月1日から開始し,11月中旬頃までのノ リの成育は順調であったという.それ以後成 長した薬体に退色が見られ,また菓体の先端 がくされ始めた..有機質を含む水質の場合網 炭に.著しく付着すると云われる加ゎ♪々γ5αJよ5 などの藍藻類が多く繁茂した.また栄養塩類 に.関する昭和43年12月の測定結果(l)から判断 すれば,決して貪栄養水域とは云えない. 昭和44年度のノリ益殖成紡はかなり平年作 を下回った様である ⅠⅠⅠ方 法 海水流動の観測に.は測流板を用いたが,こ れは30×20c弼の防水布2枚を硬質塩化ビニー ルパイプに.て十字に組合わせ,その上部に細 いロープを経てポリtエチレン瓶紅取り付け, 十字型布の部分が水面下1肌紅垂下するよう 忙したものである‖ またFig.1に.示したSt】 小3.4.5.8お よびF.L..No.2,No.4にて探向・流速を観 測した使用したのは東邦電流K・Ⅹ.製CM −2型流向・流速計である 1..5肌層での減衰係数の平面的分布の模様 Fig・1Map of the water area off Wadashima,Showingobservation stations forsamplingandcourses of the suIVey boat for continuous recording of turbidity
籍23巻 籍1号(1971) 113 をしらぺるため内水研C型水中濁度計を調査船に.て曳航した/光電池(視感度フィルタ−を付してい崖)ガゝらの光電 流を電流一電圧preboxを経てEPR−2T電子管自動平衡記録計(東亜電波K。K.製)に記録した. Superwatt300Gener左tor(本田技研K・K・製)を使い,GPO50−2RegulatedI)Cpowersupply(高砂製作所K. K.製)を経てランプのflux outputを−・定に.保った 減衰係数(α)は次の式から計静される.空気中でのmeteI読み値をMI,水中での読み値をMとすれば α=2・3/Lxlogl・08 ただし,Lは濁度討のpathlengthで0・577Lである・本引器の2枚の板ガラス窓の外面は空気中のtestでは空気−ガラ ス面であるが,水中にでは水−ガラス面となるため反射が異なる。1.08はとれに対する補正である. 海水のCODの分析紅は,過マンガン酸カリーアルカリ法(2)を用いた ⅠⅤ 結果と考察 (1)海水流動状況 a) 下げ潮期 下げ潮期の海水流動調査に昭和44年2月23日09:30′−14;30に行なった.この日,高潮は09:09, 低潮は16:19であった∴結果ほFig.2,Tablelに−・指した Fig.2で明らかなように.海水流動は右旋流の様相を呈し,小松島基地西海填でははば西流,それから順次南西流, 西南西流と変わって行く.養殖場沖合では岸に.もっとも近い11:39投入floatは約9cm/SeC,それより沖の11:36投入 floatは16Cm/SeC,もっとも沖の11:34投入floatは20Cm/sec程度で流れる.東埋立地沖になると流速ほ10∼14Cm/SeCと やや減じるが,この場合も沖の方が幾分早い… 結局,下げ潮の最強流の頃(11:00∼ 12:00)養殖場の沖の表層流は10∼15C仇/ SeCの南西一西南西流である.13:00頃か ら観測を終えた14:00までの間でかなり 流れが弱まった∴ な滴下げ潮初期に.ほ東 (A)と西垣)の埋立地の間の湾入部は動きが 弱く(2{ノ600/SeC)かなり複雑な流れ を呈するけ しかしながらF.L.No.2, No・4でほ14:00前後に.もかなり早い流 れが観測され,それぞれ8c孤/SeCの西 流,600/SeCの北西流であった. 測点における結果からノリ養殖場内の 流動を見ると(Tablel),基相場中央 部のSt.1でほ表層で僅かの流れがある 以外はとんど水の動きがみられない,.ま た捨石堤の内側30m′のSt.2では 0∼3 m屑の間で平均2′}3em/SeCの西流があ るに.過ぎず,4m以深では流れはないい 捨石境の外側のSt小針4.5。に.おける上層 の流動はfloat testの結果とはば同じ である.しかし各測定共に.深度を増すに. つれて流速は減じる傾向が見られる. b) 上げ潮期 昭和44年5月3日 13:26∼16:02の間紅上げ潮期の海水流動 の調査を行なった,低湖12:45高潮19:31 Fig.2.FeaturesofsurfacecurrentofftheWadashima nori−Culture faI・m で上げ潮期の前半にあたる
114 香川大学農学部学術報告 流水流動の様相はFig.2に示した.、Fig.2から明らかなように.東瞳立地沖合では,流向ほ北北東一北束の範囲で 流速は7∼27cm/SeCである巾 養殖場沖では7∼18em/SeCの流速で北上して:いる.13:00∼17‥00の間の風向・風速(海 上自衛隊小松島航空隊気象斑の測定)はTable2で,風速は9∼13C鵜/SeC,風向は150◇∼1600である。このような 条件下でのfloatの流動は風による表層流の影響が顕著にあらわれるので,このことを充分考慮して海水流動の模様 を見れば,本水域の上げ潮期は左旋流であると推定される.
Tablel.Data of current speed and direction off the Wadashima nori・Culture faI・m,23Feb.1969 St.1 12:10 。m,sd。g.Cmg.cmg.ccc.
92ト2
1 − 2−3 270 0−3 289 4−8 285 1−2 120 0 − 0−5 332 2−3 245 3−6 140 1−3 190 0 −2 叫 5−9 280 5−9 310 − 0−4 330 0 −0 − 1−3 300 0−3 − 0
− 0 − − 0 − 7 0 − 8 9 10 0 − O Table2・Dataofwindvelocityanddirection 海水流動の結果を総括すると次のように.なる. inKomatsujima,3May1969 養殖場前面の捨石墟の沖100∼150仇付近で下げ潮中期紅 l− 三二 三:; _ 養殖場内に.直接流入しないようである‖上げ潮期庭おいても同じことが云え.る・衆埋立地と太田ノり凍陸地紅支配され て養殖場の沖を北東流として通過すること紅なるい もし東埋立地凪が捨石堤の位置より内払あれば,その間隙からか なりの流入が期待されるれ (2)減衰係数分布 Fig.1虹示す各コ−スで水中濁度計を調査船にてこ曳航し,濁りの模様を連続記録した. Fig.3紅示すCouISelの結果は2月21日13:45∼14:07の濁りであるい測定時の風向・速は360◇,10・7m′/SeCであっ た.製紙工場東(刃・矧B)用地の間の湾入部の入口付近の淘りは極度に大きく,入口中央部で最高2・3仇 ̄1の減衰係数 値を与えた.岸壁に.沿ってはば東北東に遡行する紅つれて次第に減衰係数値は減じ,東埋立地の東端から約150m′手前 で急激に.減じて0.65彿 ̄1に.なる.ノリ養殖場沖では0・6m ̄1程度ではぼ一足である」・太田川沖付近でやや大きくなる がたいしたことほ.ないn この観測は下げ潮末期である、したがって:流動調査の結果からも推超されることであるが, 湾入部(この奥に.排水口がある)入口付近の濁りほ東の方紅拡散していない。この時の極度紅大きい淘りは直接排水紅 よるのか,また排水中の沈降物がこの付近紅堆積していて強い波浪に.より巻き上げられたためなのかいずれかである CouI・Se2.3.4,紅ついてほ22日と23日の両日測定した.Fig.4に.示す22日は高潮後1∼2時の間,23日は高潮後2 ∼3時の間の結果である。22日についてみると,いずれのCouI・Seも溢殖場内外で減衰係数値はあまり変らない,こ の日は北の風が強く,(測定時の風向・速ほ平均3200,812m/SeC),波浪のため全般的に養殖場内も沖合も同程度の 濁りであったと考えられる.−悠↑N巴Ulhh凹OU20旨く〇N山↑ト亘
†∈.↑N巴じ岩山国OU
20HトくbZ珂ト↑ぺ
DrSTANCE,km
Figh4.Changes of attenuation coefficient at l.5m depth
(COURSE2,3,4in Fig.1)
DISIANCE,km
Fig.3。Changes of attenuation coefficient atl.5m depth (COURSEl,5,6,7in Fig“1) ところが天候が回復しかなり穏やかに.なった23日(測定時の風向・速は3500,5.3肌/SeC)の結果でほ様相が異なる. たとえば養殖場の奥部では、Course2.4.ともに.0.2∼0.37n−1の減衰係数値を与え清澄である.Course2の場合,捨石堤の 内側150肌より減衰係数値が増加し,内側70m・付近で0.57几 ̄1になり,捨石堤より沖60(一707几より0.60∼0.65m′ ̄1を示す. Course3では,捨石堤の前後で減衰係数値が増し,外側では0.60∼0.65n−1となる‖ 東よりのCourse4の場合,養殖 場内で0.2∼0.3肌 ̄1であるが捨石堤の付近から増し,外側150仇から0.55仇■1に.なる. 捨石堤より外に出れば,0.55∼0.65仇 ̄1の減衰係数を与え.,前日22日強風時の測定結果と同程度であるL.しかし養殖 場内では23日比較的穏やかなとき0.2∼0.4机 ̄1と濁度が小さいしかも二興部ほど清澄という結果であるつまり22日は 強い北風に.伴う波浪に.より養殖場内に沖の濁りが搬入されたことを物語る‖23日比較的穏やかな日には波常.よる搬入 はなく,また流動調査からわかるよう紅流れにより多少搬入されても養殖場内では流動がきわめて緩慢で容易に沈降 し濁度が小さいという事に.なるい換言すれほ,現在の和田島ノリ養殖場は海水の交換悪く停滞水域だと云えよう.. 23日のCouISe5の結果はFig.3である。、東・西南埋立地間の湾入部の奥から沖に.向って測定した.高潮後1時前 後である.21日に.は湾入部の入口付近で非常に.高い減衰係数値が見られたが,この日は余り高くなく奥部で1.0肌 ̄1。 沖に進むにつれて次第に減じ,入口付近からほ0.6∼0.7m・ ̄1になって,ノリ養殖場沖と同程度である… この程度の減 衰係数値が通常の値であるとすれば,21日の高い濁度は底に沈降堆積した抄紙排水繊維質の風波に.よる擾乱浮上とい うことに.なる。そうだとすれば,この付近紅かなりの蓮の繊維質がすでに堆積しているといえようい 23日のCouISe6,7(Fig3)を見ると,沖合では減衰係数値の変動少なく,岸沿いでかなり顕著に変動する‖ し かしはぼ0.6m・ ̄1前後である. 捨石堤外側の濁りは抄紙排水阻起因する繊維性有機物のためで,強い北風の日にほ,この排水の流出拡散したもの が風波により搬入させる.通常,北風が吹き波が起れば養殖場内の水の交換が促進されるのであるが,このとき排水 が患接に.または排水からの沈降物が浮上して場内に.搬入させるという悪条件が付加される. 他方,穏やかな日には養殖場内の流動わるく中部∼奥部ではとんど停滞するそしてこの日には伴か前面に排水が拡 散流人する紅すぎない
香川大学農学部学術報告 平辟な23日紅得た仝測定は,それぞれ幾分 の時間ずれがあるけれども,一・応下げ潮初期 のものとみなせるゆえ,調査対象水域紅おけ る概略の減衰係数値(1.5m屑)分布模様を 描けるい Fig.5がそれである.上げ潮期に. 淘りが東埋立地沖から和田島ノリ養殖場の沖 を経てノJ\松島基地西水域へと拡散流出してい たことがはば明瞭であってニ,下げ潮期に.転流 し,濁度の低い湾外水が養殖場沖から埋立地 沖へと侵入してこくるい下げ潮初期ではFig.5 に描くような等減衰係数線図ができるのであ るり捨石堤があるため縁りの高い海水が上げ 潮期に.養殖場内にあまり流入していないよう である.また流入していたとしても流れが極 めて緩慢であるため容易に.沈降したとも考え られる.海水交換の悪さつまり巷殖場内の海 水の停滞性を示してこいる.特に.埋立地が捨石 116
Fig…5.Distibution ofattenuation coef‡icient(α)atthe
Surfacelayer off the Wadashima Nori−Culture
faIm(23Feb.1969,09:48−11:52) 堤より沖紅出ていることの影響を明瞭に.みと める.下げ潮初期の段階で捨石堤の外周辺紅 いまだ濁りの高い海水が残されている. (3)C O D値 本調査水域における6測点のCOD値をTable3に・与える・5月3日の上げ潮初期から中期紅かけて:採水し た. 製紙工場排水口の北100肌のSt.9では19.4 ppmで抄紙排液の影響を著しく受けている. 東埋立地前のSt.8で12.1ppm,捨石堤沖500 肌のSt.5で11.5ppmときわめて高い.養殖 場から沖合い約1.2thのF.L.No.2でも3.2 ppmを示す.このように.CODが順次減少し でいる傾向は,上げ潮期の海水流動から充分 理解できる.養殖場内のCODは3.2ppmであ った. 昭和43年12月の調査によると,養殖場内の CODは0.4∼1.7ppmで,本調査結果と比 Teble3.COD values ofsea water off the Wadashima
No工・トcultuIe fa工m,3May1969 COD mg/1 3. 3.1 11.5 12.1 19.4 3.2 低い。本調査水域は抄紙廃水の直接的影響下 に.あり潮流・風向・風速等に.よって抄紙廃水の移動状況および堆積有織物の投拝浮上がかなり変動するためである・ このことはα分布の結果から充分説明される. Ⅴ あ と が き 亜殖場沖水域では,下げ潮時右旋流,上げ潮時左施流でその流速も盛期紅は10′・・20cm/SeCと速い・他方ノリ養殖場 内では下げ潮期には和田島の陸岸に.より,また上げ潮期には埋立地が捨石堤より沖に出ているため,海水流動が殆ん どなく停滞水域と考えられる.埋立地の製紙工傾からの抄紙廃液は,当水域のCODを著しく高くしていることほ勿論 であるが,養殖場内に.おいても,南風,上げ潮期に・COD3・2ppm,を見たことからも潮汐,気象条件によりさらに高 くなる可能性は充分ある.水質汚濁環境基準に.よれば,ノリ養殖場のCODは.3ppm以下と規定されている・ 結局,和田島ノリ養殖場では高い生産性を期待出来ないと結論づけられるl
和田島ノリ養殖場の張込み約数を図面から概界(8)すると1,437棚,1棚3枚張りとしても4,311故になる.聴き込み 調査に・よれば昭和44年度の張込み数は7,500枚(他養殖場への移殖も若干含む様である)で図面からの概静数をかなり 上回り密殖であったことは否定できなヤ、・これは埋立による養殖場の喪失が過密養殖へと劉、たと考えられる・昭和 4違年度の和田島ノリ養殖場の養殖成績は平年作をかなり下臥ったという.これは抄紙廃水による養殖環境の劣化そ れ紅加えて過密養殖濫よる環境悪化等紅よっての結果と考えられる. Ⅵ 文 献 (1)徳島水産試験場調査報告,1∼6(1968). (2)松江吉行編,水質汚衛調査指針,恒星社厚生閣 (1961). (3)藤Lり虎也,私信.
Influence ofland reclamation and waste water from paper
millon environment of Nori(Ebrphyra tenera)culture farm
YoshiakiTANAXA and HirooINOUE
The Watashima NoIiculture farm,locatedonthesouthcoastofthe XomatsujimaBay,is surrounded by the embankments at three sides.Its totalsurface areais12×104m2.A paper mi1lstands on the
reClaimedlandalong the west side of the farm.
In orderto clarify theinfluence of waste water onthe environmentofthefarm,tidalcurrentand waste
quality,SuCh as turbidityandCOD,Wereinvestigatedin the adiacent waterarea・
The pIeVai1ing curIentSOffthe farmIunCOumter−ClockwiseatlO−15Cm/Sin floodtideand clockwise at7−27cm/Sinebb tide.Itis cleaIfromthe turbidity patternthat the waste water discharged fIOm
drainpipe extendsto theinne工partOf the Noriculturefarm.The maximum CODliesnear drainpipe, andthe value has a tendency to decrease with the distance.CODin the faIm WaS3.2mg/1.
It couldbe concluded from theseinvestigation that the pIeSentlow productivity of this farmis due
mainly to(1)pollutionof waters with effluents from paper factoIy,(2)low exchange of sea water,