高度な生産技術に基づく鶏卵生産と緻密な
販売戦略に基づく6次産業化への取組み
-㈲熊野養鶏の事例- 1 経営概況 愛媛県四国中央市に位置する㈲熊野養鶏(以下、「熊野養鶏」という。)は、昭 和30年に現社長(熊野憲之氏)の父親である現会長が養鶏経営を開始して以来、 50年以上の歴史を持つ。県下農業生産者の中でもいち早く昭和58年に法人化し、 現在の有限会社を設立している。平成7年には元商社勤務の現社長がUターンし、 就農した。現在の飼養羽数は、17,500羽である(採卵鶏(純国産種鶏「もみじ」)。 平成8年当時、約40,000万羽を飼養していたが、平成17~18年にかけてアニマ ルウエルフェアの考え方に基づき、減羽(1ゲージ2羽飼いを1羽飼いに)を始め、 現在の17,500羽となっている。この減羽により鶏のストレスが軽減し、産卵成績 が向上した(95%→98%)。平成27年には更に減羽し15,000羽にする予定である。 鶏卵の販路は、8割が直売、2割が原卵出荷であり、商社に販売している。 熊野養鶏の構成員は、社長・社長の妻(熊野智子氏)・社長の父親・母親の4名、 従業員(パート)11名である。役割分担として、社長と父親、パート2名が農場、 社長の妻と母親・パート9名が販売(卵の配達・食堂・加工、卵のネット詰め) 担当である。 写真①熊野養鶏鶏舎全景写真②純国産種鶏もみじ 2 6次産業化に関する事業展開 熊野養鶏は、平成8年から直販(飲食店、自販機)を開始し、平成15年から卵 の加工(燻製卵、温泉卵、ゆで卵)を開始した。平成19年には、卵かけご飯を食 べさせる食堂「熊福」を開店させ、メニューも顧客の意見を取り入れながら増や していった。平成20年には、「新たな畜産経営チャレンジ事業」(愛媛県単独事業) を活用して製造機械を導入し、自社で生産した卵を使ったプリン・シフォンケー キ等の製造・販売を開始した。現在、地元のケーキ屋とOEM(自社ブランド名) でカステラ、酒粕ケーキ、フィナンシェ等を贈答用製品として製造している。 写真③熊野養鶏直営店「熊福」
写真④「熊福」たまごかけご飯 3 高度な生産技術と緻密な経営分析に基づく高品質な鶏卵・地鶏生産 熊野養鶏が6次産業化に取り組み始めて18年、その間、卵価が低水準で推移し、 飼料価格が高騰するなど、経済環境の厳しさから幾度となく経営危機に直面して きた。しかしながら、その度毎に直面する危機を乗り越えてきている。一般に6 次産業化を成功に導くためには、生産局面(第一次)・加工局面(第二次)・販売局 面(第三次)の何れかに、あるいは複数の局面で同業他経営に負けないような強み を持っていることが重要である。熊野養鶏の場合、生産局面に大きな強みを持っ ている。高度な生産技術力と緻密な経営管理に基づく鶏卵生産を行い、品質の高 さを強みに差別化・ブランド化を実現し販路を確保している。特に、熊野養鶏は 飼料の自家配合の技術に卓越したものがあり、その技術に加え緻密なデータ蓄積 とそれに基づく経営分析は、熊野養鶏の鶏卵生産・販売を支える核となっている。 1)卓越した飼料の自家配合技術 熊野養鶏の主力商品は、純国産種鶏「もみじ」の鶏卵「美豊卵(商標登録済み)」 である。日本で飼養されている鶏の95%以上は、親鶏が外国産であり純国産とは いえないが、熊野養鶏で飼養している鶏は全て国産である。 写真⑤「熊福」で販売する美豊卵とスイーツ
現在、熊野養鶏では配合飼料に加え、米ぬか、豆腐粕等のエコフィード及びく ず米を飼料として使用している。エコフィードは配合飼料全体の3%程混合して いる。具体的には、豆腐粕・米ぬか・パンくず等を無償で引き取り、発酵飼料を 製造している。飼料は年間、約1,000t給与しているので、20~30tの配合飼料の 節約になっているため、飼料のコスト削減効果は180~200万円程となっている。 エコフィードの給与は、卵の味が良くなる・規格外の卵が著しく減るといった 効果が見られるため、将来的には、配合飼料におけるエコフィードの含有率を現 在の3%から10%にしていきたいと考えている。 2)低コスト高収益を実現する地鶏生産の開始 熊野養鶏は、平成26年6月から愛媛県の地鶏「媛っこ地鶏」の生産を開始して いる。当初、50羽から生産を開始し、現在1,000羽程、平飼いで飼養している。 媛っこ地鶏の定義では、地鶏肉の日本農林規格で定められている生産方法等の 基準に従い平飼いを行うこと、出荷までに80日以上飼養していることのほか、出 荷8日前には指定の飼料を与えること等が定められている。熊野養鶏は、媛っこ 地鶏の飼養上の規定に従いつつ、鶏卵生産と同じエコフィード(3%の含有量) と配合飼料を給与している。媛っこ地鶏の出荷前の平均的な重量は、メス3.5kg/ 羽、オス3.7kg/羽程であるが、熊野養鶏では4ヶ月の飼養で、4kg以上(オス) を見込んでいる。飲食店を中心に引き合いが多く、まとまった量を出荷できる平 成27年1月以降、本格的に営業していく計画である。 3)技術・経営データの蓄積と緻密な経営分析 熊野養鶏では、生産から加工・レストラン経営に至るあらゆるデータを蓄積し、 データベース化を実施している。蓄積したデータベースに基づき、生産管理面で は、飼料要求率の改善など生産効率を高めるとともに、財務管理面では、成鶏1 羽当たりの固定費といった財務データも細かく把握している。設備投資、飼養羽 数の増減、飼料内容の変更といった、経営にとって重要な意思決定は、蓄積され たデータベースを用いた分析に基づいている。 熊野養鶏の鶏卵の生産技術のレベルは、既述したとおり、飼料設計を中心とし て極めて高いが、同時に、緻密な計数管理も並行して行われているのである。こ うした緻密な計数管理が、前述の40,000万羽から17,500羽といった大幅な飼養羽 数の減羽においても、一定の収益を確保しながらの経営転換を実現可能にしてい る。 4 緻密な販売戦略に基づく販売の取組みと成果 熊野養鶏では既述したように、もみじ卵にこだわりを持ち、加工品へのもみじ 卵の使用も、卵の風味が感じられるよう(卵の良さを分かってもらえるよう)最 大限の配慮を行っており、これに合致した製品しか販売していない。販路の8割
が直売であり、県内5カ所に設置した自動販売機(25 台)による販売、飲食店向 けへの販売が主である。その結果、直売の価格は350円/kg、原卵出荷の場合は180 円/kg程であり、直売による卵価は高水準を実現している。平成26年の売り上げの 内訳は、直売8,700万円(内飲食店向け1,000万円)、原卵出荷2,700万円、食堂「熊 福」6,000万円であった。 熊野養鶏は飲食店との取引を積極的に推進し、販路開拓のほとんどは顧客を通 じた口コミであり、仲介者や広告を通じた営業はほとんど行っていない。この販 路開拓方法は、仲介者への手数料や広告費を削減できることに加え、卵の販売単 価を希望価格で販売することができるという効果がある。生産者からの営業の場 合は買い手から値下げを要求されることもあるが、買い手からの購入希望であれ ば、交渉上、有利になるので希望価格で販売できることが多い。 関西方面に大きな取引先があり、その取引先は新規の出店が多く、その出店に 伴い卵の売り上げも伸びている。さらに、その取引先の紹介により、新規の取引 先も増えてきており、現在、80件の飲食店と取引をしている。ここ1~2年は1 ヵ月に1件のペースで取引先が増えてきている。また、既述した媛っこ地鶏は、 卵とのセット販売を計画しており、まずは取引のある県外の飲食店向けに販売す る予定である。媛っこ地鶏の生産者として熊野養鶏は、他の生産者よりは後発で あるが、媛っこ地鶏の販売価格を1割程度高く設定している。このため熊野養鶏 は、より割安感を出すために、卵とセットで買ってくれると何割か安く販売する といった工夫を考えている。愛媛県内では、媛っこ地鶏の生産者が、既に他の媛 っこ地鶏を取り扱っている店には営業に行かないことを取り決めているが、取扱 店から買いに来た場合は売ってもよいとしている。従って熊野養鶏は、より高品 質な地鶏を生産し、取扱い希望店から当社製の地鶏を指名買いしてもらえるよう、 既述したように、配合飼料の内容に一層の工夫を凝らしている。 既述したように、熊野養鶏は平成16年から生産する卵に付加価値をつけて販売 するために、加工卵の開発を始め、温泉卵、ゆで卵、燻製卵がホームページや食 堂「熊福」で販売されている。平成19年には卵専門販売店とともに、食堂「熊福」 も開店している。この食堂では、養鶏農家が提供するレストランというコンセプ トの下、卵かけご飯を主力メニューとして展開しており、生産から販売まで一貫 した経営で収益性の向上を図っている。また、食堂およびスイーツ製造の責任者 である社長の妻は、管理栄養士の資格を持っており、商品開発する上での強みと なっている。 5 6次産業化の成功のポイント 熊野養鶏による6次産業化の取り組みが、一般消費者から支持されている背景 は、以下の三点がある。 第一に、生産部門における高度な生産技術と緻密な経営分析の実施である。熊 野養鶏の6次産業化の強みは、生産部門における高品質な鶏卵・地鶏生産とコス
ト削減のための経営努力にある。既述したように、卓越した自家配合飼料の設計 と、技術データ・経営データの蓄積と緻密な経営分析を日常的に実施し、経営改 善に努めていることは特筆に値する。 第二に、堅実な資金繰り管理の実施である。熊野養鶏は、堅実な設備投資と資 金調達により、現在、運転資金の借入は非常に少ない。設備投資資金も、日本政 策金融公庫のスーパーL資金を利用しているが(現在の借入残高は約1,900万円(市 中銀行借入分含む))、売り上げから計画通りの償還がなされている。これも、綿 密な財務分析に基づく成果といえる。 第三に、販路開拓の工夫である。熊野養鶏は飲食店向けの卵・地鶏の販路を大 消費地(大阪を中心とした関西圏)に絞っている。そして、自ら売り込むのでは なく顧客の口コミを利用し、商談先から呼ばれると、実際に試食をしてもらって 商談成立というスタイルを取っている。こうすることで、商品の単価を必要以上 に下げることなく、販路拡大が成功している。 6 今後の課題 今後の課題として、以下の二点を挙げることができる。 第一に、飼料の調達方法の工夫である。現在、熊野養鶏は農協を含む三社から 飼料を調達している。そのうち農協からの飼料調達が全体の4割を占めており、 この調達方法が短期負債の約5割を占める当座借越(約2,500万円)の増加につな がっている。今後は、取引先を一社に絞った上で現金支払いにするなど、決済方 法に工夫を凝らすことによって、飼料費のコスト削減に努めていくことが望まし い。 第二に、卵・地鶏の販路拡大に向け、マーケティング戦略に力を入れることで ある。熊野養鶏の社長は、「ようやく最近になって、マーケティングに力を入れる 準備ができた。これから積極的に攻めの姿勢でマーケティングに力を入れていく」 と述べている。実際に、平成25年からサントリーの商談会に参加するようになり、 平成27年には㈱日本政策金融公庫主催の第8回アグリフードEXPO大阪2015に 出店予定である。また、既述したように、地鶏の本格的販売に向けた準備も整い つつある。今後は、農場管理を任せることのできる人材を雇用し、社長はマーケ ティングに一層の力を入れるなど、マーケティング戦略を担う人材育成および戦 略の構築が望まれる。