栃木県アライグマ防除実施計画
平成24年
2月
目 次 1 計画策定の背景と目的・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1 2 特定外来生物の種類・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1 3 防除を行う区域・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1 4 防除を行う期間・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1 5 現況・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1 (1) 生息状況・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1 (2) 被害の状況・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2 (3) 捕獲の状況・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3 6 防除の目標・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3 (1) 目標・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3 (2) 地域別目標設定・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3 (3) 体制の確立・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5 (4) 緊急的な防除・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5 7 防除の方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・6 (1) 実施体制・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・6 (2) 捕獲の方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・7 (3) 捕獲の際の留意点・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・8 (4) 捕獲個体の取扱・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・8 (5) 捕獲個体の譲渡しと飼養・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・8 (6) モニタリングと計画の見直し・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・9 8 防除以外の対策の推進・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・9 9 計画の推進体制・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・9 (1) 関係機関との連携・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・9 (2) 関係者との合意形成・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・9 10 普及啓発・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・9 11 参考文献・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・9 最後に・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・10
1 計画策定の背景と目的 アライグマは、本来我が国に生息していなかったが、ペット等として輸入され、飼わ 、 、 。 れていたものが逃げたり 捨てられたりして 全国各地で野外に生息するようになった 本種は、様々な環境で生息が可能であり、繁殖力が高く、雑食性で食性の幅が広い、国 内では天敵がほとんどいないことなどから個体数が著しく増加し、生態系、生活環境、 農作物への被害が発生し、さらに狂犬病等の人獣共通感染症の媒介も懸念されている。 、「 」 平成17年10月には 特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律 (平成16年法律第78号。以下「外来生物法」という 。)が施行され、アライグマは特 。 、 「 」 定外来生物に指定された また 平成22年9月に策定された 生物多様性とちぎ戦略 では、外来種の重点的な駆除が重点プロジェクトのひとつに位置付けられた。 近県においては、相当数が捕獲されている現状となっており、一旦個体数や分布が拡 大すると、農作物のみならず生態系や生活環境への被害が甚大となることから、外来生 物法に基づき防除実施計画を策定することとした。 各種被害の抑制と生物多様性の保全に資するため、市町や関係機関、地域住民と連携 して計画的かつ継続的に防除を実施するものとする。 2 特定外来生物の種類 アライグマ(学名:Procyon lotor) 3 防除を行う区域 栃木県全域 4 防除を行う期間 平成 24年4月1日から平成 33年3月31日までとする。ただし、計画の前提となる 国の告示期間の見直しやアライグマの生息状況等の大きな変動、新たな科学的知見を得 た場合等は、必要に応じて計画期間を見直すものとする。 5 現況 (1) 生息状況 生息確認調査(H22)及びこれまでの捕獲地点の状況から把握した県内におけ るアライグマ分布状況は、図-1のとおりである。 生息確認調査では、県南部から北東部にかけて広い範囲で分布が散在している ことが確認された。しかし、捕獲実績は、県南部に偏っていることから、県全域 では密度は低いものの県南部で増加のおそれがある。 ただし、生息状況のデータが不足しており、現時点では個体数の推定もできな いことから、捕獲個体のデータ等を収集・分析しながら必要な調査を行うととも に、生息状況についての様々な調査成果を活用することにより、詳細な生息状況 の把握に努めるものとする。
図-1 アライグマの分布状況 (2) 被害の状況 ① 生態系被害 アライグマにとっては、水辺環境が重要な餌場となっているため、個体数の 多い地域では、両生類や爬虫類の生息に大きな影響を与えるおそれがある。 特に絶滅のおそれのある野生動植物種として「レッドデータブックとちぎ」 に掲載されているトウキョウサンショウウオやニホンアカガエルなどへの影響 が心配されている。 、 。 また 生態が似ているタヌキなどの生息への影響も懸念されるところである ② 生活環境被害 アライグマが家屋に侵入し、屋根裏などを糞尿で汚されたり、鳴き声・足音 による騒音の被害など、生活環境の被害が心配されている。 、 、 。 なお 小山市においては 家屋の屋根裏での繁殖による被害が発生している
③ 農業被害 アライグマによる農作物への被害は、今のところ目立った状況とはなってい ないものの、アライグマによる被害と認知されていない可能性もあり、潜在的 被害は相当数あるものと推定される。 (3) 捕獲の状況 県内において、有害鳥獣捕獲等により確認された個体数の推移は、表-1のと おりである。 表-1 捕獲数の推移 (単位:頭) 平成19 平 成 平 成 平 成 平 成 区 分 年度以前 20年度 21年度 22年度 23年度 捕 獲 数 1 1 5 3 3 平成 年度は9月末現在 ※捕獲数は有害鳥獣捕獲、学術捕獲、傷病鳥獣として捕獲の合計 23 6 防除の目標 (1) 目標 アライグマの防除は、侵入初期段階で実施することが最も効率的・効果的な方 策である。今後、生息の増大が懸念されることから、当面は、積極的な捕獲を実 施し、生息数の低減を図り、生態系、生活環境及び農作物に係る被害を防止する ことを目標とする。 なお、捕獲した個体のデータを収集・分析しながら、野外でのアライグマの生 息状況や自然環境への影響を解明するための調査及びモニタリングにより、地域 ごとの動向を把握し、計画的に防除を実施するものとする。 また、アライグマは、繁殖力が高く、幅広い食性をもち、国内には天敵らしい 天敵がいないことから、野外に存在している限り、再び個体数が増加することが 予想されるため、抜本的な問題解決として、最終的には県全域からの完全排除を 目標とする。 (2) 地域別目標設定 これまでに、生息確認調査結果や捕獲実績によりアライグマの生息が確認され た市町を「重点防除地域」とし、それ以外の市町を「警戒防除地域」とする。各 市町の地域区分は図-2のとおりである。
図-2 各市町の地域区分 ① 重点防除地域 生息が確認されている次の15市町を重点防除地域とする。 地区名 市 町 名 市町数 県 西 鹿沼市 1 県 東 宇都宮市、真岡市、上三川町、市貝町 4 県 北 大田原市、那須塩原町 2 県 南 足利市、栃木市、佐野市、小山市、下野市、壬生町、 7 岩舟町 矢 板 矢板市 1 重点防除地域 警戒防除地域 日光市 那須塩原市 那須町 大田原市 那珂川町 那須烏山市 茂 木 町 市 貝 町 益子町 芳賀町 上三川町 宇都宮市 高根沢町 鹿沼市 壬生町 足利市 矢板市 塩谷町 さくら市 小山市 栃木市 岩舟町 野木町 下野市 佐野市 真岡市
重点防除地域では、特に被害が発生した箇所において、加害個体及びその周辺 に生息する個体の徹底した捕獲を行うとともに、目撃等により生息が確認された 箇所においても計画的な捕獲を行い、地域からの完全排除を目指すものとする。 ② 警戒防除地域 生息が確認されていない地域においても、今後侵入や定着のおそれがあること から、次の11市町を警戒防除地域とする。 地区名 市 町 名 市町数 県 西 日光市 1 県 東 益子町、茂木町、芳賀町 3 県 北 那須烏山市、那須町、那珂川町 3 県 南 野木町 1 矢 板 さくら市、塩谷町、高根沢町 3 警戒防除地域は、アライグマの分布拡大を阻止する予防区域として重要な意味 を持つ。アライグマ問題を積極的に普及啓発や情報提供を行うとともに、生息状 況について継続的な監視を行い、被害や目撃情報があった場合は、速やかに捕獲 を行い、地域への定着を防ぐものとする。 (3) 体制の確立 アライグマの完全排除に向けては、科学的、計画的に防除を推進する必要があ る。本県においては、侵入初期段階と推測されることから、捕獲の進展に伴う生 息密度の低下により、捕獲頭数の実績が少なくなることも予想されるが、その際 も捕獲圧を弱めることなく、防除を継続する必要がある。 そのため、市町、関係団体、地域住民等の協力を得ながら、生息情報等を正確 に収集する体制と確実に捕獲できる体制を確立する。 (4) 緊急的な防除 県及び市町は、人の身体に危害を及ぼすおそれがある場合やその他緊急に防除 を実施する必要がある場合は、緊急的な防除を実施する。
7 防除の方法 (1) 実施体制 防除にあたっては、県と市町が実施主体となり、関係団体、地域住民等の協力 を得ながら実施する。 県は、生息状況等のモニタリング、科学的データの蓄積・分析・フィードバッ ク、防除実施計画の進行管理、捕獲技術の研究、市町の取組に対する技術支援及 び普及啓発を実施する。 市町は住民と連携を図り、関係者の合意形成、アライグマの捕獲、捕獲個体の 運搬・処分及び普及啓発を実施する。 なお、防除を実施する際は 「外来生物法」及び「鳥獣の保護及び狩猟の適正、 化に関する法律 (平成」 14年法律第88号。以下「鳥獣保護法」という )を遵守。 するものとする。 目撃情報・被害情報 県防除実施計画の見直し ・生態系被害 ・生活環境被害 ・農業被害 反 映 県 市 町 ・実施体制の整備 ・関係者の合意形成 ・防除従事者の養成 連 携 ・防除従事者の養成 ・捕獲技術の研究 ・捕獲の実施 ・技術的支援 ・市町防除実施計画の策定 ・捕獲個体のモニタリング ・普及啓発 ・普及啓発 個体数の低減を図り、最終的には野外からの完全排除
(2) 捕獲の方法 捕獲には原則として小型の箱わなを使用し、次のとおり実施する。 ① 県及び市町は、適切な捕獲と安全に関する知識及び技術に関する講習会を開催 するなど、捕獲に従事する者の養成に努める。 、 ( 「 」 。) ② 市町は 講習会を受講した者を捕獲に従事する者 以下 防除従事者 という として登録するとともに、防除従事者証(外来生物法に基づく防除を実施してい ること証する書類)を交付し、防除従事者台帳の作成及び適宜更新することによ り管理する。 なお、わな猟免許所持者は、適切な捕獲と安全に関する知識及び技術を有して いると認められることから、講習会を修了した者とみなし、防除従事者証を交付 する。 ③ 捕獲又は生きている捕獲個体の運搬に従事することができる範囲は、表-2の とおりである。 1 わな猟免許所持者は、場所によらず捕獲及び生きている捕獲個体の運搬に 従事することができる。 2 防除従事者(わな猟免許所持者を除く )は、場所によらず捕獲及び生き。 ている捕獲個体の運搬に従事することができる。 3 わな猟免許非所持者で、かつ、防除従事者として登録されていない者は、 ( ) 、 。 所有 管理 する住宅敷地及び農地において 捕獲に従事することができる 表-2 従事することができる範囲 免許非所持者で防除従事者 免 許 所 持 者 防 除 従 事 者 として登録されていない者 区 分 捕 獲 運 搬 捕 獲 運 搬 捕 獲 運 搬 所有(管理)する 1 1 2 2 3 × 住宅敷地及び農地 上記以外 1 1 2 2 × × ※ 上記の下段1 ・2 は所有者(管理者)から依頼を受けた場合に限り、上段3 は所有者(管理者)から依頼を受けた場合を含む。 ④ 捕獲にあたっては、鳥獣保護法第9条に基づく有害鳥獣捕獲許可を受けてから 実施し、許可権者が交付する有害鳥獣捕獲従事者証を、生きている捕獲個体の運 搬にあたっては、防除従事者証を携帯するものとする。 ⑤ 設置した箱わなごとに、外来生物法に基づく防除である旨、防除従事者等の住 所・氏名・電話番号並びに鳥獣保護法に基づく許可権者名、許可期間、許可番号 及び捕獲しようとする鳥獣の種類を記載した標識の装着を行う。
(3) 捕獲の際の留意点 、 、 。 市町及び防除従事者等は 捕獲を実施する際 次の事項に留意するものとする ① 錯誤捕獲の防止 餌や設置場所などを工夫して、錯誤捕獲を低減する。 わな設置期間中は、原則として1日1回は巡視するものとし、錯誤捕獲があっ た場合は、速やかに放獣するものとする。 ② 事故の発生防止 捕獲されたアライグマは興奮状態にあり、大変危険なこと、また、感染症を媒 介する可能性があることから、むやみに近づいたり、手を出したりしないなど、 取り扱いについては十分注意し、万一、事故があった場合には、消毒や病院での 治療など速やかに適切な措置を講じることとする。 ③ 逸出の防止 捕獲時及び運搬時においては、箱わなの施錠等の徹底により捕獲個体の逸出を 防止するものとする。 ④ 捕獲個体 動物福祉の観点から、捕獲された場合は季節や天候に留意し、必要に応じてシ ート等で箱わなを覆い、風雨や直射日光を防ぐこととする。 (4) 捕獲個体の取扱 捕獲地から処分場までの捕獲個体の運搬、捕獲個体の殺処分及び殺処分された 、 。 個体の焼却等は 原則として市町が住民と連携を図り適切に実施するものとする 処分方法は、動物福祉及び公衆衛生に配慮し 「動物の殺処分に関する指針」、 (平成7年7月4日総理府告示第40号)に基づく方法とする。 (5) 捕獲個体の譲渡しと飼養 捕獲個体については、学術研究、展示、教育、その他公益上の必要があると認 められる目的である場合に限り、外来生物法第5条第1項に基づく飼養、栽培、 保管又は運搬(以下「飼養等」という )の許可を受けて飼養等を行うことがで。 きるものとする。 捕獲個体の飼養等をしようとする者に譲渡し又は引渡し(以下「譲渡し等」と いう )をする場合は、譲渡し等の相手方が学術研究、展示、教育その他の公益。 上の必要があると認められる目的で飼養等の許可を得ている場合又は同法第4条 第2号の規定に基づいて特定外来生物を適法に取り扱うことができる場合に限る ものとする。 、 、 、 なお 引取飼養等を希望する者に捕獲個体を引き渡す場合には 県又は市町は 次の要件を確認したうえで譲渡証明書を発行する。 ① 外来生物法の規定に基づく飼養等に係る許可を受けていること。 ② 捕獲個体を一定数収容できる施設を有していること。
④ 引取後30日以内に不妊手術、マイクロチップの装着、感染症予防措置を 実施すること。 また、県又は市町は、譲渡し先(引取飼養を希望する者)への引渡し状況 を記録、保管するとともに、継続的に必要な情報の収集・提供を行うこと。 (6) モニタリングと計画の見直し 県は、生息情報や被害情報を把握するためにモニタリングを実施し、防除の効 果検証を行うとともに、その結果に基づき本計画の見直しを図るなど防除対策に 適切に反映していく。なお、モニタリングの分析は、県の研究機関で実施する。 8 防除以外の対策の推進 アライグマによる生活環境や農作物の被害を予防するためには、地域住民や農業者に よる被害地への侵入防止対策が重要である。そのために、地域全体で、普段は人が近づ かない古い木造建築物などが繁殖場所として利用されないように侵入口を閉鎖するとと もに、農地等においては防護柵等を設置するなど有効な対策を速やかに講じるものとす る。 9 計画の推進体制 (1) 関係機関との連携 、 、 、 県は 防除の実施に際しては 野生鳥獣保護管理連絡調整会議などを活用して 情報交換、意見交換を行いながら、共通認識の醸成に努め、関係機関や隣接県と の連携を図り、推進するものとする。 (2) 関係者との合意形成 市町は住民と連携を図り、土地所有者や施設管理者等との合意形成に努めるも のとする。 10 普及啓発 県及び市町は、地域住民及び関係機関等に対して、栃木県におけるアライグマの現状 と防除の必要性について、リーフレットの配布や講習会の開催、ホームページの活用等 より普及啓発に努めるものとする。 11 参考文献 栃木県(2011)平成22年度外来種の生息確認調査報告書 茨城県(2010)茨城県アライグマ防除実施計画 環境省(2011)アライグマ防除の手引き(計画的な防除の進め方)
最後に アライグマ問題の根底には、野生動物であるアライグマを外見の愛らしさから安易 、 。 に飼育したり 最後まで飼いきれずに野外に捨てられるなど人間の身勝手さがあります 、 。 その意味では 防除されるアライグマも被害者であることを再認識する必要があります 人間の不適切な行為がなければ失われなかった生命であることを我々は反省しなけれ ばなりません。 幸いにして、栃木県では、アライグマの侵入初期段階にあると考えられますので、現 段階での防除作業をできる限り迅速に進めるとともに、私達自身が野生動物との接し方 やその飼育に関して、正しい知識と道徳を身に着けることが何より求められています。