独立行政法人 労働者健康福祉機構
滋賀産業保健推進センター
働く人々の健康と幸福のための産業保健情報誌
2007/5
第
2244
号
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ccupational
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My
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OH
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淡 海
巻 頭
「労働と健康」の調和をめざした
産業保健活動
言
(社)日本作業環境測定協会京滋支部 滋賀分会長 滋賀産業保健推進センター運営協議会委員中村 薫
僭越ではございますが、小職はKKC財団法人近畿健康 管理センター公益事業部において、微力ながら公益事業の 一環として、(社)日本作業環境測定協会京滋支部滋賀分 会長をお預かり致しております。 近年、産業医の先生、労働安全・衛生コンサルタントの 先生、作業環境測定士、保健師、産業看護師、衛生管理者 等の方々とお会いさせて頂く機会が持てるようになり、未 熟者の小生にとって有り難く、大変勉強をさせて頂いてお ります。諸先生方は、ご専門の分野に限らず、働く人達の 健康と安全・快適を守るため「産業保健」にご尽力されて いるところです。 これまで産業保健活動の目的は、「労働者の健康を守る ため」と認識しておりましたが、諸先生方からご指導を頂 き、事業場実習等へ参加させて頂いた経験から、「職場で 起こる健康問題を取り扱い、働く人々が仕事に起因した健 康障害を防ぎ、働く人の健康状態に応じた仕事の質や量を 調整することに関わるもの」と思います。近年には、企業 間競争の激化や雇用環境の多様化の進展など、過重労働に よる健康障害やメンタルヘルス問題が深刻化しています が、身近な所でも現実問題として真正面から取り組んでお られます。 一方事業者には、労働者の健康を守る義務(安全配慮義 務)があり、労働者に健康障害のリスクがある場合にはそ の要因を取り除く必要があります。最近ではこれらの安全 配慮義務違反による企業不祥事が多く報道されています が、日常から事業者と産業保健スタッフのコミュニケー ションが有効に機能していることが重要と考えます。 メンタルヘルス対策は、職場や仕事のストレスが原因と なる場合が多く、職場におけるストレス環境の改善が重要 となります。職場環境には、物理環境、作業方法、労働時間、 勤務形態、職場組織など心の健康に影響を与える要因全て が含まれていますが、メンタルヘルス不調者個人へのアプ ローチと同時に、職場環境改善を巻き込んだアプローチを 行うことが、より持続的且つ職場におけるストレス軽減効 果が得られると思います。 企業のメンタルヘルス対策は、CSR(社会的責任)、法 的責任、優秀な社員の喪失、モラールの低下、社会的信用 の失落など、企業のリスク管理上の対策として大変重要で あることは言うまでもありません。 このように、産業保健は労働者のための活動であると同 時に、法令の遵守・安全配慮義務の履行に加え、人材資源 の有効活用、生産性の確保といった面でみると、企業のた めの活動でもありますので、両者の活動と言えます。この ことから、労働者と事業者のコミュニケーションが機能し ていることが望まれます。 ―産業保健の目的― 産業保健の目的を考える上で、ILO/WHO合同委員 会「労働衛生の定義」があります。この中で産業保健につ いて、目指すべき4項目を掲げています。 1.すべての職業における労働者の、身体的精神的及び 社会的ウェルビーイングの増進と保持。 2.労働者全体について、彼らの作業条件に起因する健 康からの離脱の防止。 3.健康に不利な要因に起因する危険からの就業中の労 働者の保護 4.労働者の生理学的、心理学的能力に適応した職業環 境への配置と保持 これらを「人への作業の適応と、その仕事へのそれぞれ の人の適応である」と言っています。 職場の環境対策については、労働者の職業環境への安全 衛生水準の向上を図るため、快適な職場環境の形成が求め られているところですが、昭和54年、厚生労働省の指導 のもとに、作業環境測定士、作業環境測定機関及び自社測 定事業場、委託事業場、賛助会員が作業環境測定業務の進 歩と改善及び作業環境測定士の品位の保持に資することを 目的として、(社)日本作業環境測定協会が設立されてい ます。当会京滋支部では、昨今における環境問題の深刻化 に対して、地球規模において環境貢献を具体化しなければ ならないと考えています。このことは、当会に対する高度 な専門性に、益々期待が高まっているところで、本会員及 び会員機関の業務精度をあげ、活動を強化したいと考えて おります。職場における作業環境の快適な状態を維持する ため、今後とも作業環境測定士並びに測定機関をせいぜい ご活用頂きたいと思います。 最後になりましたが、「産業保健活動」は、「一般の保健 活動」で必ずしも含まれない労働との関わりを考えること が重要です。また、対象は、企業等の組織も含まれ、労働 者一人一人への活動です。 このように「労働と健康」の調和をめざした産業保健活 動が展開されていることに微力ながらお手伝いをさせて頂 いていることに感謝を申し上げます。 末筆になりましたが、滋賀産業保健推進センターが、働 く人々の健康と幸せのために、今後ますます充実・ご発展 されることをご祈念申し上げます。 あけびの花は雌雄同株、雌の花は秋にはその可憐な花から想像も つかない様な形の実が縦に割れ、白色半透明な果肉は甘く美味です。 今年もこの花の群生からたくさんの実が成るといいですね。 虎姫町国保診療所 廣田 光前 ○「巻頭言」……… 滋賀産業保健推進センター運営協議会委員 中村 薫 ○「嘱託産業医事始め 第7回」……… 滋賀産業保健推進センター所長 杉本 寛治 ○「推進センター窓口相談Q&A」……… 近畿ブロック各産業保健推進センター共同 ○「働く人々の健康づくりをサポート」……… 関西労災病院勤労者予防医療センター ○「働き盛り労働者の自殺予防対策シンポジウムについて」……… ○「Q&A局所排気装置の仕組みについて」……… 滋賀産業保健推進センター 産業保健相談員 植西 信雄 ○「はミング講座」……… 滋賀県歯科医師会から ○「平成19年度滋賀産業保健推進センター産業保健相談員について」……… ○「新任産業保健相談員のご紹介について」……… ○「行政だより」……… 「滋賀県の労働衛生の現状(平成19年4月)」 滋賀労働局 労働基準部 安全衛生課 ○「産保掲示板」……… 「各種労働衛生関係技能講習等のご案内」(社)滋賀労働基準協会 「滋賀労働局 人事異動について」 ○「センターからのお知らせ」……… 「退任される産業保健相談員からの一言」大道 重夫 「新着図書等の紹介」 「平成19年度産業保健セミナー(前期)のご案内」 ○「自発的健診助成事業のご案内」……… ○「産業医共同選任助成事業のご案内」……… ○ 労働基準監督署の再編成のお知らせ……… ○「滋賀産業保健推進センターのご案内」……… 1 2 6 7 8 10 11 12 13 14 16 17 23 24 25 25 初夏の風物詩(長浜市・姉川河口)CONTENTS
巻
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「労働と健康」の調和をめざした
産業保健活動
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(社)日本作業環境測定協会京滋支部 滋賀分会長 滋賀産業保健推進センター運営協議会委員中村 薫
僭越ではございますが、小職はKKC財団法人近畿健康 管理センター公益事業部において、微力ながら公益事業の 一環として、(社)日本作業環境測定協会京滋支部滋賀分 会長をお預かり致しております。 近年、産業医の先生、労働安全・衛生コンサルタントの 先生、作業環境測定士、保健師、産業看護師、衛生管理者 等の方々とお会いさせて頂く機会が持てるようになり、未 熟者の小生にとって有り難く、大変勉強をさせて頂いてお ります。諸先生方は、ご専門の分野に限らず、働く人達の 健康と安全・快適を守るため「産業保健」にご尽力されて いるところです。 これまで産業保健活動の目的は、「労働者の健康を守る ため」と認識しておりましたが、諸先生方からご指導を頂 き、事業場実習等へ参加させて頂いた経験から、「職場で 起こる健康問題を取り扱い、働く人々が仕事に起因した健 康障害を防ぎ、働く人の健康状態に応じた仕事の質や量を 調整することに関わるもの」と思います。近年には、企業 間競争の激化や雇用環境の多様化の進展など、過重労働に よる健康障害やメンタルヘルス問題が深刻化しています が、身近な所でも現実問題として真正面から取り組んでお られます。 一方事業者には、労働者の健康を守る義務(安全配慮義 務)があり、労働者に健康障害のリスクがある場合にはそ の要因を取り除く必要があります。最近ではこれらの安全 配慮義務違反による企業不祥事が多く報道されています が、日常から事業者と産業保健スタッフのコミュニケー ションが有効に機能していることが重要と考えます。 メンタルヘルス対策は、職場や仕事のストレスが原因と なる場合が多く、職場におけるストレス環境の改善が重要 となります。職場環境には、物理環境、作業方法、労働時間、 勤務形態、職場組織など心の健康に影響を与える要因全て が含まれていますが、メンタルヘルス不調者個人へのアプ ローチと同時に、職場環境改善を巻き込んだアプローチを 行うことが、より持続的且つ職場におけるストレス軽減効 果が得られると思います。 企業のメンタルヘルス対策は、CSR(社会的責任)、法 的責任、優秀な社員の喪失、モラールの低下、社会的信用 の失落など、企業のリスク管理上の対策として大変重要で あることは言うまでもありません。 このように、産業保健は労働者のための活動であると同 時に、法令の遵守・安全配慮義務の履行に加え、人材資源 の有効活用、生産性の確保といった面でみると、企業のた めの活動でもありますので、両者の活動と言えます。この ことから、労働者と事業者のコミュニケーションが機能し ていることが望まれます。 ―産業保健の目的― 産業保健の目的を考える上で、ILO/WHO合同委員 会「労働衛生の定義」があります。この中で産業保健につ いて、目指すべき4項目を掲げています。 1.すべての職業における労働者の、身体的精神的及び 社会的ウェルビーイングの増進と保持。 2.労働者全体について、彼らの作業条件に起因する健 康からの離脱の防止。 3.健康に不利な要因に起因する危険からの就業中の労 働者の保護 4.労働者の生理学的、心理学的能力に適応した職業環 境への配置と保持 これらを「人への作業の適応と、その仕事へのそれぞれ の人の適応である」と言っています。 職場の環境対策については、労働者の職業環境への安全 衛生水準の向上を図るため、快適な職場環境の形成が求め られているところですが、昭和54年、厚生労働省の指導 のもとに、作業環境測定士、作業環境測定機関及び自社測 定事業場、委託事業場、賛助会員が作業環境測定業務の進 歩と改善及び作業環境測定士の品位の保持に資することを 目的として、(社)日本作業環境測定協会が設立されてい ます。当会京滋支部では、昨今における環境問題の深刻化 に対して、地球規模において環境貢献を具体化しなければ ならないと考えています。このことは、当会に対する高度 な専門性に、益々期待が高まっているところで、本会員及 び会員機関の業務精度をあげ、活動を強化したいと考えて おります。職場における作業環境の快適な状態を維持する ため、今後とも作業環境測定士並びに測定機関をせいぜい ご活用頂きたいと思います。 最後になりましたが、「産業保健活動」は、「一般の保健 活動」で必ずしも含まれない労働との関わりを考えること が重要です。また、対象は、企業等の組織も含まれ、労働 者一人一人への活動です。 このように「労働と健康」の調和をめざした産業保健活 動が展開されていることに微力ながらお手伝いをさせて頂 いていることに感謝を申し上げます。 末筆になりましたが、滋賀産業保健推進センターが、働 く人々の健康と幸せのために、今後ますます充実・ご発展 されることをご祈念申し上げます。 あけびの花は雌雄同株、雌の花は秋にはその可憐な花から想像も つかない様な形の実が縦に割れ、白色半透明な果肉は甘く美味です。 今年もこの花の群生からたくさんの実が成るといいですね。 虎姫町国保診療所 廣田 光前 ○「巻頭言」……… 滋賀産業保健推進センター運営協議会委員 中村 薫 ○「嘱託産業医事始め 第7回」……… 滋賀産業保健推進センター所長 杉本 寛治 ○「推進センター窓口相談Q&A」……… 近畿ブロック各産業保健推進センター共同 ○「働く人々の健康づくりをサポート」……… 関西労災病院勤労者予防医療センター ○「働き盛り労働者の自殺予防対策シンポジウムについて」……… ○「Q&A局所排気装置の仕組みについて」……… 滋賀産業保健推進センター 産業保健相談員 植西 信雄 ○「はミング講座」……… 滋賀県歯科医師会から ○「平成19年度滋賀産業保健推進センター産業保健相談員について」……… ○「新任産業保健相談員のご紹介について」……… ○「行政だより」……… 「滋賀県の労働衛生の現状(平成19年4月)」 滋賀労働局 労働基準部 安全衛生課 ○「産保掲示板」……… 「各種労働衛生関係技能講習等のご案内」(社)滋賀労働基準協会 「滋賀労働局 人事異動について」 ○「センターからのお知らせ」……… 「退任される産業保健相談員からの一言」大道 重夫 「新着図書等の紹介」 「平成19年度産業保健セミナー(前期)のご案内」 ○「自発的健診助成事業のご案内」……… ○「産業医共同選任助成事業のご案内」……… ○ 労働基準監督署の再編成のお知らせ……… ○「滋賀産業保健推進センターのご案内」……… 1 2 6 7 8 10 11 12 13 14 16 17 23 24 25 25 初夏の風物詩(長浜市・姉川河口)CONTENTS
うな仕事、それも非常に有害で危険な仕事が必 ず工場にはあると思って下さい。そして、その ような仕事のほとんどは、下請企業に任されて いるのが現実です。 嘱託産業医がいくら熱心になっても、現場作 業の全てを見ることは困難です。作業をしてい る時間の全てを見るということ、交替勤務であ れば深夜作業も見るということは、ほぼ出来な いことで、推測するしかありません。 産業医にとって、製造工程を見るときに知ら ない言葉が頻繁に使われているので戸惑うこと が多いでしょう。製造のプロセスを知ると同時 に彼らの言葉、共通言語も学ぶ必要があります。 今でこそ、現場では「ゆうき」と言えば、有機 溶剤のことと分かっていますが、以前は商品名 やシンナーなど彼らに分かりやすい言葉が常識 で、有機溶剤で中毒が起こるということにはあ まり関心はなかったと言えます。 次に職場巡視の大事な目的は顔を見せるとい うことです。健康診断の結果を紙面のみで見て、 就業上の判定をする産業医の顔を一度も見てい ない労働者が、その医師の判定を無条件で受け 入れるでしょうか。月1回、年12回の巡視でも、 現場労働者と一定の人間関係も構築できるので はないでしょうか。また、労働者の表情や労働 態度など言葉で表現できない情報は、職場の活 力や健康状況を判断する上で重要です。こちら から「こんにちは、産業医の巡視です」と声か けをすること、企業によれば「ご安全に!」と 出会った現場の人全てに声をかけることは、そ れに対する労働者一人一人の反応を見ることが できますので、職場のメンタルヘルスを判断す る上で重要な情報となります。 一方、事務系職場では、多くの産業医が何を 見たらいいのか分からず、事業所も積極的に巡 視をすることはあまり多くありません。しかし、 事務所系職場でも巡視の目的とするところは変 わりませんが、見えるところの問題よりもむし ろ、見えないところの問題、ことに人間関係に よるメンタルヘルスに着目する必要があります。 すなわち、仕事の仕方、労働時間、人間関係な ど健康管理のデータや上司などからの事前の打 合せに基づいた職場巡視を是非とも行って頂き たい。 なお、法規に示す「作業場等を巡視する」と いう「等」には、休憩所、食堂、キッチン、ト イレなどの保健施設を巡視することを意味しま す(昭和33年、基発第90号)。最近では、喫 煙室や喫煙場所もそれらに加えるのを忘れない ようにして下さい。
Ⅱ. 定期的巡視より特別な目的を持った
巡視を大事にしよう
事業場の健康管理を行っていると、様々なこ とが起こる。現場の状況や労働者の健康状態は 日々刻々変化しており、突発的なことがいつ起 こってもおかしくない。筆者が職場巡視に行き たくなる場合を列挙してみよう。 ① 有機溶剤健診で尿中代謝物の分布区分が 2である従業員が発生した。 ② 騒音の健康診断で、耳栓など保護具を付 けないで作業している職場があることを聞 いた。 ③ 振動工具を取り扱う職場で、手のしびれ を訴えるものが見られた。 ④ パソコン作業で、背部痛や腰痛を訴える 人が多い職場があるのに気付いた。 ⑤ 事務所で女性労働者が夏場足下が冷えす ぎるという訴えがあった。 ⑥ 作業環境測定で管理2以上の職場につい ては、状況を確認する必要を感じた。 ⑦ 過重労働の面接で、実態はもっとひどい ものだと訴えがあった。 ⑧ 特定の職場にメンタルヘルス不調の者が 増えているのに気付いた。 ⑨ 化学物質が目にはいるという労災事故の 対策を講じたので、それを確認したくなった。 ⑩ 脳梗塞発症後、右肩麻痺の残った作業者の 滋賀産業保健推進センター 所長杉本 寛治
嘱 託 産 業 医 事 始 め
第 7 回
嘱 託 産 業 医 事 始 め
第 7 回
職場巡視をいかに上手く進めるか?
産業医業務のまず第一の仕事は、職場巡視 ( パトロール ) です。このことは、研修を通じて嘱 託産業医の誰もが繰り返し繰り返し教えられてきたことですが、実際に職場巡視の経験がない ため机上の話として聞き流していたり、製造業中心の職場巡視の講義が多いため、サービス産 業の嘱託産業医にとってはあまり役に立っていないことが危惧されるところです。さらに、医 師会の行う事業所実習にも積極的に参加していないと職場巡視の実際になかなか馴染まないも のと思われます。 今回は、誌上の話ではありますが、嘱託産業医のための職場巡視の進め方を改めて取り上げ、 具体的な見方、考え方を述べてみたいと思います。 開業医としてずっとやってこられている先生方にとっては、産業医という業務自身を専門の 一部に取り入れることは、長年嘱託産業医をしていてもなかなか難しいことなのは間違いあり ません。しかし、産業医をするということは、相手の企業からも職場巡視を当然のように要請 されるようになって来ていることを考えますと、逆に企業にとって役に立つ職場巡視を行う義 務があると言えます。 このような状況を上手く乗り越え、職場巡視がむしろ楽しいと思うようになるノウハウをま とめてみました。時間がかかると思いますが、上手く職場巡視が出来るようになりますと、自 分が産業医をしている企業の実態を肌で感じられるようになり、従業員との関係が産業医とい う職務を超えて醸成されてくると思います。それがまた、先生の開業医としての仕事に良い影 響が生まれてくるように思いますので、本稿を参考に改めて職場巡視の進め方を考えてみてく ださい。Ⅰ. 職場巡視の目的と意義
労働安全衛生規則第15条に、毎月1回の産 業医による定期的巡視が義務づけられており、 「作業方法又は衛生状態に有害のおそれがあると きは、直ちに、労働者の健康障害を防止するた めに必要な措置を講じなければならない」とい う権限が付与されています。 最近は、事業所も法規を守るという立場(コ ンプライアンス)から、産業医活動を見直して います。これまでは、どちらかというと事業所 も産業医のこの義務についての認識が甘かった のですが、事業者から産業医へ職場巡視を要請 するケースが増えてきており、今後は嘱託契約 をしている限り、時間はわずかでも巡視をせざ るを得なくなっています。 周知のように、職場巡視の目的は労働者の働 いている環境や働き方の現状を把握した上で、 労働者の健康の保持及び労働による負荷を軽減 することで、問題点を明らかにし、改善のため の指導と提案を行うことが求められます。この ような抽象的な言い方では、なかなか理解でき ないでしょうが、職場巡視は臨床の場面の事業 所の問診・診察、とくに視診による診断と言え ましょう。したがって、製造工場であるなら、 この事業所は何をどのように作っているのかを 完全に把握することがまず必要で、それを作る ためにどのような原料を使って、それをどのよ うに処理し、どのような製品に仕上げていくの か、すべての工程を熟知することが求められま す。産業医はこのぐらい知っておいたら良いと 勝手に事業所側が決めて、都合の良い場所ばか り(法規に定められている有害作業現場のみ) 案内されることが往々にしてありますので、注 意が必要です。また、私たちが想像もしないような仕事、それも非常に有害で危険な仕事が必 ず工場にはあると思って下さい。そして、その ような仕事のほとんどは、下請企業に任されて いるのが現実です。 嘱託産業医がいくら熱心になっても、現場作 業の全てを見ることは困難です。作業をしてい る時間の全てを見るということ、交替勤務であ れば深夜作業も見るということは、ほぼ出来な いことで、推測するしかありません。 産業医にとって、製造工程を見るときに知ら ない言葉が頻繁に使われているので戸惑うこと が多いでしょう。製造のプロセスを知ると同時 に彼らの言葉、共通言語も学ぶ必要があります。 今でこそ、現場では「ゆうき」と言えば、有機 溶剤のことと分かっていますが、以前は商品名 やシンナーなど彼らに分かりやすい言葉が常識 で、有機溶剤で中毒が起こるということにはあ まり関心はなかったと言えます。 次に職場巡視の大事な目的は顔を見せるとい うことです。健康診断の結果を紙面のみで見て、 就業上の判定をする産業医の顔を一度も見てい ない労働者が、その医師の判定を無条件で受け 入れるでしょうか。月1回、年12回の巡視でも、 現場労働者と一定の人間関係も構築できるので はないでしょうか。また、労働者の表情や労働 態度など言葉で表現できない情報は、職場の活 力や健康状況を判断する上で重要です。こちら から「こんにちは、産業医の巡視です」と声か けをすること、企業によれば「ご安全に!」と 出会った現場の人全てに声をかけることは、そ れに対する労働者一人一人の反応を見ることが できますので、職場のメンタルヘルスを判断す る上で重要な情報となります。 一方、事務系職場では、多くの産業医が何を 見たらいいのか分からず、事業所も積極的に巡 視をすることはあまり多くありません。しかし、 事務所系職場でも巡視の目的とするところは変 わりませんが、見えるところの問題よりもむし ろ、見えないところの問題、ことに人間関係に よるメンタルヘルスに着目する必要があります。 すなわち、仕事の仕方、労働時間、人間関係な ど健康管理のデータや上司などからの事前の打 合せに基づいた職場巡視を是非とも行って頂き たい。 なお、法規に示す「作業場等を巡視する」と いう「等」には、休憩所、食堂、キッチン、ト イレなどの保健施設を巡視することを意味しま す(昭和33年、基発第90号)。最近では、喫 煙室や喫煙場所もそれらに加えるのを忘れない ようにして下さい。
Ⅱ. 定期的巡視より特別な目的を持った
巡視を大事にしよう
事業場の健康管理を行っていると、様々なこ とが起こる。現場の状況や労働者の健康状態は 日々刻々変化しており、突発的なことがいつ起 こってもおかしくない。筆者が職場巡視に行き たくなる場合を列挙してみよう。 ① 有機溶剤健診で尿中代謝物の分布区分が 2である従業員が発生した。 ② 騒音の健康診断で、耳栓など保護具を付 けないで作業している職場があることを聞 いた。 ③ 振動工具を取り扱う職場で、手のしびれ を訴えるものが見られた。 ④ パソコン作業で、背部痛や腰痛を訴える 人が多い職場があるのに気付いた。 ⑤ 事務所で女性労働者が夏場足下が冷えす ぎるという訴えがあった。 ⑥ 作業環境測定で管理2以上の職場につい ては、状況を確認する必要を感じた。 ⑦ 過重労働の面接で、実態はもっとひどい ものだと訴えがあった。 ⑧ 特定の職場にメンタルヘルス不調の者が 増えているのに気付いた。 ⑨ 化学物質が目にはいるという労災事故の 対策を講じたので、それを確認したくなった。 ⑩ 脳梗塞発症後、右肩麻痺の残った作業者の 滋賀産業保健推進センター 所長杉本 寛治
嘱 託 産 業 医 事 始 め
第 7 回
嘱 託 産 業 医 事 始 め
第 7 回
職場巡視をいかに上手く進めるか?
産業医業務のまず第一の仕事は、職場巡視 ( パトロール ) です。このことは、研修を通じて嘱 託産業医の誰もが繰り返し繰り返し教えられてきたことですが、実際に職場巡視の経験がない ため机上の話として聞き流していたり、製造業中心の職場巡視の講義が多いため、サービス産 業の嘱託産業医にとってはあまり役に立っていないことが危惧されるところです。さらに、医 師会の行う事業所実習にも積極的に参加していないと職場巡視の実際になかなか馴染まないも のと思われます。 今回は、誌上の話ではありますが、嘱託産業医のための職場巡視の進め方を改めて取り上げ、 具体的な見方、考え方を述べてみたいと思います。 開業医としてずっとやってこられている先生方にとっては、産業医という業務自身を専門の 一部に取り入れることは、長年嘱託産業医をしていてもなかなか難しいことなのは間違いあり ません。しかし、産業医をするということは、相手の企業からも職場巡視を当然のように要請 されるようになって来ていることを考えますと、逆に企業にとって役に立つ職場巡視を行う義 務があると言えます。 このような状況を上手く乗り越え、職場巡視がむしろ楽しいと思うようになるノウハウをま とめてみました。時間がかかると思いますが、上手く職場巡視が出来るようになりますと、自 分が産業医をしている企業の実態を肌で感じられるようになり、従業員との関係が産業医とい う職務を超えて醸成されてくると思います。それがまた、先生の開業医としての仕事に良い影 響が生まれてくるように思いますので、本稿を参考に改めて職場巡視の進め方を考えてみてく ださい。Ⅰ. 職場巡視の目的と意義
労働安全衛生規則第15条に、毎月1回の産 業医による定期的巡視が義務づけられており、 「作業方法又は衛生状態に有害のおそれがあると きは、直ちに、労働者の健康障害を防止するた めに必要な措置を講じなければならない」とい う権限が付与されています。 最近は、事業所も法規を守るという立場(コ ンプライアンス)から、産業医活動を見直して います。これまでは、どちらかというと事業所 も産業医のこの義務についての認識が甘かった のですが、事業者から産業医へ職場巡視を要請 するケースが増えてきており、今後は嘱託契約 をしている限り、時間はわずかでも巡視をせざ るを得なくなっています。 周知のように、職場巡視の目的は労働者の働 いている環境や働き方の現状を把握した上で、 労働者の健康の保持及び労働による負荷を軽減 することで、問題点を明らかにし、改善のため の指導と提案を行うことが求められます。この ような抽象的な言い方では、なかなか理解でき ないでしょうが、職場巡視は臨床の場面の事業 所の問診・診察、とくに視診による診断と言え ましょう。したがって、製造工場であるなら、 この事業所は何をどのように作っているのかを 完全に把握することがまず必要で、それを作る ためにどのような原料を使って、それをどのよ うに処理し、どのような製品に仕上げていくの か、すべての工程を熟知することが求められま す。産業医はこのぐらい知っておいたら良いと 勝手に事業所側が決めて、都合の良い場所ばか り(法規に定められている有害作業現場のみ) 案内されることが往々にしてありますので、注 意が必要です。また、私たちが想像もしないよ④ 白線を踏まない:白線は人が通る通路(安 全通路)と作業区域を分けるもので、作業 者は白線を大事にしているもの。巡視上こ の白線の中に入る必要がある場合は、担当 者の許可を得、注意をして入るべきです。 ⑤ 製品にみだりにさわらない:手の油がつ くことが製品として致命傷になることもあ ります。また、機械や設備に触ると、けが や火傷をすることがありますので、注意し なければなりません。 ⑥ 指差し呼称の励行:巡視の際は同行者の 後を一歩下がって歩くことを原則とします。 十字路など指差し呼称をすることがきっち りされている事業所は、安全指導が十分さ れていると言えます。
Ⅲ. 職場巡視の事後措置
巡視によって指摘したことを言い放しでは、 何のための巡視か分かりません。後で言った言 わないとなると無駄な言い合いになるだけのこ とです。指摘事項を先生方自身、あるいは衛生 管理者など同行者によって報告書としてまとめ て下さい。この際、指摘したことは現場写真を 添付して説明すると良いでしょう。また、いつ も指摘ばかりでは、現場も慣れっこになります ので、改善された点や工夫されている点をほめ るようにすることも大事です。 次いで、巡視結果報告書は、改善など措置を お願いする部署へ回覧し、指摘事項についてど う対処したか、あるいは、すぐに対処できない ことについては、何時までに行うかを記載して もらうようにしましょう。さらに、可能であれ ば担当部署としての措置・対策に対して、所属長、 衛生管理者、産業医、総括安全衛生管理者等の コメントを付けることも、職場巡視結果報告に 対する企業としての姿勢を示すことになります。 最終的に、安全衛生委員会に報告し、措置・ 対策の仕方が適切であったか、未だ問題は残さ れているのかなどを審議します。また、予算措 置を必要とする事項に対する安全衛生委員会と しての意見を集約し、経営者に上申することも 必要です。産業医は、その委員会の中では、意 見を述べるだけでなく、改善や対策についての アイデアを披瀝することが望まれます。 以上述べてきましたように、産業医による職 場巡視は法律に則ったものですので、毎月定例 化されるとともに、事業所としても産業医によ る職場巡視の意義をはっきりと理解できるよう に産業医の側から行動でもって示していくこと が必要である。嘱託産業医を引き受けた当初は なかなか職場巡視を上手く進めることは難しい ものです。事業所との信頼関係が構築されて初 めて、産業医、事業所の両者にとってやりがい のあるものになるのではないでしょうか。また、 産業医は事業所の職場巡視で見たり、聞いたこ とについては、患者の診察所見と同様に守秘義 務が課せられていますので留意して下さい。 今回は、教科書的な職場巡視の仕方について はあまり詳しく書きませんでした。職場巡視の 基本的考え方について私の気付いた点を中心に 書いてみました。最近の成書などで職場巡視の 仕方について参考になるものを、次に示してお きますので、参考にして下さい。なお、本文中 にこれら参考書の一部を引用させて頂いたとこ ろが多々あります。改めて、ご容赦下さいます ようお願い申し上げて、筆を置きます。 (参考文献) ・中谷 敦:製造現場の職場巡視、Axis認定 産業医実践編⑥、日本医事新報No.4305 (2006年10月28日) ・中谷 敦:事務系産業の職場巡視と衛生委 員会、Axis認定産業医実践編⑦、日本医事 新報No.4307(2006年11月11日) ・山田誠二:職場巡視の実際、産業医学実践 講座p49−52、日本産業衛生学会近畿地 方会編2007 ・藤代一也:職場巡視、職域における保健と 医療実践ハンドブックp45−49、法研 2007 復職面接の際、現場を確認したくなった。 定期的な法規に則った職場巡視以外に、特別 の巡視は、健康管理上非常に重要ですが、現場 になかなか入りにくいものです。というのは、 そこが問題の場所であるということは、逆に言 えば事業所は知っていることで、産業医といえ ども見せたくない、知られたくないところとい う意識が今なおあるといっても過言ではありま せん。産業医は、その事業所あるいは作業場が 何を一番大事にしていて、触れられたくないこ とは何かを嗅ぎ取る能力も時には必要です。こ のような微妙なことについては、産業医として の経験とか能力というより、医師として、人間 として問題認識を持つことが大事なのかもしれ ません。特に人との関係に関わること、なかで も女性労働者の職場での処遇、管理職の労務管 理能力(パワハラやリスニング技術など)などは、 非常に難しいデリケートな問題を含んでいます。 職場巡視の勘所を教科書的に書きますと以下 のようになります。 ・ 同行者と巡視すること。また、その職場 の責任者に立ち会ってもらう。 ・ 五感をフルに発揮する(ただし、頼りす ぎは禁物である)。 ・ 質問は積極的にする(労働者への声かけ はタイミングに注意のこと)。 ・ 指導は後でじっくり行う(ただし、OJT として、耳栓の着用や安全面の問題点など はその場で行う)。 ・ 知らないことは、「調べてみます」で良い。 化学工場の巡視では、臭いに対して従業員は ほとんど慣れているため、繰り返し「臭いますね」 とか、薬品缶の「ふたが開いていますね」と言っ て、繰り返し注意を喚起することを忘れてはい けません。作業姿勢なども、じっくりと観察して、 後でゆっくりと指導することが必要な場合もあ ります。出来れば、その場にしばらく立ち止まっ て、一連の作業を確認することも時に必要です。 どのような職場でもそうですが、職場巡視の まず第一歩は4S、5S(整理、整頓、清掃、清潔、 躾)です。製造業であれば、通路の確保とそこ に物が置かれていないこと。事務系職場では、 机の上、机の下に色々な物を置いていないこと。 作業中はともかく、退社時には机の上を完全に 整理する習慣を付けさせることが大事です。こ のことを指摘しますと、片付ける場所、書類を 入れる場所がないという返答が往々帰ってくる ものです。考えてみますと、本当に必要な物が そんなに沢山あるのでしょうか。多くは捨てて も良い物ではないでしょうか。 4S,5Sがどうして大事かと言いますと、 整理・整頓されていない職場を思い浮かべて下 さい。朝起きて、また、書類の山の中で仕事を しなければならないと思うと憂うつになるもの。 きれいに整頓されたところで仕事をするという ことは、仕事の能率というだけでなく、メンタ ル面でも非常に重要なことと言えます。 作業の仕方の観点(保護具、工具の使用など 作業方法、作業姿勢、重量物の運搬、作業時間、 休憩所や厚生施設など)から職場巡視をする時 には、その場で見た作業はそれほどの負担がな いように見えても、1日8時間、あるいはそれ 以上、その現場で働き続けている状況、あるいは、 自分が作業した場合を想像しながら作業を眺め てみるという姿勢が常に大事と思います。 巡視の際のマナーにも気をつけたいものです。 製造現場に入ったときには最低限守らなければ ならないマナーがあります。紙数の関係で、簡 単に以下に述べてみます。 ① 腕まくり禁止:これは誰でも分かること。 ② ポケットに手を入れない:これも同様、 常識の範囲内のこと。 ③ 作業者に挨拶をする:既に述べたところ ですが、声をかけるタイミングに注意する こと。また、返ってくる返事によって、そ の事業所の従業員の安全衛生や仕事に対す る姿勢、職場の活力、人間関係などを量る ことが出来ます。④ 白線を踏まない:白線は人が通る通路(安 全通路)と作業区域を分けるもので、作業 者は白線を大事にしているもの。巡視上こ の白線の中に入る必要がある場合は、担当 者の許可を得、注意をして入るべきです。 ⑤ 製品にみだりにさわらない:手の油がつ くことが製品として致命傷になることもあ ります。また、機械や設備に触ると、けが や火傷をすることがありますので、注意し なければなりません。 ⑥ 指差し呼称の励行:巡視の際は同行者の 後を一歩下がって歩くことを原則とします。 十字路など指差し呼称をすることがきっち りされている事業所は、安全指導が十分さ れていると言えます。