厚生労働科学研究補助金 エイズ対策研究事業
MSM の HIV 感染対策の企画、実施、評価の体制整備に関する研究
東海地域の MSM における HIV 感染対策の企画と実施
研究分担者:内海眞(独立行政法人国立病院機構東名古屋病院 院長)
研究協力者:石田敏彦、藤浦裕二(Angel Life Nagoya;ALN)、吉澤繁行(ALN,名古屋市立大学看 護学部)、真野新也(LIFE 東海)、岡本稔(HIV と人権・情報センター)、杉江修治(中 京大学)、金子典代、新ヶ江章友、塩野徳史、市川誠一(名古屋市立大学看護学部)
研究要旨
我々は 2000 年 4 月に MSM の CBO である Angel Life Nagoya(ALN)と名古屋医療センター(旧 国立名古屋病院)の医療者から成る協働組織を作り、MSM を対象にした HIV 感染予防活動を開始 し、2002 年から当研究班に属した。昨年1年間は上記活動組織を少し拡大し、MSM に対する予防 啓発に関心のある他のグループや個人を含む新たな拡大組織を形作り、予防啓発活動を実践した。 本年度の活動は以下の通りである。 1.ゲイコミュニティへの HIV 関連情報の発信 情報発信として以下のことを実施した。1)コミュニティペーパー「h.a.n.a.」の作成と配布(毎 月発刊から季刊とし、ゲイバー35 軒、ショップとハッテン場合計 3 軒に配布)、2)勉強会の開催(月 1 回の開催)、3)啓発拠点の整備と広報活動(コミュニティセンターrise の運営を週 4 日から 5 日 に増やした)、4)啓発イベント NLGR(Nagoya Lesbian and Gay Revolution)の開催(ALN を含む多く の人々による実行委員会形式に移行、参加者は 2 日間でのべ 3500~4000 人と推定)。 2.メッセージ付きコンドームの配布 コンドームの配布は毎月実施し、35 軒のゲイバーに各々20 個、2 軒のハッテン場に各々500 個、 7 件のクラブイベントに各々300 個配布した。ゲイバーでの受け取り率は 94.7%と前年に比べ飛 躍的に上昇した。 3.無料 HIV 検査会の実施 行政主催の 3 つの無料 HIV 検査会に協力した。①6 月の NLGR+検査会、②12 月の M 検、③12 月 の M 検 in 岐阜。受検者並びに陽性者は、①254 名、4 名(1.6%)、②106 名、2 名(1.9%)、③24 名、1 名(4.2%)であった。 4.教師を目指す大学生に対する Group Investigation(GI)モデル
Group Investigation(GI)モデルによる HIV/AIDS 教育を某私立大学生に継続的に実践した。 5.これまでの活動と名古屋医療センターの HIV 患者動向との関係調査 これまでの予防啓発活動は名古屋医療センターにおける MSM の HIV 診断時のエイズ発症を減少 させてはおらず、予防啓発活動のさらなる拡充が望まれた。 6.活動組織の拡大。 上記 5 の結果を踏まえ、ALN と医療者との協働組織に、他の予防啓発活動を行うグループや個 人を加えた組織の拡大を図った。
A.研究目的 わが国の HIV 陽性者の新規発生動向は必ず しも望ましい方向へ向かっているとは言えな い。厚生労働省のエイズ動向委員会の報告に よれば 2010 年 1 年間の新規エイズ患者数は 469 人で過去最高を記録している。しかも、 感染者患者の双方で、MSM の割合は減少して いない。2011 年の 1 年間の動向はまだ報告さ れていないが、例えば 3 月 29 日から 6 月 27 日までの 3 ヶ月間の動向では、新規エイズ患 者数が過去最高の 129 人が記録された。一般 に HIV 感染症の予防啓発活動が奏功すれば、 早期に検査を受ける人が増えると予想される ので、エイズ患者数は減少すると思われる。 この観点からすれば、動向委員会の報告は、 我が国の HIV/AIDS を巡る状況は望ましい方 向とは逆の方向を示していると言わねばなら ない。さらに、2010 年は保健所等における HIV 検査数と相談数も大幅に減少し、事態は決し て楽観できる状況ではない。その意味で、我々 の研究活動はさらなる深化と拡充が求められ る。 この 1 年間、これまでと同様に HIV 感染症 の予防啓発を目指す活動を実践するとともに、 新たに活動組織を見直し、より広範な人々の 結集を可能にする組織形態の形成に着手した。 この 1 年間に実施した予防啓発活動は以下 の通りである。 1.ゲイコミュニティへの HIV 関連情報の発信 1)コミュニティペーパーの作成と配布 2)月 1 回の勉強会の開催 3)啓発拠点の整備と広報活動 4)啓発イベント NLGR+の開催 2.メッセージ付きコンドームの配布 3.無料 HIV 検査会の実施 4.教師を目指す大学生に対する HIV/エイズ 教育 5.これまでの活動と名古屋医療センターの新 規 HIV 陽性者動向との関係調査 6.活動組織の拡大 本報告では、上記活動の実績を示すととも に考察を加え、今後への展望を行う。 B. 研究方法 1-①コミュニティペーパー「h.a.n.a.」は当 初月 1 回ゲイ関係の商業施設に配布していた。 今年からは季刊に変更した。 1-②啓発拠点 rise で月 1 回スモールミーテ イング方式による性感染症などのテーマの勉 強会を開催した。 1-③啓発拠点の rise では、上記勉強会を含 め、小さな各種ミーティングを開催した。ま た新規を含む来場者数をカウントした。 1-④6 月の第一土曜日と日曜日に名古屋栄 の池田公園を中心とし、各種ゲイ向けの商業 施設の協力を得て、HIV 関連情報の発信と HIV 検査への呼びかけを主たる目的にしたイベン トを開催した。同時に無料 HIV 検査を実施し た(後述)。 2.メッセージ付きコンドームをゲイ向けの商 業施設に月一回配布するとともに、その消費 数をカウントした。 3.無料 HIV 検査会を年に 2 回実施した。2007 年までは NLGR に併設する形で、NLGR の中心 会場である池田公園に近接する民間のホテル を借り切って開催したが、2008 年からは NLGR 併設のほか 12 月にも実施した。場所はいずれ も千種保健所を使用した。名古屋市と名古屋 医療センターと協働する形で実施した。また、 本年 12 月岐阜県主催による MSM を対象にした 無料 HIV 検査会が実施されたが、我々の活動 組織も協働した。 4.GI モデルによるエイズ教育は、まず教師 が課題をクラス全体に提示し、その後「Ⅰク ラス全体でサブテーマを決め、これに対応す る研究小グループを編成する」「Ⅱ小グループ で探求計画を立てる」「Ⅲ探究活動を実行す る」「Ⅳ小グループで自分たちの発表を計画す る」「Ⅴグループで発表する」「Ⅵ教師と学生 が個人レベル、グループレベルで GI を評価す
る」という 6 段階を進み、12~15 時間でひと つのテーマの学習を終えた。 5.ALN の活動の予防啓発効果について検討し た。検討方法は、名古屋医療センターにおけ る新規 HIV 陽性者(MSM)、特に HIV 感染症診 断時にエイズ発症している新規陽性者の動向 を調査することによって行った。 6.活動組織の拡大は、NLGR+の実行委員会組 織の拡大と、予防啓発活動を担当する組織(従 来は ALN)の拡大の2方面で行った。 C. 研究結果 1.ゲイコミュニティへの HIV 関連情報の発信 1)コミュニティペーパーの作成と配布 HIV 関連情報とともに、街の情報と名古屋 市の地図や地下鉄の時間表などを掲載したコ ミュニティペーパー「h.a.n.a.」を連携する バーに 1 軒当たり 20 部、ショップとハッテン 場に 30 部を毎月 1 回配布した。連携するバー の数は年によって異なってはいるが今年は 35 店舗で、全体のバーの約 2/3 をカバーして きた。ショップは 4 軒中 1 軒にとどまった。 2)月 1 回の勉強会の開催 勉強会は月 1 回第 3 土曜日に活動拠点であ る rise で実施した。勉強会は日常的なテーマ を取り上げて実施しているが、その中に HIV 関連情報や STD 情報を織り交ぜるように工夫 した。参加者は平均 5-6 名であった。 3)啓発拠点の整備と広報活動 コミュニティスペース rise は名古屋市中 区栄女子大小路地区の同性愛者を対象とした 商業施設を利用する MSM が、気軽に立ち寄る ことのできる施設(ドロップインセンター) として、また、名古屋市栄女子大小路地区に 集まる MSM への HIV を含む性感染症に関する 相談、予防知識・関連資料の提供とその取得 の補助、性行為における予防に向けた意識改 革と行動変容の支援拠点として設立され、 2004 年 8 月 1 日にオープンした(当時は Nagoya Nagoyaka Navigation、略称3N と呼
ばれた。2006 年 5 月に現在の場所に移転)。 rise の運営・管理を行い、ゲイコミュニティ が受け入れやすい予防啓発内容を検討し、結 果として HIV/STI 感染の拡大防止を図ること が rise 設立の目的である。rise への来場者 数は 2009 年の 4 月から 12 月までの 9 ヶ月間 では 1423 人、2010 年には 1291 人、2011 年に は 1522 人であった。 また、以下の各種ミーティングを開催して いる。僕らのゲイライフプロジェクト(第 2 土曜)、手話教室(第 2,4 土曜)、GID PROUD 定例会(第 3 土曜)、WADN youth cafe(第 3 土曜)、フラワーアレンジメント教室(不定期)、 ハワイアンタロット占い(6 月)、サマーライ ズスクール(6,7,8 月)。 4)啓発イベント NLGR+の開催 NLGR+が 6 月の第一土曜日の午後から日曜 日の夕方までの 2 日間に亘って開催された。 3500~4000 人の推定来場者があった。池田公 園をメイン会場とし、そこには 16 に及ぶ各種 ブースが設営されるとともに、ステージでは 各種催し物と HIV 関連情報の発信が行われた。 HIV 陽性者によるトークもプログラムの中に 組み込まれるとともに、陽性者の声を展示す るブースも設けられた。今回は ALN を含む NLGR 開催に賛同する人々で実行委員会を形 成し、そこが主体となってイベントが企画さ れ実施された。NLGR+がより広範な人々の関 心を呼びこむきっかけにしようとした。 (NLGR+来場者アンケート調査) 会場においてノートパソコン PC を用いた 質問紙調査を行った。質問項目は、基本属性、 HIV 抗体検査受検行動、コンドーム使用行動、 NLGR+来場経験などであった。MSM またはゲ イ・バイセクシュアル男性からの有効回答数 は 281 件であった。ゲイ・バイセクシュアル 男性群、NLGR 来場者の東海地域在住ゲイ・バ イセクシュアル男性群、それぞれについて、 各質問項目の経年推移、年齢別経年推移を分
析した。ゲイ・バイセクシュアル男性群にお ける経年推移を表 3 に示した。年齢は 25 歳か ら 34 歳までが約半数である傾向が 3 年連続で 続いており、居住地も名古屋市、愛知県在住 者を合わせると過半数を超える状況が続いて いる。NLGR はインターネットから知った者の 割合が最も多かった。 NLGR 来場者の東海地域在住ゲイ・バイセク シュアル男性群における経年推移を表 4-5 に 示す。NLGR について知った情報源はインター ネットが最も多く、上昇傾向が見られた。ま た過去 6 か月のゲイバー・レズビアンバーや ゲイナイト・ビアンナイトの利用経験割合は 2010 年、2011 年ともに 2009 年より高かった。 「h.a.n.a.」の購読経験者の割合は減少して おり、rise の来訪経験は変化は見られなかっ た。生涯での検査受検経験は経年的に低下の 傾向がみられた。 年齢別に経年比較を行うと、29 歳以下の層 においては、検査行動は低下しているが、 30-39 歳の層においても一部低下がみられて いた。30-39 歳においては、コンドーム使用 についても減少していた(表 6)。 2.メッセージ付きコンドームの配布 コンドームの配布はゲイバー、ショップ、 ハッテン施設を対象に実施された。今年度は コンドームパッケージのデザインを刷新した。 遊び心のあるデザインとメッセージ性のある 台詞を入れた。パッケージの種類は 3 種類と した。35 軒のバーと1軒のショップには毎月 20 個を、2 軒のハッテン施設には毎月 500 個 を配布した。7件のクラブイベントにはそれ ぞれ 300 個を配布した。35 軒のバーにおける コンドームの消費率は 94.7%で、一年前の 70.8%から大幅に上昇した。配布するバーの 数は年によって異なるが今年は 35 軒で、全 バーの約 2/3 をカバーした。ショップは全体 の 25%をカバーし、ハッテン施設は 4 割をカ バーするにとどまった。 3.無料 HIV 検査会の実施 無料 HIV 検査会は、これまでは NLGR に併設 するもののみであったが、2008 年からは 12 月に行う M 検を加え、年 2 回とした。これま での受検者数および HIV 陽性者数とその割合 は表 1 の通りである。これまでは、土曜日に プレカウンセリングと採血ならびにスクリー ニング検査を行い、夜間に HIV-RNA 定量、日 曜日午前にウエスタンブロットを実施し、日 曜日午後に結果通知を東海地区在住の HIV 医 療に携わる医師によって行うという方式で 表 1 NLGR と M 検における受検者数と陽性者数の推移 *( )名は、検査前から既に陽性であることを知っていた人数。 受検者数 HIV 陽性者数 陽性者率 2008 年(12 月) 92 名 5 名(*1 名) 5.43% 2009 年(9 月) 107 名 5 名 4.67% 2009 年(12 月) 73 名 1 名 1.40% 2010 年(6 月) 189 名 6 名 3.17% 2010 年(12 月) 33 名 0 名 0.00% 2011 年(6 月) 254 名 6 名(*2 名) 2.36% 2011 年(12 月) 106 名 2 名 1.89%
あったが、2011 年の無料 HIV 検査は迅速検査 を行い、陽性もしくは擬陽性のみ確認検査を 加え翌日結果通知する方法を試みた。なお、 NLGR 検査会では、今年からイベント会場でも プレカウンセリングを行い、イベント会場か ら千種保健所までシャトルバスを運行した結 果、大幅な受検者増が生じた。2011 年 12 月 には岐阜県による MSM 対象の無料 HIV 検査が 行われ、我々も研修会の開催、検査に関する 電話相談事業、広報などの支援を行った。 (検査受検者へのアンケート調査) 検査受検者に対して質問紙調査を行い、 HIV/STI 予防に関する知識・行動や予防啓発 プログラムへの接触状況、HIV 抗体検査受検 率などについて調査した(後述の研究協力 者・新ケ江章友報告書参照)。東海地域在住の MSM(NLGR+2011:n=208、M 検 2011:n=101)の 分析結果は以下のようであった。 2011 年の NLGR+検査会では、新たな取り組 みがなされ、啓発イベント NLGR+2011 の会場 で検査前オリエンテーションが行われ、その オリエンテーションを受けた後に千種保健所 に無料シャトルバスで送迎された。イベント 会場で検査前オリエンテーションを受けたも のは、千種保健所でオリエンテーションを受 けたものと比較すると、生涯初の検査だった と答えたものの割合が高かった。したがって、 イベント会場での検査前オリエンテーション の実施は、新規の検査受検者を取り込む可能 性が示唆された。また 12 月に実施された M 検 2011 では、即日検査が実施され、これまで に検査を受けたことがないものが全受検者の 24.8%を占めた。M 検に即日検査を導入した ことで、初めて検査を受けるものを取り込む ことができたかについて、継続的にモニタリ ングする必要がある。 4.大学生に対する HIV/エイズ教育 Group Investigation のモデルによるエイ ズ教育の効果については、昨年報告した。こ の教育の対象者は将来教員を志望する学生で、 この教育による間接的効果が未来の若い世代 に及ぶことを期待して継続している。1 月 13 日金曜日には本教育の成果が大学構内に於い て公開された。 5.これまでの活動と名古屋医療センターの新 規 HIV 陽性者動向との関係 ALN の予防啓発活動は 2000 年から開始され た。予防活動の基本的な内容は、M 検以外は 以前からのものである。そこで、ALN の活動 の HIV 予防に対する効果について検討した。 活動の評価は、名古屋医療センターにおける 新規 HIV 陽性者の推移を見ることによって判 定した。名古屋医療センターの HIV 陽性者数 は 2011 年 10 月 1 日現在累計で 1134 名である。 予防啓発活動の効果が認められれば早期 HIV 検査が促進され初診時 AIDS 発症者は絶対数 に於いても割合に於いても下降するはずであ る。そこで、名古屋医療センターの初診時 AIDS 患者数とそれが HIV 陽性者に占める割合 のここ数年間における年次推移を検討した (表 2)。この表に示されるように、AIDS 患者 の絶対数もその割合も明らかな減少傾向には ない。 表 2 新規 HIV 陽性者(MSM)の動向 新 規 陽 性 者 数 初 診 時 A I D S 患 者 数 初 診 時 A I D S 患 者 % 前 年 比 2006 年 83 25 30.1% 2007 108 29 26.9% 下降 2008 94 34 38.4% 上昇 2009 99 43 43.4% 上昇 2010 92 29 31.5% 下降 2011 (9 月まで) 90 30 33.3% 上昇 総計 566 190 33.6% 平均
6.活動組織の拡大 従来 NLGR は ALN が企画し、ボランティアを 募って準備と実施を行ってきた。2011 年から は NLGR+実行委員会を形成し、そこが中心と なって企画と実働を担った。もちろん ALN は 中軸に位置するのであるが、広い範囲の人々 の参画を可能にした。 また、rise の運営もこれまでは ALN が行っ てきたが、2011 年度からは HIV 感染の予防啓 発に関心を有するグループの代表や個人が十 数名からなる運営委員会を構成し、その協議 のもとに活動を企画、実践する方式に変更し た。この場合ももちろん ALN が中軸に位置す るのであるが、よりひろい範囲の人々の参加 の下に予防啓発を行う体制を整えた訳である。 D. 考察 ALN の活動はここ数年ほぼ変わりなく実行 されている。イベント開催を含む HIV 関連情 報の発信、コンドームアウトリーチ、無料 HIV 検査会の実施、のいずれの分野でも、少ない スタッフで継続的な活動を実施してきた。こ れを持続させるのは、なかなか困難なことで ある。2011 年もほぼ同じ実績を上げることが できた。ただ、予防啓発活動の範囲、規模、 内容、いずれの点を取ってもいまだ十分とは 言えない。範囲と規模の拡大、内容の充実を 求めていかねばならない。 ALN の活動あるいは名古屋地区の HIV 感染 症の予防啓発活動をさらに発展させる動きが 出始めた。2001 年から行われてきた NLGR の 主催を、従来の ALN 単体から、ALN のみなら ず他の HIV 関連団体やゲイバーやクラブの関 係者、他に NLGR に賛同する個人からなる拡大 実行委員会を結成して行うことになった。多 くの人々の知恵やアイデアが寄せられ、また 他方面との協働が実現することになり、NLGR の新たな歴史への第一歩が踏み出されたと考 えられる。2011 年の NLGR+は例年とほぼ同じ かそれ以上の参加者が得られたと推測され、 次年度以降の NLGR+に大きな期待が寄せら れる。 NLGR をめぐる上述の動きを、NLGR にとどめ るのではなく、ALN の予防啓発活動全般に及 ぼそうと、rise の活動も ALN 単体ではなく、 多くの人々の参加のもとに行われる基礎作り が 2011 年になされた。HIV 予防啓発活動の範 囲と規模の拡大と内容の充実を実現していけ るものと考える。 HIV 検査の重要性は言うまでもない。愛知 では先年度に報告したとおり、保健所での HIV 検査はそれなりに拡充が図られてきたが、 保健所以外の施設での HIV 検査が乏しい。そ れを補う意味でも、従来の NLGR に付随する HIV 検査と M 検は今後も継続していきたい。 さらに、HIV 検査を必要とする人々に受験し ていただくにはどのようなあり方がいいのか、 さらに十分検討する必要があると思われる。 今回初めて岐阜県から HIV 検査会の協力要 請があった。これまでの NLGR 検査会と M 検の 実績が評価された結果と思われる。JR 岐阜駅 の構内スペースを利用して実施されたが、混 乱もなくプライバシーも守られ、次年度から の進展が期待される HIV 教育は当然のことながら極めて重要で ある。しかし、教育を授ける側が HIV/エイズ に対して正確な知識と適切な構えを有してい ないと、その効果は限られたものになること が予想される。我々は 2006 年より名古屋市内 の私立大学で、将来教師になるだろう学生を 対象に、Group Investigation(GI)モデルを 応用したエイズ学習を実践してきた。本学習 はイスラエルの Sharan 夫妻が開発した共同 学習理論に基づくもので、小グループに分か れた学生がそれぞれのサブテーマについて 12~15 時間をかけて共同且つ主体的参加で 勉強し、まとめ、最後にそれらを発表し、異 なるサブテーマの領域の内容も勉強するもの である。昨年報告したように、知識や関心、 態度といった認知面では積極的な方向への変
化が認められたが、「感染不安」や「コンドー ム使用」などの感情面や行動面に関しては有 意な変化は認められなかった。しかし、この 事業を継続することは、将来の若者の行動変 容に間接的につながる可能性を十分有すると 期待されるので、今後も可能な限り続けてい きたいと考えている。なぜなら、共同学習と いう人との関係性を介在させた学習は、その 個人にとって将来何らかの行動変容に効果的 な影響を及ぼす可能性を秘めており、今後の 進展を期待したい。 我々の予防啓発活動は 2000 年に開始され た。基本的には前述の 3 つの領域にわたる活 動を継続してきたわけであるが、これらの活 動が HIV 感染予防に対する効果を発揮したか どうかが、問われている。予防啓発が浸透す る順序としては、次のモデルが考えられる。 まず、HIV 関連情報が多くの人々に伝えられ、 次いでその情報によって行動変容がなされ、 その結果 HIV 感染者/エイズ患者が減少する、 という 3 段階モデルである。すなわち、情報 の拡がり、行動変容、陽性者の減少、の 3 段 階である。我々の活動がどのような効果を及 ぼしたかを、究極の効果判定指標である新規 HIV 陽性者の減少の有無を尺度として、効果 判定を行った。ただし、予防啓発活動が効果 を発揮すれば一時的には HIV 感染者が増加す ることが予想される。この場合、検査が普及 するわけであるから、エイズ患者は絶対的に も相対的にも減少することが期待される。な ぜなら、検査が普及すれば、早期診断につな がるからである。そのため、ここでは名古屋 医療センターにおける新規 AIDS 患者の絶対 数とその割合の推移を検討した。 表 2 に示されるごとく、MSM の実際の新規 HIV 陽性者数は依然として高く、しかもその 中の AIDS 患者割合は減少傾向にはない。すな わち、未だ早期診断への傾向は認められてい ない。 今後、どのような予防啓発が必要かを、あ らためて考え直す時期に来ている。一般的な HIV 関連情報の中に MSM 向けの情報を忍ばせ る方法は、新たな方法と思われる。ALN の日 常的な活動を広げるとともに、上記のような 新たな視点の活動が必要とされている。 E. 結語 1.ALN の予防啓発活動は、HIV 関連情報の発 信、コンドームアウトリーチ、無料 HIV 検査 の開催、の 3 方法で進められた。ほぼこれま でと同様の成果を上げたが、ALN の活動評価 の結果からはさらなる活動の拡充が求められ ている。今後は、活動主体を ALN を含む関係 者の緩やかな連合体に移行し、より広範囲の 人々からなる予防啓発活動を実現していきた い。 2.2011 年に初めて岐阜県による MSM を対象 にした無料 HIV 検査が行われた。ALN のこれ までの HIV 検査に対する取り組みが地方自治 体に影響を及ぼした結果と考えられる。 3.将来エイズ教育を担うだろう教師を目指す 学生に対するエイズ学習を今後も継続し、将 来の若者に対する間接的効果を期待したい。 F. 発表論文等 1.○吉澤繁行,塩野徳史,新ヶ江章友,金子典 代,コーナ ジェーン,市川誠一,石田敏彦, 藤浦裕二,真野新也,内海眞:名古屋の無料 HIV 抗体検査会を併設した屋外イベント NLGR 来場者における来場経験別 HIV 抗体検 査受検経験率とコンドーム常用率,第 25 回日本エイズ学会学術集会・総会,2011 年 11 月 30 日,東京 2.○塩野徳史,新ヶ江章友,金子典代,市川誠 一,山本正弘,健山正男,内海眞,生島嗣,鬼 塚哲郎:ゲイ向け商業施設利用者対象の質 問紙調査による地域別予防啓発事業の評価 に関する研究,第 25 回日本エイズ学会学術 集会・総会,2011 年 11 月 30 日,東京
表3 NLGR 来場者のゲイ・バイセクシュアル男性における経年推移(2009-2011) 年齢階級 24歳以下 85 21.5% 71 21.8% 47 16.7% 203 20.3% 0.10 25-29歳 80 20.2% 59 18.2% 65 23.1% 204 20.4% 30-34歳 82 20.7% 87 26.8% 68 24.2% 237 23.7% 35-39歳 85 21.5% 61 18.8% 42 14.9% 188 18.8% 40-44歳 32 8.1% 22 6.8% 33 11.7% 87 8.7% 45歳以上 32 8.1% 25 7.7% 26 9.3% 83 8.3% 合計 396 100.0% 325 100.0% 281 100.0% 1002 100.0% 居住地域 名古屋市 120 30.3% 92 28.3% 72 25.6% 284 28.3% 0.18 愛知県(名古屋市を除く) 101 25.5% 89 27.4% 78 27.8% 268 26.7% 岐阜県 21 5.3% 15 4.6% 17 6.0% 53 5.3% 三重県 13 3.3% 19 5.8% 9 3.2% 41 4.1% 静岡県 17 4.3% 15 4.6% 14 5.0% 46 4.6% 東京都・神奈川県・埼玉県 31 7.8% 38 11.7% 36 12.8% 105 10.5% 大阪府・京都府・兵庫県・滋賀県 55 13.9% 23 7.1% 29 10.3% 107 10.7% その他 38 9.6% 34 10.5% 26 9.3% 98 9.8% 合計 396 100.0% 325 100.0% 281 100.0% 1002 100.0% NLGRの宣伝について見たものはありますか? ゲイ雑誌 117 29.5% 91 28.0% 62 22.1% 270 26.9% 0.08 NLGR冊子 157 39.6% 130 40.0% 118 42.0% 405 40.4% 0.81 ポスターやフライヤー 126 31.8% 112 34.5% 103 36.7% 341 34.0% 0.42 その他 57 14.4% 79 24.3% 52 18.5% 188 18.8% <0.01 NLGRについてどこから情報を得ましたか? internet 217 54.8% 218 67.1% 192 68.3% 627 62.6% <0.01 商業施設 157 39.6% 143 44.0% 104 37.0% 404 40.3% 0.20 恋人/友達 263 66.4% 189 58.2% 183 65.1% 635 63.4% 0.06 rise 33 8.3% 27 8.3% 17 6.0% 77 7.7% 0.48 過去6カ月間に以下の施設で利用したものがありますか? ゲイバーやレズビアンバー 234 59.1% 234 72.0% 207 73.7% 675 67.4% <0.01 ゲイナイト・ビアンナイト 110 27.8% 117 36.0% 99 35.2% 326 32.5% 0.03 ゲイショップ 137 34.6% 129 39.7% 109 38.8% 375 37.4% 0.32 有料ハッテン場 - - 128 39.4% 130 46.3% - - 0.09 野外ハッテン場 60 15.2% 44 13.5% 39 13.9% 143 14.3% 0.81 ハッテンで有名な公共施設 - - 72 22.2% 73 26.0% - - 0.27 過去6カ月間にインターネットで利用したものがありますか? PC出会い系サイトや掲示板 167 42.2% 119 36.6% 117 41.6% 403 40.2% 0.27 携帯出会い系サイトや掲示板 168 42.4% 145 44.6% 119 42.3% 432 43.1% 0.80 ミクシィ(mixi) 305 77.0% 239 73.5% 185 65.8% 729 72.8% 0.01 ゲイ向SNS 201 50.8% 163 50.2% 158 56.2% 522 52.1% 0.26 位置情報が必要なサイト - - - - 176 62.6% - - -NLGR来場頻度 初回来場 - - 148 45.5% 122 43.4% 270 44.6% 0.60 複数来場 - - 177 54.5% 159 56.6% 336 55.4% 合計 325 100.0% 281 100.0% 606 100.0% 合計 カイ 2 乗Pearson 2009 2010 2011 年度 (複数回答) (複数回答) (複数回答) (複数回答)
表4 NLGR 来場者の東海地域在住ゲイ・バイセクシュアル男性における経年推移Ⅰ(2009-2011) 年齢階級 24歳以下 62 22.8% 56 24.3% 38 20.1% 156 22.6% 0.37 25-29歳 62 22.8% 43 18.7% 41 21.7% 146 21.1% 30-34歳 52 19.1% 61 26.5% 50 26.5% 163 23.6% 35-39歳 55 20.2% 39 17.0% 25 13.2% 119 17.2% 40-44歳 18 6.6% 14 6.1% 17 9.0% 49 7.1% 45歳以上 23 8.5% 17 7.4% 18 9.5% 58 8.4% 合計 272 100.0% 230 100.0% 189 100.0% 691 100.0% 居住地域 名古屋市 120 44.1% 92 40.0% 72 38.1% 284 41.1% 0.69 愛知県(名古屋市を除く) 101 37.1% 89 38.7% 78 41.3% 268 38.8% 岐阜県 21 7.7% 15 6.5% 17 9.0% 53 7.7% 三重県 13 4.8% 19 8.3% 9 4.8% 41 5.9% 静岡県 17 6.3% 15 6.5% 13 6.9% 45 6.5% 合計 272 100.0% 230 100.0% 189 100.0% 691 100.0% NLGRの宣伝について見たものはありますか? ゲイ雑誌 72 26.5% 66 28.7% 42 22.2% 180 26.0% 0.32 NLGR冊子 103 37.9% 94 40.9% 77 40.7% 274 39.7% 0.74 ポスターやフライヤー 101 37.1% 91 39.6% 66 34.9% 258 37.3% 0.62 その他 39 14.3% 50 21.7% 31 16.4% 120 17.4% 0.09 NLGRについてどこから情報を得ましたか? internet 141 51.8% 153 66.5% 132 69.8% 426 61.6% <0.01 商業施設 122 44.9% 110 47.8% 75 39.7% 307 44.4% 0.24 恋人/友達 175 64.3% 137 59.6% 119 63.0% 431 62.4% 0.54 rise 30 11.0% 23 10.0% 13 6.9% 66 9.6% 0.32 過去6カ月間に以下の施設で利用したものがありますか? ゲイバーやレズビアンバー 150 55.1% 159 69.1% 125 66.1% 434 62.8% <0.01 ゲイナイト・ビアンナイト 53 19.5% 78 33.9% 51 27.0% 182 26.3% <0.01 ゲイショップ 76 27.9% 84 36.5% 65 34.4% 225 32.6% 0.10 有料ハッテン場 - - 91 39.6% 87 46.0% - - 0.18 野外ハッテン場 43 15.8% 32 13.9% 24 12.7% 99 14.3% 0.63 ハッテンで有名な公共施設 - - 49 21.3% 46 24.3% - - 0.46 過去6カ月間にインターネットで利用したものがありますか? PC出会い系サイトや掲示板 119 43.8% 78 33.9% 79 41.8% 276 39.9% 0.07 携帯出会い系サイトや掲示板 125 46.0% 101 43.9% 85 45.0% 311 45.0% 0.90 ミクシィ(mixi) 202 74.3% 155 67.4% 111 58.7% 468 67.7% <0.01 ゲイ向SNS 140 51.5% 115 50.0% 108 57.1% 363 52.5% 0.31 位置情報が必要なサイト - - - - 110 58.2% - - -NLGR来場頻度 初回来場 - - 91 39.6% 76 40.2% 167 39.9% 0.89 複数来場 - - 139 60.4% 113 59.8% 252 60.1% 合計 230 100.0% 189 100.0% 419 100.0% Pearson カイ 2 乗 合計 年度 2009 2010 2011 (複数回答) (複数回答) (複数回答) (複数回答)
表5 NLGR 来場者の東海地域在住ゲイ・バイセクシュアル男性における経年推移Ⅱ(2009-2011)
あなたは、ANGEL LIFE NAGOYAの配布しているコミュニティペーパーHANAを知っていますか?
読んだ 49 18.0% 44 19.1% 29 15.3% 122 17.7% 0.20 知っているけど読んだことはない 22 8.1% 32 13.9% 24 12.7% 78 11.3% 知らない 201 73.9% 154 67.0% 136 72.0% 491 71.1% 合計 272 100.0% 230 100.0% 189 100.0% 691 100.0% あなたは、コミュニティセンターriseを知っていますか? 行ったことがある 63 23.2% 51 22.2% 40 21.2% 154 22.3% 0.27 知っているけど行ったことはない 67 24.6% 41 17.8% 48 25.4% 156 22.6% 知らない 142 52.2% 138 60.0% 101 53.4% 381 55.1% 合計 272 100.0% 230 100.0% 189 100.0% 691 100.0% 過去6ヶ月間にアナルセックスをしたことがありますか? ある 169 62.1% 148 64.3% 114 60.3% 431 62.4% 0.69 ない 103 37.9% 82 35.7% 75 39.7% 260 37.6% 合計 272 100.0% 230 100.0% 189 100.0% 691 100.0% 過去6ヶ月間のコンドーム使用*1 非常用 86 50.9% 82 55.4% 73 64.0% 241 55.9% 0.09 常用 83 49.1% 66 44.6% 41 36.0% 190 44.1% 合計 169 100.0% 148 100.0% 114 100.0% 431 100.0% 過去6ヶ月間の特定相手とのコンドーム使用*2 非常用 75 45.7% 72 50.7% 71 63.4% 218 52.2% 0.01 常用 89 54.3% 70 49.3% 41 36.6% 200 47.8% 合計 164 100.0% 142 100.0% 112 100.0% 418 100.0% 過去6ヶ月間のその場限りの相手とのコンドーム使用*3 非常用 56 39.2% 48 39.0% 49 48.0% 153 41.6% 0.30 常用 87 60.8% 75 61.0% 53 52.0% 215 58.4% 合計 143 100.0% 123 100.0% 102 100.0% 368 100.0% これまでにHIV抗体検査を受けたことがありますか?(今回を除く) ある 207 76.1% 155 67.4% 114 60.3% 476 68.9% <0.01 ない 65 23.9% 75 32.6% 75 39.7% 215 31.1% 合計 272 100.0% 230 100.0% 189 100.0% 691 100.0% 過去1年間にHIV抗体検査を受けたことがありますか?(今回を除く) 受けた 123 45.2% 75 32.6% 52 27.5% 250 36.2% <0.01 受けなかった 84 30.9% 80 34.8% 62 32.8% 226 32.7% 生涯受検経験なし 65 23.9% 75 32.6% 75 39.7% 215 31.1% 合計 272 100.0% 230 100.0% 189 100.0% 691 100.0% *1過去6ヶ月間のアナルセックス経験がある人を分析対象としたため総数は異なる *2過去6ヶ月間に特定相手とのアナルセックス経験がある人を分析対象としたため総数は異なる *3過去6ヶ月間に不特定相手とのアナルセックス経験がある人を分析対象としたため総数は異なる Pearson カイ 2 乗 2009 2010 2011 年度 合計